JP3800972B2 - めっき製品の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、基材の表面にベースコート層、金属めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法に関するものである。より詳しくは、金属めっき層にマイクロクラックを意図的に形成させることにより、その金属めっき層を構成する金属に腐食が生じた場合、その腐食が金属めっき層全体に拡がるのを防止してめっき製品の意匠性の低下を防ぐことができるように構成されためっき製品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、この種のめっき製品の製造方法としては、特開平10−309774号公報に開示されている銀メッキ層を備える積層品の製造方法が知られている。この積層品は、基材層、アンダーコート層、銀メッキ層及びトップコート層を備えている。前記アンダーコート層は、アルコキシチタニウムエステル並びにエポキシ基を有するシランカップリング剤及びエポキシ樹脂のうちの少なくとも一方を含有する塗料からなるアンダーコート剤を乾燥させることにより形成されている。
【0003】
この積層品を製造する際には、基材の表面に、前記アンダーコート剤を塗布し、乾燥させて、アンダーコート層を形成し、その後、前記アンダーコート層の表面に銀を含有する水溶液を塗布し、乾燥させて、銀メッキ層を形成し、次いで、前記銀メッキ層の表面に、トップコート層を形成させる。そして、上記製造方法を用いて積層品を製造することによって、絶縁性及び導電性等、種々の基材に対応することができる。さらに、この方法によれば、銀メッキ層とアンダーコート層との間の接着性及び耐久性に優れた積層品を製造することができるうえ、作業性に優れ、簡易な方法によって、優れた性能の銀メッキ層を備える積層品を製造することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来の銀メッキ層を備える積層品では、トップコート層及び銀メッキ層において腐食防止に対する特別な構成が備わっていなかった。このため、外部からトップコート層を通して銀メッキ層へと塩化物イオン(Cl-)が浸入することによって、銀が腐食されてしまうおそれがあった。このとき、前記銀の腐食は、最初に腐食した部位から徐々に銀メッキ層全体へと拡がり、巨視的には銀メッキ層上に白っぽい線が形成されたような状態になり、積層品自体の意匠性が著しく損なわれてしまっていた。さらに、この積層品は、外装用に用いられるめっき製品の耐食性や耐候性を調べるための塩水噴霧試験やCASS試験等において不合格となる可能性も極めて高かった。
【0005】
この発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、金属めっき層の腐食による意匠性の著しい低下を防止して、耐食性試験に合格することができるように構成されためっき製品の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のめっき製品の製造方法は、基材の表面に、ベースコート層、めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法において、基材の表面に樹脂からなるベースコート層及びめっき層を形成した後、めっき層に冷熱処理又は超音波処理を行うことによってマイクロクラックを形成させた後、そのめっき層の表面に樹脂からなるトップコート層を形成させることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明のめっき製品の製造方法は、請求項1に記載のめっき製品の製造方法において、前記めっき層を、銀鏡反応を利用した化学めっき方法を用いて形成させることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明のめっき製品の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載のめっき製品の製造方法において、前記冷熱処理は、前記めっき層を−20℃以下に冷却した後に60℃以上に加熱する冷熱工程を複数回繰り返す処理であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明のめっき製品の製造方法は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のめっき製品の製造方法において、前記めっき層にマイクロクラックを形成させた後、そのめっき層の表面に無機酸化物の超微粒子の分散液を塗布する超微粒子塗布工程を行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載の発明のめっき製品の製造方法は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のめっき製品の製造方法において、塩化物イオンをトラップするエポキシ系トラップ剤を含有するトップコート剤を用いて、前記銀めっき層の表面にトップコート層を形成させることを特徴とするものである。
【0013】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、めっき層に冷熱処理又は超音波処理を行うことによって、微視的に見たときにめっき層の表面に無数のマイクロクラックが形成される。このめっき層は、巨視的には金属膜として視認され得るものであるが、微視的には微細な亀甲状又は鱗片状の金属片を敷き詰めたような連続的な組織構造を有している。この連続的な組織構造において、隣り合う金属片(金属粒)は、その端縁同士を互いに接触又は著しく近接させた状態となっており、その境界部分はいわゆる結晶粒界となっている。
【0014】
そして、微視的に見ると、めっき層を構成する1個又は数個の金属片が腐食された場合、その金属片を中心として周囲に隣接する金属片へと腐食の拡大(伝搬)が進行しようとする。しかしながら、各金属片は、結晶粒界において腐食の進行に対する連続性が物理的にほぼ遮断されていることから、隣接する金属片への腐食の伝搬は容易には引き起こされない。このため、腐食が極めて小さい範囲内に止まって拡散され難く、巨視的に見た場合のめっき層の意匠性の低下が防止され、各種耐食性試験における不合格品の発生が抑制される。なお、前記マイクロクラックが形成されていないめっき層においては、腐食の進行に対する連続性が極めて高くなっており、微視的及び巨視的に見たときのその進行様式は、めっき層上に腐食による線が形成されて徐々に延長され、著しい意匠性の低下が引き起こされる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、従来より腐食しやすいことから意匠性の低下が問題となっていた銀めっき層を形成させた場合の欠点が、マイクロクラック形成により容易に克服され得る。さらに、銀めっき層を形成させる際に非常に簡便な方法である化学めっき方法(無電解めっき方法)が用いられることから、その作業を極めて迅速かつ容易に行うことが可能となり、製造コストの低減に役立つ。
【0016】
請求項3に記載の発明は、形成されためっき層にマイクロクラックを容易に形成させることが可能となる条件が提示されている。この条件によれば、微視的に見たときの結晶粒界が適正かつ規則正しく形成されるとともに、巨視的に見たときの意匠性が高く維持され得る。さらに、腐食の拡大を効果的に防止することが可能なサイズの金属片を形成させることが可能となる。また、めっき製品を製造する際の作業性も極めて良好である。
【0017】
請求項4に記載の発明において、無機酸化物の超微粒子はめっき層の表面に被覆される。特に、この無機酸化物の超微粒子は、サイズが極めて小さいことから各金属片の端部、すなわち結晶粒界を埋めるように被覆され得る。この無機酸化物の超微粒子は、化学的に極めて安定であることから腐食反応の伝搬を助長しない。そして、この結晶粒界を埋めるように存在する無機酸化物の超微粒子は特に、最も腐食されやすい各金属片の端部において、トップコート層の外部から浸入する塩化物イオンが金属片の端部に到達するのを物理的に阻害する。さらに、腐食された金属片とその金属片に隣接する腐食されていない金属片との境界部において、腐食の伝搬及び腐食を引き起こす塩化物イオンの通過も物理的に阻害する。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、外部から浸入する塩化物イオンをトップコート層内でトラップし、銀めっき層に到達しないように構成することが可能となる。さらに、このトップコート層は、一度銀めっき層に到達されてしまった塩化物イオンを再度トラップする能力も有しており、腐食の発生や進行を抑制する効果も発揮する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(a)に示すように、めっき製品11は、合成樹脂製の基材12の表面(意匠面)に、ベースコート層13(BC層)、銀めっき層14及びトップコート層15(TC層)が形成されている。前記銀めっき層14は、銀鏡反応を利用した化学めっき方法(無電解めっき方法)を用いて形成される。
【0022】
基材12は、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、PC(ポリカーボネート)/ABSアロイ、PP(ポリプロピレン)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)又はTPE(熱可塑性エラストマー)により構成され、公知の射出成形法を用いて成形される。
【0023】
ベースコート層13は、基材12の表面にベースコート剤を塗布又は浸漬させた後に乾燥させることによって形成される。前記ベースコート剤としては、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、塗布が容易であることから2液硬化型ポリウレタン樹脂が好適に使用される。
【0024】
銀めっき層14は、アンモニア性硝酸銀([Ag(NH32+OH-)溶液(トレンス試薬)と還元剤溶液とをベースコート層13の表面上で混合されるように塗布することにより酸化還元反応を引き起こし、そのベースコート層13の表面に銀(Ag)を析出させることによって形成される。前記還元剤溶液としては、グリオキサール等のアルデヒド基を有する有機化合物(R-CHO)、亜硫酸ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムが好適に使用される。前記アンモニア性硝酸銀溶液とアルデヒド基を有する有機化合物とを銀鏡反応させる際の反応を下記反応式(1)に示す。
【0025】
2[Ag(NH32+OH- + R-CHO
→ 2Ag + R-CO2NH4 + H2O + 3NH3 …(1)
この銀めっき層14は、無数のマイクロクラックが形成されることにより、巨視的には金属膜として視認されるが、微視的には図1(b)に模式的に示すように、亀甲状又は鱗片状に形成された微細な無数の金属片16(金属粒)を隙間なく敷き詰めたような連続的な組織構造を有している。この組織構造において、隣り合う金属片16は、その端縁同士を互いに接触又は著しく近接させた状態となっており、その境界部分はいわゆる結晶粒界17となっている。
【0026】
トップコート層15は、銀めっき層14の表面にトップコート剤を塗布又は浸漬させた後に乾燥させることによって形成される。前記トップコート剤としては、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂等が挙げられ、塗布が容易であることから2液硬化型ポリウレタン樹脂又はアクリル変性シリコーン樹脂が好適に使用される。さらに、前記トップコート剤には、エポキシ系添加剤等のトラップ剤を含有させるのが好ましい。このエポキシ系トラップ剤は、トップコート層15において、外部から浸入する塩化物イオンをトラップして銀めっき層14に到達するのを抑制し、銀めっき層14の腐食を防止する効果を有するとともに、銀めっき層14の表面から塩化物イオンを再度トラップして腐食の拡大を防止する効果も発揮する。
【0027】
上記めっき製品11の製造方法について以下に記載する。
上記のように構成されるめっき製品11を製造する際には、図2に示すように、まず、ステップS20において基材12を所定形状に射出成形した後、S30のベースコート塗装工程(BC塗装工程)を行う。
【0028】
このS30のベースコート塗装工程は、前記成形後の基材12の表面にベースコート剤からなるベースコート層13を形成させる工程である。このベースコート塗装工程では、まず、S31の前処理工程において、イソプロパノール等の洗浄剤を用いて前記成形後の基材12の表面(意匠面)を充分に洗浄する。続いて、S32のベース塗装工程において、前記洗浄後の基材12の意匠面上にベースコート剤を均一に被覆させる。このS32におけるベースコート剤の被覆方法としては、塗布又は浸漬のいずれの方法を用いてもよいが、被覆が容易であることからスプレー塗布するのが好ましい。続いて、S33の乾燥工程において、前記基材12の意匠面上に被覆されたベースコート剤をおよそ80℃の温度で60分間程度乾燥させた後、S40のめっき塗装工程を行う。
【0029】
このS40のめっき塗装工程は、ベースコート層13上に銀めっき層14を形成させる工程である。このめっき塗装工程では、まず、S41の銀鏡前処理工程において、前記乾燥後のベースコート層13の表面に2〜3重量%の第二塩化すず(SnCl2)溶液を塗布又は浸漬させ、すずをベースコート層13の表面に吸着させる。続いて、S42の水洗工程において、イオン交換水(好ましくは3μS/m3以下)又は蒸留水を用いてベースコート層13の表面を水洗し、吸着されなかった余剰の第二塩化すずを取り除いた後、S43の銀鏡塗装工程を行う。なお、前記すずの代わりにパラジウム(Pd)を用いてもよい。
【0030】
このS43の銀鏡塗装工程は、前記水洗後のベースコート層13の表面に、アンモニア性硝酸銀溶液と還元剤溶液とを同時に塗布することにより、ベースコート層13上で両溶液を反応させて銀を析出させる。なお、この銀鏡塗装工程においても、双頭スプレーガン又は同芯スプレーガンを利用して両溶液を塗布すると便利である。さらに、前記析出された銀は、ベースコート層13の表面に吸着されているすずと置換しながらベースコート層13の表面に吸着されて積層し、銀めっき層14が形成される。続いて、S44の水洗工程において、イオン交換水又は蒸留水を用いて銀めっき層14の表面を水洗し、その銀めっき層14表面上に残留する銀鏡反応後の溶液や置換後のすず等を取り除いた後、S45の銀鏡後処理工程を行う。
【0031】
なお、前記S44の水洗工程後の銀めっき層14の表面には、イオン交換水又は蒸留水では充分に取り除くことができなかった微量な不純物が吸着されているおそれがある。特に、上記反応式(1)で示される銀鏡反応時の有機系副生成物であるNH3やR-CO2NH4が銀めっき層14の表面上に極めて残留しやすい。これら不純物は、空気中の酸素による自然酸化によって変質し、銀めっき層14の表面が黄色味を帯びた色に変色(黄変)されてしまい、その意匠性が著しく低下する原因となる。このS45における銀鏡後処理工程では、前記不純物による銀めっき層14の黄変を防止するための適切な処理が行われる。この銀鏡後処理工程としては、銀めっき層14の表面に存在する微量な不純物を分解除去する不純物分解除去工程、前記不純物を吸着除去する不純物吸着除去工程、又は銀めっき層14の表面に薄い酸化防止皮膜を形成する酸化防止皮膜形成工程が行われる。
【0032】
不純物分解除去工程は、薄い濃度の酸を銀めっき層14の表面に塗布又は浸漬させ、銀めっき層14表面の不純物を分解除去する処理である。前記酸としては、酢酸又は希硫酸が好適に使用される。この不純物分解除去工程に使用される酸の酸強度としては、酸定数Kaが1.0×10-5〜1.0×107、すなわちpKaが−7〜5の範囲内であるのが好ましい。また、例えば酢酸を使用する場合には3〜10重量%の範囲内であるのが好ましく、希硫酸を使用する場合には2〜6重量%の範囲内であるのが好ましい。一方、不純物吸着除去工程は、銀めっき層14の表面にタンパク質分散液を塗布又は浸漬させ、銀めっき層14表面の不純物をタンパク質に吸着させて除去する処理である。前記タンパク質分散液としては、牛乳等の各種哺乳動物の乳又は粉ミルクが使用可能であるが、水若しくは低濃度のアルコール水溶液を溶媒とするカゼインの分散液が好適に使用される。
【0033】
酸化防止皮膜形成工程は、銀めっき層14の表面に金属表面処理剤を塗布又は浸漬させ、銀めっき層14の表面に薄い酸化防止皮膜を形成させる処理である。前記金属表面処理剤としては、銀に限らず種々の金属表面又はめっき表面を処理する公知の金属表面処理剤が使用可能であり、これら金属表面処理剤を銀めっき層14又はその他金属やめっき表面に被覆することによって、その表面に高い撥水性を有する酸化皮膜が形成されるように構成されている。そして、前記銀めっき層14の表面に形成された酸化皮膜は、銀めっき層14表面への空気の接触を物理的に阻害し、空気中の酸素による銀めっき層14表面の不純物の自然酸化を防止させるための酸化防止皮膜として作用する。また、空気中の窒素による不純物の窒化も同時に防止される。
【0034】
この金属表面処理剤としては、奥野製薬工業株式会社製のトップリンスが最も好適に使用される。金属表面処理剤としてトップリンスを使用する場合には、1〜50重量%の範囲内の水溶液を用いるのが好ましい。このトップリンスの濃度が1重量%未満の場合には、銀めっき層14表面における酸化防止効果を充分に発揮させることができない。逆に50重量%を越える場合には、銀めっき層14の表面が白濁してしまう。
【0035】
次に、S46の水洗工程において、銀めっき層14の表面をイオン交換水又は蒸留水を用いて水洗した後、S47の水切りブロー工程において、前記銀めっき層14表面に付着されている水滴をエアブローにて吹き飛ばす。続いて、S48のマイクロクラック形成工程(MC形成工程)を行い、銀めっき層14にマイクロクラックを形成させる。このMC形成工程では、冷熱処理又は超音波処理が行われる。
【0036】
冷熱処理は、銀めっき層14を急冷した後に急加熱する冷熱工程を複数回繰り返すことによって、銀めっき層14にマイクロクラックを形成させる処理である。この冷熱工程において、銀めっき層14が冷却されたときの冷却温度としては−20℃以下であるのが好ましく、加熱されたときの加熱温度としては60℃以上であるのが好ましく、80℃以上であるのがより好ましい。この冷熱工程は、例えば−20℃以下の保冷庫内で基材12等を含む銀めっき層14を20分間程度冷却させたり、銀めっき層14の表面全体に−20℃以下の冷気を20分間程度曝したりして行われる。また、この冷熱工程は、銀めっき層14に適量のマイクロクラックを形成させるとともに作業性を高めるために、3回程度繰り返すのが好ましい。
【0037】
この冷熱処理は、−20℃以下から60℃以上、及び60℃以上から−20℃以下への急激な温度変化を銀めっき層14に対して繰り返し行うことにより、巨視的には銀めっき層14に変化を与えずに、微視的には銀めっき層14に無数の結晶粒界17を形成させる。一方、超音波処理は、銀めっき層14の表面に対して超音波を10分間程度照射する処理を行うことにより、前記冷熱処理と同様に、巨視的には銀めっき層14に変化を与えずに、微視的には銀めっき層14に無数の結晶粒界17を形成させる。
【0038】
上記S48のMC形成工程の終了後、直ちにS50のトップコート塗装工程(TC塗装工程)を行うことも可能であるが、より好ましくは銀めっき層14の表面にS49のマイクロクラック後処理工程(MC後処理工程)を行うとよい。このS49のMC後処理工程としては、銀めっき層14の表面に無機酸化物の超微粒子の分散液を塗布する超微粒子塗布工程、又は銀めっき層14の表面に腐食防止皮膜を形成させる腐食防止皮膜形成工程が好適に行われる。また、このS49のMC後処理工程において、前記超微粒子塗布工程と腐食防止皮膜形成工程とを任意の順序で組み合わせて行ってもよく、この場合には銀めっき層14の腐食防止効果をより一層高めることが可能となる。
【0039】
超微粒子塗布工程は、粒子径がnmオーダーの無機酸化物の超微粒子を水に分散させた分散液を銀めっき層14の表面に塗布する処理である。さらに、前記銀めっき層14表面の分散液の溶媒を飛ばして乾燥させるとよい。この工程により、銀めっき層14の表面が超微粒子によって被覆されるとともに、結晶粒界17が超微粒子によって埋められるように被覆される。前記無機酸化物としては、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化鉄(Fe23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y23)等が挙げられるが、入手容易で安価であることから酸化アルミニウムが好適に使用される。さらに、この無機酸化物の超微粒子の平均粒子径としては、水に分散可能なnmオーダーのものが使用可能であるが、入手容易な市販品の平均粒子径である10〜40nm程度のものが好適に使用される。
【0040】
腐食防止皮膜形成工程は、銀めっき層14の表面に金属表面処理剤を塗布又は浸漬させ、銀めっき層14の表面に薄い腐食防止皮膜を形成させる処理である。さらに、前記金属表面処理剤を銀めっき層14の表面に塗布又は浸漬した後、銀めっき層14の表面をイオン交換水又は蒸留水を用いて水洗し、さらに銀めっき層14の表面を乾燥させるとよい。前記金属表面処理剤としては、上記S45の銀鏡後処理工程の酸化防止皮膜形成工程で用いられる金属表面処理剤と同じものが使用される。この金属表面処理剤は、上記と同様に銀めっき層14の表面に高い撥水性を有する酸化皮膜が形成されるように構成され、銀めっき層14表面への塩化物イオンの接触を物理的に阻害し、塩化物イオンによる銀めっき層14表面の腐食を防止させるための腐食防止皮膜として作用する。
【0041】
次に、S50のTC塗装工程において、銀めっき層14の表面にトップコート剤からなるトップコート層15を形成させる。このTC塗装工程では、まず、S51のトップ塗装工程においてトップコート剤を銀めっき層14の表面に均一に塗布した後、S52の乾燥工程においておよそ70℃の温度で60分間程度乾燥させることによりトップコート層15を形成させる。
【0042】
さて、上記のように製造されためっき製品11は、基材12の意匠面上に下から順に、ベースコート層13、銀めっき層14及びトップコート層15が層状に形成されている。前記銀めっき層14には、微視的にはマイクロクラックによる無数の結晶粒界17が形成されているが、巨視的にはそれら結晶粒界17は視認されず、良好な銀鏡面による光輝性が発揮されている。さらに、前記銀めっき層14とトップコート層15との間には、不純物が存在しないか、或いはその自然酸化が物理的に防止された状態となっている。このため、このめっき製品11の意匠面では、黄色味を帯びることなく白銀に輝く反射光が目視され、極めて高い意匠性が発揮されている。
【0043】
また、このめっき製品11は、塩化物イオンがトップコート層15を通って銀めっき層14に到達した場合であっても、微視的には1個又は複数個の金属片16が腐食されるおそれはあるが、巨視的には前記金属片16の腐食は視認され得ず、良好な意匠性が発揮される。さらに、前記腐食された金属片16からの腐食の伝搬に対しては、各金属片16の端縁に沿って結晶粒界17が形成されていることにより、大幅に阻害されるようになっている。このため、腐食の伝搬を著しく遅延させることができるうえ、たとえ腐食の伝搬が起こった場合でも、巨視的には視認され得ない微細な点としてのみ存在しており、著しい意匠性の低下は引き起こされない。
【0044】
上記構成によって、このめっき製品11が長期間塩水に曝された場合であっても、その意匠性の低下がほとんど引き起こされることはない。さらに、このめっき製品11は、JISに規定される各種塩水噴霧試験やCASS試験等の耐食性、耐候性試験によりテストされた場合でも、巨視的に見たときの意匠性の低下がほとんど引き起こされないことから、試験に容易に合格する。加えて、この効果は、腐食に対してのみならず、めっき製品11が長時間紫外線等に曝されたときや基材12が変形したときにも発揮され、銀めっき層14の巨視的な意匠性の低下が防止される。
【0045】
上記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態のめっき製品11の製造方法は、基材12の表面にベースコート層13及び銀めっき層14を形成した後、銀めっき層14に冷熱処理又は超音波処理を行うことによってマイクロクラックを形成させた後、その銀めっき層14の表面にトップコート層15を形成させるように構成されている。このため、マイクロクラック形成に伴って形成された結晶粒界17が、銀めっき層14の腐食の拡大(伝搬)を効果的に抑制し、銀めっき層14の腐食による意匠性の著しい低下を防止させることができる。さらにこのとき、耐食性試験に合格することも極めて容易となる。
【0046】
また、これらの効果は銀めっきの場合において特に顕著に発揮され得る。特に、従来より、耐食性の低い金属からなる金属めっき層を備えためっき製品については、耐食性試験で不合格となりやすいことや、長期使用における意匠性の低下が著しいことから、実施に際して敬遠されがちであった。これに対して、本実施形態のめっき製品11では、本発明者らの鋭意研究の結果、耐食性の低い銀めっき層14にマイクロクラックを意図的に形成させることにより、微視的な銀の腐食を許容しつつ、巨視的な意匠性の低下を防止するための特別な工夫がなされている。その結果、耐食性の高低に関わらず、所望とする金属を用いた任意のめっき製品を高品質に製造することが可能となった。
【0047】
・ S48のMC形成工程において、銀めっき層14を−20℃以下に急冷した後に60℃以上に急加熱する冷熱工程を複数回繰り返す冷熱処理を行うことによって、極めて簡単な作業工程で、適当量、適当なサイズ及び規則正しく配列されたマイクロクラックを銀めっき層14に形成させることができる。
【0048】
・ S49のMC後処理工程において、銀めっき層14の表面に無機酸化物の超微粒子の水分散液を塗布する超微粒子塗布工程を行うことによって、銀めっき層14の腐食を効果的に抑制することができるうえ、発生した腐食の伝搬を効果的に抑制することができる。また、S49のMC後処理工程において、銀めっき層14の表面に腐食防止皮膜を形成させる腐食防止皮膜形成工程を行うことによって、銀めっき層14の腐食を効果的に抑制することができるうえ、発生した腐食の伝搬を効果的に抑制することができる。加えて、この腐食防止皮膜形成工程に用いられる金属表面処理剤は、汎用されているものをほぼそのまま利用することが可能であることから、入手容易かつ安価である。また、これらの工程は非常に簡単に行うことができることから、作業効率の低下もほとんどない。
【0049】
・ 塩化物イオンをトラップするエポキシ系トラップ剤を含有するトップコート剤を用いて、前記銀めっき層14の表面にトップコート層15を形成させることによって、銀めっき層14の腐食をさらに効果的に抑制することができる。さらに、発生した腐食の伝搬もより効果的に抑制することが可能である。
【0050】
【実施例】
以下、前記実施形態を具体化した実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
ABSにより四角板状に形成された基材12を射出成形した後、その基材12の表面(意匠面)にイソプロパノールをスプレー洗浄してS31の前処理工程を行った。続いて、ベースコート剤として大橋化学社製のB−3を基材12の表面にスプレー塗布してS32のベース塗装工程を行った。その後、80℃の乾燥炉内で60分間乾燥工程(S33)を行うことによって、基材12の表面に約20μmの均一な厚さのベースコート層13が形成された。続いて、ベースコート層13の表面にアンダーコート剤(大橋化学社製のU−1)をスプレー塗布して同様に乾燥させることによってアンダーコート層を形成させた。
【0051】
次に、前記アンダーコート層の表面に、3重量%の第二塩化すず及び1重量%の塩酸を含有する第二塩化すず溶液をスプレー塗布してS41の銀鏡前処理工程を行った後、3μS/m3以下のイオン交換水にてアンダーコート層の表面をスプレー洗浄し、S42の水洗工程を行った。続いて、トレンス試薬とグリオキサールとを双頭スプレーガン(アネスト岩田社製のRG−2)を用いてアンダーコート層の表面に同時にスプレー塗布してS43の銀鏡塗装工程を行うことによって、アンダーコート層の表面に約1000Åの均一な厚さの銀めっき層14が形成された。その後、イオン交換水にて銀めっき層14の表面をスプレー洗浄し、S44の水洗工程を行った。
【0052】
次に、銀めっき層14の表面に、金属表面処理剤(奥野製薬工業社製のトップリンスの10重量%水溶液)をスプレー塗布してS45の銀鏡後処理工程を行った後、イオン交換水にて銀めっき層14の表面をスプレー洗浄してS46の水洗工程を行った。続いて、銀めっき層14の表面に圧縮空気(エアブロー)を吹き付けてS47の水切りブロー工程を行った。次に、基材12、ベースコート層13、アンダーコート層及び銀めっき層14が形成されためっき製品11を、−20℃の保冷庫内で10分間冷却した後に80℃の乾燥炉(加熱炉)内で20分間加熱する冷熱処理を3回繰り返してS48のMC形成工程を行った。
【0053】
最後に、銀めっき層14の表面に、トップコート剤(大橋化学社製のT−1)をスプレー塗布してS51のトップ塗装工程を行った後、70℃の乾燥炉内で60分間乾燥工程(S52)を行うことによって、銀めっき層14の表面に約20μmの均一な厚さのトップコート層15が形成された。得られためっき製品11は、基材12の表面にベースコート層13、アンダーコート層、銀めっき層14及びトップコート層15が形成されている。
【0054】
(比較例1)
S48のMC形成工程を省略するとともに、S47の水切りブロー工程終了後に50℃の乾燥炉内で30分間乾燥させた以外は、前記実施例1と同じ工程を行った。得られためっき製品は、基材12の表面にベースコート層13、アンダーコート層、銀めっき層14及びトップコート層15が形成されている。
【0055】
(実施例2)
アンダーコート剤として大橋化学社製のU−2を使用し、トップコート剤として藤倉化成社製のPTC−02を使用した。さらに、S48のMC形成工程とS51のトップ塗装工程との間にS49のMC後処理工程を行った。このMC後処理工程は、酸化アルミニウムの超微粒子(ナノテック社製のナノマテリアル)を弱酸性水に分散させた分散液を銀めっき層14の表面にスプレー塗布した後、50℃の乾燥炉内で30分間乾燥させることによって行われた。それ以外の工程は上記実施例1と同じ工程を行うことによって、基材12の表面にベースコート層13、アンダーコート層、銀めっき層14及びトップコート層15が形成されためっき製品11を製造した。
【0056】
(比較例2)
S48のMC形成工程及びS49のMC後処理工程を省略した以外は、前記実施例2と同じ工程を行うことによって、基材12の表面にベースコート層13、アンダーコート層、銀めっき層14及びトップコート層15が形成されためっき製品を製造した。
【0057】
<耐食性加速試験>
実施例1,2のめっき製品11及び比較例1,2のめっき製品について、CASS試験の試験方法に従って耐食性加速試験を行った。すなわち、5重量%の塩化ナトリウムに少量の酢酸と塩化第二銅を添加した水溶液を49℃に保って噴霧させた試験装置内に各めっき製品を静置し、腐食の進行状況と鏡面の白濁状況とを目視にて判定した。その結果、比較例1,2のめっき製品では時間経過とともに腐食の進行及び鏡面の白濁がともに確認され、実施例1,2のめっき製品11ではそれらの変化は全く目視され得なかった。さらに、これら実施例と比較例との差は時間経過とともに徐々に拡大していった。
【0058】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ S45の銀鏡後処理工程を省略してもよい。
・ 銀めっき層14は、化学めっき方法(無電解めっき方法)に限らず、電気めっき法、ホットスタンピング法、真空蒸着法等により形成されてもよい。なおこのとき、これらのめっき方法において、銀めっき層14の形成後にS48と同様のMC形成工程が行われるように構成される。
【0059】
・ 銀以外の金属、特に耐食性の低い金属がめっきされためっき製品の製造工程において、金属めっき層の形成後にS48と同様のMC形成工程を適用してもよい。
【0060】
・ ゴム、ガラス、陶磁器等を含む各種のセラミックス、木材、紙等からなる各種の形状の成形品であって、その表面に直接又は間接的にベースコート層13を形成させることが可能な材料を用いて基材12を構成してもよい。また、上記実施形態に列記された以外の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により基材12を構成してもよい。或いは、基材12は、硬質の合成樹脂によって構成されていてもよく、軟質の合成樹脂によって構成されていてもよい。
【0061】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 請求項1から請求項のいずれかに記載のめっき製品の製造方法において、前記基材を合成樹脂により構成したことを特徴とするめっき製品の製造方法。このように構成した場合、その表面にベースコート層、銀めっき層及びトップコート層を容易に形成させることができるうえ、各層の接着性を容易に高めることができる。
【0063】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明によれば、次のような効果を奏する。
請求項1から請求項に記載の発明のめっき製品の製造方法によれば、めっき層の腐食による意匠性の著しい低下を防止して、耐食性試験に合格することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は実施形態のめっき製品の一部を模式的に示す断面図、(b)は同じく斜視図。
【図2】 実施形態のめっき製品の製造方法の流れを示す図。
【符号の説明】
11…めっき製品、12…基材、13…ベースコート層、14…金属めっき層としての銀めっき層、15…トップコート層、16…金属めっき層を構成する金属片、17…マイクロクラックを構成する結晶粒界、S48…冷熱処理又は超音波処理としてのマイクロクラック形成工程、S49…超微粒子塗布工程、腐食防止皮膜形成工程としてのマイクロクラック後処理工程。

Claims (5)

  1. 基材の表面に、ベースコート層、めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法において、
    基材の表面に樹脂からなるベースコート層及びめっき層を形成した後、めっき層に冷熱処理又は超音波処理を行うことによってマイクロクラックを形成させた後、そのめっき層の表面に樹脂からなるトップコート層を形成させることを特徴とするめっき製品の製造方法。
  2. 請求項1に記載のめっき製品の製造方法において、
    前記めっき層を、銀鏡反応を利用した化学めっき方法を用いて形成させることを特徴とするめっき製品の製造方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のめっき製品の製造方法において、
    前記冷熱処理は、前記めっき層を−20℃以下に冷却した後に60℃以上に加熱する冷熱工程を複数回繰り返す処理であることを特徴とするめっき製品の製造方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれかに記載のめっき製品の製造方法において、
    前記めっき層にマイクロクラックを形成させた後、そのめっき層の表面に無機酸化物の超微粒子の分散液を塗布する超微粒子塗布工程を行うことを特徴とするめっき製品の製造方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれかに記載のめっき製品の製造方法において、
    塩化物イオンをトラップするエポキシ系トラップ剤を含有するトップコート剤を用いて、前記銀めっき層の表面にトップコート層を形成させることを特徴とするめっき製品の製造方法
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