JP3798994B2 - 金属粉末およびその製造方法ならびに該金属粉末を含む導体ペースト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ニッケル等の金属元素を主体とする粉末状組成物(金属粉末)の製造方法に関し、特にナノメートルサイズの微粒子を主体に構成された金属粉末を製造する方法に関する。本発明はまた、かかる方法により製造された金属粉末およびその金属粉末を含有する導体ペーストに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の電子部品の小型化および高度集積化に伴い、誘電体層(セラミック層)と内部電極層とを交互に積層・焼成して成るいわゆる積層セラミックコンデンサ(以下、MLCCという。)が多用されている。
かかるMLCCの誘電体層は、誘電率の高いチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化イットリウム(Y2O3)等を主成分として形成されている。一方、内部電極形成材料としては、従来からパラジウム、パラジウム−銀合金等が使用されてきた。また近年では、パラジウムや銀等に代わる安価な材料として、ニッケル等の卑金属が利用されるようになってきた。
【0003】
このようなMLCCの典型的製造例を説明する。
まず、上述のBaTiO3等の誘電体粉末とポリビニルブチラール等の有機バインダとを混練・懸濁して誘電体層形成材料を調製する。その材料をドクターブレード法等によってシート状に成形し、いわゆる誘電体グリーンシートを作製する。他方、ニッケル粉末等の内部電極形成材料(電極形成成分)と、有機バインダ(セルロース系樹脂、アクリル系樹脂等)とを所定の溶剤に添加・混練して導体ペーストを調製する。次いで、上記作製しておいた誘電体グリーンシートに当該ペーストを所定のパターンで印刷(例えばスクリーン印刷)する。このことによって上記シート上に内部電極を形成する。上記導体ペーストが印刷された誘電体グリーンシートを所定枚数積層して相互に熱圧着した後、この積層体を目的の大きさに切断する。かかる積層体を適当な条件で焼成することにより、内部電極(導体膜)および誘電体グリーンシートが焼結してなるセラミックコンデンサ本体が得られる。そのコンデンサ本体の側面に、上記内部電極と接続するようにして所定の外部電極を焼き付けることによって、目的のMLCCを得ることができる。
【0004】
上記のとおり、導体ペーストは、スクリーン印刷等の一般的な手法により、セラミック焼成基材あるいは焼成前のセラミック基材等に印刷・塗布される。このため、導体ペーストに用いられる金属粉末としては、粒径が小さく、また粒子の形状が球形に近いものが望まれている。このような(導体膜形成等の用途に適した)金属粉末を製造する方法として、いわゆる「噴霧熱分解法」が知られている。これは、製造しようとする金属粉末に対応した金属元素を有する金属源化合物(金属塩等)を含む原料溶液を超音波振動子等によって微小な液滴(ミスト)とし、このミストを加熱することにより、ミスト中の溶媒を高温で蒸発させるとともに得られた固体粒子を高温で熱分解させて金属粉末を得る方法である。この方法によると、粒径が凡そ0.2〜3.0μm程度であってかつ球形に近い形状の粒子を主体とする金属粉末を好適に製造し得る。
【0005】
通常、このような噴霧熱分解法においては、ミストの各液滴から主として単一の粒子が生成する。したがって、原料溶液中に含まれる金属成分の濃度およびミストを構成する液滴の大きさ(液滴径)等から、得られる金属微粒子の粒径が予測される。以下、各液滴から単一の粒子が生成すると仮定して原料溶液の組成および液滴径から予測される金属微粒子の粒径を「予測粒径」ともいう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上記粒径(凡そ0.2〜3.0μm程度)よりもさらに小粒径の金属粒子(ナノメートルサイズの金属微粒子;例えば粒径が凡そ200nm以下の粒子)を主体とする金属粉末を用いれば、電子部品の小型化および高度集積化等に対してさらに適した性質を有する導体ペーストが得られるものと期待される。
しかし、このようなナノメートルサイズの金属微粒子の製造に上述の噴霧熱分解法を適用しようとすると、以下のような不都合がある。
【0007】
すなわち、通常の噴霧熱分解法では、他の条件がほぼ同等であれば、ミストの液滴径を小さくするにつれて、得られる金属粉末の粒径も小さくなるはずである。しかし、ある程度以上に液滴径の小さな(例えば直径3μm程度以下)ミストを安定して発生させることは困難である。また、このように小さなミストは装置の壁面等に付着しやすいことから、気相中で乾燥・熱分解されて金属微粒子を与えるミストの割合が低くなりがちである。すなわち、金属微粒子生成の歩留まりが低下しやすい。
【0008】
また、通常の噴霧熱分解法では、他の条件がほぼ同等であれば、原料溶液の金属成分濃度が低くなるにつれて、得られる金属粉末の粒径は小さくなる傾向にある。しかし、原料溶液の金属成分濃度が低くなる(溶媒の割合が多くなる)と、所定量の金属粒子を得るために処理する(噴霧熱分解させる)原料溶液の量(この原料溶液から除去すべき溶媒の量)が多くなる。したがって、かかる製造方法では金属微粒子の生産性が低く、またエネルギーコストの点でも不利である。
【0009】
米国特許5,858,313号には、噴霧熱分解法において、ミスト中の溶媒を高温で蒸発させるとともに得られた固体粒子を高温で熱分解させる工程(噴霧熱分解工程)を「減圧下」で行うと、大きな粒子が分裂(disintegration)してナノメートルサイズの微粒子(上述の「予測粒径」よりも粒径の小さな微粒子)が生成することが開示されている。このような「減圧噴霧熱分解法」では、一つの液滴から複数の(典型的には多数の)微粒子が生成する。したがって微粒子の生産効率が良い。また、原料溶液を減圧下に噴霧するので溶媒の除去速度を高めることができ、このことによって微粒子の生産性がさらに向上する。このように減圧噴霧熱分解法は、ナノメートルサイズの微粒子を主体とする金属粉末を製造する方法として好ましい特長を備えている。
【0010】
ところで、通常の噴霧熱分解法により例えば粒径0.2〜3μm程度の金属粒子を主体とする金属粉末を製造するにあたっては、噴霧熱分解により生成した金属粉末を捕集する(気相から分離・回収する)ための装置として、一般的な静電捕集器等を好適に用いることができる。しかし、上述の減圧噴霧熱分解法によってナノメートルサイズの金属微粒子を主体とする金属粉末(例えば、平均粒径が凡そ200nm以下である金属粉末)を製造しようとすると、この金属微粒子の粒径が小さいため、(1).金属粉末の捕集率(回収率)が低下する、(2).回収に要する時間が顕著に長くなる、(3).フィルタの目詰まり等により捕集装置のメンテナンスが煩雑になる、等の不具合が生じることがある。すなわち金属粉末の回収性に難がある。このため金属粉末の収率が低下しやすい。また、生成した金属微粒子が気相中で捕集装置へと移送される過程で、この微粒子が装置の壁面に衝突してこの壁面に付着したり、他の粒子と衝突して凝集したりする虞がある。ナノメートルサイズの金属微粒子のように微細になると、粒子の運動が活発であるため、このような衝突・凝集が特に起こりやすくなる傾向にある。このことによっても金属粉末の収率が低下することがある。
【0011】
そこで本発明は、減圧噴霧熱分解法を適用しながら、簡単な装置構成により収率を向上可能な金属粉末の製造方法を提供することを目的とする。本発明のさらに他の目的は、このような方法により製造された金属粉末およびその金属粉末を主体とする導体ペーストその他の組成物を提供することである。関連する他の目的は、かかる導体ペーストから形成された導体膜を備えるMLCC等のセラミック電子部品およびその製造方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段、作用および効果】
本発明者は、減圧下の噴霧熱分解により生じた金属微粒子を所定の媒質とともに捕集し、その後に媒質を除去する方法によれば上記課題を解決し得ることを見出した。
【0013】
本発明は、金属元素を主体として構成された金属粉末の製造方法に関する。この製造方法は、(a).その金属元素を有する金属源化合物とアルカリ金属塩とを含有する原料溶液を用意する工程と、(b).その原料溶液のミストを生成する工程と、(c).該ミストを減圧下で加熱して、アルカリ金属塩を含みかつ金属微粒子が析出した中間混合体を生成する工程と、(d).該中間混合体より金属微粒子を回収する工程とを包含する。
ここで、本発明の製造方法における目的物たる「金属元素を主体として構成された金属粉末(powder)」とは、金属単体(純金属のみならず合金等をも含む意味である)および/または金属化合物(典型的には金属酸化物(ここで、金属酸化物とはBaTiO3等の複合金属酸化物を含む意味である))を主体とする粒子(particle)の集合体をいう。
【0014】
かかる製造方法では、減圧下の噴霧熱分解によって、アルカリ金属塩を含み金属微粒子(ミスト中に含まれる金属源化合物の熱分解により生じたもの)が析出した中間混合体をまず生成させる。この中間混合体は、金属微粒子(典型的には複数)に加えてアルカリ金属塩(媒質)を含有することから、生成した個々の金属微粒子に比べて明らかにサイズが大きい。このため回収性が良好である。例えば、この中間混合体を気相中から捕集する場合、一般的な静電捕集器等を用いて容易に(高収率で)捕集することが可能である。その結果、この中間混合体に含まれる金属微粒子の回収率が向上する。また、金属微粒子はアルカリ金属塩ともに中間混合体を構成した状態で捕集されるので、個々の金属微粒子が気相中にそのまま(単独で)存在している場合等に比べて、金属微粒子の装置(内壁面等)への付着が起こりにくい。このことによって金属微粒子の回収率がさらに向上する。その後、この中間混合体から金属微粒子を回収する。好ましくは、中間混合体を洗浄(典型的には水洗)し、アルカリ金属塩を除去して金属微粒子を回収する。このようにして金属微粒子を主体に構成された金属粉末が得られる。
【0015】
本発明の好ましい態様では、前記中間混合体が、アルカリ金属塩を主体とするマトリックス中に金属微粒子が分散した構造を有する。かかる構造を有する中間混合体は、アルカリ金属塩の除去後において、特に分散性のよい(凝集の少ない)金属微粒子を与える。このような構造の中間混合体を生成させるには、前記(c).工程で、アルカリ金属塩が溶融した状態でありかつ金属源化合物が熱分解する温度域にミストを加熱することが好ましい。
【0016】
かかる製造方法に用いる原料溶液は、金属源化合物とアルカリ金属塩とを含有する。ここで、金属源化合物としては、アルカリ金属塩の酸根と同種の酸根(例えば硝酸根)を有する金属塩を用いることが好ましい。このような場合には原料溶液が安定なものとなりやすい。
【0017】
本発明の製造方法は、例えば、ニッケルを主体として構成された金属粉末の製造に適用することができる。このニッケル粉末製造方法は、(a).硝酸ニッケルとアルカリ金属硝酸塩とを含む原料溶液を用意する工程と、(b).その原料溶液のミストを生成する工程と、(c).該ミストを減圧下で加熱して、アルカリ金属硝酸塩を主体とするマトリックス中にニッケル微粒子が分散した中間混合体を生成する工程と、(d).該中間混合体を洗浄し、アルカリ金属硝酸塩を除去してニッケル微粒子を回収する工程とを包含する。
【0018】
本発明のいずれかの製造方法は、上記(d).工程の後に、回収された金属微粒子に還元処理を施す工程をさらに包含することができる。例えば、アルカリ金属塩の除去後に得られた金属粉末が金属酸化物(酸化ニッケル等)を主体に構成されている場合、この金属酸化粉末を一般的な還元処理等により還元して、金属単体(ニッケル等)を主体に構成されている金属粉末を得ることができる。
【0019】
本発明によると、上述したいずれかの方法により製造された金属粉末が提供される。このような金属粉末の好適例は、平均粒径が200nm以下(より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは5〜70nm)であり、ほぼ球状に形成されている金属粉末である。かかる性状(平均粒径および形状)を有する金属粉末(より好ましくは、金属粉末を構成する金属微粒子の70個数%以上の粒径が200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは5〜70nmである金属粉末)は、特に緻密な導体膜を形成し得る。また、このようにほぼ球状の金属粉末は、他の材料と均一に混合しやすい。例えば、導体ペーストに用いる場合において、この金属粉末をビヒクルに均一に分散させることができるので好ましい。したがって、このような金属粉末は導体ペーストの構成材料として特に好適である。
なお、本明細書中において金属粉末が「ほぼ球状」とは、この金属粉末を構成する金属微粒子の70個数%以上が球状であることをいう。また、この「球状」とは、粒子の長径に対する短径の比(アスペクト比)が0.8以上、より好ましくは0.9以上であることをいう。
【0020】
また、本発明により提供される導体ペーストは、上述したいずれかの方法により製造された金属粉末を含有する。この導体ペーストは、かかる金属粉末を含む(典型的には、導体を形成する主成分たる金属粉末として含む)ことから、緻密な(電気的特性および/または機械的特性に優れた)導体膜を形成し得る。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態につき詳細に説明する。
本発明の製造方法は、原料溶液を減圧下で噴霧熱分解させる工程を含む。その原料溶液には、製造しようとする金属粉末に対応した金属元素(合金粉末を製造しようとする場合には、その合金粉末の組成に応じた二種以上の金属元素)を有する金属源化合物が含まれている。
ここで「金属源化合物」とは、所定の条件で熱分解されて金属単体または金属化合物(典型的には金属酸化物)を与える化合物をいう。例えば、その金属元素の硝酸塩、酢酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等を用いることができる。
この原料溶液は、金属源化合物に加えて、一種または二種以上のアルカリ金属塩を含有する。この「アルカリ金属塩」としては、ナトリウム塩やカリウム塩が好ましく用いられ、リチウム塩を用いてもよい。これらのアルカリ金属の硝酸塩、酢酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等を用いることができる。
【0022】
これら金属源化合物およびアルカリ金属塩のそれぞれは、原料溶液中においてその一部または全部がイオン(錯イオンを含む意味である。)となっていることが好ましい。金属源化合物の実質的に全部、および、アルカリ金属塩の実質的に全部が原料溶液中においてイオンとなっていることがより好ましい。
また、原料溶液中に含まれる金属源化合物およびアルカリ金属塩の組み合わせとしては、両化合物の酸構成部分、すなわち「酸根」(硝酸根、硫酸根、塩酸根、酢酸根等)が同種であるものが好ましい。このような組み合わせによると、噴霧熱分解用として適した安定な(例えば、金属源化合物等の析出が抑制された)原料溶液が得られやすい。金属源化合物およびアルカリ金属塩がいずれも硝酸根をもつ組み合わせが特に好ましい。
【0023】
この原料溶液を構成する溶媒の典型例は、水または水を含む混合溶媒である。「水を含む混合溶媒」において水と併用される溶媒としては、水と均一に混合し得るもの(例えばアルコール類、ケトン類等)が用いられる。このような混合溶媒における水と他の溶媒との混合割合は特に限定されないが、50質量%以上(より好ましくは80質量%以上)が水からなる組成が好ましい。好ましく使用される溶媒としては、水、または水と低級アルコールとの質量比80/20〜99/1の混合溶媒が例示される。特に好ましい溶媒は水である。
【0024】
このような原料溶液を調製する際の具体的な操作方法は特に限定されない。例えば、金属源化合物を含む溶液とアルカリ金属塩を含む溶液とを混合することにより原料溶液を調製することができる。また、金属源化合物を含む溶液にアルカリ金属塩を溶解させてもよく、アルカリ金属塩を含む溶液に金属源酸化物を溶解させてもよい。これらの操作は必要に応じて加熱下で行うことができる。
【0025】
かかる原料溶液を用いて減圧噴霧熱分解法を実施する。その一好適例の概略を説明すれば次のとおりである。
すなわち、まず原料溶液のミストを生成する。この工程は、従来公知の噴霧熱分解法等と同様に実施することができる。例えば、超音波振動、スプレーその他の手段を用いて原料溶液のミストを発生させることができる。ミストを生成させる工程は、減圧下で行ってもよく、常圧または加圧下で行ってもよい。通常は、後述する加熱炉の内部の圧力と同程度の減圧下でミストを生成させることが好都合である。
【0026】
生成したミストを種々のキャリアガスとともに加熱炉に導入する。キャリアガスとしては、製造しようとする金属粉末の種類にもよるが、通常は加熱炉内を非酸化性雰囲気とし得るものが好ましく用いられる。キャリアガスの組成の好適例としては、N2 ,Ar,He,CO2 等の不活性ガスから選択される一種または二種以上からなるガス、H2,NH2,CO等の還元性ガスから選択される一種または二種以上からなるガス、これらの混合ガス(典型的には、不活性ガスに還元性ガスを濃度10%前後となるように加えた混合ガス)等が挙げられる。
【0027】
加熱炉の内部は減圧に維持されている。特に限定するものではないが、その圧力は150hPa以下[典型的には5〜150hPa(特に好ましくは5〜100torr)]とすることが好ましく、100hPa以下[典型的には10〜100hPa(特に好ましくは10〜75torr)]とすることがより好ましい。かかる圧力範囲では、上記予測粒径よりも明らかに粒径の小さい金属微粒子をより効率よく生成させることができる。
この加熱炉内の温度は、金属源化合物が熱分解する温度域にミストを加熱できるように設定する。金属源化合物が熱分解し、かつアルカリ金属塩が溶融する温度域にミストを加熱できるように、加熱炉内の温度を設定することが好ましい。この加熱炉内の温度(ミストの加熱温度)の好ましい範囲は、金属源化合物やアルカリ金属塩の種類、キャリアガスの流速、ミストの噴霧量や液滴径、溶媒の種類等に応じて適当な温度に設定することができる。例えば、金属源化合物が硝酸ニッケルであり、アルカリ金属塩が硝酸ナトリウム、硝酸カリウムまたはこれらの混合物である場合には、ミストの加熱温度を200〜700℃程度とすることができ、250〜600℃程度とすることが好ましく、300〜500℃程度とすることがより好ましい。
【0028】
この加熱により、ミストに含まれていた溶媒が蒸発するとともに、原料溶液中に分散(典型的には、イオンとして溶解)していた金属源化合物が析出し、熱分解されて金属微粒子を形成する。このことによって、アルカリ金属塩と金属微粒子とを含む中間混合体が生成する。典型的には、一つの液滴から一つの(通常はほぼ球状の)中間混合体が生じる。また、加熱炉内の圧力や加熱温度等の噴霧熱分解条件によっては、一つの液滴から複数の中間混合体が生じたり、複数の液滴から一つの中間混合体が生じたりする場合もある。
なお、特に限定するものではないが、本発明の製造方法においては、アルカリ金属塩を意図的には含有させない原料溶液を用いて減圧噴霧熱分解法を行う場合に比べて、加熱炉内の温度をより低温に設定した場合にも、一つの液滴から複数の(上記予測粒径よりも明らかに粒径の小さい)金属微粒子を生成させることができる。
【0029】
この中間混合体は、析出した金属微粒子がアルカリ金属塩を主体とするマトリックス中に分散した構造を有することが好ましい。このような構造の中間混合体は、金属源化合物が熱分解し、かつアルカリ金属塩が溶融する温度域にミストを加熱することにより好適に生成させることができる。また、かかる構造の中間混合体を生成させやすくするために、この中間混合体に含まれる金属微粒子(金属換算)とアルカリ金属塩(アルカリ金属換算)とのモル比がほぼ1:0.5〜1:20の範囲となるように、原料溶液に含まれる金属源化合物(金属元素換算)とアルカリ金属塩との割合を調節しておくことが有効である。
【0030】
生成した中間混合体は、典型的にはアルカリ金属塩の融点以下の温度で気相から回収される。この回収は、一般的な静電捕集器、バグフィルタ、サイクロン等を用いて行うことができる。この中間混合体は、ほぼ球形の粒子を主体として構成されていることが好ましく、その平均粒径はほぼ0.1〜5μm(より好ましくはほぼ0.2〜3μm)であることが好ましい。このような中間混合体は回収性が特に良好である。中間混合体の形状や平均粒径が上記範囲となるように、噴霧熱分解条件(加熱炉内の圧力や加熱温度等)、原料溶液に含まれる金属源化合物およびアルカリ金属塩の濃度、ミストの液滴径等を適宜調節するとよい。
【0031】
回収した中間混合体を、アルカリ金属塩を良く溶かす溶媒(典型的には水)で洗浄する。このことによって、この中間混合体に含まれていた金属微粒子とアルカリ金属塩とを分離する(中間混合体から金属微粒子を取り出す)。その後、必要に応じてこの金属微粒子に一般的な還元処理等の後処理を施すことにより、金属微粒子を主体に構成された金属粉末(目的物)を得ることができる。
【0032】
本発明の方法により製造された金属粉末は、ほぼ球状に形成されていることが好ましい。かかる形状の金属粉末によると、歪な形状の粉末と比較して、分散性がより良好な導体ペースト等を調製することができる。粉末の分散性が良好であると、この導体ペーストを例えば誘電体グリーンシートの所定位置に均質に付着させることができる。また、かかる形状の金属粉末は、歪な形状の粉末と比較して、充填性がより良好である。粉末の充填性が良好であると、例えば誘電体グリーンシートの所定位置に本発明の金属粉末を、例えばこの金属粉末を含む導体ペーストの塗布・乾燥によって、緻密(高密度)に付着させることができる。したがって、各種セラミック電子部品(例えばMLCC)の製造において、上記形状を有する本発明の金属粉末あるいはこれを含む導体ペーストを導体膜(例えばMLCCの内部電極)の形成に使用すると、より高精度のセラミック電子部品を得ることができる。
上記充填性向上のためには、この金属粉末の表面が平滑であることが特に好ましい。また、金属粉末の結晶性が高いもの(典型的には単結晶質のもの)は、上記充填性をさらに向上させ得るため好ましい。
【0033】
本発明の方法により製造される金属粉末の好ましい平均粒径はほぼ200nm以下(典型的にはほぼ1〜200nm)であり、より好ましくはほぼ100nm以下(典型的にはほぼ3〜100nm)、さらに好ましくはほぼ5〜70nmである。このように平均粒径が小さな(ナノメートルサイズの)金属粉末は、MLCCの内部電極形成等の用途に好適である。
この金属粉末は、上記範囲の平均粒径を有するとともに、その粒径分布が比較的シャープであることが好ましい。例えば、全金属粉末のほぼ70個数%以上の粒径が5〜70nmの範囲にあることが好ましい。さらに、この金属粉末は、粒径が過大な粒子を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、例えば粒径0.5m以上(より好ましくは粒径0.2μm以上)の粒子を実質的に含まないことが好ましい。このようにシャープな粒径分布を有する金属粉末は充填性が良好である。したがって、導体ペーストに用いられた場合、さらに緻密で電気的特性等に優れた導体膜を形成することができる。
【0034】
本発明の金属粉末は、互いに凝集した粒子を実質的に含有しないことが好ましい。このように凝集の少ない(典型的には凝集のない)金属粉末は分散性が良好である。すなわち、凝集した金属粉末を用いる場合と比較して、このような金属粉末によると分散性がより良好な導体ペースト等を調製することができる。
これらの粒径、粒径分布および凝集の程度は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)写真を解析することにより測定することができる。
【0035】
本発明の方法を適用して金属粉末を製造するのに好適な製造装置の一例につき、図1を参照しつつ説明する。特に限定するものではないが、ここでは金属粉末の一例としてニッケル粉末を製造する場合について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るニッケル粉末製造装置2は、大まかにいって、ニッケル源化合物およびアルカリ金属塩を含むミストを発生させるためのミスト発生器4と、それに連通する管状の反応管20と、交流電源23に接続された静電捕集器24と、その捕集物を洗浄するための洗浄装置40とを備える。反応管20と静電捕集器24とは接続管22により連通されている。また、捕集機24の下流には、接続管26を介して減圧装置(例えば真空ポンプ)28が接続されている。この真空ポンプ28によって、ミスト発生器4から真空ポンプ28に至る経路の全体が減圧(例えば約25〜80hPa)に保たれている。
【0036】
ミスト発生器4は、原料溶液8(ニッケル源化合物およびアルカリ金属塩を含む)を内部に備蓄させることが可能な空間を有する。このミスト発生器4には、ペリスタリックポンプ12を通して原料溶液源14が接続されている。これにより、ミスト発生器4と原料溶液源12との間で原料溶液8を循環させるとともに、ミスト発生器4に備蓄された原料溶液8の量をほぼ一定に維持している。このミスト発生器4はさらに冷却水循環装置16を備える。
また、ミスト発生器4にはガス供給管6が接続されている。そのガス供給管6により、ガス供給源62からのキャリアガス(典型的にはN2ガス)がフィルタ64を通してミスト発生器4に供給される。このミスト発生器4には霧発生装置10が設けられている。その霧発生装置10は超音波振動子(図示省略)を有しており、超音波振動によって原料溶液8を霧化する(すなわちミストを発生させる)ことができる。なお、図中の矢印Aは、本実施形態に係る製造装置2内においてキャリアガスおよびミスト等の流れていく方向を示している。
【0037】
上記加熱炉に相当する反応管20は、その内部を上記ミストやキャリアガスが流通可能に構築されている。なお、反応管20は、後述する使用温度で上記ミストやキャリアガスと反応しない材質を用いて構成されるのが望ましい。この反応管20は、その内部を流通するミストを加熱する加熱装置32a〜32eを備える。これらの加熱装置32a〜32eにより温度制御された反応管20で上記ミストを加熱する。この加熱により、ミストから溶媒を除去してニッケル源化合物を析出・熱分解させるとともにアルカリ金属塩を溶融させて、アルカリ金属溶融塩にニッケル微粒子が分散した中間混合体を生成させる。この中間混合体は、接続管22を通じて捕集器24に移送されるまでの間に、アルカリ金属塩の融点以下の温度域まで冷却されて固化する。
【0038】
なお、反応管20内を通過する上記ミストの加熱には、反応管20の周囲に設置した電気炉(ジュール熱等による加熱手段)や高周波炉(高周波加熱手段)等の直接加熱装置を使用してもよいし、あるいは反応管20内に外部から高温の不活性若しくは還元性ガスを注入するといった間接的な加熱方法を採用してもよい。また、加熱装置は一つだけである必要はなく、同タイプまたは異なるタイプのものを複数備えてもよい(図中の符号32a〜32e参照)。このことによって、反応管20をいくつかの加熱部に区分し得、さらには各加熱部の出力(供給熱量や加熱温度条件等)を制御することによりミストを段階的かつ位置特異的に加熱・昇温することができる。例えば、ミスト発生器4に最も近い加熱部(以下「第一の加熱部」という。)を相対的に低温T1に設定し、そこから加熱部ごと(以下、第一の加熱部に近いものから順に第二、第三、第四、第五ということとする。)に、温度T2,T3,T4,T5と順次昇温するという制御方法を採用することによって、所望する性状や構造(例えば、この中間混合体に含まれるニッケル微粒子の性状や分散性)の中間混合体を生成させることができる。加熱炉(反応管20)内の設定温度T1〜T5は、所望する中間混合体の性状や構造、製造条件(例えばキャリアガスの流速等)等に応じて適宜異ならせることができる。また、設定温度T1〜T5がほぼ同一温度となるように制御してもよい。この場合にも、加熱炉が複数の加熱装置を備える構成によると、この加熱炉内の各部の温度をより均一化することができる。
【0039】
本実施形態に係る捕集器24は、反応管20内で生成した中間混合体(典型的には粉末状)を捕集するための装置である。かかる目的の捕集器24としては、静電力によって粉末を捕集する静電捕集器が好適である。かかる静電式の捕集器24を採用すると、反応管20内で生成されるとともに接続管22を介して捕集器24内に導入された中間混合体を静電力にて効率よく捕集(回収)することができる。また、バグフィルタやサイクロン等も好適である。なお、中間混合体とともに捕集器24内に導入されたキャリアガスは、接続管26に設けられたガス処理部50(冷却トラップ52、ガス吸収器54およびフィルタ56を含んで構成されている)を経由して、真空ポンプ28により装置外へと排出される。
【0040】
一方、捕集器24で回収された中間混合体は洗浄装置40へと送られる。この洗浄装置40には洗浄液42(典型的には水)が蓄えられている。この洗浄液42中に中間混合体を投入し、中間混合体を構成するアルカリ金属塩を洗浄液24に溶解させる。その後、アルカリ金属塩が溶解しているとともにニッケル微粒子が分散している洗浄液42から、遠心分離等によりニッケル微粒子を分離する。このようにして中間混合体からニッケル微粒子を取り出し、ニッケル微粒子を主体に構成されたニッケル粉末を得る。なお、この洗浄操作は必要に応じて複数回行ってもよい。
このような製造装置により得られるニッケル粉末の典型例は、酸化ニッケルを主成分とするニッケル微粒子を主体に構成されたニッケル粉末(例えば、平均粒径200nm以下のニッケル粉末)である。また、この酸化ニッケル粉末に一般的な還元処理を施すことにより、ニッケル(単体)を主成分とするニッケル微粒子を主体に構成されたニッケル粉末(例えば、平均粒径200nm以下のニッケル粉末)を得ることができる。
【0041】
本発明の製造方法を適用して製造される金属粉末の好適例としては、上述のニッケル粉末(酸化ニッケル(NiO等)および/またはニッケル(単体)を主体とするもの等)の他に、酸化銅(CuO等)および/または銅(単体)を主体とする銅粉末が挙げられる。この場合、原料溶液に含有させる金属源化合物としては硝酸銅等が好ましく用いられる。アルカリ金属塩としては、硝酸ナトリウムおよび/または硝酸カリウムが好ましく用いられる。また、他の好適例としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主体とするものが挙げられる。この場合、原料溶液に含有させる金属源化合物としては、例えば、硝酸バリウムおよび塩化チタン等を選択することができる。アルカリ金属塩としては、硝酸ナトリウムおよび/または硝酸カリウムが好ましく用いられる。その他、本発明の方法は、酸化亜鉛および/または亜鉛(単体)を主体とする粉末の製造、酸化パラジウムおよび/またはパラジウムを主体とする粉末の製造、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)とする粉末の製造等にも適用し得る。
【0042】
次に、本発明に係る導体ペーストにつき説明する。
本発明の導体ペーストに用いられる金属粉末としては、その金属粉末を構成する金属粒子の70個数%以上が、粒径が200nm以下でありほぼ球状に形成されている金属微粒子であるものが特に適している。このような金属粉末は、これが金属単体(例えばニッケル単体)等の導電性材料を主体として構成された導電性微粉末である場合、あるいは金属酸化物(例えばBaTiO3)等の絶縁性材料を主体として構成された絶縁性微粉末である場合のいずれにおいても、導体ペーストの構成材料として好ましく用いることができる。
【0043】
上述のような導電性微粉末を含んで構成される導体ペーストの好適例としては、この導電性微粉末を、導体膜の主成分をなす金属粉末として含有する導体ペースト(A)が挙げられる。
また、この導電性微粉末と他の金属粉末(例えば、平均粒径が200nmを超えるニッケル粉末)とを共に含有する導体ペースト(B)も好ましい。平均粒径の小さい(例えば200nm以下の)導電性微粉末を平均粒径のより大きな金属粉末と併用してなる導体ペースト(B)は、導電性微粉末を含まない組成の導体ペーストに比べて、より緻密性の高められた導体膜を形成し得る。
【0044】
また、上述の絶縁性微粉末を含んで構成される導体ペーストの好適例としては、他の金属粉末(例えば、平均粒径が200nmを超えるニッケル粉末)を導体膜の主成分をなす材料として含有し、この絶縁性微粉末を導体膜の副成分をなす材料として含有する導体ペースト(C)が挙げられる。かかる導体ペースト(C)では、導電性を担う金属粉末の隙間に絶縁性微粉末(例えば平均粒径200nm以下)が充填されるので、この絶縁性微粉末を含まない組成の導体ペーストに比べて、より緻密性の高められた導体膜を形成し得る。
【0045】
このような導体ペーストは、通常、本発明の方法により製造されたいずれかの金属粉末に加えて有機ビヒクルを含有する。このビヒクルとしては、従来の導体ペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等をベースとする有機バインダ;ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール等のエーテル系溶剤、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ターピネオール等の高沸点有機溶媒等を用いることができる。
【0046】
本発明の方法により製造された金属粉末がニッケルを主体とするニッケル粉末である場合、このニッケル粉末を用いた導体ペースト(ニッケルペースト)は、セラミック電子部品の導電部(セラミックコンデンサの内部電極等)を形成する用途に特に好適である。このようなニッケルペーストは、典型的には、上述のニッケル粉末に加えて各種有機バインダを含んで構成される。ここで使用する有機バインダとしては、焼成時の脱バインダ処理(典型的には酸化雰囲気中で350〜500℃の加熱処理)において蒸発除去(脱脂)し得るものであればよく、従来のセラミックコンデンサ内部電極形成用の導電ペーストに含有されていた樹脂であれば特に制限無く用いることができる。かかる観点から好適な有機バインダとしては、セルロース系高分子やアクリル系樹脂が挙げられる。本発明のニッケルペーストでも、これら有機バインダを従来の導電ペーストと同様の比率で含ませることができる。
【0047】
その他、本発明の導体ペーストには、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤等の添加剤を適宜含有させることができる。これら添加剤は、従来の導体ペーストの調製に用いられ得るものであればよく、詳細な説明は省略する。
本発明の導体ペーストは、本発明の方法により得られたいずれかの金属粉末を含有することから、各種セラミック電子部品(例えばMLCC)等の製造に好適に使用されて、緻密で電気的特性等に優れた導体膜を形成することができる。
【0048】
また、本発明の方法により製造された金属粉末は、上述の導体ペースト用材料以外に、ゴムや樹脂と混合されて導電性シートを構成する導電性付与剤、金属顔料(例えば食器その他のセラミックス製品の装飾に用いられる金属顔料)等としても好適である。また、かかる金属粉末は表面積が大きく焼結性に優れることから、粉末冶金材料等としても好ましく用いられる。
【0049】
【実施例】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0050】
<実施例1;アルカリ金属塩を含む原料溶液を用いた製造例>
上記図1に示すニッケル粉末製造装置2を使用し、本発明の製造方法を適用してニッケル粉末を製造した。すなわち、500mlの純水中に、ニッケル源化合物としての硝酸ニッケル6水和物(Ni(NO3)2・6H2O)0.2molと、硝酸ナトリウム0.6molと、硝酸カリウム0.6molとを加え、これを純水で全量が1リットル(L)となるように希釈した。このようにして、本実施例に係る原料溶液をを調製した。この原料溶液のニッケル濃度は約0.2mol/L、アルカリ金属塩濃度(硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの合計濃度;アルカリ金属換算)は約1.2mol/Lである。
【0051】
次いで、その原料溶液を図1に示すミスト発生器4に入れ、超音波振動によってミスト化した。一方、外部ガス供給源からガス供給管6を介してキャリアガスとしてのN2を2L/分の流量でミスト発生器4に供給し、発生したミスト(平均液滴径;約3.5μm)をキャリアガスとともに反応管(加熱炉)20に導入した。この反応管(加熱炉)20は、内径38×長さ800mmであって、その管内圧力は約55hPa(40torr)に維持されている。そして、キャリアガスとともに反応管20に導入されたミストを、上述の第一の加熱部〜第五の加熱部において約400℃に加熱した(すなわち、ここではT1〜T5をいずれもほぼ400℃とした)。これにより、反応管20を流通するミストを乾燥させて硝酸ニッケルを析出・熱分解させるとともに、硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムを溶融させた。このようにして、硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムの溶融塩からなるマトリックス中にニッケル微粒子が分散した中間混合体粉末を生成させた。なお、この中間混合体粉末の平均粒径はほぼ1.3μmであった。
【0052】
反応管20内で生成した中間混合体粉末を、アルカリ金属塩の溶融温度以下の温度域に冷却しつつ、キャリアガスとともに静電捕集器24に導入した。この捕集器24において、中間混合体粉末をキャリアガスから分離(回収)した。回収した中間混合体粉末を洗浄装置40へと送り、洗浄装置40内に蓄えられた水(洗浄液)42に投入した。これにより硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムを水42に溶解させるとともに、ニッケル微粉末を水42に分散させた。その後、遠心分離により水42からニッケル微粒子を分離して乾燥させた。このようにしてニッケル粉末を製造した。化学分析の結果、このニッケル粉末の主成分は酸化ニッケル(NiO)であった。
【0053】
得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2および図3に示す。図2,3から明らかなように、本実施例により得られたニッケル粉末は、ほぼ球状であり、かつ滑らかな表面を有し、さらにその粒径はほぼ均一であった。また、粒子の凝集等はみられず、分散性も良好であった。このSEM写真を解析した結果、本実施例により得られたニッケル粉末の平均粒径は約20nmであった。
なお、原料溶液のニッケル濃度と、得られたニッケル粉末の質量(ニッケル原子換算のモル数)とから算出したニッケル粉末の収率は約95%であった。
【0054】
<比較例1;アルカリ金属塩を含まない原料溶液を用いた製造例(1)>
この比較例1は、アルカリ金属塩を含まない原料溶液を使用し、この原料溶液を実施例1よりも高温で減圧噴霧熱分解させることによりニッケル粉末を製造した例である。
500mlの純水中に、ニッケル源化合物としての硝酸ニッケル6水和物(Ni(NO3)2・6H2O)0.2molを加え、これを純水で全量が1Lとなるように希釈した。このようにして、硝酸ニッケル6水和物(ニッケル源化合物)を含有するがアルカリ金属塩を含有しない原料溶液(ニッケル濃度;約0.2mol/L)を調製した。
この原料溶液を実施例1と同様にミスト化した。発生したミスト(平均液滴径;約3.5μm)を、キャリアガスとともに、管内圧力約55hPa(40torr)に維持された反応管(加熱炉)20に導入した。そして、キャリアガスとともに反応管20に導入されたミストを、上述の第一の加熱部〜第五の加熱部において約670℃に加熱した(すなわち、ここではT1〜T5をいずれもほぼ670℃とした)。これにより、反応管20を流通するミストを乾燥・熱分解させてニッケル粉末を生じさせた。
生成したニッケル粉末をキャリアガスとともに静電捕集器24に導入した。この捕集器24にてニッケル粉末をキャリアガスから分離(回収)した。化学分析の結果、このニッケル粉末の主成分は酸化ニッケル(NiO)であった。なお、本比較例では、反応管20と静電捕集器24とを結ぶ接続管22内にニッケル微粒子が付着(沈着)する現象が認められた。
【0055】
得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4および図5に示す。本比較例により得られたニッケル粉末は、上述の予測粒径(ミストの各液滴から単一の粒子が生成すると仮定して原料溶液の組成および液滴径から予測される金属粉末の粒径)とほぼ一致する粒径のニッケル粒子(それらの平均粒径;約0.3μm)と、その予測粒径よりも明らかに粒径の小さいニッケル微粒子(それらの平均粒径;約20nm)との混合物であり、ニッケル微粒子の生成割合が低かった。
また、原料溶液のニッケル濃度と、得られたニッケル粉末の質量(ニッケル原子換算のモル数)とから算出したニッケル粉末の収率は約50%であり、実施例1よりも低かった。これは、本比較例ではニッケル微粒子の一部が、キャリアガスから分離することができなかった、接続管22その他の装置壁面に付着した等の要因により、静電捕集器24にて適切に捕集されなかったためと推察される。この結果は、本発明の製造方法を適用すればニッケル微粒子の生成割合を高め得ること、また生成したニッケル微粒子を静電捕集器等によって効率よく(高収率で)回収できることを示している。
【0056】
<比較例2;アルカリ金属塩を含まない原料溶液を用いた製造例(2)>
この比較例2は、アルカリ金属塩を含まない原料溶液を使用し、この原料溶液を実施例1と同じ加熱条件で減圧噴霧熱分解させることによりニッケル粉末を製造した例である。
比較例1で用いたものと同じ原料溶液(ニッケル濃度;約0.2mol/L)を、実施例1と同様にミスト化した。発生したミスト(平均液滴径;約3.5μm)を、キャリアガスとともに、管内圧力約55hPa(40torr)に維持された反応管(加熱炉)20に導入した。そして、反応管20内において、実施例1と同じ加熱条件でミストを加熱した。これにより、反応管20を流通するミストを乾燥・熱分解させてニッケル粉末を生じさせた。
生成したニッケル粉末をキャリアガスとともに静電捕集器24に導入した。この捕集器24にてニッケル粉末をキャリアガスから分離(回収)した。化学分析の結果、このニッケル粉末の主成分は酸化ニッケル(NiO)であった。
【0057】
得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図6および図7に示す。本比較例により得られたニッケル粉末の平均粒径は約0.3μm(本比較例における予測粒径と概ね一致する粒径)であり、ナノメートルサイズの微粒子(粒径約200nm以下の微粒子)を実質的に含有しないものであった。すなわち、実施例1と同様の減圧噴霧熱分解条件(特にミストの加熱温度)において、アルカリ金属塩を含まない原料溶液を用いた場合には、ナノメートルサイズの微粒子を得ることができなかった。
この結果は、本発明の製造方法を適用すれば、この方法を適用しない場合に比べてより低い温度で噴霧熱分解を行った場合にも、ニッケル微粉末を主体とするニッケル粉末を好適に製造し得ることを示している。したがって、かかるニッケル粉末の製造に要するエネルギーコストを低減することができる。
【0058】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態に係るニッケル粉末製造装置の構成を模式的に説明する図である。
【図2】 実施例1により製造されたニッケル粉末を示すSEM写真(倍率;10万倍)である。
【図3】 実施例1により製造されたニッケル粉末を示すSEM写真(倍率;30万倍)である。
【図4】 比較例1により製造されたニッケル粉末を示すSEM写真(倍率;10万倍)である。
【図5】 比較例1により製造されたニッケル粉末を示すSEM写真(倍率;30万倍)である。
【図6】 比較例2により製造されたニッケル粉末を示すSEM写真(倍率;10万倍)である。
【図7】 比較例2により製造されたニッケル粉末を示すSEM写真(倍率;30万倍)である。
【符号の説明】
2:ニッケル粉末製造装置
4:ミスト発生器
20:反応管(加熱炉)
24:静電捕集器(捕集器)
28:真空ポンプ(減圧装置)
40:洗浄装置
50:ガス処理部
Claims (10)
- 金属元素を主体として構成された金属粉末を製造する方法であって、
(a).その金属元素を有する金属源化合物とアルカリ金属塩とを含有する原料溶液を用意する工程と、
(b).その原料溶液のミストを生成する工程と、
(c).該ミストを減圧下で加熱して、アルカリ金属塩を含みかつ金属微粒子が析出した中間混合体を生成する工程と、
(d).該中間混合体より金属微粒子を回収する工程とを包含する金属粉末製造方法。 - 前記中間混合体は、前記アルカリ金属塩を主体とするマトリックス中に前記金属微粒子が分散した構造を有する請求項1に記載の金属粉末製造方法。
- 前記(d).工程は、前記中間混合体を洗浄してアルカリ金属塩を除去することを包含する請求項1または2に記載の金属粉末製造方法。
- 前記(c).工程では、前記アルカリ金属塩が溶融した状態でありかつ前記金属源化合物が熱分解する温度域にミストを加熱する請求項1,2または3に記載の金属粉末製造方法。
- 前記金属源化合物は、前記アルカリ金属塩の酸根と同種の酸根を有する金属塩である請求項1から4のいずれか一項に記載の金属粉末製造方法。
- ニッケルを主体として構成された金属粉末を製造する方法であって、
(a).硝酸ニッケルとアルカリ金属硝酸塩とを含む原料溶液を用意する工程と、
(b).その原料溶液のミストを生成する工程と、
(c).該ミストを減圧下で加熱して、析出したニッケル微粒子がアルカリ金属硝酸塩を主体とするマトリックス中に分散した中間混合体を生成する工程と、
(d).該中間混合体を洗浄し、アルカリ金属硝酸塩を除去してニッケル微粒子を回収する工程とを包含するニッケル主体の金属粉末製造方法。 - 前記(d).工程の後に、回収された金属微粒子に還元処理を施す工程をさらに包含する請求項1から6のいずれか一項に記載の金属粉末製造方法。
- 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法により製造された金属粉末。
- その金属粉末を構成する金属粒子の70個数%以上が、粒径が200nm以下でありほぼ球状に形成されている金属微粒子である請求項8に記載の金属粉末。
- 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法により製造された金属粉末を含有する導体ペースト。
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