JP3798667B2 - 親水性部材前駆体及びそれを用いた親水性部材 - Google Patents

親水性部材前駆体及びそれを用いた親水性部材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の用途に応用し得る、高い親水性を有する親水性部材前駆体及びそれを用いて得られる親水性部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種の部材表面を親水化することで、多くの用途が期待される。具体的には、例えば、食品工業、医療(人工臓器等の医療用具や診断を含む)、医薬品工業、廃水処理、塗装、印刷等の分野において用いられる、タンパク質、コロイド、バクテリア、フミン質、油脂、大気中の汚染物質等の吸着が少ない成形物や生体適合性の成形物、また、酵素、菌体等を変性させない固定化用担体、商業、農業、交通、家庭用品、光学機器、塗料などの分野において用いられる防曇性フィルム、防曇性塗膜などの防曇性部材、電子工業などの分野において用いられる静電気防止などの用途に使用できる表面親水性部材などが挙げられる。
【0003】
上記の各分野で使用されている親水性部材に求められる表面特性としては、タンパク質、油脂、フミン質等の物質の材料表面への吸着抑制性、防曇性、生態適合性、帯電防止性などが挙げられる。これらの機能は高い親水性により実現が可能であり、例えば、塗料分野においては、雨水中の油性物質が付着しない防汚性塗膜、センサー表面に使用する場合には、特にこれらの物質が特異的に吸着しない表面が所望される。また、強い親水性により、水滴が拡張濡れの状態となる防曇性表面は、この親水性に加えてさらに光学的に高い透明度と平滑性が求められる。また、生態適合性に関しては、人工臓器などの医療分野において、血栓、溶血、感作性、抗原抗体反応などを抑制する表面が求められている。さらに、親水性による帯電防止能の発現は、特に電子工業分野において重要視される。
【0004】
このような要求を満足させるための表面の親水化方法の一例として、親水性モノマーを表面グラフトする方法が知られている。
具体的な方法としては、特開昭53−17407号公報には、炭素−炭素二重結合および(又は)第3級炭素に結合した水素基を所定量有する親油性樹脂を主成分とする親油性基材表面に親水性ラジカル重合性化合物を塗布し、活性光線を照射して、表面に親水性層を形成する方法が開示されており、特開平10−53658号報には、活性光線により重合可能なモノマー及び/又はオリゴマーと光重合開始剤とを必須成分として含む光量合性樹脂組成物を、親水性モノマー及び/又は親水性オリゴマー(b)からなる親水性層形成材料(B)と接触させた状態で、活性光線を照射することによって、界面において光重合性樹脂組成物(A)と親水性層形成材料(B)中の親水性モノマー及び/又は親水性オリゴマーを共重合させる表面親水性成形物の製造方法が開示されている。
【0005】
しかし、表面親水性成形物の製造方法として、特開昭53−17407号公報に記載の親水性層は製造が容易であるが、皮膜形成能の低い親水性ラジカル重合性化合物を均一に塗布することはしばしば困難を伴い、表面に塗布むらが生じやすく、親水性が不十分となる懸念があった。また、特開平10−53658号報に記載の方法では、支持体を親水性層形成材料に浸漬した状態で光照射して親水性層を形成するため、製造適正の点で不利であり、特にフィルム状の基材に親水性層を塗装した成形物を製造すると、表面の平滑性が低くなりがちであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、製造が容易であり、耐久性及び表面平滑性に優れ、高い親水性を有する親水性部材前駆体及びそれを用いて得られる親水性部材を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、検討の結果、重合開始能のある基材、或いは基材上に形成された重合開始能のある層に、ポリマー末端及び/又は側鎖に重合性基を含有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない層を形成し、そこにエネルギーを付与することで該基材或いは層の表面に親水性ポリマーをグラフトさせることで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の親水性部材前駆体は、エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層と、重合性基を含有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない上層とを積層してなることを特徴とする。
また、本発明の請求項2に係る親水性部材は、エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層と、重合性基を含有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない上層とを積層してなる親水性部材前駆体にエネルギーを付与し、該親水性ポリマーの重合性基を疎水性ポリマーに発現した重合開始能の機能により疎水性ポリマー層に直接結合させて得られることを特徴とする。
ここで親水性部材前駆体或いは親水性部材用いる親水性ポリマーとしては、重合性基を、主鎖末端に有するものであっても、側鎖に有するものであっても、さらにはその双方に重合性基を有するものであってもよく、特に主鎖末端及び側鎖の双方に重合性基を有するものが、後述する枝分かれを有するグラフト鎖構造を形成しやすいという観点からが好ましい。
【0009】
本発明の親水性部材前駆体は、所望の支持体基板上に、重合開始能を有する層と親水性ポリマーを含有する層とを順次形成したものであるが、この前駆体の各層は溶液浸漬によらず、塗布による形成が可能であるので、製造が容易であり、親水性部材の表面を形成する親水性ポリマーを含有する層は、皮膜形成能のある重合性基を有する親水性ポリマーを含有するため、塗布面状は均一で表面平滑性の高い表面を形成し得る。
この親水性部材前駆体にエネルギーを付与することで、重合開始能を有する層が活性化し、親水性ポリマーの重合性基と直接結合して、強固な結合と、高い運動性とを有する親水性グラフト鎖を有する親水性ポリマーの層を形成し、耐久性、親水性に優れた親水性部材が得られる。
さらに、この親水性ポリマーとして、末端のみならず、側鎖にも重合性基を有するものを添加することで、側鎖の重合性基と他の親水性ポリマー末端との結合が生じ易くなり、親水性のグラフト鎖がさらに枝分かれ構造を有するグラフト鎖となるため、グラフト鎖の枝分かれ構造において、それぞれの分岐した枝にも親水性基が存在することになり、枝分かれ構造を有しない通常のグラフト鎖に比較して、単位面積あたりに存在する親水性基の密度が増すとともに、それぞれのグラフトの運動性も著しく向上し、高い親水性を有する親水性グラフト構造に比較しても、飛躍的に親水性が向上するという利点を有する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の親水性部材前駆体は、支持体上に、エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層と、重合性基を有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない上層と、を積層してなる。
【0011】
〔エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層〕
まず、エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層(以下、適宜、重合性下層と称する)について説明する。この層には、重合開始剤と重合性化合物とを含有することが好ましい。
重合性下層は、必要な成分を、それらを溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基材(支持体)上に設け、加熱または光照射により硬膜することにより形成することができる。
【0012】
(重合性化合物)
重合性下層に用いられる重合性化合物は、基板との密着性が良好であり、且つ、活性光線照射などのエネルギー付与により上層に含まれる重合性基を有する親水性ポリマーが付加し得るものであれば特に制限はないが、なかでも、分子内に重合性基を有する疎水性ポリマーが好ましい。
このような疎水性ポリマーとしては、具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリぺンタジエンなどのジエン系単独重合体、アリル(メタ)アクリレー卜、2−アリルオキシエチルメタクリレー卜などのアリル基含有モノマーの単独重合体;
さらには、前記のポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリペンタジエンなどのジエン系単量体またはアリル基含有モノマーを構成単位として含む、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどとの二元または多元共重合体;
不飽和ポリエステル、不飽和ポリエポキシド、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリル、高密度ポリエチレンなどの分子中に炭素−炭素二重結合を有する線状高分子または3次元高分子類;などが挙げられる。
なお、本明細書では、「アクリル、メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合、「(メタ)アクリル」と表記することがある。
【0013】
(重合開始剤)
本発明の下層にはエネルギー付与により重合開始能を発現させるための重合開始剤を含有する。ここで用いられる重合開始剤は、所定のエネルギー、例えば、活性光線の照射、加熱、電子線の照射などにより、重合開始能を発現し得る公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを目的に応じて、適宜選択して用いることができる。なかでも、熱重合よりも反応速度(重合速度)が高い光重合を利用することが製造適性の観点から好適であり、このため、光重合開始剤を用いることが好ましい。
本発明に用い得る光重合開始剤は、照射される活性光線に対して活性であり、下層に含まれる重合性基を有する疎水性ポリマーと、上層に含まれる末端に重合性基を有する親水性ポリマーとを重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いることができる。
【0014】
そのような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン(4,4′−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、の如きケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類、などが挙げられる。
重合開始剤の含有量は、重合性下層中、固形分で0.01〜20重量%の範囲が好ましく、0.1〜10重量%の範囲が特に好ましい。
【0015】
(下層組成物用溶媒)
重合性下層を塗布する際に用いる溶媒は、重合性化合物と重合開始剤の両方が溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50重量%が適当である。
【0016】
重合性下層の塗布量は、乾燥後の重量で、0.1〜20g/m2が好ましく、さらに、1〜15g/m2が好ましい。塗布量0.lg/m2未満では十分な重合開始能を発現できず、親水性ポリマーのグラフト化が不十分となり、所望の親水性を得られない懸念があり、塗布量が20g/m2を超えると膜性が低下する傾向になり、膜剥がれを起こしやすくなるため、いずれも好ましくない。
【0017】
上記のように、支持体基材上に上記の重合性下層形成用の組成物を塗布などにより配置し、溶剤を除去することにより成膜させて下層を形成するが、このとき、加熱及び/又は光照射を行って硬膜することが好ましい。特に、加熱により乾燥した後、光照射を行って予備硬膜しておくと、疎水性ポリマーのある程度の硬化が予め行なわれるので、親水性ポリマーのグラフト化を達成した後に下層である疎水性ポリマー層ごと脱落するといった事態を効果的に抑制し得るため好ましい。ここで、予備硬化に光照射を利用するのは、前記光重合開始剤の項で述べたのと同様の理由による。
加熱温度と時間は、塗布溶剤が十分乾燥しうる条件を選択すればよいが、製造適正の点からは、温度が100℃以下、乾燥時間は30分以内が好ましく、乾燥温度40〜80℃、乾燥時間10分以内の範囲の加熱条件を選択することがより好ましい。
【0018】
加熱乾燥後に所望により行われる前記光照射は、後述するグラフトポリマーの生成に用いる光源を用いることができるが、引き続き行われる親水性ポリマー層の形成と、エネルギー付与により実施される下層の活性点とグラフト鎖との結合の形成を阻害しないという観点から、下層中に存在する重合性化合物が部分的にラジカル重合しても、完全にはラジカル重合しない程度に光照射することが好ましく、光照射時間については光源の強度により異なるが、一般的には30分以内であることが好ましい。このような予備硬化の目安としては、溶剤洗浄後の膜残存率が10%以上となり、且つ、予備硬化後の開始剤残存率が1%以上であることが、挙げられる。
【0019】
〔重合性基を含有する親水性ポリマーを含有する上層〕
本発明の親水性部材前駆体は、支持体上に形成された前記重合性下層上に、重合性基を含有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない上層(以下、適宜、単に上層と称する)が配置されている。
上層に含まれる重合性基を含有する親水性ポリマーは、分子内にビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基を導入したラジカル重合性基含有親水性ポリマーを指し、このポリマーは、重合性基を主鎖末端、及び/又は側鎖に有しており、その双方に重合性基を有することが好ましい。
【0020】
このようなエチレン付加重合性不飽和基を導入したラジカル重合性基含有親水性ポリマーは以下のように合成できる。
合成方法としては、親水性モノマーとエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーを共重合する方法、親水性モノマーと二重結合前駆体を有するモノマーを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、親水性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法が挙げられる。特に好ましいのは、合成適性の観点から、親水性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法である。
【0021】
上記ラジカル重合性基を主鎖末端及び/又は側鎖に有する親水性ポリマーの合成に用いられる親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、イタコン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロバンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基もしくはそれらの塩、水酸基、アミド基およびエーテル基などの親水性基を有するモノマーが挙げられる。
【0022】
親水性ポリマーとしては、上記親水性モノマーから選ばれる少なくとも一種を用いて得られる親水性ホモポリマーもしくはコポリマーが挙げられる。
また、親水性モノマーと共重合するアリル基含有モノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートが挙げられる。
また、二重結合前駆体を有するモノマーとしては2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜が挙げられる。
親水性ポリマー中のカルボキシル基、アミノ基もしくはそれらの塩、水酸基およびエポキシ基などの官能基との反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルユーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどがある。
【0023】
末端或いは側鎖に重合性基を持つ親水性ポリマーとしては、親水性マクロモノマーが挙げられる。本発明に用いられるマクロモノマーの製造方法は、例えば平成1年9月20日にアイピーシー出版局発行の「マクロモノマーの化学と工業」(編集者 山下雄也)の第2章「マクロモノマーの合成」に各種の製法が提案されている。本発明で用いられる親水性のマクロモノマーで特に有用なものとしては、アクリル酸、メタクリル酸などのカルホキシル基含有のモノマーから誘導されるマクロモノマー、2‐アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルステレンスルホン酸、およびその塩のモノマーから誘導されるスルホン酸系マクロモノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルボン酸アミドモノマーから誘導されるアミド系マクロモノマー、ヒドロキシエチルメタクリレー卜、ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレートなどの水酸基含有モノマーから誘導されるマクロモノマー、メトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシ基もしくはエチレンオキシド基含有モノマーから誘導されるマクロモノマーである。またポリエチレングリコール鎖もしくはポリプロピレングリコール鎖を有するモノマーも本発明のマクロモノマーとして有用に使用することができる。
【0024】
これらのマクロモノマーのうち有用な分子量は250〜10万の範囲で、特に好ましい範囲は400〜3万である。
また、上層の形成にあたって、上記重合性基を有する親水性ポリマーに、さらに、親水性モノマーを添加しても良い。親水性モノマーを添加することにより重合率を上げることができる。
親水性モノマーの添加量は0〜60重量%が好ましい。60重量%以上では塗布性が悪く均一に塗布できないので不適である。
【0025】
(親水性モノマー)
末端及び/又は側鎖に重合性基を有する親水性ポリマーと併用するのに有用な、親水性モノマーとしては、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有するモノマー、もしくは、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有するか負の荷電に解離しうる酸性基を有するモノマーが挙げられるが、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性の基を有する親水性モノマーを用いることもできる。
本発明において、親水性ポリマーとの併用に、特に有用な親水性モノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることが出来る。
【0026】
例えば、(メタ)アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、イタコン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン酸塩、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルスチレンスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−スルホエチレン(メタ)アクリレート、3―スルホプロピレン(メタ)アクリレー卜もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロバンスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキンエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基もしくはそれらの塩、2−トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基もしくはそれらの塩、などを使用することができる。また2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N―ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メタクリロイルオキシエナルカルバミン酸アスパラギン酸の如き分子中にアミノ酸骨格を有するモノマー、グリコキシエチルメタクリレートの如き分子中に糖骨格を有するモノマーなども有用である。
【0027】
(上層組成物用溶媒)
本発明において上層形成用の組成物に使用する塗布溶剤は、上層の主成分である前記親水性マクロモノマーや親水性モノマーなどが溶解可能ならば特に制限はないが、水、水溶性溶剤などの水性溶剤が好ましく、これらの混合物や、溶剤にさらに界面活性剤を添加したものなどが好ましい。
水溶性溶剤は、水と任意の割合で混和しうる溶剤を言い、そのような水溶性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリンの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトンの如きケトン系溶剤、ホルムアミドの如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0028】
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
このように、上層塗布液は、上層の主成分である前記親水性マクロモノマーや親水性モノマー、塗布溶媒、及び、所望により併用される界面活性剤を含み、重合開始剤の如き重合開始能を発現しうる化合物を含まない。
上層の塗布量は固形分換算で0.1〜10g/m2が好ましく、特に1〜5g/m2が好ましい。0.lg/m2未満では十分な表面親水性を得ることができず、また10g/m2を超えると均一な塗布膜が得にくいため、いずれも好ましくない。
【0029】
本発明の親水性部材前駆体を配置する支持体基材としては、この前駆体より得られる親水性部材の用途に適したものを選択すればよい。
この親水性部材前駆体を適用することができる基材としては、親水性部材に防曇効果を期待する場合には透明な基材を選択すればよく、その材質はガラス、プラスチック等が好適に利用できる。防曇効果を有する部材が適用可能な用途としては、車両用バックミラー、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡のような鏡;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズのようなレンズ;プリズム;建物や監視塔の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、オートバイ、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の風防ガラス;防護用ゴーグル、スポーツ用ゴーグル、防護用マスクのシールド、スポーツ用マスクのシールド、ヘルメットのシールド、冷凍食品陳列ケースのガラス;計測機器のカバーガラス、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
【0030】
また、本発明の前駆体より得られる親水性部材に表面清浄化効果を期待する場合には、その基材は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。表面正常化効果を有する部材が適用可能な用途としては、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用防音壁、鉄道用防音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
【0031】
本発明の前駆体より得られる親水性部材に帯電防止効果を期待する場合には、その材質は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、それらの組合せ、それらの積層体が好適に利用できる。
適用可能な用途としては、ブラウン管、磁気記録メディア、光記録メディア、光磁気記録メディア、オーディオテープ、ビデオテープ、アナログレコード、家庭用電気製品のハウジングや部品や外装及び塗装、OA機器製品のハウジングや部品や外装及び塗装、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
【0032】
基材は高分子樹脂からなる表面を有する基材が好ましく、樹脂自体、表面に樹脂が被覆されている基材、表面層が樹脂層からなる複合材のいずれをもを含む。樹脂自体としては、飛散防止フィルム、意匠性フィルム、耐蝕性フィルム等のフィルム基材;看板、高速道路の防音壁等の樹脂基材などが代表例として挙げられる。表面に樹脂が被覆されている基材としては、自動車筐体、塗装建材等の塗装板、表面に樹脂フィルムが貼着された積層板、プライマー処理した基材、ハードコート処理した基材などが代表例として挙げられる。
表面層が樹脂層からなる複合材としては、裏面に接着剤層が設けられた樹脂シール材、反射ミラー、などが代表例として挙げられる。
【0033】
このようにして得られた親水性部材前駆体にエネルギーを付与することにより、重合開始能を有する重合性下層と、上層に含まれる重合性基を有する親水性ポリマーを結合させ、強固で耐久性に優れ、高い親水性を有する親水性部材を得ることができる。
このエネルギー付与による表面グラフトの形成について説明する。
本発明においては、親水性表面の形成は、表面グラフト法により行われる。表面グラフトとは、下層を構成する重合開始能を有する高分子層の表面上に光、電子線、熱などの従来公知の方法にてエネルギーを付与することにより、重合性化合物がグラフトされた表面を示す。
【0034】
通常は、基材を構成するPETなどの高分子表面を直接、プラズマ、もしくは電子線にて処理し、表面にラジカルを発生させて重合開始能を発現させ、その後、その活性表面と親水性官能基を有するモノマーとを反応させることによりグラフトポリマー表面層、即ち、親水性基を有する表面層を得ることができる。本発明においては、基材表面に予め重合開始能を有する下層を形成するため、このような活性点の形成が低エネルギーで容易に行うことができ、且つ、生成する活性点も多いため、簡易な方法により、より高い親水性を有する表面を形成することができる。
【0035】
しかしながら、光照射などによりグラフト重合を生じさせる方法自体は、公知の方法を適用することができる。光グラフト重合法の具体的方法としては特開昭63−92658号公報、特開平10−296895号公報および特開平11−119413号公報に記載の方法を本発明においても使用することができる。具体的には、基材上に光開始剤と重合性化合物からなる重合成組成物をあらかじめ下塗りしておき、その上に重合性化合物を接触させ光照射する方法である。
表面グラフトを作成する方法のなかでも、エネルギー付与を光照射により行う光グラフト法をとることが好ましい。
【0036】
(エネルギー付与)
本発明の親水性部材前駆体より親水性部材を製造する場合のエネルギー付与方法には特に制限はなく、重合性の下層中に含まれる重合開始剤を活性化させ、重合性化合物、及び上層に含まれる重合性基を有する親水性ポリマーとを結合し得るエネルギーを付与できる方法であれば、例えば、サーマルヘッドによる加熱、露光等の活性光線照射により書き込みなど、いずれも使用できるが、コスト、装置の簡易性の観点からは活性光線を照射する方法が好ましい。
即ち、エネルギー付与に使用し得る活性光線としては、紫外線、可視光、赤外光が挙げられるが、これらの活性光線の中でも、紫外線、可視光が好ましく、重合速度に優れるという点から紫外線が特に好ましい。活性光線の主たる波長が250nm以上800nm以下であることが好ましい。
光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、蛍光ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、タングステン白熱ランプ、太陽光などがあげられる。
光照射の所要時間は目的とする親水化度および使用する光源により異なるが、通常数秒〜24時間である。
【0037】
このようにエネルギー付与を行うことで、下層に発生した活性点と、重合性基を有する親水性ポリマーとが重合して、運動性の高い親水性グラフト鎖を有する表面が形成される。また、好ましい態様として、側鎖に重合性基を有する親水性ポリマーを添加することで、下層と結合したグラフト鎖の側鎖の重合性基にさらに、親水性グラフト鎖が結合することで、枝分かれ構造を有するグラフト鎖が形成され、運動性が高い親水性グラフトの形成密度、運動性ともに飛躍的に向上するため、さらなる高い親水性が発現するものである。
【0038】
本発明における優れた親水性とは、水との接触角に換算して20゜以下の水濡れ性を呈する状態をいう。接触角の測定方法は、公知の方法が適用でき、例えば、協和界面科学(株)製、CA−Zなどの市販の装置を用いて接触角(空中水滴)を測定する方法などを適用することができる。この方法で、接触角に換算して20゜以下であれば、本発明の好ましい親水性が達成されていると判断することができる。
【0039】
本発明の親水性部材前駆体によれば、任意の基材表面に比較的簡易な処理での優れた親水性表面性状を有する親水性部材表面を形成することが可能であり、さらには、その親水性部材の耐久性が良好であるため、先に述べたような多用な目的に好適に使用しうるという利点を有する。
【0040】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
(重合性基を持つ親水性ポリマーの合成)
ポリアクリル酸(平均分子量25,000)18g、をDMAC300gに溶解し、ハイドロキノン0.41g、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート19.4g、とジブチルチンジラウレート0.25gを添加し、65℃、4時間反応させた。得られたポリマーの酸価は7.02meq/gであった。1N水酸化ナトリウム水溶液でカルボキシル基を中和し、酢酸エチルに加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄し側鎖に重合性基を持つ親水性ポリマー18.4g(P−1)を得た。
【0041】
(末端重合性基を持つアミドマクロモノマーの合成)
アクリルアミド30g、3−メルカプトプロピオン酸3.8gをエタノール70gに溶解後、窒素雰囲気下60℃に昇温し、AIBN(2,2−アゾビスイソブチルニトリル)300mgを加えて6時間反応した。反応後白色沈殿を濾過しメタノールで十分洗浄し末端カルボン酸プレポリマーを30.8g得た(酸価0.787meq/g分子量1.29×103)。
前記プレポリマー20gをジメチルスルホキシド62gに溶解し、グリシジルメタクリレート6.71g、N,N−ジメチルドデシルアミン(触媒)504mg、ハイドロキノン(重合禁止剤)62.4mgを加え、窒素雰囲気下140℃で7時間反応した。反応溶液をアセトンに加え、ポリマーを沈殿させ、よく洗浄して末端メタクリレートマクロモノマーを23.4g(分子量1.43×103)得た(P‐2)。
【0042】
〔実施例1〕
(重合性下層の形成)
膜厚0.188mmのPETフィルム(東洋紡(株)M4100)の上に、下記の重合性下層塗布液(光重合性組成物)をロッドバー17番を用いて塗布し、80℃で2分間乾燥させた。
次に、この塗布されたフィルムを400W高圧水銀灯(UVL−400P,理工科学産業(株)製)を使用し、10分間照射して硬膜させ、重合性下層を形成した。
【0043】
(重合性下層塗布液)
Figure 0003798667
【0044】
(上層の形成)
上記重合性下層を形成した支持体上に、以下の上層形成用塗布液組成物1をロッドバー6番を用いて塗布し、80℃で2分乾燥後した。前記塗布液組成物1の塗布面状は均一であった。
このようにして得られた親水性部材前駆体表面に以下のようにエネルギーを付与し、親水性部材を作製した。
エネルギー付与は、アルゴン雰囲気下で400W高圧水銀灯(UVL−400P,理工科学産業(株)製)を使用し、80分間光照射することにより実施した。光照射後、得られたフィルムをイオン交換水でよく洗浄することによりハイパーブランチ構造の親水性グラフト鎖を持つ親水性部材1を得た。
【0045】
(上層形成用塗布液組成物1)
・側鎖に重合性基を有する親水性ポリマー(P−1) 2g
・水 18g
得られた親水性部材1の表面平滑性を目視で観察したところ、平滑性は良好であった。表面親水性を、協和界面科学(株)製CA‐Zを用いて測定したところ、接触角(空中水滴接触角)は15.0°であり、親水性に優れていることが確認された。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1において用いた上層形成用塗布液組成物1を下記上層形成用塗布液組成物2に代えた以外は実施例1と同様にして親水性部材2を得た。製造過程における上層形成用塗布液組成物2の塗布面状は均一であった。
(上層形成用塗布液組成物2)
・アクリルアミドマクロモノマー(P‐2) 2g
・水 18g
得られた親水性部材2の表面平滑性を目視で観察したところ、平滑性は良好であった。表面親水性を、協和界面科学(株)製CA‐Zを用いて測定したところ、接触角(空中水滴接触角)は18.0°であり、親水性に優れていることが確認された。
【0047】
【発明の効果】
本発明の親水性部材前駆体は、製造が容易であり、耐久性及び表面平滑性に優れた親水性部材の形成に有用である。また、この親水性部材前駆体にエネルギーを付与することで、耐久性及び表面平滑性に優れ、高い親水性を有する親水性部材を容易に得ることができるという効果を奏する。

Claims (4)

  1. エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層と、重合性基を有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない上層と、を積層してなることを特徴とする親水性部材前駆体。
  2. エネルギー付与により重合開始能を発現する疎水性ポリマー層と、重合性基を有する親水性ポリマーを含有し、重合開始能を有しない上層と、を積層してなる親水性部材前駆体にエネルギーを付与し、
    該親水性ポリマーの重合性基を疎水性ポリマーに発現した重合開始能の機能により疎水性ポリマー層に直接結合させて得られる、疎水性ポリマー層に親水性ポリマーをグラフトさせた親水性グラフト鎖を有することを特徴とする親水性部材。
  3. 前記親水性ポリマーの主鎖末端に重合性基を有することを特徴とする請求項2に記載の親水性部材。
  4. 前記親水性ポリマーの側鎖に重合性基を有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の親水性部材。
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