JP4111794B2 - 親水性部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の用途に応用し得る、高い親水性を有する親水性部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種の部材表面を親水化することで、多くの用途が期待される。具体的には、例えば、食品工業、医療(人工臓器等の医療用具や診断を含む)、医薬品工業、廃水処理、塗装、印刷等の分野において用いられる、タンパク質、コロイド、バクテリア、フミン質、油脂、大気中の汚染物質等の吸着が少ない成形物や生体適合性の成形物、また、酵素、菌体等を変性させない固定化用担体、商業、農業、交通、家庭用品、光学機器、塗料などの分野において用いられる防曇性フィルム、防曇性塗膜などの防曇性部材、電子工業などの分野において用いられる静電気防止などの用途に使用できる表面親水性部材などが挙げられる。
【0003】
上記の各分野で使用されている親水性部材に求められる表面特性としては、タンパク質、油脂、フミン質等の物質の材料表面への吸着抑制性、防曇性、生態適合性、帯電防止性などが挙げられる。これらの機能は高い親水性により実現が可能であり、例えば、塗料分野においては、雨水中の油性物質が付着しない防汚性塗膜、センサー表面に使用する場合には、特にこれらの物質が特異的に吸着しない表面が所望される。また、強い親水性により、水滴が拡張濡れの状態となる防曇性表面は、この親水性に加えて更に光学的に高い透明度と平滑性が求められる。また、生態適合性に関しては、人工臓器などの医療分野において、血栓、溶血、感作性、抗原抗体反応などを抑制する表面が求められている。更に、親水性による帯電防止能の発現は、特に電子工業分野において重要視される。
【0004】
このような要求を満足させるための表面の親水化方法の一例として、親水性モノマーを表面グラフトする方法が知られている。
具体的な方法としては、炭素−炭素二重結合及び(又は)第3級炭素に結合した水素基を所定量有する親油性樹脂を主成分とする親油性基材表面に親水性ラジカル重合性化合物を塗布し、活性光線を照射して、表面に親水性層を形成する方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。
しかし、表面親水性成形物の製造方法として、上記親水性層は製造が容易であるが、皮膜形成能の低い親水性ラジカル重合性化合物を均一に塗布することはしばしば困難を伴い、表面に塗布むらが生じやすく、親水性が不十分となる懸念があった。
【0005】
そこで、基板表面に光重合開始層(光重合開始剤、モノマー及び/又はオリゴマーからなる)を塗布した下層に、親水性モノマーを接触させた状態で、エネルギーを付与することで該下層の表面に親水性ポリマーをグラフトさせる手法が開発された(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この手法では、光重合開始層中に光重合開始剤がしっかり固定化されていないため、表面グラフト重合を行う際、光重合開始層に含まれる光重合開始剤が親水性モノマーを含有する溶液中に溶け出してしまい、その結果、かかる親水性モノマー溶液中で重合反応が起こり、光重合開始層と結合していないホモポリマーが表面に副生してしまう問題があった。この問題は、食品工業的応用や、生体適合性材料へ応用する際、ホモポリマーが基板より容易に剥離するためコンタミ成分となり、性能に悪い影響を与えるという欠点があった。
【0006】
この問題を解決するために、光重合開始剤を光重合開始層中に固定化する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。これは、光重合開始剤をポリマーに結合させたものを用いる方法である。本発明者等が、このポリマーを基板表面に塗布し、以前と同様にグラフト重合反応を行ったところ、この方法でも親水性モノマーを含有する溶液中に光重合開始剤が結合したポリマー自体が溶けてしまい、以前と同様、光重合開始層と結合していないホモポリマーが表面に副生し、上記問題を改善できなかった。
【0007】
【特許文献1】
特開昭53−17407号公報
【特許文献2】
特開平10−53658号公報
【特許文献3】
特開平11−43614号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、重合開始層中の開始剤成分のモノマー溶液への溶出を防止し、全ての親水性化合物が重合開始層に直接化学結合することで、高い親水性と、その親水性の耐久性に優れた親水性部材を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意検討した結果、下記に示す手段により上記目的が達成されることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の親水性部材は、基材上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層と、
該重合開始層に、重合性基を有する親水性化合物を直接結合してなる親水性層と、
を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推測される。
本発明の親水性部材における重合開始層は、架橋性基、及び、重合開始能を有する官能基を有するポリマーを含み、その架橋性基を用いて架橋反応により固定化されているため、膜性が非常に優れた強固なものとなる。そのため、親水性モノマー溶液や、親水性ポリマーを含有する層を接触させた際に、その溶液や層中に重合開始層中の開始剤成分が溶出することを防止することができると思われる。また、これによりホモポリマーの副生も抑制することができる。したがって、本発明の親水性部材には、所定の領域において、重合開始層の表面に形成された親水性化合物鎖の全てがその末端において該重合開始層に直接化学結合しているグラフト構造(グラフトポリマー)が生成していることになり、高い親水性と、その耐久性が向上するものと思われる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の親水性部材は、基材上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層と、該重合開始層に、重合性基を有する親水性化合物を直接結合してなる親水性層と、を有する。
【0013】
<側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層>
まず、本発明において用いられる側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマー(以下、適宜、特定重合開始ポリマー)について説明する。
この特定重合開始ポリマーは、重合開始能を有する官能基(以下、適宜、重合開始基と称する。)を有する共重合成分と、架橋性基を有する共重合成分と、を含む共重合体であることが好ましい。
【0014】
〔重合開始能を有する官能基を有する共重合成分〕
特定重合開始ポリマーを構成する重合開始基を有する共重合成分としては、以下の重合開始能を有する構造がペンダントされた、ラジカル、アニオン、又はカチオン重合可能な重合性基からなることが好ましい。即ち、この共重合成分は、分子内に、重合可能な重合性基と、重合開始能を有する官能基と、が共に存在する構造を有する。
重合開始能を有する構造としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(k)ピリジウム類化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(k)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
(a)芳香族ケトン類
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(a)芳香族ケトン類としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」J.P.Fouassier,J.F.Rabek(1993),p77−117記載のベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物が挙げられる。例えば、下記化合物が挙げられる。
【0016】
【化1】
【0017】
中でも、特に好ましい(a)芳香族ケトン類の例を以下に列記する。
特公昭47−6416記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981記載のベンゾインエーテル化合物、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0018】
【化2】
【0019】
特公昭47−22326記載のα−置換ベンゾイン化合物、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0020】
【化3】
【0021】
特公昭47−23664記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483記載のジアルコキシベンゾフェノン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0022】
【化4】
【0023】
特公昭60−26403、特開昭62−81345記載のベンゾインエーテル類、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0024】
【化5】
【0025】
特公平1−34242、米国特許第4,318,791号、ヨーロッパ特許0284561A1号記載のα−アミノベンゾフェノン類、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0026】
【化6】
【0027】
特開平2−211452記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0028】
【化7】
【0029】
特開昭61−194062記載のチオ置換芳香族ケトン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0030】
【化8】
【0031】
特公平2−9597記載のアシルホスフィンスルフィド、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0032】
【化9】
【0033】
特公平2−9596記載のアシルホスフィン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0034】
【化10】
【0035】
また、特公昭63−61950記載のチオキサントン類、特公昭59−42864記載のクマリン類等を挙げることもできる。
【0036】
(b)オニウム塩化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(b)オニウム塩化合物としては、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化11】
【0038】
一般式(1)中、Ar1とAr2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。このアリール基が置換基を有する場合の好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Z2)-はハロゲンイオン、過塩素酸イオン、カルボン酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンからなる群より選択される対イオンを表し、好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0039】
一般式(2)中、Ar3は、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、炭素原子数12個以下のアリールオキシ基、炭素原子数12個以下のアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のジアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のアリールアミノ基又は、炭素原子数12個以下のジアリールアミノ基が挙げられる。(Z3)-は(Z2)-と同義の対イオンを表す。
【0040】
一般式(3)中、R23、R24及びR25は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Z4)-は(Z2)-と同義の対イオンを表す。
【0041】
本発明において、好適に用いることのできる(b)オニウム塩化合物の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0030]〜[0033]、特開2001−305734号公報の段落番号[0048]〜[0052]、及び、特開2001−343742公報の段落番号[0015]〜[0046]に記載されたものなどを挙げることができる。
【0042】
(c)有機過酸化物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(c)有機過酸化物としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、その例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)ブタン、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−キサノイルパーオキサイド、過酸化こはく酸、過酸化ベンゾイル、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、メタ−トルオイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ターシャリーブチルパーオキシアセテート、ターシャリーブチルパーオキシピバレート、ターシャリーブチルパーオキシネオデカノエート、ターシャリーブチルパーオキシオクタノエート、ターシャリーブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシラウレート、ターシャリーカーボネート、3,3’4,4’−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カルボニルジ(t−ブチルパーオキシ二水素二フタレート)、カルボニルジ(t−ヘキシルパーオキシ二水素二フタレート)等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、3,3’4,4’−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましく用いられる。
【0044】
(d)チオ化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(d)チオ化合物としては、下記一般式(4)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【0045】
【化12】
【0046】
(一般式(4)中、R26はアルキル基、アリール基又は置換アリール基を示し、R27は水素原子又はアルキル基を示す。また、R26とR27は、互いに結合して酸素、硫黄及び窒素原子から選ばれたヘテロ原子を含んでもよい5員ないし7員環を形成するのに必要な非金属原子群を示す。)
上記一般式(4)におけるアルキル基としては炭素原子数1〜4個のものが好ましい。また、アリール基としてはフェニル、ナフチルのような炭素原子数6〜10個のものが好ましく、置換アリール基としては、上記のようなアリール基に塩素原子のようなハロゲン原子、メチル基のようなアルキル基、メトシキ基、エトキシ基のようなアルコキシ基で置換されたものが含まれる。R27は、好ましくは炭素原子数1〜4個のアルキル基である。一般式(4)で示されるチオ化合物の具体例としては、下記に示すような化合物が挙げられる。
【0047】
【表1】
【0048】
(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、特公昭45−37377号、特公昭44−86516号記載のロフィンダイマー類、例えば、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’−ビス(o,o’−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−メチルフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0049】
(f)ケトオキシムエステル化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(f)ケトオキシムエステル化合物としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0050】
(g)ボレート化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(g)ボレート化合物の例としては、下記一般式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0051】
【化13】
【0052】
(一般式(5)中、R28、R29、R30及びR31は互いに同一でも異なっていてもよく、各々置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアルキニル基、又は置換若しくは非置換の複素環基を示し、R28、R29、R30及びR31はその2個以上の基が結合して環状構造を形成してもよい。ただし、R28、R29、R30及びR31のうち、少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルキル基である。(Z5)+はアルカリ金属カチオン又は第4級アンモニウムカチオンを示す。)
【0053】
上記R28〜R31のアルキル基としては、直鎖、分枝、環状のものが含まれ、炭素原子数1〜18のものが好ましい。具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ステアリル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。また置換アルキル基としては、上記のようなアルキル基に、ハロゲン原子(例えば、−Cl、−Brなど)、シアノ基、ニトロ基、アリール基(好ましくは、フェニル基)、ヒドロキシ基、−COOR32(ここでR32は、水素原子、炭素数1〜14のアルキル基、又はアリール基を示す)、−OCOR33又は−OR34(ここでR33、R34は炭素数1〜14のアルキル基、又はアリール基を示す)、及び下記式で表されるものを置換基として有するものが含まれる。
【0054】
【化14】
【0055】
(式中、R35、R36は独立して水素原子、炭素数1〜14のアルキル基、又はアリール基を示す)
【0056】
上記R28〜R31のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などの1〜3環のアリール基が含まれ、置換アリール基としては、上記のようなアリール基に前述の置換アルキル基の置換基又は、炭素数1〜14のアルキル基を有するものが含まれる。上記R28〜R31のアルケニル基としては、炭素数2〜18の直鎖、分枝、環状のものが含まれ、置換アルケニル基の置換基としては、前記の置換アルキル基の置換基として挙げたものが含まれる。上記R28〜R31のアルキニル基としては、炭素数2〜28の直鎖又は分枝のものが含まれ、置換アルキニル基の置換基としては、前記置換アルキル基の置換基として挙げたものが含まれる。また、上記R28〜R31の複素環基としてはN、S及びOの少なくとも1つを含む5員環以上、好ましくは5〜7員環の複素環基が挙げられ、この複素環基には縮合環が含まれていてもよい。更に置換基として前述の置換アリール基の置換基として挙げたものを有していてもよい。一般式(5)で示される化合物例としては具体的には米国特許3,567,453号、同4,343,891号、ヨーロッパ特許109,772号、同109,773号に記載されている化合物及び以下に示すものが挙げられる。
【0057】
【化15】
【0058】
(h)アジニウム化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(h)アジニウム塩化合物としては、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号並びに特公昭46−42363号記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0059】
(i)活性エステル化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(i)活性エステル化合物としては、特公昭62−6223記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号、特開昭59−174831号記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0060】
(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、下記一般式(6)から(12)のものを挙げることができる。
【0061】
【化16】
【0062】
上記一般式(6)で表される化合物。
(一般式(6)中、X2はハロゲン原子を表わし、Y1は−C(X2)3、−NH2、−NHR38、−NR38、−OR38を表わす。ここでR38はアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を表わす。また、R37は−C(X2)3、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、置換アルケニル基を表わす。)
【0063】
【化17】
【0064】
上記一般式(7)で表される化合物。
(一般式(7)中、R39は、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、X3はハロゲン原子であり、nは1〜3の整数である。)
【0065】
【化18】
【0066】
上記一般式(8)で表される化合物。
(一般式(8)中、R40は、アリール基又は置換アリール基であり、R41は、以下に示す基又はハロゲンであり、Z6は−C(=O)−、−C(=S)−又は−SO2−である。また、X3はハロゲン原子であり、mは1又は2である。)
【0067】
【化19】
【0068】
(式中、R42、R43はアルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基又は置換アリール基であり、R44は一般式(6)中のR38と同じである。)
【0069】
【化20】
【0070】
上記一般式(9)で表される化合物。
(一般式(9)中、R45は置換されていてもよいアリール基又は複素環式基であり、R46は炭素原子1〜3個を有するトリハロアルキル基又はトリハロアルケニル基であり、pは1、2又は3である。)
【0071】
【化21】
【0072】
上記一般式(10)で表わされるトリハロゲノメチル基を有するカルボニルメチレン複素環式化合物。
(一般式(10)中、L7は水素原子又は式:CO−(R47)q(C(X4)3)rの置換基であり、Q2はイオウ、セレン又は酸素原子、ジアルキルメチレン基、アルケン−1,2−イレン基、1,2−フェニレン基又はN−R基であり、M4は置換又は非置換のアルキレン基又はアルケニレン基であるか、又は1,2−アリーレン基であり、R48はアルキル基、アラルキル基又はアルコキシアルキル基であり、R47は炭素環式又は複素環式の2価の芳香族基であり、X4は塩素、臭素又はヨウ素原子であり、q=0及びr=1であるか又はq=1及びr=1又は2である。)
【0073】
【化22】
【0074】
上記一般式(11)で表わされる4−ハロゲノ−5−(ハロゲノメチル−フェニル)−オキサゾール誘導体。
(一般式(11)中、X5はハロゲン原子であり、tは1〜3の整数であり、sは1〜4の整数であり、R49は水素原子又はCH3-tX5 t基であり、R50はs価の置換されていてもよい不飽和有機基である)
【0075】
【化23】
【0076】
上記一般式(12)で表わされる2−(ハロゲノメチル−フェニル)−4−ハロゲノ−オキサゾール誘導体。
(一般式(12)中、X6はハロゲン原子であり、vは1〜3の整数であり、uは1〜4の整数であり、R51は水素原子又はCH3-vX6 v基であり、R52はu価の置換されていてもよい不飽和有機基である。)
【0077】
このような炭素−ハロゲン結合を有する化合物の具体例としては、例えば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42、2924(1969)記載の化合物、例えば、2−フェニル4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−クロルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(2’,4’−ジクロルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−n−ノニル−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロルエチル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン等が挙げられる。その他、英国特許1388492号明細書記載の化合物、例えば、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メチルスチリル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4−アミノ−6−トリクロルメチル−S−トリアジン等、特開昭53−133428号記載の化合物、例えば、2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン、2−(4−エトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン、2−〔4−(2−エトキシエチル)−ナフト−1−イル〕−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン、2−(4,7−ジメトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン)、2−(アセナフト−5−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン等、独国特許3337024号明細書記載の化合物、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0078】
【化24】
【0079】
また、F.C.Schaefer等によるJ.Org.Chem.29、1527(1964)記載の化合物、例えば、2−メチル−4,6−ビス(トリブロムメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロムメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(ジブロムメチル)−S−トリアジン、2−アミノ−4−メチル−6−トリブロムメチル−S−トリアジン、2−メトキシ−4−メチル−6−トリクロルメチル−S−トリアジン等を挙げることができる。更に特開昭62−58241号記載の、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0080】
【化25】
【0081】
更に、特開平5−281728号記載の、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0082】
【化26】
【0083】
或いは更に、M.P.Hutt、E.F.Elslager及びL.M.Herbel著「Journalof Heterocyclic chemistry」第7巻(No.3)、第511頁以降(1970年)に記載されている合成方法に準じて、当業者が容易に合成することができる次のような化合物群、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0084】
【化27】
【0085】
(k)ピリジウム類化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(k)ピリジウム類化合物の例としては、下記一般式(13)で表される化合物を挙げることができる。
【0086】
【化28】
【0087】
(一般式(13)中、好ましくは、R5は水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、又は置換アルキニル基を表し、R6、R7、R8、R9、R10は同一であっても異なるものであってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機残基を表し、少なくとも一つは、下記一般式(14)で表される構造の基を有する。また、R5とR6、R5とR10、R6とR7、R7とR8、R8とR9、R9とR10が互いに結合して環を形成してもよい。更に、Xは対アニオンを表す。mは1〜4の整数を表す。)
【0088】
【化29】
【0089】
(一般式(14)中、R12、R13はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基又は置換アルキニル基を表し、R11は水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基又は置換アミノ基を表す。また、R12とR13、R11とR12、R11とR13が互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を含む2価の連結基を表す。)
【0090】
一般式(13)におけるR5、R6、R7、R8、R9は、より好ましくは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基、置換アミノ基、置換カルボニル基、スルホ基、スホナト基、置換スルフィニル基、置換スルホニル基、ホスフォノ基、置換ホスフォノ基、ホスフォナト基、シアノ基、ニトロ基、シリル基のいずれかであるものを使用することができる。また、R5とR6、R5とR10、R6とR7、R7とR8、R8とR9、R9とR10が互いに結合して環を形成してもよい。
【0091】
次に、一般式(13)における、R5の好ましい例について詳述する。アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、又は置換アルキニル基の好ましい例を以下に示す。
【0092】
アルキル基としては炭素原子数が1から20までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を挙げることができ、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、2−ノルボルニル基等を挙げることができる。これらの中では、炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状、並びに炭素原子数5から10までの環状のアルキル基がより好ましい。
【0093】
置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられ、好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アリールアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基及びその共役塩基基(以下、カルボキシラートと称す)、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)及びその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、N−アシルスルファモイル基及びその共役塩基基、N−アルキルスルホニルスルファモイル基(−SO2NHSO2(alkyl))及びその共役塩基基、N−アリールスルホニルスルファモイル基(−SO2NHSO2(allyl))及びその共役塩基基、N−アルキルスルホニルカルバモイル基(−CONHSO2(alkyl))及びその共役塩基基、N−アリールスルホニルカルバモイル基(−CONHSO2(allyl))及びその共役塩基基、アルコキシシリル基(−Si(Oalkyl)3)、アリーロキシシリル基(−Si(Oallyl)3)、ヒドロキシシリル基(−Si(OH)3)及びその共役塩基基、ホスホノ基(−PO3H2)及びその共役塩基基(以下、ホスホナト基と称す)、ジアルキルホスホノ基(−PO3(alkyl)2)、ジアリールホスホノ基(−PO3(aryl)2)、アルキルアリールホスホノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノ基(−PO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスホナト基と称す)、モノアリールホスホノ基(−PO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスホナト基と称す)、ホスホノオキシ基(−OPO3H2)及びその共役塩基基(以後、ホスホナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスホノオキシ基(−OPO3(alkyl)2)、ジアリールホスホノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスホノオキシ基(−OPO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノオキシ基(−OPO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスホナトオキシ基と称す)、モノアリールホスホノオキシ基(−OPO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスホナトオキシ基と称す)、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0094】
これらの置換基における、アルキル基の具体例としては、前述のアルキル基が挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスホノフェニル基、ホスホナトフェニル基などを挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基、フェニルエチニル基等が挙げられる。
【0095】
上述のアシル基(R4CO−)としては、R4が水素原子及び上記のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基を挙げることができる。
【0096】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状並びに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。
【0097】
好ましい置換アルキル基の具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチル基、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキソエチル基、2−オキソプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルブチル基、エトキシカルボニルメチル基、ブトキシカルボニルメチル基、アリルオキシカルボニルメチル基、ベンジルオキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルフェニルメチル基、トリクロロメチルカルボニルメチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルバモイルメチル基、スルホプロピル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスホノフェニル)スルファモイルオクチル基、
【0098】
【化30】
【0099】
ホスホノブチル基、ホスホナトヘキシル基、ジエチルホスホノブチル基、ジフェニルホスホノプロピル基、メチルホスホノブチル基、メチルホスホナトブチル基、トリルホスホノヘキシル基、トリルホスホナトヘキシル基、ホスホノオキシプロピル基、ホスホナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0100】
アリール基としては1個から3個のベンゼン環が縮合環を形成したもの、ベンゼン環と5員不飽和環が縮合環を形成したものを挙げることができ、具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、アセナブテニル基、フルオレニル基等を挙げることができ、これらの中では、フェニル基、ナフチル基がより好ましい。
【0101】
置換アリール基は、置換基がアリール基に結合したものであり、前述のアリール基の環形成炭素原子上に置換基として、水素を除く一価の非金属原子団を有するものが用いられる。好ましい置換基の例としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びに、先に置換アルキル基における置換基として示したものを挙げることができる。
【0102】
これらの置換アリール基の好ましい具体例としては、ビフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、フルオロフェニル基、クロロメチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、メトキシエトキシフェニル基、アリルオキシフェニル基、フェノキシフェニル基、メチルチオフェニル基、トリルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、エチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、モルホリノフェニル基、アセチルオキシフェニル基、ベンゾイルオキシフェニル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシフェニル基、N−フェニルカルバモイルオキシフェニル基、アセチルアミノフェニル基、N−メチルベンゾイルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、アリルオキシカルボニルフェニル基、クロロフェノキシカルボニルフェニル基、カルバモイルフェニル基、N−メチルカルバモイルフェニル基、N,N−ジプロピルカルバモイルフェニル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルフェニル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルバモイルフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、スルファモイルフェニル基、N−エチルスルファモイルフェニル基、N,N−ジプロピルスルファモイルフェニル基、N−トリルスルファモイルフェニル基、N−メチル−N−(ホスホノフェニル)スルファモイルフェニル基、ホスホノフェニル基、ホスホナトフェニル基、ジエチルホスホノフェニル基、ジフェニルホスホノフェニル基、メチルホスホノフェニル基、メチルホスホナトフェニル基、トリルホスホノフェニル基、トリルホスホナトフェニル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリルフェニル基、2−メチルプロペニルフェニル基、2−プロピニルフェニル基、2−ブチニルフェニル基、3−ブチニルフェニル基等を挙げることができる。
【0103】
アルケニル基としては、上述のものを挙げることができる。置換アルケニル基は、置換基がアルケニル基の水素原子と置き換わり結合したものであり、この置換基としては、上述の置換アルキル基における置換基が用いられ、一方アルケニル基は上述のアルケニル基を用いることができる。好ましい置換アルケニル基の例としては、
【0104】
【化31】
【0105】
等を挙げることができる。
アルキニル基としては、上述のものを挙げることができる。置換アルキニル基は、置換基がアルキニル基の水素原子と置き換わり、結合したものであり、この置換基としては、上述の置換アルキル基における置換基が用いられ、一方アルキニル基は上述のアルキニル基を用いることができる。
【0106】
次に、一般式(13)におけるR6、R7、R8、R9、R10のうちの、一般式(14)で表される構造以外の好ましい例について詳述する。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が好ましい。アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基の好ましい例としては、前述のR5の例として挙げたものを挙げることができる。
【0107】
置換オキシ基(R14O−)としては、R14が水素を除く一価の非金属原子団であるものを用いることができる。好ましい置換オキシ基としては、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、ホスホノオキシ基、ホスホナトオキシ基を挙げることができる。これらにおけるアルキル基、並びにアリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基並びに、アリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができる。また、アシルオキシ基におけるアシル基(R15CO−)としては、R15が、先に挙げたアルキル基、置換アルキル基、アリール基並びに置換アリール基のものを挙げることができる。これらの置換基の中では、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシルオキシ基、アリールスルホキシ基がより好ましい。
【0108】
好ましい置換オキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ベンジルオキシ基、アリルオキシ基、フェネチルオキシ基、カルボキシエチルオキシ基、メトキシカルボニルエチルオキシ基、エトキシカルボニルエチルオキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基、モルホリノエトキシ基、モルホリノプロピルオキシ基、アリロキシエトキシエトキシ基、フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、メシチルオキシ基、クメチルオキシ基、メトキシフェニルオキシ基、エトキシフェニルオキシ基、クロロフェニルオキシ基、ブロモフェニルオキシ基、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ナフチルオキシ基、フェニルスルホニルオキシ基、ホスホノオキシ基、ホスホナトオキシ基等が挙げられる。
【0109】
置換チオ基(R16S−)としてはR16が水素原子を除く一価の非金属原子団のものを使用できる。好ましい置換チオ基の例としては、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アシルチオ基を挙げることができる。これらにおけるアルキル基、アリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びにアリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができ、アシルチオ基におけるアシル基(R15CO−)のR15は前述のとおりである。これらの中ではアルキルチオ基、並びにアリールチオ基がより好ましい。好ましい置換チオ基の具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、エトキシエチルチオ基、カルボキシエチルチオ基、メトキシカルボニルチオ基等が挙げられる。
【0110】
置換アミノ基(R17NH−、(R18)(R19)N−)としては、R17、R18、R19が水素原子を除く一価の非金属原子団のものを使用できる。置換アミノ基の好ましい例としては、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アリールアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基が挙げられる。これらにおけるアルキル基、アリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びにアリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができ、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基におけるアシル基(R15CO−)のR15は前述のとおりである。
【0111】
これらのうち、より好ましいものとしては、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アリールアミノ基、アシルアミノ基が挙げられる。好ましい置換アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピペリジノ基、ピロリジノ基、フェニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、アセチルアミノ基等が挙げられる。
【0112】
置換カルボニル基(R20−CO−)としては、R20が一価の非金属原子団のものを使用できる。置換カルボニル基の好ましい例としては、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N−N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基が挙げられる。これらにおけるアルキル基、アリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びにアリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができる。
【0113】
これらのうち、より好ましい置換基としては、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N’,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基が挙げられ、更により好ましいものとしては、ホルミル基、アシル基、アルコキシカルボニル基並びにアリーロキシカルボニル基が挙げられる。好ましい置換カルボニル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、N−メチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、モルホリノカルボニル基等が挙げられる。
【0114】
置換スルフィニル基(R21−SO−)としてはR21が一価の非金属原子団のものを使用できる。好ましい例としては、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基が挙げられる。これらにおけるアルキル基、アリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びにアリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができる。これらのうち、より好ましい例としてはアルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基が挙げられる。このような置換スルフィニル基の具体例としては、ヘキシルスルフィニル基、ベンジルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等が挙げられる。
【0115】
置換スルホニル基(R25−SO2−)としては、R25が一価の非金属原子団のものを使用できる。より好ましい例としては、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を挙げることができる。これらにおけるアルキル基、アリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びにアリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができる。このような、置換スルホニル基の具体例としては、ブチルスルホニル基、クロロフェニルスルホニル基等が挙げられる。
【0116】
スルホナト基(SO3 -)は前述のとおり、スルホ基(−SO3H)の共役塩基陰イオン基を意味し、通常は対陽イオンと共に使用されるのが好ましい。このような対陽イオンとしては、一般に知られるもの、すなわち、種々のオニウム類(アンモニウム類、スルホニウム類、ホスホニウム類、ヨードニウム類、アジニウム類等)、並びに金属イオン類(Na+、K+、Ca2+、Zn2+等)が挙げられる。
【0117】
置換ホスホノ基とはホスホノ基上の水酸基の一つ若しくは二つが他の有機オキソ基によって置換されたものを意味し、好ましい例としては、前述のジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、アルキルアリールホスホノ基、モノアルキルホスホノ基、モノアリールホスホノ基が挙げられる。これらの中ではジアルキルホスホノ基、並びにジアリールホスホノ基がより好ましい。このような具体例としては、ジエチルホスホノ基、ジブチルホスホノ基、ジフェニルホスホノ基等が挙げられる。
【0118】
ホスホナト基(−PO3 2-、−PO3H-)とは前述のとおり、ホスホノ基(−PO3H2)の、酸第一解離若しくは、酸第二解離に由来する共役塩基陰イオン基を意味する。通常は対陽イオンと共に使用されるのが好ましい。このような対陽イオンとしては、一般に知られるもの、すなわち、種々のオニウム類(アンモニウム類、スルホニウム類、ホスホニウム類、ヨードニウム類、アジニウム類等)、並びに金属イオン類(Na+、K+、Ca2+、Zn2+等)が挙げられる。
【0119】
置換ホスホナト基とは前述の置換ホスホノ基の内、水酸基を一つ有機オキソ基に置換したものの共役塩基陰イオン基であり、具体例としては、前述のモノアルキルホスホノ基(−PO3H(alkyl))、モノアリールホスホノ基(−PO3H(aryl)の共役塩基を挙げることができる。通常は対陽イオンと共に使用されるのが好ましい。このような対陽イオンとしては、一般に知られるもの、すなわち、種々のオニウム類(アンモニウム類、スルホニウム類、ホスホニウム類、ヨードニウム類、アジニウム類等)、並びに金属イオン類(Na+、K+、Ca2+、Zn2+等)が挙げられる。
【0120】
シリル基((R23)(R24)(R25)Si−)としては、R23、R24、R25が一価の非金属原子団のものを使用できるが、好ましい例としては前述のアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基のものを挙げることができる。好ましいシリル基の例としては、トリメチルシリル基、トリブチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等を挙げることができる。
【0121】
以上に、挙げたR6、R7、R8、R9、R10の例の内、より好ましいものとしては、水素原子、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、−I)、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、置換オキシ基、置換チオ基、置換アミノ基、置換カルボニル基、スルホ基、スルホナト基、シアノ基が挙げられ、更により好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換カルボニル基を挙げることができる。
【0122】
次に、R5とR6、R5とR10、R6とR7、R7とR8、R8とR9、R9とR10が互いに結合して環を形成する場合の例を示す。このような例としては、R5とR6、R5とR10、R6とR7、R7とR8、R8とR9、R9とR10が互いに結合して飽和、若しくは不飽和の脂肪族環を形成するものを挙げることができ、好ましくは、これが結合している炭素原子と共同して、5員環、6員環、7員環及び8員環の脂肪族環を形成するものを挙げることができる。更に、より好ましくは、5員環、6員環の脂肪族環を挙げることができる。また、これらは更に、これらを構成する炭素原子上に置換基を有していてもよく(置換基の例としては、先にR8、R11の例として挙げた、置換アルキル基における置換基の例を挙げることができる)、また、環構成炭素の一部が、ヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換されていてもよい。また更に、この脂肪族環の一部が芳香族環の一部を形成していてもよい。これらの好ましい具体例としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロ−1,3−ジオキサペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環、シクロ−1,3−ジオキサペンテン環、シクロ−1,3−ジオキサヘキセン環、シクロヘキサジエン環、ベンゾシクロヘキセン環、ベンゾシクロヘキサシエン環、テトラヒドロピラノン環等を挙げることができる。
【0123】
次に、R6とR7、R7とR8、R8とR9、R9とR10が互いに結合して芳香族環を形成する例としては、これらが結合する炭素原子を含むピリジン環と協同して、キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環、フェナントリジン環、ベンズキノリン環、ベンズイソキノリン環をなすものを挙げることができ、より好ましくはキノリン環をなすものが挙げられる。また、これらは構成する炭素原子上に置換基を有していてもよい(置換基の例としては、前述の置換アルキル基上の置換基を挙げることができる)。
【0124】
次に、一般式(14)におけるR12、R13の好ましい例について詳述する。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が好ましい。アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、並びに置換アルキニル基の好ましい例としては、前述のR5の例として挙げたものを挙げることができる。R12、R13のより好ましいものは、水素原子、アルキル基である。
【0125】
次に、一般式(14)におけるR11の好ましい例について詳述する。アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基、並びに置換アミノ基の好ましい例としては、前述のR5、R6、R7、R8、R9、R10の例として挙げたものを挙げることができる。R11のより好ましいものは、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基である。
【0126】
また、R12とR13、R11とR12、R11とR13が互いに結合して飽和又は不飽和の脂肪族環を形成してもよく、好ましくは、これが結合している炭素原子と共同して、5員環、6員環、7員環及び8員環の脂肪族環を形成するものを挙げることができる。更に、より好ましくは、5員環、6員環の脂肪族環を挙げることができる。また、これらは更に、これらを構成する炭素原子上に置換基を有していてもよく(置換基の例としては、先に挙げた、置換アルキル基における置換基の例を挙げることができる)、また、環構成炭素の一部が、ヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換されていてもよい。また更に、この脂肪族環の一部が芳香族環の一部を形成していてもよい。これらの好ましい具体例としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロ−1,3−ジオキサペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環、シクロ−1,3−ジオキサペンテン環、シクロ−1,3−ジオキサヘキセン環、シクロヘキサジエン環、ベンゾシクロヘキセン環、ベンゾシクロヘキサジエン環、ペルヒドロピラノン環等を挙げることができる。
【0127】
次に、一般式(14)におけるLについて説明する。Lはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、具体的には以下の部分構造を有するものである。
【0128】
【化32】
【0129】
ここで、「以下の部分構造を有する」とは、連結基、或いは末端基としてのLが上記部分構造を少なくとも1つ有することを意味し、上記部分構造を複数有するものであってもよい。従って、Lは、上記部分構造自体であってもよく、更にこれらを複数個連結した基、或いは、上記部分構造と他の炭化水素基等をとを連結した基等であってもよい。特に好ましいL’の具体例としては、以下に示す構造が挙げられる。
【0130】
【化33】
【0131】
次に、一般式(13)における対アニオンXm-の好ましい例について詳述する。Xm-の好ましい例としては、ハロゲン化物イオン(F-、Cl-、Br-、I-)、スルホン酸イオン、有機ホウ素アニオン、過塩素酸イオン(ClO4 -)並びに一般式(a)又は(b)で表されるアニオンが挙げられる。
【0132】
MXr (a)
MXr-1(OH) (b)
(一般式(a)、(b)中、Mは、ホウ素原子、リン原子、砒素原子、又はアンチモン原子を表し、Xは、ハロゲン原子を表し、rは4〜6の整数を表す。)
【0133】
スルホン酸イオンの好ましい例としては、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン(TsO−)、p−スチレンスルホン酸イオン、β−ナフトキノン−4−スルホン酸イオン、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸イオン、アントラキノン−1,8−ジスルホン酸イオン、アントラキノン−1−スルホン酸イオン、アントラキノン−2−スルホン酸イオン、キノリン−8−スルホン酸イオン、ヒドロキノンスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、1−ナフタレンスルホン酸イオン、2−ナフタレンスルホン酸イオン、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸イオン、2−ナフトール−6−スルホン酸イオン、ジブチルナフタレンスルホン酸イオン、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸イオン、m−ベンゼンジスルホン酸イオン、p−フェノールスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸イオン、4−アセチルベンゼンスルホン酸イオン、4−ニトロトルエン−2−スルホン酸イオン、o−ベンズアルデヒドスルホン酸イオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン、ベンズアルデヒド−2,4−ジスルホン酸イオン、メシチレンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、クロロスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホン酸イオン等が挙げられる。
【0134】
以下に、一般式(13)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
【化34】
【0139】
【化35】
【0140】
【表5】
【0141】
【表6】
【0142】
【表7】
【0143】
【表8】
【0144】
【表9】
【0145】
これらの重合開始能を有する構造の中でも、下記に示す構造を有する芳香族ケトン類やトリアジン類が重合性基にペンダントされていることが好ましい。
【0146】
【化36】
【0147】
また、このような重合開始能を有する構造は、1種のみが重合性基にペンダントされていてもよいし、2種以上がペンダントされていてもよい。
【0148】
これらの重合開始能を有する構造をペンダントする重合性基としては、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基などラジカル、アニオン、カチオン重合できる重合性基が挙げられる。中でも、特に好ましいのは合成のし易さよりアクリル基、メタクリル基が好ましい。
【0149】
本発明における重合開始能を有する官能基を有する共重合成分の具体例としては、以下に示す構造のモノマーが挙げられる。
【0150】
【化37】
【0151】
〔架橋性基を有する共重合成分〕
本発明における特定重合開始ポリマーを構成する架橋性基を有する共重合成分としては、例えば、山下信二編「架橋剤ハンドブック」に掲載されているような従来公知の架橋性基(架橋反応に用いられる構造を有する官能基)がペンダントされた、ラジカル、アニオン、又はカチオン重合可能な重合性基からなることが好ましい。即ち、この共重合成分は、分子内に、重合可能な重合性基と、架橋性基と、が共に存在する構造を有する。
【0152】
これらの従来公知の架橋性基の中でも、カルボン酸基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH2)、イソシアネート基(−NCO)が重合性基にペンダントされていることが好ましい。
また、このような架橋性基は、1種のみが重合性基にペンダントされていてもよいし、2種以上がペンダントされていてもよい。
【0153】
これらの架橋性基をペンダントする重合性基としては、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基などラジカル、アニオン、カチオン重合できる重合性基が挙げられる。中でも、特に好ましいのは合成のし易さよりアクリル基、メタクリル基が好ましい。
【0154】
本発明における架橋性基を有する共重合成分の具体例としては、以下に示す構造のモノマーが挙げられる。
【0155】
【化38】
【0156】
〔その他の共重合成分〕
本発明における特定重合開始ポリマーには、重合開始層の親/疎水性制御等のために、以下に示すような第3の共重合成分を用いてもよい。
この第3の共重合成分としては、ラジカル、アニオン、又はカチオン重合可能な化合物ならいかなる化合物も用いることができる。また、開始剤成分としてベンゾフェノン類などの水素引き抜きにより重合が開始する系では、共重合性成分としてイソプロピルメタクリレートをいれると、開始効率が上昇する。また、この第3の共重合成分は2種類以上用いてもよい。
【0157】
本発明における特定重合開始ポリマーにおいて、重合開始基を有する共重合成分(A)と、架橋性基を有する共重合成分(B)と、の共重合モル比としては、(A)が5モル%以上、かつ、(B)が10モル%以上であることが好ましく、(A)が5〜50モル%、かつ、(B)30〜70モル%であることがより好ましく、(A)が10〜20モル%、かつ、(B)30〜40モル%であることが更に好ましい。ここで、重合開始基が5モル%よりも少ない場合、重合開始機能が制限されるため重合性が低くなってしまう場合がある。また、架橋性基が10モル%よりも少ない場合、重合開始層がモノマー溶液に溶解しやすくなる場合がある。
【0158】
また、本発明における特定重合開始ポリマーの重量平均分子量は、1万〜1000万であることが好ましく、1万〜500万であることがより好ましく、10万〜100万であることが更に好ましい。本発明における特定重合開始ポリマーの重量平均分子量が1万より小さいと、重合開始層がモノマー溶液に溶解しやすくなる場合がある。
【0159】
これら上述の共重合成分を、共重合させることで本発明における特定重合開始ポリマーを合成することができる。
以上、本発明における特定重合開始ポリマーについて説明したが、特定重合開始ポリマーが共重合により合成されることに限定されるわけではなく、例えば、側鎖に重合開始基を有するポリマーを合成し、その後、そのポリマー内に、適量の架橋性基を導入することで、本発明における特定重合開始ポリマーを合成してもよい。
【0160】
〔特定重合開始ポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層〕
本発明において、特定重合開始ポリマーを架橋反応により固定化する方法としては、特定重合開始ポリマーの自己縮合反応を使用するの方法、及び架橋剤を併用する方法があり、架橋剤を用いることが好ましい。特定重合開始ポリマーの自己縮合反応を使用するの方法としては、例えば、架橋性基が−NCOである場合、熱をかけることにより自己縮合反応が進行する性質を利用したものである。この自己縮合反応が進行することにより、架橋構造を形成することができる。
【0161】
また、架橋剤を併用する方法に用いられる架橋剤としては、特定重合開始ポリマー中の架橋性基との組み合わせを考慮すれば、山下信二編「架橋剤ハンドブック」に掲載されているような従来公知のものを用いることができる。
特定重合開始ポリマー中の架橋性基と架橋剤との好ましい組み合わせとしては、(架橋性基,架橋剤)=(−COOH,多価アミン)、(−COOH,多価アジリジン)、(−COOH,多価イソシアネート)、(−COOH,多価エポキシ)、(−NH2,多価シソシアネート)、(−NH2,アルデヒド類)、(−NCO,多価アミン)、(−NCO,多価イソシアネート)、(−NCO,多価アルコール)、(−NCO,多価エポキシ)、(−OH,多価アルコール)、(−OH,多価ハロゲン化化合物)、(−OH,多価アミン)、(−OH,酸無水物)が挙げられる。中でも、架橋の後にウレタン結合が生成し、高い強度の架橋が形成可能であるという点で、(官能基,架橋剤)=(−OH,多価イソシアネート)が、更に好ましい組み合わせである。
【0162】
本発明における架橋剤の具体例としては、以下に示す構造のものが挙げられる。
【0163】
【化39】
【0164】
このような架橋剤は、重合開始層の成膜の際、上述の特定重合開始ポリマーを含有する塗布液に添加される。その後、塗膜の加熱乾燥時の熱により、架橋反応が進行し、強固な架橋構造を形成することができる。より詳細には、下記のex1.で示される脱水反応やex2.で示される付加反応により架橋反応が進行し、架橋構造が形成される。
【0165】
【化40】
【0166】
また、塗布液中の架橋剤の添加量としては、特定重合開始ポリマー中に導入されている架橋性基の量により変化するが、通常、架橋性基のモル数に対して0.01〜50当量であることが好ましく、0.01〜10当量であることがより好ましく、0.5〜3当量であることが更に好ましい。架橋剤の添加量がこの上限値より少ない場合、架橋度合が低くなり、重合開始層がモノマー溶液に溶解しやすくなる。また、架橋剤の添加量がこの上限値より多い場合、未反応の架橋成分が重合開始層中に残留し、モノマー溶液に溶出するなどして重合反応に悪影響を与える。
【0167】
〔基材〕
本発明の親水性部材に用いられる基材としては、親水性部材の用途に適したものを選択すればよい。
より具体的には、基材としては、親水性部材に防曇効果を期待する場合には透明な基材を選択すればよく、その材質はガラス、プラスチック等が好適に利用できる。防曇効果を有する部材が適用可能な用途としては、車両用バックミラー、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡のような鏡;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズのようなレンズ;プリズム;建物や監視塔の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、オートバイ、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の風防ガラス;防護用ゴーグル、スポーツ用ゴーグル、防護用マスクのシールド、スポーツ用マスクのシールド、ヘルメットのシールド、冷凍食品陳列ケースのガラス;計測機器のカバーガラス、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
【0168】
また、本発明の親水性部材に表面清浄化効果を期待する場合には、その基材は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。表面清浄化効果を有する部材が適用可能な用途としては、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用防音壁、鉄道用防音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
【0169】
更に、本発明の親水性部材に帯電防止効果を期待する場合には、その材質は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、それらの組合せ、それらの積層体が好適に利用できる。帯電防止効果を有する部材が適用可能な用途としては、ブラウン管、磁気記録メディア、光記録メディア、光磁気記録メディア、オーディオテープ、ビデオテープ、アナログレコード、家庭用電気製品のハウジングや部品や外装及び塗装、OA機器製品のハウジングや部品や外装及び塗装、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
【0170】
本発明においては、基材は高分子樹脂からなる表面を有するものが好ましく、このような基材は、樹脂自体、表面に樹脂が被覆されているもの、表面層が樹脂層からなる複合材のいずれをもを含む。
樹脂自体としては、飛散防止フィルム、意匠性フィルム、耐蝕性フィルム等のフィルム基材;看板、高速道路の防音壁等の樹脂基材などが代表例として挙げられる。
表面に樹脂が被覆されている基材としては、自動車筐体、塗装建材等の塗装板、表面に樹脂フィルムが貼着された積層板、プライマー処理した基材、ハードコート処理した基材などが代表例として挙げられる。
表面層が樹脂層からなる複合材としては、裏面に接着剤層が設けられた樹脂シール材、反射ミラー、などが代表例として挙げられる。
【0171】
〔重合開始層の成膜〕
本発明における重合開始層は、上述のように用途を選択された基材上に、特定重合開始ポリマーを適当な溶剤に溶解し、調製した塗布液を塗布などにより配置し、溶剤を除去し、架橋反応が進行することにより成膜する。
【0172】
(溶媒)
重合開始層を塗布する際に用いる溶媒は、上述の特定重合開始ポリマーが溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50重量%が適当である。
【0173】
重合開始層の塗布量は、乾燥後の重量で、0.1〜20g/m2が好ましく、更に、1〜15g/m2が好ましい。塗布量0.lg/m2未満では十分な重合開始能を発現できず、グラフト重合が不十分となり、所望の強固なグラフト構造が得られない懸念があり、塗布量が20g/m2を超えると膜性が低下する傾向になり、膜剥がれを起こしやすくなるため、いずれも好ましくない。
【0174】
<重合開始層に、重合性基を有する親水性化合物を直接結合してなる親水性層>まず、上記重合開始層に、重合性基を有する親水性化合物を直接結合してなる親水性層の作成方法について説明する。
〔グラフト重合〕
本発明に係る親水性層の作成には、一般的に表面グラフト重合と呼ばれる手段を用いる。グラフト重合とは高分子化合物鎖上に活性種を与え、これによって重合を開始する別の単量体を更に結合及び重合させ、グラフト(接ぎ木)重合体を合成する方法で、特に活性種を与える高分子化合物が固体表面を形成する時には表面グラフト重合と呼ばれる。また、本発明におけるグラフト重合は、高分子化合物鎖上の活性種に、所望のポリマーを結合させてなるグラフト重合体を合成する方法も含むものである。本発明においては、活性種が与えられる高分子化合物が、上述の特定重合開始ポリマーとなる。
【0175】
グラフト重合は、通常、基材を構成するPETなどの高分子表面を直接、プラズマ、若しくは電子線にて処理し、表面にラジカルを発生させて重合開始能を発現させ、その後、その活性表面と親水性官能基を有するモノマーとを反応させることによりグラフトポリマー表面層、即ち、親水性層を得ることができる。本発明においては、基材表面に予め重合開始層を形成するため、このような活性点の形成が低エネルギーで容易に行うことができ、且つ、生成する活性点も多いため、簡易な方法により、より高い親水性を有する表面を形成することができる。
【0176】
〔重合開始層に活性種を与えるためのエネルギー付与〕
重合開始層、すなわち、該重合開始層を構成する特定重合開始ポリマーに、活性種を与えるためのエネルギー付与方法には特に制限はなく、重合開始層中の重合開始基を活性化させ、その活性種に重合性基を有する親水性化合物を結合(及び重合)させ得るエネルギーを付与できる方法であれば、例えば、サーマルヘッドによる加熱、露光等の活性光線照射により書き込みなど、いずれも使用できるが、コスト、装置の簡易性の観点からは活性光線を照射する手段を用いることが好ましい。
即ち、エネルギー付与に使用し得る活性光線としては、紫外線、可視光、赤外光が挙げられるが、これらの活性光線の中でも、紫外線、可視光が好ましく、重合速度に優れるという点から紫外線が特に好ましい。活性光線の主たる波長が250nm以上800nm以下であることが好ましい。
光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、蛍光ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、タングステン白熱ランプ、太陽光などがあげられる。
活性光線の照射の所要時間は目的とする親水化度及び使用する光源により異なるが、通常数秒〜24時間である。
【0177】
以下、本発明におけるグラフト重合を用いた親水性層の作成方法について説明する。
グラフト重合を用いた親水性層の作成方法としては、大別すると、
1.上述の重合開始層上に、重合性基を有する親水性ポリマーを含有する上層を設け、その後、光照射を行い重合開始層に該親水性ポリマーを結合させる方法。
2.上述の重合開始層を備える基材を、重合性基を有する親水性化合物溶液に浸漬し、光照射を行い重合開始層に該親水性化合物を結合及び重合させる方法。
とがある。
【0178】
「1.重合開始層上に、重合性基を有する親水性ポリマーを含有する上層を設け、その後、光照射を行い重合開始層に該親水性ポリマーを結合させる方法」
この方法では、基材上に形成された前記重合開始層(以下、下層を称する場合がある。)上に、重合性基を有する親水性ポリマーを含有する上層(以下、適宜、単に上層と称する。)を配置し、その後、光照射を行い、重合開始層に活性種を生成させ、その活性種に対し該親水性ポリマーを直接結合させて、親水性層を形成するものである。
【0179】
(重合性基を有する親水性ポリマー)
上層に含まれる重合性基を有する親水性ポリマーとは、分子内に、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基が導入されたラジカル重合性基含有親水性ポリマーを指し、このラジカル重合性基含有親水性ポリマーは、重合性基を主鎖末端及び/又は側鎖に有することを要し、その双方に重合性基を有することが好ましい。以下、重合性基を(主鎖末端及び/又は側鎖に)有する親水性ポリマーを、ラジカル重合性基含有親水性ポリマーと称する。
【0180】
このようなラジカル重合性基含有親水性ポリマーは以下のようにして合成することができる。
合成方法としては、(a)親水性モノマーとエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーを共重合する方法、(b)親水性モノマーと二重結合前駆体を有するモノマーを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、(c)親水性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法、が挙げられる。これらの中でも、特に好ましいのは、合成適性の観点から、親水性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法である。
【0181】
また、ラジカル重合性基含有親水性ポリマーの合成に用いられる親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基及びエーテル基などの親水性基を有するモノマーが挙げられる。
上層を構成するラジカル重合性基含有親水性ポリマーとしては、これらの親水性モノマーから選ばれる少なくとも一種を用いて得られる親水性ホモポリマー若しくはコポリマーが挙げられる。
【0182】
(a)の方法でラジカル重合性基含有親水性ポリマーを合成する際、親水性モノマーと共重合するエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、アリル基含有モノマーがあり、具体的には、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートが挙げられる。
また、(b)の方法でラジカル重合性基含有親水性ポリマーを合成する際、親水性モノマーと共重合する二重結合前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜が挙げられる。
【0183】
更に、(c)の方法でラジカル重合性基含有親水性ポリマーを合成する際、親水性ポリマー中のカルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩と、水酸基及びエポキシ基などの官能基と、の反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルユーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなど挙げられる。
【0184】
また、上層に含まれるラジカル重合性基含有親水性ポリマーが、親水性マクロモノマーであってもよい。本発明において用いられるマクロモノマーの製造方法は、例えば、平成1年9月20日にアイピーシー出版局発行の「マクロモノマーの化学と工業」(編集者 山下雄也)の第2章「マクロモノマーの合成」に各種の製法が提案されている。
本発明で用いられる親水性マクロモノマーで特に有用なものとしては、アクリル酸、メタクリル酸などのカルホキシル基含有のモノマーから誘導されるマクロモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルステレンスルホン酸、及びその塩のモノマーから誘導されるスルホン酸系マクロモノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルボン酸アミドモノマーから誘導されるアミド系マクロモノマー、ヒドロキシエチルメタクリレー卜、ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレートなどの水酸基含有モノマーから誘導されるマクロモノマー、メトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシ基若しくはエチレンオキシド基含有モノマーから誘導されるマクロモノマーである。またポリエチレングリコール鎖若しくはポリプロピレングリコール鎖を有するモノマーも本発明のマクロモノマーとして有用に使用することができる。
これらの親水性マクロモノマーのうち有用なものの分子量は、250〜10万の範囲で、特に好ましい範囲は400〜3万である。
【0185】
また、上層の形成にあたって、上記ラジカル重合性基含有親水性ポリマーの他に、更に、親水性モノマーを添加してもよい。親水性モノマーを添加することにより、重合開始層と結合したラジカル重合性基含有親水性ポリマー(グラフト鎖)の側鎖の重合性基に、更に親水性グラフト鎖が結合することで、枝分かれ構造を有するグラフト鎖が形成される。これにより、運動性が高い親水性グラフトの形成密度、運動性ともに飛躍的に向上するため、更なる高い親水性が発現するものである。
この親水性モノマーの添加量は上層の全固形分に対し、0〜60重量%が好ましい。60重量%以上では塗布性が悪く均一に塗布できないので不適である。
【0186】
(親水性モノマー)
上層を形成する際、ラジカル重合性基含有親水性ポリマーと併用するのに有用な、親水性モノマーとしては、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有するモノマー、若しくは、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有するか負の荷電に解離しうる酸性基を有するモノマーが挙げられるが、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性の基を有する親水性モノマーを用いることもできる。
本発明において、ラジカル重合性基含有親水性ポリマーとの併用に、特に有用な親水性モノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。
【0187】
例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン酸塩、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスチレンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチレン(メタ)アクリレート、3―スルホプロピレン(メタ)アクリレー卜若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキンエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基若しくはそれらの塩、2−トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレート若しくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基若しくはそれらの塩、などを使用することができる。また2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N―ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メタクリロイルオキシエナルカルバミン酸アスパラギン酸の如き分子中にアミノ酸骨格を有するモノマー、グリコキシエチルメタクリレートの如き分子中に糖骨格を有するモノマーなども有用である。
【0188】
(上層組成物用溶媒)
本発明において上層形成用の組成物に使用する塗布溶剤は、上層の主成分である前記ラジカル重合性基含有親水性ポリマーや親水性モノマーなどが溶解可能ならば特に制限はないが、水、水溶性溶剤などの水性溶剤が好ましく、これらの混合物や、溶剤に更に界面活性剤を添加したものなどが好ましい。
水溶性溶剤は、水と任意の割合で混和しうる溶剤を言い、そのような水溶性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリンの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトンの如きケトン系溶剤、ホルムアミドの如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0189】
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0190】
上層の塗布量は固形分換算で0.1〜10g/m2であることが好ましく、特に1〜5g/m2であることが好ましい。塗布量が0.lg/m2未満では、作製された親水性部材が十分な表面親水性を得ることができず、また、10g/m2を超えると均一な塗布膜が得にくいため、いずれも好ましくない。
【0191】
「2.上述の重合開始層を備える基材を、重合性基を有する親水性化合物溶液に浸漬し、光照射を行い重合開始層に該親水性化合物を結合及び重合する方法」
この方法では、基材上に形成された前記重合開始層を、重合性基を有する親水性化合物溶液に浸漬し、その後、光照射を行い、重合開始層に活性種を生成させ、その活性種に対し該親水性化合物を直接結合及び重合させて、親水性層を形成するものである。
なお、この方法で用いられる親水性化合物としては、下記に示す重合性基を有する親水性モノマーに加え、上記1.の方法にて用いられた重合性基を有する親水性ポリマー(親水性マクロマーを含む)を用いることができる。なお、親水性化合物として重合性基を有する親水性ポリマーを用いる場合、重合開始層に結合する際に、必ずしも重合反応を必要とするものではない。
【0192】
(重合性基を有する親水性モノマー)
この方法に用いられる重合性基を有する親水性モノマー(以下、重合性親水性モノマーと称する。)とは、分子内に、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基が導入され、かつ、親水性官能基を有するモノマーである。
この重合性親水性モノマーが有する親水性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、アミノ基及びその塩、アミド基、水酸基、エーテル基、ポリオキシエチレン基などを挙げることができる。
【0193】
本発明において特に有用な親水性官能基を有する重合性親水性モノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン酸塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスチレンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチレン(メタ)アクリレート、3−スルホプロピレン(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基若しくはそれらの塩、2−トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレート若しくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基若しくはそれらの塩、などである。
【0194】
(重合性基を有する親水性化合物溶液用溶媒)
この重合性親水性モノマー溶液に用いられる塗布溶剤は、重合性親水性モノマーを含む親水性化合物が溶解可能ならば特に制限はないが、水、水溶性溶剤などの水性溶剤が好ましく、これらの混合物や、溶剤に更に界面活性剤を添加したものなどが好ましい。
水溶性溶剤は、水と任意の割合で混和しうる溶剤を言い、そのような水溶性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリンの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトンの如きケトン系溶剤、ホルムアミドの如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0195】
上述のようにして形成された親水性層は、それを構成する親水性化合物がグラフト鎖として重合開始層と直接結合しているものであるため、優れた親水性を示すと共に、その親水性の耐久性にも優れたものとなる。
本発明における「優れた親水性」とは、水との接触角に換算して20゜以下の水濡れ性を呈する状態をいう。接触角の測定方法は、公知の方法が適用でき、例えば、協和界面科学(株)製、CA−Zなどの市販の装置を用いて接触角(空中水滴)を測定する方法などを適用することができる。この方法で、接触角に換算して20゜以下であれば、本発明の好ましい親水性が達成されていると判断することができる。
【0196】
本発明の親水性部材によれば、任意の基材表面に比較的簡易な処理での優れた親水性表面を有する親水性部材を形成することが可能であり、更には、その親水性の耐久性が良好であるため、先に述べたような多用な目的に好適に使用しうるという利点を有する。
【0197】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
〔実施例1〕
(特定重合開始ポリマーの合成)
300mlの三口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG)30gを加え75度に加熱した。そこに、[2−(Acryloyloxy)ethyl](4−benzoylbenzyl)dimethyl ammonium bromide8.1gと、2−Hydroxyethylmethaacrylate9.9gと、isopropylmethaacrylate13.5gと、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.43gと、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG)30gと、の溶液を2.5時間かけて滴下した。その後、反応温度を80度に上げ、更に2時間反応させ、下記特定重合開始ポリマーAを得た。
【0198】
【化41】
【0199】
(重合開始層の形成)
膜厚0.188mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名:M4100、東洋紡社製)を基材として用い、その表面に下記の重合開始層塗布液をロッドバー18番を用いて塗布し、110℃で10分乾燥・架橋反応させた。得られた重合開始層の膜厚は9.3μmであった。
【0200】
(重合開始層塗布液)
・上記特定重合開始ポリマーA 0.4g
・TDI(トリレン−2,4−ジイソシアネート) 0.16g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG) 1.6g
【0201】
(重合性基を持つ親水性ポリマーの合成)
ポリアクリル酸(平均分子量25,000)18g、をDMAC300gに溶解し、ハイドロキノン0.41g、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート19.4g、とジブチルチンジラウレート0.25gを添加し、65℃、4時間反応させた。得られたポリマーの酸価は7.02meq/gであった。1N水酸化ナトリウム水溶液でカルボキシル基を中和し、酢酸エチルに加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄し側鎖に重合性基を持つ親水性ポリマー18.4g(P−1)を得た。
【0202】
(上層の形成)
上記重合開始層が形成された基材上に、以下の上層形成用塗布液組成物1をロッドバー6番を用いて塗布し、80℃で2分乾燥後した。前記塗布液組成物1の塗布面状は均一であった。
重合開始層及び上層が形成された基材表面に以下のようにエネルギーを付与し、親水性部材を作製した。
エネルギー付与は、アルゴン雰囲気下で400W高圧水銀灯(UVL−400P,理工科学産業(株)製)を使用し、80分間光照射することにより実施した。光照射後、得られたフィルムをイオン交換水でよく洗浄することによりハイパーブランチ構造の親水性グラフト鎖を持つ親水性部材1を得た。
【0203】
(上層形成用塗布液組成物1)
・側鎖に重合性基を有する親水性ポリマー(P−1) 2g
・水 18g
【0204】
得られた親水性部材1の表面平滑性を目視で観察したところ、平滑性は良好であった。表面親水性を、協和界面科学(株)製CA−Zを用いて測定したところ、接触角(空中水滴接触角)は15.0°であり、親水性に優れていることが確認された。
また、得られた親水性部材1を、1ヶ月間、水に浸漬し、その後、グラフト構造が形成されている面の擦り洗いを行った。その結果、浸漬前後で全く重量変化はみられなかった。
【0205】
〔実施例2〕
実施例1において用いた上層形成用塗布液組成物1を、下記に示す上層形成用塗布液組成物2に代えた以外は、実施例1と同様にして、親水性部材2を得た。
【0206】
(末端重合性基を持つアミドマクロモノマーの合成)
アクリルアミド30g、3−メルカプトプロピオン酸3.8gをエタノール70gに溶解後、窒素雰囲気下60℃に昇温し、AIBN(2,2−アゾビスイソブチルニトリル)300mgを加えて6時間反応した。反応後白色沈殿を濾過しメタノールで十分洗浄し末端カルボン酸プレポリマーを30.8g得た(酸価0.787meq/g、分子量1.29×103)。
前記プレポリマー20gをジメチルスルホキシド62gに溶解し、グリシジルメタクリレート6.71g、N,N−ジメチルドデシルアミン(触媒)504mg、ハイドロキノン(重合禁止剤)62.4mgを加え、窒素雰囲気下140℃で7時間反応した。反応溶液をアセトンに加え、ポリマーを沈殿させ、よく洗浄して末端メタクリレートマクロモノマーを23.4g(分子量1.43×103)得た(P−2)。
【0207】
(上層形成用塗布液組成物2)
・アクリルアミドマクロモノマー(P−2) 2g
・水 18g
【0208】
得られた親水性部材2の表面平滑性を目視で観察したところ、平滑性は良好であった。表面親水性を、協和界面科学(株)製CA−Zを用いて測定したところ、接触角(空中水滴接触角)は18.0°であり、親水性に優れていることが確認された。
また、得られた親水性部材2を、1ヶ月間、水に浸漬し、その後、グラフト構造が形成されている面の擦り洗いを行った。その結果、浸漬前後で全く重量変化はみられなかった。
【0209】
〔実施例3〕
実施例1において用いた重合開始層が形成された基材を、アクリル酸Na(10wt%、溶媒:水)溶液に浸漬し、アルゴン雰囲気下で400w高圧水銀灯を使用し30分間光照射した。光照射後、得られた基材をイオン交換水で良く洗浄し、アクリル酸がグラフト重合された親水性部材3を得た。
【0210】
得られた親水性部材3の表面平滑性を目視で観察したところ、平滑性は良好であった。表面親水性を、協和界面科学(株)製CA−Zを用いて測定したところ、接触角(空中水滴接触角)は10.0°であり、親水性に優れていることが確認された。
また、得られた親水性部材3を、1ヶ月間、水に浸漬し、その後、グラフト構造が形成されている面の擦り洗いを行った。その結果、浸漬前後で全く重量変化はみられなかった。
【0211】
実施例1〜3における親水性部材(本発明の親水性部材)は、水への長時間の浸漬によっても親水性化合物が除去されることがないことが明らかとなった。よって、これらの親水性部材は、親水性化合物からなるグラフトポリマー鎖(高分子鎖)の全てが、重合開始層に直接結合しており、結果的に、高い親水性を有し、その親水性の耐久性に優れたものとなると推測される。
【0212】
【発明の効果】
本発明によれば、重合開始層中の開始剤成分のモノマー溶液への溶出を防止し、全ての親水性化合物が重合開始層に直接化学結合することで、高い親水性と、その親水性の耐久性に優れた親水性部材を提供することができる。
Claims (7)
- 基材上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層と、
該重合開始層に、重合性基を有する親水性化合物を直接結合してなる親水性層と、
を有することを特徴とする親水性部材。 - 前記側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーにおいて、重合開始能を有する官能基として、芳香族ケトン類、オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びピリジウム類化合物のいずれかの構造を有することを特徴とする請求項1に記載の親水性部材。
- 前記側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーが、重合開始能を有する官能基を有する共重合成分(A)と架橋性基を有する共重合成分(B)とを含んでなり、これらの共重合モル比が、(A)が5モル%以上、かつ、(B)が10モル%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の親水性部材。
- 前記側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーが、重合開始能を有する官能基を有する共重合成分(A)と架橋性基を有する共重合成分(B)とを含んでなり、これらの共重合モル比が、(A)が5〜50モル%、かつ、(B)が30〜70モル%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の親水性部材。
- 前記側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーの重合平均分子量が1万〜1000万であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の親水性部材。
- 前記親水性層が、ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の親水性部材。
- 前記親水性層が、アクリル酸を重合したものからなることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の親水性部材。
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