JP3790327B2 - 粘着テープ基布用複合仮撚加工糸及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、貼付け作業性や手切性に優れた粘着テープ、特に厚物粘着テープを得るに適した粘着テープ基布用複合仮撚加工糸及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
昨今、粘着テープの需要は増加の一途をたどっている。その中でもポリエステルマルチフィラメント糸からなる粘着テープは、包装材料や各種組立作業における一時的な固定保持材や塗装時のしきり材として多く使用されている。この理由としては、取扱性の良さ、すなわち手切性の良さ、接着性能の良さなどが考えられる。
【0003】
粘着テープに要求される特性の一つとして、幅方向に手で容易に引き裂けること(手切性)が要求される。通常、衣料用に用いられる糸条は切断伸度(単に伸度と称することがある)が高く、また産業資材、例えばタイヤコード、魚網などに用いられる糸条は強度が高く、かかる特性の点から粘着テープ用に適したポリエステル糸はなかった。
【0004】
かかる手切性を向上させるため、粘着テープ基布の経糸に共重合変性ポリエステルフラットヤーンを使用すること(特開昭58―91845号公報)、基布の経糸に高速紡糸したポリエステル高配向未延伸糸を熱延伸して得た低伸度、低タフネスポリエステルフィラメントを用いること(特開昭61―218676号公報)、伸度を27%以下とし無糊、無撚で製織可能な交絡を付与したポリエステルマルチフィラメントを用いること(特公昭64―11736号公報)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの提案は、いずれもフラットヤーン使いの基布を用いた、いわゆる薄物の粘着テープに関するものであり、かかる薄物の粘着テープでは貼り付けた後の見栄えがよいこと、凹凸感がないこと等の利点がある反面、柔らかいために貼り付ける際に“しわ”が生じ易く、貼付作業性が悪くなるという問題が生ずる。
【0006】
このような薄物の粘着テープの問題点を解消しようとして、厚物の粘着テープも開発されている。厚物の粘着テープ用としては、従来、レーヨンスフを用いた紡績糸が使用されている。
【0007】
ところで、前記特公昭64―11736号公報に開示されたポリエステルマルチフィラメント糸は、無糊、無撚で使用することを前提として手切性を良くしたものである。したがって、無撚のため糸条が扁平化し厚みが出ない欠点がある。さらに、交絡を利用していることから、糸の長手方向に沿って締まった部分(交絡部)と開いた部分(開繊部)とが存在し、両者の物性差から厚み斑が生じる。しかも、交絡部が往々にして製織中に消滅し、期待するほどの伸度低下とならず、不均一な物性、形態を生みだす原因となって品質低下をきたすことがあるほかに、手切性及び生地立性の面でも未だ充分なものとはいえない。
【0008】
レーヨンスフ紡績糸を基布に用いた厚物粘着テープは、貼付作業性が良好である反面、湿潤時の強力が乾燥時に較べ45〜55%に低下すること、基布に厚み斑が生ずること、表面がフラットでなく凹凸感があり、見栄えがよくないこと、接着剤である樹脂の付着量が過大になり易いこと等の問題がある。
【0009】
一方、日本特許2556402号には、高配向ポリエステルマルチフィラメントを芯部とし、その周りに該高配向ポリエステルマルチフィラメントよりも融点が2℃以上低い低配向のポリエステルマルチフィラメントが鞘部として交互撚糸状に捲付き、該鞘部のフィラメントの少なくとも30%が互いに融着・硬化した部分を有する複合加工糸を経糸として用いた粘着テープ用基布が提案されている。
【0010】
しかしながら、かかる複合加工糸は融着・硬化部の分布が糸の長手方向に不均一となりやすいため、厚み斑が発生しやすく、また手切性の面でも不十分となる場合があることが判明した。かかる融着・硬化部の分布斑を減少させるには融着・硬化部を多くすればよいが、仮撚温度を高温にすると加工中に断糸が発生しやすくなり、生産性が低下するという問題がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術の課題を背景になされたもので、その目的は、貼付作業性、手切性が良好で、湿潤時の強力低下がなく、厚み斑、凹凸感のない外観の良好な粘着テープを安定して得ることのできる複合仮撚加工糸、及び該加工糸を低コストで生産できる製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の目的は、高配向ポリエステルマルチフィラメント(A)を芯部とし、その周りに(A)よりも糸長が10%以上長い低配向ポリエステルマルチフィラメント(B)が鞘部として交互撚糸状に巻き付き、該鞘部のフィラメントの少くとも50%が互いに融着・硬化した部分を有し、さらに下記式(1)〜(3)で表される条件を同時に満足する粘着テープ基布用複合仮撚加工糸により達成される。
(1)1.37≦S≦1.43
(2)70≦D≦150
(3)4≦S×E1/2 ≦10
式中、Sは仮撚加工後の糸条密度(g/cm3 )を、Dは仮撚加工後の糸条外径の平均値(μm)を、Sは強度(g/de)を、Eは切断伸度(%)を示す。
【0013】
また、本発明の別の目的は、複屈折率が0.03〜0.08の未延伸高配向ポリエステルマルチフィラメント(A’)と、(A’)よりも切断伸度が100%以上大きい未延伸低配向高伸度ポリエステルマルチフィラメント(B’)とを合糸して仮撚加工するに際し、仮撚の熱セットヒーターを非接触ヒーターとし、該ヒーターの表面温度を300℃以上、熱処理時間を0.04〜0.08秒に維持して延伸同時仮撚加工する粘着テープ基布用複合仮撚加工糸の製造方法により達成される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で使用されるポリエステルとしては、その繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートで構成されたものが好ましく、5モル%未満は他の成分が共重合されていてもよい。該共重合成分としては、例えば酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、スベリン酸、グルタル酸の如き二塩基酸を挙げることができる。
【0015】
本発明の複合仮撚加工糸は、高配向ポリエステルマルチフィラメント(A)を芯部とし、その周りに(A)よりも糸長が10%以上長い低配向ポリエステルマルチフィラメント(B)が鞘部として交互撚糸状に巻き付き、さらに該鞘部のフィラメントが少くとも50%が互いに融着・硬化した部分を有する。この融着・硬化によりサイジング効果に匹敵する集束効果を発現し、無糊、無撚における製織性が増す。しかも、該複合仮撚加工糸からなる粘着テープ用基布は、その断面方向の形(立体構造)保持性ならびに幅方向の生地立ち性が著しく改善され、手切れ性も改善されるものである。
【0016】
芯部を構成する高配向ポリエステルマルチフィラメント(A)は、その未延伸糸の複屈折率(Δn)が0.03〜0.08の範囲にあるものが好ましい。該未延伸糸のΔnが0.03未満の場合には、延伸同時仮撚加工時耐熱性が悪く熱劣化しやすく、そのため断糸が生じやすい。一方、Δnが0.08を越える場合には結晶化が促進される結果、延伸同時仮撚加工時に結晶が部分的に破壊されて分子鎖の再配列を必要とするため、毛羽、断糸が極めて多く、特に本発明の規定する物性値を得ることが困難となる。
【0017】
一方、鞘部を構成する低配向ポリエステルマルチフィラメント(B)は、その未延伸糸の切断伸度が前記(A)よりも100%以上大きいものが好ましく、特に複屈折率(Δn)が0.01〜0.02の範囲にある低配向高伸度のものが好ましい。かかる範囲のマルチフィラメントを使用すると、鞘部のマルチフィラメントの糸長が芯部のそれよりも10%以上長い複合仮撚加工糸を得ることができる。
【0018】
なおポリエステルマルチフィラメント(A)と(B)の複合仮撚加工糸中での繊度比率は、A:Bが30:70〜50:50の鞘部フィラメントが多いほうがが望ましい。また、ポリエステルマルチフィラメント(A)及び(B)の単繊維繊度は、いずれも1〜4デニールの範囲が望ましい。
【0019】
かかる複合仮撚加工糸において、その鞘部はその芯部よりも糸長が10%以上長く、好ましくは13〜27%長く、且つ芯部の周りに交互撚糸状、好ましくは連続的に交互反転しながら巻きついている。そして鞘部と芯部の境界部において、好ましくは互いに混合交錯して交絡部を形成し、これにより鞘部が芯部と分離することなく糸条として一体性が保たれている。鞘部の糸長が10%以上長くない場合には、厚みのある粘着テープ用基布を得ることが困難になるだけでなく、粘着剤の付与率や保持効果が低下するので好ましくない。なお、融着状況や集束状況から、複合仮撚加工糸の捲縮性能(T.C)は2〜8%とするのが適当である。
【0020】
また、該鞘部を構成するフィラメントの少くとも50%が互いに融着していることが必要であり、70%以上融着していることが好ましい。本発明においては、ポリエステルマルチフィラメント中における、融着・硬化したフィラメントの割合が重要である。鞘部の少くとも50%が融着・硬化した部分を有し、且つこのような部分がマルチフィラメント糸の単位長さに対して70%以上の長さにわたって存在していれば所望の目的が達成される。
【0021】
ここでいう融着・硬化とは、個々のフィラメントが溶融し隣合うフィラメントと一体化した状態か、一体化に至らないまでもフィラメント同糸の境界面で密着し分離しがたい状態をいう。
かかる融着部の割合(構成フィラメント数に対する融着・硬化フィラメントの割合)の判定は、任意に選んだ複合仮撚加工糸1mを10cm間隔で切断した10本の切断糸を各々パラフィンに包埋し、ミクロトームで5〜10μmの厚さの断面を1枚づつ計10枚のプレパラートを作成し、1枚ごとに全断面積と融着部の断面積を求め、下記式で求めた融着部の割合の10枚の平均値とした。
融着部の割合(%)=(融着部断面の面積/全断面の面積)×100
【0022】
また、マルチフィラメント糸の単位長さに対する融着部の割合の判定は、任意に選んだ複合仮撚加工糸1mを5cm間隔で切断した20本の切断糸を各々パラフィンに包埋し、ミクロトームで5〜10μmの厚さの断面を1枚づつ計20枚のプレパラートを作成し、各々プレパラートについて、融着部の有無を測定した後、次式より単位長さに対する融着部の割合を求める。
単位長さに対する融着部の割合(%)=(融着部を有するプレパラートの枚数/20)×100
【0023】
本発明においては、上記のように、鞘部のフィラメントが芯部のフィラメントに交互撚糸状に巻き付いていると共に、鞘部のフィラメントの少なくとも50%が融着・硬化しているので、サイジング効果に匹敵する集束効果を発現し、無糊、無撚における製織性が増すだけでなく、該複合仮撚加工糸からなる粘着テープ用基布は、その断面方向の形保持性ならびに幅方向の生地立ち性が著しく改善され、手切れ性も改善される。
【0024】
さらに本発明の複合仮撚加工糸においては、鞘部を構成するフィラメント群のうち融着・硬化していない部分の一部は、ループ、弛み、あるいは毛羽として加工糸表面から浮き出ており、このため粘着剤や樹脂等の保持効果、すなわち包摂効果が促進される。つまり、融着・硬化フィラメトン糸が基布の縦糸及び/又は緯糸として配された時、前記のループあるいは弛みが織目空間に張り出して粘着剤や樹脂の付与率、保持性を向上させるのである。
【0025】
さらに粘着テープ基布は、手切れ性と粘着性能とを考慮して、通常ガーゼのような粗い目の透いた織物で形成されるが、この基布に厚みがない場合には粘着テープとして張り付ける際に皺が発生しやすくなり、貼付け作業性に劣る。このため基布の厚みを上げる必要があるが、加工糸の繊度を上げる方法では糸強力も増大するため手切性が悪化するし、糸条を撚糸して丸みを持たせ、これによって厚みを増す方法では糸伸度が増大するため手切性がやはり悪化する。
【0026】
本発明の複合仮撚加工糸においては、厚みがありながら手切性の良好な粘着テープが得られるようにするため、下記式で表される条件を同時に満足することが必要である。
(1)1.37≦δ≦1.43
(2)70≦D≦150
(3)4≦S×E1/2 ≦10
式中、δは仮撚加工後の糸条密度(g/cm3 )を、Dは仮撚加工後の糸条外径の平均値(μm)を、Sは強度(g/de)を、Eは切断伸度(%)を示す。
【0027】
糸条密度δが1.37g/cm3 未満、又は糸条の外径Dが70μm未満の場合には、粘着テープの厚さを十分に厚くすることができず、貼り付ける際に皺が生じ易くなって貼付作業性が悪くなる。一方、糸条密度が1.43g/cm3 を超えるか、又は糸条の外径Dが150μmを超える場合には、かかる加工糸を製造する際の仮撚加工時に毛羽が発生しやすく、得られる複合仮撚加工糸はその品位が低いため好ましくない。
【0028】
また、強度S(g/de)×(切断伸度E(%))1/2 (以下引裂強度指数と称することがある)が上記範囲を越える場合には、粘着テープの手切性が悪化し、引裂後の切口にほつれが生じ、美しい切口が得られない。一方、上記範囲未満の場合には、製造工程で断糸、毛羽が多発して、安定して製造することが困難である。
【0029】
以上に説明した本発明の複合仮撚加工糸の製造方法としては、例えば高速紡糸法によって得た複屈折率(Δn)が0.03〜0.08の未延伸高配向ポリエステルマルチフィラメント(A’:芯糸)と、複屈折率(Δn)が0.01〜0.02で切断伸度が(A’)よりも100%以上、好ましくは120〜270%大きい未延伸低配向高伸度ポリエステルナルチフィラメント(B’:鞘糸)とを合糸し、必要に応じて前交絡した後、同時延伸仮撚加工に付すことにより、芯―鞘構造、つまり切断伸度の低いフィラメント糸を芯部として、この周りに切断伸度の高いフィラメント糸が鞘部として交互撚糸状態に巻き付いた構造のものが得られる。
【0030】
この際、(A’)と(B’)との伸度差が100%未満の場合には、得られる複合仮撚加工糸がバラケ気味になり、繊維間空隙が小さくなって目標とする糸の厚みが得られない。
【0031】
また熱セットヒーターとしては非接触ヒーターを使用し、且つその表面温度を300℃以上、好ましくは320〜600℃とし、熱処理時間を0.04〜0.08秒以下、好ましくは0.05〜0.07秒に維持して延伸同時仮撚加工することが必要である。
【0032】
好ましく用いられる高温非接触ヒーターの参考モデルを図2に示す(繊維機械学会誌1997年1月号 37頁)。図に示されているように、この高温ヒーターの構造は、ヒーターブロックの溝部をガイドで糸を案内しながら、ブロックとは非接触の状態で糸を走行させるもので、糸ガイドは糸のバルーニングを防止する目的で設置されている。糸ガイドへ断糸したポリマーが溶融付着するのを防止する目的で、ヒーターは長手方向に2分割されている。
【0033】
かかる非接触ヒーターの表面温度が300℃未満の場合には、鞘部のフィラメントの融着・硬化した部分の長手方向における斑が発生しやすく、また融着・硬化した部分の割合が50%未満となるため、厚物粘着テープ基布用の加工糸は得られない。
【0034】
また、このヒーターでの熱処理時間が0.04秒未満の場合には、得られる複合仮撚加工糸の糸条密度が1.37g/cm3 未満となり、また仮撚加工後の糸条外径が70μmとなって、目的とする厚物用の粘着テープ基布用複合仮撚加工糸が得られなくなる。さらには、仮撚加工時にサージングが発生しやすくなり、熱セット斑、ひいては融着斑が発生しやすくなる。一方、0.08秒を越える場合には、熱処理オーバーによる融着斑が増大するだけでなく、毛羽も発生しやすくなって加工糸品位が低下するので好ましくない。
【0035】
なお、芯糸及び鞘糸は、トータルデニール、単糸デニールの好ましい範囲は下記表1のとおりである。
【0036】
【表1】
【0037】
本発明で規定する引裂強度指数を得るには、上述の方法の他、固有粘度が低いポリエステルを使用する方法、特定の紡糸延伸条件を採用する方法、擦過体により擦過処理する方法など、従来公知の方法を用いることができる。
【0038】
また、本発明における鞘部フィラメントの少なくとも50%が互いに融着・硬化した複合仮撚加工糸(二層構造糸)の製造は、上記の方法に限定されるものではなく、他の方法を利用して得たものであっても構わない。
【0039】
融着・硬化した本発明の複合仮撚加工糸は、粘着テープ基布とするために製織に供されるが、テープ基材の用途、目的などに応じて、経糸及び/又は緯糸に配される。この時の経糸及び緯糸の密度は、融着・硬化した複合仮撚加工糸のデニールにもよるが、総繊度(トータルデニール)が40〜220デニールの場合、前者は23〜90本/インチ、後者は44〜70本/インチの範囲から選定すればよい。
【0040】
また、経糸と緯糸は必ずしも同一デニールである必要はないが、経糸の直径と緯糸の直径との和が0.1mm以上になることが好ましい。
【0041】
このような粘着テープ基布を用いて粘着テープを作成する場合には、常法により、基布の一方の面には熱可塑性合成樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、特にそれらのフイルムをラミネートし、他方の面には粘着剤を塗布すればよい。
【0042】
【作用】
本発明の複合仮撚加工糸は、鞘糸の少なくとも50%が互いに融着・硬化した部分を有することから、仮撚時の実撚形態が解撚側で残留するか、部分的に残留するか、又は殆ど解撚された状態であっても、一部の融着によってマルチフィラメント糸全体の開繊を極力押さえることで、通常のフィラメント糸やウーリー糸に比べはるかに厚い粘着テープ基布を得ることができる。
【0043】
また、本発明においては、実撚を施したポリエステルマルチフィラメント糸をフィラメントの一部又は全部を融着させることで、糸の断面方向の形保持性を改善し、また糸条の強伸度を低下させることにより手切性を向上させている。
【0044】
さらに、構成フィラメントが融着していることは、糸全体の硬化にも繋がり、得られる基布の生地立性も改善されて粘着テープの貼付け作業性が向上する。
【0045】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中、各特性値の測定は下記に従った。
▲1▼鞘糸の融着率(%)
前記、融着部の割合判定方法に従った。
▲2▼糸長差(%)
仮撚加工後、芯部と鞘部とを分離してその長さを測定して次式より求めた(n数20の平均)。
(鞘糸−芯糸)/芯糸×100(%)
▲3▼複合仮撚加工糸の強度(S)及び切断伸度(E)
JIS L―1013―75に準じて測定した。
▲4▼複合仮撚加工糸の直径D(μm)
EIKO INDUSTRIAL CO.LTD製、DIAL THICKNESS、GAUGE、通称ピーコックを用いて、10cm間隔で20回測定し、その平均値で表した。
【0046】
▲5▼基布の引裂強力
織物中の経糸もしくは緯糸に沿って幅3cm、長さ30cmの長方形を5枚作成し、インストロン引張測定機を用いて、試験長10cm、引張速度20cm/分、最大荷重チャック固定長、上下各5cm、初荷重は織物がたるまない程度にかける。測定スタートから織物が切断するまでの伸びと荷重を記録し、破断時の最大荷重を読み取りその値をkg/2.5cmで表す。同じ測定を5回繰り返しその平均値で表した。
【0047】
▲6▼粘着テープの手切性の評価
○:極めて簡単に引き裂くことができる。
△:引き裂くことがやや困難。
×:簡単に引き裂くことができない。
▲7▼貼付テープの外観(生地立ち性)の評価
○:表面がフラットで凹凸斑全くなく、生地立ち性良好。
△:やや凹凸感あり。
×:凹凸、厚み斑が大きく、生地立ち性の斑大。
【0048】
[実施例1]
伸度が120%、複屈折率が0.045の未延伸高配向ポリエステルマルチフィラメント(115デニール/72フィラメント)と、伸度が350%、複屈折率が0.012の未延伸低配向高伸度ポリエステルマルチフィラメント(160デニール/48フィラメント)とを引揃え、図1に示した装置で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。その際の仮撚延伸倍率は1.63倍、仮撚温度は450℃とし、仮撚具として三軸フリクションディスクを用いて850m/分の加工速度で170デニール/120フィラメントの複合仮撚加工糸(二層構造融着糸)を得た。この加工糸の伸度は12%、強度は1.7g/デニール、糸条密度は1.40g/cm3 、引裂強度指数は5.9、外径Dは100μmであった。
【0049】
この加工糸を経糸及び緯糸に用い、経糸密度50本/インチ、緯糸密度35本/インチで無糊、無撚で織成し、得られた生機を基布として、厚さ70μmのポリエチレンフイルムを溶融押出して、基布の表側に貼合わせてラミネートした。その時のフイルムと基材を合せた厚みは0.30mmと厚手であった。
【0050】
このラミネートした基材の表側に離型剤、裏側にアクリル酸樹脂系の接着剤を付与して、粘着テープを作成した。得られた粘着テープの手切性は良好で切口も美しく、また引張強力も14kg/2.5cmと良好であった。
【0051】
なお比較のためにレーヨン紡績糸177デニール(30番)を経糸及び緯糸に用いた基布に、同様に70ミクロンのポリエチレンフイルムを溶融押出してラミネートした基布の厚みは0.20mmであることから、本発明の加工糸は、厚物の粘着テープ用として好適なものであることがわかる。
【0052】
[比較例1]
実施例1で用いたと同じ未延伸高配向ポリエステルマルチフィラメントと未延伸低配向高伸度ポリエステルマルチフィラメントとを引揃え、延伸同時仮撚加工を施した。その際、仮撚温度は170℃、仮撚延伸倍率は1.63倍、加工速度は350m/分として、170デニール/120フィラメントの複合仮撚加工糸を得た。この加工糸には全く融着部分が無く、切断伸度は23%糸、強度は2.8g/デニール、及び糸の直径は50μmであった。
【0053】
得られた加工糸を、経糸密度50本/インチ、緯糸密度35本/インチで無糊、無撚で織成し、得られた生機を基布として、厚さ70μmのポリエチレンフイルムを溶融押出して基布の表側に貼り合わせてラミネートした。その時のフイルムと基材を合せた厚みは0.13mmと薄く、厚手粘着テープとはほど遠いものであり、しかも手切性が不充分なものであった。
【0054】
[実施例2〜13、比較例2〜13]
実施例1において、未延伸高配向ポリエステルマルチフィラメント、未延伸低配向高伸度ポリエステルマルチフィラメント及び仮撚温度を変更する以外は実施例1と同様にして複合仮撚加工糸を得た。得られた複合仮撚加工糸の評価結果、及びこの複合加工糸を実施例1と同様にして作成した粘着テープの評価結果を表2及び3にまとめて示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、交絡に頼らなくても無糊、無撚の状態で製織され、しかも断面方向の形保持性(立体構造保持性)及び幅方向の生地立ち性が著しく改善された厚物粘着テープ用基布、さらには樹脂や粘着剤の乗り、いわゆる包摂性が著しく改善された厚物粘着テープ用基布を得るに好適な複合仮撚加工糸が提供される。かかる粘着テープ用基布を用いると、貼付け作業性がよく、しかも厚さ斑、凹凸感のない、外観の良好な粘着テープを得ることができる。
【0058】
厚物の粘着テープの分野にあっては、これまでレーヨンスフの紡績糸しかなかったことを考えると、本発明の意義は多大なものがある。すなわち、単にレーヨンスフの紡績糸に相当する繊度の複合仮撚加工糸を選択するだけで、同等の特性を容易に得ることができ、さらには、従来レーヨンの欠点とされていた、温湿度依存性がほとんど無い厚手粘着テープ用基布が得られる。
【0059】
また本発明の製造方法によれば、800m/分以上といった高速度でも毛羽、断糸が発生すること無く安定して加工できるので、その工業的意義は極めて大なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で使用した複合仮撚加工糸を製造する装置の概略図である。
【図2】非接触ヒーターの参考モデルを示す側断面図である。
【符号の説明】
1−A 高配向ポリエステルマルチフィラメント(芯部糸)
1−B 低配向高伸度ポリエステルマルチフィラメント(鞘部糸)
2 フィードローラ
3 交絡用空気噴射ノズル
4 第1デリベリローラ
5 仮撚の熱セット用ヒーター
6 冷却プレート
7 撚掛装置(仮撚ディスク)
8 第2デリベリローラ
9 巻き取り機
Claims (2)
- 高配向ポリエステルマルチフィラメント(A)を芯部とし、その周りに(A)よりも糸長が10%以上長い低配向ポリエステルマルチフィラメント(B)が鞘部として交互撚糸状に巻き付き、該鞘部のフィラメントの少くとも50%が互いに融着・硬化した部分を有し、さらに下記式(1)〜(3)で表される条件を同時に満足することを特徴とする、粘着テープ基布用複合仮撚加工糸。
(1)1.37≦δ≦1.43
(2)70≦D≦150
(3)4≦S×E1/2 ≦10
式中、δは仮撚加工後の糸条密度(g/cm3 )、Dは仮撚加工後の糸条外径の平均値(μm)、Sは強度(g/de)、Eは切断伸度(%)を示す。 - 複屈折率が0.03〜0.08の未延伸高配向ポリエステルマルチフィラメント(A’)と、(A’)よりも切断伸度が100%以上大きい未延伸低配向高伸度ポリエステルマルチフィラメント(B’)とを合糸して仮撚加工するに際し、仮撚の熱セットヒーターを非接触ヒーターとし、該ヒーターの表面温度を300℃以上、熱処理時間を0.04〜0.08秒に維持して延伸同時仮撚加工することを特徴とする、粘着テープ基布用複合仮撚加工糸の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP13347897A JP3790327B2 (ja) | 1997-05-23 | 1997-05-23 | 粘着テープ基布用複合仮撚加工糸及びその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
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