JP3788924B2 - 電子写真感光体およびそれを用いた電子写真装置 - Google Patents

電子写真感光体およびそれを用いた電子写真装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高解像度で高感度、高画質を有する電子写真感光体およびそれを用いた電子写真装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
C.F.Carlsonの発明による電子写真技術は、即時性で、高品質かつ保存性の高い画像が得られることなどから、近年では複写機の分野にとどまらず、各種プリンタおよびファクシミリの分野でも広く用いられ、大きな広がりをみせている。
【0003】
電子写真技術の中核となる感光体については、その光導電材料として、従来からSe、As−Se合金、CdSおよびZnOなどの無機系の光導電材料が用いられ、最近では、無公害で成膜が容易なことから製造原価を低減できるなど、無機系光導電材料では見られない利点を有する有機系の光導電材料を使用した感光体が開発されている。このような有機系光導電材料を用いる感光体には、高い電荷発生機能を有する物質で構成される電荷発生層と、高い電荷輸送機能を有する物質で構成された電荷輸送層とを積層した、いわゆる積層型感光体がある。該積層型感光体は、各層で機能を限定しているため材料の選択範囲が広く、安全性が高く、より高い感度を得ることができ、また塗布による製造が可能なため生産性が高く、原価面でも有利である。これらの理由から、前記積層型感光体が、現在では感光体の主流となって大量に生産されている。
【0004】
近年、画像情報のデジタル化などに伴って、従来の白色光に替わって、半導体レーザまたはLED(Light Emitting Diode)アレイを各々露光光源とする半導体レーザ光またはLEDアレイ光により感光層を露光して、画像情報を記録することが行われるようになっている。現在、感光層の露光光源として、780nmの近赤外光および650nmの赤色光源が、最もよく使用されている。
【0005】
デジタル化された画像情報は、画像情報をコンピュータ出力として直接利用する場合には、光信号に変換されたコンピュータの出力情報によって感光体上に記録され、原稿の画像が情報として入力される場合には、原稿の画像が光情報として読み取られてデジタル電気信号に変換された後、再度、光信号に変換されて、その光信号によって感光体上に記録される。いずれの場合にも、画像情報は、光記録ヘッドおよび記録光学系などから感光層に照射される微小の光スポットによって、感光層に記録され、感光層上の光スポットが照射された部分がトナーによって現像されることによって顕像化される。画像は、トナーによって現像された画素と呼ばれる微小ドットの集合および配列によって表現される。したがって、光記録ヘッドおよび記録光学系などでは、高密度で画像情報が記録されるために、できるだけ微小なスポットを形成し得るように高分解能化が進められている。
【0006】
感光層に画像情報を記録する光学系に関しては、可変スポットレーザ記録方式(O plus E 1996年5月)、マルチレーザビーム記録方式、ならびに、超精密および超高速ポリゴンミラー(Japan Hardcopy '96論文集)などが開発されている。その結果、現在では、光学系によって1200dpi(dot perinch:1インチ当たりのドット数)以上の記録密度で、感光層に画像情報を記録することができる。このように感光層に高密度に画像情報を記録する光学系が開発されても、画像情報を再現性よく静電潜像として感光層に記録することは必ずしも容易ではない。レーザ光は、光強度分布が中央部ほど強く周辺部に広がりを持つガウシアン分布を示すという特徴を有するからである。従来の高感度な電子写真感光体では、周辺部に広がった光に対しても感光して現像されるので、ドットが広がって高画質化が困難であった。
【0007】
前述のような長波長光に対して感度を有する有機系材料としては、従来から、スクアリック酸メチン系色素、インドリン系色素、シアニン系色素、ビリリウム系色素、ポリアゾ系色素、フタロシアニン系色素およびナフトキノン系色素などが知られている。スクアリック酸メチン系色素、インドリン系色素、シアニン系色素およびビリリウム系色素は、長波長化が可能であるが繰返し特性などの実用的安定性に欠け、ポリアゾ系色素は長波長化が難しく製造的にも不利であり、ナフトキノン系は感度的に難があるのが現状である。
【0008】
フタロシアニン系色素のうち、金属フタロシアニン化合物を用いた感光体において、感度ピークはその中心金属により変動するが、いずれも700〜750nmと比較的長波長側にあることが知られている。近年、それらフタロシアニン類の中でも高感度を示すオキソチタニルフタロシアニンの研究が精力的に行われている。オキソチタニルフタロシアニンだけでも、電子写真学会誌、第32巻、第3号、p282に記載のとおり、X線回折スペクトルの回折角の違いから数多くの結晶型に分類される。
【0009】
半導体レーザの発光波長である780mn付近での高感度化を目的として、2種以上のフタロシアニンを用いる電子写真感光体が検討されている。特許番号2780295号明細書ではオキソチタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶、特許登録2754739号公報ではオキソチタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの組成物を用いた感光体が提案されている。しかし、これらの高感度な感光体は弱い露光に対しても高感度であるために、前述のように周辺部に広がった光に対しても感光して現像されるので、高解像度を実現することができない。また、2種のフタロシアニンを混合する感光体として、特許番号3005052号明細書では、特定の結晶型オキソチタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとを混合する感光体が提案され、若干の解像度改良の効果はあるものの、まだ不充分である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
高解像度を実現するための手段として、低感度な感光体を用い、前述のようにレーザ光周辺部の光に対する感度を落とし、中央部の強力な光のみに感光させて忠実なドット形成が行なわれる。このような手段によれば、低速なプリンタでは充分であるが、高速化の進展においては、前記感光体が低感度であるために高出力な半導体レーザが必要となること、特に低温時に残留電位が顕著に高くなること、および、反転現像のプロセスでは画像濃度が低下することなどの問題が発生している。このように高感度と高解像度とを両立させることができていないのが現状である。
【0011】
特に、反転現像のプロセスにより画像を形成する電子写真装置に用いられる感光体では、露光以外の要因によって感光体表面の電荷が減少すると、微小黒点である黒ポチと称されるかぶりによる欠陥が発生して画質が低下するので、このような画像欠陥を低減するために下引き層が設けられている。具体的には、導電性支持体と感光層との間に電荷ブロッキング層として、導電性支持体表面を酸化してアルマイト層を形成した感光体や下引き層を形成した感光体がある。アルマイト層を形成した感光体は、導電性支持体を酸化処理するために生産性が悪くなって原価が高くなるという問題があることから、下引き層を形成することが比較的多く検討されている。しかし、下引き層を形成した場合においても、感光体の感度が低下するという問題がある。
【0012】
以上のように従来公知の感光体では、高感度、高画質および高解像度を達成することが特性的にまだ不充分であり、更なる改良が望まれている。
【0013】
本発明の目的は、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する
電子写真感光体およびそれを用いた電子写真装置を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、導電性支持体、導電性支持体上に形成された下引き層および下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体であって、
下引き層は、酸化チタン粒子を含有し、
感光層は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、7.6°、9.0°、13.6°、16.8°および27.2°にピークを持つ結晶性フタロシアニン組成物を含有し、
前記結晶性フタロシアニン組成物は、
CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、9.0°、14.1°、18.0°、23.7°および27.2°に主要なピークを持つ、チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとから成る組成物と、
CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.6°、9.0°、16.8°、17.3°および22.3°に主要なピークを持つχ型無金属フタロシアニンとから成ることを特徴とする電子写真感光体である。
【0015】
本発明に従えば、導電性支持体と感光層との間に、酸化チタン粒子を含有する下引き層を設けるとともに、感光層中に、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、9.0°、14.1°、18.0°、23.7°および27.2°に主要なピークを持つ、チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとから成る組成物と、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.6°、9.0°、16.8°、17.3°および22.3°に主要なピークを持つχ型無金属フタロシアニンとから成り、前記特定のX線回折スペクトルを有する結晶性フタロシアニン組成物を電荷発生物質として用いることによって、弱い露光には光減衰が少なく、強い露光に対して高感度で、完全に電位減衰し、露光エネルギに対しリニアに応答する高感度な感光体を得ることができる結果、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する電子写真感光体を提供することができる。
【0016】
また本発明は、前記結晶性フタロシアニン組成物が、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、さらに7.0°に対する16.8°のピークの高さの比が2倍よりも小さいことを特徴とする。
【0017】
本発明に従えば、前記特定のX線回折スペクトルにおいて、さらに特定のピーク強度を有する結晶性フタロシアニン組成物を電荷発生物質として用いることによって、強い露光に対してより完全に電位減衰する高感度な感光体を得ることができる結果、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する電子写真感光体を提供することができる。
【0022】
また本発明は、前記χ型無金属フタロシアニンが、前記結晶性フタロシアニン組成物中に10〜70重量%含有されていることを特徴とする。
【0023】
本発明に従えば、前記χ型無金属フタロシアニンの含有率を特定することによって、10重量%未満でドットが正確に形成されないで高解像度および高画質が得られなかったり、70重量%を超えるときドットがみだれて黒べた濃度が低下して高解像度および高感度が得られなかったりすることがなく、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する電子写真感光体を提供することができる。
【0024】
また本発明は、前記感光層が、少なくとも、前記結晶性フタロシアニン組成物を電荷発生物質として含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とが積層されて成ることを特徴とする。
【0025】
本発明に従えば、導電性支持体と感光層との間に、酸化チタン粒子を含有する下引き層を設けるとともに、電荷発生層中に前記特定のX線回折スペクトルを有する結晶性フタロシアニン組成物を電荷発生物質として用いることによって、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する積層型の電子写真感光体を提供することができる。
【0026】
また本発明は、前記下引き層中に含有する酸化チタン粒子が、針状および樹枝状形状のうちの少なくともいずれかの形状を有することを特徴とする。
【0027】
本発明に従えば、下引き層中に特定の形状を有する酸化チタン粒子を用いることによって、帯電性がよく残留電位が低い良好な特性の電子写真感光体を提供し、また繰返し使用しても残留電位の蓄積が少なく光感度の劣化の小さい、繰返し安定性と環境特性に優れた電子写真感光体を提供することができる。さらに、画像ムラや黒ポチなどの画像欠陥のない良好な画質特性を有することができることから、高感度、高耐久性を維持しながら画像欠陥のない良好な画質特性を両立することができる。
【0028】
また本発明は、前記下引き層において、前記形状を有する酸化チタン粒子が、アルコール可溶性のポリアミド樹脂中に分散されていることを特徴とする。
【0029】
本発明に従えば、下引き層中に特定の樹脂を用いることによって、下引き層上に感光体層を形成する際に用いられる溶媒に対して溶解や膨潤などが起こらず、導電性支持体との接着性に優れ、膜の可撓性を保つ下引き層を有する電子写真感光体を作製することができる。
【0030】
また本発明は、前記感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(1)で示されるブタジエン化合物を含有することを特徴とする。
【0031】
【化3】
Figure 0003788924
【0032】
(式中、R1〜R4は置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいアラルキル基を表す。)
【0033】
本発明に従えば、特定のブタジエン化合物を電荷輸送物質として用いることによって、非常に高移動度であるので、高感度、高画質および高解像度のすべてをより満足する電子写真感光体を提供することができる。
【0034】
また本発明は、前記感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(2)で示されるビスアミン化合物を含有することを特徴とする。
【0035】
【化4】
Figure 0003788924
【0036】
(式中、R5およびR6は、各々水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、または置換基を有してもよいアミノ基を表す。R7は、アルキル基またはアルコキシ基を表す。)
【0037】
本発明に従えば、特定のビスアミン化合物を電荷輸送物質として用いることによって、非常に高移動度であるので、高感度、高画質および高解像度のすべてをより満足する電子写真感光体を提供することができる。
【0038】
また本発明は、前記電子写真感光体を搭載し、該電子写真感光体に対して画像露光する半導体レーザまたは発光ダイオードを備えたことを特徴とする電子写真装置である。
【0039】
本発明に従えば、半導体レーザや発光ダイオード(LED)を露光光源として用いる電子写真装置において、前記電子写真感光体を搭載することによって、これらの露光光源により照射され周辺部に広がった弱い光に対しては感光せず、ドットが広がることがなく、高画質を得ることができる。
【0040】
また本発明は、帯電されて画像露光された電子写真感光体を、反転現像して画像を得る手段を備えたことを特徴とする。
【0041】
本発明に従えば、反転現像プロセスを用いる電子写真装置において、前記電子写真感光体を搭載することによって、露光以外の要因で表面電荷が減少することがなく、白地にトナーが付着する黒ポチの発生がなく、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する電子写真装置を提供することができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0043】
図1は、積層型の電子写真感光体の構成例を示す断面図である。図2は、単層型の電子写真感光体の構成例を示す断面図である。図1の積層型感光体において、導電性支持体2と感光層4との間に中間層として下引き層3が設けられ、感光層4が電荷発生物質8およびバインダ樹脂7を含有する電荷発生層5と、電荷輸送物質9およびバインダ樹脂18を含有する電荷輸送層6との2層から構成されている。図2の単層型感光体において、導電性支持体2と感光層14との間に中間層として下引き層3が設けられ、感光層14中に電荷輸送物質9と電荷発生物質8とバインダ樹脂19とが含有されている。
【0044】
本発明による電子写真感光体の構成としては、図1のような積層型および図2のような単層型のいずれの感光体でもよい。本発明による電子写真感光体は、積層型では電荷発生層5に、単層型では感光層14に、特定のフタロシアニンを電荷発生物質8として用い、下引き層3に酸化チタンを含有することを特徴とする。
【0045】
電荷発生物質8として用いる特定の結晶性フタロシアニン組成物は、具体的には、下記一般式(3)で示される金属フタロシアニンおよび一般式(4)で示される無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物を有する。特定の結晶性フタロシアニン組成物は、以下に示すX線回折スペクトルにおける特性を示す限り、金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンのうちのいずれか一方だけを有してもよく、これらを混合した組成物であってもよい。
【0046】
【化5】
Figure 0003788924
【0047】
【化6】
Figure 0003788924
【0048】
(式(3)および(4)中、X1〜X4は各々、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を表し、t、u、vおよびwは0〜4の整数を表す。)
【0049】
前記特定の結晶性フタロシアニン組成物は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、7.6°、9.0°、13.6°、16.8°および27.2°にピークを示す結晶性フタロシアニン組成物▲1▼である。
【0050】
前記結晶性フタロシアニン組成物▲1▼は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、さらに7.0°に対する16.8°のピークの高さの比が2倍よりも小さい結晶性フタロシアニン組成物▲2▼であることが好ましい。
【0051】
また、前記結晶性フタロシアニン組成物▲1▼または▲2▼は、チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとから成る結晶性フタロシアニン組成物▲3▼を含有しており、この結晶性フタロシアニン組成物▲3▼は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.0°、9.0°、14.1°、18.0°、23.7および27.2°に主要なピークを持つことがより好ましい。
【0052】
また、前記結晶性フタロシアニン組成物▲1▼または▲2▼は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.6°、9.0°、16.8°、17.3°、22.3°に主要なピークを持つχ型無金属フタロシアニン▲4▼を含有していることがより好ましい。
【0053】
特に、前記結晶性フタロシアニン組成物▲1▼または▲2▼は、フタロシアニン組成物▲3▼とχ型無金属フタロシアニン▲4▼との両方を含有していることが、最も好ましい。
【0054】
前記χ型無金属フタロシアニンは、結晶性フタロシアニン組成物中に10〜70重量%含有していることが好ましい。10重量%未満ではドットが正確に形成されないで高解像度および高画質が得られず、70重量%を超えるとドットがみだれて黒べた濃度が低下して高解像度および高感度が得られないからである。
【0055】
また、下引き層3に含有する酸化チタンの粒子形状は、針状および樹枝状のうちの少なくともいずれかである。なお、下引き層3は、前記酸化チタンが含有された下引き層用塗布液が、導電性支持体2上に塗布されることによって形成される。
【0056】
図3(A)は、針状の酸化チタン粒子の例を示す模式図である。図3(B)は、樹枝状の酸化チタン粒子の例を示す模式図である。針状は、棒状、柱状および紡錘状などを含む細長い形状を意味し、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。樹枝状は、棒状、柱状および紡錘状などを含む細長い形状が枝分かれしているものを呼ぶこととする。樹枝状においても、細長い形状は、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。針状および樹枝状において、長軸長aと短軸長bとの比a/bである粒子のアスペクト比の平均値は、1.5以上300以下の範囲が好ましく、2以上10以下の範囲がより好ましい。この範囲よりも小さければ針状および樹枝状としての効果が得られにくく、またこの範囲より大きくても針状および樹枝状としての効果は変わらない。針状または樹枝状の酸化チタン粒子の粒子径は、長軸長aが100μm以下で短軸長bが1μm以下の粒径が好ましく、より好ましくは、長軸長aが10μm以下で短軸長bが0.5μm以下である。粒径がこの範囲内にない場合、金属酸化物や有機化合物により表面処理を施しても分散安定性のある下引き層用塗布液が得られにくい。
【0057】
アスペクト比および粒径を測定する方法としては、重量沈降法や光透過式粒度分布測定法などの方法でも測定可能であるが、針状または樹枝状であるので、直接電子顕微鏡で測定する方が好ましい。
【0058】
酸化チタン粒子は、針状または樹枝状の粒子に、粒状の粒子が混合されている粒子であってもよい。針状、樹枝状および粒状のいずれの粒子形状の酸化チタンについても、アナターゼ型、ルチル型およびアモルファスなどのいずれの酸化チタンの結晶を用いてもよく、2種以上混合してもよい。
【0059】
前記針状または樹枝状の酸化チタン粒子の含有率としては、10重量%以上99重量%以下が好ましく、より好ましくは30重量%以上99重量%以下であり、最も好ましくは35重量%以上95重量%以下の範囲である。10重量%より少ない含有率であれば、感度が低下し、下引き層中に電荷が蓄積され残留電位が増大する。特に低温低湿下での繰返し特性において顕著になる。99重量%より多い含有率であれば下引き層用塗布液の保存安定性が悪くなり、酸化チタン粒子の沈降が起こりやすくなるために好ましくない。
【0060】
下引き層用塗布液には、バインダ樹脂が含有されていることが好ましい。バインダ樹脂を針状または樹枝状の酸化チタン粒子が含有された下引き層用塗布液に含有することによって、下引き層用塗布液において長期間酸化チタンの分散性が保持され、下引き層として均一な膜を形成することができるからである。
【0061】
酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値については、105〜1010Ω・cmが好ましい。粉体の体積抵抗値が105Ω・cmより小さくなると、該粉体が含有される下引き層としての抵抗値が低下し、電荷ブロッキング層として機能しなくなる。たとえば、アンチモンをドープした酸化スズ導電層などの導電処理を施した金属酸化物粒子の場合には、100Ω・cm〜101Ω・cmと非常に粉体の体積抵抗値が低くなる。これを用いた下引き層は電荷ブロッキング層として機能せず、感光体特性としての帯電性が悪化するために、画像にカブリや黒点が発生して使用することはできない。酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値が1010Ω・cm以上に高くなって、前述のように含有されるバインダ樹脂の体積抵抗値と同等またはそれ以上になると、下引き層としての抵抗値が高過ぎて、光照射時に生成した電荷の輸送が抑制阻止され、残留電位が上昇して光感度が低下するので好ましくない。
【0062】
針状または樹枝状の酸化チタン粒子の表面は、該酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値を前述の範囲に維持する限り、金属酸化物で被覆されていることが好ましい。表面未処理の酸化チタン粒子を用いると、使用する酸化チタンの粒子が微粒子であるために、充分に分散された下引き層用塗布液であっても長期間の使用や塗布液の保管時に、酸化チタン粒子の凝集が避けらない。そのため、下引き層を形成する際、塗布膜の欠陥および塗布ムラが発生して画像欠陥が生じる。また、導電性支持体からの電荷の注入が起こりやすくなるために、微小領域の帯電性が低下して点が発生することになる。そこで酸化チタン粒子の表面を金属酸化物で被覆させることにより、該酸化チタンの下引き層用塗布液中での凝集を防止することができ、分散性や保存安定性が非常に優れた下引き層用塗布液が得られる。このような下引き層用塗布液は、導電性支持体からの電荷の注入を防止することができるために、黒点のない優れた画像特性を有する電子写真感光体が得られる。
【0063】
酸化チタンの表面を被覆する金属酸化物の表面処理量としては、酸化チタンに対して0.1重量%〜20重量%が好ましい。0.1重量%より少ない処理量であれば、酸化チタンの表面を充分に被覆することができないため、表面処理の効果が発現しにくくなる。20重量%を超える処理量であれば、表面処理としては充分に施され、特性としては20重量%の処理量のものと変わらなくなるので、20重量%を超えて処理量を増やしても原価がかかるだけで好ましくない。
【0064】
前記金属酸化物としては、Al23、ZrO2およびそれらの混合物などが好ましい。特に、異なる金属酸化物のAl23とZrO2との両方で表面処理を施すと、さらに優れた画像特性が得られるので、より好ましい効果が発現される。SiO2などで酸化チタンの表面処理を施した場合は、その表面が親水性を示すために有機溶剤になじみにくくなり、酸化チタンの分散性が低下して凝集を引起こしやすいために、長期間の使用には好ましくない。また、Fe23などの磁性を持つ金属酸化物で表面の被覆を施した酸化チタンを用いると、感光層中に電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を含有する場合、フタロシアニン顔料とFe23との化学的な相互作用が起こり、感光体特性、特に感度低下および帯電性の低下が生じ、好ましくない。
【0065】
針状または樹枝状の酸化チタンの表面は、有機化合物で被覆してもよい。該有機化合物としては、一般的なカップリング剤を用いることができる。カップリング剤の種類としては、アルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ハロゲン、窒素および硫黄などの原子がケイ素と結合したシリル化剤、チタネート系カップリング剤、ならびにアルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
【0066】
前記シランカップリング剤としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシランおよびN−3−(アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシランおよびフェニルトリクロロシランなどのクロロシラン類、ならびに、ヘキサメチルジシラザンおよびオクタメチルシクロテトラシラザンなどのシラザン類が挙げられる。
【0067】
前記チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートなどが挙げられる。前記アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどが挙げられる。これらの具体例に、前記カップリング剤が限定されるものではない。また、これらカップリング剤は、単独で、または2種以上を併用して、酸化チタン粒子に表面処理を施したり、分散剤として使用してもよい。
【0068】
酸化チタン粒子に表面処理を施す方法は、前処理法とインテグラルブレンド法に大別され、さらに前処理法としては湿式法と乾式法に分けられる。前記湿式法は、水処理法と溶媒処理法とに分けられ、該水処理法には、直接溶解法、エマルジョン法およびアミンアダクト法などの公知の方法を用いることができる。
【0069】
酸化チタン粒子の表面は、酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値を一定範囲に維持する限り、前述のカップリング剤などの有機化合物や、Al23、ZrO2およびそれらの混合物などの金属酸化物で被覆されてもよく、被覆されなくてもよい。該有機化合物および金属酸化物の両方で被覆されてもよく、いずれが先に被覆されてもよい。
【0070】
本発明による電子写真感光体は、以上のような、特定のフタロシアニンを電荷発生物質8とし、特定の酸化チタンを下引き層3に含有することによって構成される。また、前述のように、本発明による電子写真感光体は、図1に示したような積層型および図2に示したような単層型のいずれの感光体でもよい。
【0071】
導電性支持体2としては、積層型および単層型のいずれの感光体においても、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、鉄、金、銀、銅、亜鉛、ニッケルおよびチタンなどの金属材料や、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、酸化インジウムおよび酸化錫などを蒸着したプラスチック基体、ポリエステルフィルムや紙、導電性粒子を含有したプラスチックおよび紙、ならびに、導電性ポリマーを含有するプラスチックなどが使用できる。それらの形状としては、ドラム状、シート状およびシームレスベルト状などが挙げられる。
【0072】
下引き層3は、積層型および単層型のいずれの感光体においても、前記特定の酸化チタンを含有する下引き層用塗布液を、前記導電性支持体2上に塗布して形成される。
【0073】
下引き層用塗布液には、前記特定の酸化チタンの他、前述のようにバインダ樹脂が含有され、有機溶剤が使用される。下引き層に含有されるバインダ樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミドおよびポリアミドなどの樹脂を用いることができる。
【0074】
これらのうちポリアミド樹脂がより好ましい。その理由は、バインダ樹脂の特性として、下引き層上に感光体層を形成する際に用いられる溶媒に対して溶解や膨潤などが起こらないこと、導電性支持体との接着性に優れること、および可撓性を有することなどの特性が必要とされるからである。ポリアミド樹脂のうち、特に好ましくは、アルコール可溶性ナイロン樹脂を用いることができる。たとえば、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロンおよび12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロンや、N−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させたタイプなどがある。
【0075】
下引き層用塗布液に使用される有機溶剤としては、一般的な有機溶剤を使用することができる。特に、下引き層のバインダ樹脂として、特に好ましいアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いる場合には、炭素数1〜4の低級アルコール群と、該低級アルコール以外の有機溶剤、たとえばジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トルエン、テトラヒドロフランおよび1,3−ジオキソランなどからなる群とから選ばれた単独系または混合系の有機溶剤であることが好ましい。前記低級アルコール以外の有機溶剤を混合することにより、アルコール系溶剤単独よりも酸化チタンの分散性が改善され、塗布液の保存安定性の長期化や塗布液の再生が可能となる。また、下引き層用塗布液中に導電性支持体を浸漬塗布して下引き層を形成する際、下引き層の塗布欠陥やムラを防止し、その上に形成される感光層が均一に塗布できるので、膜欠陥のない非常に優れた画像特性を有する電子写真感光体を製造することができる。さらに、この下引き層の形成は、アルマイト層が形成される場合のように、導電性支持体を酸化処理して生産性が悪くなることもなく、容易に行なわれる。
【0076】
前記特定の酸化チタンおよびバインダ樹脂が、前述の有機溶剤に分散されて、下引き層用塗布液が調製される。下引き層用塗布液の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などによる方法がある。下引き層用塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法などの一般的な方法が適用できる。
【0077】
図4は、浸漬塗布法において用いる浸漬塗布装置の一例を示す構成図である。塗布層13内に満たされた塗布液12中に、円筒状の導電性の基体2が浸漬される。基体2は、モータ11を備える昇降装置10によって下降され、塗布液12中に浸漬される。昇降装置10はモータ11の回転量を制御することによって、所望の深さだけ基体2を塗布槽13に浸漬することができる。基体2は充分浸漬された後、昇降装置10によって一定速度または逐次変化する速度で引上げられる。基体浸漬時に塗布槽13からオーバフローした塗布液12は、回収槽14に回収される。回収された塗布液は、攪拌装置15にて攪拌された後、ポンプ16によって塗布槽13に戻される。
【0078】
下引き層3の膜厚は、好ましくは、0.01μm以上20μm以下、より好ましくは0.05μm以上10μm以下の範囲である。下引き層の膜厚が0.01μmより薄ければ実質的に下引き層として機能しなくなり、導電性支持体2の欠陥を被覆して均一な表面性が得られず、導電性支持体2からの電荷の注入を防止することができなくなり、帯電性の低下が生じる。20μmよりも厚くすることは下引き層を浸漬塗布する場合、感光体を製造する上で難しくなり感光体の感度が低下する。
【0079】
下引き層3上には、図1に示したような積層型感光体の場合には感光層4が形成され、図2に示したような単層型感光体の場合には感光層14が形成される。
【0080】
積層型電子写真感光体の感光層4は、下引き層3上に、前記特定のフタロシアニンを含有する電荷発生層5と、電荷輸送層6とが順次積層されて構成される。
【0081】
電荷発生層5の形成方法としては、前記特定のフタロシアニン化合物を粉砕、分散して得られる電荷発生層用塗布液を、下引き層3上に塗布することによる方法がある。具体的には、前記特定のフタロシアニン化合物の微粒子に有機溶媒を加え、ボールミル、サンドグラインダ、ペイントシェーカおよび超音波分散機などによって粉砕し、分散して電荷発生層用塗布液を調製する。該電荷発生層用塗布液を、シート形状の感光体を形成する場合にはベーカーアプリケータ、バーコータ、キャスティングおよびスピンコートなどにより、ドラム形状の感光体を形成する場合にはスプレイ法、垂直リング法および浸漬塗工法などにより、下引き層3上に塗布して電荷発生層5を形成する。
【0082】
電荷発生層用塗布液には、結着性を増すためにバインダ樹脂7として、たとえばポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂などを加えてもよい。また、電荷発生層5には必要に応じて、塗布性を改善するためのレベリング剤、酸化防止剤および増感剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0083】
電荷発生層5の膜厚は、0.05〜5μmが好ましく、特に0.1〜1μmが好適である。
【0084】
電荷輸送層6は、主に電荷輸送物質9とバインダ樹脂18から構成される。電荷輸送物質9としては、2,4,7−トリニトロフルオレノン、テトラシアノキノジメタンおよびジフェノキノンなどの電子吸引性物質、カルバゾール、インドール、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、オキサジアゾール、ピラゾリンおよびチアジアゾールなどの複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ビスアミン化合物、エナミン化合物、ならびに、これらの化合物からなる基を主鎖または側鎖に有する重合体などの電子供与性物質が挙げられる。特に、特定のスチリル系化合物、下記一般式(1)で示されるブタジエン化合物および下記一般式(2)で示されるビスアミン化合物は、非常に高移動度であるので高感度化および高解像度化に好適である。これらの電荷輸送物質9は、単独でも、複数を混合して用いてもよい。
【0085】
【化7】
Figure 0003788924
【0086】
(式中、R1〜R4は置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいアラルキル基を表す。)
【0087】
【化8】
Figure 0003788924
【0088】
(式中、R5およびR6は、各々水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、または置換基を有してもよいアミノ基を表す。R7は、アルキル基またはアルコキシ基を表す。)
一般式(1)で示されるブタジエン化合物の具体例を表1および表2に示す。
【0089】
【表1】
Figure 0003788924
【0090】
【表2】
Figure 0003788924
【0091】
一般式(2)で示されるビスアミン化合物の具体例を表3に示す。
【0092】
【表3】
Figure 0003788924
【0093】
バインダ樹脂18としては、たとえばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンおよびポリ塩化ビニルなどのビニル重合体、その共重合体、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ならびに、シリコーン樹脂などが挙げられ、これらの部分的架橋硬化物も使用できる。
【0094】
前述の電荷輸送物質9がバインダ樹脂18に結着した形で電荷輸送層6が形成される。バインダ樹脂18と電荷輸送物質9の割合は、バインダ樹脂100重量部に対して30〜200重量部が好ましく、より好ましくは40〜150重量部の範囲で使用される。なお電荷輸送層6には、成膜性、可とう性、塗布性などを向上させるために周知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤などの添加剤を含有させても良い。電荷輸送層6は、前述の電荷輸送物質9およびバインダ樹脂18などを用いて、電荷発生層用塗布液と同様にして調製された電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層5と同様の装置を用いて電荷発生層5上に塗布することによって形成される。
【0095】
電荷輸送層6の膜厚は、5〜50μmが好ましく、より好ましくは10〜45μmである。
【0096】
単層型電子写真感光体の感光層14は、下引き層3上に、前記特定のフタロシアニンを電荷発生物質8として、電荷輸送物質9とともに含有して構成される。感光層14の形成方法としては、単層型感光体の電荷輸送層用塗布液と同様の配合比の液に、電荷発生物質8として、前記特定の結晶性フタロシアニン組成物が分散された感光層用塗布液を用いる方法がある。その場合、前記特定の結晶性フタロシアニン組成物の粒径は、充分小さいことが必要で、好ましくは1μm以下である。感光層14内に分散される電荷発生物質8の量は、過少では感度不足、過多では帯電性低下および感度低下を誘発するなどの弊害があり、0.5〜50重量%が好ましく、より好ましくは1〜20重量%で使用される。単層型感光体の感光層14にも、成膜性、可撓性および機械的強度などを改善するため、従来公知の可塑剤、残留電位を抑制するための添加剤、分散安定向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのシリコーンオイルおよびフッ素系オイルなどのレベリング剤、界面活性剤、その他の添加剤が加えられても良い。
【0097】
感光層14の膜厚は5〜40μm、好ましくは15〜30μmで使用される。
積層型および単層型のいずれの感光体においても、感光層4または14上に、必要であれば感光層表面を保護するために保護層を設けてもよい。表面保護層には、熱可塑性樹脂、および、光または熱硬化性樹脂を用いることができる。保護層中に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属酸化物などの無機材料、有機金属化合物、および電子受容性物質などを含有させても構わない。また、保護層には、感光層と同様、必要に応じて二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステルおよび塩素化パラフィンなどの可塑剤を混合させて、加工性および可塑性を付与して機械的物性の改良を施してもよく、レベリング剤などの添加剤を混合しても構わない。
【0098】
図5は、本発明による電子写真感光体を搭載したレーザプリンタ30を示す構成図である。電子写真装置であるレーザプリンタ30は、感光体100、半導体レーザ31、コロナ帯電器36、現像器37、転写帯電器41、分離帯電器42、定着器44、排紙トレイ45およびクリーナ46とを含んで構成される。レーザプリンタ30では、コロナ帯電器36によって感光体100の表面をマイナス極性に均一に帯電させ、半導体レーザ31で画像情報に基づいて光照射して像露光を行い、感光体100を回転させて露光領域を現像装置と対向する現像領域に到達させ、露光領域にマイナス帯電されたトナーを付着させて現像する反転現像方式を採用する。
【0099】
このような反転現像プロセスを用いて画像を形成する場合には、露光部の表面電荷が減少した部分にトナー像が形成されることから、露光以外の要因で表面電荷が減少すると白地にトナーが付着する黒ポチなどの画像のカブリが発生し、著しい画質劣化を生じる。これは、導電性支持体や感光層の欠陥に起因して微小な領域での帯電性の低下を招くことにより、白地に黒点が発生するなど著しい画像欠陥となる。しかし、前述のようにして下引き層を形成する電子写真感光体においては、塗布欠陥やムラのない非常に均一な感光層の塗布膜を形成することができる。したがって、前記電子写真感光体を搭載すれば、露光以外の要因で表面電荷が減少することがなく、白地にトナーが付着する黒ポチの発生がない優れた画像特性を長期間にわたって有する電子写真装置を提供することができる。
【0100】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明による電子写真感光体およびそれを用いた電子写真装置を具体的に説明するが、その趣旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
(製造例1)
o−フタロジニトリル40gと、四塩化チタン18gと、α−クロロナフタレン500mlとを窒素雰囲気下200〜250℃で3時間加熱撹拌して反応させ、100〜130℃まで放冷後、熱時濾過し、100℃に加熱したα−クロロナフタレン200mlで洗浄してジクロロチタニウムフタロシアニン粗生成物を得た。この粗生成物を室温にてα−クロロナフタレン200ml、ついでメタノール200mlで洗浄後、さらにメタノール500ml中で1時間熱懸洗を行った。濾過後、得られた粗生成物を水500ml中で、pHが6〜7になるまで熱懸洗を繰返した後、乾燥してチタニルフタロシアニン結晶を得た。
【0102】
得られた結晶に無金属フタロシアニンを加えて1,3−ジオキソランに混合し、ペイントコンディショナ装置(レッドレベル社製)により直径2mmのガラスビーズと共にミリング処理し、メタノールで洗浄した後、乾燥し、本発明における特定の結晶性フタロシアニン組成物を得た。
【0103】
得られた結晶性フタロシアニン組成物について、以下の条件でX線回折スペクトルを測定した。なお後述する実施例8および11で用いる結晶性フタロシアニンについても、同様の条件で測定した。
X線源 CuKα=1.54Å
電圧 30〜40kV
電流 100mA
スタート角度 5.0゜
ストップ角度 30.0゜
ステップ角度 0.01〜0.02゜
測定時間 2.0〜0.5゜/min.
測定方法 θ/2θ スキャン方法
【0104】
得られたチタニルフタロシアニン結晶は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.0°、9.0°、14.1°、18.0°、23.7°および27.2°に主要なピークを示す、チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとから成る結晶性フタロシアニン組成物であった。
【0105】
(実施例1)
粒状の表面未処理である酸化チタン(石原産業社製TTO−55N)5重量部と、ブチラール樹脂(積水化学社製BX−1)5重量部とを、テトラヒドロフラン(THF)90重量部に加え、ペイントシェーカを用いて12時間分散させ、固形分10%の下引き層用塗布液を調製した。
【0106】
得られた下引き層用塗布液を図4に示したような浸漬塗布装置の塗布槽13に満たし、導電性支持体として直径30mm、全長326.3mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬して引き上げ、自然乾燥して膜厚1μmの下引き層を形成した。
【0107】
製造例1で作製された結晶性フタロシアニン組成物0.9重量部とχ型無金属フタロシアニン(大日本インキ社製Fastogen Blue 8120BS)0.9重量部とブチラール樹脂(積水化学社製BL−1)1.2重量部とを、1,3−ジオキソラン97重量部に混合してペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層用塗布液を調製した。なお、前記χ型無金属フタロシアニンは、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.6°、9.0°、16.8°、17.3°および22.3°に主要なピークを示す。調製した電荷発生層用塗布液の結晶性フタロシアニン組成物をX線回折スペクトル測定したところ、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.0°、7.6°、9.0°、13.6°、16.8°および27.2°にピークを持つX線回折スペクトルを示した。この電荷発生層用塗布液を図4に示したような浸漬塗布装置の塗布槽13に満たし、下引き層が形成されたドラム状支持体を浸漬し、下引き層上に浸漬塗布した後、自然乾燥して膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。
【0108】
下記構造式(5)で示されるスチリル化合物10重量部と、下記構造式(6)で示される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製PCZ400)16重量部とを混合し、THFを溶剤として固形分21重量%の電荷輸送層用塗布液を調製した。調製した電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層用塗布液と同様にして電荷発生層上に塗布し、110℃にて1時間乾燥し、膜厚22μmの電荷輸送層を形成した。
以上のようにして、積層型電子写真感光体を作製した。
【0109】
【化9】
Figure 0003788924
【0110】
【化10】
Figure 0003788924
【0111】
(実施例2)
実施例1において用いたブチラール樹脂の代わりに、N−メトキシメチル化ナイロン樹脂(帝国化学社製EF−30T)5重量部を用い、テトラヒドロフランの代わりに、メチルアルコール45重量部、1,3−ジオキソラン45重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【0112】
(実施例3)
実施例2において用いた酸化チタンの代わりに、針状の表面未処理である酸化チタン(堺化学社製STR−60N)を用いた以外は、実施例2と同様にして感光体を作製した。
【0113】
(実施例4)
実施例2において用いたN−メトキシメチル化ナイロン樹脂の代わりに、共重合ナイロン樹脂(東レ社製CM−8000)を用い、実施例2において用いた酸化チタンの代わりに針状の表面未処理である酸化チタン(堺化学社製STR−60N)を用いた以外は、実施例2と同様にして感光体を作製した。
【0114】
(実施例5)
実施例4において下引き層用塗布液を調製する際に、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン0.25重量部を加えて分散した以外は、実施例4と同様にして感光体を作製した。
【0115】
(実施例6)
実施例2において用いたN−メトキシメチル化ナイロン樹脂の代わりに共重合ナイロン樹脂(東レ社製CM−8000)を用い、実施例2において用いた酸化チタンの代わりに針状でAl23およびZrO2で表面処理された酸化チタン(石原産業社製TTO−M−1)を用いた以外は、実施例2と同様にして感光体を作製した。
【0116】
(実施例7)
実施例2において用いたN−メトキシメチル化ナイロン樹脂の代わりに共重合ナイロン樹脂(東レ社製CM−8000)を用い、実施例2において用いた酸化チタンの代わりに樹枝状でAl23およびZrO2で表面処理された酸化チタン(石原産業社製TTO−D−1)を用いた以外は、実施例2と同様にして感光体を作製した。
【0117】
(比較例1)
実施例1において下引き層を形成しないで導電性支持体上に電荷発生層、電荷輸送層の順に感光層を形成した以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【0118】
(比較例2)
実施例2において下引き層中の酸化チタンを除いて樹脂層だけの下引き層を形成した以外は、実施例2と同様にして感光体を作製した。
【0119】
(比較例3)
実施例4において下引き層中の酸化チタンを除いて樹脂層だけの下引き層を形成した以外は、実施例2と同様にして感光体を作製した。
【0120】
(評価1)
実施例1〜7および比較例1〜3で作製した電子写真感光体を、市販の反転現像プロセスを採用した複写機(シャープ社製AR−N200)を1200dpi相当のドットが出力できるように改造した実験機に搭載し、解像度を検討した。パソコンにて黒ベタに白1ドットを書かせたデータ(レーザを全面走査し1ドットのみオフとするデータ)を作製し、このデータをプリンタインタフェースを介し、前記実験機に送信して25℃/60%RHの常温常湿下(以下、「N/N環境」と称する)にてプリントアウトされた出力画像を観察した。N/N環境下で出力した画像について解像度(N/N解像度)を評価した。また、前記実験機を5℃/20%RHの低温低湿環境下(以下、「L/L環境」と称する)にて黒べた画像を出力した。L/L環境下で出力した黒べた画像について感度(L/L感度)を評価した。さらに、35℃/85%RHの高温高湿環境下(以下、「H/H環境」と称する)にて白べた画像を出力した。H/H環境下で出力した白べた画像について画質(H/H画像)を評価した。
以上の評価結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
Figure 0003788924
【0122】
表4から、N/N解像度は、いずれの実施例についても、黒ベタ上に1ドットの白点がはっきりと確認できた。このことから、本発明による感光体は充分な高解像度画像を出力できることが判った。L/L感度は、実施例1および2で若干の画像濃度低下が発生し、H/H画像は、実施例1で若干の黒ポチが発生したが、いずれも実使用上大きな問題になるほどではなく、充分な高解像度画像を出力できることが判った。
【0123】
以上の結果より、導電性支持体上に特定の結晶型を有する電荷発生物質を含有する電荷発生層を形成するだけでなく、酸化チタンを含有した下引き層を形成することによって、解像度を維持しながらH/H環境下での黒ポチを抑制し、L/L環境下での感度低下を防止することができる。すなわち、高感度、高画質および高解像度をすべて満足する電子写真感光体を作製することができる。
【0124】
(実施例8)
実施例7で調製した下引き層用塗布液を用い、実施例1と同様にして下引き層を導電性支持体上に形成した。
【0125】
CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.0°、9.0°、14.1°,18.0°,23.7°および27.2°に主要なピークを持つ、結晶性チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニン組成物との組成物1.8重量部と、ブチラール樹脂(積水化学社製BL−1)1.2重量部とを、1,3−ジオキソラン97重量部に混合してペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層用塗布液Aを得た。
【0126】
また、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.6°、9.0°、16.8°、17.3°および22.3°に主要なピークを持つχ型無金属フタロシアニン(大日本インキ社製Fastogen Blue 8120BS)1.8重量部と、ブチラール樹脂(積水化学社製BL−1)1.2重量部とを、1,3−ジオキソラン97重量部に混合してペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層用塗布液Bを得た。
【0127】
これら2つの電荷発生層用塗布液AおよびBを重量比でA:B=60:40の比率に混合した塗布液を、先に形成した下引き層上に浸漬塗布した後、自然乾燥して膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。
【0128】
図6は、本発明の実施例8で得られた結晶性フタロシアニン組成物のX線回折スペクトルを示す図である。電荷発生層用塗布液AおよびBを混合した塗布液(A:B=60:40)の結晶性フタロシアニン組成物をX線回折スペクトル測定したところ、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.0°、7.6°、9.0°、13.6°、16.8°および27.2°にピークを持つX線回折スペクトルを示した。
【0129】
次いで、下記構造式(7)で示されるビスアミン化合物10重量部と、前記構造式(6)で示される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製:PCZ400)16重量部とを混合し、THFを溶剤として固形分21重量%の電荷輸送層用塗布液を調製した。電荷輸送層用塗布液を、先に形成した電荷発生層上に塗布し、110℃にて1時間乾燥して膜厚22μmの電荷輸送層を形成した。
以上のようにして積層型感光体を作製した。
【0130】
【化11】
Figure 0003788924
【0131】
(実施例9)
実施例8で調製した電荷発生層用塗布液AおよびBを重量比でA:B=90:10の比率に混合した塗布液として用いた以外は、実施例8と同様にして感光体を作製した。
【0132】
(実施例10)
実施例8で調製した電荷発生層用塗布液AおよびBを重量比でA:B=30:70の比率に混合した塗布液として用いた以外は、実施例8と同様にして感光体を作製した。
【0133】
(実施例11)
実施例8で調製した電荷発生層用塗布液AおよびBを重量比でA:B=60:40の比率で混合した後、さらにペイントシェーカにて共分散して得られた結晶性フタロシアニン組成物を含有する電荷発生層用塗布液を調製した。調製した電荷発生層用塗布液を実施例8と同様にして下引き層上に浸漬塗布し、自然乾燥により膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。さらに実施例8と同様にして電荷輸送層を形成し、感光体を作製した。
【0134】
図7は、本発明の実施例11で得られた結晶性フタロシアニン組成物のX線回折スペクトルを示す図である。電荷発生層用塗布液AおよびBを混合した塗布液(A:B=60:40)を共分散して得られた塗布液の結晶性フタロシアニン組成物をX線回折スペクトル測定したところ、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)で7.0°、7.6°、9.0°、13.6°、16.8°および27.2°に主要なピークを有し、7.0°に対する16.8°のピークの高さが2倍よりも小さいX線回折スペクトルを示した。
【0135】
(比較例4)
実施例8で調製した電荷発生層用塗布液Aを用いて電荷発生層を形成した以外は、実施例8と同様にして感光体を作製した。
【0136】
(比較例5)
実施例8で調製した電荷発生層用塗布液Bを用いて電荷発生層を形成した以外は、実施例8と同様にして感光体を作製した。
【0137】
(評価2)
実施例8〜11、比較例4および5で作製した電子写真感光体を、評価1と同様にして画像評価した。評価結果を表5に示す。
【0138】
【表5】
Figure 0003788924
【0139】
表5から、いずれの実施例の感光体も、N/N解像度、L/L感度およびH/H画像について良好または問題のない結果を示し、充分な高解像度画像を出力できることが判った。比較例4は、ドットを出力させるデータを送信したにも関わらず、出力された画像は黒べたとなり、ドットが正確に形成されていないことが判った。比較例5は、出力された画像のドットがみだれて黒べた濃度が低下していた。
【0140】
以上の結果より、導電性支持体上に酸化チタン粒子を含有する下引き層を設けるだけでなく、該下引き層上に、特定の結晶型を有する電荷発生物質を含有する電荷発生層を形成することによって、解像度を維持しながらH/H環境下での黒ポチを抑制し、L/L環境下での感度低下を防止することができる。すなわち、高感度、高画質および高解像度をすべて満足する電子写真感光体を作製することができる。
【0141】
(実施例12)
実施例8で用いたビスアミン化合物の代わりに、下記構造式(8)で示されるブタジエン化合物を用いた以外は、実施例11と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0142】
【化12】
Figure 0003788924
【0143】
(実施例13)
実施例11で用いたビスアミン化合物の代わりに、前記構造式(8)で示されるブタジエン化合物を用いた以外は、実施例11と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0144】
(比較例6)
比較例4で用いたビスアミン化合物の代わりに、前記構造式(8)で示されるブタジエン化合物を用いた以外は、比較例4と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0145】
(比較例7)
比較例5で用いたビスアミン化合物の代わりに、前記構造式(8)で示されるブタジエン化合物を用いた以外は、比較例5と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0146】
(評価3)
実施例12、13、比較例6および7の電子写真感光体の光減衰特性を測定した。ドラム感度試験機(Gentec社製)を用いて、電子写真感光体の表面をスコロトロンチャージャで−600±20Vに帯電させて、露光光源である半導体レーザ光(波長780nm)の光強度をNDフィルタで調整して感光体の表面に照射し、各光強度における表面電位を測定した。
【0147】
図8および図9は、本発明の実施例および比較例の電子写真感光体における光減衰特性を示す図である。
【0148】
実施例12の感光体の光減衰特性は、図8の感光体Aに示すように弱い露光に対しては光減衰が小さく、強い露光に対しては充分に光減衰していることが判った。実施例13の感光体の光減衰特性は、図8の感光体Bに示すように弱い露光に対しては光減衰が小さく、強い露光に対しては完全に光減衰しており、実施例12よりさらに感度が向上していることが判った。比較例6の感光体の光減衰特性は、図8の感光体Cに示すように弱い露光でも光減衰が大きいことが判った。また、比較例6の感光体について、評価1と同様にして黒ベタに白1ドットを書かせたデータを出力した画像を検討したところ、ドットを出力させるデータを送ったにもかかわらず、出力された画像は黒ベタとなり、ドットが正確に形成されていないことが判明した。比較例7の感光体の光減衰特性は、図8の感光体Dに示すように強い露光でも光減衰が不充分であり、残留電位が大きいことが判った。また、比較例7の感光体について、評価1と同様にして黒ベタに白1ドットを書かせたデータを出力した画像を検討すると、出力された画像のドットは判別可能だが、黒ベタ部分の濃度が低くなっていた。
【0149】
(実施例14)
製造例1で作製した結晶性フタロシアニン組成物10重量部とχ型無金属フタロシアニン(大日本インキ社製Fastgen B lue 8120BS)5重量部を1,3−ジオキソラン185重量部に混合しペイントシェーカにて分散処理した後、前記構造式(8)で示されるブタジエン化合物100重量部と、ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製PCZ400)160重量部とを混合し、THFを溶剤として固形分21重量%の塗布液を調製した。この塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体として直径30mm、全長326.3mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬して引き上げ、110℃で1時間乾燥して膜厚20μmの単層型感光体を形成した。
【0150】
(実施例15)
実施例11で用いたビスアミン化合物の代わりに、下記構造式(9)で示されるヒドラゾン化合物を用いた以外は、実施例11と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0151】
【化13】
Figure 0003788924
【0152】
(比較例8)
比較例4で用いたビスアミン化合物の代わりに、前記構造式(9)で示されるヒドラゾン化合物を用いた以外は、比較例4と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0153】
(比較例9)
比較例5で用いたビスアミン化合物の代わりに、前記構造式(9)で示されるヒドラゾン化合物を用いた以外は、比較例5と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0154】
(評価4)
実施例14で作製した電子写真感光体を、市販の複写機(シャープ社製AR−N200)を1200dpi相当のドットが出力できるように改造し、さらに正帯電プロセスに改造した実験機に搭載し、解像度を検討した。パソコンにて黒ベタに白1ドットを書かせたデータ(レーザを全面走査し1ドットのみオフとするデータ)を作製し、このデータをプリンタインタフェースを介し、前記実験機に送信してプリントアウトされた出力画像を観察した。また、実施例15、比較例8および9の感光体の光減衰特性について、評価3と同様にして測定した。
【0155】
実施例14の感光体については、黒ベタ上に1ドットの白点がはっきりと確認できた。実施例14の感光体は充分な高解像度画像を出力できることが判った。実施例15の感光体の光減衰特性は、図9の感光体Eに示すように弱い露光に対しては光減衰が小さいが、強い露光に対しての光減衰はやや頭打ちになっており、比較例8からの感度向上は少ないことが判った。比較例8の感光体の光減衰特性は、図9の感光体Fに示すように弱い露光でも光減衰が大きいことが判った。比較例8の感光体について画像を検討したところ、ドットを出力させるデータを送ったにもかかわらず、出力された画像は黒ベタとなり、ドットが正確に形成されていないことが判明した。比較例9の感光体の光減衰特性は、図9の感光体Gに示すように強い露光でも光減衰が不充分であり、残留電位が大きいことが判った。比較例9の感光体について画像を検討すると、出力された画像はドットは判別可能だが、黒ベタ部分の濃度が低くなっていた。
【0156】
以上の結果より、酸化チタンを含有する下引き層および特定の結晶性フタロシアニン組成物を含有する感光層を設けることによって、小さな露光エネルギに対しても高感度である感光体(比較感光体CおよびF)ではなく、弱い露光には光減衰が少なく、強い露光に対して高感度で、完全に電位減衰し、露光エネルギに対しリニアに応答する高感度な感光体(感光体AおよびB)を提供することができる。
【0157】
また、感光体Eよりも感光体Aのほうがより強い露光エネルギに対しても高感度であることから、本発明において目的とする効果は、特定の高移動度を有する電荷輸送物質によって発揮されることがわかる。すなわち、該電荷輸送物質によって、高感度、高画質および高解像度のすべてをより満足する電子写真感光体を作製することができる。
【0158】
【発明の効果】
本発明によれば、導電性支持体と感光層との間に、酸化チタン粒子を含有する下引き層を設けるとともに、感光層中に、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、9.0°、14.1°、18.0°、23.7°および27.2°に主要なピークを持つ、チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとから成る組成物と、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.6°、9.0°、16.8°、17.3°および22.3°に主要なピークを持つχ型無金属フタロシアニンとから成り、前記特定のX線回折スペクトルを有する結晶性フタロシアニン組成物を電荷発生物質として用いることによって、弱い露光には光減衰が少なく、強い露光に対して高感度で、完全に電位減衰し、露光エネルギに対しリニアに応答する高感度な感光体を得ることができる結果、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する電子写真感光体を提供することができる。
【0159】
また本発明によれば、半導体レーザや発光ダイオード(LED)を露光光源として用い、反転現像プロセスを用いる電子写真装置において、前記電子写真感光体を搭載することによって、高感度、高画質および高解像度のすべてを満足する電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】積層型の電子写真感光体の構成例を示す断面図である。
【図2】単層型の電子写真感光体の構成例を示す断面図である。
【図3】図3(A)は、針状の酸化チタン粒子の例を示す模式図である。図3(B)は、樹枝状の酸化チタン粒子の例を示す模式図である。
【図4】浸漬塗布法において用いる浸漬塗布装置の一例を示す構成図である。
【図5】本発明による電子写真感光体を搭載したレーザプリンタ30を示す構成図である。
【図6】本発明の実施例8で得られたオキソチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトル図である。
【図7】本発明の実施例11で得られたオキソチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトル図である。
【図8】本発明の実施例および比較例の電子写真感光体における光減衰特性を示す図である。
【図9】本発明の実施例および比較例の電子写真感光体における光減衰特性を示す図である。
【符号の説明】
2 導電性支持体
3 下引き層
4,14 感光層
5 電荷発生層
6 電荷輸送層
7,18,19 バインダ樹脂
8 電荷発生物質
9 電荷輸送物質

Claims (10)

  1. 導電性支持体、導電性支持体上に形成された下引き層および下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体であって、
    下引き層は、酸化チタン粒子を含有し、
    感光層は、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、7.6°、9.0°、13.6°、16.8°および27.2°にピークを持つ結晶性フタロシアニン組成物を含有し、
    前記結晶性フタロシアニン組成物は、
    CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.0°、9.0°、14.1°、18.0°、23.7°および27.2°に主要なピークを持つ、チタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンとから成る組成物と、
    CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、少なくとも7.6°、9.0°、16.8°、17.3°および22.3°に主要なピークを持つχ型無金属フタロシアニンとから成ることを特徴とする電子写真感光体。
  2. 前記結晶性フタロシアニン組成物が、CuKα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)で、さらに7.0°に対する16.8°のピークの高さの比が2倍よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
  3. 前記χ型無金属フタロシアニンが、前記結晶性フタロシアニン組成物中に10〜70重量%含有されていることを特徴とする請求項1または2記載の電子写真感光体。
  4. 前記感光層が、少なくとも、前記結晶性フタロシアニン組成物を電荷発生物質として含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とが積層されて成ることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1記載の電子写真感光体。
  5. 前記下引き層中に含有する酸化チタン粒子が、針状および樹枝状形状のうちの少なくともいずれかの形状を有することを特徴とする請求項1〜のうちのいずれか1記載の電子写真感光体。
  6. 前記下引き層において、前記形状を有する酸化チタン粒子が、アルコール可溶性のポリアミド樹脂中に分散されていることを特徴とする請求項5記載の電子写真感光体。
  7. 前記感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(1)で示されるブタジエン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1記載の電子写真感光体。
    Figure 0003788924
    (式中、R 1 〜R 4 は置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいアラルキル基を表す。)
  8. 前記感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(2)で示されるビスアミン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1記載の電子写真感光体。
    Figure 0003788924
    (式中、R 5 およびR 6 は、各々水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、または置換基を有してもよいアミノ基を表す。R 7 は、アルキル基またはアルコキシ基を表す。)
  9. 請求項1〜8のいずれか1記載の電子写真感光体を搭載し、該電子写真感光体に対して画像露光する半導体レーザまたは発光ダイオードを備えたことを特徴とする電子写真装置。
  10. 帯電されて画像露光された電子写真感光体を、反転現像して画像を得る手段を備えたことを特徴とする請求項記載の電子写真装置。
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