JP3875863B2 - 電子写真感光体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機およびレーザープリンタなどの電子写真装置に用いられる電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電子写真感光体(以下、単に「感光体」とも称す)の光導電性素材としては、Se、CdSおよびZnO2などの無機材料が用いられていたが、毒性などに問題を有していることから、近年では無公害で成膜性に優れ、かつ材料の選択範囲の広い有機光導電性材料が用いられるようになり、これを用いた電子写真感光体の開発が盛んに行われている。該有機光導電性材料を用いた有機電子写真感光体は、バインダ樹脂中に電荷発生材料、および必要に応じて光導電性材料である電荷輸送材料を分散させた単層型と、電荷発生材料を含有する電荷発生層と電荷輸送材料を含有する電荷輸送層とを積層して機能を分離した積層型とに大別できる。
【0003】
単層型感光体は、電荷発生材料と電荷輸送材料とを共分散させた構成であり、その生産の容易さ、低コスト、および有害物質であるオゾンが発生しにくいプロセスでの使用が可能であることなどの理由から実用化されており、特公昭50−10496号公報および特開平3−65961号公報などに開示されている。たとえば、特開平3−65961号公報では、ペリレン顔料およびフタロシアニン顔料を電荷発生材料とした電子写真感光体が提案されている。一方、積層型感光体は、感光層の設計が容易で、高感度や高安定性が得られるという点から、有機電子写真感光体の主流を占めている。特公昭55−42380号公報などには、特定化合物を含有した電荷発生層と電荷輸送層とを組合せた電子写真感光体が数多く提案されており、現在では電子写真感光体の中心となっている。
【0004】
これらの現在実用化されている有機感光体において、主な課題は耐久性および安定性であり、特に、繰返し使用時の膜の電気的変化や化学的変化に起因する帯電電位の低下および残留電位の上昇などの特性変化を起こしやすいという問題がある。これらの問題は、帯電および露光による潜像作成、トナー像の転写紙への転写、ならびに感光体表面の残留トナーをブレードなどで除去するなどの過程が幾度ともなく繰返される画像形成プロセスにおいて、感光層の耐刷性が充分でないこと、画像形成プロセス中で暴露される光またはオゾンや窒素酸化物によって膜中の有機光導電性化合物の変性や分解が引起こされることが主要因である。したがって、有機感光体において、実用上充分な耐久性はまだ確保されていない。
【0005】
画像形成プロセスにおいて電子写真感光体に要求される性能は、たとえば、帯電されたときの表面電位が高く、キャリア保持率が大きく、光感度が高く、しかもあらゆる環境下においてこれらの電気特性の変動が少ないことである。また、繰返し使用における耐摩耗性に優れ、ライフを通じて電気特性の安定性が高いことも要求される。さらに、電子写真感光体は、その生産効率を向上させるために、物理的にも化学的にもより安定した感光体塗布液によって作製されることが要求される。これらの要求に対して、感光層中の電荷発生材料、電荷輸送材料、感光体の最表面層ともなる電荷輸送層に含まれるバインダ樹脂、および添加剤の開発が盛んに行われているが、下引き層や電荷発生層に含まれるバインダ樹脂、およびこれらと電荷輸送材料との組合せなどに対する研究はあまり行われていない。
【0006】
これまでに、電荷発生層に含まれるバインダ樹脂としては、汎用ブチラール樹脂およびポリエステル樹脂などが検討され、下引き層に含まれる無機微粒子粉末として、粒状酸化チタンおよび酸化錫や酸化アルミニウムの粒子などが検討されている。しかし、感光体の感度が低下したり、繰返し使用時の残留電位が上昇するなどの問題があり、粒子の分散安定性および生成電荷の分離や注入などの基本性能を充分に満足する組合せは見出されていない。特に、ポリビニルブチラール樹脂は繰返し使用に対する耐用性が不充分であり、ポリビニルブチラール樹脂を用いた感光体を高温高湿下で使用した場合には、生成した電荷がポリビニルブチラール樹脂が吸収した水分の影響を受けて電荷発生層中でトラップされ、感度の低下や残留電位の上昇が起こる。また、特許番号第2784657号明細書では、特定のバインダ樹脂を含む電荷発生層と特定のバインダ樹脂を含む電荷輸送層との組合せによる電子写真感光体が提案されているが、実用感度が不充分なだけでなく、繰返し使用時には帯電電位の低下や残留電位の上昇によって画像濃度不良や地肌かぶりが発生し、高い信頼性を有しているとはいえない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、感度特性および帯電特性に優れ、かつ繰返し使用時におけるこれらの特性の安定性が高く、実用上充分な性能を有する電子写真感光体を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、導電性基体上に、下引き層と、電荷発生材料およびバインダ樹脂を含有する電荷発生層と、電荷輸送材料およびバインダ樹脂を含有する電荷輸送層とを積層してなる電子写真感光体であって、前記下引き層は、長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上である針状の酸化チタン粒子、または長軸長aが100μm以下で短軸長bが1μm以下である樹枝状の酸化チタン粒子を含有し、前記電荷発生層のバインダ樹脂は、下記一般式(1)で示される4つの構造単位を含むブチラール樹脂を含み、前記電荷輸送層のバインダ樹脂は、下記一般式(2)で示される構造単位を有する重合体化合物を含むことを特徴とする電子写真感光体である。
【0009】
【化3】
Figure 0003875863
【0010】
(式中、R0は水素原子、メチル基またはエチル基を示し、j、k、lおよびmは整数を表す。)
【0011】
【化4】
Figure 0003875863
【0012】
(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7およびR8は、各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数4〜10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【0013】
本発明に従えば、下引き層に、長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上である針状の酸化チタン粒子、または長軸長aが100μm以下で短軸長bが1μm以下である樹枝状の酸化チタン粒子を含有することによって、感度の低下および下引き層中に電荷が蓄積されることによる残留電位の増大を回避でき、電荷輸送層に前記一般式(2)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aを含むことによって、耐摩耗性に優れ、電荷輸送材料との相溶性に優れているので、電気特性を悪化させることがない。さらに、前記一般式(1)で示される4つの構造単位を含むブチラール樹脂を電荷発生層に含むことによって、各材料の電子的な注入レベルとトラップレベルとのマッチング性、電荷輸送材料のキャリア移動度、ならびに、分子分散された電荷輸送材料の物理的および化学的相互作用に基づく優位性を反映して良好な感光体特性が得られ、感度特性および帯電特性に優れ、繰返し使用時の感度低下、帯電電位低下および残留電位上昇の少ない実用上充分な性能を有する電子写真感光体を提供することができる。
【0014】
また本発明は、前記重合体化合物が、粘度平均分子量30,000以上70,000以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明に従えば、前記重合体化合物の粘度平均分子量を30,000〜70,000にすることによって、粘度平均分子量30,000未満で耐刷性が著しく低下したり、粘度平均分子量70,000より大きくて塗布液の粘度が上昇して、電荷輸送材料との混合に長時間を要したり、塗布膜のムラが発生しやすくなって生産性が低下することを回避できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による電子写真感光体を図面により詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の一形態による積層型感光体の層構成を示す断面図である。導電性支持体1の上に、下引き層6、および、電荷発生材料2を含有する電荷発生層3と、電荷輸送材料4を含有する電荷輸送層5との積層からなる感光層20が設けられた積層型感光体である。下引き層6には特定の形状の酸化チタン粒子を含有し、電荷発生層3には特定のバインダ樹脂7を含有し、電荷輸送層5には特定のバインダ樹脂8を含有する。該積層型感光体は、導電性支持体1上に形成された下引き層6の上に、電荷発生材料2の粒子を溶剤またはバインダ樹脂7中に分散して得られた分散液を塗布して電荷発生層3を形成し、その上に電荷輸送材料4およびバインダ樹脂8を溶解した溶液を塗布して電荷輸送層5を形成し、乾燥することにより作製できる。
【0018】
導電性支持体1は、感光体の電極としての役目を果たすとともに、他の各層の支持体でもあり、その形状は、円筒状、板状、フイルム状およびベルト状のいずれでもよい。導電性支持体1の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅およびニッケルなどの金属材料、ならびに、表面にアルミニウム、銅、パラジウム、酸化錫および酸化インジウムなどの導電性層を設けたポリエステルフィルム、フェノール樹脂パイプおよび紙管などの絶縁性物質が挙げられる。体積抵抗が1010Ωcm以下の導電性を示すものが好ましく、体積抵抗を調整する目的で表面に酸化処理を施してもよい。
【0019】
下引き層6は、導電性支持体1と感光層20との間に設けられ、少なくとも針状および樹枝状のいずれかの形状の酸化チタン粒子を含有する。
【0020】
針状とは、棒状、柱状および紡錘状などを含む細長い形状を意味し、長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上の形状を指す。したがって、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。アスペクト比の平均値は、1.5以上300以下の範囲が好ましく、2以上10以下の範囲がより好ましい。この範囲よりも小さければ針状としての効果が得られにくく、またこの範囲より大きくても針状としての効果は変わらない。
【0021】
樹枝状とは、棒状、柱状および紡錘状などを含む細長い形状が枝分かれしているものを指す。樹枝状においても、細長い形状は、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。樹枝状の酸化チタン粒子の粒径は、長軸長aが100μm以下で短軸長bが1μm以下が好ましく、より好ましくは、長軸長aが10μm以下で短軸長bが0.5μm以下である。粒径がこの範囲内にない場合、金属酸化物や有機化合物によって表面処理を施しても分散安定性のある下引き層用塗布液が得られにくい。
【0022】
アスペクト比および粒径は、重量沈降法や光透過式粒度分布測定法などの方法でも測定可能であるが、針状または樹枝状であるので、直接電子顕微鏡で測定する方が好ましい。
【0023】
酸化チタン粒子は、針状または樹枝状の粒子に、粒状の粒子を混合して用いてもよい。針状、樹枝状および粒状のいずれの粒子形状の酸化チタンについても、結晶形としては、アナターゼ型、ルチル型およびアモルファスなどがあり、いずれを用いてもよく、また2種以上混合して用いてもよい。
【0024】
前記針状または樹枝状の酸化チタン粒子の含有率としては、10重量%以上99重量%以下が好ましく、より好ましくは30重量%以上99重量%以下であり、最も好ましくは35重量%以上95重量%以下の範囲である。10重量%より少ない含有率であれば、感度が低下し、下引き層中に電荷が蓄積されて残留電位が増大する。特に低温低湿下での繰返し特性において顕著になる。99重量%より多い含有率であれば、下引き層用塗布液の保存安定性が悪くなり、酸化チタン粒子の沈降が起こりやすくなるので好ましくない。
【0025】
下引き層用塗布液には、バインダ樹脂が含有されていることが好ましい。バインダ樹脂を前記針状または樹枝状の酸化チタン粒子が含有された下引き層用塗布液に含有することによって、下引き層用塗布液中の酸化チタンの分散性が長期間保持され、下引き層として均一な膜を形成することができるからである。
【0026】
酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値については、105〜1010Ωcmが好ましい。粉体の体積抵抗値が105Ωcmより小さくなると、下引き層としての抵抗値が低下し、電荷ブロッキング層として機能しなくなる。たとえば、アンチモンをドープした酸化錫導電層などの導電処理を施した金属酸化物粒子の場合には、100〜101Ωcmと非常に粉体の体積抵抗値が低くなる。これを用いた下引き層は電荷ブロッキング層として機能せず、感光体特性としての帯電性が悪化し、画像にカブリや黒点が発生するので、使用することはできない。また、酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値が1010Ωcmより高くなり、下引き層に含有されるバインダ樹脂の体積抵抗値と同等またはそれ以上になると、下引き層としての抵抗値が高過ぎて、光照射時に生成した電荷の輸送が抑制または阻止され、残留電位が上昇して光感度が低下するので好ましくない。
【0027】
針状または樹枝状の酸化チタン粒子の表面は、該酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値を前述の範囲に維持する限り、金属酸化物で被覆されていることが好ましい。表面未処理の酸化チタン粒子を用いると、粒子が微粒子であるので、充分に分散された下引き層用塗布液であっても、長期間の使用や塗布液の保管時に酸化チタン粒子の凝集が避けらない。この下引き層用塗布液を用いると、下引き層6を形成する際に、塗布膜の欠陥や塗布ムラが発生して画像欠陥が生じる。また、導電性支持体1からの電荷の注入が起こりやすくなるので、微小領域の帯電性が低下して黒点が発生する。酸化チタン粒子の表面を金属酸化物で被覆させることによって酸化チタンの凝集を防止することができ、分散性や保存安定性が非常に優れた下引き層用塗布液が得られる。このような下引き層用塗布液を用いれば、導電性支持体1からの電荷の注入を防止することができるので、黒点のない優れた画像特性を有する電子写真感光体が得られる。
【0028】
前記金属酸化物としては、Al23、ZrO2およびそれらの混合物が好ましい。特に、異なる金属酸化物であるAl23とZrO2との両方で表面処理を施すと、さらに優れた画像特性が得られるので、より好ましい効果が発現される。SiO2などで表面処理を施した場合は、その表面が親水性を示すために有機溶剤になじみにくくなるので、酸化チタンの分散性が低下して凝集が起こりやすく、長期間の使用には好ましくない。また、Fe23などの磁性を持つ金属酸化物で表面処理を施した酸化チタンを用いると、感光層中に電荷発生材料としてフタロシアニン顔料を含有する場合に、フタロシアニン顔料とFe23との化学的な相互作用が起こり、感光体特性、特に感度低下および帯電性の低下が生じるので好ましくない。
【0029】
前記金属酸化物として用いられるAl23やZrO2による表面処理量としては、酸化チタンに対して0.1重量%〜20重量%が好ましい。0.1重量%より少ない処理量であれば、酸化チタンの表面を充分に被覆することができないので、表面処理の効果が発現しにくくなる。20重量%を超える処理量であれば、表面処理としては充分に施されるが、特性としては20重量%の処理量と変わらないので、20重量%を超える処理量にしてもコストがかかるだけで好ましくない。
【0030】
針状または樹枝状の酸化チタン粒子の表面は、有機化合物で被覆してもよい。該有機化合物としては、一般的なカップリング剤を用いることができる。カップリング剤の種類としては、アルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ハロゲン、窒素および硫黄などの原子がケイ素と結合したシリル化剤、チタネート系カップリング剤、ならびにアルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
【0031】
前記シランカップリング剤としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシランおよびN−3−(アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0032】
前記シリル化剤としては、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシランおよびフェニルトリクロロシランなどのクロロシラン類、ならびに、ヘキサメチルジシラザンおよびオクタメチルシクロテトラシラザンなどのシラザン類が挙げられる。
【0033】
前記チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートおよびビス(ジオクチルパイロホフェート)などが挙げられる。前記アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどが挙げられる。前記カップリング剤は、これらの具体例に限定されるものではない。これらのカップリング剤は、酸化チタン粒子に表面処理を施したり、分散剤として使用することもでき、その場合には、単独で、または2種以上を併用して使用してもよい。
【0034】
酸化チタン粒子に表面処理を施す方法は、前処理法とインテグラルブレンド法とに大別され、さらに前処理法としては湿式法と乾式法とに分けられる。前記湿式法は、水処理法と溶媒処理法とに分けられ、該水処理法としては、直接溶解法、エマルジョン法およびアミンアダクト法などの公知の方法を用いることができる。
【0035】
酸化チタン粒子の表面をカップリング剤で処理する場合にはその処理の前後において、また、カップリング剤を分散剤として有機溶剤中に添加する場合のいずれにおいても、酸化チタン粒子の粉体の体積抵抗値を前述の範囲に維持する限り、酸化チタン粒子の表面は未処理でもよく、Al23、ZrO2およびその混合物などの金属酸化物で被覆させていてもよい。
【0036】
下引き層6に含有されるバインダ樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミドおよびポリアミドなどの樹脂を用いることができ、好ましくはポリアミド樹脂が用いられる。この理由は、ポリアミド樹脂が、下引き層6の上に感光層20を形成するための感光層用塗布液に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などを起こさず、導電性支持体1との接着性に優れ、可撓性を有することなど、バインダ樹脂の特性として必要とされる性質を有するからである。ポリアミド樹脂のうち、より好ましくはアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いることができる。たとえば、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロンおよび12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびに、N−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させたタイプなどがある。
【0037】
下引き層用塗布液に使用される有機溶剤としては、一般的な有機溶剤を使用することができる。ただし、バインダ樹脂として、より好ましいポリアミド樹脂であるアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いる場合には、炭素数1〜4の低級アルコール群から選ばれた単独系もしくは混合系の有機溶剤、または、前述の低級アルコール群から選ばれた有機溶剤に、たとえば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トルエン、テトラヒドロフランおよび1,3−ジオキソランなどの低級アルコール以外の有機溶剤からなる群から選ばれた有機溶剤を混合した混合系の有機溶剤を使用することが好ましい。低級アルコール群から選ばれた有機溶剤に低級アルコール以外の有機溶剤を混合することにより、低級アルコール群の有機溶剤のみを使用するよりも酸化チタンの分散性が改善され、塗布液の保存安定性(下引き層用塗布液の作製からの経過日数を以下、「ポットライフ」と称す)の長期化や塗布液の再生が可能となる。また、下引き層用塗布液中に導電性支持体1を浸漬して塗布により下引き層6を形成する際には、下引き層6の塗布欠陥やムラが防止され、その上に形成される感光層20が均一に塗布できるので、膜欠陥のない非常に優れた画像特性を有する電子写真感光体を作製することができる。
【0038】
下引き層用塗布液の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などによる方法がある。下引き層用塗布液の塗布方法としては、前述の浸漬塗布法などの一般的な方法が適用できる。
【0039】
下引き層6の膜厚は、好ましくは0.01μm以上20μm以下、より好ましくは0.05μm以上10μm以下の範囲である。下引き層6の膜厚が0.01μmより薄ければ実質的に下引き層として機能しなくなる。すなわち、導電性支持体1の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることができず、導電性支持体1からの電荷の注入を防止することができなくなり、帯電性の低下が生じる。また、下引き層6の膜厚を20μmよりも厚くすることは、下引き層6を浸漬塗布する場合、感光体の製造が難しくなり、感光体の感度が低下するので好ましくない。
【0040】
電荷発生層3は、従来公知の電荷発生材料2および特定のバインダ樹脂7を含んで構成される。
【0041】
特定のバインダ樹脂7は、下記一般式(1)で示されるブチラール樹脂である。
【0042】
【化5】
Figure 0003875863
【0043】
(式中、R0は水素原子、メチル基またはエチル基を示し、j、k、lおよびmは整数を表す。)
【0044】
前記一般式(1)中、j、k、lおよびmは、各構造単位の相対含有量を示すことになる。その相対含有量は、特に限定されるものではなく、前記一般式(1)に示す4つの構造単位が含まれていればよい。
【0045】
前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂は、前述の酸化チタン粒子と、後述する電荷輸送層のバインダ樹脂との併用によって、感光体感度を良好にし、繰返し使用時の帯電電位の低下や残留電位の上昇を抑えることができる。
【0046】
本発明の実施の形態において適当な電荷発生材料2としては、光を吸収してフリー電荷を発生するものであれば、無機顔料、有機顔料および有機染料のいずれをも用いることができる。無機顔料としては、セレンおよびその合金、ヒ素−セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛、アモルファスシリコン、ならびにその他の無機光導電体が挙げられる。有機顔料としては、フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、キナクリドン系化合物、多環キノン系化合物およびペリレン系化合物などが挙げられる。有機染料としては、チアピリリウム塩およびスクアリリウム塩などが挙げられる。本発明の実施の形態における電荷発生材料2として、好ましくは有機顔料および有機染料などの前記有機光導電性化合物を用いる。これらの中でもフタロシアニン系化合物が好適であり、特にチタニルフタロシアニン化合物を用いることがより好ましい。チタニルフタロシアニン化合物を用いることによって、特に良好な感度特性、帯電特性および繰返し特性が得られる。
【0047】
これら列挙した顔料および染料の他に、電荷発生層3には、化学増感剤または光学増感剤を添加してもよい。化学増感剤としては、電子受容性材料、たとえば、テトラシアノエチレンおよび7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンなどのシアノ化合物、アントラキノンおよびp−ベンゾキノンなどのキノン類、ならびに、2,4,7−トリニトロフルオレノンおよび2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどのニトロ化合物が挙げられる。光学増感剤としては、キサンテン系色素、チアジン色素およびトリフェニルメタン系色素などの色素が挙げられる。
【0048】
また、電荷発生層3には、必要に応じて、塗布性を改善するためのレベリング剤、酸化防止剤および増感剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0049】
電荷発生層3は、前述の電荷発生材料2を前記バインダ樹脂7とともに、適当な溶剤中に分散させ、下引き層6の上に塗布し、乾燥または硬化させて成膜し、形成する。
【0050】
溶剤としては、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロルベンゼンおよびエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。これら以外の溶剤でもよく、アルコール系、ケトン系、アミド系、エステル系、エーテル系、炭化水素系、塩素化炭化水素系および芳香族系のいずれの溶剤系を、単独で、または混合して用いてもよい。ただし、電荷発生材料2の粉砕およびミリング時の結晶転移に基づく感度低下、ならびにポットライフによる特性低下を考慮した場合、両顔料において結晶転移を起こしにくい溶剤であるシクロヘキサノン、1,2-ジメトキシエタン、メチルエチルケトンおよびテトラヒドロキノンのいずれかを用いることが好ましい。
【0051】
電荷発生層3の形成方法としては、一般に真空蒸着法、スパッタリング法およびCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの気相堆積法、ならびに塗布法を適用する。該塗布法は、電荷発生材料2をボールミル、サンドグラインダ、ペイントシェーカおよび超音波分散機などによって粉砕して溶剤に分散し、前記バインダ樹脂7を加えて調製した塗布液を下引き層6の上に塗布する。たとえば、導電性支持体1がシートの場合にはベーカアプリケータ、バーコータ、キャスティングおよびスピンコートなど、導電性支持体1がドラムの場合にはスプレイ法、垂直型リング法および浸漬塗布法などにより塗布する。特に浸漬塗布法は、量産性に優れているので好ましい。
【0052】
電荷発生層3の膜厚は、約0.05〜5μmが好ましく、より好ましくは約0.1〜1μmである。
【0053】
電荷輸送層5は、電荷発生層3の上に設けられ、電荷発生材料2で発生した電荷を受け入れ、これを輸送する能力を有する電荷輸送材料4および特定のバインダ樹脂8を必須成分として含有する。
【0054】
特定のバインダ樹脂8は、下記一般式(2)で示される構造単位を有する重合体化合物であるポリカーボネート樹脂Aである。
【0055】
【化6】
Figure 0003875863
【0056】
(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7およびR8は、各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数4〜10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。)
前記一般式(2)で示される構造単位の具体例を表1に示す。
【0057】
【表1】
Figure 0003875863
【0058】
ポリカーボネート樹脂Aは、構造が非対称であるので、結晶化しにくく、生産効率がよい。また、嵩張る基がないので、溶液から乾固させる際には密に充填して強固に成膜することができ、耐摩耗性に優れている。さらに、電荷輸送材料4との相溶性に優れているので、電気特性を悪化させることがない。
【0059】
ポリカーボネート樹脂Aの分子量としては、感光体の電気特性、繰返し安定性および耐刷性の面から、粘度平均分子量が30,000〜70,000であることが好ましい。粘度平均分子量が30,000未満の場合、電荷輸送材料3との相溶性が高く、電気特性の繰返し安定性に優れるが、耐刷性の低下が著しくなる。70,000より大きい場合、耐刷性は向上するが、電荷輸送層用塗布液の粘度が上昇し、電荷輸送材料4との混合に長時間を要したり、塗布膜のムラが発生しやすくなり、生産性が低下する。
【0060】
また、ポリカーボネート樹脂Aは、下記一般式(3)で示される構造単位を有する重合体化合物であるポリカーボネート樹脂Bと混合して用いてもよい。
【0061】
【化7】
Figure 0003875863
【0062】
(式中、R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15およびR16は、各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数4〜10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。Zは、置換基を有してもよい炭素環または置換基を有してもよい複素環を形成するために必要な原子群である。)
前記一般式(3)で示される構造単位の具体例を表2に示す。
【0063】
【表2】
Figure 0003875863
【0064】
ポリカーボネート樹脂Bは、ガス透過率が小さいので、オゾンおよびNOxなどの感光体特性を劣化させるガスの浸透を防ぐことができる。また、電荷輸送材料4との相溶性に優れ、耐久性にも優れている。
【0065】
ポリカーボネート樹脂Bの分子量としては、粘度平均分子量が15,000〜35,000であることが好ましい。粘度平均分子量が15,000未満の場合、帯電プロセスにて発生されるオゾンやNOxなどによるハーフトーン(HT)白抜けおよび黒帯などが抑えられて画像安定性は向上するが、耐刷性の低下が著しくなり、35,000より大きい場合、耐刷性は向上するが、初期感度の低下、繰返し使用時の残留電位の上昇および画像安定性の低下が大きくなる。
【0066】
ポリカーボネート樹脂AおよびBを混合したものは電荷輸送材料4との相溶性に優れ、耐久性にも優れている。ポリカーボネート樹脂Bを加えることによって、帯電プロセスにて発生されるオゾンおよびNOxなどの活性種による画像不良の発生が抑えられる。
【0067】
ポリカーボネート樹脂Aとポリカーボネート樹脂Bとの混合比率A/Bとしては、重量比でA/Bが2/8〜8/2の範囲であることが好ましい。A/Bが2/8より小さい、すなわちポリカーボネート樹脂Aの比率が低い場合には、所望の機械的強度が得られず、感光体表面に傷が発生しやすくなる。逆に、A/Bが8/2より大きい、すなわちポリカーボネート樹脂Bの比率が低い場合には、オゾンやNOxなどによって感光体特性が劣化し、画像にHT白抜けや黒帯が発生しやすくなる。
【0068】
電荷輸送材料4としては、電子供与性物質または電子受容性物質が用いられる。電子供与性物質としては、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、テトラフェニルジアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物および3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物などが挙げられる。電子受容性物質としては、フルオレノン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、インデノチオフェン誘導体、フェナンスレンキノン誘導体、インデノピリジン誘導体、チオキサントン誘導体、ベンゾ[c]シンノリン誘導体、フェナジンオキサイド誘導体、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、ブロマニル、クロラニルおよびベンゾキノンなどが挙げられる。特に、下記一般式(4)で示されるブタジエン系化合物、下記一般式(5)で示されるスチリル系化合物および下記一般式(6)で示されるアミン系化合物は、電荷輸送能力が高いので、バインダ樹脂8の比率が高い状態でも高感度を維持でき、より好適である。
【0069】
【化8】
Figure 0003875863
【0070】
(式中、Ar1,Ar2,Ar3およびAr4は、各々置換基を有してもよいアリール基を表し、Ar1〜Ar4のうちの少なくとも1つは置換基として置換アミノ基を有するアリール基である。nは0または1を表す。)
【0071】
【化9】
Figure 0003875863
【0072】
(式中、Ar5は、置換基を有してもよいアリール基、Ar6は、置換基を有してもよいフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基またはアントリレン基を表す。R17は、水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基を表す。Xは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を表す。Yは、置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【0073】
【化10】
Figure 0003875863
【0074】
(式中、R18,R19,R20,R21,R22およびR23は、各々水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を表し、p,q,tおよびuは各々1〜5の整数、rおよびsは各々1〜4の整数を表す。)
【0075】
前記一般式(4)で示されるブタジエン系化合物の具体例を表3および4に示す。
【0076】
【表3】
Figure 0003875863
【0077】
【表4】
Figure 0003875863
【0078】
前記一般式(5)で示されるスチリル系化合物の具体例を表5〜8に示す。
【表5】
Figure 0003875863
【0079】
【表6】
Figure 0003875863
【0080】
【表7】
Figure 0003875863
【0081】
【表8】
Figure 0003875863
【0082】
前記一般式(6)で示されるアミン系化合物の具体例を表9および10に示す。
【0083】
【表9】
Figure 0003875863
【0084】
【表10】
Figure 0003875863
【0085】
電荷輸送層5は、これらの電荷輸送材料4が、前記ポリカーボネート樹脂Aなどのバインダ樹脂8に結着した形で形成される。
【0086】
電荷輸送層5において、前記電荷輸送材料4(C)と前述のバインダ樹脂8(D)との比率C/Dは、重量比で、一般的に用いられる10/5〜10/25程度とするが、耐摩耗性向上の観点からは10/15〜10/24が好適である。C/Dが10/15より大きい、すなわち電荷輸送材料4の比率が高い場合には、光感度特性は良好であるが、帯電特性および膜の機械的強度が低下したり、帯電プロセスにて発生されるオゾンやNOxなどによってHT白抜けや黒帯が発生し、画像安定性が低下する。C/Dが10/24より小さい、すなわちバインダ樹脂8の比率が高い場合には、逆に、帯電特性、機械的強度および画像安定性は良好であるが、光感度特性の低下が著しくなる。
【0087】
電荷輸送層5には、成膜性、可撓性および塗布性などを向上させるために、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤およびレベリング剤などの添加剤を含有させてもよい。前記酸化防止剤としては、一般に樹脂などに添加して利用される酸化防止剤をそのまま使用することができる。たとえば、ビタミンE、ハイドロキノン、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄化合物ならびに有機燐化合物などを用いることができる。前記レベリング剤としては、シリコンオイル類または側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーもしくはオリゴマーが使用でき、使用量はバインダ樹脂8の100重量部に対し、1重量部以下が好ましい。
【0088】
電荷輸送層5は、前述の電荷輸送材料4、バインダ樹脂8および添加剤を適当な溶剤に溶解または分散させて塗布液を作製し、該塗布液を前述の下引き層6および電荷発生層3と同様の方法を用いて、電荷発生層3上に塗布することにより形成される。溶剤としては、電荷発生材料2を分散させる溶剤として列挙した前述の溶剤の中から選択できる。たとえば、メタノールおよびエタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類、エチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどのエーテル類、クロロホルム、ジクロロエタンおよびジクロロメタンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素、ベンゼン、クロロベンゼンおよびトルエンなどの芳香族炭化水素類などが用いられる。特に好ましい溶剤は、テトラヒドロフランである。
【0089】
電荷輸送層用の塗布液は、電荷輸送材料4、バインダ樹脂8および添加剤を計量し、所定量の前記溶剤に同時に溶解させる一般的な方法によって調製してもよいが、バインダ樹脂8を溶剤中に溶解させた後に電荷輸送材料4および添加剤を投入して溶解させる方法が特に好ましい。この方法によれば、バインダ樹脂8への電荷輸送材料4の分子分散性が向上し、膜中での潜在的かつ局所的な電荷輸送材料4の結晶化が抑制されることにより、初期感度の向上、繰返し使用時の電位安定性、良好な画像特性などが付与される。
【0090】
電荷輸送層6の膜厚は、約10〜50μmが好ましく、より好ましくは約10〜35μmである。
【0091】
感光層20の上には、必要であれば感光層表面を保護するために保護層を設けてもよい。表面保護層には、熱可塑性樹脂、および、光または熱硬化性樹脂を用いることができる。保護層中に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属酸化物などの無機材料、有機金属化合物および電子受容性物質などを含有させても構わない。また、保護層には、感光層20と同様に、必要に応じて二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステルおよび塩素化パラフィンなどの可塑剤を混合させて、加工性および可塑性を付与して機械的物性の改良を施してもよく、レベリング剤などの添加剤を混合しても構わない。
【0092】
前述の針状または樹枝状の酸化チタン粒子を含有する下引き層6と、前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂を含む電荷発生層3と、前記ポリカーボネート樹脂Aを含む電荷輸送層5とを組合せることによって、良好な感光体特性を得ることができる。この理由は明らかではないが、各材料の電子的な注入レベルとトラップレベルとのマッチング性、電荷輸送材料4の電荷移動度、ならびに、分子分散された電荷輸送材料4の物理的および化学的相互作用に基づく優位性を反映しているものと考えられる。
【0093】
(実施例)
以下に実施例を挙げて、本発明による電子写真感光体を具体的に説明するが、その趣旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
(実施例1)
針状の表面未処理である酸化チタン(堺化学社製STR−60N)5重量部と共重合ナイロン樹脂(東レ社製CM8000)5重量部とを、テトラヒドロフラン90重量部に加え、ペイントシェーカを用いて12時間分散させ、固形分10重量%の下引き層用塗布液を調製した。調製した下引き層用塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体として直径30mm、全長322.3mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬し、引上げて自然乾燥して膜厚1μmの下引き層を形成した。
【0095】
次いで、チタニルフタロシアニン1重量部と、前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂(電気化学工業社製#6000−C)1重量部とを、1,3−ジオキソラン98重量部に加え、直径2mmのガラスビーズを分散助剤としてペイントコンディショナ装置(レッドレベル社製)にてミリング処理して電荷発生層用塗布液を調製した。調製した電荷発生層用塗布液を前述の下引き層と同様の方法で先に設けた下引き層上に塗布した後、自然乾燥して膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0096】
次いで、表3に示した構造式(4−2)で示されるブタジエン化合物(アナン社製T405)100重量部と、表1に示した構造式(2−1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂80重量部と、表2に示した構造式(3−1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製PCZ200)80重量部と、2,6−ビス−tert−ブチル−4−メチルフェノール(住友化学社製スミライザーBHT)5重量部とを混合し、テトラヒドロフランを溶剤として固形分21重量%の電荷輸送層用塗布液を調製した。調製した電荷輸送層用塗布液を前述の下引き層と同様の方法で先に設けた電荷発生層上に塗布した後、110℃で1時間乾燥して膜厚21μmの電荷輸送層を形成した。
【0097】
このようにして図1に示した層構成を有する積層型の電子写真感光体を作製した。
【0098】
(実施例2)
針状の表面未処理である酸化チタンに代えて、針状でAl23およびZrO2で表面処理された酸化チタン(石原産業社製TTO−M−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0099】
(実施例3)
針状の表面未処理である酸化チタンに代えて、樹枝状でAl23およびZrO2で表面処理された酸化チタン(石原産業社製TTO−D−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0100】
(実施例4)
電荷輸送層用のバインダ樹脂において、構造式(2−1)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量50,000のものに代えて、粘度平均分子量25,000のものを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0101】
(実施例5)
電荷輸送層用のバインダ樹脂において、構造式(2−1)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量50,000のものに代えて、粘度平均分子量75,000のものを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0102】
しかし、電荷輸送層用塗布液が高粘度になり、膜厚ムラが発生したので、導電性支持体として、アルミニウム製のドラム状支持体に代えて、アルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ100μm)を用い、この上に、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層をアプリケータにて塗布した後、乾燥して電子写真感光体を作製した。膜厚および乾燥条件は実施例1と同様にした。作製した電子写真感光体を実施例1で用いたものと同じ形状および大きさのドラム状支持体に貼り付け、評価用電子写真感光体とした。
【0103】
(実施例6)
電荷輸送層用のバインダ樹脂において、構造式(2−1)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量50,000のものに代えて、粘度平均分子量30,000のものを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0104】
(実施例7)
電荷輸送層用の電荷輸送材料として、構造式(4−2)で示されるブタジエン化合物に代えて、表6に示した構造式(5−8)で示されるスチリル系化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0105】
(実施例8)
電荷輸送層用の電荷輸送材料として、構造式(4−2)で示されるブタジエン化合物に代えて、表9に示した構造式(6−1)で示されるアミン系化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0106】
(実施例9)
電荷輸送層用の電荷輸送材料として、構造式(4−2)で示されるブタジエン化合物に代えて、4−ジベンジルアミノ−2−メチルベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾンを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0107】
(実施例10)
電荷輸送層用のバインダ樹脂として、構造式(2−1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂160重量部のみを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0108】
(比較例1)
針状の表面未処理である酸化チタンに代えて、粒状の表面未処理である酸化チタン(石原産業社製TTO−55N)を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0109】
(比較例2)
電荷輸送層用のバインダ樹脂として、下記構造式(7)で示される構造単位を有する変性ポリカーボネート樹脂160重量部のみを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0110】
【化11】
Figure 0003875863
【0111】
(比較例3)
電荷輸送層用のバインダ樹脂として、構造式(3−1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製PCZ200)160重量部のみを用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0112】
(比較例4)
電荷発生層用のバインダ樹脂として、前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂に代えて、下記構造式(8)で示されるブチラール樹脂(積水化学社製S−LEC BL−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0113】
【化12】
Figure 0003875863
【0114】
(比較例5)
電荷発生層用のバインダ樹脂として、前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂に代えて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業社製SOLBINA)を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0115】
(評価)
以上の実施例1〜10ならびに比較例1〜5で作製した電子写真感光体を、評価用複写機として市販の複写機(シャープ社製AR−255FP)に搭載し、ハーフトーン画像を確認して、初期の画像特性を評価した。
【0116】
また、評価用複写機の現像部位から現像槽を取出し、代わりに表面電位計(Trek社製Model344)をセットし、白ベタ原稿複写時の表面電位V0、ハーフトーン原稿複写時の表面電位VH、黒ベタ原稿複写時の表面電位VLを測定し、電気特性を評価した。
【0117】
さらに、A4用紙3万枚のコピーを行った後、初期と同様にハーフトーン画像の確認および表面電位の測定を行い、繰返し使用による変化から耐久性を評価した。また、繰返し使用後の感光層の膜厚を測定して摩耗量を求めた。
これらの結果を表11に示す。
【0118】
【表11】
Figure 0003875863
【0119】
実施例1〜10と比較例1〜5とから、実施例の電子写真感光体は、下引き層に針状や樹枝状の酸化チタンを含有し、電荷発生層に前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂を含み、電荷輸送層に前記一般式(2)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aを含むので、比較例に比べ、画像特性および電気特性が良好であることが判った。
【0120】
具体的には、下引き層に針状や樹枝状の酸化チタンを用いていない比較例1の感光体は、初期感度は良好であったが、3万枚の繰返しコピーによって、良好な画像が得られなくなった。電荷輸送層にポリカーボネート樹脂Aを用いていない比較例2の感光体では、ブレードや紙などとの摩擦によって感光体表面に傷が多発し、繰返し使用すると、画像特性が悪化することが判った。また、電荷輸送層に前記一般式(3)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Bのみを用い、ポリカーボネート樹脂Aを用いていない比較例3の感光体は、低感度で、画像を調整しても良好な画像を得ることができなかった。電荷発生層に前記一般式(1)で示されるブチラール樹脂を用いていない比較例4および5の感光体は、低感度で、画像を調整しても良好な画像を得ることができず、3万枚の繰返しコピーによって、さらに画像が悪化した。
【0121】
なお、実施例4では、ポリカーボネート樹脂Aの粘度平均分子量が小さいので、摩耗量が若干多くなった。また、実施例5では、ポリカーボネート樹脂Aの粘度平均分子量が大きいので、感光体を作製する際に浸漬塗布が困難であった。このような場合には、アプリケータ塗布およびスプレイ塗布などでの作製が必要である。実施例9では、電荷輸送材料として、前記一般式(4)で示されるブタジエン系化合物、前記一般式(5)で示されるスチリル系化合物または前記一般式(6)で示されるアミン系化合物を用いていないので、感度が若干低く、露光調整が必要であった。実施例10では、ポリカーボネート樹脂Bを混合していないので、3万枚の繰返しコピーによって、オゾンやNOxに暴露された部分が劣化し、若干の画像ムラが発生したが、感光体表面に傷は発生せず、電位特性も安定していた。
【0122】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上である針状の酸化チタン粒子、または長軸長aが100μm以下で短軸長bが1μm以下である樹枝状の酸化チタン粒子を含有する下引き層と、一般式(1)で示される4つの構造単位を含むブチラール樹脂を含む電荷発生層と、一般式(2)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aを含む電荷輸送層とを組合せることによって、各材料の電子的な注入レベルとトラップレベルとのマッチング性、電荷輸送材料のキャリア移動度、ならびに、分子分散された電荷輸送材料の物理的および化学的相互作用に基づく優位性を反映して良好な感光体特性が得られ、感度特性および帯電特性に優れ、繰返し使用時の感度低下、帯電電位低下および残留電位上昇の少ない実用上充分な性能を有する電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態による積層型感光体を示す断面図である。
【符号の説明】
1 導電性支持体
2 電荷発生材料
3 電荷発生層
4 電荷輸送材料
5 電荷輸送層
6 下引き層
7,8 バインダ樹脂
20 感光層

Claims (2)

  1. 導電性基体上に、下引き層と、電荷発生材料およびバインダ樹脂を含有する電荷発生層と、電荷輸送材料およびバインダ樹脂を含有する電荷輸送層とを積層してなる電子写真感光体であって、
    前記下引き層は、長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上である針状の酸化チタン粒子、または長軸長aが100μm以下で短軸長bが1μm以下である樹枝状の酸化チタン粒子を含有し、
    前記電荷発生層のバインダ樹脂は、下記一般式(1)で示される4つの構造単位を含むブチラール樹脂を含み、
    前記電荷輸送層のバインダ樹脂は、下記一般式(2)で示される構造単位を有する重合体化合物を含むことを特徴とする電子写真感光体。
    Figure 0003875863
    (式中、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示し、j、k、lおよびmは整数を
    表す。)
    Figure 0003875863
    (式中、R,R,R,R,R,R,RおよびRは、各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数4〜10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。)
  2. 前記重合体化合物が、粘度平均分子量30,000以上70,000以下であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
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