JP3778088B2 - スクリーン紗用芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はスクリーン印刷用メッシュ織物に好適な、さらに詳しくは高度な精密印刷に用いられる、ハイメッシュでハイモジュラスなスクリーン紗織物を得るのに好適な、優れた寸法安定性、スカムおよび節糸抑制効果を有し、高強度、高モジュラスであり細デニール化に対応できるポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
印刷用のスクリーン織物としては、従来は絹などの天然繊維やステンレスなどの無機繊維から成るメッシュ織物が広く使用されてきたが、最近は柔軟性や耐久性があり、かつ寸法安定性もあるナイロンやポリエステルなどの有機繊維から成るメッシュ織物、即ちスクリーン紗が使用されることが多くなってきている。このうち特にポリエステルモノフィラメントからなるスクリーン紗織物は、ナイロンからなるものと比較して水分の影響も少なく、また価格面からも有利であるため広く使用されてきている。
【0003】
しかしながら、最近の家電向け電子回路の印刷分野などにおいては、印刷精度向上に対する要求が厳しくなってきていることから、メッシュがより細かく紗張りなどにおいて、伸びの少ない寸法安定性に優れたスクリーン紗が要求されてきている。すなわち、スクリーン紗用原糸に対しては細デニール化、高強度、高モジュラス化が求められている。
【0004】
一般にポリエステル繊維を高強度、高モジュラス化するためには、原糸の製造過程において高倍率で延伸を行い、高配向、高結晶化すれば良いことがわかっているが、スクリーン紗の製造工程は高密度の織物を高速で製織するため、極めて多数回、筬などの強い摩擦にさらされることとなり、表面の結晶化の進行と相まってフィラメントの表面に一部が削り取られヒゲ状の、あるいは粉状のかす、いわゆるスカムが発生しやすいが、この現象は高結晶化したものほど重度となる傾向にある。このスカムは量的には少量でも、織機に飛散しその一部はスクリーン紗織物の中に取り込まれる危険性がある。こうなると精密印刷用のハイメッシュ織物においては、メッシュの詰まりという致命的な欠陥になる恐れがあり、スカムの発生防止はスクリーン紗においては重要な課題である。
【0005】
このために、スカムの発生の軽減、防止を目的として多くの改善技術が提案されている。例えば、特開昭55−16948号公報には破断伸度が35%〜60%という高伸度糸を用いる事が提案されている。しかしながら、高伸度ということは、すなわち低倍率延伸を行うということであり、必然的に低強度、低モジュラスということになる。つまりここで提案されているこの従来技術ではスカムの発生を軽減させることを優先させているために、高強度、高モジュラスという特性を犠牲にしているものである。これではハイメッシュ化の要求に沿って細デニール化した際に強力が不足することとなり、製織性が低下するばかりか、紗伸びなどが発生し寸法安定性の悪化を招き、精密印刷には不適なものとなってしまう。
【0006】
また、特開平1−132829号公報にはポリエステルを芯に、削れに対してポリエステルよりも耐久性のあるナイロンを鞘に使用する芯鞘複合繊維が提案されている。確かにナイロンはポリエステルに比べて削れの発生が少ないことがわかっており、スカム発生の抑制という面では有利ではある。しかしながら一方でナイロンはポリエステルに比べて吸湿性が高く、寸法安定性が低いという欠点を持っている。このためナイロンを鞘に使用した芯鞘複合繊維では、スカムの発生は軽減できるものの、精密印刷に欠かすことのできない寸法安定性に乏しいという事になる。
【0007】
また、精密印刷向けスクリーン紗織物についてはスカムと同様繊維直径に対して10%以上太い部分、いわゆる節糸と呼ばれるものも致命的な欠点でありこの改善が望まれている。
【0008】
このように従来の技術では、精密印刷向けのスクリーン紗織物を得るために必要な特性、すなわち高強度、高モジュラスで寸法安定に優れ、かつスカム発生および節糸発生のない、細デニール化への対応可能な特性を持つポリエステルモノフィラメントは得られなかったのである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前述の問題点を改良し、従来のモノフィラメントでは得られなかった高い強度と優れた寸法安定性、スカムおよび節糸抑制効果を有し、より細デニール化に対応できる精密印刷に好適なスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記した本発明の目的は、芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントにおいて、下記A〜Eを満足することを特徴とするスクリーン紗用芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントで達成することができる。
A.芯成分に用いるポリエステルの極限粘度が0.70以上であり、且つ鞘成分に用いるポリエステルの極限粘度より高く、その差が0.15〜0.30の範囲にあること。
B.ポリエステルモノフィラメントの強度が5.5cN/dtex以上であること。
C.ポリエステルモノフィラメントの糸−鏡面の走行糸摩擦係数が0.40以下であること。
D.ポリエステルモノフィラメント繊維長手方向10万メートルで繊維直径に対し10%以上太い節部が1個以下であること。
E.芯成分および鞘成分に用いるポリエステルがいずれも共重合成分を含まないこと。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、その横断面において芯成分が鞘成分により覆われ芯成分が表面に露出していないように配置された芯鞘型複合モノフィラメントである。ここで芯鞘型とは芯成分が鞘成分により完全に覆われていれば良く、必ずしも同心円状に配置されている必要はない。なお断面形状については丸、扁平、三角、四角、五角など幾つもの形状があるが、安定した製糸性および高次加工性を得やすいという点や、スクリーン紗の目開きの安定性などより丸断面が好ましい。
【0012】
本発明の芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントにおいて、芯成分および鞘成分はいずれもポリエステルであればいずれでも良いが、共重合成分を含まないものであり、製織時の繊維状スカム発生を抑制するものである。共重合成分を含んだ場合、共重合成分を含まない場合に比較して、目的の原糸強度を得るための延伸倍率が高くなり、結果的に鞘成分の繊維配向性が過剰に高くなるために、スルーザー製織機でのスクリーン紗製織時に繊維状スカムが発生しやすくなる。なお、ポリエステルには酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、帯電防止剤、耐光剤等が添加されても勿論良い。また、物性を損なわない範囲でポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールといったポリアルキレングリコール類、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸といった脂肪族酸、プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオールといったジオール類を共重合しても勿論良い。
【0013】
本発明の芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントにおいて、芯成分に用いるポリエステルの極限粘度は0.70以上であることが必要である。極限粘度の下限は原糸強度での点で設定される。
【0014】
また、本発明においてスカム抑制といった観点から鞘に用いるポリエステルの極限粘度を芯成分ポリエステルの極限粘度より低く設定する必要があり、その差を0.15〜0.30にすることが必要である。さらに好ましくは0.20〜0.30である。極限粘度の差が0.15以下であるとポリエステルモノフィラメント表面の結晶性が低くならず、スカムが発生しやすくなる。また、差を0.30以上とすると満足する原糸強度が得られない。
【0015】
さらに、本発明の芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントにおいて、ポリエステルモノフィラメントの糸−鏡面の走行糸摩擦係数を0.40以下にすることで、上述した鞘成分の極限粘度を規定することとの相乗効果でスカム発生を飛躍的に抑制できる。さらに好ましくは0.30以下にする必要がある。
【0016】
本発明の芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントは精密印刷に適した高強力モノフィラメントであり、破断強度5.5cN/dtex以上とすることにより、製織性の低下や紗伸びなどの発生を抑え高い寸法安定性を得ることができる。
【0017】
本発明においては、芯成分、鞘成分ともにポリエステルであるため、ポリエステル/ナイロン複合糸に度々発生するような複合界面での剥離という現象は起きにくい。しかしながら芯成分:鞘成分の複合比率を70/30〜95/5とすることで鞘成分によるスカム抑制効果の低下を発生することを防止できる。また、原糸を高強度化するといった観点から芯鞘複合比率を75/25〜90/10とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントにおいて、繊維長手方向10万メートルで繊維直径に対し10%以上太い部分、すなわち節糸部分が1個以下である必要がある。この節糸の原因は紡糸工程において熱劣化によってポリマー配管内やパック内で発生するゲル化したポリマーが吐出されるケースと、芯および鞘成分ポリエステルの微妙な粘度ムラに起因し発生するケースとがある。節糸を繊維長手方向10万メートルに対し1個以下とするためには以下の方法で製造することが必須である。すなわち芯成分および鞘成分を形成するポリマーをそれぞれ独立に溶融、計量した後、パック内に図1に示す静止混練子を組み込んだパック内を通過させ濾過した後、口金を用いて芯鞘複合糸となるように合流、複合させ同一吐出孔から吐出させることが必要である。パック内の静止混練子を通過させることで節糸起因ポリマーを微細粉砕することができ、節糸抑制効果が発現する。
【0019】
なお高強力化するために延伸工程が必要となるが、一度未延伸糸として巻き取った後に改めて延伸工程を経て高強力の延伸糸を得る方法や、紡糸した後巻き取りをせずに直接延伸を行い、延伸糸を得る方法などどのような方法でもかまわない。
【0020】
さらに、モノフィラメントを紡糸する際に使用する口金は、吐出孔を2個以上有し、かつそのすべての吐出孔が口金中心から同距離に配置されているものを用いることが望ましい。一般的にモノフィラメントのポリマー吐出量はマルチフィラメントに比べて少なく、そのため紡糸機内のポリマー滞留時間が長くなる傾向がある。これにより前述した熱劣化によるポリマーのゲル化が進んでしまう現象が見られる。このため吐出孔を2個以上持つ口金を使用することにより、一口金当たりのポリマー吐出量を多くでき、ポリマー滞留時間を短くすることができるため、熱劣化によるゲル化ポリマーの発生を抑制することができる。また熱によるIV低下も同時に抑制できるため、モノフィラメントの強度低下も合わせて防止できる。なお、このような口金を使用し、吐出量を多くすることでポリマー滞留時間を短くできるが、ポリマーが熱履歴を受けるのはパック、口金部分のみではなく溶融されてから口金から吐出されるまでの時間が問題となってくる。従ってIV低下やゲル化の抑制のため、溶融されてから口金から吐出されるまでの通過時間を60min.以内とすることがより好ましい。
【0021】
また、合わせてポリマー吐出孔が口金中心から同距離に配置されている口金を用いることにより、各吐出孔へのポリマーの分配性や口金温度履歴がどの吐出孔も同一とすることができるため、スクリーン紗用モノフィラメントとして必要な糸太さの均一性が得られるため好ましい。
【0022】
【実施例】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法によって求めた。
【0023】
A.ポリエステルの極限粘度 [η]
オルトクロロフェノール溶液とし、25℃で求めた。
【0024】
B.強度、伸度
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張り試験機を用いて試長20cm、引張り速度10cm/分の条件で応力−歪み曲線から値を求めた。
【0025】
C.糸−鏡面の走行糸摩擦係数
糸−鏡面の走行糸摩擦係数は試料の走行速度55m/分、試料長60mとし、鏡面ガイドに接触角180℃として糸を走らせ供給側の張力(T1)と引取側の張力(T2)から次式にて算出した。
【0026】
摩擦係数(μd)=1/π×log(T2/T1)
D.スカム発生度合い判定
スルーザー試験製織機を使用し、織機の回転数を350rpmとしてメッシュ織物を製織する。その際に筬の汚れを目視で観察し、スカムの付着状況や周囲への飛散状況を確認する。その上でこれ以上製織の続行が不可能と判断される時点での製織長さを評価値とした。すなわち、この製織長さが短いほどスカムの発生状況が多いことを示している。
【0027】
E.節糸発生個数
繊維直径に対し10%広げたスリット(繊維直径が30ミクロンの場合33ミクロンに設定)中にモノフィラメントを通し、引き速500m/分で10万メートル走らせたときのモノフィラメントが切断した回数を節糸発生個数とした。
【0028】
実施例1
芯成分に極限粘度0.75のポリエチレンテレフタレート、鞘成分に極限粘度0.53のポリエチレンテレフタレートをそれぞれ独立に290℃の温度下で溶融、計量した後、紡糸温度290℃としパック内に図1に示す静止混練子(10段)を組み込んだパック内を通過させ濾過した後、口金を用いて芯鞘複合比が85/15となるように合流、複合させ同一吐出孔から吐出させ紡糸速度1000m/分で巻き取り未延伸糸を得た。このとき紡糸油剤としてTMB−8(三洋化成製)とA602(竹本油脂製)の混合油剤を使用し、油剤付着量を0.6%とした。次いでこれを加熱された2つまた3つのホットローラーを用いて、延伸倍率3.8倍で延伸することにより10dtex−1fの延伸糸を得た。得られた繊維は6.0cN/dtex、伸度25%、原糸の糸−鏡面の走行糸摩擦係数は0.25であった。また、原糸の節糸発生個数を測定した結果0個であった。該原糸をスルザー試験製織機で製織した際のスカム発生度合いは2000mであった。
【0029】
比較例1
実施例1において静止混練子組込パックを使わずに紡糸した以外は実施例1と同様に延伸糸を得たが、節糸が多発してしまった。
【0030】
実施例2,3、比較例2,3
実施例1において芯成分と鞘成分に用いるポリエチレンテレフタレートの極限粘度を変更した以外は実施例1と同様な方法で原糸を得た。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
実施例4〜6、比較例4,5
実施例1において繊維の複合比率を変更した以外は実施例1と同様な方法で原糸を得た。結果を表2に示す。
【0032】
比較例6
実施例1において油剤の付着量を0.2%まで低下させた以外は実施例1と同様な方法で原糸を得た。走行糸摩擦係数は0.55であり、製織時毛羽立ちが激しく且つスカム発生が多く製織不調であった。
【0033】
比較例7
実施例1において静止混練子を鞘成分のみに用い、芯成分に使用しなかった以外は実施例1と同様な方法で原糸を得た。得られた原糸は節糸が8個/10万m発生した。
【0034】
【表2】
【0035】
【発明の効果】
本発明において得られたポリエステルモノフィラメントは、従来のモノフィラメントでは得られなかった高強度、高モジュラスを有し、優れた寸法安定性、スカム抑制および節糸抑制効果を持つ。このポリエステルモノフィラメントはスクリ−ン紗用途として、その優れた寸法安定性や高強度、高モジュラスという特性を生かして、電子基板など精密印刷に必要なハイメッシュ化が可能であり、スカムおよび節糸抑制効果より、スクリーン紗の製織工程の安定化と品位の向上が可能であるため、スクリーン紗用の原糸として適した素材となる。
Claims (3)
- 芯鞘複合型ポリエステルモノフィラメントにおいて、下記A〜Eを満足することを特徴とするスクリーン紗用芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメント。
A.芯成分に用いるポリエステルの極限粘度が0.70以上であり、且つ鞘成分に用いるポリエステルの極限粘度より高く、その差が0.15〜0.30の範囲にあること。
B.ポリエステルモノフィラメントの強度が5.5cN/dtex以上であること。
C.ポリエステルモノフィラメントの糸−鏡面の走行糸摩擦係数が0.40以下であること。
D.ポリエステルモノフィラメント繊維長手方向10万メートルで繊維直径に対し10%以上太い節部が1個以下であること。
E.芯成分および鞘成分に用いるポリエステルがいずれも共重合成分を含まないこと。 - 芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの芯鞘複合比率が70/30〜95/5であることを特徴とする請求項1記載のスクリーン紗用芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメント。
- モノフィラメントを溶融紡糸する際、パック内に各成分毎に静止混練子を組み込んだパックを用い、溶融したポリエステルを通過させることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載のスクリーン紗用芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
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