JP3776325B2 - シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の利用分野】
本発明は、ノンハロゲンの難燃材料として使用されている水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、ポリオレフィン樹脂に配合する場合の、樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性に優れ、かつ比較的安価なシランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法を提供するものである。
【0002】
【従来技術】
水酸化マグネシウムは、例えば特開平1−141929号公報に示されるように、樹脂組成物等が燃焼した時の発煙や毒性、腐食等の二次災害を防止する目的で、オレフィン系等の樹脂組成物に、いわゆるノンハロゲン難燃剤として使用されている。このノンハロゲン難燃剤は、地球環境の保全やエコロジー化という社会的ニーズの流れの中で、ハロゲンや重金属を使用しない環境に配慮した材料として、従来大量に使用されているハロゲン系樹脂組成物の代替材料に適しており、電線被覆用途や壁紙等の建築材料用途を中心に広く適用されつつある。
【0003】
しかし、水酸化マグネシウム系難燃剤の難燃化効果はハロゲン系難燃剤に比べて低く、ポリオレフィン樹脂等に配合する場合、樹脂中に大量に配合しないと、充分な難燃性が得られない。一般に樹脂中に大量に配合するほど難燃性は高くなるが、分散性が悪くなり、樹脂組成物の引張強度や伸びなどの機械的物性が低下する。
【0004】
例えば、電子機器の内部配線や自動車のワイヤーハーネスに用いる絶縁電線は、機器の火災事故に対する安全性の点から、例えば米国のUL規格で垂直燃焼試験に合格することが規定されている。また自動車のワイヤーハーネス用の電線では、ISO規格45°傾斜の燃焼試験に合格する難燃性が求められている。しかしこれらの燃焼試験に合格するように、水酸化マグネシウム系難燃剤をポリオレフィン樹脂中に大量に配合すると、引張強度や伸びなどの機械的物性が低下する。例えばUL規格や電気用品取締規格では、引張強度10MPa以上、伸び100%以上が求められ、CSA規格では、引張強度10MPa以上、伸び150%以上が求められる。しかし燃焼試験に合格するように水酸化マグネシウムを大量に添加すると、これらを達成することはできなかった。
【0005】
このような問題を解決する方法として、例えば特許第2525968号には、機械的物性を低下させずに水酸化マグネシウムを大量に配合するため、シランカップリング剤などの架橋剤を配合して、溶融混練時あるいは押出成形時に化学架橋や電子線架橋を行う方法が示されている。また例えば特開2000ー239453号では、ブレンド法ではなく予め部分的にシランカップリング剤などの架橋剤で表面処理した水酸化マグネシウムを配合することにより、溶融トルクが低く、成形加工性に優れた組成物が得られることが開示されている。さらに特開2000ー294036号では、架橋性のシランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムを所定量配合すると、電子機器用の絶縁電線に要求される高い難燃性と機械的物性とが満足できることが示されている。
【0006】
ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物用の、シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤は、未だ充分な性能が得られていない。すなわち樹脂に配合する場合の分散性や、樹脂組成物の機械的物性、及び製造コストの全てが満足し得る、シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤は知られていない。
【0007】
シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウムの製造方法としては、大別して、乾式処理法と湿式処理法の2つがある。乾式処理法では、例えばヘンシェルミキサーで水酸化マグネシウム粉末を撹拌しながら、シランカップリング剤溶液をスプレーなどを用いて噴射添加して充分に撹拌混合した後、加熱・乾燥・粉砕して、水酸化マグネシウム処理粉末を得る。湿式処理法では、例えば水酸化マグネシウムの懸濁液に撹拌下でシランカップリング剤溶液を添加して撹拌混合した後、フィルタープレスなどで濾過し、脱水ケーキを加熱・乾燥・粉砕して、水酸化マグネシウム処理粉末を得る。
【0008】
さらに特開平11−349851号公報は、シランカップリング剤で処理した水酸化マグネシウムの懸濁液を、濾過脱水及び濃縮することなく、スプレードライヤー等でそのまま加熱乾燥して、シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウムを得ることを開示している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
乾式処理法で得られるシランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウムは、シランカップリング剤による水酸化マグネシウム粒子表面の被覆が不均一であるため、樹脂に配合すると樹脂への分散性が悪く、樹脂組成物の機械的物性や難燃性が充分でなかった。これに対して湿式処理法では、シランカップリング剤で比較的均一に被覆することができるため、樹脂への分散性が良く、充分な機械的物性や難燃性が得られる。
【0010】
しかし、水酸化マグネシウムを湿式でシランカップリング剤処理した後に、フィルタープレスなどで濾過すると、濾過時にシランカップリング剤が濾液とともに流出して、歩留まりが低く、充分な処理剤量が得られない。この結果、樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性が不十分になる。
【0011】
また上記の方法でBET比表面積が10m2/g以下の水酸化マグネシウムにシランカップリング剤処理を行うと、脱水ケーキの粘着性が非常に高く、脱水ケーキが濾布から剥離しにくい。このようにハンドリング性が悪いため、ライントラブルが発生し易く、生産能力が大幅に低下する。
【0012】
また特開平11−349851号公報に開示されているように、シランカップリング剤で処理した水酸化マグネシウムの懸濁液をスプレードライヤーなどで直接加熱乾燥すると、シランカップリング剤で処理した水酸化マグネシウムの懸濁液の含水率が300〜1000%と高いため、乾燥エネルギーコストが高く用途が限定される。
【0013】
本発明の目的は、樹脂への分散性が良く、機械的物性に優れ、かつ比較的安価なシランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法を提供することにある。
特にこの発明では、上記に加えて、シランカップリング剤の歩留まりが高く、脱水ケーキのハンドリング性が良く、さらに乾燥が容易な、シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【問題点を解決するための手段】
【0015】
本発明は、BET比表面積が10m2/g以下、平均粒子径が0 . 8〜2 . 0μm、0 . 5μm以下の水酸化マグネシウム粒子の割合が10 vol %以下で、メタクリロキシ系シランカップリング剤を0.2〜2.0wt%、炭素原子数12以上の不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種を0.1〜0.5wt%含有する、水酸化マグネシウムからなるシランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造法を提供する。
【0016】
本発明では、BET比表面積が10m2/g以下、平均粒子径が0 . 8〜2 . 0μm、0 . 5μm以下の水酸化マグネシウム粒子の割合が10 vol %以下の水酸化マグネシウムの水性懸濁液に、
1) 水酸化マグネシウムの重量に対して、0.5〜2.5%のメタクリロキシ系シランカップリング剤を添加して、10時間以上処理した後、
2) 炭素原子数12以上の不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種を、水酸化マグネシウムの重量に対して0.1〜0.5%添加し、
3) 次いで含水率が50%以下に成るように濾過して、
4) 乾燥して、
前記シランカップリング剤を0 . 2〜2 . 0 wt %含有し、前記不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種の物質を0 . 1〜0 . 5 wt %含有する水酸化マグネシウム系難燃剤とする。
シランカップリング剤での処理は弱撹拌下や靜置下などで行い、水酸化マグネシウムの粒子を破砕するような激しい撹拌は好ましくなく、かつ靜置する場合も、間欠的に撹拌して、水酸化マグネシウムとシランカップリング剤とが充分に反応するようにする。なお弱撹拌や靜置では、水酸化マグネシウムの粒径やBET比表面積はほとんど変化しない。
【0017】
【発明の作用】
この発明で用いるシランカップリング剤はメタクリロキシ系であり、例えばγーメタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γーメタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γーメタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。メタクリロシキ系以外のビニル系、エポキシ系、アミノ系などのシランカップリング剤では表面処理効率(歩留まり)が低く、そのためコスト的にも不利であり、かつ樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性が不十分である。
【0018】
シランカップリング剤は添加後10時間以上処理し、処理時間が10時間未満では表面処理効率が充分ではない。なお水酸化マグネシウムを懸濁させる媒体は水性とする。また水酸化マグネシウムのBET比表面積は10m2/g以下とし、BET比表面積が10m2/gよりも大きいと2次凝集が生じ易く、樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性が低下する。
【0019】
またシランカップリング剤の添加量は、水酸化マグネシウムの重量に対して0.5〜2.5%とする。添加量が0.5%未満では、難燃剤中のシランカップリング剤の含有量が不十分で、樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性が低下する。また2.5%よりも多いと樹脂組成物の伸びが低下しやすくなる。なおこの発明の製造条件で、0.5〜2.5%のシランカップリング剤の添加量は、難燃剤中の水酸化マグネシウムに対して0.2〜2.0%の含有量となる。
【0020】
脱水ケーキのハンドリング性を改善するためには、炭素原子数が12以上の不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種が必要である。炭素原子数が12以上の不飽和脂肪酸は、例えばリンデル酸(cis−4−ドデセン酸)、ツズ酸(cis−4−テトラデセン酸)、フィゼテリン酸(cis−5−テトラデセン酸)、ミリストレイン酸(cis−9−テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(cis−9−ヘキサデセン酸)、ペトロセリン酸(cis−6−オクタデセン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、エライジン酸(trans−9−オクタデセン酸)、アスクレピン酸(cis−11−オクタデセン酸)、バクセン酸(trans−11−オクタデセン酸)、ガドレイン酸(cis−9−エイコセン酸)、ゴンドイン酸(cis−11−エイコセン酸)、セトレイン酸(cis−11−ドコセン酸)、エルカ酸(cis−13−ドコセン酸)、ブラシジン酸(trans−13−ドコセン酸)、セコレイン酸(cis−15−テトラコセン酸)、キシメン酸(cis−17−ヘキサコセン酸)、ルメクエン酸(cis−21−トリアコンテン酸)等である。これらのアルカリ金属塩としては、Li、Na、K塩等が挙げられる。
【0021】
炭素原子数が12以上の不飽和脂肪酸またはそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩を、水酸化マグネシウム100wt%に対して0.1〜0.5wt%添加する。添加した炭素原子数が12以上の不飽和脂肪酸またはそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩は、ほぼ100%水酸化マグネシウムに吸着し、添加量が0.1%よりも少ないと、脱水ケーキのハンドリング性が低く、添加量が0.5%より多いと樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性が低下する。
【0022】
脱水ケーキの含水率は50%以下とし、含水率が50%を越えると、脱水ケーキのハンドリング性が低下しかつ乾燥コストが増す。
【0023】
水酸化マグネシウムの粒度は、平均粒子径が0.8〜2.0μmで、0.5μm以下の粒子の割合が10vol%以下とする。平均粒子径が0.8μmより小さい、あるいは0.5μm以下の粒子の割合が10vol%より多いと、樹脂に配合した場合に再凝集を起こし易くなり、樹脂への分散性や樹脂組成物の機械的物性が低下しやすくなる。また平均粒子径が2.0μmより大きいと、樹脂組成物の機械的物性が低下しやすくなる。なおカップリング剤処理の前後で、水酸化マグネシウムのBET比表面積や平均粒子径、0.5μm以下の粒子の割合は、ほとんど変化しない。
【0024】
なおBET比表面積は、N2吸着法によって測定する。粒度分布は、試料をエタノールに懸濁させ、超音波で3分間分散処理した後に、レーザー回折法により測定する。
【0025】
【実施例1】
BET比表面積が6.0m2/g、平均粒子径が1.1μmで、0.5μm以下の粒子の割合が5.3vol%の水酸化マグネシウムの、濃度200g/リットルの水懸濁液に、酢酸でpHを3.0〜4.1に調整した0.5wt%γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、水酸化マグネシウム100wt%に対してγーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランが0.7wt%となるように、添加した。
【0026】
この懸濁液を室温で20時間、弱撹拌後、オレイン酸ナトリウムの5.0wt%水溶液(80℃)を、オレイン酸ナトリウムが水酸化マグネシウムの重量に対して0.2wt%になるように添加し、30分間撹拌した。次いで表面処理したスラリーを減圧濾過した後に、脱水ケーキを濾布に挟んで型枠に入れ、加圧圧搾して含水率を50%以下へ調整した。加圧圧搾して得たケーキを乾燥・粉砕して、含水率が0.2%程度の表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0027】
【実施例2】
シランカップリング剤添加後の撹拌時間を10時間とした他は、実施例1と同様な操作を行って、表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0028】
【比較例1〜4】
比較例1ではシランカップリング剤添加後の撹拌時間が5時間である他は実施例1と同様にして、比較例2〜4はシランカップリング剤の種類を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0029】
なお以下では、ケーキを加圧圧搾した後に濾布からの剥離が難しい場合や、加圧圧搾したケーキを手で軽く揺り動かした時に、ケーキから水が浮き出してくる(チキソ性がある)場合は、ハンドリング性不良の「×」とした。逆に、濾布からの剥離が良くかつチキソ性がない場合は、ハンドリング性良好の「○」とした。また加圧圧搾したケーキの含水率を次式から求めた。
ケーキ含水率(%)=(ケーキの重量−乾燥後の重量)÷乾燥後の重量×100
【0030】
得られた表面処理水酸化マグネシウム粉末のSi分をICP法により測定し、シランカップリング剤含有量を次式より求めた。含有量の単位は、水酸化マグネシウム100wt%当たりの、カップリング剤の含有量(wt%)である。
シランカップリング剤含有量=ICP法で測定したSi値×シランカップリング剤の分子量÷Siの原子量
なお表面処理時の添加量を100%とした時の、シランカップリング剤含有量を歩留まりとする。
【0031】
実施例1〜2や比較例1〜4で得た表面処理水酸化マグネシウム粉末をポリオレフィン樹脂、ここではエチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸三元共重合体(住友化学製、商品名:ボンダインTX−8030、MFR:3)100wt%に対し、それぞれ100wt%配合した。そして東洋精機製ラボプラストミルを用いて、150℃で5分間、回転数50rpmで混練し、混練物を150℃でプレス成形して、厚み2mmのシートを作成した。成形した2mmシートをダンベル状に打ち抜き、これを使用して引張試験(JIS K 7113に準拠)を行った。結果を表1に示す。含有量はシランカップリング剤の含有量で、添加量は0.7wt%、含水率やハンドリング性は脱水ケーキの含水率やハンドリング性、引張強度や伸びは樹脂組成物の引張強度や伸びである。結果は以下同様に示す。
【0032】
【表1】
実施例1 実施例2 比較例1
シランカップ γ−メタクリロキ γ−メタクリロキ γ−メタクリロキ
リング剤 シプロピルトリメ シプロピルトリメ シプロピルトリメ
トキシシラン トキシシラン トキシシラン
撹拌時間(h) 20 10 5
含有量(%) 0.50 0.46 0.21
歩留まり(%) 70 70 30
ケーキ含水率(%) 43 45 42
ハンドリング性 ○ ○ ○
引張強度(MPa) 12 12 10
伸び (%) 230 230 180
比較例2 比較例3 比較例4
シランカップ ビニルトリメト γ−グリシドキシ N−β(アミノエチル)
リング剤 キシシラン プロピルトリメト γ−アミノプロピル
キシシラン メチルジメトキシシラン
撹拌時間(h) 20 20 20
含有量(%) 0.16 0.12 0.09
歩留まり(%) 20 20 10
含水率(%) 41 44 42
ハンドリング性 ○ ○ ○
引張強度(MPa) 10 9 9
伸び(%) 170 160 150
【0033】
ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物に求められる機械的物性は、例えばCSA規格では引張強度が10MPa以上、伸びが150%以上である。電子機器の内部配線や自動車のワイヤーハーネスに用いる絶縁電線には、各種の太さの電線があり、細い電線ほど燃えやすい。細い電線の場合は水酸化マグネシウム系難燃剤の充填量を増やして難燃性を維持するが、水酸化マグネシウム系難燃剤の充填量を増やすと伸びが低下する。機械的物性は、エチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸三元共重合体100wt%に対し、実施例及び比較例の水酸化マグネシウム系難燃剤をそれぞれ100wt%配合して、評価した。そして配合部数を100wt%よりも増した場合を想定して、機械的物性の評価ラインを引張強度10MPa以上、伸び200%以上とした。
【0034】
表1から明らかなように、表面処理剤添加後の撹拌時間が5時間と短い場合や、メタクリロキシ系以外のシランカップリング剤を用いた場合には、引張強度と伸びはいずれも機械的物性の評価ラインに達しなかった。これらの比較例では何れも、シランカップリング剤含有量が実施例に較べて少なく、歩留まりが低かった。添加量を増してシランカップリング剤の含有量を増やすことは可能ではあるが、歩留まりが低いので無駄が大きく、目的とする処理剤の量にすることが難しい。従って、樹脂組成物の機械的物性のバラツキが大きくなる。
【0035】
【実施例3〜5及び比較例5〜6】
BET比表面積が6.0m2/g、平均粒子径が1.1μm、0.5μm以下の粒子の割合が5.3vol%の水酸化マグネシウムの200g/リットルの水懸濁液に、酢酸でpHを3.0〜4.1に調整したγ−メタクリロシキプロピルトリメトキシシランの0.5wt%水溶液を、表2の添加量で添加した。その後10時間、弱撹拌し、80℃に調整したオレイン酸ナトリウムの5.0wt%水溶液を、水酸化マグネシウム100wt%に対してオレイン酸ナトリウムが0.2wt%になるように添加して、30分間撹拌した。得られたスラリーを濾過・加圧圧搾・乾燥・粉砕を、実施例1と同様にして行い、表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0036】
実施例1と同様にして、シランカップリング剤の含有量や、ケーキの含水率、ケーキのハンドリング性を求め、さらにエチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸三元共重合体に混練してシートを作成し、引張試験を行った。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
実施例3 実施例4 実施例5 比較例5 比較例6
添加量% 0.5 1.5 2.5 0.3 3.0
含有量% 0.2 1.2 2.0 0.1 2.4
含水率% 44 42 41 43 41
ハンドリング性 ○ ○ ○ ○ ○
引張強度 MPa 12 13 14 9 15
伸び % 230 220 210 180 160
* 添加量は、水酸化マグネシウム100wt%に対するwt%単位のシランカップリング剤の添加量;
含有量はシランカップリング剤の含有量;
含水率やハンドリング性はケーキの含水率とハンドリング性.
【0038】
表2から明らかなように、シランカップリング剤の添加量が0.5%より少ないとシランカップリング剤含有量は0.2%未満となり、引張強度や伸びが機械的物性の評価ラインに達しなかった。またシランカップリング剤の添加量が2.5%より多く、シランカップリング剤含有量が2.0%より多いと、樹脂組成物が硬くなり、伸びが機械的物性の評価ラインより低くなった。
【0039】
【実施例6〜7及び比較例7〜12】
実施例6〜7及び比較例7〜11では、表3に示したBET比表面積と、平均粒子径と、0.5μm以下の粒子の割合とを持つ水酸化マグネシウムを使用して、実施例2と同様な操作を行い、表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。比較例12は、脱水ケーキの加圧圧搾を実施しなかった以外は、実施例2と同様にして、表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0040】
実施例1と同様にして、ケーキ含水率、ケーキハンドリング性を求め、さらにエチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸三元共重合体に混練してシートを作成し、引張試験を行った。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
実施例6 実施例7 比較例7 比較例8
BET比表面積 m2/g 8.2 4.5 3.4 8.6
平均粒子径 μm 0.8 1.8 2.2 1.0
0.5μm以下の割合vol% 7.5 2.4 1.2 11.0
含水率% 45 43 40 45
ハンドリング性 ○ ○ ○ ×
引張強度 MPa 14 12 10 9
伸び % 210 230 180 150
比較例9 比較例10 比較例11 比較例12
BET比表面積 m2/g 9.5 12.2 20.3 6.0
平均粒子径 μm 0.6 1.8 2.5 1.1
0.5μm以下の割合vol% 8.5 6.7 1.0 5.3
含水率% 47 43 45 60
ハンドリング性 × × ○ ×
引張強度 MPa 10 9 8 13
伸び % 170 160 130 230
【0042】
表3から明らかなように、BET比表面積が10m2/gよりも大きい、平均粒子径が0.8μm〜2.0μmの範囲にない、0.5μm以下の粒子の割合が10vol%より多い、あるいはケーキの含水率が50%を超える場合、ケーキハンドリング性と樹脂組成物の機械的物性の両方を満足することはできなかった。
【0043】
【実施例8〜12及び比較例13〜17】
BET比表面積が6.0m2/g、平均粒子径が1.1μm、0.5μm以下の粒子の割合が5.3vol%である、濃度200g/リットルの水酸化マグネシウムの水懸濁液に、酢酸でpHを3.0〜4.1に調整したγ−メタクリロシキプロピルトリメトキシシランの0.5wt%水溶液を、水酸化マグネシウムの重量に対してシランカップリング剤が0.7wt%になるように添加した。この後10時間撹拌した。実施例8〜11及び比較例13〜16では、表4の各添加剤を5.0wt%水溶液(80℃)として添加した。実施例12及び比較例17では、表4の各添加剤を、5.0wt%エタノール溶液として添加した。これらの試料を添加後各30分間撹拌した。次いで、濾過・加圧圧搾・乾燥・粉砕を実施例1と同様に行い、表面処理水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0044】
実施例1と同様にして、ケーキ含水率、ケーキハンドリング性を求め、さらにエチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸三元共重合体に混練してシートを作成し、引張試験を行った。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
実施 実施 実施 実施 実施
例8 例9 例 10 例 11 例 12
オレイン酸ナトリウム添加量% 0.1 0.5 − − −
バクセン酸ナトリウム添加量% − − 0.3 − −
オレイン酸アンモニウム添加量% − − − 0.5 −
オレイン酸添加量% − − − − 0.5
ステアリン酸ナトリウム添加量% − − − − −
オブツシル酸ナトリウム添加量% − − − − −
オレイン酸アマイド添加量% − − − − −
含水率% 43 43 43 43 43
ハンドリング性 ○ ○ ○ ○ ○
引張強度 MPa 14 12 13 12 12
伸び % 220 240 230 240 240
比較 比較 比較 比較 比較
例 13 例 14 例 15 例 16 例 17
オレイン酸ナトリウム添加量% 0.05 0.6 − − −
バクセン酸ナトリウム添加量% − − − − −
オレイン酸アンモニウム添加量% − − − − −
オレイン酸添加量% − − − − −
ステアリン酸ナトリウム添加量% − − 0.5 − −
オブツシル酸ナトリウム添加量% − − − 0.5 −
オレイン酸アマイド添加量% − − − − 0.5
含水率% 43 41 45 44 46
ハンドリング性 × ○ × × ×
引張強度 MPa 12 9 9 11 9
伸び % 200 180 50 210 160
【0046】
表4から明らかなように、実施例以外の条件では、ケーキハンドリング性と樹脂組成物の機械的物性の両方を同時に満足することができなかった。
【0047】
実施例1の表面処理水酸化マグネシウム粉末を、エチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸三元共重合体100wt%に対し、50wt%,100wt%,200wt%配合して、前記と同様にしてシートを作成した。これらのシートの酸素指数の測定と引張試験を行った。表面処理水酸化マグネシウム粉末を50wt%配合したシートの酸素指数は25vol%O2で、100wt%配合では30.5vol%O2、200wt%配合では36.5vol%O2であった。従って50〜300wt%配合で高い難燃性が得られることが分かる。また50〜300wt%の配合で、ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物に求められる引張強度と伸びが得られる。
【0048】
【発明の効果】
この発明では、樹脂への分散性、樹脂組成物の機械的物性や難燃性に優れ、比較的安価なシランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤が得られる。この難燃剤をポリオレフィン樹脂に配合すると、環境にやさしいノンハロゲン難燃材料となる。
【0049】
この発明では、水酸化マグネシウムに対して0.5〜2.5wt%のメタクリロキシ系シランカップリング剤を添加して、10時間以上撹拌するので、シランカップリング剤の歩留まりが向上する。またBET比表面積が10m2/g以下の水酸化マグネシウムを用い、炭素原子数が12以上の不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種を、水酸化マグネシウムに対して0.1〜0.5wt%添加するので、濾過と加圧圧搾等でケーキの含水率を50%以下にでき、ハンドリング性を向上でき、かつ乾燥コストも低くできる。
【0050】
この発明では、水酸化マグネシウムの平均粒子径を0.8〜2.0μm、0.5μm以下の粒子の割合を10vol%以下とするので、ハンドリング性と機械的物性を改善することがさらに容易になる。
【0051】
この発明では、シランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造が容易で、かつ樹脂組成物の機械的物性にも優れている。
Claims (1)
- BET比表面積が10m2/g以下、平均粒子径が0 . 8〜2 . 0μm、かつ0 . 5μm以下の粒子の割合が10 vol %以下の水酸化マグネシウムの水性懸濁液に、
1) 水酸化マグネシウムの重量に対して、0.5〜2.5%のメタクリロキシ系シランカップリング剤を添加して、10時間以上処理した後、
2) 炭素原子数12以上の不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種を、水酸化マグネシウムの重量に対して0.1〜0.5%添加し、
3) 次いで含水率が50%以下に成るように濾過して、
4) 乾燥して、
前記シランカップリング剤を0 . 2〜2 . 0 wt %含有し、前記不飽和脂肪酸とそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の少なくとも一種の物質を0 . 1〜0 . 5 wt %含有する水酸化マグネシウム系難燃剤とする、ことを特徴とするシランカップリング剤被覆の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法。
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