JP4071943B2 - 水酸化マグネシウム系難燃剤及びその製造方法とそれを用いた耐水性難燃性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の利用分野】
本発明は、ノンハロゲンの難燃材料として使用される水酸化マグネシウム系難燃剤とその製造方法、及び該難燃剤を用いた難燃性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
水酸化マグネシウムは、例えば特開平1-141929号公報に示されるように、樹脂組成物等の燃焼時の発煙、毒性、腐食等の二次災害を防止するため、オレフイン系等の樹脂組成物に添加されている。水酸化マグネシウムはノンハロゲン難燃剤であり、地球環境の保全やエコロジー化という社会的ニーズに沿い、水酸化マグネシウムを用いた樹脂組成物は、ハロゲンや重金属を含まないため、ハロゲン系樹脂組成物の代替材料として、電線被覆用途や壁紙等の建築材料用途を中心に広く適用されつつある。
【0003】
このようなノンハロゲン難燃剤用途に用いられる、水酸化マグネシウムの製造方法には、大別して、反応合成法と天然鉱物粉砕法の2つがある。反応合成法としては、例えば海水または苦汁中に苛性アルカリまたは消石灰のスラリーを添加して反応させる方法、水酸化マグネシウムスラリーに水酸化ナトリウムを添加し水熱処理する方法(特公昭50-23680号公報)、塩基性マグネシウム塩スラリーを水熱処理する方法(特開昭52-115799号公報)、マグネシウム塩溶液とアンモニアを反応させる方法(特開昭61-168522号公報等)が知られている。いずれの方法でも、合成した水酸化マグネシウムを洗浄、表面処理、脱水し、乾燥、粉砕して、水酸化マグネシウム系難燃剤にしている。
【0004】
一方、天然鉱物粉砕法は、水酸化マグネシウムを主成分とする天然ブルーサイト鉱石を粉砕、表面処理して、水酸化マグネシウム系難燃剤にする方法である。例えば特公平7-42461号公報は、天然ブルーサイト鉱石を水性スラリーとしてから湿式粉砕し、この粉砕品スラリーを脂肪酸のアンモニウム塩またはアミン塩の乳化物で表面処理し、固液分離した後に乾燥する方法を開示している。
【0005】
さらに特開平7-161230号公報は、難燃組成物の吸湿性を抑えるために、天然ブルーサイト鉱石を粉砕し、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤を主成分とする表面処理剤を用いて乾式で表面処理する方法を開示している。また特表平11-501686号公報は、天然ブルーサイト鉱石粉砕品を脂肪酸誘導体及びシロキサン誘導体と共にミキサーで乾式混合する方法を開示している。特開平10-226789号公報は、耐水性、分散性、難燃性に優れた比較的低コストの水酸化マグネシウム系難燃剤を得るために、天然ブルーサイト粉砕品をシランカップリング剤及びシラン表面処理剤の存在下でメカノケミカル処理し、被覆層と粒子表面が化学結合した平均粒子径1〜10μmの水酸化マグネシウム系難燃剤とする方法を開示している。
【0006】
水酸化マグネシウム系難燃剤を配合して得られるノンハロゲン難燃材料には、水酸化マグネシウム系難燃剤が、例えば樹脂100重量部に対して50〜100重量部、高い難燃性を必要とする場合には100重量部以上配合される。水酸化マグネシウム系難燃剤の配合量が多くなるに従って、難燃性は向上するものの機械特性は低下する。特に、高い難燃性を必要とする場合の、水酸化マグネシウム系難燃剤100重量部以上の高充填配合ではこの傾向が顕著で、難燃材料の配合設計が難しくなる。
【0007】
水酸化マグネシウム系難燃剤のうち、反応合成法によって得られた水酸化マグネシウムは、比較的整った粒子性状と比較的微細で揃った粒子径を有するため、高充填しても比較的機械特性の低下の小さい材料を作りやすい特徴を持つ。しかし天然鉱物粉砕法に比べると、原料費が高く、製造工程が複雑で、エネルギーコストの高い工程を必要とするために経済的に不利で、ノンハロゲン難燃剤として使用される用途は、限定されたものにならざるを得ない。
【0008】
一方、天然鉱物粉砕法で製造される水酸化マグネシウム系難燃剤は、安価な天然ブルーサイト鉱石を原料とするため、比較的低コストで経済性に優れた材料として期待されている。前記のように天然ブルーサイトを粉砕して乾式で表面処理する方法が知られているが、得られた水酸化マグネシウム系難燃剤を高充填して難燃樹脂組成物とすると、いずれの場合も機械特性が充分ではなかった。
【0009】
また、天然鉱物粉砕法で製造される水酸化マグネシウム系難燃剤を配合する難燃樹脂組成物において、難燃性、機械特性と共に重要な特性として、耐水性がある。即ち、長時間雨水や湿気等にさらされると、電線被覆材料の電気絶縁性が低下し、ショート、漏電等の危険性がある。しかし天然ブルーサイトを乾式で表面処理した水酸化マグネシウム系難燃剤では、耐水性が充分ではなかった。
【0010】
【発明の課題】
本発明の課題は、樹脂に配合した時の機械特性及び耐水性に優れ、かつ低コストで経済性に優れた、水酸化マグネシウム系難燃剤とその製造方法、及びこの難燃剤を用いた樹脂組成物を提供することにある。
【0011】
【発明の構成と効果】
本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤では、天然ブルーサイト鉱石の粗粉体に、アルコールリン酸エステルからなる表面処理剤を添加して、被粉砕物を加熱可能なメディア粉砕機を用いて、80 〜 150 ℃に加熱しながら、粉砕と表面処理を同時に行って、平均粒子径が5μm以下で、アルコールリン酸エステルの被覆層を有する粒子とする。平均粒子径は例え ば1〜5μm、好ましくは3〜5μmとし、粗粉体の平均粒子径は例えば5μm超で8μm以下とし、表面処理剤の添加量は、水酸化マグネシウムと表面処理剤の合計量に対して好ましくは0.5〜5重量%とする。また加熱温度は 80 〜 150 ℃とする。
【0012】
アルコールリン酸エステルは、アルコールとリン酸のエステルであればよく、例えばモノアルコールエステルあるいはジアルコールエステルとし、リン酸中の残存水素イオン(エステル化反応せずに残る水素イオン)はアルカリ金属イオンやアルコールアミンイオンなどで置換してもよい。ただし本発明では、アルコールリン酸エステルは加熱下で乾式で水酸化マグネシウムと反応させるので、リン酸中の残存水素イオンをアルカリ金属イオンやアルコールアミンイオンなどで置換すると水酸化マグネシウム表面との反応性が低下し好ましくない。
【0013】
アルコールリン酸エステルは好ましくはモノおよびジ-アルコールのリン酸エステルであり、アルコールの炭素数は例えば10〜30とし、特に飽和アルコールとのエステルが好ましく、例えばモノ-ステアリルアルコールリン酸エステル、ジ-ステアリルアルコールリン酸エステル、モノ-ラウリルアルコールリン酸エステル、ジ-ラウリルアルコールリン酸エステル、モノ-ミリスチルアルコールリン酸エステル、ジ-ミリスチルアルコールリン酸エステル、モノ-パルミチルアルコールリン酸エステル、ジ-パルミチルアルコールリン酸エステル、モノ-アラキルアルコールリン酸エステル、ジ-アラキルアルコールリン酸エステル、モノ-ベヘルアルコールリン酸エステル、ジ-ベヘルアルコールリン酸エステル、モノ-リグノセリルアルコールリン酸エステル、ジ-リグノセリルアルコールリン酸エステル等が挙げられ、モノおよびジ-飽和アルコールのリン酸エステルとする。これらのアルコールリン酸エステルは、単独であるいは混合して使用しても良い。
【0014】
本発明で被粉砕物を加熱可能な構造の媒体粉砕機(メディアミル)には、例えば被粉砕物を収容する容器をジャケットで加熱するようにして、該容器内に被粉砕物とメディアを転動させるようにしたものを用いる。具体的には、バッチ式あるいは連続式のボールミル、振動ミル、メディア攪拌型ミル等が挙げられ、例えばジャケット加熱で加熱し、メディアにはアルミナボール、ジルコニアボール、金属ボール、金属ロッド等の、水酸化マグネシウムよりも硬質のメディアが使用できる。
【0015】
本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤は、アクリル酸系、酢酸ビニル系、エチレン系、プロピレン系の樹脂や、これらの共重合体樹脂に配合する。水酸化マグネシウム系難燃剤に関する好適条件は、当然のことながら、該難燃剤を添加した樹脂組成物にも当てはまる。
【0016】
【発明の効果】
本発明では、樹脂配合時の機械特性及び耐水性に優れ、かつ低コストで経済性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤が得られる。この難燃剤を配合することにより、幅広い用途で、環境に優しいノンハロゲン難燃材料によりハロゲン系材料を代替することが可能となる。
【0017】
本発明では、表面処理剤をアルコールリン酸エステルとすることにより、難燃剤を配合した樹脂の耐水性が向上し、耐水試験後の電気抵抗を高くできる。また粗粉砕品の粉砕と表面処理をメディアミルを用いて加熱下に行うことにより、難燃剤を配合した樹脂の引張強度や引張伸び等の機械特性を向上できる。このように本発明では、樹脂配合時の機械特性及び耐水性に優れ、かつ低コストで経済性に優れた、水酸化マグネシウム系難燃剤が提供される。
【0018】
【実施例】
平均粒子径が6μmの天然ブルーサイト粗粉砕品1kgと、モノ-ステアリルアルコールリン酸エステル20gを、内容積10リットルのジャケット加熱のバッチ式メディア攪拌型ミル中に入れ、約100℃まで加熱し、30分間攪拌して、粗粉砕品の再粉砕とモノ-ステアリルアルコールリン酸エステルによる表面処理とを行った。この間に、モノ-ステアリルアルコールリン酸エステルは、粉砕された水酸化マグネシウム粒子の表面と反応して水酸化マグネシウム粒子表面に被覆層を形成する。ミルのメディアには径5mmのアルミナボールを使用し、処理後に粉末をバッチ式メディア攪拌型ミルから取り出して、表面処理品サンプルとした(実施例1)。
【0019】
表面処理剤がジ-ステアリルアルコールリン酸エステル20gである以外は、実施例1と同様にして表面処理品サンプルを得た(実施例2)。
表面処理剤がモノ-ステアリルアルコールリン酸エステルとジ-ステアリルアルコールリン酸エステルの混合物(重量比で50重量%:50重量%)20gである以外は、実施例1と同様にして表面処理品サンプルを得た(実施例3)。
平均粒子径が6μmの天然ブルーサイト粗粉砕品100kgと、モノ-ステアリルアルコールリン酸エステルとジ-ステアリルアルコールリン酸エステルの混合物(重量比で50重量%:50重量%)2kgを、予めヘンシェルミキサー(攪拌型でメディアを用いないミキサー)で混合した。この混合品を内容積100リットルのジャケット加熱の連続式メディア攪拌型ミルに1.0kg/minの速度で供給しながら、ミル内部の温度が約100℃になるように調節した。ミルのメディアには径5mmのアルミナボールを使用した。表面処理した粉末の排出量及び内部の温度が安定した後のサンプルを、表面処理品として用いた(実施例4)。
【0020】
【比較例】
表面処理剤を20gのアルコールリン酸エステルから20gのステアリン酸に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理サンプルを得た(比較例1)。
表面処理剤がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン20gである以外は、実施例1と同様にして表面処理サンプルを得た(比較例2)。
メディア攪拌型ミルでの攪拌処理時に加熱しない以外は、実施例1と同様にして表面処理サンプルを得た(比較例3)。
平均粒子径が4μmの天然ブルーサイト粗粉砕品1kgとモノ-ステアリルアルコールリン酸エステルとジ-ステアリルアルコールリン酸エステルの混合物(重量比で50重量%:50重量%)20gを容積10リットルのヘンシェルミキサー中に入れ、5分間乾式混合した後に、100℃まで加温し、30分間高速攪拌した。なお高速攪拌開始10分後に攪拌を停止し、内壁及び攪拌壁の付着物をかき落とす操作を1度行った。ヘンシェルミキサーで加温混合処理した粉末をハンマーミルで粉砕処理した後、再度ヘンシェルミキサー中で約100℃で15分間加温混合処理して、表面処理サンプルを得た(比較例4)。
【0021】
【難燃剤の評価】
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた水酸化マグネシウム表面処理品(難燃剤)の平均粒子径を、レーザー回折法により測定した。平均粒子径は、特級エタノール中で試料を超音波分散処理した後に測定した。
次に、エチレン/エチルアクリレート共重合体(日本ポリオレフイン株式会社製、商品名:A-1150、エチルアクリレート含有量:15%、MFR:0.8)100重量部に対し、実施例1〜4及び比較例1〜4で調整した水酸化マグネシウム表面処理品100重量部を配合して混合した。次いで、東洋精機株式会社製ラボプラストミルを用いて、150℃で5分間、回転数50rpmで混練し、さらに150℃でプレス成形した。引張試験は、厚み2mmのシートを作成し、ダンベル状に打ち抜いたものを用いてJIS K7113に準拠して行った。また、耐水試験は、厚み1mm×縦130mm×横130mmのシートを作成し、このシートを80℃に加温した10重量%濃度の食塩水(純水90重量%:食塩10重量%)に96時間含浸させた後、40℃で8時間シートの表面を乾燥し、相対温度30℃、相対湿度50%の雰囲気下で3時間放置してから500Vの電圧をかけ、1分後の電流値を測定して体積固有抵抗を算出した(JIS K7194に準拠)。これらの結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から明らかなように、非加熱で攪拌し、あるいはメディア型のミルではなく攪拌型のヘンシェルミキサーを用いると、引張強度や引張伸びが不足する(比較例3,4)。表面処理剤をシランカップリング剤とすると、耐水試験後の体積固有抵抗が不足し(比較例2)、また、表面処理剤をステアリン酸とすると引張強度や引張伸びの他に耐水試験後の体積固有抵抗が不足する(比較例1)。これに対してこの発明では、引張強度や引張伸び等の機械特性に優れ、かつ耐水性に優れた難燃剤や難燃性樹脂組成物が得られる(実施例1〜4)。引張強度や引張伸び等の機械特性は、メディアミルを用い加熱下に粉砕しながら表面処理することによって得られ、また耐水試験後の体積固有抵抗はアルコールリン酸エステルを用いることによって得られる。実施例ではステアリルアルコールのリン酸エステルについて結果を示したが、耐水試験後に高い体積固有抵抗が得られることは、モノ-ラウリルアルコールリン酸エステル、モノ-ミリスチルアルコールリン酸エステル(いずれも難燃剤中に2重量%含有)でも同様であった。
【0024】
なお表1には示さなかったが、水酸化マグネシウムに対するモノ-ステアリルアルコールリン酸エステルの量を変化させ、実施例1と同様に処理して表面処理剤含有量の影響を調べた。含有量は、水酸化マグネシウムと表面処理剤の合計量に対する表面処理剤の割合で示す。含有量が0.5重量%未満では、引張伸びと耐水試験後の体積固有抵抗が不足し、0.5重量%以上でほぼ実施例1と同様の引張強度や引張伸び、耐水試験後の体積固有抵抗が得られた。またモノ-ステアリルアルコールリン酸エステルの含有量が5重量%を超えると、引張強度が不足した。天然ブルーサイト鉱石の粗粉体の平均粒子径を8μmを超え、例えば10μmとすると引張強度が不足した。天然ブルーサイト鉱石の粗粉体は、表面処理剤と共に粉砕するのであるから、粉砕前の平均粒子径は5μm超とすることが好ましい。
Claims (5)
- 天然ブルーサイト鉱石の粗粉体を、アルコールリン酸エステルからなる表面処理剤の存在下で、加熱可能なメディア粉砕機を用いて80 〜 150 ℃での加熱下に粉砕と粒子表面処理とを同時に行って得た、平均粒子径が5μm以下でアルコールリン酸エステルの被覆層を有する水酸化マグネシウム粒子からなる、水酸化マグネシウム系難燃剤。
- 前記表面処理剤の添加量が、天然ブルーサイト粗粉体と表面処理剤との合計量に対して0.5〜5重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム系難燃剤。
- 天然ブルーサイト鉱石の粗粉体をアルコールリン酸エステルからなる表面処理剤の存在下で、被粉砕物を加熱可能なメディア粉砕機を用いて80 〜 150 ℃での加熱下に 粉砕と粒子表面処理とを同時に行い、平均粒子径が5μm以下でアルコールリン酸エステルの被覆層を有する水酸化マグネシウム粒子とする、水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法。
- 前記天然ブルーサイト粗粉体の平均粒径が5μm超で8μm以下であることを 特徴とする、請求項3の水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法。
- 天然ブルーサイト鉱石の粗粉体を、アルコールリン酸エステルの表面処理剤の存在下で、加熱可能なメディア粉砕機を用いて80 〜 150 ℃での加熱下に粉砕と粒子表面処理とを同時に行って得た、平均粒子径が5μm以下でアルコールリン酸エステルの被覆層を有する水酸化マグネシウム粒子からなる水酸化マグネシウム系難燃剤を、オレフイン系樹脂と混練した、難燃性樹脂組成物。
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