JP3607196B2 - 水酸化マグネシウム系難燃剤及びその製造方法と、それを用いた難燃性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の利用分野】
本発明は、ノンハロゲンの難燃材料として使用される水酸化マグネシウム系難燃剤やその製造方法、及び該難燃剤を用いたに難燃性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来技術】
水酸化マグネシウムは、例えば特開平1−141929号公報に示されるように、樹脂組成物等の燃焼時の発煙、毒性、腐食等の二次災害を防止する目的で、オレフィン系等の樹脂組成物に添加されている。水酸化マグネシウムはノンハロゲン難燃剤であり、地球環境の保全やエコロジー化という社会的ニーズに沿い、水酸化マグネシウムを用いた樹脂組成物は、ハロゲンや重金属を含まないため、ハロゲン系樹脂組成物の代替材料として、電線被覆用途や壁紙等の建築材料用途を中心に広く適用されつつある。
【0003】
このようなノンハロゲン難燃剤用途に用いられる、水酸化マグネシウムの製造方法には、大別して、反応合成法と天然鉱物粉砕法の2つがある。
【0004】
反応合成法には、例えば海水または苦汁中に苛性アルカリまたは消石灰のスラリーを添加して反応させる方法、水酸化マグネシウムスラリーに水酸化ナトリウムを添加し水熱処理する方法(特公昭50−23680号公報)、塩基性マグネシウム塩スラリーを水熱処理する方法(特開昭52−115799号公報)、マグネシウム塩溶液とアンモニアを反応させる方法(特開昭61−168522号公報等)が知られている。いずれの方法でも、合成した水酸化マグネシウムを洗浄、表面処理、脱水し、乾燥、粉砕して、水酸化マグネシウム系難燃剤にしている。
【0005】
一方、天然鉱物粉砕法は、水酸化マグネシウムを主成分とする天然ブルーサイト鉱石を粉砕、表面処理して、水酸化マグネシウム系難燃剤にする方法であり、例えば特公平7−42461号公報に開示されているように、天然ブルーサイト鉱石を水性スラリーとしてから湿式粉砕し、この粉砕品スラリーを脂肪酸のアンモニウム塩またはアミン塩の乳化物で表面処理し、固液分離した後に乾燥する方法等が知られている。
【0006】
また、例えば特開平7−161230号公報に開示されているように、難燃組成物の吸湿性を抑えるために、天然ブルーサイト鉱石を粉砕し、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤を主成分とする表面処理剤で表面処理する方法が知られている。
【0007】
さらに、特表平11−501686号公報には、天然ブルーサイト鉱石粉砕品を脂肪酸誘導体及びシロキサン誘導体と共にミキサーで乾式混合する方法が開示されている。特開平10−226789号公報には、耐水性、分散性、難燃性に優れた比較的低コストの水酸化マグネシウム系難燃剤を得るために、天然ブルーサイト粉砕品をシランカップリング剤及びシラン表面処理剤の存在下でメカノケミカル処理し、被覆層と粒子表面が化学結合した平均粒子径1〜10μmの水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
水酸化マグネシウム系難燃剤を配合して得られるノンハロゲン難燃材料には、水酸化マグネシウム系難燃剤が、例えば樹脂100重量部に対して50〜100重量部、高い難燃性を必要とする場合には100重量部以上配合される。水酸化マグネシウム系難燃剤の配合量が多くなるに従って、難燃性は向上するものの機械特性は低下する。特に、高い難燃性を必要とする場合の、水酸化マグネシウム系難燃剤100重量部以上の高充填配合ではこの傾向が顕著で、難燃材料の配合設計が難しくなる。機械特性の低下には、水酸化マグネシウム系難燃剤の配合量のみではなく、水酸化マグネシウム系難燃剤の性状が影響することが判明しており、高充填しても機械特性の低下の小さい、水酸化マグネシウム系難燃剤が求められている。
【0009】
水酸化マグネシウム系難燃剤のうち、反応合成法によって得られた水酸化マグネシウムは、比較的整った粒子形状と比較的微細で揃った粒子径を有するため、高充填しても比較的機械特性の低下の小さい材料を作りやすい特徴を持つ。しかし天然鉱物粉砕法に比べると、原料費が高く、製造工程が複雑で、エネルギーコストの高い工程を必要とするために経済的に不利で、ノンハロゲン難燃剤として使用される用途は、限定されたものにならざるを得ない。
【0010】
一方、天然鉱物粉砕法で製造される水酸化マグネシウム系難燃剤は、安価な天然ブルーサイト鉱石を原料とするため、比較的低コストで経済性に優れた材料として期待されている。特に特開平7−161230号公報や特表平11−501686号公報に開示されているような、乾式工程のみからなる方法は、環境に優しいノンハロゲン難燃材料により、ハロゲン系材料を幅広い用途で代替し得るものとして、期待されている。
【0011】
しかし、例えば特開平7−161230号公報や特表平11−501686号公報、特開平10−226789号公報に開示されている乾式工程のみからなる方法は、いずれも各種の混合装置を用いて、天然ブルーサイト鉱石の粉砕品に各種の表面処理剤を表面処理する方法であり、この方法で製造された水酸化マグネシウム系難燃剤を高充填して難燃樹脂組成物とすると、いずれの場合も機械特性が充分ではなかった。
【0012】
また、天然鉱物粉砕法で製造される水酸化マグネシウム系難燃剤を配合する難燃樹脂組成物において、難燃性、機械特性と共に重要な特性として、耐熱性がある。即ち、長時間の加熱環境下で機械特性の劣化が小さい材料が求められている。しかし特公平7−42461号公報や特開平7−161230号公報、特開平10−226789号公報、特表平11−501686号公報に開示されている方法により製造された水酸化マグネシウム系難燃剤では、耐熱性はいずれも充分ではなかった。
【0013】
本発明の目的は、樹脂に配合した時の機械特性及び耐熱性に優れ、かつ低コストで経済性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤とその製造方法、及び該難燃剤を用いた樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
発明者は、上述の問題点の各要素を鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち、天然ブルーサイト鉱石を乾式粉砕する方法において、天然ブルーサイト鉱石の粉末に、特定の表面処理剤を添加し、メディア粉砕機を用いて、加熱しながら粉砕と粒子表面処理とを同時に行い、所定の平均粒子径とすることによって、本発明の目的を達し得ることを見い出した。
【0015】
【問題点を解決するための手段】
本発明では、天然ブルーサイト鉱石を乾式粉砕して水酸化マグネシウム系難燃剤を製造する方法において、天然ブルーサイト鉱石の粗粉体に、硬化油、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩からなる群の少なくとも1種の表面処理剤を添加して、被粉砕物をメディアと共に、加熱可能なメディア粉砕機に収容し、該被粉砕物を該メディア粉砕機を用いて、加熱しながら、粉砕と粒子表面処理とを同時に行って、平均粒子径が5μm以下で、該表面処理剤の被覆層を有する粒子とする。平均粒子径は例えば1〜5μm、好ましくは3〜5μmとし、粗粉体の平均粒径は例えば5μm超で8μm以下とし、表面処理剤の添加量は、水酸化マグネシウムと表面処理剤の合計量に対して好ましくは0.5〜5%とする。また加熱温度は例えば50〜200℃、好ましくは80〜150℃とする。この発明では、樹脂配合時の機械特性及び耐熱性に優れ、かつ低コストで経済性に優れた、水酸化マグネシウム系難燃剤が提供される。
【0016】
本発明で表面処理剤として用いる硬化油には、例えば牛脂硬化油、ヒマシ硬化油等が挙げられる。
【0017】
本発明で表面処理剤として用いる脂肪酸エステルには、例えばラウリン酸メチル、ミスチリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミスチリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、特殊牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、長ステアリン酸ステアリル、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ベヘニン酸ベヘニル、ミスチリン酸セチル等のモノエステルが挙げられ、またネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステルの部分エステル化物、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール中鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオールC9鎖脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステル、コンプレックス中鎖脂肪酸エステル等の特殊脂肪酸エステルが挙げられる。
【0018】
本発明で表面処理剤として用いる脂肪酸金属塩には、例えばステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリル酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の金属塩であり、金属としては、Na、K、Al、Ca、Mg、Zn、Ba、Co、Sn、Ti、Fe等が挙げられる。
【0019】
本発明で被粉砕物を加熱可能な構造の媒体粉砕機(メディアミル)には、例えば被粉砕物を収容する容器をジャケットで加熱するようにして、該容器内に被粉砕物とメディアとを収容して、メディアを転動させるようにしたものを用いる。具体的には、バッチ式あるいは連続式のボールミル、振動ミル、メディア撹拌型ミル等が挙げられ、例えばジャケット加熱で加熱し、メディアにはアルミナボール、ジルコニアボール、金属ボール、金属ロッド等の、水酸化マグネシウムよりも硬質のメディアが使用できる。
【0020】
本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤は、アクリル酸系、酢酸ビニル系、エチレン系、プロピレン系の樹脂や、これらの共重合体樹脂に配合する。水酸化マグネシウム系難燃剤に関する好適条件は、当然のことながら、該難燃剤を添加した樹脂組成物にも当てはまる。
【0021】
【実施例1】
平均粒子径が6μmの天然ブルーサイト粗粉砕品1kgと、牛脂硬化油25gを、内容積10リットルのジャケット加熱のバッチ式メディア撹拌型ミル中に入れ、約100℃まで加温し、30分間撹拌した。ミルのメディアには径5mmのアルミナボールを使用した。処理後に粉末をバッチ式メディア撹拌型ミルから取り出して、表面処理品サンプルとした。
【0022】
【実施例2】
表面処理剤がステアリン酸メチル25gである以外は、実施例1と同様にして表面処理品サンプルを得た。
【0023】
【実施例3】
表面処理剤がネオペンチルポリオール脂肪酸エステル25gである以外は、実施例1と同様にして表面処理品サンプルを得た。
【0024】
【実施例4】
表面処理剤がステアリン酸亜鉛25gである以外は、実施例1と同様にして表面処理品サンプルを得た。
【0025】
【実施例5】
平均粒子径が6μmの天然ブルーサイト粗粉砕品100kgと、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル2.5kgを、予めヘンシェルミキサー(撹拌型でメディアを用いないミキサー)で混合した。この混合品を内容積100リットルのジャケット加熱の連続式メディア撹拌型ミルに1.0kg/minの速度で供給しながら、ミル内部の温度が約100℃になるように調節した。ミルのメディアには径5mmのアルミナボールを使用した。表面処理した粉末の排出量及び内部の温度が安定した後のサンプルを、表面処理品として用いた。
【0026】
【比較例1】
表面処理剤がステアリン酸25gである以外は、実施例1と同様にして表面処理品サンプルを得た。
【0027】
【比較例2】
撹拌処理時に加熱しない以外は、実施例1と同様にしてサンプルを得た。
【0028】
【比較例3】
平均粒子径が4μmの天然ブルーサイト粗組成品1kgと牛脂硬化油25gを容積10リットルのヘンシェルミキサー中に入れ、5分間乾式混合した後に、100℃まで加温し、30分間高速撹拌した。なお高速撹拌開始10分後に撹拌を停止し、内壁及び撹拌壁の付着物をかき落とす操作を1度行った。ヘンシェルミキサーで加温混合処理した粉末をハンマーミルで粉砕処理した後、再度ヘンシェルミキサー中で約100℃で15分間加温混合処理して、表面処理品サンプルを得た。
【0029】
実施例及び比較例で得られた水酸化マグネシウム表面処理品の平均粒子径を、レーザー回折法により測定した。平均粒子径は、特級エタノール中で試料を超音波分散処理した後に測定した。結果を表1に示す。
【0030】
次に、エチレン/エチルアクリレート共重合体(日本ポリオレフィン株式会社製、商品名:A−1150,エチルアクリレート含有量:15%、MFR;0.8)100重量部に対し、実施例及び比較例で調製した水酸化マグネシウム表面処理品100重量部を配合して混合した後に、東洋精機株式会社製ラボプラストミルを用いて、150℃で5分間、回転数50rpmで混練し、さらに150℃でプレス成形して、厚み2mmのシートを作成した。成形したシートをダンベル状に打ち抜き、これを使用して引張試験(JIS K7113に準拠)、熱老化試験(JIS K7212に準拠、100℃−96時間)を実施した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、非加熱で撹拌し、あるいはメディア型のミルでなく撹拌型のヘンシェルミキサーを用いると、引張強度や引張伸びが不足する(比較例2,3)。表面処理剤をステアリン酸とすると、引張強度や引張伸びの他に、耐熱性も不足する。これに対してこの発明では、引張強度や引張伸びに優れ、かつ熱老化の少ない耐熱性に優れた難燃剤や難燃性樹脂組成物が得られる。
【0033】
なお表1には示さなかったが、表面処理剤が水酸化マグネシウムと表面処理剤の合計量の0.5重量%未満では、初期の引張伸びと熱老化試験後の伸び残率が不足し、好ましくない。表面処理剤が水酸化マグネシウムと表面処理剤の合計量の5重量%を越えると、初期の引張強度が不足し好ましくない。天然ブルーサイト鉱石の粗粉体の平均粒径が8μmを越えると、初期の引張強度が不足し好ましくない。天然ブルーサイト鉱石の粗粉体は、表面処理剤と共に粉砕するのであるから、粉砕前の平均粒径が5μm超であることが好ましい。
【0034】
【発明の効果】
本発明では、樹脂配合時の機械特性及び耐熱性に優れ、かつ低コストで経済性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤が得られる。この難燃剤を配合することにより、幅広い用途で、環境に優しいノンハロゲン難燃材料によりハロゲン系材料を代替することが可能となる。
Claims (4)
- 天然ブルーサイト鉱石の粗粉体を、硬化油、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩からなる群の少なくとも1種の表面処理剤の存在下で、被粉砕物をメディアと共に、加熱可能なメディア粉砕機に収容し、該被粉砕物を該メディア粉砕機を用いて加熱下に粉砕と粒子表面処理とを同時に行って得た、平均粒子径が5μm以下で該表面処理剤の被覆層を有する粒子からなる水酸化マグネシウム系難燃剤。
- 該表面処理剤の添加量が天然ブルーサイト粗粉体と表面処理剤との合計量に対して0.5〜5重量%であり、天然ブルーサイト粗粉体の平均粒径が5μm超で8μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム系難燃剤。
- 天然ブルーサイト鉱石の粗粉体を、硬化油、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩からなる群の少なくとも1種の表面処理剤の存在下で、被粉砕物をメディアと共に、加熱可能なメディア粉砕機に収容し、該被粉砕物を該メディア粉砕機を用いて加熱下に粉砕と粒子表面処理とを同時に行い、平均粒子径が5μm以下で該表面処理剤の被覆層を有する粒子とする、水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法。
- 天然ブルーサイト鉱石を、硬化油、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩からなる群の少なくとも1種の表面処理剤の存在下で、被粉砕物をメディアと共に、加熱可能なメディア粉砕機に収容し、該被粉砕物を該メディア粉砕機を用いて加熱下に粉砕と粒子表面処理とを同時に行って得た、平均粒子径が5μm以下で該表面処理剤の被覆層を有する粒子からなる水酸化マグネシウム系難燃剤を、オレフィン系樹脂と混練した、難燃性樹脂組成物。
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