JP3747493B2 - 脂環式ポリカルボン酸及びその酸無水物の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、脂環式ポリカルボン酸及びその酸無水物(以下「脂環式ポリカルボン酸類」と総称する。)の製造方法に関する。当該脂環式ポリカルボン酸類は、いずれも溶剤可溶型のポリイミドなどの原料として有用な素材である。
【0002】
【従来の技術】
脂環式ポリカルボン酸類の製造方法としては、芳香族ポリカルボン酸エステルを水素化触媒を用いて水素化して脂環式ポリカルボン酸エステルを得、次いで当該脂環式ポリカルボン酸エステルを加水分解して目的とする脂環式ポリカルボン酸を得る方法並びに当該脂環式ポリカルボン酸を更に脱水閉環して脂環式ポリカルボン酸無水物を得る方法が知られている。
【0003】
例えば、菊池らは、ビフェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルをロジウム触媒を用いて水素化してジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを得、次いで酸又はアルカリの存在下、酸触媒の場合には酢酸溶媒中で、アルカリ触媒の場合にはメタノール溶媒中で夫々リフラックス下に加水分解することにより目的とするジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸を得、又、更にジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸を脱水閉環してジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物を得ている(特開平1−96147号)。
【0004】
しかしながら、本発明者らによる検討の結果、上記方法において、酸を触媒とし、酢酸を溶剤とする加水分解法では十分な反応速度が得られないことから実用性に欠け、又、アルカリによる鹸化分解を行うと結晶の中にアルカリ金属イオンが混入し、取り除くのが困難である。このように、上記方法は、工業的に脂環式ポリカルボン酸類の製造方法としては、尚、改善の余地が認められる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、脂環式ポリカルボン酸類の新規有用な製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラエステルを加水分解してジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸を調製するに際し、酸触媒下、溶媒として特定の非プロトン性極性溶媒を適用することにより、従来より高い反応温度を採用することができ、その結果、アルカリ金属イオンの混入の恐れがなく、速やかに目的物を得ることができることを見いだした。
【0007】
本発明者らは、引き続く検討の結果、上記極性溶媒の効果は、単にジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラエステルの加水分解のみならず、種々の脂環式ポリカルボン酸エステルの加水分解においても有効であることを見いだし、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る脂環式ポリカルボン酸の製造方法は、一般式(1)で表される脂環式ポリカルボン酸エステルを溶媒中で加水分解して一般式(2)で表される脂環式ポリカルボン酸を製造するに際し、当該溶媒として120〜350℃の沸点(760mmHg)を有し、当該脂環式ポリカルボン酸エステルの良溶媒であって、且つ脂環式ポリカルボン酸に対しては貧溶媒である水溶性の非プロトン性極性溶媒を用いる(以下「加水分解工程」という。)ことを特徴とする。
【0009】
R1OOC−A−COOR2 (1)
[式中、Aは一般式(a)又は一般式(b)で表される脂環式ポリカルボン酸残基を示す。R1、R2は同一又は異なって水素原子、アルキル基を示す。]
【0010】
【化7】
[式中、Xは単結合、−CO−、−O−、−CH2−、−CH(−CH3)−又は−C(−CH3)2−を表す。R3、R4は同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。但し、R1、R2、R3、R4のいずれか一つ以上はアルキル基である。]
【0011】
【化8】
[式中、R5、R6、R7、R8は同一又は異なって、水素原子、メチル基又は基COOR9を表す。R9は水素原子又はアルキル基を示す。但し、R1、R2、R9のいずれか一つ以上はアルキル基である。]
【0012】
HOOC−B−COOH (2)
[式中、Bは一般式(c)又は一般式(d)で表される脂環式ポリカルボン酸残基を示す。]
【化9】
[式中、Xは一般式(a)で記載したとおりである。]
【0013】
【化10】
[式中、R10、R11、R12、R13は同一又は異なって、水素原子、メチル基又はカルボキシル基を表す。]
【0014】
本発明に係る脂環式ポリカルボン酸エステルとして、具体的には、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、ジシクロヘキシルエーテル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、ジシクロヘキシルケトン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、ジシクロヘキシルメタン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、エチリデン−4,4'−ビス(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸アルキル)、プロピリデン−4,4'−ビス(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸アルキル)、ヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸アルキルエステル、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸アルキルエステル、シクロヘキサンヘキサカルボン酸アルキルエステル、3−メチルヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、4−メチルヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、3,4,5,6−テトラメチルヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、5−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、6−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸アルキルエステル、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸アルキルエステルなどが例示される。
【0015】
本発明に係る脂環式ポリカルボン酸エステルは、特に以下の方法により工業的に有利な条件下で調製することができる。即ち、一般式(3)で表される芳香族ポリカルボン酸又はその酸無水物(以下「芳香族ポリカルボン酸類」と総称する。)と脂肪族アルコールとを無触媒下、好ましくは不活性ガス雰囲気下で加熱して芳香族ポリカルボン酸エステルを得(以下「エステル化工程」という。)、次いで水素化触媒及び脂肪族アルコールの存在下に加熱する(以下「水素化工程」という。)。
【0016】
HOOC−D−COOH (3)
[式中、Dは一般式(e)又は一般式(f)で表される芳香族カルボン酸残基を示す。]
【0017】
【化11】
[式中、Xは一般式(a)で記載したとおりである。]
【0018】
【化12】
[式中、R10、R11、R12、R13は一般式(d)で記載したとおりである。]
【0019】
一般式(3)で表される芳香族ポリカルボン酸として、具体的には、ビフェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸、ビフェニルエーテル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸、ビフェニルメタン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸、エチリデン−4,4'−ビス(1,2−ベンゼンジカルボン酸)、プロピリデン−4,4'−ビス(1,2−ベンゼンジカルボン酸)、フタル酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、3−メチルフタル酸、4−メチルフタル酸、3,4,5,6−テトラメチルフタル酸、5−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、6−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、3−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、3−メチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、3,6−ジメチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸などが例示される。
【0020】
[エステル化工程]
上記芳香族ポリカルボン酸無水物としては、相当するポリカルボン酸の一無水物、二無水物又は三無水物が挙げられる。
【0021】
ポリカルボン酸一無水物としては、フタル酸無水物、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラメチルフタル酸無水物、5−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸無水物、6−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸無水物、3−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸無水物などが例示される。
【0022】
ポリカルボン酸二無水物としては、ビフェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニルエーテル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニルメタン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、エチリデン−4,4'−ビス(1,2−ベンゼンジカルボン酸無水物)、プロピリデン−4,4'−ビス(1,2−ベンゼンジカルボン酸無水物)、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3−メチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、3,6−ジメチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物などが例示される。
【0023】
ポリカルボン酸三無水物としては、ベンゼンヘキサカルボン酸三無水物などが例示される。
【0024】
脂肪族アルコールとしては、炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状又は環状の脂肪族アルコールが推奨され、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノールなどが例示され、中でもメタノール、エタノール、1−プロパノールが好ましい。
【0025】
脂肪族アルコールの適用量としては、エステル化に必要な化学量論以上の量であり、且つエステル化工程に続く水素化工程で芳香族ポリカルボン酸エステルが溶解し得る量であれば特に限定されない。具体的には、芳香族ポリカルボン酸類に対し、1〜100倍当量が例示され、特に2〜50倍当量が推奨される。
【0026】
水素化工程で使う耐圧装置に原料である芳香族ポリカルボン酸と脂肪族アルコールとを一括して仕込み、高温高圧下でエステル化を行う方法は、特別なエステル化装置を必要とせず、エステル化反応をより効率的に進める上で好ましい。
【0027】
エステル化反応温度としては、100〜280℃が例示され、特に180〜230℃が推奨される。
【0028】
触媒を用いないでエステル化することにより、触媒除去の必要はなく、芳香族エステルを単離する必要がないため、同一反応器でエステル化、水素化の両工程を行うことができるなどの利点が得られる。
【0029】
エステル化の反応雰囲気を構成する不活性ガスとしては、窒素、水素などが例示される。
【0030】
反応時間としては、0.1〜10時間が例示されるが、当該時間は、実用的な観点から適宜選択することができる。即ち、本発明に係るエステル化工程は、必ずしもエステル化を完了せしめる必要はなく、反応生成物が完全エステル化物と部分エステル化物との混合物の状態で次の水素化工程に供することが推奨される。より具体的には、0.5〜1時間が推奨される。
【0031】
[水素化工程]
エステル化反応の後、水素化触媒を仕込み、水素化反応を行う。
【0032】
貴金属系水素化触媒としては、水素化触媒を調製するために通常使用される担体に、ルテニウム、パラジウムなどの貴金属を担持してなる触媒が例示される。特に好ましいのは安価なルテニウム系触媒である。
【0033】
かかる担体としては、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどが例示される。
【0034】
貴金属の担持量としては、貴金属換算で0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%が推奨される。
【0035】
触媒の形態は、特に限定されず、その水素化工程の形態に応じて粉末状、タブレット状など適宣選択して使用される。
【0036】
水素化触媒の適用量は、芳香族ポリカルボン酸エステルの種類や用いる触媒の担持量によって適宜選択できるものの、通常、芳香族ポリカルボン酸エステルに対し、0.5〜20重量%が例示され、1〜5重量%が推奨される。
【0037】
水素化反応時の溶媒として、エステル化で用いた溶媒と同種の脂肪族アルコールをそのまま使用することは、工程を簡略化する上で好ましい。
【0038】
水素圧力としては、2〜200kg/cm2Gが例示され、好ましくは20〜150kg/cm2Gである。水素圧力が2kg/cm2G未満の場合には、反応時間が長くなり、未反応の芳香族化合物が残りやすい傾向がある。一方、水素圧力が200kg/cm2Gを越える場合には、反応が急激に進み、反応温度の制御が行いにくくなる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0039】
水素化反応温度としては、60〜170℃が例示され、特に100〜150℃が推奨される。反応温度が60℃未満の場合には反応時間が長くなり、未反応の芳香族化合物が残りやすい傾向にある。一方、反応温度が170℃を超えると、エステルのカルボニルが攻撃を受け、副生成物が出来やすくなる傾向となる。
【0040】
このような水素化反応条件の場合、例えば反応時間は0.5〜20時間程度で反応が完結する。反応の進行状態及び終了に関しては、圧力計から消費水素量を求めることで判断することができる。
【0041】
一般に、芳香族ポリカルボン酸の完全エステル化物を調製するためには長時間の反応が必要であるが、本発明の如く、エステル化工程とそれに続く水素化工程とを共に脂肪族アルコールの存在下で行うことにより、上記部分エステル化物は、水素化と共に更なるエステル化が進行する結果、芳香族ポリカルボン酸類から脂環式ポリカルボン酸への選択性が飛躍的に向上する。
【0042】
反応後、触媒を濾過操作により回収し、次回の水素化反応に繰り返し使用することが出来、触媒の原単位を低減することができる。
【0043】
[加水分解工程]
脂環式ポリエステルの加水分解は、所定の極性溶媒と水及び触媒の酸を加え、加熱し、必要に応じて水を滴下しながら生成する脂肪族アルコールを水と共に留去しながら行う。
【0044】
本発明に係る極性溶媒とは、120〜350℃、好ましくは150〜300℃の沸点(760mmHg)を有し、当該脂環式ポリカルボン酸エステルの良溶媒であって、且つ脂環式ポリカルボン酸に対しては貧溶媒である水溶性の非プロトン性極性溶媒である。これらは沸点が高く水と共沸しないため、加水分解時の温度を高くすることができ、短時間で加水分解をすることが可能となる。
【0045】
かかる極性溶媒としては、スルホラン(沸点285℃)、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、N−メチルピロリドン(沸点197〜202℃)、ジメチルホルムアミド(沸点153℃)よりなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の溶媒が例示され、中でもスルホラン、ジメチルスルホキシド及びそれらの混合物が推奨される。
【0046】
用いる極性溶媒の量に特に制限はないが、通常、脂環式ポリカルボン酸エステルに対して20〜200重量%、好ましくは50〜100重量%である。
【0047】
最初に加える水の量は特に限定はない。滴下する水の量や生成する脂肪族アルコールと共に留出する水の量をコントロールし、系中の水の量を調整する。水の量が多いと加水分解温度が下がり、速度が遅くなる傾向がある。水の量が少ないと温度が高くなりすぎ、着色などの原因となる。
【0048】
適当な反応温度としては100℃〜180℃で、好ましくは110℃〜140℃である。
【0049】
加水分解の触媒としては、硫酸、塩酸などの鉱酸や、p−トルエンスルホン酸、メチルスルホン酸などの有機酸を用いることができる。
【0050】
触媒の使用量に特に制限はないが、通常、脂環式ポリカルボン酸エステルに対し、5〜200重量%、好ましくは10〜50重量%である。触媒の使用量が少ないと加水分解速度が遅くなる傾向がある。又、使用量が多いと、後の水洗による触媒除去の回数が増え、効率が悪くなる。
【0051】
かかる条件下で加水分解を行うと、通常、2〜10時間で加水分解は完結する。
【0052】
このようにして得られた脂環式ポリカルボン酸は、溶媒及び水に難溶であるので、析出する脂環式ポリカルボン酸の結晶を濾過或いは遠心分離など従来公知の方法により単離することができる。更に、本発明に係る極性溶媒及び触媒は水に可溶であるので、結晶を水洗することで効率よく除去される。
【0053】
得られた湿結晶を5〜100mmHgの減圧下、60〜100℃に加熱して乾燥させ、脂環式ポリカルボン酸を得る。
【0054】
脂環式ポリカルボン酸無水物は、所定の脂環式ポリカルボン酸を脱水閉環する(以下「閉環工程」という。)ことにより調製される。
【0055】
[閉環工程]
脂環式ポリカルボン酸を脱水閉環させ、相当する酸無水物とする方法としては、減圧下に加熱する方法或いは無水酢酸に加熱溶解させ再結晶させる方法がある。
【0056】
減圧下に加熱する方法では、例えば、30〜100mmHgの減圧下で180〜220℃の加熱条件下に1〜5時間保つことで無水物を得ることができる。
【0057】
無水酢酸による方法では、脂環式ポリカルボン酸1重量部に対して、通常、5〜20重量部、好ましくは8〜15重量部の無水酢酸を加え、1〜6時間リフラックスし、次いで熱時濾過した後、放冷することにより、目的とする酸無水物の結晶を得ることができる。
【0058】
以上、本発明に係る各種工程を適宜選択して採用することにより、目的とする脂環式ポリカルボン酸及びその無水物を従来の方法より簡単に得ることができる。
【0059】
得られた脂環式ポリカルボン酸及びその無水物は、金属塩を含まない高純度品であるため、従来の耐熱性高分子や耐熱性可塑剤の分野は言うに及ばず、電子材料など金属の混入を嫌う分野にも使用可能である。
【0060】
【実施例】
以下、実施例を掲げて本発明を詳しく説明する。尚、各実施例において、所定の芳香族ポリカルボン酸類に対する脂肪族アルコールの当量倍数をZで表す。
【0061】
実施例1
500mlの電磁攪拌機付きオートクレーブにビフェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物20g及びメタノール80g(Z=9.3)を仕込み、温度200℃で30分間エステル化を行った。次いで、この溶液に活性炭に5重量%ルテニウムを担持させた触媒1gを添加し、水素圧力100kg/cm2G、温度130℃で水素化を行った。反応時間3時間で水素の吸収が停止し、その時の水素吸収量は理論水素吸収量の98.5%であった。反応液中の活性炭担持ルテニウム触媒を濾別し、反応物を紫外分光光度計(UV計)で分析したところ、ベンゼン核の吸収はみられず、水素化反応は完結していることを確認した。又、ガスクロマトグラフィー(GLC)による分析の結果、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの純度は98.1%であった。
【0062】
触媒濾過後、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを滴下管、留出デカンタ、温度計及び攪拌装置を備えた4つ口フラスコに移し、加温して脱溶媒を行った。次いで、スルホラン30gを加えてジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを溶解させ、水30gと硫酸7gを加え、130℃に加温し加水分解を行った。水を10g/hの速度で滴下し、留出する水中のメタノールの量を分析し、加水分解反応を追跡した。加水分解が進行するに従って結晶が析出する。留出するメタノールは反応3時間でみられなくなり、加水分解は完結した。次いで、濾別して得た結晶を3回水洗した後、圧力30mmHg、温度80℃で乾燥し、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸18.2gを得た。
【0063】
冷却管を取り付けた300mlナス型フラスコに上記で得られたジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸10gと無水酢酸120gとを仕込み、150℃の油浴に入れ、1時間還流させた。
【0064】
この後、熱時濾過を行い、濾液を放冷させたところ、白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、次いで、圧力10mgHg、温度90℃で2時間乾燥して7.1gの結晶を得た。この結晶を原子吸光分析した結果、Na、Feなどの金属の存在は認められなかった。
【0065】
実施例2
実施例1と同様のオートクレーブに1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物30g及びメタノール70g(Z=4.7)を仕込み、温度220℃で1時間エステル化を行った。この溶液に活性炭に5重量%ルテニウムを担持させた触媒1gを添加し、水素圧力120kg/cm2G、温度120℃で水素化を行った。反応時間2.5時間で水素の吸収が停止し、その時の水素吸収量は理論水素吸収量の99.1%であった。
【0066】
反応液中の活性炭担持ルテニウム触媒を濾別し、反応物をUV計で分析したところ、ベンゼン核の吸収はみられず、水素化反応が完結していることを確認した。又、GLCによる分析の結果、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸トリメチルエステルの純度は97.2%であった。
【0067】
触媒濾過後、実施例1と同様にしてシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸トリメチルエステルの加水分解反応を行った。留出するメタノールは反応2.5時間でみられなくなり、加水分解は完結した。次いで、濾別して得た結晶を3回水洗し、圧力30mmHg、温度80℃で乾燥を行い、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸28.5gを得た。
【0068】
冷却管を取り付けた300mlナス型フラスコに上記で得られたシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸10gと無水酢酸100gとを仕込み、150℃の油浴に入れ、1時間還流させた。
【0069】
その後、熱時濾過を行い、濾液を放冷させたところ、白色結晶が析出した。この結晶を濾別した後、圧力10mmHg、温度90℃で2時間乾燥して8.2gの結晶を得た。この結晶を原子吸光分析した結果、Na、Feなどの金属の存在は認められなかった。
【0070】
実施例3
実施例1と同様のオートクレーブに3−メチルベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸無水物30g及びメタノール70g(Z=4.7)を仕込み、温度220℃で1時間エステル化を行った。この溶液に活性炭に5重量%のパラジウムを担持させた触媒1gを添加し、水素圧力120kg/cm2G、温度120℃で水素化を行った。反応時間4時間で水素の吸収が停止し、このときの水素吸収量は理論水素吸収量の97.2%であった。反応液中の活性炭担持パラジウム触媒を濾別し、反応物をUV計で分析したところ、ベンゼン核の吸収はみられず、水素化反応は完結していることを確認した。又、GLCによる分析の結果、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸トリメチルエステルの純度は86.4%であった。
【0071】
触媒濾過後、極性溶媒としてジメチルスルホキシドを用いた以外は実施例1と同様にして3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸トリメチルエステルの加水分解反応を行った。留出するメタノールは反応5時間でみられなくなり、加水分解は完結した。次いで、濾別して得た結晶を3回水洗し、圧力30mmHg、温度80℃で乾燥を行い、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸24.6gを得た。
【0072】
冷却管を取り付けた300mlナス型フラスコに上記で得られた3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸10gを仕込み、実施例2と同様の条件で無水化した。得られた白色結晶を圧力10mmHg、温度90℃で2時間乾燥した後、7.4gの結晶を得た。この結晶を原子吸光分析した結果、Na、Feなどの金属の存在は認められなかった。
【0073】
実施例4
実施例1と同様のオートクレーブにベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物25g及び1−プロパノール75g(Z=2.7)を仕込み、温度220℃で1時間エステル化を行った。この溶液に活性炭に5重量%のルテニウムを担持させた触媒0.5gを添加し、水素圧力100kg/cm2G、温度130℃で水素化を行った。反応時間2.5時間で水素の吸収が停止し、このときの水素吸収量は理論水素吸収量の98.1%であった。反応液中の活性炭担持ルテニウム触媒を濾別し、反応物をUV計で分析したところ、ベンゼン核の吸収はみられず、水素化反応は完結していることを確認した。又、GLCによる分析の結果、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸テトラプロピルエステルの純度は95.9%であった。
【0074】
触媒濾過後、実施例1と同様にしてシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸テトラプロピルエステルの加水分解反応を行った。留出する1−プロパノールは反応3.5時間でみられなくなり、加水分解は完結した。次いで、濾別して得た結晶を3回水洗し、圧力30mmHg、温度80℃で乾燥を行い、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸20.5gを得た。
【0075】
冷却管を取り付けた300mlナス型フラスコに上記で得られたシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸10gを仕込み、実施例2と同様の条件で無水化した。得られた白色結晶を圧力10mmHg、温度90℃で2時間乾燥した後、6.9gの結晶を得た。この結晶を原子吸光分析した結果、Na、Feなどの金属の存在は認められなかった。
【0076】
実施例5
実施例1と同様のオートクレーブにベンゾフェノン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物20g及びメタノール80g(Z=10.0)を仕込み、温度200℃で30分エステル化を行った。この溶液にアルミナに5重量%のルテニウムを担持させた触媒1gを添加し、水素圧力100kg/cm2G、温度130℃で水素化を行った。反応時間4時間で水素の吸収が停止し、その時の水素吸収量は理論水素吸収量の102.5%であった。反応液中のアルミナに担持したルテニウム触媒を濾別し、反応物をUV計で分析を行ったところ、ベンゼン核の吸収はみられず、水素化反応は完結していることを確認した。GLCによる分析の結果、ジシクロヘキシルケトン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの純度は88.7%であった。
【0077】
触媒濾過後、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸を用いた以外は実施例1と同様にしてジシクロヘキシルケトン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの加水分解反応を行った。留出するメタノールは反応6時間でみられなくなり、加水分解は完結した。次いで、濾別して得た結晶を3回水洗し、圧力30mmHg、温度80℃で乾燥を行い、ジシクロヘキシルケトン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸17.6gを得た。
【0078】
上記で得られたジシクロヘキシルケトン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸10gを実施例1と同様の条件で無水化した。得られた白色結晶を圧力10mmHg、温度90℃で2時間乾燥した後、7.6gの結晶を得た。この結晶を原子吸光分析した結果、Na、Fe等の金属の存在は認められなかった。
【0079】
比較例1
前段のエステル化反応をしない以外は実施例1と全く同一の条件で水素化を実施した。その結果、反応時間7時間で水素の吸収が停止し、その時の水素吸収量は理論水素吸収量の68.9%であった。
【0080】
反応液中の活性炭担持ルテニウム触媒を濾過操作により除去し、UV計で分析を行ったところ、未反応のベンゼン核の吸収が見られ、核水素化率は73.5%であった。GLCによる分析の結果、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの純度は38.6%であった。
【0081】
比較例2
水素化触媒に安定化ニッケル触媒を用いた以外は実施例1と同様にしてエステル化し、次いで170℃で水素化した。しかしながら、反応時間7時間でも水素の吸収が全く見られず、水素化反応は進行しなかった。
【0082】
比較例3
冷却管を取り付けた300mlナス型フラスコに実施例1で合成したジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステル20g、水100g及び硫酸20gを仕込み、20時間還流した。20時間後の加水分解率を測定したところ、25.3%であった。
【0083】
比較例4
冷却管を取り付けた300mlナス型フラスコに実施例1で合成したジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステル20g及び10%水酸化ナトリウム水溶液100gを仕込み、5時間還流した。冷却後、36%塩酸を加えてpH1とした。析出した白色微粉末を濾過により取り出し、50mlの水で3回水洗を行い、乾燥して15.3gのジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸を得た。
【0084】
得られた結晶の原子吸光を測定した結果、Na金属が434ppm含まれていた
。
【0085】
比較例5
スルホランのかわりに同重量のキシレン(沸点137〜144℃)を用いた以外は実施例1と同様に操作を行い、実施例1で合成したジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの加水分解を行った。キシレンと水が共沸し、反応温度を98℃までしか上げることが出来なかった。留出するメタノールは反応20時間でも見られており、加水分解は完結していなかった。
【0086】
【発明の効果】
本発明方法を適用することにより、工業的に有利な条件下で脂環式ポリカルボン又はその酸無水物を高純度、高収率で得ることができる。
Claims (7)
- 一般式(1)で表される脂環式ポリカルボン酸エステルを溶媒中で加水分解して一般式(2)で表される脂環式ポリカルボン酸を製造するに際し、当該溶媒として120〜350℃の沸点(760mmHg)を有し、当該脂環式ポリカルボン酸エステルの良溶媒であって、且つ脂環式ポリカルボン酸に対しては貧溶媒である水溶性の非プロトン性極性溶媒を用いることを特徴とする脂環式ポリカルボン酸の製造方法。
R1OOC−A−COOR2 (1)
[式中、Aは一般式(a)又は一般式(b)で表される脂環式ポリカルボン酸残基を示す。R1、R2は同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。]
HOOC−B−COOH (2)
[式中、Bは一般式(c)又は一般式(d)で表される脂環式ポリカルボン酸残基を示す。]
- 脂肪族アルコールが、炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状又は環状の脂肪族アルコールである請求項2に記載の脂環式ポリカルボン酸の製造方法。
- 貴金属系水素化触媒が、ルテニウム系触媒である請求項2又は請求項3に記載の脂環式ポリカルボン酸の製造方法。
- 脂環式ポリカルボン酸エステルが、ジシクロヘキシル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、ジシクロヘキシルエーテル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、ジシクロヘキシルケトン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、ジシクロヘキシルメタン−3,3',4,4'−テトラカルボン酸アルキルエステル、エチリデン−4,4'−ビス(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸アルキル)、プロピリデン−4,4'−ビス(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸アルキル)、ヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸アルキルエステル、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸アルキルエステル、シクロヘキサンヘキサカルボン酸アルキルエステル、3−メチルヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、4−メチルヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、3,4,5,6−テトラメチルヘキサヒドロフタル酸アルキルエステル、5−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、6−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸アルキルエステル、3−メチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸アルキルエステル又は3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸アルキルエステルである請求項1〜4のいずれかの請求項に記載の脂環式ポリカルボン酸類の製造方法。
- 極性溶媒が、スルホラン及び/又はジメチルスルホキシドである請求項1〜5のいずれかの請求項に記載の脂環式ポリカルボン酸類の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかの請求項に記載の脂環式ポリカルボン酸を脱水閉環することを特徴とする脂環式ポリカルボン酸無水物の製造方法。
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