JP3746045B2 - フェライト系ステンレス鋼の鋳片及び鋼板ならびにそれらの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼の鋳片,鋼板およびそれらの製造方法に関するものであり,特に加工性の指標である伸びとランクフォード値(以降,r値)に優れ,同時にリジングやローピングの極めて小さいフェライト系ステンレス鋼板を製造するための鋳片,鋼板およびそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フェライト系ステンレス鋼板は,家電製品,厨房機器,電子機器など幅広い分野で使用されている。しかしながら,オーステナイト系ステンレス鋼板に比べ,加工性に劣るため,用途が限定される場合があった。
【0003】
この問題を解決するために,近年の精錬技術の向上により,極低炭素・窒素化が可能になり,更にはTiやNbなどの安定化元素を添加して成形性を向上させることができるようになった。
【0004】
従来のフェライト系ステンレス鋼板の成形性向上は,深絞り性すなわちr値を向上させるものが主であり,熱延条件では例えば,特許文献1,特許文献2に,熱間圧延温度などを規定することにより,r値を向上させる技術が開示されている。しかしながら,これらの技術では鋼組成のばらつきによっては十分な特性が得られないのが実状であった。また,冷延条件において,大径ロール圧延によりrを値を向上させる技術が,例えば,特許文献3,特許文献4,特許文献5に開示されているが,鋼組成や中間焼鈍あるいは最終焼鈍条件によっては十分な特性が得られない場合があった。
【0005】
更に,実際の加工においては,深絞り成形性だけでは十分で無く,張り出し性が要求される場合が多い。フェライト系ステンレス鋼は,オーステナイト系ステンレス鋼に比べて伸びが低いため張り出し性が著しく劣る欠点があったが,この点についての検討は少ない。張り出し性の向上には,伸びの向上が効果的であり,例えば,特許文献6,特許文献7,特許文献8には,張り出し性を向上させるための成分系に関する技術が開示されているが,これら鋼成分だけでは,十分な伸びすなわち張り出し成形性が得られないのが実状であった。
【0006】
更に,フェライト系ステンレス鋼板はリジングと呼ばれるプレス加工後の表面に筋状の凹凸が発生する問題があり,極端に発生すると加工時に割れが生じる問題もあった。例えば,特許文献9には熱延条件によりリジング性を向上させる技術が開示されているが,これは粗圧延での大圧下圧延による再結晶促進が基本思想になっており,この場合は熱延板での疵が著しく発生する他,厳しい加工の際にはリジングが過度に発生する問題があった。また,凝固組織の微細化によるリジング改善として,特許文献10,特許文献11にはMgを添加しMg酸化物粒子を制御する技術が開示されているが,これらの開示技術では,リジング性にばらつきが生じるとともに,厳しい加工の際にはリジングが過度に発生する欠点があった。
【0007】
また,C,Nを低減して,安定化元素としてTiを添加したいわゆる高純フェライト系ステンレス鋼は,オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304と比較して,応力腐食割れの発生の可能性が極めて低く,またNiを含有しない分,低廉であるという利点を持つ。しかし,加工性の指標として重要な伸びが,SUS304よりも低いという欠点がある。さらに,高純フェライト系ステンレスの加工性を上げるためには,侵入型固溶元素のCやNの低減に加えて,置換型固溶元素であるSi,Mn,P,Ti等を低減する必要がある。
【0008】
このような更なる高純度化を追求する場合,高純フェライト系ステンレス鋼では,鋼板の素材である鋳片の鋳造組織において粗大な柱状晶組織が発達してしまい,冷延鋼板のローピングや冷延・焼鈍製品の加工で生じるリジングが顕著になる傾向がある。ローピングやリジングを低減する目的で従来より,鋳造組織の等軸晶化を図り,組織を微細にする方法が提案されている。代表的な方法は,Tiを添加して(例えば,0.2から0.3%程度),溶鋼が凝固する以前に溶鋼中にTiNを析出させ,これを不均質凝固核として凝固の核生成を促進するものである(非特許文献1)。本方法により等軸晶率を60〜70%程度以上にすれば,リジング低減に効果がある。しかし,この方法ではTiを0.2から0.3%程度添加するため,TiN形成に必要な量以上の過剰なTiが鋼中に固溶せざるを得ず,その結果,鋼板の伸びが低下するので,鋼板の加工性を大きくしたいという目的と矛盾する。
【0009】
より少ないTi添加量でもAl−Ti系の介在物上にTiNを複合析出させることにより,等軸晶化を促進する方法が明らかにされている(特許文献12)。この方法によれば過剰なTi添加による鋼板の伸びの低下を防ぐことができる。しかし,後述するようにこの方法でTiNを有効に析出させるには,Siの含有が必要である。良く知られているようにSiは,少量で鋼板の伸びを低下させてしまう。従って,本方法でもローピング,リジングを低減するために鋳造組織を等軸晶化して微細化することと伸びを大きくすることが相反することになる。
【0010】
【特許文献1】
特開昭62−77423号公報
【特許文献2】
特開平7−268485号公報
【特許文献3】
特開昭59−083725号公報
【特許文献4】
特開昭61−023720号公報
【特許文献5】
特開2000−178696号公報
【特許文献6】
特開昭58−061258号公報
【特許文献7】
特開平01−075652号公報
【特許文献8】
特開平11−350090号公報
【特許文献9】
特開平04−341521号公報
【特許文献10】
特開平10−324956号公報
【特許文献11】
特開2000−192199号公報
【特許文献12】
特開2000−144342号公報
【非特許文献1】
竹内英麿ら:鉄と鋼,66(1980),638
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は,既知技術の問題点を解決し,深絞り性,張り出し性,リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を提供することにある。
【0012】
特に,上述の従来の方法では,ローピングやリジングを低減するための鋳造組織の微細化条件として,鋼板の伸びを低下させてしまうTiやSiを利用せざるを得ず,高純度化してSUS304に代替し得る加工性を得たいという所期の目的と矛盾することになる。従って,本発明の目的とするところは,鋼板の伸びを低下するTiやSiをできるだけ低くして,高純度を維持した状態でも,鋳造組織の実質的な微細化を達成して,鋼板の高加工性とローピング,リジングの低減との両立を可能とすることである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために,本発明者らはフェライト系ステンレス鋼板の加工性の向上に関して,鋼組成,溶鋼中ならびに凝固中における酸化物挙動,焼鈍過程における析出と再結晶挙動,冷間圧延および焼鈍過程における組織形成について詳細な研究を行った。
【0014】
本発明は,上記の課題を有利に解決するもので,高加工性を得るために,C,N,Si,Mn,PおよびTiをできるだけ低減した化学組成にした上で,Mgを添加して,凝固の核生成を促進するMg含有酸化物を分散させることにより,鋳片において粗大な柱状晶が発達するのを抑制して,製品のローピング,リジングの低減を図るものである。すなわち,本発明の骨子は以下の通りである。
【0016】
(1)質量%にて,C:0.001〜0.010%,Si:0.01〜0.30%,Mn:0.01〜0.30%,P:0.01〜0.04%,S:0.0010〜0.0100%,Cr:10〜20%,N:0.001〜0.020%,Ti:0.05〜0.30%を含有し,Mg:0.0002〜0.0050%であり,残部がFeおよび不可避的不純物から成り,(1)式で示されるΣが0.70以下であり,鋼中に分散するMg含有酸化物の平均組成が式(2),(3)で表される組成範囲を満足するフェライト系ステンレス鋼鋳片を用いてフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法であって、鋳片を熱間圧延する際,加熱温度T1を(4)式で決まる温度とし,複数パスから成る粗圧延後の複数パスから成る仕上圧延を850℃以下で終了し,700℃以下で巻き取った後,加熱温度T2が(5)式で決まる温度で焼鈍を行い,冷間圧延を施した後,加熱温度T3が(6)式で決まる温度で焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
Σ=0.9Si+8.6P+2Ti+0.5Mn−0.5 …(1)
17.4(Al23)+3.9(MgO)+0.3(MgAl24)+18.7(CaO)≦500 …(2)
(Al23)+(MgO)+(MgAl24)+(CaO)≧95 …(3)
式(2),(3)において,( )は、酸化物がMgO,Al23,CaO,MgAl24 およびSiO 2 からなるとみなして求めた各々の酸化物のモル%である。
1000≦T1(℃)≦−100−8714/(log([Ti][C]0.5[S]0.5)−3.4) (4)
−5457/(log([Ti][C])−2.6)≦T2(℃)≦1000 (5)
−100−5457/(log([Ti][C])−2.6) ≦T3(℃)≦−5457/(log([Ti][C])−2.6) (6)
式(4)〜(6)において、[ ]はTi、C、Sの質量%である。
(2)質量%にて,C:0.001〜0.010%,Si:0.01〜0.30%,Mn:0.01〜0.30%,P:0.01〜0.04%,S:0.0010〜0.0100%,Cr:10〜20%,N:0.001〜0.020%,Ti:0.05〜0.30%を含有し,Mg:0.0002〜0.0050%であり,残部がFeおよび不可避的不純物から成り,(1)式で示されるΣが0.70以下であり,鋼中に分散するMg含有酸化物の平均組成が式(2),(3)で表される組成範囲を満足するフェライト系ステンレス鋼鋳片を用いてフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法であって、鋳片の熱間圧延後,熱延板焼鈍を省略し,ロール径が300mm以上の圧延機で圧下率30%以上の冷間圧延を施した後,加熱温度T4が(7)式で決まる温度で中間焼鈍を行い,その後所定の板厚まで冷間圧延し,加熱温度T5が(8)式で決まる温度で最終焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
700≦T4(℃)≦−50−5457/(log([Ti][C])−2.6) (7)
−100−5457/(log([Ti][C])−2.6) ≦T5(℃)≦−5457/(log([Ti][C])−2.6) (8)
式(7)、(8)において、[ ]はTi、Cの質量%である。
(3)溶鋼中にMgOまたは/および金属Mgを溶鋼1tonあたりMg換算で0.30kg以上投入することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(4)質量%にて,B:0.0003〜0.0050%または/およびAl:0.005〜0.1%をさらに含有することを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(5)質量%にて,Mo:0.1〜2.0%,Ni:0.1〜2.0%,Cu:0.1〜2.0%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(6)質量%にて,Nb:0.01〜0.5%,V:0.1〜3.0%,Zr:0.01〜0.5%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(7)鋳片厚さの1/4の部位において,柱状晶の平均幅が4mm以下であることを特徴とする上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは,SUS304の一部代替が可能な高加工性の高純フェライト系ステンレス鋼の開発を目的に,先ず真空精錬で極低C,Nにすることを前提とした。その上で,製錬工程で,Si,Mn,P,Tiもできるだけ低減することにより,可能な限り高純度化しSUS304に対するフェライト系の弱点である伸びを高めることを行った。Fe−17%Cr合金をベースに,C,N,Si,Mn,P,Tiの含有量を変化した実験室溶解材を製造し,熱延−冷延−焼鈍後の鋼板の圧延方向の伸び(試験片は,JIS13B号を使用)を求め,伸びとC,N,Si,Mn,P,Tiの関係を回帰して求めた。図1に示すように,伸びは,式(1)で示されるΣと良い相関があり,板厚0.5mmの場合(図1の○及び実線),Σが0.70以下で35%以上の高伸びが得られる。さらに,厚手の2.5mmの場合(図1の●及び破線)には,Σを0.50以下にすれば,伸び40%以上というフェライト系とすれば極めて高い伸びが得られることを確認した。ここで,図1の場合,Ti=15(C+N)となるように調整しており,C,Nの影響は,式(1)において,Tiの項に包含される。
Σ=0.9Si+8.6P+2Ti+0.5Mn−0.5 …(1)
【0018】
このように高純度化した鋼では,鋳造組織が粗大な柱状晶になり,その微細化が製品のローピングやリジングを低減するには必要になるが,本発明者らは,本発明に関わる鋼組成では,従来の技術で取り上げた,Al−Ti介在物に複合析出するTiNを凝固核として利用することは困難であることを明らかにした。本発明者らは,Fe−16.5%Cr−0.16%Ti−0.0090%N合金について,1500℃におけるTiNの平衡溶解度積,すなわち「鋼中の[%Ti]×[%N]がこの値以上であれば,溶鋼中にTiNが析出する限界の溶解度積」に及ぼす鋼中成分の影響を評価し,Siの影響が大きいことを知見した。図2にTiNの平衡溶解度積に及ぼすSiの影響を示す。Siを低減することにより,平衡溶解度積が急激に上昇する,つまりTiNが析出しにくくなることが分かる。16.5%Cr−0.16%Ti−0.0090%N鋼では,平衡溶解度積が図中の破線以下の領域でなければ,溶鋼中でTiNが析出しない。本発明で志向するSi≦0.20%の鋼では,Si:0.15〜0.20%の範囲では,TiNは析出するもののその量はわずかであり,また,Si≦0.15%の範囲では,溶鋼中にTiNは全く析出できない。したがって,TiNを溶鋼中に析出させて凝固核として機能させて,等軸晶化を行うことは,本発明に関わる低Siの鋼成分では困難である。
【0019】
そこで,本発明者らは,TiNが凝固核として機能することが期待できない本発明に関わる低Siの鋼組成において,有効な凝固核となり得る酸化物を検討した。その結果,溶鋼中にMgを添加して,Mgを含有する酸化物を溶鋼中に分散させることにより,凝固が促進されることを知見し,さらに,粗大な柱状晶の発達を抑制するには,脱酸の結果生成する酸化物組成の影響が大きく,鋼中に分散するMg含有酸化物の平均組成が式(2),(3)で表される組成範囲を満足する場合に,柱状晶の微細化が行えることを知見し,本発明に至った。
17.4(Al23)+3.9(MgO)+0.3(MgAl24)+18.7(CaO)≦500 …(2)
(Al23)+(MgO)+(MgAl24)+(CaO)≧95 …(3)
式(2),(3)において,( )はMgO,Al23,CaOおよびMgAl24のモル%である。
【0020】
Mg含有酸化物の組成の分析は,次のように行うことができる。鋳片からEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)または走査型電子顕微鏡(SEM)の試験片を切出し,その表面をダイヤモンド等を用いて鏡面に研磨する。EPMAまたはSEMで1μm程度以上の介在物を検出し,EPMAの場合,波長分散分析(ZAF分析)で,SEMの場合,エネルギー分散分析(EDX)で介在物の組成を分析する。本発明者らは,例えば,次のような分析装置を使用した。EPMA:日本電子製JXA8800Rおよび同社製JXA8800RL。SEM:日本電子製JSM−820,SEMに付属のEDX:OXFORD MODEL6779。試料中には1μm以下の介在物も観察されるが,分析精度が悪い。1μm以上の介在物のほうが凝固核として有効と判断できることから,分析は1μm以上の介在物を対象とする。観察される介在物は,凝固後の冷却過程において,酸化物に硫化物や窒化物が複合析出した形態を呈する場合が多い。分析で求められる酸化物を構成する主要な元素は,Mg,Al,Ca,Ti,Siであるが,Tiは酸化物,窒化物,硫化物のいずれをも構成している。そこで,Mg,Al,Ca,Siの分析結果を用いて,酸化物がMgO,Al23,MgAl24,CaOとその他のMg,Al,Caを含まない酸化物(例えばSiO2)から成ると見なし,式(2)(3)に登場する4種類の酸化物のモル%を算出する。なお,試験片検鏡面に観察される介在物のうち,Mgを含有しない介在物は計算から除外する。エネルギー分散分析でMg含有量が1mass%未満の介在物を計算から除外すればよい。分析は少なくとも20個以上のMg含有酸化物について行い,それらの平均モル%を算出した上で式(2)(3)の左辺の計算を行う。
【0021】
式(2),(3)で表される組成範囲を満足するMg含有酸化物が分散した場合に柱状晶の微細化が行われる理由は,次のように考えられる。まず,Mg含有酸化物が式(3)を満足することにより,Mg含有酸化物がSiO2やFeOといったフェライトの凝固核としての作用を阻害する成分の含有量の低いMgO−Al23−CaO系になる。その上で式(2)の組成範囲にある場合,溶鋼の液相線温度以上の温度で当該酸化物が固相として存在し,かつ当該酸化物と初晶(フェライト)との格子不整合度が小さく,凝固に伴う界面エネルギーの増大が小さいので,当該酸化物が凝固核として有利に働くためと考えている。
【0022】
本発明において鋳造組織の微細化は,等軸晶率の増大を必須とするものではない。式(2),(3)で表される組成範囲を満足するMg含有酸化物が分散して,粗大な柱状晶の発達が抑制されれば,たとえ等軸晶率が低く(例えば,10%や15%)ても,製品のローピングやリジングの低減が可能である。このような柱状晶の微細化の目安として,鋳片厚さの1/4の部位において,柱状晶の平均幅が4mm以下であればよい。ここで,柱状晶の平均幅は,鋳片横断面(鋳造方向に垂直な面)のマクロ写真を撮影し,その1/4厚さ部分に引いた線分が横切る柱状晶数で線分の長さを除して求めたものである。
【0023】
以上に述べたとおり,本発明は,鋼中にMgを添加することにより,製品のリジングやローピングなどの粗大凝固組織に起因した表面欠陥を防止する点に第1の特徴がある。
【0024】
Mgは,溶鋼中でMg酸化物を形成し,凝固過程においてフェライト相の凝固核となり,凝固時にフェライト相を微細生成させることができる。凝固組織を微細化させることにより,製品のリジングやローピングなどの粗大凝固組織に起因した表面欠陥を防止できる。フェライト凝固核となるMg酸化物の溶鋼中での積極的な形成は,Mg0.0002%から可能になる。また,Mg酸化物は溶鋼中でTiNの晶出核として作用するので,TiやNの含有量が少なくても溶鋼中にTiNを晶出させることができる。TiNも凝固過程においてフェライト相の凝固核となるので,TiNの晶出を促進させることで,凝固時にフェライト相を微細生成させることができ,製品のリジングやローピングなどの粗大凝固組織に起因した表面欠陥を防止できる。
【0025】
鋼中へのMg添加に際しては,金属Mgの添加のみならず,MgOの添加によっても表面欠陥の改善効果を発揮することができる。MgOおよび/または金属Mgを溶鋼1tonあたり金属Mg換算で0.30kg以上投入することにより,凝固組織が微細化し,厳しいプレス加工後においてもリジング高さは目視で認識できないレベルである5μm以下となる。
【0026】
金属Mgは酸素との親和力が強くMgOを形成するが,他元素の兼ね合いでガス化し易く歩留まりが不安定である。従って,鋼中に歩留るMg濃度を0.0002%以上にするために,金属Mg換算で0.30kg/ton以上のMgOや金属Mgを投入すれば,所要の鋼中Mgを確保しやすくすることができる。
【0027】
フェライトの凝固核として作用するMg−Al系酸化物を溶鋼中に形成する好ましい手段は,溶鋼を適度にAlで脱酸した後にTiを添加し,その上でMgを添加するというものである。まずAlで脱酸することにより溶鋼中に脱酸生成物としてAl23が形成される。次にTiを添加すれば,Al23に加えて溶鋼中にTi酸化物(TiOやTi)が形成される。その上でMgを添加することにより,既に形成されているAl23やTi酸化物がMgで還元され,フェライトの凝固核になりやすいMgOやAl23・MgOが分散して形成される。最初に添加するAlにより脱酸が十分に進みすぎると,Mg添加後も主な酸化物はAl23となり凝固組織の微細化は達成されないので,Alによる脱酸は適度に制御しなければならない。その目安としてMg添加前の溶鋼中のTi/Alの比を6以上とすることが望ましい。
【0028】
さらに実際の精錬プロセスでは,このような単純な脱酸順序の規定だけでは,目的とするMg酸化物を安定して形成することが難しく,溶鋼上に存在するスラグの組成を調整する必要がある。実際の精錬では溶鋼上部にスラグが存在し,溶鋼とスラグの間で行われる酸化・還元反応を使って溶鋼からの不純物の除去が行われる。例えば,脱硫の場合,Alで脱酸して溶鋼中の酸素を低減し,スラグにライム(CaO)を添加して塩基度を調整することにより,脱硫を容易にしている。この際,CaOの添加量が多いと,溶鋼中の介在物組成は,CaO・Al23系のいわゆるカルシウムアルミネートになる。カルシウムアルミネートは一般に融点が低く,鋼の凝固温度で介在物組成の溶体が浮遊したような状態になるので,フェライトの凝固核として機能することは期待できない。したがって,スラグ中へのCaOの添加が過度になると,凝固組織の微細化が達成できない。
【0029】
いっぽうCaOをスラグ中に添加した場合,Mgの添加によりMgO・CaO系の高融点の介在物が形成される場合がある。この場合は,溶鋼中に固相の介在物を形成することができるけれども,MgO・CaO系の酸化物は,フェライトとの格子整合性が悪く,フェライトの凝固核としての作用は小さくなってしまう。以上のことから,スラグの組成制御の目安として,Mg添加前のスラグ中の(CaO)/(Al23)の比を0.9未満にすることが好ましい。
【0030】
Mgの添加は,二次精錬の工程でランスを使ったいわゆるインジェクション法で金属MgやMg酸化物あるいはMg含有合金を溶鋼中に投入することにより行うことができる。また,金属Mg,Mg酸化物,Mg含有合金の投入は,連続鋳造の工程でタンディッシュやモールド中に行うことも可能である。この場合,投入用のワイヤを作製し連続的に投入することも可能となる。さらに溶鋼中へのMgの添加は,溶鋼とスラグの精錬反応を利用することもできる。例えば,スラグ中にMgOを添加して,スラグと溶鋼の脱酸平衡反応を利用して,溶鋼中にMgを含有させることもできる。同様にレードルの耐火物のライニング材の組成を工夫すれば,溶鋼と耐火物の間の反応を利用してMgを含有させることも可能である。
【0031】
次に本発明の成分の限定理由について説明する。
【0032】
Cは,加工性と耐食性を劣化させるため,その含有量は少ないほど良い。また,CはTi添加鋼の場合,熱間圧延中や再結晶焼鈍中に微細なTiCが過度に析出する場合があり,この場合,再結晶が著しく遅延して未再結晶組織となり,製品をプレス加工した際のリジング性が劣化したり,深絞り性を向上させる集合組織の発達が抑制され,結晶粒成長も遅くなるため上限を0.010%とした。過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため下限を0.001%とした。製造コストと耐食性を考慮すると,0.002〜0.005%が望ましい。
【0033】
Siは,脱酸元素として添加される場合があるが,固溶強化元素であるため,伸びの観点からその含有量は少ないほど良いため上限を0.30%とした。過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため下限を0.01%とした。製造コストと耐食性を考慮すると上限は0.20%以下,より好ましくは0.05〜0.15%が望ましい。また,Si≦0.15%であれば,溶鋼中にTiNが晶出して凝固組織が微細化することは期待できないので,Mgを添加する本発明の効果がより顕著に現れる。
【0034】
Mnは,Siと同様,固溶強化元素であるため,その含有量は少ないほど良く,伸びの観点から上限を0.30%とした。過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため下限を0.01%とした。製造コストと耐食性を考慮すると上限は0.25%以下が好ましい。より好ましくは0.01〜0.15%が望ましい。
【0035】
Pは,MnやSi同様,固溶強化元素であるため,その含有量は少ないほど良く,伸びの観点から上限を0.04%とした。過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため下限を0.01%とした。製造コストと耐食性を考慮すると上限は0.035%以下が好ましい。より好ましくは0.015〜0.025%が望ましい。
【0036】
Sは,Ti添加鋼の場合,Ti,CとTi422を形成し,Cを固定する作用を有する。これは高温で析出する粗大析出物であるため,再結晶,粒成長挙動への影響は小さいが,多量に析出すると発銹の起点となるため耐食性が劣化する。よって,Sの上限を0.0100%とした。過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため下限を0.0010%とした。製造コストと耐食性を考慮すると,0.0020〜0.0060%が望ましい。
【0037】
Crは,耐食性および耐高温酸化性の向上のために10%以上の添加が必要であるが,20%以上の添加は靱性劣化により製造性が悪くなる他,伸びも劣化する。よって,Crの範囲は10〜20%とした。更に,一般的な塩化物環境,大気腐食環境,硫酸などの酸の環境で用いるための耐食性と加工性の確保という観点では16〜19%,より好ましくは15〜17%が望ましい。
【0038】
Nは,Cと同様に加工性と耐食性を劣化させるため,その含有量は少ないほど良いことから上限を0.020%とした。過度の低下はTiNが凝固組織の微細化に使えるSi≧0.2%の鋼でもフェライト粒生成の核となるTiNが凝固時に析出せず,柱状晶化が発達し,製品板成形時のリジング性が劣化する懸念があるから下限を0.001%とした。また,Nが過剰に添加された場合,固溶Nにより伸びの低下をもたらす。製造コストと耐食性を考慮すると,0.004〜0.015%が望ましい。より好ましくは上限を0.01%以下とする。
【0039】
Tiは,C,N,Sと結合して耐食性,耐粒界腐食性および深絞り性を向上させる。深絞り性は,再結晶集合組織の発達が起因しているが,Ti添加によりTiC,Ti422,TiNが析出し,粒界が高純度化することで,再結晶焼鈍時に{111}面強度が強く発達する。これにより,深絞り性の指標であるr値が著しく向上する。しかしながら,固溶強化元素であるため,過度の添加は固溶Tiの増加に繋がり,張り出し性の指標である伸びの低下に繋がる。よって,Tiは0.05〜0.30%とした。精錬コストと溶接部の粒界腐食性を考慮すると,0.10〜0.20%以下が望ましい。更に,C,Nを固定して耐食性,特に溶接熱影響部の耐粒界腐食性を確保するために,10(C+N)%以上を添加すると好ましい。
【0040】
以上のSi,Mn,P,Tiは全体として,鋼板の伸びを高めるために,式(1)で示されるΣが0.70以下となるように限定する必要がある。
Σ=0.9Si+8.6P+2Ti+0.5Mn−0.5 …(1)
【0041】
Mgは,溶鋼段階でMg含有の酸化物を生成し,凝固を促進して,鋳片で粗大な柱状晶が発達するのを抑制するために添加する。また,Mgは溶鋼中でAlとともにMg酸化物を形成し脱酸剤として作用する他,TiNの晶出核として作用する。TiNは凝固過程においてフェライト相の凝固核となり,TiNの晶出を促進させることで,凝固時にフェライト相を微細生成させることができる。凝固組織を微細化させることは,製品のリジングやローピングなどの粗大凝固組織に起因した表面欠陥を防止できる。
【0042】
Mgは溶鋼に添加する際に蒸発しやすくまた添加後に酸化物を形成しても浮上しやすいため歩留が低い場合がある。たとえ鋼中のMg含有量が0.0002%まで低下しても,Mgを添加することによって,鋼中に分散するMg含有酸化物の平均組成が式(2)(3)の範囲を満足していさえすれば,1μm以上のMg含有酸化物が十分な数密度で鋳片に存在することとなり,本発明の効果を発揮することができる。よって,最終的に鋳片に歩留るMg量の下限は0.0002%とする。
【0043】
また,この程度のMgを含有すれば,一定のSiを含有している溶鋼の場合は,TiNの晶出核となるMg酸化物を積極的に溶鋼中に形成させることもできる。但し,0.0050%を超えると溶接性が劣化し,また粗大なMgSを形成して発銹の起点となるので,Mg含有量上限は0.0050%とした。凝固組織の微細化において,柱状晶幅の細分に加えて,等軸晶化を促進するためには,Mg≧0.0010%とすることが望ましい。
【0044】
以上が基本成分であるが,必要に応じて以下の成分を含有させることができる。
【0045】
Bは,2次加工性を向上させる元素であり,特にTi添加鋼への添加は有効である。Ti添加鋼はTiでCを固定するため,粒界の強度が低下し,2次加工の際に粒界割れが生じやすくなるが,Bを0.0003%以上添加することで防止できる。しかし,過度の添加は,伸びの低下をもたらすため,Bは0.0003〜0.0050%とした。更に,耐食性と精錬コストを考慮すると,0.0005〜0.0020%が望ましい。
【0046】
Alは,脱酸元素として0.005%以上添加されるが,過度の添加は加工性の劣化や表面品質の劣化をもたらす。よって,Alは,0.005〜0.10%とした。更に,精錬コストを考慮すると,0.010〜0.07%が望ましい。
【0047】
Mo,Ni,Cuは耐食性を向上させる元素であり,耐食性が要求される用途では1種または2種以上添加する。その添加量は,0.1%以上とすることによりその効果が発現するが,過度な添加は加工性,特に延性の劣化をもたらすため上限を2.0%とした。更に,製造性や強度などを考慮すると0.5〜1.5%が望ましい。
【0048】
Nb,V,Zrは加工性と耐食性を向上させる元素であり,要求させる用途に応じて1種または2種以上添加する。その添加量はNb:0.01%以上,V:0.1%以上,Zr:0.01%以上とすることによりその効果が発現するが,過度な添加は表面疵や光沢ムラなどの不具合をもたらしたり,延性の低下をもたらすため,Nb:0.01〜0.5%,V:0.1〜3.0%,Zr:0.01〜0.5%とした。更に,製造性や延性を考慮するとNb:0.1〜0.3%,V:0.2〜1.0%,Zr:0.05〜0.3%が望ましい。
【0049】
上記本発明の鋳片から製造されてなるフェライト系ステンレス鋼板は,深絞り性,張り出し性,リジング性に優れた性質を発揮することができる。
【0050】
本発明では,上記化学成分の他に製造方法についても検討を行った。
【0051】
本発明の第1のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は,上記本発明の鋳片を用いることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【0052】
本発明の第2のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は,ステンレス鋼溶製段階におけるMgの添加方法に関する。上述のとおり,Mgの添加量がリジングに大きく関連する凝固組織に影響することを見出した。図3に150tonの溶鋼中にMgOまたは/および金属Mgを添加した場合の,Mg換算添加量と製品板のリジング高さの関係を示す。図3に示すものは,16%Cr−0.003%C−0.1%Si−0.1%Mn−0.01%P−0.002%S−0.01%N−0.0005%B−0.01%Alの成分の鋼に図3横軸に示す添加量でMgOまたはおよび金属Mgを添加し,その後熱延(4.0mm厚)→冷延(ロール径400mm,2.0mm厚)→中間焼鈍(880℃)→冷延(0.5mm厚)→焼鈍(900℃)の圧延を行い,リジング高さを評価したものである。ここで,リジング高さの評価は,製品板からJIS5号引張試験片を採取して圧延方向に16%歪みを付与した後に表面の凹凸高さを粗さ計で測定し,リジング高さとした。この測定方法でリジング高さが5μm以下であれば厳しいプレス加工後においても目視で認識できないレベルである。
【0053】
図3より溶鋼中にMgを溶鋼1ton当たり0.30kg以上投入することにより,凝固組織が微細化し,リジング性が向上する。Mgは酸素との親和力が強くMgOを形成するが,他元素の兼ね合いでガス化し易く歩留まり難いことがわかった。しかしながら,溶鋼中にMgを溶鋼1ton当たり0.30kg以上投入することにより,Mg歩留まり量のばらつきに依存することなく凝固組織が微細化し,リジング性が向上する。ここで,添加するMgはMgOおよび/または金属Mgであれば効果は十分に得られる。また,溶鋼量は150ton以上が好ましい。
【0054】
Mg投入量が少ないと,溶鋼中の介在物が低融点のCaO・Al23系となり,フェライトの凝固核としての作用が得られなくなる。Mg投入量を0.30kg/t以上とすることにより,介在物の組成がMgO・Al23・CaO系となりたとえCaOが混入したとしても融点が上昇すると共にフェライトとの格子整合度に優れた式(2),(3)を満足する組成になる。Mgの添加量をさらに多くした場合は,介在物がMgOやMgO・Al23主体となり,凝固組織微細化機能はいっそう強くなるので,最終的に歩留るMgが上限を超えない範囲で,Mg投入量は任意に増大してもかまわない。
【0055】
本発明の第3のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は,以下の通り鋼板の圧延方法に関する。
【0056】
通常ステンレス鋼板は,スラブを熱間圧延し,熱延板焼鈍を施し,冷間圧延と再結晶焼鈍を1回以上繰り返して製造される。この際に成分に応じて製造条件を最適化することで深絞り性,張り出し性およびリジング性を向上できることを見出した。以下に本発明の製造方法の限定理由について説明する。
【0057】
Ti添加フェライト系ステンレス鋼板の熱間圧延において,スラブの加熱時にはTi422が析出する場合がある。加熱段階でこれが安定析出していないと,熱間圧延過程で析出するため,フェライト相の再結晶が大幅に遅延する。この固溶・析出温度は,[Ti][C]0.5,[S]0.5量によって異なるが,本発明では成分によって決まる温度域に加熱することにより,加熱段階で安定析出し,製品板のr値が向上することを見出した。図4に[Ti][C]0.5[S]0.5,スラブ加熱温度と製品板のr値の関係を示す。図4に示すものは,16%Cr−0.1%Si−0.1%Mn−0.01%P−0.01%N−0.0005%B−0.01%Al−0.0002%Mgの成分の鋼を,熱延(4.0mm)→熱延板焼鈍(930℃)→冷延(0.5mm厚)→焼鈍(900℃)の圧延を行ったもである。[Ti][C][S]含有量はいずれも本発明範囲内である。□内の数値はr値である。ここで,r値の評価は,製品板からJIS13号B引張試験片を採取して圧延方向,圧延方向と45°方向,圧延方向と90°方向に15%歪みを付与した後に(9)式および(10)式に示す式から平均r値を算出した。
r=ln(W0/W)/ln(t0/t) (9)
ここで,W0は初期板幅,Wは引張後の板幅,t0は初期板厚,tは引張後の板厚である。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4 (10)
ここで,r0は圧延方向のr値,r45は圧延方向と45°方向のr値,r90は圧延方向と直角方向のr値である。r値は平均r値で2.0以上あれば,厳しい深絞り加工を行っても割れが発生しないレベルである。図4より,前記(4)式で示した本発明範囲でスラブ加熱を行うことにより,極めて高い深絞り性を有すことがわかる。これは,本温度範囲においてはTi422がスラブ加熱時に安定析出し,熱延過程での再結晶が促進するためである。尚,スラブ加熱温度下限を1000℃とすることにより,圧延中の疵発生を防止できるので好ましい。
【0058】
熱間圧延における仕上温度を低温化することにより歪みが蓄積されるが,巻取温度が高いと歪みが開放され回復組織となる。逆に仕上温度が高温の場合,歪みは蓄積されない。熱延歪みが蓄積されると熱延板焼鈍時に再結晶が促進し,リジング性が改善される。仕上温度が850℃超,巻取温度が700℃超の場合は,回復組織となって熱延板焼鈍時に再結晶が生じ難くなり,リジングの原因となるバンド状の回復組織が残存する。よって,熱延の仕上温度は850℃以下,巻取温度は700℃以下とすると好ましい。
【0059】
次に熱延板焼鈍温度について説明する。熱延板焼鈍は,通常熱延で生じた加工組織を再結晶させ,製品板の加工性やリジング性を改善するために導入される工程である。しかしながら,熱延板焼鈍を施しても,厳しい加工においてはリジングが顕著に発生する場合がある。本発明では,成分に応じて熱延板焼鈍温度を最適化することにより,厳しい加工においてもリジングが殆ど発生しないレベルに改善できることを見出した。図5に[Ti][C]量,熱延板焼鈍温度と製品板のリジングの関係を示す。図5に示すものは,16%Cr−0.1%Si−0.1%Mn−0.01%P−0.002%S−0.01%N−0.0005%B−0.01%Al−0.0002%Mgの成分の鋼を,熱延(4.0mm)→熱延板焼鈍→冷延(0.5mm厚)→焼鈍(900℃)の圧延を行ったもである。[Ti][C]含有量はいずれも本発明範囲内である。□内の数値はリジング高さ(μm)の値である。図5より,前記(5)式で示した本発明範囲で焼鈍した場合,リジング高さが5μm以下に低減できることがわかる。熱延および熱延焼鈍時に微細に析出するTiCは,焼鈍過程でのフェライト相の再結晶を遅延させたり,整粒化を阻害する析出物である。この析出物が安定に存在すると,再結晶が遅延し,整粒化しないためリジングの原因である熱延組織が完全には破砕されない。しかし,TiCを固溶させる温度域に加熱することにより,フェライト相の再結晶が促進しかつ整粒化するため,熱延時に形成された圧延組織が完全に破砕され,リジング性が著しく改善される。尚,熱延板焼鈍を1000℃超にすると粗粒化してしまい,逆にリジング特性が劣化する。よって,1000℃を上限とした。
【0060】
最後に,最終焼鈍温度について説明する。最終焼鈍においては特に伸びを向上させるために前記(6)式の範囲で焼鈍することが有効である。伸び向上には結晶粒径をある程度粗粒化させることが有効であるが,成分によって最適な焼鈍温度は変化する。これは,最終焼鈍温度の粒成長に微細なTiCが影響しているためである。本発明では,図6に示すようにTiCの固溶温度以下でかつTiC固溶温度−100℃以上で焼鈍する方法である。図6に示すものは,16%Cr−0.1%Si−0.1%Mn−0.01%P−0.002%S−0.01%N−0.0005%B−0.01%Al−0.0002%Mgの成分の鋼を,熱延(4.0mm)→熱延板焼鈍(930℃)→冷延(0.5mm厚)→焼鈍の圧延を行ったもである。[Ti][C]含有量はいずれも本発明範囲内である。伸びは,製品板からJIS13号B引張試験片を採取して圧延方向に引張り,破断伸びを用いた。これより,(6)式で決定される温度域に加熱することで伸びが35%以上となり,厳しい張り出し加工も可能なレベルになるので好ましい。TiCが固溶してしまうと過度に粗粒化し,粗粒結晶粒界が破断し易くなるが,TiC固溶温度−100℃未満では,細粒組織になり高い伸びが得られない。よって,これは,TiCが固溶しない適正温度で最終焼鈍を施すことにより,極めて高い伸びが得られる。
【0061】
本発明の第4のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は,以下の通り鋼板の圧延方法に関する。
【0062】
上述の通り,通常ステンレス鋼板は,スラブを熱間圧延し,熱延板焼鈍を施し,冷間圧延と再結晶焼鈍を1回以上繰り返して製造される。この際の製造工程を最適化することで深絞り性,張り出し性およびリジング性を向上できることを見出すとともに,通常行われている熱延板焼鈍工程を省略することにより,生産性が向上するばかりでは無く加工性が更に向上することを見出した。
【0063】
即ち,スラブを熱間圧延後に熱延板焼鈍を省略し,ロール径が300mm以上の圧延機で圧下率30%以上の冷間圧延を施した後,所定の加熱温度で中間焼鈍を行い,その後所定の板厚まで冷間圧延し,所定の加熱温度で最終焼鈍を行う点に特徴がある。
【0064】
本発明鋼のような高純度成分鋼においては,熱延板焼鈍で再結晶させると粗粒組織となる。熱延で回復が進み歪みが十分蓄積されていないためである。それに対し,熱延板焼鈍を施さずに大径ロールを用いてある程度の冷間圧延を行い,途中で中間焼鈍を施すと細粒再結晶組織が得られる。その後さらに冷間圧延と最終焼鈍を行うことによって加工性を向上することができる。熱延での加工に冷延歪みが導入されるため,中間焼鈍時に細粒化されるためである。
【0065】
以下に本発明の製造方法の限定理由について説明する。
【0066】
一般的に熱延板焼鈍を省略すると加工性は劣化するが,本発明では,熱延板焼鈍を付与するよりも熱延板焼鈍を省略した方が良くなることを見出した。これは,熱延後の冷間圧延において,ロール径が300mm以上のロールを用いて圧延することにより,剪断歪みの導入を抑制して冷延集合組織を制御する点である。また,ロール径が大きいとr値が向上することは,先述したように開示されているが,熱延板焼鈍を省略すること,中間焼鈍温度をTi,C量に応じて最適化させてr値をより向上させる点が新しい知見である。図7に製品板のr値と中間焼鈍温度の関係を示す。図7に示すものは,16%Cr−0.1%Si−0.1%Mn−0.01%P−0.002%S−0.01%N−0.0005%B−0.01%Al−0.0002%Mgの成分の鋼を,熱延(4.0mm厚)→冷延(ロール径400mm,2.0mm厚)→中間焼鈍→冷延(0.5mm厚)→焼鈍(900℃)の圧延を行ったものである。ここで,r値の評価は,製品板からJIS13号B引張試験片を採取して圧延方向,圧延方向と45°方向,圧延方向と90°方向に15%歪みを付与した後に前記(9)式および(10)式に示す式から平均r値を算出した。
【0067】
r値は平均r値で2.5以上あれば,厳しい深絞り加工も可能なレベルである。これより,ロール径が300mm以上のロールを用い,かつその後中間焼鈍を(7)式の範囲で行うことにより,熱延板焼鈍を省略しても極めて高い深絞り性を有すことがわかる。これは,中間焼鈍段階で過度な粒成長を抑制する微細TiCを安定析出させ,微細なフェライト再結晶粒を形成させることが,製品板のr値向上に寄与しているためである。熱延板焼鈍を付与してしまうと,熱延板焼鈍時に粗粒化してしまうため,中間焼鈍段階での結晶粒は焼鈍省略材の方が微細化するため,r値は焼鈍省略材の方がよい。また,大径ロールによる冷間圧延を行っても,中間焼鈍時に粗粒化が生じる高温焼鈍をしてしまうと,大径ロール効果が無くなってしまう。尚,焼鈍時に再結晶が生じない場合には製品の加工性が劣化するため,大径ロールでの冷間圧延圧下率を30%以上,中間焼鈍温度の下限を700℃にした。
【0068】
最後に,最終焼鈍温度について説明する。中間焼鈍時にはTiCを活用して微細再結晶粒を形成するために(7)式の範囲で焼鈍したが,最終焼鈍においては特に伸びを向上させるために(8)式の範囲で焼鈍することが有効である。これは,TiCの固溶温度以下でかつ極度に粗粒化しない範囲で高温域で焼鈍する方法である。図8に最終焼鈍温度と伸びの関係を示す。図8に示すものは,16%Cr−0.1%Si−0.1%Mn−0.01%P−0.002%S−0.01%N−0.0005%B−0.01%Al−0.0002%Mgの成分の鋼を,熱延(4.0mm厚)→冷延(ロール径400mm,2.0mm厚)→中間焼鈍(880℃)→冷延(0.5mm厚)→最終焼鈍の圧延を行ったもである。伸びは,製品板からJIS13号B引張試験片を採取して圧延方向に引張り,破断伸びを用いた。伸びの値としては,35%以上あれば従来のフェライト系ステンレス鋼板では加工出来なかった成形においても前述のr値との組み合わせで加工できるレベルである。これより,(8)式で決定される温度域に加熱することで,伸びが向上する。これは,TiCが固溶せずかつ高温域で焼鈍することで,極度にフェライト相が粗粒化せずに加工性に有利な結晶粒に成長するためである。
【0069】
【実施例】
(実施例1)
転炉−真空精錬法で表1に示す鋼を溶製し,さらに取鍋精錬にて成分の微調整を行い,溶鋼中に浸漬したランスを使ったインジェクション法で金属Mgあるいは酸化Mg(MgO)を添加した。連続鋳造で厚さ250mmの鋳片を製造した。
【0070】
本発明に関わる鋼の溶製においては,添加したMgがAl23を還元してMgO・Al23系の介在物ができやすくなるようにMg添加前の溶鋼の脱酸はAl弱脱酸とし,溶鋼中のAlを0.025%以下に管理した。また,スラグ中のCaOとAl23の濃度比を管理してスラグ中のCaOの活量を低下することにより近似的にスラグと平衡する溶鋼中の介在物のCaO活量を低下させて,介在物の低融点化を防止した。Mgの吹き込み量は表1に示すとおりとして,Mgの歩留りを確保した。
【0071】
表1の成分は,得られた鋳片の化学成分を示したものである。鋳片からEPMAの試験片を切出し,その表面をダイヤモンドを用いて鏡面に研磨し,EPMAで1μm程度以上の介在物を検出して波長分散分析で,介在物の組成をZAF分析した。観察される介在物は,凝固後の冷却過程において,酸化物に硫化物や窒化物が複合析出した形態を呈する場合が多い。分析で求められる酸化物を構成する主要な元素は,Mg,Al,Ca,Ti,Siであるが,Tiは酸化物,窒化物,硫化物のいずれをも構成している。そこで,Mg,Al,Ca,Siの分析結果を用いて,酸化物がMgO,Al23,MgAl24,CaOとその他のMg,Al,Caを含まない酸化物(例えばSiO2)から成ると見なし,式(2)(3)に登場する4種類の酸化物のモル%を算出し,表1に示す組成を求めた。
【0072】
【表1】
Figure 0003746045
【0073】
また,鋳片横断面(鋳造方向に垂直な面)のマクロ写真を撮影し,等軸晶率(等軸晶の占める面積率)を判定した。さらに,マクロ写真上でその1/4厚さ部分に引いた幅方向の線分(長さ500mm)が横切る柱状晶数で該線分の長さ500mmを除して,柱状晶の平均幅を求めた。これらの結果を,表2に示す。
【0074】
鋳片をホットストリップミルで連続熱間圧延し,熱延板焼鈍・酸洗を施した後,冷間圧延,焼鈍・酸洗を行い,厚さ0.5mmの鋼板を製造した。鋼板から,圧延方向にJIS13B号引張試験片とJIS5号引張試験片を作製し,それぞれ引張試験(降伏強さYS,伸びEl)とr値測定,リジング測定に供した。r値は,15%の引張後に測定した。リジングは,16%の引張後の試験片表面を粗さ測定器で計測し,リジング高さを求めた。鋼板表面のローピングは,官能検査でA,B,C,Dの4段階の評価(A→B→C→Dの順にローピングの評価は低下する)を行った。以上の鋼板の材質評価結果を表2に合せて示す。
【0075】
【表2】
Figure 0003746045
【0076】
本発明に従えば,CやNに加えて,置換型固溶元素であるSi,Mn,P,Tiを低減した高純度鋼であっても,粗大な柱状晶の発達が抑制でき柱状晶の幅が小さくなるので,高純度化による高加工性(高伸び,高r値)を享受するのと同時に,リジング,ローピングにも優れた鋼板を得ることができる。一方,本発明に関わるMg含有酸化物が形成されていない比較例1,2では,加工性は高くともリジング,ローピングで大きく劣ってしまう。特に,比較例2では,Mgを10ppm含有するにもかかわらず,粗大な柱状晶になってしまっており,Mgを添加するだけでなくMg酸化物の組成を適切にすることが重要であることを示している。この場合,Mg添加前のスラグ組成が不適切で,(CaO)/(Al)が0.9以上であった。高純度化が不十分な比較例3では,加工性自体が高くない。
【0077】
(実施例2)
表3〜6に示す成分組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製,鋳造した。その後,熱間圧延して,3.8mm厚の熱延板とした。その後,熱延板連続焼鈍を施し,酸洗した後,0.5mm厚まで冷間圧延し,連続焼鈍−酸洗,調質圧延を施して製品とした。表中,金属Mg,MgO投入量は,金属Mg換算投入量(kg/t)である。
【0078】
本発明例の鋼の溶製においては,実施例1と同様に,脱酸順序,スラグ組成制御,Mg投入量の調整により,式(2),(3)を満足する酸化物組成を実現した。
【0079】
上記のようにして得られた0.5mm厚の製品板から,試験片を採取し,r値,伸び,リジング高さを測定した。測定方法は先述した方法と同様である。
【0080】
表4,6において,TA=−100−8714/(log([Ti][C] 0.5 [S] 0.5 )−3.4),TB=−5457/(log([Ti][C])−2.6),TC=−100−5457/(log([Ti][C])−2.6)である。
【0081】
表3〜6から明らかなように,本発明で規定する化学成分を有する鋼であって,Mg成分が本発明範囲内あるいはMg添加量が本発明範囲内のものは,比較鋼に比べてr値,伸びが高く,リジング高さが低く,深絞り性,張り出し性,リジング性に優れていることがわかる。
【0082】
表3,4のNo.1〜6、8〜10、12〜25が本発明例である。No.1〜は,溶鋼中への金属MgやMgOのインジェクションはいずれも行っていないが,(CaO)/(Al)を調整したスラグにMgOを添加しており,スラグから供給されたMgにより式(2),(3)を満足するMg含有酸化物が溶鋼中に形成されたため,良好なリジング高さを確保している。No.8〜10、12〜25はMgOおよび/または金属Mgを溶鋼1tonあたりで金属Mg換算で0.3kg以上投入し,かつ鋼中Mgが0.0002%以上となり,良好なリジング高さを確保している。
【0083】
表5,6のNo.26〜55が比較例である。No.26,39,40はMg含有量もMg投入量も不足しており,No.27,28,41〜49は製造条件が本発明範囲外であり,No.29,37は成分と製造条件が本発明範囲外であり,No.30〜36,38,50〜55は成分が本発明範囲外であり,十分な品質を得ることができなかった。
【0084】
尚,スラブ厚さ,熱延板厚などは適宜設計すれば良い。また,冷間圧延においては,圧下率,ロール粗度,圧延油,圧延パス数,圧延速度なども適宜選択すれば良い。更に,冷間圧延の途中に中間焼鈍を入れる2回冷延法を採用すれば,更に特性は向上する。中間焼鈍と最終焼鈍は水素ガスあるいは窒素ガスなどの無酸化雰囲気で焼鈍しても,大気中で焼鈍してその後酸洗しても構わない。
【0085】
【表3】
Figure 0003746045
【0086】
【表4】
Figure 0003746045
【0087】
【表5】
Figure 0003746045
【0088】
【表6】
Figure 0003746045
【0089】
(実施例3)
表7、9に示す成分組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製,鋳造した。その後,熱間圧延して,3.8mm厚の熱延板とした。その後,熱延板焼鈍は施さずに酸洗し,冷間圧延した後,中間焼鈍を施し0.5mm厚まで冷間圧延し,更に連続焼鈍−酸洗,調質圧延を施して製品とした。また,一部比較例は,熱延板焼鈍を施して製造した。表中,金属Mg,MgO投入量は,金属Mg換算投入量(kg/t)である。
【0090】
本発明例の鋼の溶製においては,実施例1と同様に,脱酸順序,スラグ組成制御,Mg投入量の調整により,式(2),(3)を満足する酸化物組成を実現した。
【0091】
上記にようにして得られた0.5mm厚の製品板から,試験片を採取し,r値,伸び,リジング高さを測定した。測定方法は先述した方法と同様である。
【0092】
表8,10において,TA=−50−5457/(log[Ti][C]−2.6),TB=−5457/(log[Ti][C]−2.6),TC=−100−5457/(log[Ti][C]−2.6)である。
【0093】
表7〜10から明らかなように,本発明で規定する化学成分を有する鋼であって,Mg成分が本発明範囲内あるいはMg添加量が本発明範囲内にあり,さらに本発明の製造条件を満足するものは,比較鋼に比べてr値,伸びが高く,リジング高さが低く,深絞り性,張り出し性,リジング性に優れていることがわかる。
【0094】
表7,8のNo.1〜4、7〜9、11〜18、20〜21が本発明例である。No.1,2,〜8,14〜16は,溶鋼中への金属MgやMgOのインジェクションはいずれも行っていないが,(CaO)/(Al)を調整したスラグにMgOを添加しており,スラグから供給されたMgにより式(2),(3)を満足するMg含有酸化物が溶鋼中に形成されたため,良好なリジング高さを確保している。No.3〜4,9、11〜13,17、18、20、21はMgOおよび/または金属Mgを溶鋼1tonあたりで金属Mg換算で0.3kg以上投入し,かつ鋼中Mgが0.0002%以上となり,良好なリジング高さを確保している。
【0095】
表9,10のNo.22〜46が比較例である。No.32,33はMg含有量もMg投入量も不足しており,No.22〜31,41〜46は成分が本発明範囲外であり,No.34〜40は製造条件が本発明範囲外であり,十分な品質を得ることができなかった。
【0096】
尚,スラブ厚さ,熱延板厚などは適宜設計すれば良い。また,冷間圧延においては,圧下率,ロール粗度,圧延油,圧延パス数,圧延速度などは適宜選択すれば良い。更に,中間焼鈍と最終焼鈍は,必要であれば水素ガスあるいは窒素ガスなどの無酸化雰囲気で焼鈍する光輝焼鈍でも大気中で焼鈍してその後酸洗しても構わない。
【0097】
【表7】
Figure 0003746045
【0098】
【表8】
Figure 0003746045
【0099】
【表9】
Figure 0003746045
【0100】
【表10】
Figure 0003746045
【0101】
【発明の効果】
本発明により,加工性(伸びとランクフォード値)に優れ,同時にリジングやローピングの極めて小さいフェライト系ステンレス鋼板を製造するためのフェライト系ステンレス鋳片及びその鋳片から製造された鋼板ならびにそれらの製造方法の提供が可能となるので,その工業的意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板の伸びと高純度化指標Σの相関を示し,Σが小さいほど(高純度化するほど)伸びが大きくなることを示している。
【図2】TiNの平衡溶解度積に及ぼす溶鋼中のSiの影響を示すもので,▲1▼Siを低減することにより,平衡溶解度積が急激に上昇する,つまりTiNが析出しにくくなる,▲2▼16.5%Cr−0.16%Ti−0.0090%N鋼では,平衡溶解度積が図中の破線以下の領域でなければ,溶鋼中でTiNが析出しないことを示すものである。
【図3】溶鋼中へのMg投入量と製品板のリジングの関係を示す図である。
【図4】スラブ加熱温度と製品板のr値の関係を示す図である。
【図5】熱延板焼鈍温度と製品板のリジングの関係を示す図である。
【図6】最終焼鈍温度と製品板の伸びの関係を示す図である。
【図7】中間焼鈍温度と製品板のr値の関係を示す図である。
【図8】最終焼鈍温度と製品板の伸びの関係を示す図である。

Claims (7)

  1. 質量%にて,C:0.001〜0.010%,Si:0.01〜0.30%,Mn:0.01〜0.30%,P:0.01〜0.04%,S:0.0010〜0.0100%,Cr:10〜20%,N:0.001〜0.020%,Ti:0.05〜0.30%を含有し,Mg:0.0002〜0.0050%であり,残部がFeおよび不可避的不純物から成り,(1)式で示されるΣが0.70以下であり,鋼中に分散するMg含有酸化物の平均組成が式(2),(3)で表される組成範囲を満足するフェライト系ステンレス鋼鋳片を用いてフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法であって、
    鋳片を熱間圧延する際,加熱温度T1を(4)式で決まる温度とし,複数パスから成る粗圧延後の複数パスから成る仕上圧延を850℃以下で終了し,700℃以下で巻き取った後,加熱温度T2が(5)式で決まる温度で焼鈍を行い,冷間圧延を施した後,加熱温度T3が(6)式で決まる温度で焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
    Σ=0.9Si+8.6P+2Ti+0.5Mn−0.5 …(1)
    17.4(Al23)+3.9(MgO)+0.3(MgAl24)+18.7(CaO)≦500 …(2)
    (Al23)+(MgO)+(MgAl24)+(CaO)≧95 …(3)
    式(2),(3)において,( )は、酸化物がMgO,Al23,CaO,MgAl24 およびSiO 2 からなるとみなして求めた各々の酸化物のモル%である。
    1000≦T1(℃)≦−100−8714/(log([Ti][C]0.5[S]0.5)−3.4) (4)
    −5457/(log([Ti][C])−2.6)≦T2(℃)≦1000 (5)
    −100−5457/(log([Ti][C])−2.6) ≦T3(℃)≦−5457/(log([Ti][C])−2.6) (6)
    式(4)〜(6)において、[ ]はTi、C、Sの質量%である。
  2. 質量%にて,C:0.001〜0.010%,Si:0.01〜0.30%,Mn:0.01〜0.30%,P:0.01〜0.04%,S:0.0010〜0.0100%,Cr:10〜20%,N:0.001〜0.020%,Ti:0.05〜0.30%を含有し,Mg:0.0002〜0.0050%であり,残部がFeおよび不可避的不純物から成り,(1)式で示されるΣが0.70以下であり,鋼中に分散するMg含有酸化物の平均組成が式(2),(3)で表される組成範囲を満足するフェライト系ステンレス鋼鋳片を用いてフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法であって、
    鋳片の熱間圧延後,熱延板焼鈍を省略し,ロール径が300mm以上の圧延機で圧下率30%以上の冷間圧延を施した後,加熱温度T4が(7)式で決まる温度で中間焼鈍を行い,その後所定の板厚まで冷間圧延し,加熱温度T5が(8)式で決まる温度で最終焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
    700≦T4(℃)≦−50−5457/(log([Ti][C])−2.6) (7)
    −100−5457/(log([Ti][C])−2.6) ≦T5(℃)≦−5457/(log([Ti][C])−2.6) (8)
    式(7)、(8)において、[ ]はTi、Cの質量%である。
  3. 溶鋼中にMgOまたは/および金属Mgを溶鋼1tonあたりMg換算で0.30kg以上投入することを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
  4. 質量%にて,B:0.0003〜0.0050%,Al:0.005〜0.1%の1種または2種をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
  5. 質量%にて,Mo:0.1〜2.0%,Ni:0.1〜2.0%,Cu:0.1〜2.0%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
  6. 質量%にて,Nb:0.01〜0.5%,V:0.1〜3.0%,Zr:0.01〜0.5%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
  7. 鋳片厚さの1/4の部位において,柱状晶の平均幅が4mm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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