JP3741031B2 - 電動機の固定子構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動機における固定子の構造に関し、特にステータを効率良く冷却するためにステータコイルが収容されるスロットの一部を冷却通路として利用して、これに冷却油等の冷却媒体を通流させることで強制冷却するようにした電動機の固定子構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のステータの冷却技術に関するものとして、例えば特許第2716286号公報に記載のものが知られている。この従来の技術では、コイルエンドおよびステータコアの内周側の面にスロットを閉塞するような樹脂製の円筒を挿入し、ステータ両端のカバーで密閉することで巻線周囲に空間を設け、この空間に液体を流すことでその液体によるコイルの直接冷却を可能としたものである。
【0003】
また、ステータコイルを形成することになる巻線の構造として、例えば特開2000−197294号公報に記載されているように、平角形状の巻線を巻回軸方向にトラバースさせながら幾層にも巻いたものがある。この巻線は、円環状のステータコアを形成することになる分割コアの突極部分に巻回された後、所定数の分割コア同士を相互に組み合わせることでステータとして組み立てられ、先に例示した冷却構造を採用することで直接液体で冷却することが可能となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の構造では、巻線をトラバースさせて所定回数巻回した後にその外周にさらに巻線を幾層に重ねるような構造となっていることから、スロット部に冷却油を流しても、隣接する極の巻線同士の間に生じる比較的大きな空間に大量の油が流れ、巻線内周部に生じた電線素線間の隙間には油が流れにくく、流速のばらつきがコイル温度のばらつきにつながる現象が見られる。そのため、巻線の内周側では温度が上昇してしまい、本来の冷却効果が得られにくくなっていた。そして、このように巻線部分で温度勾配が生じると、最も温度の高い部位を基準に温度限界を決定する必要があるため、冷却されやすい巻線外周側は温度限界に達しない状態で使われていることになり、材料性能の限界まで使用しきれなかった。
【0005】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、とりわけ巻線の内周側まで効率良く冷却できるようにした固定子の構造を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、複数の突極を有する円環状のステータコアを形成するべく各極ごとに分割された分割コアと、分割コアのうち巻線が巻回される突極部分を覆う絶縁紙と、絶縁紙の上から所定回数巻回された巻線と、複数の分割コアをステータコアとして組み立てた時に隣接する分割コア同士の間に形成されるスロットの入口部を密閉する密閉手段とから構成され、冷却媒体がスロット内部を流れることで冷却を行う電動機の固定子において、ステータ軸心方向に延びる液状樹脂通路としてのランナが予め形成されているスペーサを、巻線最外周面と当接しつつ且つランナが巻線と分割コアとの間および巻線と密閉手段との間にそれぞれ生じる空間に連通するようにスロット空間のうち隣接する極の巻線同士の間に挿入して、そのランナを使用して巻線と分割コアとの間および巻線と密閉手段との間にそれぞれ生じる空間に樹脂を充填するとともに、この樹脂充填圧力をもってスペーサを巻線に押し付けるようにしたことを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1の記載を前提として、巻線は、絶縁紙の上から平角形状の巻線素線をトラバースさせずに順次巻回してなる複数列の一部巻線部がその巻回方向が逆になるようにステータ直径方向に交互に配置され且つ隣接する一部巻線部同士の端部が電気的に接続されたものとして構成されていて、
スロット内における一部巻線部同士の間の空間に冷却媒体の通路を確保しつつ樹脂を充填したことを特徴としている。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2の記載を前提として、スペーサと巻線最外周面とが接触する領域を、ステータ外周側の一部巻線部においてはステータ内周側の一部とし、ステータ内周側の一部巻線部においてはステータ外周側の一部としたことを特徴としている。
【0010】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの記載を前提として、分割コア一つについて複数列配置されることになる一部巻線部の導体断面積を列ごとに異なる断面積としたことを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかの記載を前提として、分割コアの両端に配置される絶縁キャップに、その分割コアに複数列にわたり配置された一部巻線部の内周端部を電気的に接続するための連結線が設けられていて、その連結線の長さを複数列にわたる一部巻線部の全幅よりも長くしたことを特徴としている。
【0012】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、隣接する極の巻線間に生じるスロット空間をスペーサで封じることで冷却媒体を電線素線間の隙間に導くことができるので、電線全体が流速の高い冷却媒体に接触することで巻線の均熱化が図れる効果がある。また、スロットに挿入されるスペーサにステータ軸心方向に延びる液状樹脂通路としてのランナが予め設けられていて、そのランナを使用して巻線と分割コアとの間および巻線と密閉手段との間にそれぞれ生じる空間に樹脂を充填したことから、分割コアと巻線との間での熱伝達が容易となって温度勾配を小さくすることが可能となるほか、樹脂の充填圧力により巻線素線同士を一層強固に押し付ける効果があり、巻線の熱伝達が一段と促進される利点がある。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果に加えて、冷却媒体の通路を確実に確保できる利点がある。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に示したスペーサにおいて、そのスペーサと巻線最外周面とが接触する領域を、ステータ半径方向外周側の一部巻線部においてはステータ内周側の一部とし、ステータ半径方向内周側の一部巻線部においてはステータ外周側の一部とすることによって、一部巻線のうちスペーサと接触していない部位は巻線巻回によるスプリングバックで広がった状態となり、その部分の巻線素線相互間の空間に樹脂が充填されることから、巻線からコアヘの熱伝達が容易となり、効果的な冷却が可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、一つの分割コアについて複数列配置される一部巻線部の導体断面積を異なるものとして、巻数や素線断面積を決定することで各一部巻線の発熱量をコントロールできるようにしたことから、例えば伝熱面積の大きいステータ外周面側の一部巻線部は発熱量が大きくなるような巻数と断面積(厚さ×幅)の組み合わせとすることで冷却能力に応じた発熱量配分として、巻線の温度ばらつきを減少させることが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、複数列に巻回した一部巻線部の内周側でその一部巻線部同士を電気的に接続する連結線を実質的に一部巻線部の全幅よりもステータ外周側へ突出した形状としているため、例えば巻線の巻回終了後に巻線幅より突出した連結線を90°程度折り曲げることでモータ動作時にはその部分が冷却媒体中に浸ることになるため、冷却能力が向上し、特に温度が高くなりやすい巻線内周側の部分の放熱効果を向上させることができる効果がある。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1,2には本発明の前提となるステータの基本構造を示し、特に図1はステータ1の組立状態を、図2は図1のA−A線に沿う断面図をそれぞれ示している。
【0019】
図1,2に示すように、ステータ1の主体となるステータコア2は複数の分割コア3,3…をもって円環状のものとして形成されており、各分割コア3,3…は所定の形状に打ち抜かれた電磁鋼板の積層体をもって形成されている。分割コア3,3…の内周側に突出した突極部3aにはその突極部3aを取り囲むように絶縁紙4が装着され、さらに分割コア3,3…における電磁鋼板積層方向の両端には絶縁性を有するエンドキャップ5が取り付けられ、それら絶縁紙4およびエンドキャップ5の上から巻線素線6を巻き付けてなる巻線7が設けられている。
【0020】
すなわち、巻線7と分割コア3の間には絶縁紙4が介装され、その上から巻線7となる巻線素線6が巻回されている。図2に示した例では、偏平型(平角型)の巻線素線6をトラバースさせることなく直上に順次巻回した一部巻線部7A,7Bをステータ直径方向に二列にわたり配置してある。そして、一部巻線部7A,7B同士の間に空間を設けて冷却媒体の通路である冷却油路8としている。
【0021】
隣接する分割コア3,3同士の間に形成されるスロット9のうちその内周側の開口部10には密閉手段として絶縁性を有するウエッジ11が挿入されている。このウエッジ11はスロット9の開口部10から絶縁紙4までの空間を埋めるような形状で形成され、分割コア3,3…を形成している電磁鋼板の積層厚さとほぼ同等の長さを有している。このウエッジ11を挿入した状態で必要数分の分割コア3,3…を樹脂成形型に装填して成形を行うことにより、ステータコア2の内周と略同一の内径で巻線7周辺の冷却油を隔離するための円筒壁12が成形される。この樹脂成形では、各分割コア3,3…を形成している電磁鋼板の積層方向の一方から樹脂が充填され、一方のコイルエンドに設けられる円筒状の壁面を形成し、さらにスロット9の開口部10のステータ内周面とウェッジ11の間の空間(円筒壁12となるべき領域)を通って他方のコイルエンドの壁面を形成するようになっている。
【0022】
図3は上記ステータ1が電動機として組み立てられた後の断面図を示したものである。ステータ1はケース13に圧入されている。ケース13の軸方向両端にはエンドブラケット14が取り付けられ、その中央部にはロータ15を回転可能に保持するためのベアリング16が取り付けられている。このエンドブラケット14には、円筒壁12と互いに嵌合するような円筒状の溝が設けられ、その溝に組み付けられたオイルシール17で円筒壁12との間をシールしている。これにより、ステータ1の巻線7周辺には密閉された空間が形成され、その空間に冷却油等の冷却媒体を流すことで巻線7を直接冷却することが可能となる。冷却油はコイルエンド部の一方の空間に設けられた冷却油流入口18から取り込まれ、コイルエンド部を冷却した後に、スロット9内の空間をモータ軸方向に流れて他方のコイルエンド部の空間に流れる。その後、冷却油排出口19から排出される。
【0023】
図4は、図2に示すようにステータ1を形成することになる分割コア3,3同士の間のスロット9にあって、且つ隣接する巻線7,7同士の間に挿入されるスペーサ20を示したものである。このスペーサ20はPPS樹脂などの高耐熱性樹脂で形成されている。スペーサ20の挿入によって隣接する極の巻線7,7同士の間に生じる空間が封止され、ステータ1の軸心方向に存在する空間は、二列の一部巻線部7A,7B同士の間に存在する空間すなわち冷却油路8のみとなる。
【0024】
図5の(a)は一部巻線部7A,7Bを形成することになる巻線素線6を巻回した分割コア3の突極部3aの断面を示した図である。この図によれば、巻線素線6は張力をかけながら突極部3aに巻回されるが、その巻線素線(銅線)6の曲げによるスプリングバックにより四辺の直線部分では絶縁紙4やエンドキャップ5に密着せずに隙間が生じることになる。
【0025】
この状態でスペーサ20を挿入したのが図5の(b)であり、スペーサ20はステータ1として組み立てられた後のスロット空間寸法よりも予めわずかに大きく形成されており、スロット9に挿入することで巻線素線6には同図のような押し付け力Fが作用して、巻線素線6のスプリングバックによる空間を減少させる。
【0026】
冷却油はステータ1の一方の軸方向端部から入って他方に抜けていく。この時に、二列にわたり配置された一部巻線部7A,7B同士の間に確保された冷却油路8を通過する。本実施の形態では、巻回された巻線素線6の全てが冷却油路8に面した形となるため、巻線素線6の冷却ばらつきが減少することで一部巻線部7A,7Bひいいては巻線7の温度分布幅が減少する効果がある。また、スペーサ20の挿入によって一部巻線部7A,7Bの巻線素線6,6同士が密着するため、巻線素線6,6相互の熱伝達が容易となって温度ばらつきを減少させることができる効果がある。
【0027】
さらに、上記の密着性の向上によってモータ動作時の機械振動や電磁気振動による巻線素線6,6間の摩擦を防止することができ、絶縁破壊などの事態の発生を未然に防止することが可能となるほか、巻線素線6,6間を固定するためのワニス処理が不要となり、生産性の向上やコスト低減を図ることが可能となる。
【0028】
加えて、スペーサ20によりスロット9が固定されることによりステータ組立後の剛性が向上し、突極部3aの振動が抑制されてモータ動作時の騒音も低減するほか、冷却性能が向上することで巻線7の温度が低下することから、例えば巻線素線6として必ずしもグレードの高くない絶縁皮膜を有する電線に置換することでコスト低減を図ることも可能となる。
【0029】
図6は巻線素線26として角線をトラバースさせながら巻回した変形例を示したもので、巻回した巻線27の最外周面に倣うような形状で、なおかつ巻線素線26を分割コア3の突極部3aの方向に押し付けるようなスペーサ30を挿入している。これにより、隣接する極の巻線27,27同士の間のスロット9の空間は閉ざされ、巻線素線26,26相互間の隙間に冷却媒体が流れることになり、巻線素線26の温度ばらつきを減少させることができる。
【0030】
図7は巻線素線36として丸線を巻回した変形例を示したもので、先の角線巻回時と同様に巻回した巻線37の最外周面に倣うような形状で、なおかつ巻線素線36を分割コア3の突極部3aの方向に押し付ける様なスペーサ40を挿入している。これにより、同様にしてスロット9の空間は閉ざされ、巻線素線36,36間の隙間に冷却媒体が流れることになり、巻線素線36の温度ばらつきを減少させることができることになる。
なお、これまでの図1〜7に関する説明は、以降に説明する本発明の実施の形態での前提となる基本構造を示したものであり、したがって、各請求項に記載の発明には包含されない。
【0031】
図8は本発明の好ましい第1の実施の形態を示し、図2に示した基本構造部分と共通する部分には同一符号を付してある。なお、この第1の実施の形態は請求項1,2に記載の発明に対応している。
【0032】
円環状に組み立てられたステータコア2のスロット9の開口部10に円筒壁12を樹脂成形した後に、そのスロット9にランナ付スペーサ50を挿入してある。本実施の形態では、絶縁紙24は巻線素線6を巻き付ける内周部分にのみ設けられる。二列に巻かれた一部巻線部7A,7B同士の間の空間は冷却油路8となり、さらに巻線7の両脇すなわちステータ直径方向の内外周側には絶縁紙24の厚さ程度の隙間21を確保してある。
【0033】
図9にランナ付スペーサ50の外観を示す。スペーサ50には、ステータ軸心方向に貫通する穴をもって一対のランナ22が形成されており、そのランナ22には図8に示すように巻線7の両脇に生じる隙間21に連通するようにステータ半径方向の複数の分岐通路23が設けられている。この分岐通路23を通して隙間21に高熱伝導性の樹脂を充填して分割コア3と巻線7の熱伝達効率を向上させている。
【0034】
図10は上記ランナ22を使って樹脂充填を行った後のステータコア2の断面図である。スペーサ50に充填された樹脂25はランナ22を通過して隙間21に充填され、分割コア3と巻線7の熱伝達を促進する。通常用いられる絶縁紙では、巻線7をステータ直径方向で分割コア3に密着させるのは困難であるため、巻線7と絶縁紙24との間もしくは絶縁紙24と分割コア3との間には空気層が生じるため伝熱しにくくなっている。本実施の形態では、その領域に樹脂25を充填することで巻線7から分割コア3への伝熱が容易になり、冷却効率が向上する。さらに、高効率な油冷却をするための冷却油路8は確実に確保できるため、オイルが淀むような領域は発生させずに部位に応じて効率的な伝熱方法を設定することができる。
【0035】
また、樹脂25の充填圧力によりスペーサ50にはステータ半径方向の内周側に力が作用するため、両側の極の巻線7,7を一層強固に押し付ける効果があり、巻線7,7間の熱伝達が促進されるほか、樹脂充填圧力によりバックティース部と巻線7との間の空間に充填された樹脂25をシールする効果が生じるため、樹脂充填して熱伝達を促進する部位と冷却媒体を流して熱交換する部分とを同一スロット内で使い分けることが可能となる。
【0036】
図11は図10の変形例を示し、先に示したランナ22付きのスペーサ50に代えてランナ22が形成されていないスペーサ60を使用することを前提として、そのスペーサ60と巻線7とが接触する領域を限定した例を示している。
【0037】
先の実施の形態では一部巻線部7A,7Bの最外周面の全面をスペーサに当接させていたが、本変形例では、二列に巻回された一部巻線部7A,7Bのうちステータ外周側の一部巻線部7Aについては巻線最外周面のステータ外周側の一部分のみを、さらにステータ内周側の一部巻線部7Bについては巻線最外周面のステータ内周側の一部分のみをそれぞれスペーサ60に当接させるようにしたところに特徴がある。
【0038】
図12は図11のスロット9のB部を拡大図示したものであるが、本変形例によれば、各一部巻線部7A,7Bは巻線素線6の巻回時に生じる巻線素線6,6間の隙間をすべて封じるのではなく、冷却油路8寄りの部分は隙間として残すことが可能である。これにより、冷却油29が流れるときに巻線素線6,6間に生じた隙間にも冷却油29が入り込むことで冷却油29と巻線素線6,6との接触面積が増加し、効率的な熱交換が可能となる。
【0039】
すなわち、スペーサ60と接触していない巻線素線6,6の一部は巻回によるスプリングバックで広がった状態となり、その部分に冷却媒体である冷却油29が流れることで熱交換面積が増大して冷却効率が向上するほか、巻線7とスペーサ60の接触面積が減少することによりスペーサ60を挿入するときの挿入力が小さくなるためにスペーサ60の折損も未然に回避できることになる。
なお、本変形例は、先に述べたようなランナ22を有していないスペーサ60の使用を前提としているために、各請求項に記載の発明からは除外される。
【0040】
図13は本発明の第2の実施の形態を示し、予めランナ22が形成されたスペーサ70を使用することを前提として、図11,12に示した変形例と同様にスペーサ70と巻線7とが接触する領域を限定した例を示している。なお、この実施の形態は請求項3に記載の発明に対応している。
【0041】
本実施の形態では、図13に示すようにランナ22付きのスペーサ70が各一部巻線部7A,7Bの最外周面と接触する領域を冷却油路8側の一部の面のみとして、ステータ外周側に位置する一部巻線部7Aの最外周面のうちの外周側部分およびステータ内周側に位置する一部巻線部7Bの最外周面のうちの内周側部分については、スペーサ挿入による押し付け圧を作用させないようにした点に特徴がある。
【0042】
図14は図13のC部の領域を拡大図示した図である。ランナ22付きのスペーサ70を挿入することで冷却油路8近傍の巻線素線間6,6の隙間が封じられた状態で、ランナ22を通じて熱伝導性樹脂を充填する。これにより、巻線7のステータ外周方向の側面および内周方向の側面に生じた空間に樹脂層28が形成される。この際に、これら側面側の巻線素線6,6間にはスプリングバックにより素線間隙間が生じた状態となっており、その素線間隙間にも樹脂が充填されることで巻線素線6,6と樹脂層28との接触面積を大きくすることが可能であり、分割コア3と巻線7との熱伝達率を向上させることが可能である。
【0043】
また、樹脂の充填圧力によりスペーサ70がステータ内周側に押し込まれるため、巻線外周面との接触部ではでより強力に巻線素線6,6同士が固定され、樹脂が巻線素線6,6間の冷却油路8側にはみ出るのを未然に防止できる。
【0044】
図15は本発明の第3の実施の形態を示し、巻線7を形成することになる一対の一部巻線部77A,77bについてその巻線素線76の断面積を異ならしめた例を示している。なお、この実施の形態は請求項4に記載の発明に対応している。
【0045】
図15に示すように、二列にわたり配置される一部巻線部77A,77Bの巻線素線76の断面形状(厚さ×幅)をそれぞれ異なるものを使用して巻回したことを特徴とするもので、この構造により巻線素線76に電流が流れることによる銅損の発生量を各列の一部巻線部77A,77Bごとに任意に設定することができる。
【0046】
通常、同一断面積の巻線素線76を巻回した場合には、ステータ外周側の一部巻線部77Aの方が巻回長さが長いため抵抗値は大きくなり、それに比例して発熱が生じることになる。
【0047】
ステータコア2の冷却環境を考えた場合、ステータ外周側の一部巻線部77Aは、側面に良熱伝導体である分割コア3があるため熱を吸収する能力はもう一方の一部巻線部77Bに対して高いことになる。しかしながら、ステータ内周側の一部巻線部77Bは、集中巻ステータによる界磁の高調波成分によりロータの渦電流損失が大きくなりがちで、その輻射熱で温度が上昇しやすく、巻線側面に良熱伝導体である分割コア3が無いため放熱性能的にも劣っている。そこで、ステータ外周側の一部巻線部77Aにおける巻線素線76の断面形状の幅と厚さを小さくして断面積を減少させ、巻数を多くすることで抵抗値を増大させて発熱量を増加させる。発熱量の増加に対しては、第1の実施の形態に示したような樹脂充填の手法により伝熱能力を向上させて巻線7の過熱を防止することが可能である。
【0048】
図16は本発明の第4の実施の形態を示し、特に分割コア3の両端に配置されるエンドキャップ5の詳細を示している。なお、この実施の形態は請求項5に記載の発明に対応している。
【0049】
図16に示すように、先に例示した分割コア3の両端に配置されるエンドキャップ5には例えば図2における複数の一部巻線部7A,7B同士を電気的に接続するための連結線31を設けてある。図2に記載のもののほか先のいくつかの実施の形態のように、一つの分割コア3に巻線7として二列にわたり一部巻線部7A,7Bを配置する場合、各一部巻線部7A,7Bの内周側始端(巻き締まり方向での始端)同士は電気的に接続される。そのための連結線31はエンドキャップ5に設けられた溝に予め装着され、連結線31は二列分の一部巻線部7A,7Bの全幅よりも長くなっている。一部巻線部7Aからはみ出る分はステータ外周側に突出するように設定されている。
【0050】
図17には一部巻線部7A,7Bとして巻線素線6を巻回する工程を示す。(a)では分割コア3における電磁鋼板の積層方向両端部にエンドキャップ5と連結線31を配置し、クランプ領域Gを所定の治具でクランプする。これにより連結線31とエンドキャッブ5は分割コア3に強固に固定される。その後、同図(b)に示すように巻線素線6の始端を連結線31上で超音波溶接などによる接合部32にて接合して電気的に接続する。この接合の際には、最低でも巻線素線6の断面積以上の接合面積が接合部32で確保されるように配慮する。また、PIW皮膜やAIW皮膜さらにはEIW皮膜などに代表される高耐熱皮膜の場合には、必要に応じて皮膜を剥離した上で超音波溶接などによって接合する。溶接終了後、同図(c)に示すように一列目の一部巻線部7Aを形成することになる巻線素線6を所定張力Tのもとで直上に所定回数巻き取っていく。その後、エンドキャップ5および連結線31のクランプを取り外し、二列目の一部巻線部7Bの巻線素線6の始端を同様に超音波溶接等にて連結線31と電気的に接合する。接合後、同図(d)に示すように一列目とは逆回転で二列目の一部巻線部7Bとなる巻線素線6を所定回数巻回して巻線作業を終了する。
【0051】
先に説明した連結線31と巻線素線6との超音波溶接に際して絶縁信頼性確保の上で必要であれば、2層目を巻き取る前に絶縁フィルムを挟んだり、絶縁性の接着剤等を流して絶縁することも可能である。
【0052】
二列分の一部巻線部7A,7Bの巻回作業が終了した段階で、同図(d)に示すようにその二列分の一部巻線部7A,7Bの全幅よりもステータ外周側に突出した連結線31の先端部31aを90°折り曲げてエンドキャップ5から突出させる。その後、同図(e)に示すように連結線31の先端部31aにキャップ33をかぶせて絶縁処理を施す。
【0053】
このように連結線31をステータ外周側に突出させることで、モータとして機能する際に連結線31までもが冷却油中に浸るためにその連結線31を介して各一部巻線部7A,7Bの内周側を効果的に冷却することが可能となる。さらに、一列目の一部巻線部7Aを巻回するときに巻線始点を連結線31に接合し、連結線31の両端をクランプすることで巻線時の張力で連結線31が抜け出るのを防止でき、生産性の向上につながるほか、二列目の一部巻線部7Bの巻回時には、一列目の巻回による締付力で連結線31が既に固定されており、上記と同様にその抜け出しが確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の前提となるステータの基本構造を示す説明図。
【図2】図1に示したステータの要部断面図。
【図3】図1に示したステータを含むモータの組立状態の断面図。
【図4】図2に示したステータで使用されるスペーサ単独での説明図。
【図5】上記スペーサと巻線との関係を示す断面図。
【図6】 図2の変形例として巻線素線として角線をトラバース巻きしたときのステータの要部断面図。
【図7】 図2の変形例として巻線素線として丸線をトラバース巻きしたときのステータの要部断面図。
【図8】 本発明の第1の実施の形態としてランナ付スペーサを挿入したステータの要部断面図。
【図9】図8に示したランナ付スペーサ単独での説明図。
【図10】図8の状態から樹脂充填した後のステータの要部断面図。
【図11】 図10のステータの変形例を示す要部断面図。
【図12】図11のB部拡大図。
【図13】 本発明の第2の実施の形態を示すステータの要部断面図。
【図14】図13のC部拡大図。
【図15】 本発明の第3の実施の形態を示すステータの要部断面図。
【図16】 本発明の第4の実施の形態としてエンドキャップと連結線の形状を示す説明図。
【図17】図16に示すエンドキャップを使用した場合の巻線作業の工程説明図。
【符号の説明】
1…ステータ
2…ステータコア
3…分割コア
3a…突極部
4…絶縁紙
5…エンドキャップ
6…巻線素線
7…巻線
7A,7B…一部巻線部
8…冷却油路
9…スロット
11…ウエッジ(密閉手段)
20…スペーサ
22…ランナ
24…絶縁紙
25…樹脂
26…巻線素線
27…巻線
28…樹脂層
30…スペーサ
31…連結線
36…巻線素線
37…巻線
40…スペーサ
50…ランナ付きスペーサ
60…スペーサ
70…スペーサ
76…巻線素線
77A,77B…一部巻線部

Claims (5)

  1. 複数の突極を有する円環状のステータコアを形成するべく各極ごとに分割された分割コアと、分割コアのうち巻線が巻回される突極部分を覆う絶縁紙と、絶縁紙の上から所定回数巻回された巻線と、複数の分割コアをステータコアとして組み立てた時に隣接する分割コア同士の間に形成されるスロットの入口部を密閉する密閉手段とから構成され、冷却媒体がスロット内部を流れることで冷却を行う電動機の固定子において、
    ステータ軸心方向に延びる液状樹脂通路としてのランナが予め形成されているスペーサを、巻線最外周面と当接しつつ且つランナが巻線と分割コアとの間および巻線と密閉手段との間にそれぞれ生じる空間に連通するようにスロット空間のうち隣接する極の巻線同士の間に挿入して、
    そのランナを使用して巻線と分割コアとの間および巻線と密閉手段との間にそれぞれ生じる空間に樹脂を充填するとともに、この樹脂充填圧力をもってスペーサを巻線に押し付けるようにしたことを特徴とする電動機の固定子構造。
  2. 巻線は、絶縁紙の上から平角形状の巻線素線をトラバースさせずに順次巻回してなる複数列の一部巻線部がその巻回方向が逆になるようにステータ直径方向に交互に配置され且つ隣接する一部巻線部同士の端部が電気的に接続されたものとして構成されていて、
    スロット内における一部巻線部同士の間の空間に冷却媒体の通路を確保しつつ樹脂を充填したことを特徴とする請求項1に記載の電動機の固定子構造。
  3. スペーサと巻線最外周面とが接触する領域を、ステータ外周側の一部巻線部においてはステータ内周側の一部とし、ステータ内周側の一部巻線部においてはステータ外周側の一部としたことを特徴とする請求項1または2に記載の電動機の固定子構造。
  4. 分割コア一つについて複数列配置されることになる一部巻線部の導体断面積を列ごとに異なる断面積としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動機の固定子構造。
  5. 分割コアの両端に配置される絶縁キャップに、その分割コアに複数列にわたり配置された一部巻線部の内周端部を電気的に接続するための連結線が設けられていて、その連結線の長さを複数列にわたる一部巻線部の全幅よりも長くしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動機の固定子構造。
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