以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う回転電機の外観を示す図である。
図1を参照して、回転電機は、回転自在に固定されたロータ(図示せず)と、ロータの外周に固設されるステータ100aとを備える。
図示しないロータは、図示しない回転シャフトを介して回転可能に収容される。
ステータ100aは、ロータの回転を制御するために、ロータの外周を取り囲むようにして固設される。ステータ100aは、ステータコア102と、コイル112と、バスバー110と、バスバー位置決めブロック104と、渡り部材106とを含む。
ステータコア102は、中空円筒形状を有しており、環状のヨーク部と、ヨーク部の内周側に径方向内方を指して環状に配列された所定数の櫛歯(以下、ティースとも称する)108からなるティース部と、互いに隣り合うティース108の間に形成され、軸方向に延在する所定数の溝(以下、スロットとも称する。たとえば146,148)とを含む。
なお、ティース108およびスロット146の個数は、回転電機の極数に対応しており、本実施の形態では、極数をたとえば”21”とする。
コイル112は、所定数のティース108の各々に巻回されて固着される。詳細には、コイル112は、各々が予めコの字型に成形した平板導体が積層されてなる複数個の積層体コイル(図示せず)で構成される。コイル112は、ティース108を跨ぐようにして、その直線部の2辺が隣り合う2つのスロット(たとえば146,148)に挿入される。
さらに、スロット146,148からそれぞれ突出したコイル112の開放端部において、複数個の積層体コイルの一方の開放端部とこれに隣接する積層体コイルの他方の開放端部とが、バスバー110を介してそれぞれ結合される。これにより、積層体コイルの個数に応じた所定の巻回数を有するコイル112が形成される。このとき、軸方向に沿ってスロットから突出した積層体コイルの両端部分は、コイル112のコイルエンド部を構成する。
バスバー110の組み付けにあたっては、まず、コイル112の開放端部間を接続するための複数のバスバー110が位置決めされてバスバー位置決めブロック104に固定される。続いて、バスバー位置決めブロック104が所定の位置に配置され、押圧されることにより、複数の積層体コイルの開放端部にそれぞれ対応したバスバー110が組み付けられる。
このとき、コイル112には、図1に示すように、ティース108の両脇に位置するスロット146,148のうち、一方のスロット146の内周側と他方のスロット148の外周側とにおいて、バスバー110に接続されないコイル端部が形成される。コイル端部は、スロットごとに内周側と外周側とに位置することから、ステータコア102全体では、周方向に沿ってそれぞれ環状に配列された構成となる。
この構成において、スロットの内周側に位置するコイル端部と、他のスロットの外周側に位置するコイル端部とは、渡り部材106により結合される。詳細には、1つのティース108に巻回されたコイル112の内周側のコイル端部は、当該ティース108から周方向に3ティース目に位置するティース108に巻回されたコイル112の外周側のコイル端部に結合される。すなわち、コイル端部は、3ティース毎に渡り部材106を介して結合されることになる。
さらに、図1に示すように、内周側に位置する複数のコイル端部のうちの互いに隣り合う3つのコイル端部140,142,144は、渡り部材106によって、互いに結合される。また、これらに対向する外周側のコイル端部134,136,138には、ステータ100aの外部と電力の授受を行なうための端子が配される。
このようにして、コイル端部134,136,138を入出力端子とする3相同期モータのステータ100aが形成される。コイル端部134,136,138の各々に位相制御された交流電力が供給されると、ステータ100aは、交流電力に応じた磁界を発生する。ロータは、発生した磁界に基づく回転力を得る。
以上の構成からなるステータ100aにおいて、コイル端部134,136,138から交流電力が供給されると、コイル112には、各相ごとに制御された電流が流れる。これにより、コイル112に、電流の大きさの二乗とコイル抵抗との積に比例した量のジュール熱が発生する。コイル112に生じた熱は、コイル112が巻回されるステータコア102に伝導し、さらにステータコア102が固設されるケース(図示せず)へと伝導する。
ここで、コイル112の発熱によるステータ100aの焼損を防止するためには、コイル112の熱をすばやく放熱することが必要とされる。先述のように、放熱性が向上されれば、コイルの電流密度を高めることができ、高負荷動作および回転電機の小型化を図ることができる。一方、ステータ100aの絶縁損傷を回避するためには、コイル112とステータコア102との間の電気的絶縁を十分に確保しなければならない。
そこで、本実施の形態では、コイル−ステータコア間の絶縁を確保しつつ、放熱性に優れたステータの構造について提案する。
図2は、図1のステータ100aにおけるステータコア102の詳細を示す図である。
図2を参照して、ステータコア102は、周方向に所定の間隔で配列される複数のティース108と、各々が隣接するティース間に形成される複数のスロット(たとえば146,148)とを含む。
ステータコア102は、スロット148において、軸方向に沿った両開口端部にそれぞれ嵌合された電気絶縁部材10aをさらに含む。なお、図示は省略するが、スロット148以外のスロットにおいても同様に、両開口端部に電気絶縁部材10aが嵌合される。
本実施の形態に係るステータ100aは、電気絶縁部材10aがスロット148の軸方向の両開口端部付近にのみ設けられることを特徴とする。この点において、電気絶縁部材(スロット絶縁物、インシュレータなど)がスロットの軸方向の全長に渡って設けられる従来のステータの構造とは異なる。
図3は、図2に示す電気絶縁部材10aの構成の一例を示す図である。
電気絶縁部材10aは、具体的には、図3に示すように、側面の一部分が閉じていない筒状体であり、その一方端面において、側面を外方に折り返すようにして形成された支持部を有する。電気絶縁部材10aは、スロットに嵌合されると、この支持部によってスロットの開口端部付近に固定され、位置ずれが回避される。
図2に示すように、電気絶縁部材10aが全スロットの両開口端部に嵌合されると、ティース108を跨いで隣接するスロットごとにコイル112が挿入される。さらに、バスバー110によってコイル112の開放端部同士が結合されることにより、コイル112が巻回される。最後に、ティース108にコイル112が巻回された状態で、ステータ100a全体にモールド工程が施される。これにより、コイル112とステータコア102との間の電気絶縁部材10aを除く領域は、樹脂モールド材で充填されることになる。なお、このモールド工程の詳細については、後述する。
以上のように、本実施の形態によるステータ100aにおいて、コイル112とステータコア102との間には、スロットの両開口端部に設けられた電気絶縁部材10aを除いて樹脂モールド材が介在することとなる。この構成において、動作時にコイル112で発生した熱は、以下に述べる放熱経路に従って放熱される。
図4は、コイル112とステータコア102との間の放熱経路を説明する図である。詳細には、図4(A)は、コイル112に生じた熱の放熱経路を示す図であり、図4(B)は、放熱経路を模式的に示す回路図である。
図4(A)を参照して、コイル112に発生した熱(=発熱量Qとする)は、コイル112からステータコア102へと伝導する。このとき、コイル112とステータコア102との間に一様に電気絶縁部材122が介在する従来のステータ構造であれば、発熱量Qは、コイル112から電気絶縁部材122を経てステータコア102に伝導される。
この放熱経路は、図4(B)に示すように、コイル112、ステータコア102およびケース150の各々を結ぶ熱抵抗R1,R2によって表わすことができる。
詳細には、コイル112とステータコア102との間には、熱抵抗R1が存在する。また、ステータコア102とケース150との間には、熱抵抗R2が存在する。特に、熱抵抗R1については、コイル112と電気絶縁部材122との隙間の熱抵抗成分r1、電気絶縁部材122に固有の熱抵抗成分r2および電気絶縁部材122とステータコア102との隙間の熱抵抗成分r3からなる3つの熱抵抗成分r1〜r3が直列接続されたものと考えることができる。
ここで、ステータ100aの冷却効率を高めるには、熱伝導を妨げる上記の熱抵抗R1,R2を低減することが必要である。熱抵抗は、主として、熱が伝導する距離とその伝導媒体の有する熱伝導率とによって決まる。したがって、熱抵抗の低減には、伝導距離を縮めること、および伝導媒体の熱伝導率を上げることが有効である。これを図4(A)のステータ100aに適用すれば、上記の熱抵抗R1,R2のうち、熱抵抗R2については、ステータコア102とケース150とを接触させることによって低減することができる。また、熱抵抗R1については、コイル112とステータコア102との隙間に熱伝導率の高い伝導媒体を用いること、および隙間の幅を縮めることが有効であるといえる。
一方、コイル112とステータコア102との間は、コイル112とステータコア102との電気的絶縁を確保するために必要な最低限の距離を保つ必要がある。このため、隙間の幅の低減には限界がある。
そこで、本実施の形態では、図2に示す電気絶縁部材10aをコイル112とステータコア102との電気的絶縁に用いることで、絶縁を確保しながら、高い熱伝導性を有するステータ100aの実現を図る。
図5は、図4(A)におけるA−A断面の断面構造を示す図である。詳細には、図5(A)に、従来のステータの断面構造を示し、図5(B)に、本実施の形態によるステータの断面構造を示す。
図5(A)を参照して、従来のステータにおいて、コイル112の直線部の一辺は、ステータコア102の隣り合うティース108間に形成されるスロットの中央部に位置する。コイル112の両側面とティース108との間に形成される所定幅の隙間には、スロットと略同一形状の筒状の電気絶縁部材122が配される。この電気絶縁部材122により、ステータコア102とコイル112との電気的絶縁が確保される。なお、コイル112と電気絶縁部材122との間に生じる隙間および電気絶縁部材122とステータコア102との間に生じる隙間は、それぞれ空隙もしくは樹脂モールドを充填して構成される。
一方、本実施の形態に係るステータ100aにおいては、図5(B)に示すように、コイル112の直線部の一辺とティース108との間に形成される隙間は、スロットの両開口端部から嵌合された電気絶縁部材10aが配される。さらに、電気絶縁部材10aが配された部分を除く隙間の全領域は、樹脂モールド材120で覆われている。
次に、以上の構成からなる2つのステータにおいて、コイル112で発生した熱の放熱経路を比較する。
まず、従来のステータにおいては、コイル112で発生した熱は、コイル112→空隙もしくは樹脂モールド→電気絶縁部材122→空隙もしくは樹脂モールド材→ステータコア102の順で伝導する。この放熱経路において、電気絶縁部材122の前後の隙間を樹脂モールド材で構成すれば、熱伝導率の低い空隙で構成するときよりも熱抵抗を低減して、熱伝導性を高めることができる。しかしながら、従来のステータの放熱経路においては、電気絶縁部材122の持つ熱抵抗成分が依然として存在する。
次に、本実施の形態によるステータ100aにおいては、コイル112で発生した熱は、軸方向の両端を除いて、その大半が、コイル112→樹脂モールド材120→ステータコア102の順に伝導する。
以上の2つの放熱経路を比較すれば、本実施の形態による放熱経路は、先の従来構造における放熱経路に対して、電気絶縁部材122を経路として含まないことが明らかである。よって、本実施の形態によれば、コイル112−ステータコア102間の熱抵抗から電気絶縁部材122の持つ熱抵抗成分を除去することができ、熱抵抗を大幅に低減することが可能となる。
なお、コイル112とステータコア102との間に介在する樹脂モールド材120には、従来のステータに用いられる樹脂モールド材よりもさらに高い熱伝導率を有する高熱伝導樹脂モールド材を採用することが望ましい。このとき、高熱伝導樹脂モールド材の熱伝導率としては、少なくとも電気絶縁部材10aの熱伝導率よりも高くなるように選定する。
一方、電気的絶縁については、本実施の形態においても、コイル112は、スロットの両開口端部に配した電気絶縁部材10aによってスロットの中央部に精度良く位置決めされる。さらに、コイル112を積層体コイル114で構成することによって、スロット内に収まるコイル112の直線部の形状の精度が良いことから、コイル112とステータコア102との電気的絶縁に必要な所定幅の隙間を保持でき、容易に絶縁を確保することができる。
以上のことから、本実施の形態によれば、コイル112とステータコア102との電気的絶縁を保持しながら、両者間の熱抵抗を低減できることから、回転電機の冷却効率を高めて高負荷動作および小型化を図ることができる。
さらに、従来のステータにおいて、電気的絶縁と放熱性とのために行なわれていた複数回のモールド工程を、一回のみのモールド工程で済ますことができることから、製造コストを大幅に低減することができる。
以下に、本実施の形態に係るステータ100aの具体的な構造について、その製造工程を追って説明する。
図6は、ステータコア102に挿入されるコイル112の組み付け経過を示す図である。
図6を参照して、スロットの両開口端部に電気絶縁部材10aが嵌合されると、ティース108を挟んで隣り合う2つのスロット146,148にコイル112の開放端部がそれぞれ挿入される。
コイル112は、先述のように、複数個の積層体コイル114からなり、直線部の2辺が隣り合うスロット146,148にそれぞれ挿入される。すなわち、1つのスロット146には、一のコイル112の直線部の一方辺と、これに隣接する他のコイル112の直線部の他方辺とが周方向に隣り合って配置されることになる。
図7は、図6に示すコイル112の外観を示す図である。
図7を参照して、コイル112は、各々がコの字型の平板導体を積層して形成される、複数個の積層体コイル114からなる。平板導体としては、たとえば銅圧延素材の金属平板が用いられる。なお、銅圧延素材の金属平板の表面には、予め酸化銅の絶縁皮膜の表面処理が施されている。
詳細には、銅圧延素材の金属平板は、プレス工程において、コの字形状にプレス成形される。成形されたコの字型の金属平板は、所定の枚数だけ積層される。このとき、各金属平板には、複数箇所の突出部が設けられており、一方の金属平板の突出部の凹部に他方の金属平板の突出部の凸部を圧入する、いわゆる積層カシメによって互いに固定される。このようにして所定の枚数の金属平板を互いに固定することにより、積層体コイル114が形成される。
さらに、積層体コイル114は、隣接する積層体コイル114に対する絶縁処理が施される。この絶縁処理は、たとえばガラスなどの無機材質を介在させること、もしくは積層体ごとにエナメル処理を施すことによって行なわれる。絶縁処理がなされた積層体コイル114は、図7に示すように、所定の個数が互いに接着されて、コイル112が形成される。
ここで、コイル112を形成する複数個の積層体コイルを互いに異なる寸法の金属平板を積層して構成すれば、コイル112の断面形状を自由に設定することができる。図7のように、スロットの形状に合わせて、径方向の内周側から外周側に向けて(図7では上面から下面に向けて)金属平板の幅が大きくなるように構成すれば、スロット内におけるコイル112の占積率を高めることができる。これにより、コイル112とステータコア102との間の熱抵抗が低減し、放熱性が向上する。
図8は、ステータコア102に挿入されるコイル112の組み付け経過を示す図である。
図7に示す複数個の積層体コイル114で形成されたコイル112は、図8に示すように、ティース108を跨ぐようにして、両脇に位置するスロット146,148に挿入される。さらに、スロットにコイル112を挿入した後に、コイル112とティース108の先端部との電気的絶縁を確保するために、ウェッジ絶縁紙が軸方向に沿って組み付けられる。
なお、図8に示すように、コイル112の開放端部において、複数の積層体コイル114は、形状が互いに異なる嵌合部をそれぞれ有する。この嵌合部において、積層体コイル114とバスバー110とが組み付けられる。なお、隣接する積層体コイル間で異なる形状の嵌合部を設けることにより、バスバー110の組み付け時における組み付け間違いを防止することができる。
図9は、バスバー110が組み付けられたコイル112の外観を示す図である。
図9を参照して、積層体コイル114の開放端部の嵌合部は、直線形状の導体であるバスバー110の接合部と接合される。このとき、バスバー110の一方端部は、積層体コイル114の一方の開放端部と接合される。一方、バスバー110の他方端部は、積層体コイル114に隣接する積層体コイル114の他方の開放端部と接合される。
以下同様に、複数個(図9では10個)の積層体コイル114の開放端部の一方が、バスバー110を介して隣接する積層体コイル114の開放端部の他方とそれぞれ接合されることにより、ティース108にコイルが10回巻回された状態となる。このようにして、10ターンのコイル112が形成される。
バスバー110が積層体コイル112に組み付けられると、バスバー110と各積層体コイル112の開放端部との嵌合部には、一点ごとにレーザ溶接もしくはTIG(Tungsten Inert Gas arc)などの接合処理が施される。
なお、バスバー110の組み付けは、図10に示すように、複数のバスバー110が位置決めされた固定されたバスバー位置決めブロック104により一度に行なうこともできる。
この場合、バスバー位置決めブロック104が所定の位置に設置されて押圧されることにより、複数のバスバー110が対応する積層体コイル114の開放端部にそれぞれ組み付けられる。バスバー110と積層体コイル114の開放端部の嵌合部とは、それぞれレーザ溶接またはTIG溶接により接合される。
図11は、コイル端部に渡り部材106を組み付ける経過を示す図である。
バスバー110と各積層体コイル114の嵌合部とが接合されると、図11に示すように、渡り部材106を用いてティース108ごとに巻回されたコイル112同士が接続される。本実施の形態に係る回転電機は、3相交流同期モータであるため、3ティース毎にコイル112の外周側のコイル端部とコイル112の内周側のコイル端部とが接続される。コイル端部と渡り部材106の接続とは、たとえばレーザ溶接またはTIG溶接によって行なわれる。
以上のようにして、図1に示すステータ100aが形成されると、ステータ100a全体に対して、モールド処理が施される。これにより、図12に示す外観のステータ100aが完成する。
ここで、本実施の形態におけるモールド処理は、図11に示すコイル端部に電気的絶縁を施すとともに、先述のように、コイル112とステータコア102との電気的絶縁と両者間の放熱経路とを形成する。
図13は、本実施の形態に係るステータ100aに施されるモールド工程を説明するための図である。
図13を参照して、ステータ100aは、モールド金型210によって密閉される。モールド金型210の軸方向の下方底面には、樹脂モールド材をモールド材タンク200からモールド金型210に注入するためのモールド材ゲート212が設けられる。また、モールド金型210の軸方向の上方底面には、モールド金型210の内部を真空状態にするための真空引きゲート214が設けられる。このような構成とすることにより、樹脂モールド材は、モールド材ゲート212から流入されると、重力方向とは逆向きにモールド金型210の内部を流通して、真空引きゲート214から流出されることになる。
ステータ100aは、モールド金型210の内部に、軸方向と樹脂モールド材の流路とが一致するように配置される。なお、ステータ100aは、先述のように、ステータコア102のティース108ごとにコイル112が巻回された構成であり、スロットの軸方向の両開口端部には、コイル112とステータコア102とを絶縁するための電気絶縁部材10aがそれぞれ配される。
以上の構成において、モールド工程は、最初に、モールド材ゲート212を閉じた状態で真空引きゲート214を開き、モールド金型210の内部を真空状態にする。
次に、モールド材ゲート212を開くと、真空状態のモールド金型210の内部には、樹脂モールド材が注入される。樹脂モールド材は、重力方向に逆らって真空引きゲート214の方へと流通する。このとき、樹脂モールド材は、図13に示すように、ステータコア102の内部をコイル112以外の空間を樹脂で埋めながら上昇する。コイル112とステータコア102との隙間においても、電気絶縁部材10aを除く全領域が樹脂モールド材で充填される。
最後に、樹脂モールド材がコイル112の上端に位置するバスバー110に到達したことが確認されると、モールド材ゲート212が閉じられる。さらに、モールド金型210全体を加熱して樹脂モールド材を硬化することにより、モールド処理工程が完了する。
なお、図13では、注入型によるモールド工程を例として説明したが、樹脂モールド材の粘度が高いときや流路が狭いときなど、樹脂モールド材の流動抵抗が高い場合においては、樹脂モールド材を加圧して金型に注入する、いわゆる加圧注入によって行なう構成としてもよい。
また、モールド処理は、以上に述べた注入成形に限定されず、ステータ100aに樹脂モールド材を射出する射出成形によっても同様に行なうことができる。
図14は、実施の形態1による回転電機におけるステータ100aの製造工程を説明するためのフローチャートである。
図14を参照して、最初に、ステータコア102のスロットの両開口端部には、電気絶縁部材10aが嵌合される(ステップS01)。電気絶縁部材10aは、図2に示すように、スロットの開口端部付近にのみ設置される。
次に、ステータコア102の各ティース108には、コイル112が巻回される。詳細には、各ティース108の両脇のスロット146,148に、コイル112を構成する複数個の積層体コイルの開放端部がそれぞれ挿入された後、コイル112とティース108の先端部との電気的絶縁を確保するために、ウェッジ絶縁紙が軸方向に沿って組み付けられる(ステップS02)。
次に、積層体コイル114の一方の開放端部と隣接する積層体コイル114の他方の開放端部とがバスバー110によってそれぞれ結合される(ステップS03)。
さらに、積層体コイル114の開放端部とバスバー110との嵌合部分は、溶接によりそれぞれ接合される。最後に、コイル端部を3ティース毎に渡り部材106を用いて接続することにより、3相交流回転電機におけるステータ100aが形成される(ステップS04)。
以上のステップS01〜S04によってステータ100aが形成されると、ステータ100a全体にモールド処理が施される。
詳細には、図13に示すように、ステータ100aをモールド金型210で密閉し(ステップS05)、モールド金型210の上方面に設けた真空引込みゲート214を開けて、モールド金型210の内部を真空状態とする(ステップS06)。
次に、モールド金型210の下方面に設けたモールド材ゲート212を開けて、重力方向とに逆らって樹脂モールド材を注入する(ステップS07)。これにより、樹脂モールド材は、ステータ100aのコイル112以外の空間を樹脂で埋めながら上昇する。ステータ100a全体が樹脂で充填された状態で加熱硬化を行なうことにより、モールド処理が終了する(ステップS08)。
なお、本実施の形態では、ステータ100aのコイル112をコの字形状の積層体コイル114で構成したが、U字形状の積層体コイルで構成した場合であっても同様の効果を得ることができる。
さらには、コイル112を図15に示すように、平板導体の帯に対して曲げやすい厚み方向ではなく、曲げにくい幅方向に曲げを施した、いわゆるエッジワイズ型のコイルによって構成しても良い。この場合、コイル112は、スロットの開口端部に電気絶縁部材10aを装着した後に、ステータコアのティースに対して径方向内方から挿入されることになる。
ここで、本実施の形態に係る電気絶縁部材10aにおいては、図2に示す構造以外に、以下に列挙する構造によっても構成することができる。これらの構造によれば、上記の効果に加えて、生産性および信頼性の点で一層の効果が発揮される。以下に、本実施の形態に係る電気絶縁部材の構造について、その変更例を説明する。
[変更例1]
図16は、この発明の実施の形態1に係る電気絶縁部材の第1の変更例を示す図である。
図16を参照して、電気絶縁部材10bは、側面が全周に渡って閉じた筒状体であり、一方の端部において、電気絶縁部材10bをスロットの開口端部近辺に固着するための支持部を含む。
本変更例に係る電気絶縁部材10bは、その側面が閉じている点において、側面の一部分が閉じていない実施の形態1に係る電気絶縁部材10a(図3参照)とは異なる。この相違点を受けて、本変更例では、絶縁構造において以下に示す特徴を有する。
図17は、この発明の実施の形態1に係る電気絶縁部材による絶縁構造を示す図である。図17(A)は、図3に示す電気絶縁部材10aを用いた絶縁構造であり、図17(B)は、図16に示す電気絶縁部材10bを用いた絶縁構造である。
図17(A)に示すように、電気絶縁部材10aは、ステータコア102のティース108の先端部において閉じていないことから、スロットにコイル112を挿入した後に、コイル112とティース108の先端部との電気的絶縁を確保するために、ウェッジ絶縁紙124が軸方向に沿って組み付けられる。この構成によれば、ウェッジ絶縁紙124の組み付け不良による短絡を回避するために、高い組付精度が要求される。
一方、本変更例に係る電気絶縁部材10bは、図17(B)に示すように、ティース108の先端部において閉じた構造であるため、スロットにコイル112を挿入した際に、コイル112とティース108の先端部とは電気絶縁部材10bによって既に絶縁されている。したがって、本変更例によれば、ウェッジ絶縁紙124をティース先端部に組み付ける工程を省略することができることから、より簡易な工程によって絶縁を確保することができる。さらに、ウェッジ絶縁紙124の廃止に伴なって、部品点数および工程数が削減されることから、コストの低減と生産性の向上とを図ることができる。
[変更例2]
図18は、この発明の実施の形態1に係る電気絶縁部材の第2の変更例を示す図である。
図18を参照して、本変更例に係る電気絶縁部材10cは、図16に示す電気絶縁部材10bと同様に、側面が全周に渡って閉じた筒状体であり、一方の端部において、電気絶縁部材10cをスロットの開口端部近辺に固着するための支持部を含む。
本変更例に係る電気絶縁部材10cは、さらに、軸方向に沿って側面から支持部に延在する複数の溝部12を備えることを特徴とする。
詳細には、溝部12は、電気絶縁部材10cの内周側の側面に所定の間隔で平行に配列される。これらの溝部12は、図13に示すモールド工程において、樹脂モールド材注入時にステータコア102とコイル112との隙間に樹脂モールド材を流れ易くするために設けられたものである。これによれば、溝部12を有しない図2および図16に示す電気絶縁部材10a,10bに対して、樹脂モールド材の流動抵抗が低減される。
したがって、本変更例によれば、樹脂モールド材の流動抵抗の低減によって、モールド処理時の成形圧を下げることができることから、成形装置をより低廉なもので構成することができ、製造コストを抑えることができる。
また、成形圧の低下に伴なってコイル112にかかる負荷が小さくなるため、コイルエンド部における変形が少なくなり、品質の向上を図ることができる。
さらに、モールド工程の最初に行なわれる真空引きにおいて、モールド金型210の内部のエアが抜け易くなるため、コイル112およびステータコア102に介在するエア溜りが回避される。これにより、コイル112とステータコア102との間に樹脂モールド材注入時のボイドが生じにくくなり、熱伝導性および絶縁性が改善される。
なお、本変更例では、溝部12を電気絶縁部材の内周側の側面に配置する構成としたが、図19(A),(B)に示すように、電気絶縁部材10cの外周側の側面に配置する構成としても同様の効果を得ることができる。
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、コイルとステータコアとの電気的絶縁を保持しながら、両者間の熱抵抗を低減できることから、回転電機の冷却効率を高めて高負荷動作および回転電機の小型化を図ることができる。
さらに、従来のステータにおいて、電気的絶縁と放熱性とのために行なわれていた複数回のモールド処理を、一回のみのモールド処理で済ますことができることから、製造コストを大幅に低減することができる。
また、電気絶縁部材の側面に設けた溝部によって、樹脂モールド材がステータコア−コイル間を隙間なく充填するため、さらに放熱性が向上される。
[実施の形態2]
図20は、この発明の実施の形態2に従う回転電機の回転軸の中心から外周方向にみたステータの構造を示す図(図20(A))と、そのA−A断面図(図20(B))とである。
図20(A)を参照して、ステータ100bは、ステータコア102と、ステータコア102の複数のティース108にそれぞれ巻回されたコイル112とを含む。
コイル112は、実施の形態1と同様に、複数個のコの字形状の積層体コイル114を含む。積層体コイル114は、図9に示すように、隣接する積層体コイル114と互いに接着され、かつその開放端部において、一方端部と隣接する積層体コイル114の他方端部とがそれぞれバスバー110によって接合される。
さらに、コイル112は、その直線部の2辺とこれら2辺を結ぶ底辺とにおいて、その一部分に組み付けられた電気絶縁部材20を含む。
電気絶縁部材20は、たとえば図20(A)に示すように、コイル112の直線部の2辺にそれぞれ2箇所組み付けられるとともに、底辺部およびバスバー110にそれぞれ1箇所組み付けられ、1個のコイル112につき合計6個が設けられる。
コイル112の各辺において、電気絶縁部材20の組み付けは、具体的には、予め射出成形によって形成された樹脂部品を組み付けること、もしくは、コイル112に直接的に樹脂を成形することによって行なわれる。あるいは、コイル112の所望の箇所に絶縁テープを巻き付けることによっても行なうこともできる。なお、いずれの組み付け手段においても、電気絶縁部材20は、略筒状の形状に単純化されることから、実施の形態1に係る電気絶縁部材10a〜10cに対して、製造工程をより簡略化することができる。
図20(B)は、図20(A)に示すステータ100bのA−A断面を示す図である。図20(B)に示すように、ステータコア102のティース108とコイル112との間は、電気絶縁部材20によって電気的絶縁が確保される。なお、コイル112の直線部2辺およびバスバー110においても同様に、電気絶縁部材20によってステータコア102との間の電気的絶縁が確保されている。
このように、本実施の形態によれば、電気絶縁部材20をコイル112およびバスバー110に組み付ける点において、電気絶縁部材10a〜10cをステータコア102のスロットに嵌合する実施の形態1とは異なる。
一方、本実施の形態において、電気絶縁部材20は、コイル112の直線部2辺に対する組み付け箇所において、直線部をスロットに挿入した際に当該箇所がスロットの開口端部付近に整合するように組み付けられる点において、実施の形態1と共通する。
さらに、コイル112とステータコア102との間は、電気絶縁部材20の巻着箇所を除く全領域において、高熱伝導樹脂モールド材120(図示せず)で充填される点においても、実施の形態1と共通する。
したがって、本実施の形態に係るステータ100bにおいて、コイル112で生じた熱は、実施の形態1と同様に、コイル112→高熱伝導樹脂モールド材120→ステータコア102の順に放熱されることとなり、コイル112−ステータコア102間の熱抵抗が低減される。
さらに、コイル112とステータコア102との電気的絶縁においても、コイル112に組み付けられた電気絶縁部材20によって、コイル112がステータコア102のスロットに対して精度良く位置決めされるため、良好な絶縁特性を確保することができる。
なお、本実施の形態では、電気絶縁部材20を1つのコイル112につき6箇所組み付ける構成としたが、コイル112とステータコア102との絶縁が確保される限りにおいて、組み付け箇所の総数は限定されない。
また、ステータ100bのモールド処理については、実施の形態1と同様に、ステータコア102にコイル112を巻回した後にステータ100b全体を高熱伝導樹脂モールド120で覆う構成とすることができる。さらに、本構成以外に、電気絶縁部材20を巻着したコイル112を予めモールド処理した後、これをステータコア102に巻回する構成としてもよい。
図21は、この発明の実施の形態2に係る回転電機におけるステータの製造工程を示すフローチャートである。
図21を参照して、最初に、コイル112の所望の箇所に電気絶縁部材20が組み付けられる(ステップS11)。このとき、コイル112の直線部に対する組み付けは、図20に示すように、電気絶縁部材20の配置位置がスロットの両開口端部付近となるように行なわれる。
次に、電気絶縁部材20が組み付けられたコイル112が、ステータコア102の各ティース108に巻回される。詳細には、各ティース108の両脇のスロットにコの字型のコイル112の開放端部がそれぞれ挿入された後、コイル112とティース108の先端部との電気的絶縁を確保するために、ウェッジ絶縁紙124が軸方向に沿って組み付けられる(ステップS12)。
次に、積層体コイル114の一方の開放端部と隣接する積層体コイル114の他方の開放端部とがバスバー110によってそれぞれ結合される(ステップS13)。
さらに、コイル112の開放端部とバスバー110との嵌合部は、溶接によりそれぞれ接合される。最後に、コイルエンド部を3ティース毎に渡り部材106を用いて接続することにより、3相交流回転電機におけるステータ100bが形成される(ステップS14)。
以上のステップS11〜S14によってステータ100bが形成されると、ステータ100b全体にモールド処理が施される。詳細には、実施の形態1と同様に、ステータ100を図13に示すモールド金型210で密閉し(ステップS15)、モールド金型210の上面に設けた真空引込みゲート214を開けて、モールド金型210の内部を真空状態とする(ステップS16)。
次に、モールド金型210の下面に設けたモールド材ゲート212を開けて、重力方向とに逆らって樹脂モールド材を注入する(ステップS17)。これにより、樹脂モールド材は、ステータ100bのコイル112以外の空間を樹脂で埋めながら上昇する。ステータ100bの全体が樹脂で充填された状態で加熱硬化を行なうことにより、モールド処理が終了する(ステップS18)。
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、コイルとステータコアとの電気的絶縁を保持しながら、両者間の熱抵抗を低減できることから、回転電機の冷却効率を高めて高負荷動作および小型化を図ることができる。
さらに、電気絶縁部材をコイルに巻着する構成とすることにより、形状を略筒状と単純化でき、製造コストのさらなる低減を図ることができる。
[実施の形態3]
図22は、この発明の実施の形態3に従う回転電機の回転軸の中心から外周方向にみたステータを示す図である。
図22を参照して、ステータ100cは、ステータコア102と、ステータコア102の複数のティース108にそれぞれ巻回されたコイル112とを含む。
コイル112は、実施の形態1と同様に、複数個のコの字形状の積層体コイル114を含む。積層体コイル114は、図9に示すように、隣接する積層体コイル114と互いに接着され、かつその開放端部において、一方端部と隣接する積層体コイル114の他方端部とがそれぞれバスバー110によって接合される。
ステータ100cは、ステータコア102の各スロットの両開口端部付近に配された電気絶縁部材10aと、ティース108とバスバー110との間に配された高熱伝導絶縁部材30とをさらに含む。なお、ステータコア102とこれらの絶縁部材との間には、図13に示すモールド処理によって、高熱伝導樹脂モールド材120(図示せず)が充填されている。
電気絶縁部材10aは、図3に示す構造からなり、スロットの開口端部に軸方向に沿って上下から嵌合される。なお、電気絶縁部材としては、図2に示す電気絶縁部材10a以外に、図16および図18,19に示す電気絶縁部材10b,10cを採用してもよい。また、実施の形態2で示したように、コイル112自体に電気絶縁部材20を組み付ける構成としてもよい。
高熱伝導絶縁部材30は、ティース108の軸方向の一方端面とバスバー110との間に設けられる。高熱伝導絶縁部材30の設置については、まず、コイル112をスロットに挿入した後に、ティース108のコイル112の開放端部側の一方端面に高熱伝導絶縁部材30を配する。続いて、バスバー110をコイル112の開放端部に接合する際に、バスバー110に対して図22の矢印で示すように軸方向に荷重をかけ、バスバー110を押圧して接合する。
これにより、高熱伝導絶縁部材30は、軸方向からの荷重を受けて弾性変形され、バスバー110とステータコア102との間の空隙を埋める。バスバー110と高熱伝導絶縁部材30、および高熱伝導絶縁部材30とステータコア102とは、それぞれ密接することによって熱抵抗が小さくなり、コイル112に生じた熱をすばやく伝導することができる。
本実施の形態によれば、コイル112で生じた熱は、コイル112→高熱伝導樹脂モールド120→ステータコア102からなる周方向に沿った第1の放熱経路と、コイル112→高熱伝導絶縁部材30→ステータコア102からなる軸方向に沿った第2の放熱経路とによって伝導されることから、コイル112をさらに効率良く冷却することができる。したがって、コイル112の電流密度をより増加することができ、回転電機の体格をさらに低減することができる。
以上のように、本実施の形態に係る高熱伝導絶縁部材30は、コイル112−ステータコア102間の熱抵抗の低減に有効であるが、特に、ワニスと呼ばれる透明な表面皮膜材を塗布するワニス処理が施された回転電機において、その効果が顕著に現われる。
詳細には、ワニス処理が施された回転電機は、モールド処理が施された回転電機とは異なり、ステータコア102とコイル112との隙間が樹脂モールド材で充填されることなく、空隙が形成される。この空隙によって、コイル112で生じた熱のステータコア102への伝導が阻まれる。しかしながら、本実施の形態によれば、このような場合においても、高熱伝導絶縁部材30がコイル112とステータコア102との間を低い熱抵抗で結ぶことから、コイル112の熱を効率良くステータコア102に放熱することができる。
[変更例]
図23は、この発明の実施の形態3の変更例に従う回転電機の回転軸の中心から外周方向にみたステータを示す図である。
図23を参照して、本変更例に係るステータ100dは、図22に示すステータ100cに対して、高熱伝導絶縁部材30がティース108の軸方向の両端面に設けられる点でのみ異なる。したがって、重複する部分についての詳細な説明は繰り返さない。
高熱伝導絶縁部材30は、詳細には、コイル112の底辺部とティース108との間と、バスバー110とティース108との間にそれぞれ設けられる。バスバー110とティース108との間に位置する高熱伝導絶縁部材30は、図22と同様に、バスバー110をコイル112に接合する際に荷重をかけることによって、弾性変形されて設置される。
コイル112の底辺部とティース108との間の高熱伝導絶縁部材30についても同様に、コイル112の底辺部に予め取り付けた状態でスロットに挿入されると、バスバー110の接合時の荷重をコイル112の底辺部から受け、弾性変形されて設置される。
このような構成とすることにより、コイル112で生じた熱は、コイル112→高熱伝導樹脂モールド材120→ステータコア100dの順に周方向に伝導するとともに、コイル112→高熱伝導絶縁部材30→ステータコア102の順に、軸方向で互いに逆向きとなる2方向から伝導することになる。したがって、図22のステータ100cの構造に対して、さらに放熱性を高めることができる。
なお、図22と同様に、かかる効果は、ワニス処理を施したステータにおいても得ることができ、冷却効率をさらに向上することができる。
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、コイルで生じた熱は、複数の放熱経路によって伝導されることから、コイルをさらに効率良く冷却することができる。よって、コイルの電流密度をさらに高めることができ、高負荷動作および体格の低減が可能な回転電機を実現することができる。
[実施の形態4]
図24は、この発明の実施の形態4に従う回転電機におけるステータの外観を示す図である。
図24を参照して、ステータ100eは、ステータコア102と、ステータコア102の複数のティース108にそれぞれ巻回されたコイル112とを含む。
ティース108の両脇に形成されるスロット(たとえば146,148)には、実施の形態1と同様に、両開口端部に電気絶縁部材10aが嵌合される。この状態で、各スロットには、コイル112の直線部がそれぞれ挿入される。
コイル112は、複数個のコの字形状の積層体コイル114を含む。積層体コイル114は、図9に示すように、隣接する積層体コイル114と互いに接着され、かつその開放端部において、一方端部と隣接する積層体コイル114の他方端部とがそれぞれバスバー110によって接合される。
本実施の形態に係るステータ100eは、コイル112の形状において、実施の形態1に係るステータ100aとは異なる。詳細には、図24に示すように、コイル112は、そのコイルエンド部がフィン形状となるように構成されることを特徴とする。このフィン形状は、以下に示すように、軸方向の長さが互いに異なる積層体コイル114を隣接させることにより形成される。
図25(A)は、実施の形態4に係る回転電機の回転軸の中心から外周方向にみたステータ100eを示す図であり、図25(B)は、図25(A)のA−A断面を示す図である。
図25(A)を参照して、ステータコア102には、図3に示す電気絶縁部材10aが各スロットの両開口端部に嵌合され、ティース108の両脇のスロットごとにコイル112が挿入される。なお、電気絶縁部材としては、図3に示す電気絶縁部材10a以外に、図16,18,19に示す電気絶縁部材10b,10cを採用してもよい。また、実施の形態2で示したように、コイル112自体に電気絶縁部材20を組み付ける構成としてもよい。
コイル112は、実施の形態1と同様に、複数個のコの字形状の積層体コイル114を含む。積層体コイル114は、その開放端部において、一方端部と隣接する積層体コイル114の他方端部とがそれぞれバスバー110によって接合される。なお、コイル112とステータコア102との間には、図13に示すモールド処理によって、高熱伝導樹脂モールドが充填されている。
コイル112は、先述のように、コイルエンドCE部の形状に特徴を有する。詳細には、図25(B)に示すように、軸方向において、積層体コイル114の長さが隣り合う積層体コイル114とは異なる。この積層体コイル114を複数個重ね合わせることにより、図25(B)に示すようなフィン形状が形成される。
このように、本実施の形態によれば、コイルエンド部CEをフィン形状とすることによって、以下に挙げる効果を得ることができる。
第1に、コイルエンド部CEにおける放熱面積が増大することにより、コイル112で発生した熱をコイルエンド部CEから効率良く逃すことができる。ステータ100eが樹脂モールド材で覆われている場合には、コイル112で生じた熱は、コイルエンド部CEからモールド材へと伝導する。一方、ステータ100eがモールド材を介さず直接的に空冷または油冷される場合には、コイル112で生じた熱は、コイルエンド部CEから空気または油へ伝導する。
ここで、本実施の形態に係る回転電機とステータコアに金属導線を巻回してコイルを形成する従来の回転電機とを比較すると、従来の回転電機は、コイルエンド部が金属導線が密集して俵形状となっているため、個々の金属導線が空気などと触れにくく熱がこもり易いため、放熱性の点で不利である。これに対して、本実施の形態に係る回転電機は、積層体コイル114の個々の軸方向の長さを変えることによって容易にコイルエンド部CEをフィン形状とすることができ、放熱性と作り易さとの点において有利である。
第2に、コイルエンド部CEをフィン形状とすることにより、コイル112の発熱量を抑えることができる。詳細には、フィン形状とすることによって、コイルエンド部CEを形成する積層体コイル114の底辺部の導体断面積が増加し、積層体コイル114の底辺部の電気抵抗が減少する。これにより、コイル112全体としての電気抵抗も低減される。一般に、コイル112の発熱量は、電流量の2乗と電気抵抗と通電時間との積で表わされる。したがって、コイル112の電気抵抗の低減によって、コイル112の発熱量が抑えられることとなる。
第3に、上記の第1および第2の効果の相乗作用によって、回転電機の体格を低減することができる。すなわち、コイル112からの放熱量が増大すること、およびコイル112の発熱量自体が抑えられることによって、コイル112に流すことにできる電流密度の許容値を高めることができる。
一般に、コイル112の電流密度を上げれば、ステータ100eに生じる起磁力が大きくなるため、同じだけのトルクを発生するために必要なステータコア102の径方向の厚さを低減でき、回転電機の体格を小さくすることができる。一方、電流密度の増加に伴なってコイル112の発熱量が増えるため、回転電機の構成部材の温度が耐熱温度を越えてしまい、焼損の危険性がある。
しかしながら、本実施の形態によれば、コイル112の放熱量が増すとともに、発熱量自体を抑えることができることから、コイル112の電流密度を高めることが可能となる。結果として、回転電機の体格を低減することができる。
図26は、本実施の形態に係る回転電機と、従来型の回転電機および実施の形態1に係る回転電機とにおける電流密度を対比して示す図である。
なお、図26において、従来型の回転電機としては、コイルがエナメル絶縁皮膜された丸型の金属導線で構成され、かつワニス処理されたもの、およびコイルがエナメル絶縁皮膜された丸型の金属導線で構成され、かつモールド処理されたものを代表例として挙げる。また、実施の形態1に係る回転電機と本実施の形態に係る回転電機とは、いずれも積層体コイル114を用いており、コイルエンド部CEの形状においてのみ相違する。
図26から明らかなように、従来型の回転電機に対して、本願発明に係る回転電機は、電流密度アップ率において著しい改善がみられる。詳細には、実施の形態1に係る回転電機において、従来比でおよそ1.4倍、実施の形態4に係る回転電機においては、さらに向上し、従来比でおよそ1.5倍の増加が得られる。
このように、電流密度が大幅に増加したことによって、本願発明に係る回転電機は、従来型の回転電機の体格を格段に低減することができる。これは、コイル112に積層体コイル114を用いたことによって、スロット内のコイル112の占積率が向上したことに加えて、本願発明に特有の絶縁構造によって、コイル112−ステータコア102間の熱抵抗が低減されたことによる。
さらに、本実施の形態によれば、コイルエンド部CEをフィン形状としたことによって、コイル112の放熱性の向上とともに、発生熱量が抑えられることから、さらに小型の回転電機が実現される。
なお、コイル112に図15に示すエッジワイズ型のコイルを適用した場合においても、隣接する曲げ部分を隣接する巻線間で相互にずれるように配置することで、コイルエンド部をフィン形状とすることができる。
さらに、上記の効果は、コイル112のコイルエンド部CEをフィン形状とする本実施の形態による構成のみならず、バスバー110をフィン形状となるように構成することによっても得ることができる。
図27(A)に、実施の形態4の変更例に従う回転電機におけるバスバー110の構造を示す。図27(B)に、図27(A)のA−A断面を示す。
図27(A)を参照して、バスバー110は、図示しない複数個の積層体コイルの開放端部を互いに結合するように、複数個が並列に配置される。このとき、バスバー110は、図27(B)に示すように、隣り合うバスバー110と軸方向の長さが互いに異なるように構成されることを特徴とする。これにより、フィン形状のバスバー110が形成される。
以上のように、この発明の実施の形態4によれば、コイルエンド部をフィン形状とすることにより、コイルの電流密度を高めることができ、回転電機の体格の一層の低減を図ることができる。
[実施の形態5]
図28は、この発明の実施の形態5に従う回転電機の構造を示す断面図である。
図28を参照して、回転電機は、ロータ101と、ステータ100aと、ロータ101およびステータ100が一体化して収容されるケース150とを備える。
ロータ101は、ケース150に対して、図示しない回転シャフトを介して回転自在に収容される。
ステータ100aは、ロータ101の回転を制御するために、ロータ101の外周を取り囲むようにしてケース150内部に固定的に収容される。ステータ100aは、実施の形態1の図1に示す構造からなり、コイル112と、ステータコア102とを含む。
ステータコア102は、実施の形態1に係るステータコア102と同一構造からなり、ティース108の各々にコイル112が巻回されて固着される。
コイル112についても、実施の形態1に係るコイル112と同一構造を有しており、コの字形状の積層体コイル114で構成される。なお、ステータコア102およびコイル112の詳細な構造については、図6〜図12と共通することから、本実施の形態では、その説明を省略する。
ケース150は、環状のステータ100を収容するための円筒状の側面を有しており、その側面の底部に近い側において段差部が形成される。ケース150において、ステータコア102は、軸方向の一方端面が段差部によって支持され、他方端面がステータコア102の外周に配されたねじ穴に通されたボルト152によって締結される。このように、ステータコア102は、軸方向にボルト締結されることにより、ケース150に固定される。
回転電機は、ステータコア102に巻回されたコイル112の軸方向の一方端面とケース150の内周側の底面との間に配された高熱伝導絶縁部材40をさらに備える。
高熱伝導絶縁部材40は、図28に示すように、ケース150の底面とコイル112の端面との間に配されると、ボルト締結時に軸方向に生じる締結荷重を受けて弾性変形する。これにより、コイルと高熱伝導絶縁部材、および高熱伝導絶縁部材およびケース150は、それぞれ接触面において密接する。
このような構成とすることにより、コイル112で生じた熱は、高熱伝導樹脂モールド120(図示せず)を経てステータコア102に伝導されるとともに、高熱伝導絶縁部材40を介してケース150にも伝導されることとなる。このとき、コイル112と高熱伝導絶縁部材40との間および高熱伝導絶縁部材40とケース150との間は、それぞれ互いに密接することから、いずれも低い熱抵抗で構成でき、良好な熱伝導性が得られる。
本実施の形態によれば、コイル112に生じた熱の放熱経路として、コイル112からステータコア102に対して熱伝導する経路に加えて、コイル112からケース150に対して熱伝導する経路を備えることにより、より高い放熱性を得ることができる。これにより、コイル112の電流密度をさらに高めることが可能となることから、回転電機の体格の一層の低減を図ることができる。
なお、回転電機において、ステータ100aのコイル112とケース150との間に放熱経路を設ける構成については、以下の変更例に係る構造によっても実現することができる。
[変更例1]
図29は、この発明の実施の形態5の第1の変更例に従う回転電機の構造を示す断面図である。
図29を参照して、回転電機は、ロータ101と、ステータ100aと、ロータ101およびステータ100aが一体化して収容されるケース150と、高熱伝導絶縁部材40と、弾性部材156と、弾性部材ホルダ154とを備える。
本変更例に係る回転電機は、図28に示す回転電機とは基本的に同じ構造からなり、弾性部材156および弾性部材ホルダ154が付加された点において異なる。したがって、本変更例では、この相違点についてのみ説明し、共通する部位についての詳細な説明は繰り返さない。なお、コイル112とケース150との間には、図28と同様に、高熱伝導絶縁部材40が配されている。
弾性部材ホルダ154は、ステータコア102の軸方向の一方端面上に配され、ボルト152によって、ステータコアと一体となってケースに固定される。
弾性部材156は、たとえば皿ばねで構成され、弾性部材ホルダ154とコイル112との間に配される。弾性部材156は、後述するように、弾性部材ホルダ154からの応力に応じて、軸方向の弾性力を生じる。
以上の構成において、ステータコア102がボルト締結によってケース150に固定されると、ステータコア102には、締結荷重が与えられる。このとき、ステータコア102には、軸方向に弾性部材ホルダ154が接合されていることにより、弾性部材ホルダ154に対しても軸方向に締結荷重が付与される。この締結荷重は、弾性部材ホルダ154を介して弾性部材156に作用する。
弾性部材156は、弾性部材ホルダ154を通じて締結荷重を受けると、その形状が軸方向に変形する。さらに、弾性部材156には、この変形に応じて、軸方向であって締結荷重とは反対方向に、元の形状に戻ろうとする弾性力が生じる。この弾性力は、弾性部材156に接するコイル112に対して軸方向に作用する。
コイル112は、弾性部材156からの軸方向の弾性力を受けると、ケース150に対して圧接された状態となる。このとき、コイル112とケース150との間に介在する高熱伝導絶縁部材40は、軸方向の面圧力に応じて弾性変形する。これにより、コイル112と高熱伝導絶縁部材40、および高熱伝導絶縁部材40とケース150とは、それぞれ密接された状態となる。
以上の構成において、コイル112に生じた熱は、図28の場合と同様に、コイル112−ステータコア102間に充填された高熱伝導樹脂モールド120(図示せず)を経てステータコア102に伝導されるとともに、高熱伝導絶縁部材40を介してケース150にも伝導されることとなる。このとき、コイル112と高熱伝導絶縁部材40との間および高熱伝導絶縁部材40とケース150との間は、それぞれ互いに密接することから、いずれも低い熱抵抗で構成でき、良好な熱伝導性が得られる。
[変更例2]
図30は、この発明の実施の形態5の第2の変更例に従う回転電機の構造を示す断面図である。
図30を参照して、回転電機は、ロータ101と、ステータ100a(ステータコア102およびコイル112を含む)と、ロータ101およびステータ100aが一体化して収容されるケース150と、高熱伝導絶縁部材40と、ウォータージャケット158とを備える。
本変更例に係る回転電機は、図28に示す回転電機とは基本的に同じ構造からなり、コイル112とケース150との間には、図28と同様に、高熱伝導絶縁部材40が配される。したがって、本変更例においても、ステータコア102をケース150にボルト締結したときの締結荷重によって高熱伝導弾性部材40が弾性変形することにより、コイル112とケース150との間に放熱経路が形成される。
さらに、本変更例に係る回転電機においては、ケース150の表面に冷却手段として、ウォータージャケット158が設置される。詳細には、ウォータージャケット158は、ケース150の表面から内部に入り組んだ構造となっており、ケース150の内部に冷媒(冷却水)を流通させるための冷媒通路を形成する。この冷媒通路にラジエータ(図示せず)などを介して電動ポンプ(図示せず)で冷媒を循環させることによって、ケース150を冷却する。
本変更例において、この冷却構造によってケース150が冷却されると、コイル112とケース150との間に大きな温度差が生じる。これにより、コイル112で生じた熱は、高熱伝導絶縁部材40を介してケース150へ放熱されやすくなり、図28の回転電機に対して、冷却効率をさらに高めることができる。
以上のように、この発明の実施の形態5によれば、コイルに生じた熱は、コイル−ステータコア間に充填される高熱伝導樹脂モールドを介してステータコアに放熱されるとともに、高熱伝導絶縁部材を介してケースにも放熱されることから、より高い放熱性を得ることができる。これにより、コイルの電流密度をさらに高めることができ、回転電機の体格の一層の低減を図ることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10a〜10c 電気絶縁部材、12 溝部、20 電気絶縁部材、30 高熱伝導絶縁部材、40 高熱伝導弾性部材、100a〜100e ステータ、101 ロータ、102 ステータコア、104 バスバー位置決めブロック、106 渡り部材、108 ティース、110 バスバー、112 コイル、114 積層体コイル、120 高熱伝導樹脂モールド材、122 電気絶縁部材、124 ウェッジ絶縁紙、134,136,138,140,142,144 コイル端部、146,148 スロット、150 ケース、152 ボルト、154 弾性部材ホルダ、156 弾性部材、158 ウォータージャケット、200 モールド材タンク、210 モールド金型、212 モールド材ゲート、214 真空引きゲート、CE コイルエンド部。