JP3740371B2 - スタータを備えた空冷エンジン - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スタータを備えた空冷エンジンに関する。
【0002】
【本発明の前提技術】
本発明は、次の技術を前提とする。
図1に示すように、シリンダブロック(1)の前部に形成したファンケース取付フランジ(2)にスタータ嵌合凹部(3)を設け、このスタータ嵌合凹部(3)は、ファンケース取付フランジ(2)の外周縁から同フランジ(2)の中央部に向けて凹入させ、このスタータ嵌合凹部(3)にスタータ(4)を嵌合させ、このスタータ(4)にスタータフランジ(5)を設け、このスタータフランジ(5)でスタータ(4)をファンケース取付フランジ(2)に取り付け、このスタータフランジ(5)よりも前方にスタータ出力軸(6)を突出させ、このスタータ出力軸(6)にスタータピニオン(7)を取り付け、
シリンダブロック(1)の前部に冷却ファン(8)を設け、この冷却ファン(8)に上記スタータピニオン(7)を噛み合わせるリングギヤ(9)を取り付け、この冷却ファン(8)をファンケース(10)で覆い、このファンケース(10)をファンケース取付フランジ(2)に取り付けた、スタータを備えた空冷エンジン。
【0003】
【従来の技術】
従来、上記技術を前提とするスタータを備えた空冷エンジンでは、スタータ嵌合凹部の凹入入口の前方で、ファンケースとスタータとの間に隙間が形成される場合がある。また、この隙間を作らないようにするには、ファンケースの内周面とスタータとを密着させる必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術には、次の問題がある。
《1》 スタータピニオンがリングギヤに衝突する音が隙間から漏れる。
ファンケースとスタータとの間に隙間が形成される場合、スタータピニオンがリングギヤに噛み合う音が隙間を介してファンケース内から漏れ、これが騒音となり、エンジンの静粛性が低くなる。特にスタータがベンディックス式の場合には、他の形式のものに比べ、スタータピニオンのリングギヤへの衝突速度が速いため、衝突音が特に大きく、エンジンの静粛性が著しく低くなる。
【0005】
《2》 エンジンの冷却性能が低い。
ファンケースとスタータとの間に隙間が形成される場合、ファンケース内の冷却風が隙間から漏れるため、エンジンの冷却性能が低い。
【0006】
《3》 スタータピニオンがリングギヤに衝突する時に発生する振動がファンケースに伝わる。
ファンケースの内周面とスタータとを密着させた場合、上記問題《1》《2》は解消するが、スタータピニオンがリングギヤに衝突する時に発生する振動が、スタータからファンケースに伝わり、ファンケースの振動により、騒音が発生し、エンジンの静粛性が低くなる。特にスタータがベンディックス式の場合には、他の形式のものに比べ、スタータピニオンとリングギヤとの衝突速度が速いため、振動が特に大きく、エンジンの静粛性が著しく低くなる。
【0007】
本発明の課題は、上記問題点を解決できるスタータを備えた空冷エンジンを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
(請求項1の発明)
前記前提技術において、図1に示すように、上記スタータ嵌合凹部(3)の凹入入口(11)に沿って、上記スタータフランジ(5)から前方に庇(12)を突出させ、この庇(12)をファンケース(10)内まで導出し、この庇(12)の表面をゴム弾性を有する防振具(13)で覆い、この防振具(13)をファンケース(10)の内周面に密着させ、ファンケース(10)と庇(12)との隙間を防振具(13)で封止したことを特徴とする。
【0009】
(請求項2の発明)
請求項1に記載したディーゼルエンジンにおいて、
スタータ(4)がベンディックス式であることを特徴とする。
【0010】
(請求項3の発明)
請求項1または請求項2に記載したディーゼルエンジンにおいて、
図2または図3に示すように、防振具(13)は、庇(12)にその先端から差込んで装着する袋状構造とし、その後部両端に耳部(14)(15)をそれぞれ形成し、各耳部(14)(15)をファンケース(10)の後端開口縁部(16)(17)とファンケース取付フランジ(2)の前端開口縁部(18)(19)との間に挟み付けて、防振具(13)を固定したことを特徴とする。
【0011】
【発明の作用及び効果】
(請求項1の発明)
請求項1の発明は、次の作用効果を奏する(図1参照)。
《1》 スタータピニオンがリングギヤに衝突する音がファンケースから漏れにくい。
スタータ嵌合凹部(3)の凹入入口(11)の前方で、ファンケース(10)と庇(12)との隙間を防振具(13)で封止するため、スタータピニオン(7)がリングギヤ(9)に衝突する音がファンケースから漏れにくい。このため、この衝突音の漏れに起因する騒音がなくなり、エンジンの静粛性が高まる。
【0012】
《2》 エンジンの冷却性能が高まる。
ファンケース(10)と庇(12)との隙間を防振具(13)で封止したため、ファンケース(10)内の冷却風が、ファンケース(10)内から漏れにくく、エンジンの冷却性能が高まる。
【0013】
《3》 スタータピニオンがリングギヤに衝突する際の振動がファンケースに伝わりにくい。
庇(12)の表面をゴム弾性を有する防振具(13)で覆い、この防振具(13)をファンケース(10)の内周面に密着させたので、スタータピニオン(7)がリングギヤ(9)に衝突する時に発生する振動が防振具(13)に吸収され、ファンケース(10)に伝わりにくい。このため、ファンケース(10)の振動に起因する騒音が発生しにくく、エンジンの静粛性が高まる。
【0014】
(請求項2の発明)
請求項2の発明は、スタータ(4)がベンディックス式の場合に関するものであるが、ベンディックス式のスタータは、他の形式のものに比べ、スタータピニオン(7)とリングギヤ(9)との衝突速度が速く、衝突音や振動が特に大きいため、上記作用効果《1》《3》の作用効果がより顕在化する。
【0015】
(請求項3の発明)
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明の作用効果に加え、次の作用効果を奏する(図2及び図3参照)。
《4》 防振具の装着が簡単である。
防振材具(13)は、庇(12)にその先端から差込むだけで装着することができるため、防振材(13)の装着が簡単である。
【0016】
《5》 防振具の固定が容易である。
防振具(13)の各耳部(14)(15)をファンケース(10)の後端開口縁部(16)(17)とファンケース取付フランジ(2)の前端開口縁部(18)(19)との間に挟み付けて防振具(13)を固定するため、ファンケース(10)のファンケース取付フランジ(2)への取り付け操作により、防振具(13)は、特別な固定操作を要することなく、自然に固定される。このため、防振具(13)の固定が容易である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1から図5は本発明の実施形態を説明する図で、この実施形態では、単気筒の空冷傾斜エンジンを用いる。
【0018】
このエンジンの構成は、次の通りである。
図5に示すように、このエンジンは、クランクケース(20)とシリンダ(21)とを一体形成したシリンダブロック(1)を備えている。シリンダ(21)は、クランクケース(20)から斜め上向きに突出させている。シリンダ(21)の突出端にはシリンダヘッド(22)を組み付け、シリンダヘッド(22)にヘッドカバー(23)を組み付けている。シリンダブロック(1)の上部には燃料タンク(24)を載置している。クランクケース(20)のシリンダ突出方向と反対側には、電動モータ式のスタータ(4)を配置し、図4に示すように、シリンダブロック(1)の前部にはファンケース(10)を配置している。また、シリンダヘッド(22)の前部にはエアクリーナ(25)を配置している。
【0019】
スタータ(4)の構造は、次の通りである。
図3に示すように、スタータ(4)は、ベンディックス式、すなわち慣性摺動式のもので、オネジ構造を備えたスタータ出力軸(6)にメネジ構造を備えたスタータピニオン(7)を嵌合させ、スタータ出力軸(6)の先端にストッパ(26)を設け、ストッパ(26)とスタータピニオン(7)との間にリターンスプリング(27)を配置している。なお、シリンダブロック(1)の前部に突出したクランク軸(図外)に冷却ファン(8)を取り付け、この冷却ファン(8)にスタータピニオン(7)を噛み合わせるリングギヤ(9)を取り付けている。
【0020】
このスタータ(4)による始動原理は、次の通りである。
スタータ出力軸(6)の回転開始直後は、スタータピニオン(7)は慣性のためにスタータ出力軸(6)と共に回転せず、スタータ出力軸(6)のオネジに沿って摺動し、リングギヤ(9)と噛み合う。その後は、スタータピニオン(7)がスタータ出力軸(6)と共に回転し、エンジンが始動する。エンジン始動後は、リングギヤ(9)の回転速度が高まり、リングギヤ(9)がスタータピニオン(7)を回すことになるため、スタータピニオン(7)はスタータ出力軸(6)のオネジに沿って逆方向に摺動しリングギヤ(9)から離脱して元の位置に戻る。リターンスプリング(27)はスタータピニオン(7)の復帰を補助する。
【0021】
スタータ(4)の取付構造は、次の通りである。
図1(B)に示すように、シリンダブロック(1)の前部に形成したファンケース取付フランジ(2)にスタータ嵌合凹部(3)を設けている。このスタータ嵌合凹部(3)は、ファンケース取付フランジ(2)の外周縁から同フランジ(2)の中央部に向けて凹入させ、このスタータ嵌合凹部(3)にスタータ(4)を嵌合させている。このスタータ(4)は、その先端にスタータフランジ(5)を設け、図1(A)に示すように、このスタータフランジ(5)に設けたスタータ取付ボルト(31)でスタータ(4)をファンケース取付フランジ(2)に取り付けている。このスタータフランジ(5)よりも前方にスタータ出力軸(6)を突出させている。
【0022】
ファンケース(10)の構造及びその取付構造は、次の通りである。
図4に示すように、ファンケース(10)は、冷却ファン(8)を覆う本体部(28)と、シリンダ(21)やシリンダヘッド(22)をその前方から覆う導風部(29)と、スタータ(4)のスタータ出力軸(6)を覆う出力軸カバー(30)とを備えている。ファンケース(10)を正面から見て、導風部(29)と出力軸カバー(30)とは、それぞれ本体部(28)から左右に突出している。ファンケース(10)は、後端面が開口された椀形の構造であり、シリンダブロック(1)にその前方から被せ、ファンケース取付フランジ(2)にファンケース取付ボルト(32)で取り付けている。
【0023】
スタータ(4)とファンケース(10)の隙間の封止構造は、次の通りである。
図2に示すように、スタータ嵌合凹部(3)の凹入入口(11)に沿って、スタータフランジ(5)から前方に庇(12)を突出させ、この庇(12)をファンケース(10)の出力軸カバー(30)内まで導出し、図1(A)に示すように、この庇(12)の表面をゴム弾性を有する防振具(13)で覆い、この防振具(13)をファンケース(10)の出力軸カバー(30)の内周面に密着させ、ファンケース(10)と庇(12)との隙間を防振具(13)で封止している。
【0024】
防振具(13)の構造及びその取付構造は、次の通りである。
図1(C)及び図3に示すように、防振具(13)は、庇(12)にその先端から差込んで装着する袋状構造とし、その後部両端に耳部(14)(15)をそれぞれ形成し、図2に示すように、各耳部(14)(15)をファンケース(10)の後端開口縁部(16)(17)とファンケース取付フランジ(2)の前端開口縁部(18)(19)との間に挟み付けて、防振具(13)を固定している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る空冷エンジンのスタータとファンケースとの隙間の封止構造を説明する図で、図1(A)は図2のI−I線断面図、図1(B)はファンケース取付フランジの要部正面図、図1(C)は防振具の正面図、図1(D)はスタータの正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る空冷エンジンのスタータとその周辺部分の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る空冷エンジンのスタータとその周辺部分の分解側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る空冷エンジンの正面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る空冷エンジンの背面図であって、燃料タンクを取り付けたものである。
【符号の説明】
(1)…シリンダブロック、(2)…ファンケース取付フランジ、(3)…スタータ嵌合凹部、(4)…スタータ、(5)…スタータフランジ、(6)…スタータ出力軸、(7)…スタータピニオン、(8)…冷却ファン、(9)…リングギヤ、(10)…ファンケース、(11)…凹入入口、(12)…庇、(13)…防振具、(14)(15)…耳部、(16)(17)…後端開口縁部、(18)(19)…前端開口縁部。

Claims (3)

  1. シリンダブロック(1)の前部に形成したファンケース取付フランジ(2)にスタータ嵌合凹部(3)を設け、このスタータ嵌合凹部(3)は、ファンケース取付フランジ(2)の外周縁から同フランジ(2)の中央部に向けて凹入させ、このスタータ嵌合凹部(3)にスタータ(4)を嵌合させ、このスタータ(4)にスタータフランジ(5)を設け、このスタータフランジ(5)でスタータ(4)をファンケース取付フランジ(2)に取り付け、このスタータフランジ(5)よりも前方にスタータ出力軸(6)を突出させ、このスタータ出力軸(6)にスタータピニオン(7)を取り付け、
    シリンダブロック(1)の前部に冷却ファン(8)を設け、この冷却ファン(8)に上記スタータピニオン(7)を噛み合わせるリングギヤ(9)を取り付け、この冷却ファン(8)をファンケース(10)で覆い、このファンケース(10)をファンケース取付フランジ(2)に取り付けた、スタータを備えた空冷エンジンにおいて、
    上記スタータ嵌合凹部(3)の凹入入口(11)に沿って、上記スタータフランジ(5)から前方に庇(12)を突出させ、この庇(12)をファンケース(10)内まで導出し、この庇(12)の表面をゴム弾性を有する防振具(13)で覆い、この防振具(13)をファンケース(10)の内周面に密着させ、ファンケース(10)と庇(12)との隙間を防振具(13)で封止した、ことを特徴とするスタータを備えた空冷エンジン。
  2. 請求項1に記載したスタータを備えた空冷エンジンにおいて、スタータ(4)がベンディックス式である、ことを特徴とするスタータを備えた空冷エンジン。
  3. 請求項1または請求項2に記載したスタータを備えた空冷エンジンにおいて、
    防振具(13)は、庇(12)にその先端から差込んで装着する袋状構造とし、その後部両端に耳部(14)(15)をそれぞれ形成し、各耳部(14)(15)をファンケース(10)の後端開口縁部(16)(17)とファンケース取付フランジ(2)の前端開口縁部(18)(19)との間に挟み付けて、防振具(13)を固定した、ことを特徴とするスタータを備えた空冷エンジン。
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