JP3738336B2 - ポリテトラフルオロエチレン水性分散液組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳化重合法で得られたポリテトラフルオロエチレン微粒子、界面活性剤および水を含有するポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)水性分散液組成物に関する。
【0002】
PTFE分散液組成物は、コンデンサ誘電体や電気絶縁材料などに使用されるPTFEフィルムに特に好適であるほか、ガラス繊維布やカーボン繊維布に含浸させて膜構造建築物の屋根材や高周波用プリント基板等、調理用具の表面コーティング用途、分散液組成物と充填剤とを共凝集させ無給油軸受けなどに加工する用途、PTFE繊維を紡糸し耐熱性フィルタなどに加工する用途、PTFEのフィブリル化現象を利用して粉体とともに混練し発塵防止加工を行う用途、各種結着剤、などに利用される。
【0003】
【従来の技術】
乳化重合法によるPTFEは純水、過酸化物系重合開始剤、アニオン系分散剤、および重合安定剤である高級パラフィン等の混合物を撹拌しつつテトラフルオロエチレン(以下、TFEという)モノマーを加圧下で注入することにより重合して製造される。通常、平均粒子径0.1〜0.5μmのPTFEが30重量%前後またはそれ以下の濃度で分散した分散液が得られる。
【0004】
この分散液はきわめて不安定であり、機械的揺動により再分散不可能な凝集体を生成するため、従来はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等の不飽和構造を疎水基中に有する非イオン性界面活性剤、例えばユニオンカーバイド社製トライトンX100などを加え一次安定化させたのち、PTFE固形分40〜65重量%に濃縮する。その後、さらに長期保存時の安定化や各種用途に適した粘度などの液物性とするために、水、アンモニア等の防腐剤、トライトンX100等の界面活性剤その他を添加し、PTFE濃度30〜65重量%の分散液組成物を得ている。
【0005】
このPTFE分散液組成物の用途としては、例えば特公昭45−39829に、安定化剤としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トライトンX100)を用いてPTFE分散液組成物を作製し、これを金属板上に塗付し380℃で焼成したのちに剥離してフィルムを得ることが記載されている。得られたフィルムはコンデンサの絶縁膜や電子部品などに用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来例におけるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを界面活性剤として使用したPTFE分散液組成物は、下記問題点があった。
【0007】
(1)分散液組成物により作製されたフィルムは黄褐色に着色し、厚みが厚くなるほど著しくなる問題があった。そのうえ、着色したフィルムは絶縁性等の電気的特性が低下する問題もあった。
この着色の原因は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの熱分解が不充分なために炭素質成分がフィルム中に残留するためであると考えられる。したがって、界面活性剤を熱分解し、揮散しやすくするため、比較的長時間の加熱焼成が行われる。しかし、この方法によっても通常着色は完全には解消せず、フィルムの金属板からの剥離性が悪くなり強度も低下する問題もある。
【0008】
(2)厚いフィルムを作る場合には、マッドクラックを防止するため、PTFE分散液組成物を一定膜厚以下で重ね塗りを行うが、PTFEが塗付され焼成されたPTFEの表面特性は低表面張力であるためにはじきを生じやすく、重ね塗りが困難である問題があった。一般にガラス繊維布にPTFE分散液組成物を含浸加工し重ね塗りする場合には、表面が凹凸を有するためにはじきを生じにくいが、PTFEフィルムを作製する場合には表面が平滑であるためにはじきが生じやすい。
【0009】
(3)PTFE分散液組成物を塗付し乾燥するまでの間に徐々にクレーター状の「あばた」とよばれる厚みむらを生じ、フィルムの強度および伸度を低下させ、ばらつきを生じさせる問題もあった。
【0010】
(4)PTFE分散液組成物の塗布液に泡が発生すると消えにくく、製品に付着した泡の痕跡が製品の欠点となる問題があった。例えば塗付前にPTFE分散液組成物を撹拌する際に泡立ちを生ずるが、この泡が製品に付着すると泡の痕跡がPTFEの厚みむらとなり製品の外観上の欠点となるほか、フィルムの強度および伸度を低下させ、ばらつきを生じさせる要因となっていた。
【0011】
前記問題点(1)に対する方法として、PTFE分散液組成物に金属塩を添加する方法が特開昭46−7340に提案されているが、かかる塩類の添加は充分な効果がなく、PTFE粒子の凝集を進行させ保存安定性が低下するため好ましくない。
【0012】
また、特公昭52−21532には、ベンゼン環を含まないポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、例えばRO(C2H4O)3H(Rは炭素数6〜8の直鎖状アルキル基)と、R’O(C2H4O)m(C3H6O)nH(R’は炭素数12〜13の直鎖状アルキル基、mは12〜13、nは4〜5)の混合物を使用することが記載されている。しかし、この明細書の実施例に記載される界面活性剤を使用した場合、着色は緩和されるものの、重ね塗りするとはじきを生じた。
【0013】
また、特開平8−269285には、炭素数8〜18の飽和または不飽和のアルキル基を有し、曇点が45〜85℃であり、オキシエチレンの含有量が65〜70重量%であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を使用すると着色が抑制され、ガラス繊維布等への塗装に有効であることが記載されている。しかしこの場合にも、上記の界面活性剤を用いて得られるフィルムは着色が緩和されるものの、重ね塗りするとはじきを生じやすく、「あばた」の発生や強伸度低下の問題があり、望ましいものではなかった。
【0014】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、着色がなく、重ね塗り時にはじきが発生せず、厚みむらを生じにくいPTFEフィルムが得られるPTFE水性分散液組成物を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前述した課題を克服するために研究を重ねた結果、PTFE水性分散液組成物に、飽和かつ分岐状のアルキル基を有する非イオン系界面活性剤のうち特定のものを安定剤として用いる場合に、特異的に前述の問題点をすべて解決できることを発見し、技術的に完成させ本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、乳化重合法により重合した平均粒径0.1〜0.5μmのPTFE微粒子を30〜65重量%含有する水性分散液組成物において、下記一般式1で示される平均的分子構造を有し、かつ平均的HLB値が12〜14の範囲である非イオン系界面活性剤をPTFEに対して2〜12重量%含有されていることを特徴とするPTFE水性分散液組成物である。
一般式1:CxH2x+1CH(CyH2y+1)CzH2zO(C2H4O)nH
(式中でx≧1、y≧1、0≦z≦1、x+y+z=10〜15、n=5〜20)
【0017】
また、上記PTFE水性分散液組成物において、上記一般式1におけるx、y、z、nが、x≧1、y≧1、0≦z≦1、x+y+z=11〜13、n=8〜11である非イオン系界面活性剤を用いることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明では、乳化重合法により重合した平均粒径0.1〜0.5μmのPTFE微粒子が30〜65重量%含有されるPTFE水性分散液組成物に、上記非イオン系界面活性剤が安定剤として用いられる。上記界面活性剤は熱分解しやすいため、本発明のPTFE水性分散液組成物を塗付して製造されるフィルムが厚い場合にも着色はほとんど生じない。
【0019】
また、本発明では、分岐構造のアルキル基を疎水基に有する非イオン系界面活性剤を用いることにより、水性分散液組成物の表面張力が低くなり、フィルム面に対するぬれ性が良好であり、はじきが生じにくく、「あばた」も生じにくい。また、本発明のPTFE水性分散液組成物は泡が消えやすく、製品に泡が付着する頻度が低下する利点がある。
【0020】
本発明のPTFE水性分散液組成物は「あばた」の発生が少なくぬれ性が良好でありながら泡消え性が良好である。その理由は明らかではないが、本発明で用いる界面活性剤は疎水基として2級アルキル基または側鎖を有する1級アルキル基を有し、分子骨格としては疎水基の途中に親水性基鎖が結合した独特のT字構造をしているためにこうした特徴が表れているものと推察される。
【0021】
一般式1に表されるアルキル鎖長を表すx+y+zの値は10〜15であるが、望ましくは11〜13とする。アルキル基が短いと「あばた」や重ね塗り時のはじきも発生しやすい。逆にアルキル基が長すぎると水性分散液を放置した場合PTFEの微粒子が沈降しやすく保存安定性が損なわれる。
【0022】
親水性基であるポリオキシエチレン基の平均重合度nは5〜20の範囲であるが、望ましくは8〜11の範囲とする。オキシエチレンの平均重合度が小さすぎると、水性分散液の放置時にPTFEの微粒子が沈降しやすく安定性を損なわれやすく、大きすぎると「あばた」を発生しやすく、ぬれ性が低下し好ましくない。
【0023】
界面活性剤成分の平均的HLB値は疎水性および親水性のバランスの指標であるが、12〜14の範囲にあることが必要である。この範囲よりも小さすぎると保存安定性が低下し水性分散液組成物に上澄みおよび底部沈澱物を生じやすくなり、逆に大きすぎるとはじきや「あばた」を生じやすくなり好ましくない。
【0024】
なお、界面活性剤は分子構造に基づく固有のHLB値を有しているが、複数種の界面活性剤を混合した場合のHLB値を本発明では平均的HLB値とよび、この値は個々の界面活性剤のHLB値を用いて混合割合により算出し得る。
【0025】
本発明で用いられる界面活性剤としては、例えば
(A)x+y=12、z=0、n=8〜13であるユニオンカーバイド社製タージトール Sシリーズ、
(B)x+y=11、z=1、n=5〜9である日本乳化剤社製ニューコール 1300シリーズ、
などを単独または混合して使用できる。
【0026】
上記の界面活性剤は、例えば炭素数10〜15の炭化水素を酸化して2級アルコールを得たのち、所定のモル数の酸化エチレンと反応させて(A)タイプの界面活性剤を得る方法、または炭素数9〜14のアルケンを原料としてオキソ法により分岐を有する1級アルコールを得たのち、所定のモル数の酸化エチレンと反応させて(B)タイプの界面活性剤を得る方法など公知の方法によって任意に合成できる。
【0027】
本発明でいう界面活性剤の平均的分子構造とは、本発明のPTFE水性分散液組成物に用いられる界面活性剤の平均値を意味し、一般式中のx、y、z、n値は一定の関係にあり、各数値は整数に限らない。
【0028】
水性分散液組成物中に含有される界面活性剤はPTFEに対して2〜12重量%であり、この範囲より少ないと保存安定性が低下する。また、多いと厚く塗付する用途に適するが、12重量%超ではさほど性能の向上は認められず、経済的理由から12重量%以下での使用が好ましい。
【0029】
PTFE水性分散液組成物に、フッ素系やシリコーン系等の非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ポリアルキレンオキシドなどの増粘剤、チキソトロピー付与剤、各種塩類、水溶性溶剤、濃度調整のための水、防腐剤、界面活性剤、各種レベリング剤、またはシリコーン系や鉱物油系の消泡剤、その他公知の他の成分を併用してもよい。
【0030】
本発明において、PTFEとはTFEの単独重合物のみでなく、実質的に溶融加工できない程度の微量のクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化エチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化プロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフルオロビニルエーテル等TFEと共重合しうる共重合成分に基づく重合単位を含むいわゆる変性PTFEも含まれる。
【0031】
本発明のPTFE水性分散液組成物は、ガラス繊維布などに含浸加工する用途に対しても好適に用いることができ、着色が少なく、また重ね塗りの際にはじきにくいものとなる。
【0032】
また、PTFE水性分散液組成物にビスコース、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール等を加え、凝固浴中に加圧紡出して繊維状体を形成し、引き上げ後にこれを加熱焼成してPTFE繊維を作製する用途にも、本発明のPTFE水性分散液組成物を用いることにより、焼成後に着色の少ない繊維が得られる。
【0033】
また、化学肥料や石灰などの土壌改良剤やセメントなどの土木資材の粉体と共に混練し、微粉末を捕捉させて粉体の発塵を防止する場合に、本発明のPTFE水性分散液組成物を用いると、ベンゼン環構造を含有しないため、微生物分解性にすぐれ、環境汚染の懸念が少ない利点もある。
【0034】
本発明のPTFE水性分散液組成物は、上記の用途のみならず従来からの多くの用途に関して幅広く置き換えて使用できる。すなわち、調理用品の表面にPTFE水性分散液組成物を塗付し被覆加工する用途、PTFE水性分散液中に鉛等の充填剤を添加しPTFEと充填剤との共析物を得て、これを無給油軸受け等に加工する用途、フィブリル化を利用した各種結着剤用途、プラスチックの燃焼時のたれ落ち防止のためにプラスチック粉末にPTFE水性分散液を添加する用途、その他従来PTFE分散液が利用されてきた多くの用途に使用できる。
【0035】
【実施例】
以下、実施例(例1〜6、13、15、17、19)、比較例(例7〜12、14、16、18)を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、サンプルの作製方法および各項目の評価方法は以下によった。
【0036】
(A)水性分散液組成物の表面張力;白金線リングを用いる輪環法により測定した。
(B)水性分散液組成物の粘度;ブルックフィールド型粘度計を用い、液温23℃で#1スピンドルを使用し60rpmでの粘度を測定した。
(C)水性分散液組成物の消泡性;PTFE水性分散液組成物100mlを500ml容量のメスシリンダに入れ、ディフューザーストーンを用いて空気を吹き込み、泡高さが200mmになったのちに空気を止め、自然放置して泡高さの変化を測定した。
【0037】
(D)PTFEフィルムの厚み;サンコウ電子研究所製の渦電流式膜厚計を使用して10点測定の平均値および標準偏差値を算出した。
(E)引張り強伸度;ミクロダンベルで打ち抜き試験片を作製し、インストロン型引張り試験機を用い、23℃、チャック間距離35mm、引張り速度100mm/minで引張り試験を行い、5点測定の平均値および標準偏差値を算出した。
【0038】
(F)PTFEフィルムの白色度;白紙上に置き、目視にて判定した。
(G)水性分散液組成物の保存安定性;PTFE水性分散液組成物100mlを100ml容量のメスシリンダに入れ、1か月間静置し、上澄みの発生および底部沈降物の発生量で良否を判断した。
【0039】
なお、例、表1および表2の使用した界面活性剤(a)〜(j)は、表3のそれぞれ対応する符号の界面活性剤に相当する。界面活性剤の化学構造およびその特性を表3に示す。
【0040】
[例1]
乳化重合法により平均粒子径が0.25μmであり、PTFE濃度が28重量%である水性分散液を得た。これに、界面活性剤として疎水基に第2級アルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル(ユニオンカーバイド社製、タージトール 15−S−9、(以下、界面活性剤(a)という))を、PTFEに対し5重量%の割合で添加して一次安定化させたのち、相分離法により濃縮を行い、上澄みを除去し、PTFE64重量%、界面活性剤(a)がPTFEに対して2.0重量%の濃縮液を得た。この濃縮液に、PTFEに対して界面活性剤(a)を3重量%、タージトール 15−S−12(ユニオンカーバイド社製、(以下、界面活性剤(b)という))を1重量%の割合で添加し、水およびアンモニアを加え、PTFE濃度が60重量%である水性分散液組成物を得た。
【0041】
水性分散液組成物に含まれる界面活性剤の平均的な分子構造は、x+y=12、z=0、n=9.5、平均的HLBは13.5であった。この水性分散液組成物の23℃での粘度は19.5cP、pH=9.6、表面張力は33.2(dyn/cm)であり、発生した泡は比較的消えやすかった。
【0042】
次に、縦20cm、横15cm、厚さ0.2mmのアルミニウム板上にバーコーターを用いて得られた水性分散液組成物を塗付し、120℃オーブン中で10分間乾燥し、380℃オーブン中で5分間焼成した後自然冷却した。形成されたPTFE層の上にさらに、塗付、乾燥、焼成を2回繰り返し行い、計3層が重ね塗りされたPTFE層を形成させた。これを冷却後フィルム層のみ剥離し、厚さ約32.4μmのPTFEフィルムを作製した。
【0043】
塗付時にはじきや「あばた」の発生はなく、フィルムの厚みにばらつきは少なかった。また、フィルムの強度は3.23kg/mm2 と高く、充分な水準であった。また、得られたフィルムに黄色の着色はなくほぼ白色であった。水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、水性分散液組成物の重ね塗り性、得られたフィルムの物性、水性分散液組成物の保存安定性の結果を表1に示す。
【0044】
[例2]
例1と同じ界面活性剤(a)を用いて得たPTFE濃縮液に、PTFEに対して界面活性剤(a)を6重量%、界面活性剤(b)を3重量%の割合で添加し、水およびアンモニアを加え、PTFE濃度が57重量%、界面活性剤濃度がPTFEに対し11重量%の水性分散液組成物を得た。この際、界面活性剤(a)の濃度は8重量%となった。
【0045】
水性分散液組成物中に含まれる界面活性剤は、x+y=12、n=9.8であった。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性および保存安定性、フィルムの物性の結果を表1に示す。この水性分散液組成物の23℃での粘度は18.8cPであり、表面張力32.8(dyn/cm)、pH=9.4であり、泡消え性、保存安定性は良好であった。
【0046】
次にこの水性分散液組成物を例1と同様にして、メイヤーバー#22を用いて3層が重ね塗りし、厚さ57.1μmのPTFEフィルムを作製した。このフィルムも着色は認められなかった。また、塗付時にはじきや「あばた」が発生することもなく、厚みが均一であり充分な強度をもつフィルムが得られた。
【0047】
[例3]
例1と同じ界面活性剤(a)を用いて得たPTFE濃縮液に対し、PTFEに対して界面活性剤(a)を0.5重量%の割合で追加し、PTFE濃度が60重量%、界面活性剤(a)がPTFEに対して2.5重量%の水性分散液組成物を得た。
【0048】
得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性および保存安定性、フィルムの物性の結果を表1に示す。この水性分散液組成物の粘度は16.4cPであり、保存安定性試験で1か月後の液はやや上澄みが多く発生したが実用上問題はないレベルであった。
【0049】
次に、この水性分散液組成物を例1と同様にして、メイヤーバー#8を用いて5層が重ね塗りし、厚さ30.8μmのPTFEフィルムを作製した。このフィルムもほぼ白色で強度ばらつきは少なく、また塗付時の問題もなかった。
【0050】
[例4]
界面活性剤として分岐を有する第1級アルキル基を疎水基にもつニューコール 1310(日本乳化剤社製、(以下、界面活性剤(c)という))を使用し濃縮を行い、界面活性剤(c)がPTFEに対して2.1重量%の濃縮液を得た。これに界面活性剤(c)、水およびアンモニアを加え、PTFE濃度60重量%、界面活性剤(c)がPTFEに対して6重量%、pH=9.4の水性分散液組成物を得た。
【0051】
得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性および保存安定性、フィルムの物性の結果を表1に示す。この水性分散液組成物の粘度は18.4cPであり、表面張力は32.2(dyn/cm)であり、泡消えも比較的良好であった。この水性分散液組成物を用いて作製したフィルムも物性は良好であった。
【0052】
[例5]
例4と同様にして、界面活性剤(c)を2.1重量%含有する濃縮液に対し、界面活性剤(c)を7.7重量%およびニューコール 1305(日本乳化剤社製、(以下、界面活性剤(d)という))を0.2重量%それぞれPTFEに対する割合で添加し、PTFE濃度60重量%、界面活性剤がPTFEに対して10重量%、pH=9.2、粘度18.8cP、表面張力は32.0(dyn/cm)の水性分散液組成物を得た。
【0053】
得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性および保存安定性、フィルムの物性の結果を表1に示す。この水性分散液組成物を用いて作製したフィルムも物性は良好であった。
【0054】
[例6]
界面活性剤としてソフタノール L70(日本触媒社製、(以下、界面活性剤(e)という))を使用し、PTFE水性分散液組成物を得た。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性および保存安定性、フィルムの物性の結果を表1に示す。この水性分散液組成物を用いて作製したフィルムも良好な物性のものであった。
【0055】
[例7]
例1と同じPTFE濃縮液に対し、PTFEに対して界面活性剤(a)を1重量%、界面活性剤(f)を3重量%の割合で添加し、PTFE水性分散液組成物を得た。この水性分散液組成物は平均的HLB値が小さいために保存安定性が悪く、1か月放置後の上澄みが著しく大きく、底部沈澱物は再分散困難であり好ましくなかった。水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、保存安定性、フィルムの物性の結果を表2に示す。
【0056】
[例8]
界面活性剤として直鎖のラウリル基およびトリデシル基の混合物を疎水基にもつ界面活性剤(g)を使用した以外は例1と同様にPTFE水性分散液組成物を得た。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、および保存安定性、フィルムの物性の測定結果を表2に示す。この水性分散液組成物の表面張力は高めであり、消泡性は例1に比べて劣っていた。
【0057】
この水性分散液組成物を用いてPTFEフィルムの作製を試みたが、疎水基に分岐を有しないために、重ね塗りした際に端部にはじきを生じ、また塗付面に「あばた」状の荒れを生じた。フィルムの厚みおよび強度はばらついており、好ましくなかった。
【0058】
[例9]
界面活性剤として直鎖のラウリル基を疎水基にもつ界面活性剤(h)を使用した以外は例1と同様にPTFE水性分散液組成物を得た。この水性分散液組成物を用いて例1と同様にPTFEフィルムの作製を試みたが、使用した界面活性剤が疎水基に分岐を有しないために、重ね塗りの際にはじきを生じた。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、および保存安定性、フィルムの物性の測定結果を表2に示す。
【0059】
[例10]
界面活性剤(b)のみを用い、電気濃縮法で濃縮液を得た後、例1と同様にPTFE水性分散液組成物を得た。この水性分散液組成物を用いて例1と同様にPTFEフィルムの作製を試みたが、使用した界面活性剤の平均的HLB値が大きすぎるために、重ね塗りの際にはじきを生じた。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、および保存安定性、フィルムの物性の測定結果を表2に示す。
【0060】
[例11]
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤である界面活性剤(i)を用い、例1と同様にPTFE水性分散液組成物を得た。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、および保存安定性、フィルムの物性の測定結果を表2に示す。
【0061】
この水性分散液組成物を用いて例1と同様にPTFEフィルムの作製を試みたが、重ね塗りの際に端部にはじきを生じた。また、用いた界面活性剤が疎水基中に不飽和結合を有しているために、得られたフィルムは黄色く着色しており、外観上好ましくなかった。また、引張り強度は低かった。
【0062】
[例12]
直鎖のオレイル基を疎水基に有する界面活性剤(j)を用いPTFE水性分散液組成物を得た。得られた水性分散液組成物中の界面活性剤の種類、その濃度、水性分散液組成物の特性、および保存安定性、フィルムの物性の測定結果を表2に示す。
【0063】
この水性分散液組成物を用いて例1と同様にPTFEフィルムの作製を試みたが、使用した界面活性剤の疎水基に分岐をもたないために、重ね塗りの際に端部にはじきを生じた。また、使用した界面活性剤の疎水基に不飽和結合があるために、得られたフィルムは黄色く着色しており、外観上好ましくなかった。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
[例13]
あらかじめカラ焼きして有機物を除去した1m2 当り重量50g、厚み0.07mm、縦100mm、横50mmに切断したガラス繊維布に、例1のPTFE水性分散液組成物を浸漬法により塗布し、120℃オーブン中で10分間乾燥後380℃で10分間焼成した。この塗布面にさらにPTFE水性分散液組成物を2層塗付し、PTFE含浸ガラス繊維布を作製した。塗付時にはじきは生ぜず、また作製されたガラス繊維布に着色は認められなかった。
【0068】
[例14]
例11のPTFE水性分散液組成物を使用した以外は例13と同様にしてPTFE含浸ガラス繊維布を得た。塗付時にはじきを生じ、また作製されたガラス繊維布に着色が認められた。
【0069】
[例15]
例1のPTFE水性分散液組成物500gに対して水200g、トルエン50g、平均粒子径20μmの鉛粉末100gを添加し、撹拌混合しながら10%硝酸アルミニウム30gを添加しPTFE微粒子を析出させた後、濾過、乾燥して共析物を得た。共析物の乾燥前の固形分は54重量%であり、乾燥は比較的短時間で終了した。
【0070】
[例16]
例11のPTFE水性分散液組成物を使用した以外は例15と同様にして共析物を得た。共析物の乾燥前の固形分は44重量%であり水分が多く、乾燥に長時間を要した。
【0071】
[例17]
例1のPTFE水性分散液組成物を用いて、ビスコースを加え紡出し、これを380℃で加熱焼成し延伸して直径15μmで着色の少ないPTFE繊維を得た。
【0072】
[例18]
例11のPTFE水性分散液組成物を用いる以外は例17と同様にしてPTFE繊維を作製したが、繊維は茶色く着色しており、外観的に商品価値が劣るものであった。
【0073】
[例19]
消石灰に対して例1のPTFE水性分散液組成物を0.1重量%添加し、ヘンシェルミキサーで混合を行い、発塵性のほとんどない粉体を得た。
【0074】
【発明の効果】
分岐を有する疎水基をもち、HLB値が12〜14のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を安定剤として使用するPTFE水性分散液組成物は、保存安定性に優れ、この水性分散液組成物から得られるPTFEフィルムは着色がなく、また水性分散液組成物を塗装する際に「あばた」の発生がなく、重ね塗りしてもはじきの発生がなく、高強度のフィルムを得ることができる。
Claims (2)
- 乳化重合法により重合した平均粒径0.1〜0.5μmのポリテトラフルオロエチレン微粒子を30〜65重量%含有する水性分散液組成物において、下記一般式1で示される平均的分子構造を有し、かつ平均的HLB値が12〜14の範囲である非イオン系界面活性剤をポリテトラフルオロエチレンに対して2〜12重量%含有することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン水性分散液組成物。
一般式1:CxH2x+1CH(CyH2y+1)CzH2zO(C2H4O)nH
(式中でx≧1、y≧1、0≦z≦1、x+y+z=10〜15、n=5〜20) - 前記一般式1におけるx、y、z、nが、x≧1、y≧1、0≦z≦1、x+y+z=11〜13、n=8〜11である非イオン系界面活性剤を用いることを特徴とする請求項1記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液組成物。
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