JP3737464B2 - ゴム製品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴム製品の製造方法に関し、更に詳しくは、フルオロアルキル基を含有する基を分子両末端に有するフッ素系化合物に由来の構造が、成形体の表面近傍における架橋ゴムのポリマー主鎖に確実に結合されてなるゴム製品を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、フルオロアルキル基を分子両末端に有し、中間鎖に官能基が結合されてなるフッ素系化合物(オリゴマー)により表面処理された樹脂製品が知られている。このような樹脂製品の表面処理に適用される当該フッ素系化合物は、分子両末端におけるフルオロアルキル基が共有結合を介して中間鎖に結合されているので、非粘着性、表面潤滑性、撥水撥油性、防汚性、抗菌性および生理活性の付与など、表面処理による所期の効果を長期にわたり発現することができる。
そこで、このようなフッ素系化合物により表面処理されたゴム製品を製造することができれば望ましい。
【0003】
かかるフッ素系化合物により表面処理された樹脂製品の製造方法(樹脂製品の表面処理方法)として、下記(1)および(2)の方法が紹介されている。
(1)当該フッ素系化合物を樹脂とともに有機溶剤に溶解し、一定時間放置した後に溶剤を除去する方法(特開平11−246573号公報参照)。
(2)当該フッ素系化合物を光重合性モノマーに溶解して光硬化性の組成物を調製し、当該組成物を樹脂製品(プラスチック)の表面に塗布し、形成された塗膜を光硬化させる方法(特開平10−245419号公報参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1)および(2)の方法は、樹脂製品の製造方法(樹脂の表面処理方法)としては適しているものの、これらの方法をゴム製品に適用しても、表面特性の良好なゴム製品を得ることができなかった。そこで、本発明者らは、さらに下記(3)および(4)の方法を試みた。
【0005】
(3)架橋ゴムからなる成形体(ゴム基材)を、当該フッ素系化合物の溶液中に浸漬し、乾燥後、当該成形体を加熱処理することにより、当該成形体の表面に被膜(表面処理層)を形成する方法。
(4)未架橋ゴムからなる成形体(ゴム基材)を、当該フッ素系化合物の溶液中に浸漬し、乾燥後、当該成形体を加熱処理することにより、ゴムを架橋させるとともに、当該成形体の表面に被膜(表面処理層)を形成する方法。
【0006】
しかしながら、上記(3)および(4)の方法においては、形成される被膜(表面処理層)の成形体(ゴム基材)に対する密着力が小さく、当該被膜が容易に剥離してしまい実用的ではない。また、被膜を構成するフッ素系化合物が種々の溶剤に溶解されやすいために、上記(3)または(4)の方法によって得られたゴム製品に溶剤を接触させると、当該被膜が溶剤に浸食・溶解されて、成形体の表面から除去されてしまう。
【0007】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものであって、本発明の目的は、フルオロアルキル基を含有する基を分子両末端に有し、中間鎖に官能基が結合されてなるフッ素系化合物に由来の構造を、成形体の表面近傍における架橋ゴムのポリマー主鎖に確実かつ効率的に結合させることができ、当該フッ素系化合物による表面処理効果を、種々の溶剤との接触によっても消滅または減殺されることなく安定的に発現し得るゴム製品を製造することができる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のゴム製品の製造方法は、原料ゴム100質量部に対して0.5〜5質量部のシランカップリング剤を配合・混練してなるゴム組成物を成形加工することにより、架橋ゴムからなる成形体を得る工程と、この成形体の表面に、下記一般式(I)で示されるフッ素系化合物(以下、「特定のフッ素系化合物」ともいう。)を付着させる工程と、特定のフッ素系化合物が表面に付着された当該成形体を加熱処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
【化3】
【0010】
(式中、RF はフルオロアルキル基を含有する基、R1 は、加水分解性基との反応性を有する官能基、R2 は、水素原子またはアルキル基、R3 およびR4 は、同一または異なる、水素原子または1価の有機基を表す。xは1〜100の整数であり、yは0〜500の整数である。)
【0011】
本発明のゴム製品の製造方法においては、下記の形態が好ましい。
〔1〕前記成形体の表面に、特定のフッ素系化合物の溶液を塗布することにより、当該フッ素系化合物を当該成形体の表面に付着させること。
〔2〕前記成形体を、特定のフッ素系化合物の溶液中に浸漬することにより、当該フッ素系化合物を当該成形体の表面に付着させること。
〔3〕特定のフッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、R1 で表される官能基がアルコキシシリル基またはアルコキシアルコキシシリル基であること。
〔4〕特定のフッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、R1 で表される官能基がトリメトキシシリル基であること。
〔5〕特定のフッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、RF で表されるフルオロアルキル基を含有する基が、−CF3 、−C2 F5 、−C3 F7 、−C6 F13、−C7 F15または−CF(CF3 )[OCF2 CF(CF3 )]p OC3 F7 (式中、pは0,1もしくは2である)で表されること。
〔6〕特定のフッ素系化合物が、下記式(1)で示される化合物であること。
〔7〕前記シランカップリング剤の有する反応性有機官能基がメルカプト基またはビニル基であること。
【0012】
【化4】
【0013】
(式中、x’は2または3である。)
【0014】
【作用】
シランカップリング剤の存在下にゴムを架橋させることにより、当該架橋反応とともに、シランカップリング剤の有する反応性有機官能基と、ゴムのポリマー主鎖との反応が起こり、これにより、シランカップリング剤がポリマー主鎖に結合された架橋ゴムが得られる。
そして、この架橋ゴムからなる成形体の表面に、特定のフッ素系化合物を付着させた後、当該成形体を加熱処理することにより、当該成形体の表面近傍において、特定のフッ素系化合物の有する官能基(R1 )と、ポリマー主鎖に結合されているシランカップリング剤の有する加水分解性基とが反応する。
この結果、成形体の表面近傍における架橋ゴムのポリマー主鎖に、シランカップリング剤を介して、特定のフッ素系化合物に由来の構造を結合させることができる。
【0015】
このように、特定のフッ素系化合物に由来の構造とシランカップリング剤との間、および、シランカップリング剤と架橋ゴムのポリマー主鎖との間に化学的な結合が形成されるため、特定のフッ素系化合物に由来の構造(表面処理層)は、ゴム基材である成形体の表面に対して強固に密着することになる。
さらに、特定のフッ素系化合物の有する官能基と、シランカップリング剤の有する加水分解性基との反応により形成されるハイブリッドは、熱安定性および化学的安定性に優れ、特定のフッ素系化合物に対して良溶媒である種々の溶剤に対しても不溶性または難溶性となるため、得られるゴム製品の耐薬品性(耐油性・耐溶剤性)を格段に向上させることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のゴム製品の製造方法は、シランカップリング剤を配合・混練してなるゴム組成物を成形加工することにより、架橋ゴムからなる成形体を得る工程(以下、「成形工程」ともいう。)と、この成形体の表面に、特定のフッ素系化合物を付着させる工程(以下、「フッ素系化合物の付着工程」ともいう。)と、特定のフッ素系化合物が表面に付着された当該成形体を加熱処理する工程(以下、「加熱工程」ともいう。)とを含む点に特徴を有する。
【0017】
<成形工程>
本発明の製造方法における成形工程は、シランカップリング剤を配合・混練してなるゴム組成物を成形加工することにより、架橋ゴムからなる成形体を得る工程である。
ここに、「成形加工」とは、ゴム製品の形状を得るとともに、ゴムを架橋することをいう。
【0018】
本発明の製造方法に使用するゴム(ゴム組成物を構成する原料ゴム)としては、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、シリコーンゴム(VMQ,FVMQ)、ウレタンゴム(AU,EU)、フッ素ゴム(FKM,FEPM)などを例示することができる。
【0019】
本発明の製造方法に使用するシランカップリング剤(ゴム組成物の構成成分)は、加水分解性基および反応性有機官能基を1分子中に含有し、特定のフッ素系化合物および架橋ゴムのポリマー主鎖のそれぞれと反応して、両者の間に強固な化学結合を形成するものである。かかるシランカップリング剤としては、下記一般式(II)で示されるものを挙げることができる。
【0020】
【化5】
【0021】
シランカップリング剤を示す上記一般式(II)において、R5 は、アルキル基またはアルコキシアルキル基を示し、R6 はアルキル基を示す。また、mは1〜3の整数、好ましくは3であり、nは0〜5の整数、好ましくは0〜3の整数である。
【0022】
シランカップリング剤の有する加水分解性基〔Si(OR5 )m R6 3-m −〕と、特定のフッ素系化合物の有する官能基(R1 )とが反応することにより、熱安定性および化学的安定性に優れたハイブリッドが形成される。
かかる加水分解性基としては、トリメトキシシリル基などのアルコキシシリル基を挙げることができる。
【0023】
シランカップリング剤を示す上記一般式(II)において、R7 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を示す。
ここに、反応性有機官能基(R7 )としては、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、ウレイド基などを挙げることができる。これらのうち、不飽和結合を有するゴムのポリマー主鎖に対して反応性を有するメルカプト基、不飽和結合を有しないゴムのポリマー主鎖に対して反応性を有するビニル基などを好適なものとして挙げることができる。
このように、ゴムの種類(ポリマー主鎖中の不飽和結合の有無)に応じて、反応性有機官能基(R7 )を選択することによれば、特定のフッ素系化合物として同一種類の化合物を種々のゴムに対して使用することが可能となる。
【0024】
ゴム組成物中におけるシランカップリング剤の配合量としては、当該ゴム組成物中に配合される充填剤の量などによっても異なるが、例えば、原料ゴム100質量部あたり0.5〜5質量部とされ、好ましくは0.5〜2質量部、特に好ましくは0.75〜2質量部とされる。シランカップリング剤の配合量が0.5質量部未満である場合には、特定のフッ素系化合物に由来の構造を架橋ゴムのポリマー主鎖に効率的に結合させることができず、所期の処理効果を成形体の表面に付与することができない。他方、5質量部を超えて場合しても、当該配合量にみあう効果が得られない。
【0025】
原料ゴムおよびシランカップリング剤を必須成分とするゴム組成物中には、架橋剤、架橋促進剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤など、従来公知の種々のゴム用配合剤が含有されていてもよい。
ゴム組成物を得るための混練方法としても特に限定されるものではなく、混練機を使用する従来公知の方法を採用することができる。
【0026】
成形加工方法としても、特に限定されるものではなく、架橋ゴムからなる成形体を得るための従来公知の方法(例えばプレス成形)を採用することができる。
ここに、ゴムの架橋条件としては、例えば140〜180℃で5〜60分間とされる。
【0027】
本発明の製造方法における成形工程では、シランカップリング剤の存在下に、ゴムを架橋させることにより、当該架橋反応とともに、シランカップリング剤の有する反応性有機官能基と、ゴムのポリマー主鎖との反応が起こり、これにより、シランカップリング剤がポリマー主鎖に結合された架橋ゴムが得られる。
【0028】
<フッ素系化合物の付着工程>
本発明の製造方法におけるフッ素系化合物の付着工程は、上記の成形工程で得られた架橋ゴムからなる成形体(ゴム基材)の表面に、特定のフッ素系化合物を付着させる工程である。
【0029】
本発明の製造方法に使用する特定のフッ素系化合物は、フルオロアルキル基を含有する基(RF )を分子両末端に有し、加水分解性基との反応性を有する官能基(R1 )を中間鎖に有する、分子量が500〜50,000程度のフッ素系のオリゴマーである。
【0030】
特定のフッ素系化合物を構成するフルオロアルキル基を含有する基(RF )の具体例としては、−CF3 、−C2 F5 、−C3 F7 、−C6 F13および−C7 F15など−Cq F2q+1(q=1〜10)で表されるフルオロアルキル基;−CF(CF3 )OC3 F7 、−CF(CF3 )[OCF2 CF(CF3 )]OC3 F7 、および−CF(CF3 )[OCF2 CF(CF3 )]2 OC3 F7 で表される基(オキシフルオロアルキレン基およびフルオロアルキル基を含有する基)を例示することができ、これらのうち、−CF(CF3 )OC3 F7 で表される基が特に好ましい。
【0031】
特定のフッ素系化合物を構成する官能基(R1 )は、加水分解性基との反応性を有するものであり、これにより、シランカップリング剤との結合が担保される。かかる官能基(R1 )としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのアルコキシシリル基;トリ(メトキシメトキシ)シリル基、トリ(メトキシエトキシ)シリル基、トリ(エトキシメトキシ)シリル基、トリ(エトキシエトキシ)シリル基などのアルコキシアルコキシシリル基を挙げることができる。これらのうち、アルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。
特定のフッ素系化合物を構成する基(R2 )は、水素原子またはメチル基などのアルキル基である。
【0032】
特定のフッ素系化合物を構成する基(R3 ,R4 )は、同一または異なる基であって、水素原子または1価の有機基であり、ゴムの表面に付与すべき機能などに応じて適宜の基を選択することができる。R3 またはR4 で示される有機基としては、下記(i)〜(v)に示すような基を挙げることができる。
【0033】
【化6】
【0034】
特定のフッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、xは1〜100の整数とされ、好ましくは1〜50、更に好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5の整数とされる。
また、yは0〜500の整数とされ、好ましくは0〜100、更に好ましくは0〜50、特に好ましくは0〜10、最も好ましくは0〜5とされる。
【0035】
上記一般式(I)で示される特定のフッ素系化合物は、下記一般式(IA)で示される含フッ素過酸化物の存在下に、下記一般式(IB)で示される単量体と、下記一般式(IC)で示される単量体とを重合させることにより得ることができる。
【0036】
【化7】
【0037】
特定のフッ素系化合物を構成する好適な化合物としては、上記式(1)で示される化合物、下記式(2)乃至式(5)で示される化合物を挙げることができる。特に、上記式(1)および下記式(2)で示される化合物は、1分子中に占めるフッ素原子(表面特性の向上に寄与する原子)の割合が大きいために、成形体(ゴム基材)の表面に高い効率でフッ素原子を存在させることができるので好ましい。
【0038】
【化8】
【0039】
〔式(2)および式(3)において、RF ' は、式:−CF(CF3 )OCF2 CF(CF3 )OC3 F7 で示される基である。
式(2)中、xaは1〜100の整数である。
式(3)中、xbは1〜100の整数、ybは1〜500の整数である。〕
【0040】
【化9】
【0041】
〔式(4)中、xcは1〜10の整数、ycは0〜100の整数である。式(5)中、xdは1〜10の整数、ydは0〜100の整数である。〕
【0042】
本発明の製造方法(フッ素系化合物の付着工程)において、架橋ゴムからなる成形体(ゴム基材)の表面に、特定のフッ素系化合物を付着させる方法としては、特定のフッ素系化合物を適宜の溶剤に溶解して溶液を調製し、この溶液を当該成形体の表面に塗布する方法を挙げることができる。
ここに、特定のフッ素系化合物を溶解する溶剤としては、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ベンゼン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、アセトン、ヘキサン、および精密洗浄などの用途に使用される代替フロン(HCFC系,HFC系,PFC系)などを挙げることができる。
【0043】
なお、特定のフッ素系化合物の溶液は、酸性またはアルカリ性であることが好ましく、酸性(pHが6以下、特に3〜5)であることが特に好ましい。これにより、特定のフッ素系化合物の有する官能基(R1 )と、シランカップリング剤の加水分解性基との反応が効率的に行われ、ハイブリッドの形成が促進される。これらの溶液を酸性とするために添加含有される酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸などの有機酸を挙げることができ、これらのうち、酢酸が好ましい。
特定のフッ素系化合物の溶液を塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、当該溶液中に成形体を浸漬する方法(浸漬法)が好ましい。
なお、塗布面積の広い大型の成形体に対する塗布方法としては、刷毛塗り、吹き付け・噴霧による方法、各種のコーターによる方法などを採用することができる。
【0044】
<加熱工程>
本発明の製造方法における加熱工程は、特定のフッ素系化合物が表面に付着された成形体を加熱処理する工程である。
ここに、加熱条件としては、特定のフッ素系化合物とシランカップリング剤との縮合反応を十分に進行させる観点から規定される。具体的には、70〜180℃で5〜60分間とされる。加熱処理方法としては、換気機能を備えた恒温槽を用いる方法が好ましい。
【0045】
加熱処理が施されることにより、当該成形体(ゴム基材)の表面近傍において、ポリマー主鎖に結合されているシランカップリング剤の有する加水分解性基と、特定のフッ素系化合物の有する官能基(R1 )とが反応し、熱安定性および化学的安定性に優れたハイブリッド(特定のフッ素系化合物−シランカップリング剤のハイブリッド)が形成される。これにより、成形体の表面近傍における架橋ゴムのポリマー主鎖に、シランカップリング剤を介して、特定のフッ素系化合物に由来の構造を結合させることができる。
【0046】
下記式(6)は、上記式(1)で示される特定のフッ素系化合物の加水分解物と、上記一般式(II)で示されるシランカップリング剤(但し、m=3)の加水分解物との縮合反応により形成される、シロキサン結合を有するハイブリッド構造の一例を示している。なお、下記式(6)では、シランカップリング剤とポリマー主鎖との結合状態は示されていないが、本発明の製造方法によって得られるゴム製品において、実際には、当該シランカップリング剤は、有機官能基(R7 )によってゴムのポリマー主鎖と結合している。
【0047】
【化10】
【0048】
上記の各工程(成形工程・フッ素系化合物の付着工程・加熱工程)により、成形体の表面近傍における架橋ゴムのポリマー主鎖に、シランカップリング剤を介して、特定のフッ素系化合物に由来の構造が結合されてなるゴム製品(表面処理されたゴム製品)が得られる。
このようにして得られるゴム製品においては、特定のフッ素系化合物に由来の構造とシランカップリング剤との間、および、シランカップリング剤と架橋ゴムのポリマー主鎖との間に化学的な結合が形成されるため、特定のフッ素系化合物に由来の構造(表面処理層)は、成形体の表面に対して強固に密着することになる。
さらに、特定のフッ素系化合物の有する官能基(R1 )と、シランカップリング剤の有する加水分解性基との反応により形成されるハイブリッドは、熱安定性および化学的安定性に優れ、特定のフッ素系化合物に対して良溶媒である種々の溶剤に対しても不溶性または難溶性となるため、当該ゴム製品の耐薬品性(耐油性・耐溶剤性)を格段に向上させることができる。
本発明の製造方法により得られるゴム製品の形状は、特に限定されるものではない。また、本発明の製造方法により得られるゴム製品には、構成部材の一部がゴム製であるものも含まれる。
【0049】
本発明の製造方法により得られるゴム製品は、ベルト、プーリー、ホース、チューブ、ガスケット、Oリング、パッキン、ダイヤフラム、ワイパー、ロール、ケーブル、クッションパッド、印刷用ブランケット(特に表面層)、グロメット、各種シール材および各種シート材などとして使用することができる。
【0050】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、以下において「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0051】
〔調製例1〕
エタノール95体積%と水5体積%からなる混合溶剤約100mLに、酢酸2滴を添加した後、当該混合溶剤に、上記式(1)で示される特定のフッ素系化合物を添加し、当該フッ素系化合物の濃度が1質量%の処理液を調製した。
【0052】
〔調製例2〕
HCFC−225ca(CF3 CF2 CHCl2 )と、HCFC−225cb(CClF2 CF2 CHClF)との混合溶剤「アサヒクリンAK−225」(旭硝子(株))約100mLに、酢酸2滴を添加した後、当該混合溶剤に、上記式(2)で示される特定のフッ素系化合物(但し、xa=2〜3)を添加して、均一に分散させることにより、当該フッ素系化合物の濃度が1質量%の処理液を調製した。
【0053】
〔調製例3〕
メタノール95体積%と水5体積%からなる混合溶剤約100mLに、酢酸2滴を添加した後、当該混合溶剤に、上記式(3)で示される特定のフッ素系化合物(但し、xb=1〜10、yb=1〜100)を添加し、当該フッ素系化合物の濃度が1質量%の処理液を調製した。
【0054】
<実施例1>
〔1〕成形工程:
下記表1に示す処方に従って、ニトリルゴム「Nipol DN401」(日本ゼオン(株)製,AN量=18%)100部と、硫黄1部と、酸化亜鉛5部と、架橋促進剤「ノクセラーZTC」(大内新興化学(株)製)1部と、架橋促進剤「ノクセラーTOT−N」(大内新興化学(株)製)4部と、架橋促進剤「ノクセラーDM」(大内新興化学(株)製)2部と、式:Si(OCH3 )3 −(CH2 )3 −SHで示されるシランカップリング剤「A−189」〔日本ユニカー(株)製〕1部とを8インチロールにより混練してニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシート(ゴム基材である成形体)を作製した。
【0055】
〔2〕フッ素系化合物の付着工程:
上記の成形工程によって得られた架橋ゴムシートを、調製例1で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
【0056】
〔3〕加熱工程:
上記のフッ素系化合物の付着工程により、特定のフッ素系化合物を表面に付着させた当該架橋ゴムシートを、換気機能を備えた恒温槽(150℃)内で10分間加熱処理することにより、上記式(1)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(ゴム製品)を製造した。
【0057】
<実施例2>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤の配合量を2部に変更したこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、得られた架橋ゴムシートを、調製例1で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(1)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(ゴム製品)を製造した。
【0058】
<実施例3>
下記表1に示す処方に従って、実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、この架橋ゴムシートを、調製例2で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(2)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(ゴム製品)を製造した。
【0059】
<実施例4>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤の配合量を2部に変更したこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、この架橋ゴムシートを、調製例2で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(2)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(ゴム製品)を製造した。
【0060】
<実施例5>
下記表1に示す処方に従って、実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、この架橋ゴムシートを、調製例3で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(3)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(ゴム製品)を製造した。
【0061】
<実施例6>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤の配合量を2部に変更したこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、この架橋ゴムシートを、調製例3で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(3)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(ゴム製品)を製造した。
【0062】
<比較例1>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤を配合しなかったこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシート(比較用のゴム製品)を製造した。
【0063】
<比較例2>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤を配合しなかったこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、得られた架橋ゴムシートを、調製例1で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(1)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(比較用のゴム製品)を製造した。
【0064】
<比較例3>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤を配合しなかったこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、得られた架橋ゴムシートを、調製例2で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(2)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(比較用のゴム製品)を製造した。
【0065】
<比較例4>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤を配合しなかったこと以外は実施例1の成形工程と同様にして、各成分を混練することによりニトリルゴム組成物からなる未架橋ゴムシートを作製し、この未架橋ゴムシートを150℃で10分間プレス成形することにより、架橋ゴムシートを作製した。
次いで、得られた架橋ゴムシートを、調製例3で得られた処理液中に30分間浸漬した後、当該架橋ゴムシートを室温にて乾燥して混合溶剤を除去することにより、当該架橋ゴムシートの表面に特定のフッ素系化合物を付着させた。
その後、実施例1の加熱工程と同様にして、当該架橋ゴムシートを150℃で10分間加熱処理することにより、上記式(3)で示される特定のフッ素系化合物により表面処理された架橋ゴムシート(比較用のゴム製品)を製造した。
【0066】
<シートの評価>
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた架橋ゴムシートの各々について、X線光電子分光分析装置(XPS)により、シート表面におけるフッ素原子の存在量(炭素原子1個あたりのフッ素原子の個数)を測定した。この存在量が多いほど、撥水性および撥油性などの表面特性に優れているといえる。結果を下記表1に示す。測定条件は、下記のとおりである。
【0067】
(測定条件)
・使用機種:Perkin Elmer PHI 5600 ESCA System,
・室内の圧力(減圧条件):2.8×10-7Pa,
・補正:中和銃にてC1sを285.0eVに補正,
・X線:AlKαモノクロX線,
・X線照射角度:45°〜55°,
・測定領域:800μm×2000μm
【0068】
また、実施例1〜6および比較例1〜4で得られた架橋ゴムシートの各々について、下記表1に示す各溶剤との接触処理(ソックスレー抽出,抽出時間=12時間)を行った後に、シート表面におけるフッ素原子の存在量を再度測定し、抽出前(初期値)に対する保持率を求めた。この保持率が90%以上であれば、当該溶剤を接触させても、架橋ゴムシートの表面処理層により発現される所期の表面特性が消滅または減殺されることはないといえる。結果を併せて下記表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、成形体の表面近傍における架橋ゴムのポリマー主鎖に、特定のフッ素系化合物に由来の構造を確実かつ効率的に結合させることができ、この結果、特定のフッ素系化合物による表面処理効果を、種々の溶剤との接触によっても消滅または減殺されることなく安定的を発現するゴム製品を確実に製造することができる。
また、原料ゴムの種類に応じて、シランカップリング剤の反応性有機官能基を選択することにより、特定のフッ素系化合物として、同一種類の化合物を種々のゴムに対して使用することが可能となる。
Claims (8)
- 原料ゴム100質量部に対して0.5〜5質量部のシランカップリング剤を配合・混練してなるゴム組成物を成形加工することにより、架橋ゴムからなる成形体を得る工程と、
この成形体の表面に、下記一般式(I)で示されるフッ素系化合物を付着させる工程と、
前記フッ素系化合物が表面に付着された当該成形体を加熱処理する工程とを含むことを特徴とするゴム製品の製造方法。
- 前記成形体の表面に、前記フッ素系化合物の溶液を塗布することにより、当該フッ素系化合物を当該成形体の表面に付着させることを特徴とする請求項1に記載のゴム製品の製造方法。
- 前記成形体を、前記フッ素系化合物の溶液中に浸漬することにより、当該フッ素系化合物を当該成形体の表面に付着させることを特徴とする請求項1に記載のゴム製品の製造方法。
- 前記フッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、R1 で表される官能基がアルコキシシリル基またはアルコキシアルコキシシリル基であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のゴム製品の製造方法。
- 前記フッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、R1 で表される官能基がトリメトキシシリル基であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のゴム製品の製造方法。
- 前記フッ素系化合物を示す上記一般式(I)において、RF で表されるフルオロアルキル基を含有する基が、−CF3 、−C2 F5 、−C3 F7 、−C6 F13、−C7 F15または−CF(CF3 )[OCF2 CF(CF3 )]p OC3 F7 (式中、pは0,1もしくは2である)で表されることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のゴム製品の製造方法。
- 前記シランカップリング剤の有する反応性有機官能基がメルカプト基またはビニル基であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載のゴム製品の製造方法。
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