JP3729900B2 - 尿素窒素の定量方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は臨床診断に有用な尿素窒素の定量方法に関する。また、本発明はウレアーゼの安定化方法および安定化されたウレアーゼを含有する定量試薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
尿素窒素の定量方法として、試料中の尿素窒素を、ウレアーゼと反応させた後、生じるアンモニア量を、インドフェノールを用いて測定する方法またはグルタミン酸脱水素酵素を用いて測定する方法が知られている〔最新検査、1巻、11〜14頁、(1983年)〕。しかし、これらの方法において使用するウレアーゼが不安定であるため、定量試薬組成物を長期間、安定に保つことが困難である。
【0003】
ウレアーゼの拮抗阻害剤であるほう酸を添加することにより該酵素を安定化し、定量性を向上させる方法が知られている(特公平3─65160号)。しかし、ほう酸を添加することを特徴とするウレアーゼを用いた尿素窒素の定量方法では、多量のほう酸を添加することが必要である上、同時再現性(CV)値が悪いため、より優れた定量方法の開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、保存安定性および同時再現性の優れた、ウレアーゼを用いた尿素窒素の定量方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、有機ほう素化合物の存在下、試料中の尿素窒素にウレアーゼを作用させた後、生じるアンモニア量を測定することにより尿素窒素を定量する方法、ウレアーゼに有機ほう素化合物を共存させることを特徴とするウレアーゼの安定化方法、およびウレアーゼと有機ほう素化合物とが共存してなる定量試薬組成物に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明によると、ウレアーゼに有機ほう素化合物を共存させることにより、ウレーゼを安定化させることができる。
有機ほう素化合物としては、ほう酸トリメチル、ほう酸トリエチル等のほう酸トリアルキル、ほう酸トリフェニル等のほう酸トリアリール、ほう酸トリエタノールアミン等のほう酸トリアルカノールアミン、ほう酸トリアリールアミン、ほう酸トリ−o−トリルエステル等があげられる。これらの中でほう酸トリエタノールアミン、ほう酸トリフェニル、ほう酸トリ−o−トリルエステル等を使用することが好ましい。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0007】
ウレアーゼとしては、E.C. 3.5.1.5に分類されるウレアーゼであればどのようなものでもよく、ナタマメ等、植物由来のウレアーゼ、細菌(Bacillus pasteurii など)、酵母、カビ等、微生物由来のウレアーゼ、動物由来のウレアーゼ等があげられるが、好ましくは微生物由来のウレアーゼが用いられる。また、上記のウレアーゼを遺伝子工学等で改変したものを用いてもよい。
【0008】
ウレアーゼを安定化するためには、有機ほう素化合物の濃度が、ウレアーゼ1U(国際単位)当たり1×10-10 〜1mol、好ましくは1×10-8〜1×10-1molとなるように有機ほう素化合物を添加すればよい。
【0009】
本発明の定量試薬組成物は、使用時の濃度として、水性媒体中にウレアーゼが1〜100U/ml、好ましくは5〜45U/ml、有機ほう素化合物が0.01〜100mM、好ましくは0.1〜5mMとなるようにそれぞれを含有する。
【0010】
水性媒体としては、精製水、生理食塩水、緩衝液等があげられ、緩衝液を用いることが好ましい。緩衝液に用いる緩衝剤としては、塩酸、リン酸、炭酸、フタル酸、トリス、シュウ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、マレイン酸、グリシン、ピロリン酸、マロン酸、フマル酸、DL- 酒石酸、クエン酸、フランカルボン酸、β−アラニン、β:β’−ジメチルグルタル酸、DL- 乳酸、γ−アミノ酪酸、バルビツール酸、安息香酸、コハク酸、ε−アミノカプロン酸、酢酸、プロピオン酸、DL- リンゴ酸、5(4)−ヒドロキシイミダゾール、グリセロールリン酸、β−グリセロリン酸およびこれらの塩、エチレンジアミン、イミダゾール、5(4)−メチルイミダゾール、N−エチルモルホリン、5,5−ジエチルバルビツール酸、2,5(4)−ジメチルイミダゾール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、ジエタノールアミン、4−アミノピリジン、エタノールアミン、エフェドリン、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(HEPPSO)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペリジン及びグッドバッファー等があげられ、これら緩衝剤は単独または混合して緩衝液に用いられる。緩衝剤は緩衝液の濃度が0.005〜2mol/lとなるように添加される。緩衝液としては、トリス−塩酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、HEPPSO緩衝液等があげられる。緩衝液のpHは、pH6〜10、好ましくはpH7〜10である。
【0011】
該定量試薬組成物には、他の成分として、他の酵素、補酵素、発色剤、界面活性剤、キレート剤、他の安定化剤、他の化合物等を含有してもよい。
他の酵素としては、例えばグルタミン酸脱水素酵素〔E.C. 1.4.1.2、E.C. 1.4.1.3またはE.C. 1.4.1.4〕があげられる。
補酵素としては、例えば還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHという)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADPHという)があげられる。
【0012】
発色剤としては、例えばバートレット反応に用いられるフェノールおよび次亜塩素酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸塩およびサリチル酸があげられる。界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニエステルがあげられる。
キレート剤としては、例えばEDTAがあげられる。
【0013】
他の安定化剤としては、例えばほう酸があげられる。
他の化合物としては、例えばα−ケトグルタル酸(以下、α−KGという)があげられる。
【0014】
該定量試薬組成物は、あらかじめ全成分が水性媒体中に溶解した液体として調製してこれを用いてもよいし、全成分または一部成分が凍結乾燥品等の固体として調製し、使用時に水性媒体で溶解して用いてもよい。
【0015】
本発明によると、水性媒体中、有機ほう素化合物の存在下、試料中の尿素窒素にウレアーゼを作用させた後、生じるアンモニア量を測定することにより尿素窒素を定量する方法を提供することができる。
【0016】
水性媒体としては、精製水、生理食塩水、緩衝液等があげられ、緩衝液を用いることが好ましい。緩衝液に用いる緩衝剤としては、上記のものが用いられる。緩衝液のpHはpH6〜10、好ましくはpH7〜10である。
有機ほう素化合物の使用濃度としては、水性媒体中0.01〜100mM、好ましくは0.1〜5mMである。
【0017】
アンモニアを定量する方法としては、例えばインドフェノールを用いて測定する方法、グルタミン酸脱水素酵素を用いて測定する方法があげられる〔最新検査、1巻、11〜14頁、(1983年)〕。
【0018】
グルタミン酸脱水素酵素を用いて測定する方法とは、生成したアンモニアを、α−KGとNADHまたはNADPHとの存在下、グルタミン酸脱水素酵素で作用させ、該酵素活性を測定することによりアンモニア量を定量する方法のことである。具体的には、基質であるアンモニアおよびα−KGを、NADHまたはNADPHの補酵素の存在下、細菌、カビ、動物等由来のグルタミン酸脱水素酵素(E.C.1.4.1.3.またはE.C.1.4.1.4.)を作用させたとき、減少するNADHまたはNADPH量を蛍光分析法または紫外可視吸光光度法により測定することにより、アンモニア量を定量する方法のことである。
【0019】
以下に本発明の定量方法をより詳細に説明する。
(1)インドフェノールを用いた方法
pHを7〜10、好ましくは7.5〜9.5に調整した緩衝液に、1〜100U/ml、好ましくは5〜45U/mlのウレアーゼ、0.01〜100mM、好ましくは0.01〜5mMの有機ほう素化合物、0.1〜50mM、好ましくは1〜20mMのα−ケトグルタル酸を添加し、緩衝液の温度を10〜50℃、好ましくは20〜40℃で3〜5分間プレインキュベーションした後、試料を加え更に10〜50℃、好ましくは20〜40℃で3〜60分間、好ましくは5〜30分間反応させる。反応終了後、反応液のアンモニア量をインドフェノールで定量し、対応する尿素窒素を定量する。
【0020】
(2)グルタミン脱水素酵素を用いた定量方法
試料中のアンモニアを消去するためpHを8〜10、好ましくは9〜10に調整した緩衝液に、1〜1000U/ml、好ましくは5〜50U/mlのグルタミン酸脱水素酵素、1〜50mM、好ましくは1〜20mMのNADHもしくはNADPH、0.1〜50mM、好ましくは1〜20mMのα−KGを添加した第1試薬に、試料を添加し、緩衝液の温度を10〜50℃、好ましくは20〜40℃で3〜5分間プレインキュベーションする。
【0021】
これとは別にpHを7〜10、好ましくは8〜9に調整した緩衝液に、1〜100U/ml、好ましくは5〜45U/mlのウレアーゼ、0.01〜100mM、好ましくは0.01〜5mMの有機ほう素化合物、必要により0.1〜50mM、好ましくは1〜20mMのα−KGを添加し第2試薬とする。必要により緩衝液の温度を10〜50℃、好ましくは20〜40℃にして1〜10分間プレインキュベーションする。
【0022】
試料を含有する第1試薬にpHが7.5〜9.5、好ましくは8.5〜9.5になるように第2試薬を加え、10〜50℃、好ましくは20〜40℃で、3〜60分間、好ましくは5〜30分間反応させる。なお、このときの第2試薬と第1試薬との混合比は1:9〜9:1、好ましくは1:3である。ウレアーゼ反応により生じたアンモニアは、グルタミン酸脱水素酵素反応によりグルタミン酸へ付加されるが、同時に消費されるNADHもしくはNADPHの単位時間当たりの減少量を、蛍光分析法または紫外可視吸光光度法により測定してアンモニア量を定量することにより、対応する試料中の尿素窒素量を定量する。
【0023】
なお、上記方法に使用する緩衝液には検体の可溶化剤を添加してもよい。可溶化剤の例としては、HS−210〔商品名:日本油脂(株)製〕、PGM−50〔商品名:和光純薬工業(株)製〕、トリトンX−100〔商品名:シグマ社製〕、DF−16〔商品名:シグマ社製〕、エマルゲンA−60〔商品名:花王(株)製〕、エマルゲンA−90〔商品名:花王(株)製〕、エマルゲン709〔商品名:花王(株)製〕等の界面活性剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、EDTAナトリウム等があげられる。
【0024】
本発明の定量方法は、尿素窒素を含有する試料であれば、いずれの試料についても適用することができる。
試料としては、例えば生体から採取した体液即ち血液、血清、尿、髄液、腹腔液、透析液等があげられる。
【0025】
以下に、本発明の実施例を示す。
【0026】
【実施例】
実施例1(標準血清中の尿素窒素の定量)
【0027】
【表1】
【0028】
第1表に示された量の、α−KG、NADPH、グルタミン酸脱水素酵素を0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.2)100mlに溶解し、第1試薬として調製した。一方、α−KG、ほう酸トリエタノールアミン(ナカライテスク製)、コリネバクテリウム属菌由来のウレアーゼをトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)100mlに溶解し、第2試薬として調製した。2.25mlの第1試薬に30μlの標準血清を加え、37℃で5分間プレインキュベーションした後、37℃で5分間プレインキュベーションした0.75mlの第2試薬を加え、37℃で5分間反応させ、340nmにおける吸光度の単位時間当たりの減少量を測定することによりウレアーゼ活性を測定した。同様の操作を20回行い、CV値を求めた。
【0029】
また比較例として、ほう酸トリエタノールアミンを第2試薬から除く以外は、実施例1と同様の組成の試薬を用いた対照群を、実施例1と同様の操作を20回行い、そのCV値を求めた。さらに、ほう酸トリエタノールアミンの代わりにほう酸を第2試薬に用いる以外は、実施例1と同様の組成の試薬を用い、実施例1と同様の操作を20回行い、CV値を求めた。
【0030】
以上各群の結果を第2表に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
第2表に示されるとおり、各種濃度において、有機ほう酸の添加群のほうがほう酸が添加群よりもCV値が低く、定量方法として精度が高かった。
【0033】
実施例2(ウレアーゼ活性の安定化)
実施例1の第1表に記載された組成の0.75mlの第2試薬を試薬aとし、試薬aをさらに30℃で1か月間保存して試薬bを調製した。第1試薬2.25mlに30μlの165mM尿素を加え、37℃で5分間プレインキュベーションした後、37℃で5分間プレインキュベーションした0.75mlの試薬aまたは試薬bを加え、37℃で5分間反応させ、340nmにおける吸光度の単位時間当たりの減少量を測定することによりウレアーゼ活性を測定した。この操作により得られた試薬bを添加したときのウレアーゼ活性および試薬aを添加したときのウレアーゼ活性から、次式に従いウレアーゼ活性の残存率を算出した。
【0034】
【数1】
【0035】
ほう酸エタノールアミンの代わりに、ほう酸トリフェニル、ほう酸トリ−o−トリルエステルおよびほう酸をそれぞれ用いて、同様の実験を行いウレアーゼ活性の残存率を算出した。
なお、ほう酸トリフェニルおよびほう酸トリ−o−トリルエステルについてN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した後、第2試薬に加えた。
【0036】
結果を第3表に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
第3表に示されるとおり、各種濃度において、有機ほう素化合物の添加群のほうがほう酸の添加群よりもウレアーゼ活性の残存率が高かった。
【0039】
実施例3(定量試薬組成物1)
尿素窒素の定量に用いられる、第4表に示す組成からなる定量試薬組成物を調製した。
【0040】
【表4】
【0041】
実施例4(定量試薬組成物2)
尿素窒素の定量に用いられる、第5表に示す組成からなる定量試薬組成物を調製した。
【0042】
【表5】
【0043】
実施例5(定量試薬組成物3)
尿素窒素の定量に用いられる、第6表に示す組成からなる定量試薬組成物を調製した。
【0044】
【表6】
【0045】
【発明の効果】
本発明により、保存安定性および定量時の再現性の優れた、ウレアーゼを用いた尿素窒素の定量方法を提供することができる。
Claims (11)
- ほう酸トリアルキル、ほう酸トリアリール及びほう酸トリアルカノールアミンからなる群より選ばれる有機ほう素化合物の存在下、試料中の尿素窒素にウレアーゼを作用させた後、生じるアンモニア量を測定することにより尿素窒素を定量する方法。
- 有機ほう素化合物の濃度が、ウレアーゼ1U当たり1×10−10〜1molである請求項1記載の方法。
- 有機ほう素化合物が、ほう酸トリエタノールアミン、ほう酸トリフェニルまたはほう酸トリ−o−トリルエステルである請求項1または2記載の方法。
- ウレアーゼにほう酸トリアルキル、ほう酸トリアリール及びほう酸トリアルカノールアミンからなる群より選ばれる有機ほう素化合物を共存させることを特徴とするウレアーゼの安定化方法。
- 有機ほう素化合物の濃度が、ウレアーゼ1U当たり1×10−10〜1molである請求項4記載の方法。
- 有機ほう素化合物が、ほう酸トリエタノールアミン、ほう酸トリフェニルまたはほう酸トリ−o−トリルエステルである請求項4または5記載の方法。
- ウレアーゼとほう酸トリアルキル、ほう酸トリアリール及びほう酸トリアルカノールアミンからなる群より選ばれる有機ほう素化合物とが共存してなる定量試薬組成物。
- 有機ほう素化合物の濃度が、ウレアーゼ1U当たり1×10−10〜1molである請求項7記載の定量試薬組成物。
- 有機ほう素化合物が、ほう酸トリエタノールアミン、ほう酸トリフェニルまたはほう酸トリ−o−トリルエステルである請求項7または8記載の定量試薬組成物。
- ほう酸トリアルキル、ほう酸トリアリール及びほう酸トリアルカノールアミンからなる群より選ばれる有機ほう素化合物を含有する、ウレアーゼの安定化剤。
- 有機ほう素化合物が、ほう酸トリエタノールアミン、ほう酸トリフェニルまたはほう酸トリ−o−トリルエステルである請求項10記載の安定化剤。
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