JP3717642B2 - 沖合防波堤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、外海に面した海岸の沖合いに設置される沖合防波堤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、外海に面した海岸において、船舶の航行や海岸線の維持(砂浜の流出防止)のため、外海からの波浪の進入を防ぐ防波堤が設置されている。このような沖合防波堤1は、例えば、図17(a)に示すように、コンクリートケーソンやコンクリートブロックから成る長さaの複数の離岸堤2,2を、海岸の汀線3とほぼ平行にかつ一定間隔Wの開口部4をおいて直線状に配置した1段配置の構造のものが採用されている。沖合防波堤1の上記開口部4は、波浪を通過させ海水の交換を図るために設けられているものである。なお、図17(b)は、そのA−A断面図で、図中の矢印は外海からの波浪の進入方向を示す。しかしながら、このような沖合防波堤1においては、離岸堤2の長さaや、上記長さaと開口部4の幅Wとの関係等が経験的に決められているに過ぎないため、十分な防波機能を果たすことができなかった。
【0003】
また、沖合防波堤1としては、図18(a)に示すように、開口部4aを有する沖側の離岸堤2a,2aから成る沖側防波堤1Aと、開口部4bを有する岸側の離岸堤2b,2bから成る岸側防波堤1Bとを、海岸線にほぼ平行に所定の間隔で整合配置したものや、図18(b)に示すように、離岸堤2aと離岸堤2bとを千鳥状に配置した構造のものも提案されている(特公平7−18140号公報)。これは、入射波浪のエネルギーを沖側防波堤1Aとの衝突により減衰させ、更に、上記沖側防波堤1Aの開口部4aから進入してきた波浪のエネルギーを上記沖側防波堤体1Aと上記岸側防波堤1Bとの離間部である消波部1Cにおいて波の干渉作用により減衰させて海岸線に進入する波浪の波高を低減し、海岸の侵食を防止するようにしたものである。しかしながら、上記構造の沖合防波堤1の場合も、上述した1段配置の沖合防波堤1と同様に、開口部4a,4bの幅Wと離岸堤長さaとの関係や開口部4a,4bの幅Wと沖側防波堤1Aと岸側防波堤1Bとの間隔bとの関係については明らかにされておらず、そのため十分な防波機能を果たすような設計ができなかった。また、上記千鳥状に配置した構造の沖合防波堤1では、開口部の通水性が損なわれるという問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、開口部の通水性に優れ海水の交換が容易であるだけでなく、進入波浪のエネルギーを効率よく減衰させることにより、波浪による海岸の侵食を防止することのできる沖合防波堤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、天端面の位置が海面上にある複数の離岸堤を一定間隔の開口部をおいて配置して成る2つの防波堤を、海岸線にほぼ平行に、かつ、沖側に位置する防波堤の開口部と海岸側に位置する防波堤の開口部とが直線状になるように整合配置した沖合防波であって、上記開口部の幅を、波高を減衰させるべき目標波浪の周期と沖合防波堤の設置箇所の水深条件等に基づいて決定するとともに、上記各離岸堤の長さを上記開口部の幅の0.9倍〜1.8倍とし、かつ、上記2列の防波堤の間隔を上記開口部の幅の0.5倍〜1.4倍としたことを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。
図1(a)は、本実施の形態に係わる沖合防波堤1を示す図で、図1(b)はそのA−A断面図である。沖合防波堤1は、海岸線にほぼ平行に配置された、開口部4aを有する複数の離岸堤2a,2aから成る沖側防波堤1Aと、上記沖側防波堤1Aの後方(海岸側)に沖側防波堤1Aとほぼ平行に配置された開口部4bを有する複数の離岸堤2b,2bから成る岸側防波堤1Bとから構成され、上記沖側防波堤1Aの開口部4aと上記岸側防波堤1Bの開口部4bとが直線状になるように整合配置されている。
上記開口部4a,4bの幅Wは、当該海岸に進入する波浪のうち波高を減衰させるべき目標波浪の周期と沖合防波堤の設置箇所の水深条件や海底基板の勾配等の条件によって決定される。上記波高を減衰させるべき目標波浪は、通常、台風などの異常気象時に波高が大きくなる約7sec.から12sec.の長周期の波浪に設定される。
【0007】
図1(a)に示す沖合防波堤1の最適形状(a,b,W)は、制御すべき波浪の周期Tを7sec.〜12sec.に設定し、上記設定された有効周波数帯をもとに、等価電気回路による波浪フィルター理論により決定した。上記最適形状(a,b,W)は、開口部4a,4bの幅WがW=20m、離岸堤2a,2bの長さaがa=24m(a/W=1.2)、沖側防波堤1Aと岸側防波堤1Bとの間隔bがb=22m(b/W=1.1)であった。以下、上記沖合防波堤1の構成(a/W=1.2,b/W=1.1)を基本配置と呼ぶ。次に、この基本配置の沖合防波堤1において、外海の図中矢印で示す方向から波高A0,周期T=3sec.〜13sec.の規則的な波が入射したとき、岸側防波堤1Bを通過して海岸側に進入する波浪の波高減衰率Wt(進入波の波高をAとしてWt=A/A0)を、波浪工学理論による数値シミュレーションにより算定した。図1(c)はその結果を示すグラフで、横軸は入射波浪の周期T、縦軸は波高減衰率Wtである。また、図中の○印はWtの最大値と最小値を示すもので、−印はWtの平均値を示すものである。なお、上記数値シミュレーションでは、平均水深HをH=5mとして計算した。
図から明らかなように、この基本配置の沖合防波堤1においては、異常気象時に波高が大きくなり易い長周期の条件(同図のT=8〜12sec.)での波高減衰率Wtは最大値でも40%未満に抑えられ、T=8〜12sec.でのWtの平均値は約25%と著しい防波効果が得られる。なお、周期の短い波浪は一般に波長も短いので、開口部4a,4bから海岸側に進入し易いため、T<6sec.においては、波高減衰率Wtの平均値も約60%程度となり、最大値と最小値の差も大きい。なお、以下の数値シミュレーションにおいても、平均水深はH=5m,開口部4a,4bの幅はW=20mに設定してあるものとする。
【0008】
図2(c)は、図2(a),(b)に示すような従来の一段配置の沖合防波堤1について、W=20m、配置条件をa/W=1.0とした場合の波高減衰率Wtを計算したもので、図から明らかなように、T=8〜12sec.において、波高減衰率Wtは55%〜70%となり、進入波の波高は本実施の形態の基本配置に比べて極めて大きいことがわかる。また、図3(c)は、図3(a),(b)に示すような、従来の2段千鳥状配列の沖合防波堤1について、W=20mとし、配置条件をa/W=1.0,b/W=1.0とした場合の波高減衰率Wtを計算したもので、T=8〜12sec.における波高減衰率Wtの変化は本実施の形態の基本配置と同様の傾向を示すが、波高減衰率Wtの値は全体に約20%高い35%〜55%で、進入波の波高の平均値も本実施の形態の基本配置に比べて約2倍と大きい。
なお、離岸堤2a,2bの天端面の位置は通常海面上にあるが、上述した特公平7−18140号公報に記載されているような、沖側防波堤1Aを構成する離岸堤2aの天端面が海面下にある場合には、一般には、防波堤で反射されて沖合い向かう波浪の振幅は小さくなるが、海岸へ進入する波浪の遮断効果は、離岸堤2aの天端面が海面下にある場合に比べて低減することが知られているので、上記図3(c)の波高減衰率Wtの数値シミュレーションにおいては、本実施の形態と同様に、離岸堤2aの天端面の位置が海面上にあるものとして計算を行い、本実施の形態の基本配置との比較を行った。
【0009】
図4〜図8は、沖側防波堤1Aと岸側防波堤1Bとの間隔bを最適値であるb=22m(b/W=1.10)とし、開口部4a,4bの幅Wと離岸堤2a,2bの長さaとの比をa/W=0.60〜1.80まで変化させたたときの、入射波浪の周期Tと波高減衰率Wtとの関係を示すグラフである。なお、図6は上記基本配置のグラフを再掲したものである。
図4に示すように、配置条件がb/W=1.10,a/W=0.60のとき、波高減衰率Wtは、T=8〜12sec.において、60%〜80%と従来の一段配置の沖合防波堤の場合よりやや高めであるが、a/Wを増加させると、波高減衰率Wtは、図5〜図8に示すように、a/Wの増加に伴って減少する。しかし、波高減衰率Wtが低下し始める周期がやや長い方に移動し、図7、図8に示すように、波高減衰率Wtが低減する周期帯が長周期側にずれる。
なお、波高減衰率Wtの平均値は、b/W=1.10,a/W=1.50のときに最小値の20%となるが、b/W=1.10,a/W=1.20においては、波高減衰率Wtの最大値が40%以下となる範囲が最も広いので、これを基本配置とした。
図9は、上述した数値シミュレーションの結果をまとめたもので、b/W=1.10とした場合には、a/W=0.9〜1.8の範囲で波高減衰率Wtの平均値は40%以下になり大きな防波効果が得られる。更に、a/Wを、a/W=1.1〜1.7の範囲に設定すれば、波高減衰率Wtの平均値は30%以下で、従来の一段配置の沖合防波堤1における波高減衰率の半分以下となり、著しい防波効果が得られる。
【0010】
図10〜図15は、離岸堤2a,2bの長さaを最適値であるa=24m(a/W=1.2)とし、開口部4a,4bの幅Wと,沖側防波堤1Aと岸側防波堤1Bとの間隔bとの比をb/W=0.55〜1.90まで変化させたたときの、入射波浪の周期TとWtとの関係を示すグラフである。なお、図12は上記基本配置のグラフを再掲したものである。
図10に示すように、配置条件がa/W=1.20,b/W=0.55のとき、波高減衰率Wtは、T=7.5sec.付近で20%以下となり、T=8sec.付近で最小値(Wt=5%)を持ち、その後直線的に増加する。T=12sec.での波高減衰率Wtは約60%であるが、波高減衰率Wtの平均値は既に約35%以下と大きな防波効果が得られていることがわかる。図11に示すb/W=0.80では、長周期帯での波高減衰率Wtの増加率は減少し、平均値も約25%となる。また、図10において、T=6sec.に現われた波高減衰率Wtのピークは徐々に長周期側に移動し、図12の基本は位置ではT=7sec.に移動するとともに、長周期帯での波高減衰率Wtの増加率は更に減少しする。そして、図13〜図15に示すように、b/Wの増加に伴って、上記ピークはT=7.5〜9.75secまで移動し、上記ピークでのは波高減衰率Wtも増加する。図14,図15に示すように、b/W=1.6からは、上記ピーク値が75%まで増加する。
図16は、上述した数値シミュレーションの結果をまとめたもので、a/W=1.20とした場合には、b/W=0.5〜2.0の範囲で波高減衰率Wtの平均値は50%以下になり著しい防波効果が得られるが、上述したように、b/W=1.6付近からは、上記ピークのため、T=8〜12sec.の特定の周期に対しては大きな防波効果が得られない。したがって、a/W=1.20とした場合には、b/Wをb/W=0.5〜1.4の範囲に設定すれば、T=8〜12sec.の範囲の全ての波浪に対して、波高減衰率Wtの平均値は40%以下になり大きな防波効果が得られる。更に、b/Wを、b/W=0.6〜1.2の範囲に設定すれば、波高減衰率Wtの平均値は30%以下で、従来の一段配置の沖合防波堤1における波高減衰率の半分以下となり、著しい防波効果が得られる。
【0011】
このように、本実施の形態によれば、一定間隔Wの開口部4a,4bを有する複数の離岸堤2a,2bを、海岸線にほぼ平行に、かつ、前後2列に配置し、上記開口部の幅Wを、波高を減衰させるべき目標波浪の周期と沖合防波堤1の設置箇所の水深条件等によって決定するとともに、上記各離岸堤2a,2bの長さaをa/W=0.9倍〜1.8の範囲とすることにより、異常気象時に波高が大きくなり易い長周期の条件(T=8〜12sec.)での波高減衰率Wtの平均値を40%以下にすることができる。また、上記2列の防波堤の間隔bを、b/W=0.5〜1.4の範囲とすることにより、波高減衰率Wtの平均値を40%以下にすることができる。特に、a/W=1.2,b/W=1.1とした場合には、T=6.5〜13sec.の広い範囲において、波高減衰率Wtの最大値が40%以下で、かつ、波高減衰率Wtの平均値はWt=25%となり著しい防波効果が得られる。
【0012】
なお、本実施の形態においては、沖側防波堤1Aと岸側防波堤1Bとを整合配列しているので、開口部4a,4bが直線状に配置され、開口部での通水性が損なわれることがない。また、上記例では、開口部4a,4bの幅をW=20mとして、数値シミュレーションを行ったが、開口部4a,4bの幅Wの異なる沖合防波堤においても、上述した防波効果を得るための配置条件(a/W及びb/Wの範囲)が適用できることはいいうまでもない。
【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の沖合防波堤は、天端面の位置が海面上にある複数の離岸堤を一定間隔の開口部をおいて配置して成る2つの防波堤を、海岸線にほぼ平行に、かつ、沖側に位置する防波堤の開口部と海岸側に位置する防波堤の開口部とが直線状になるように整合配置するとともに、上記開口部の幅を、波高を減衰させるべき目標波浪の周期と沖合防波堤の設置箇所の水深条件等に基づいて決定し、更に、上記各離岸堤の長さを上記開口部の幅の0.9倍〜1.8倍とし、かつ、上記2列の離岸堤の前後方向の間隔(防波堤の間隔)を上記開口部の幅の0.5倍〜1.4倍としたので、異常気象時に波高が大きくなり易い長周期の条件(T=8〜12sec.)での波高減衰率Wtを大幅に減少させることができ、防波堤の防波効果を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係わる沖合防波堤の波高減衰率の数値シミュレーション結果を示す図である。
【図2】1段配置の沖合防波堤の波高減衰率の数値シミュレーション結果である。
【図3】千鳥状配置の沖合防波堤の波高減衰率の数値シミュレーション結果である。
【図4】離岸堤の長さを変えた時のシミュレーション結果である。
【図5】離岸堤の長さを変えた時のシミュレーション結果である。
【図6】離岸堤の長さを変えた時のシミュレーション結果である。
【図7】離岸堤の長さを変えた時のシミュレーション結果である。
【図8】離岸堤の長さを変えた時のシミュレーション結果である。
【図9】開口部の幅と離岸堤の長さとの比と波高減衰率との関係を示す図である。
【図10】2つの防波堤間の間隔を変えた時のシミュレーション結果である。
【図11】2つの防波堤間の間隔を変えた時のシミュレーション結果である。
【図12】2つの防波堤間の間隔を変えた時のシミュレーション結果である。
【図13】2つの防波堤間の間隔を変えた時のシミュレーション結果である。
【図14】2つの防波堤間の間隔を変えた時のシミュレーション結果である。
【図15】2つの防波堤間の間隔を変えた時のシミュレーション結果である。
【図16】開口部の幅と防波堤間の間隔との比と波高減衰率との関係を示す図である。
【図17】従来の沖合防波堤の配置の一例を示す図である。
【図18】従来の沖合防波堤の配置を示す他の例を示す図である。
【符号の説明】
1 沖合防波堤
1A 沖側防波堤
1B 岸側防波堤
2,2a,2b 離岸堤
3 海岸の汀線
4,4a,4b 開口部
Claims (1)
- 天端面の位置が海面上にある複数の離岸堤を一定間隔の開口部をおいて配置して成る2つの防波堤を、海岸線にほぼ平行に、かつ、沖側に位置する防波堤の開口部と海岸側に位置する防波堤の開口部とが直線状になるように整合配置した沖合防波堤であって、上記開口部の幅を、波高を減衰させるべき目標波浪の周期と沖合防波堤の設置箇所の水深条件等に基づいて決定するとともに、上記各離岸堤の長さを上記開口部の幅の0.9倍〜1.8倍とし、かつ、上記2列の防波堤の間隔を上記開口部の幅の0.5倍〜1.4倍としたことを特徴とする沖合防波堤。
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