JPWO2013035794A1 - 消波構造体 - Google Patents
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Abstract
消波構造体10は、汀線Sに沿って並ぶように配置された複数の柱状のブロック20を備え、複数のブロック20のうちの隣り合う第1のブロック20a及び第2のブロック20bは、沖側と岸側とを結ぶ水路Cを形成しており、該水路Cを形成する該第1のブロック20aの壁面231と該第2のブロック20bの壁面231との距離が、沖側から岸側に向かうにつれ次第に小さくなっている。
Description
本発明の一形態は消波構造体に関する。
消波構造体は、外洋からの波浪を防いで港湾の内部を安静に保ったり、津波の被害から陸域を守ったりするために設置される構造物であり、従来から様々な種類のものが知られている。例えば、下記特許文献1には、一定間隔の開口部を有する複数の離岸堤を、海岸線にほぼ平行に且つ前後2列に配置して成る沖合防波堤が記載されている。また、下記特許文献2には、潮流が通過する防波堤先端部の平面形状が三角形状あるいは刃形形状である防波堤が記載されている。
しかしながら、上記特許文献1,2に記載されているような従来の防波堤では、津波や高波を防ぎきれない場合がある。そこで、津波や高波が陸域に及ぼす影響を低減することが要請されている。
本発明の一形態に係る消波構造体は、汀線に沿って並ぶように配置された複数の柱状のブロックを備え、複数のブロックのうちの隣り合う第1のブロック及び第2のブロックは、沖側と岸側とを結ぶ水路を形成しており、該水路を形成する該第1のブロックの壁面と該第2のブロックの壁面との距離が、沖側から岸側に向かうにつれ次第に小さくなっている。
このような形態によれば、隣り合う一対のブロックにより形成される水路の幅は、沖から岸に進むにつれて次第に狭まることになる。このように形成された水路を波が流れると、水路を形成している一方の壁面(第1のブロックの壁面)と、当該壁面と向かい合う他方の壁面(第2のブロックの壁面)とによって、波高が過度に上昇する。そして、波のエネルギーフラックスは保存されるので、負の波高を有する反射波が生じるとともに、透過波の波高が小さくなる。このように、波を堰き止めようとするのではなく、特有の反射現象によって透過波を減衰させることができ、津波や高波が陸域に及ぼす影響を低減することが可能となる。
別の形態に係る消波構造体では、第1のブロックの壁面及び第2のブロックの壁面が流線形であってもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、各ブロックが、沖に向かって先細る第1の部分と、岸に向かって先細る第2の部分と、を有してもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、第1のブロックの壁面と第2のブロックの壁面との成す角が鋭角であってもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、水路の端部における幅が水路の長さの1/2以下であってもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、ブロックの底面が略二等辺三角形であってもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、ブロックの底面が略菱形であってもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、複数のブロックは、汀線に沿って複数列に配置されていてもよい。
さらに別の形態に係る消波構造体では、第1のブロック及び第2のブロックが配置された第1の列と隣り合う第2の列には、第3のブロックが配置されており、第3のブロックは、第1のブロックと第2のブロックとの間に位置してもよい。
本発明の一側面によれば、津波や高波が陸域に及ぼす影響を低減することができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
まず、図1〜3を用いて、第1実施形態に係る消波構造体10の構成を説明する。図1は第1実施形態に係る消波構造体10の一例を示す上方からの斜視図である。図2は第1実施形態に係る消波構造体10の別の例を示す上方からの斜視図である。図3は消波構造体10を通過する波の様子を説明するための図である。
まず、図1〜3を用いて、第1実施形態に係る消波構造体10の構成を説明する。図1は第1実施形態に係る消波構造体10の一例を示す上方からの斜視図である。図2は第1実施形態に係る消波構造体10の別の例を示す上方からの斜視図である。図3は消波構造体10を通過する波の様子を説明するための図である。
消波構造体10は、汀線Sに沿って一列に並ぶように配置された複数の角柱状のブロック20を備えている。各ブロック20はコンクリートブロックまたはコンクリートケーソンから成り、その大きさは略統一されている。図1,2に示されるように、各ブロック20は、底面が略菱形である四角柱であってもよいし、底面が略二等辺三角形である三角柱でもよい。なお、図1,2ではブロック20の一部が水面から出ているが、ブロック20はその全体が水中に沈められた状態で設置されてもよい。
各ブロック20は、隣り合う2側面が鋭角を成す先端部を二つ有している。各ブロック20は、一方の先端部が沖に向かって突き出るとともに他方の先端部が岸に向かって突き出るように、汀線Sから所定の距離だけ離れた沖合に設けられる。したがって、各ブロック20は、沖に向かって先細るように形成された三角柱(第1の部分21)と、岸に向かって先細るように形成された三角柱(第2の部分22)とが一体化されたものであるといえる。
複数のブロック20は一定の間隔を置いて配置されるので、隣接する二つのブロック20の間には、沖側と岸側とを結ぶ水路が形成される。すなわち、隣り合う一対のブロック20により水路が形成される。対を成す二つのブロック20を第1のブロック20a及び第2のブロック20bとすると、図3に示されるように、第1のブロック20aの壁面23と第2のブロック20bの壁面23との双方は、水路の幅を端部から中央部にかけて次第に狭くするように形成されている。すなわち、水路の幅は、沖から岸に向かって進むにつれて一旦次第に狭まり、その後は次第に広がることとなる。消波構造体10が3個以上のブロック20から成る場合には複数の水路が形成されるが、この場合には、各水路が図3に示されるように形成される。
このように、従来の消波構造体のように津波や高波を堤防の面で受けるのではなく、波の抗力を受けない複数のブロック20を適切な間隔で配置して水路を形成すると、次のような理由により波を静穏化することができる。すなわち、図3の矢印で示すように、一対のブロック20により形成された水路を波が流れると、一方のブロック20の壁面(第1のブロック20aの壁面)23で反射した波と、他方のブロック20の壁面(第2のブロック20bの壁面)23で反射した波とが干渉し合う。そして、この干渉による相殺効果により波のエネルギーが低減する。波が水路を通る間にこのような反射、干渉、及び相殺という一連の現象が繰り返し発生するので、水路を通る波の強さは岸に近づくにつれて弱くなる。なお、図3では、波が弱まる様子を矢印の大きさ及び太さで表現している。このように、波を堰き止めようとするのではなく、波同士の干渉により波を弱めることで、津波や高波が陸域に及ぼす影響を低減することができる。
このような効果はブロック20の高さの分の波に対して認めることができるので、ブロック20が完全に沈んだ状態で設置されている場合でも、上記の効果を得ることができる。したがって、本実施形態の消波構造体は、防波堤として用いるだけでなく、ケーソン等にかかる水圧を減ずる目的で用いることも可能である。
このような効果を、図4〜6に示す数値実験のモデル及び結果を参照しながら説明する。図4は数値実験のモデルを示す図である。図5,6はそれぞれ、そのモデルでの計算結果を二次元的、三次元的に示す図である。
図4に示すX軸は汀線に沿って延びる軸であり、Y軸は岸から沖に向かう方向に延びる軸である。計算領域のX軸に沿った長さはW(m)であり、Y軸に沿った長さはW+W´(m)であり、水深は1.0mである。
消波構造体10のモデルは、図2,3に示されるような一対の三角柱状のブロック20から成る。各ブロック20の底面は二等辺三角形であり、Y軸方向に沿った長さはL(m)であり、この長さは、想定する津波又は高波の波長に依存する。第1の部分21の頂部及び第2の部分22の頂部に相当する各ブロック20の先端部の角度θは5度である。ここで、W=W´=3Lの関係があるが、図4では、消波構造体10をクローズアップするために、長さW及びW´を実際よりも短く表現している。水路の長さはブロックの長さと同じなのでL(m)であり、水路の両端の幅(水路の最大幅)DはL/4(m)である。
各ブロック20の境界Γobjを流速u=0の反射境界とし、X軸に沿った流入境界Γinにおいて、フルード数Frに対応する流速を与える。フルード数Frは、圧縮性流体の超音速流れに対応する1.2に設定し、射流になる流速を流入境界Γinにおいて与える。Y軸に沿ったモデルの境界Γsではスリップ境界条件を付与し、汀線に相当する境界Γoutでは無反射境界条件を付与する。
以上のような条件下で、津波が流入境界Γinから段波として岸に向かって押し寄せ消波構造体10(一対のブロック20の間)を通過する状況を算出した。その結果、図5,6に示されるように、波が消波構造体10を通過した直後の水位(波高)が大幅に減少することがわかった。具体的には、波の高さが2〜3mから1.1m程度にまで下がった。このことから、本実施形態における消波構造体10の有効性を確認できる。なお、図6では消波構造体10の表示が省略されている。
数値実験から、水路の両端の幅DはL/4(m)に限定されずL/2(m)以下であってもよいことがわかった。また、ブロック20の先端部の角度θが10度以下の場合に、波の干渉によって波を効果的に弱めることができ、その角度θが5〜6度の範囲にある場合により効果的に波を弱めることができた。ブロック20の底面が菱形である場合には、第1の部分21の頂部及び第2の部分22の頂部の角度θを20度以下に設定するか、あるいは10〜12度の範囲に設定すればよい。
角度θが大きい場合には、ブロック20の沖側の面で反射した波が、ブロック20の中央の頂点(水路の中央)よりも沖側の位置で再度反射してしまうため、ブロック20の中央付近で波同士を干渉させることができず、結果的にブロック20の岸側の先端部付近で波を効率的に相殺できなくなる。また、ブロック20にかかる波による水圧が大きくなるという問題がある。一方、角度θが小さすぎる場合には、波の反射量が少なくなるため干渉し合う波の量も少なくなり、その結果、波を効果的に相殺することができない。したがって、波の干渉による相殺効果に着目した場合には、上記のように角度θを設定すると波を効果的に弱めることができる。
なお、上記の数値実験における値θ,L,Dは、下記の式(1)と関係する可能性がある。
式(1)は、水面をXY平面とし深さ方向をZ軸とするXYZ座標系の空間領域Ωにおいて、Z軸方向の水深ηと、XY平面における水深平均流速u=(u,v)とが未知である浅水長波方程式である。ここで、g=9.81m/s2は重力加速度であり、ξは海底起伏(Z=ξにおいて∂ξ/∂t=0)であり、T>0は時間である。上記式(1)における第1式は運動方程式であり、第2式は連続式である。Z=0の位置から水面までの高さ(全水位)Hは、H=η+ξで表される。なお、問題を簡潔にするために、上記式(1)を考察する際には海底摩擦、乱流粘性、及びコリオリ力を無視する。
フルード数Frは、下記式で示される速度U及び波速cを用いて、Fr=U/cと定義される。
浅水長波流れにおけるフルード数Frが、圧縮性流体流れの音速に対して定義されるマッハ数Mに対応することから、これら二つの流れ問題には類似性がある。すなわち、圧縮性流体においてマッハ数が1.2≒1.25<M<5であるときの流れは超音速流と呼ばれるが、このときには、すべての流れ場で流速が音速を超え、衝撃波が流れ場全域に発生する。一方、津波の波圧が最大となるフルード数Frは1.5程度(この状態を射流という)になる。したがって、超音速流れと、浅水長波流れによって表される津波との間には、共通した流れの構造があることが推察される。
図7は、図4の数値実験のモデルのうち、各ブロック20によって形成される水路部分を拡大した図である。図7に示されるように、対を成す二つのブロック20(第1のブロック20a及び第2のブロック20b)の第1の部分21の壁面231は漏斗形状を呈しており、狭窄部25を成している。このため、第1のブロック20aの第1の部分21及び第2のブロック20bの第1の部分21の間に形成される水路Cは、沖から岸に向かうにつれて狭くなっている。
流体力学によれば、この水路Cに孤立波を沖から岸に向けて流した場合、水路Cを流れる水の流量は保存される。このため、狭窄部25において流速が増加し、狭窄部25を通過した水の流量は、水路Cに流入した水の流量から変化しない、すなわち反射して水路Cを逆流する波は発生しないと考えられる。なお、半無限長の波長を有するステップ性の波(段波)は、非常に長い波長を有するインパルス性の波(孤立波)とみなすことができるので、以下の説明では孤立波を用いる。
ここで、発明者らは、孤立波の流れのシミュレーション及び水槽実験を行った。このシミュレーション及び水槽実験は、断面水槽側面には流速のスリップ境界条件、水槽上流側には流入境界条件、水槽下流側には自由流出境界条件を与えることにより行った。また、水槽実験では造波装置を用い、造波装置により所望の孤立波を生成した。シミュレーションでは、造波装置によって生成された孤立波が有する波高及び流速分布を、初期の波高及び流速分布として用いた。なお、孤立波の波高は1cm、水槽の全長は18.5m、水槽の幅Dは30cm、水深は20cmである。また、対を成す二つのブロック20は水槽の長さ方向の中心に位置し、ブロック20の長さLは20cm、ブロック20の狭窄部25における長さdは10cm、ブロック20の先端部の角度θは45度である。
図8は、水路Cに流入する孤立波の流れのシミュレーション結果を三次元的に示す図である。図9の(a)は水路Cに流入する孤立波の流れのシミュレーション結果を二次元的に示す図、(b)は水路Cに流入する孤立波の流れの水槽実験結果を二次元的に示す図である。なお、図9において、横軸tは初期条件を基準(t=0秒)とした経過時間を示し、縦軸ηは水位を示している。また、x軸は、対を成す二つのブロック20の中心線に沿って延び、水槽の上流側壁面(造波装置面)がx=0であり、下流側が正である。すなわち、図9は、水槽の上流側壁面からx=3.0m、x=6.0m、x=13.0mの位置での時間波形を示している。
図8及び図9に示されるように、水路Cに孤立波(入射波)が流入すると、狭窄部25を通過した透過波においては、波高が減衰し、波のエネルギーも減衰することが判明した。さらに、水路Cに流入した孤立波の一部は、反射されて沖側に遡っていくことが判明した。この反射波は、負(negative)の波高を有し、入射波に対して逆位相となる。
次に、図10及び図11を用いて、発明者らが発見したこの現象を理論的に説明する。図10は、波の入射方向に対して垂直な面を有する壁による反射のシミュレーション結果を三次元的に示す図である。図11は、波の入射方向に対して水路幅を狭窄した形状を有する壁による反射のシミュレーション結果を三次元的に示す図である。なお、ここでは、波の表面張力、乱流粘性及び摩擦は無視できるものと仮定する。この仮定は、ブシネスク(Boussinesq)方程式の第一次近似解においても成立する。
図10の(a)に示されるように、一定の水深を有する水路において、正の波高を有する孤立波が入射波として入射する。そして、図10の(b),(c)に示されるように、波の入射方向に対して垂直な壁面を有する垂直壁に入射波が衝突すると、入射波が壁面上を垂直に駆け上がる。このとき、線形理論によれば、壁面上では入射波の波高の2倍の波高を有する孤立波となる。そして、図10の(d)に示されるように、波の入射方向と逆方向に進行する反射波が生じる。流体の連続式によれば、波のエネルギーフラックスは保存されるので、反射波は、入射波と同じ性質と正の波高とを有する孤立波である。
一方、図11の(a)に示されるように、波の入射方向に対して水路幅を急激に狭窄した形状を有する壁に孤立波が入射波として入射する。この壁は、波の進行方向に対して例えば30度程度の角度で傾斜する2つの壁面を有している。この2つの壁面は、波の入射方向に凸のV字の断面形状を成している。そして、図11の(b)に示されるように、入射波は壁面に衝突する。このとき、壁面に衝突した入射波は、エネルギーフラックスの集中によって加速度が増大するので、壁面上における入射波の波高は、図10の(c)に示された垂直壁の壁面上の波高よりも過度(excessive)に上昇する。
図11の(c),(d)に示されるように、砕波が発生しなければ、波のエネルギーフラックスは完全に保存されるので、結果的に生じる反射波の一部は、平均水面位置よりも低い負(negative)の波高を有する逆位相の孤立波となる。なお、この負の波高を含む反射波は、2つの壁面が成す角度が一定の角度(例えば60度程度)以下の鋭角であれば、孤立波の非線形性及び分散性とは関係なく生じる。しかしながら、2つの壁面が成す角度は上記角度以下である必要はなく、2つの壁面が沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなっていればよい。
このように、流体の運動エネルギー及び位置エネルギーを含む全エネルギーは保存される。消波構造体10の狭窄部25において、水路Cに流入した入射波のエネルギーフラックスが集中し、波高が過度に上昇すると、位置エネルギーが過度に大きくなる。この位置エネルギーの増大に対し、負の運動エネルギー及び位置エネルギーを生じることにより、全エネルギーが保存される。そして、負の運動エネルギー及び位置エネルギーが、負の波高を有する逆位相の反射波となる。また、反射波が生じたことによって、透過波の波高は減衰する。なお、孤立波の数値シミュレーション結果と水槽実験の結果とは極めてよく一致していることから、本論が実証的に成立しているといえる。
図12は、消波構造体10の開口比に対する透過波(減衰波)のエネルギーフラックスの線形減衰を示す図である。ここで、開口比とは、水路Cの最小幅D−2dと水路Cの最大幅Dとの比(水路Cの最大幅Dに対する水路Cの最小幅D−2dの割合)を意味する。すなわち、第1のブロック20aの第1の部分21の壁面231と第2のブロック20bの第1の部分21の壁面231との最大距離が水路Cの最大幅Dに相当し、第1のブロック20aの第1の部分21の壁面231と第2のブロック20bの第1の部分21の壁面231との最小距離が水路Cの最小幅D−2dに相当する。グラフG0〜グラフG7はそれぞれ、消波構造体10の開口比が1/1、1/1.5、1/2、1/3、1/4、1/5、1/6及び1/7の場合の透過波のエネルギーフラックスを示す図である。
図12に示されるように、消波構造体10の開口比が1/1の場合、透過(減衰)率κは1である。消波構造体10の開口比が1/1.5の場合、透過率κは0.9程度である。消波構造体10の開口比が1/2の場合、透過率κは0.75程度である。消波構造体10の開口比が1/3の場合、透過率κは0.7程度である。消波構造体10の開口比が1/4の場合、透過率κは0.65程度である。消波構造体10の開口比が1/5の場合、透過率κは0.63程度である。消波構造体10の開口比が1/6の場合、透過率κは0.6程度である。消波構造体10の開口比が1/7の場合、透過率κは0.5程度である。なお、沖側への反射率は、1−κで表される。
このように、消波構造体10の開口比に対する透過波のエネルギーフラックスは、線形減衰関係にあることが分かる。すなわち、エネルギーフラックスは透過波の波高の2乗に相当するので、開口比の平方根に比例して透過波は減衰する。さらに、対を成す二つのブロック20の間隔を無限小に狭めることにより、理論上は波を透過させながら波を完全に反射させることができる。
以上のように、消波構造体10では、互いに隣り合うブロック20の壁面231は、沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなっている。このため、負の波高を有する反射波を生じさせるとともに、透過波の波高を小さくすることができる。その結果、波を堰き止めることなく、特有の反射現象によって透過波を減衰させることが可能となる。
本実施形態では、上記のような消波効果に加えて、水(例えば海水)をよりスムーズに循環させることができるという効果も得られる。消波構造体10を用いた場合には、沖側の水と岸側の水は二つのブロック20の間の水路を通ることができ、且つ、各ブロック20は汀線Sに沿って延びる面(波に抗する面)を持たない。したがって、堤防の面で波を受ける従来型の防波堤を用いる場合よりも、沖側と岸側との間で水をスムーズに循環させることができる。
上述の効果は、消波構造体10のサイズに依存せず有効である。また、図1及び図2に示されるように、各ブロック20は、海底に固定されている。このため、津波及び高波に応じた適切な配置と、コストも考慮した構造物としての耐久性と、を満たせば、あらゆる海岸、港湾及び重要拠点などを津波から守ることができる。
図13は、消波構造体10の別の例を示す平面図である。図13の(a)に示されるように、各ブロック20は、沖に向かって凸のV字状の底面(頂面)を有する柱状部材であってもよい。この例では、各ブロック20は、沖に対向する壁面231を有する。この壁面231は沖から岸に向かう方向に対して傾斜している。互いに隣り合うブロック20の壁面231は、沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなっており、狭窄部25を成している。
図13の(b)に示されるように、各ブロック20は、略六角形の底面(頂面)を有する六角柱であってもよい。この例では、各ブロック20は、沖に対向する隣り合う2つの壁面231と、岸に対向する隣り合う2つの壁面232と、沖から岸に向かう方向に沿って設けられた2つの壁面233と、を有する。壁面231は沖から岸に向かう方向に対して傾斜しており、2つの壁面231は鋭角を成して接続されている。壁面232は沖から岸に向かう方向に対して傾斜しており、2つの壁面232は鋭角を成して接続されている。壁面233は壁面231と壁面232との間に設けられており、2つの壁面233は互いに対向している。
したがって、各ブロック20は、沖に向かって先細るように形成された三角柱(第1の部分21)と、岸に向かって先細るように形成された三角柱(第2の部分22)と、第1の部分21と第2の部分22との間に設けられた四角柱とが一体化されたものといえる。互いに隣り合うブロック20の壁面231は、沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなっており、狭窄部25を成している。
図13の(c)に示されるように、各ブロック20は、沖から岸に向かう方向と交差する方向に凸の曲線と、同方向と反対の方向に凸の曲線とによって囲まれる底面(頂面)を有する柱状部材であってもよい。この例では、各ブロック20は、隣り合うブロック20に向かって湾曲している壁面23と、隣り合う他のブロック20に向かって湾曲している壁面23と、を有する。この壁面23は流線形であって、沖側の壁面231と岸側の壁面232とが滑らかに接続されてなる。
隣り合うブロック20に向かって湾曲している壁面23の壁面231と、隣り合う他のブロック20に向かって湾曲している壁面23の壁面231とは、沖に向かって鋭角を成して接続されている。また、隣り合うブロック20に向かって湾曲している壁面23の壁面232と、隣り合う他のブロック20に向かって湾曲している壁面23の壁面232とは、岸に向かって鋭角を成して接続されている。互いに隣り合うブロック20の壁面231は、沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなっており、狭窄部25を成している。
以上の図13の消波構造体10によっても、上述した第1実施形態の消波構造体10と同様の効果が奏される。このように、上述の反射現象に着目した場合には、複数のブロック20の壁面231は、互いに隣り合うブロック20の壁面231は、沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなるように構成されていればよく、ブロック20の他の部分の形状は限定されない。また、ブロック20の壁面231は、流線形であってもよい。この場合、波によってブロック20にかかる抗力(圧力)を低減できる。
[第2実施形態]
図14は、第2実施形態に係る消波構造体の一例を示す平面図である。図14に示されるように、消波構造体10Aは、汀線Sに沿って複数列に並ぶように配置された複数のブロック20を備えている点において、上述した第1実施形態の消波構造体10と相違している。
図14は、第2実施形態に係る消波構造体の一例を示す平面図である。図14に示されるように、消波構造体10Aは、汀線Sに沿って複数列に並ぶように配置された複数のブロック20を備えている点において、上述した第1実施形態の消波構造体10と相違している。
すなわち、図14の例では、複数のブロック20は、汀線Sに沿って第1の列を成すブロック20の第1グループG1と、汀線Sに沿って第2の列を成すブロック20の第2グループG2と、汀線Sに沿って第3の列を成すブロック20の第3グループG3と、に分類される。第1グループG1、第2グループG2及び第3グループG3は、その順に沖側から配列されている。なお、3列に限定されず、2列でもよく、4列以上であってもよい。また、図14の例では、互いに隣り合う2つのグループのうち一方のグループに属する1つのブロック20と、他方のグループに属する1つのブロック20とが、沖から岸に向かう方向に沿って所定の間隔で配列されている。
各グループに属する複数のブロック20は一定の間隔を置いて配置されるので、グループ内において互いに隣り合う2つのブロック20の間には、沖側と岸側とを結ぶ水路Cが形成される。さらに、互いに隣り合う2つのグループに属するブロック20は、沖から岸に向かう方向に沿って一定の間隔を置いて配置されるので、互いに隣り合う2つのグループにおいて形成された水路Cは、沖から岸に向かう方向に沿って連なっている。
次に、図15及び図16を用いて、消波構造体10Aの消波効果を説明する。図15は、水槽実験に用いた消波構造体10Aを示す平面図である。図16は、汀線Sに沿った方向から図15の消波構造体10Aを見た図であって、水槽実験における水位の変化を時系列的に示す模式図である。図15及び図16では、右側が沖である。図15に示されるように、水槽実験に用いた消波構造体10Aは、複数のブロック20と、複数のブロック30と、を備えている。ブロック20は、沖から岸に向かう方向に沿った長さLの底辺を含む三角形の底面を有する。ブロック30は、沖から岸に向かう方向に沿った長さL/2の一対の辺を含む四角形の底面を有する。この消波構造体10Aでは、沖から岸に向けて、一対のブロック20、一対のブロック20、一対のブロック30及び一対のブロック30が、その順にL/2の間隔で配置されている。
まず、図16の(a)に示されるように、この消波構造体10Aに孤立波が入射する。そして、図16の(b)に示されるように、孤立波が第1グループG1のブロック20を通過することにより、第1グループG1のブロック20の後方に透過波が生じ、第1グループG1のブロック20の前方に反射波が生じていることが分かる。この透過波の波高は入射波の波高よりも小さく、孤立波は減衰していることが分かる。
次に、図16の(c)に示されるように、第1グループG1のブロック20を通過した透過波が第2グループG2のブロック20を通過することにより、第2グループG2のブロック20の後方に透過波が生じ、第2グループG2のブロック20の前方に反射波が生じていることが分かる。この透過波の波高は第1グループG1のブロック20を通過した透過波の波高よりも小さく、孤立波はさらに減衰していることが分かる。
次に、図16の(d)に示されるように、第2グループG2のブロック20を通過した透過波が第3グループG3のブロック30を通過することにより、第3グループG3のブロック30の後方に透過波が生じ、第3グループG3のブロック30の前方に反射波が生じていることが分かる。この透過波の波高は第2グループG2のブロック20を通過した透過波の波高よりも小さく、孤立波はさらに減衰していることが分かる。
次に、図16の(e)に示されるように、第3グループG3のブロック30を通過した透過波が第4グループG4のブロック30を通過することにより、第4グループG4のブロック30の後方に透過波が生じ、第4グループG4のブロック30の前方に大きな反射波が生じていることが分かる。この透過波の波高は第3グループG3のブロック30を通過した透過波の波高よりも小さく、消波構造体10Aに入射した孤立波の波高の10%程度にまで大きく減衰していることが分かる。そして、図16の(f)に示されるように、孤立波が消波構造体10Aを通過した後であっても、岸側の水面の変化は小さいことが分かる。このように、消波構造体10Aを通過した透過波は、大きく消波される。
以上の消波構造体10Aによっても、上述した第1実施形態の消波構造体10と同様の効果が奏される。さらに、消波構造体10Aでは、汀線Sに沿った複数列(n列)にそれぞれ配置された一対のブロック20を有する。この消波構造体10Aの透過(消波)率κは、第1グループG1のブロック20による透過率κ1、第2グループG2のブロック20による透過率κ2、・・・、第nグループGnのブロック20による透過率κnの積で表される。
κ=κ1×κ2×…×κn…(2)
κ=κ1×κ2×…×κn…(2)
例えば、一対のブロック20の透過率が0.6で、この一対のブロック20を4列配置した場合、消波構造体10Aの透過率κは、0.13(=0.64)となる。このため、消波構造体10Aによって、入射波の波高は10%程度に減衰される。
図17は、消波構造体10Aの別の例を示す平面図である。図17に示されるように、隣り合うグループに属するブロック20は、千鳥状に配置されてもよい。すなわち、互いに隣り合う2つのグループの一方に属する一対のブロック20の間に、互いに隣り合う2つのグループの他方に属するブロック20が位置するように配置されてもよい。
以上の図17の消波構造体10Aによっても、上述した第2実施形態の消波構造体10Aと同様の効果が奏される。さらに、図17の消波構造体10Aでは、ブロック20が千鳥状に配置されているので、第2実施形態の消波構造体10Aよりも、互いに隣り合う列に配置されたブロック20とブロック20との間隔が大きい。このため、波を多方向から入射することができ、津波後の湾内に残存する反射波のように、多方向に進む波に対しても消波効果を得ることができる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、複数のブロック20は同一形状を有するが、これに限定されない。互いに隣り合うブロック20の壁面231が、沖から岸に向かうにつれて互いの距離が狭くなるように構成されていればよく、各ブロック20が異なる形状を有していてもよい。
10,10A…消波構造体、20…ブロック、20a…第1のブロック、20b…第2のブロック、21…第1の部分、22…第2の部分、23,231…壁面。
Claims (9)
- 汀線に沿って並ぶように配置された複数の柱状のブロックを備え、
前記複数のブロックのうちの隣り合う第1のブロック及び第2のブロックは、沖側と岸側とを結ぶ水路を形成しており、
該水路を形成する該第1のブロックの壁面と該第2のブロックの壁面との距離が、沖側から岸側に向かうにつれ次第に小さくなっている、
消波構造体。 - 前記第1のブロックの前記壁面及び前記第2のブロックの前記壁面が流線形である、
請求項1に記載の消波構造体。 - 各ブロックが、沖に向かって先細る第1の部分と、岸に向かって先細る第2の部分と、を有する、
請求項1又は請求項2に記載の消波構造体。 - 前記第1のブロックの前記壁面と前記第2のブロックの前記壁面との成す角が鋭角である、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の消波構造体。 - 前記水路の端部における幅が前記水路の長さの1/2以下である、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の消波構造体。 - 前記ブロックの底面が略二等辺三角形である、
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の消波構造体。 - 前記ブロックの底面が略菱形である、
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の消波構造体。 - 前記複数のブロックは、汀線に沿って複数列に配置されている、
請求項1に記載の消波構造体。 - 前記第1のブロック及び前記第2のブロックが配置された第1の列と隣り合う第2の列には、第3のブロックが配置されており、
前記第3のブロックは、前記第1のブロックと前記第2のブロックとの間に位置する、
請求項8に記載の消波構造体。
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