JP3701422B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電動パワーステアリング装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ステアリングハンドルの操舵力を軽減して快適な操舵感を与えるために、電動パワーステアリング装置が多用されてきた。この種の電動パワーステアリング装置は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを機械式クラッチを介してステアリング系に伝達するものであって、例えば特開昭64−69829号「クラッチ装置」の技術がある。
この技術は、その公報の第1図〜第3図によれば、モータ15(番号は公報に記載されたものを引用した。以下同じ。)に連結した円筒状の外部部材21と、操舵輪に連結した内方部材22付き軸部32とを、クラッチ装置20を介して連結したものである。
【0003】
クラッチ装置20は、同一円上に配置された複数組の摩擦係合式クラッチ機構からなり、これらのクラッチ機構は、外部部材21の内面と内方部材22の外面との間で形成した1対の楔状空間28,28’(テーパ状空間部に相当)と、楔状空間28,28’に介在した1対の転動体24,24’と、転動体24,24’間に介在したばね25と、転動体24,24’の位置決めをなす保持器23とからなる。
転動体24,24’は、保持器23の移動にともなって外部部材21と内方部材22を係合・非係合に選択的に切換える(クラッチを係合・解除する)ものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、ハンドル11の反転操舵を始めた時点(例えば、右操舵状態から左操舵状態へ変え始めた時点)では、操舵トルクが微小なのでモータ15が停止しており、補助トルクはクラッチ装置20に伝達されない。このため、クラッチ装置20を解除するには、転動体24又は24’を係合するための摩擦力よりも大きい解除力を加える必要がある。しかし、運転者が快適な操舵感を得るためには、解除力はできるだけ小さいことが好ましい。
一方、電動パワーステアリング装置のクラッチ装置20は、何等かの理由でモータ15による補助トルクが伝達されている場合であっても、確実に解除できることが求められる。このときには、通常よりも大きな解除力が必要となり運転者の負担が大きくなるという不都合がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、次の(1)及び(2)にある。
(1)解除力の小さい摩擦係合式クラッチ機構を備えた、電動パワーステアリング装置を提供すること。
(2)一層確実に解除できる摩擦係合式クラッチ機構を備えた、電動パワーステアリング装置を提供すること。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを摩擦係合式クラッチ機構を介してステアリング系に伝達するものであって、摩擦係合式クラッチ機構を、電動機に連結した入力部材と、この入力部材に対して同軸上に配列しステアリング系の出力軸に連結した出力部材と、入力部材と出力部材の一方の内周面と他方の外周面との間に形成したテーパ状空間部と、このテーパ状空間部に介在させた係合部材と、この係合部材をテーパ状空間部のテーパ方向に付勢する付勢部材と、係合部材の位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した位置制御部材とで構成し、位置制御部材の回動に伴って、テーパ状空間部の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する係合部材で、入力・出力部材を係合・非係合状態に切換えて、電動機からの補助トルクを出力軸に伝達する電動パワーステアリング装置において、入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けるとともに、この相対移動に伴って、テーパ状空間部における係合部材の位置が変わっても、係合部材の当接部におけるくさび角がほぼ一定となるように、摩擦係合面にテーパ角補正部を形成したことを特徴とする。
【0007】
入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けたので、テーパ状空間部の摩擦係合面に係合している複数の係合部材の一部が外れると、係合部材で入力・出力部材を押圧する力のバランスが崩れる。このため、入力部材又は出力部材は他の係合部材で一方に押圧されて、径方向に移動する。この結果、入力・出力部材と他の係合部材との摩擦力は減少して、係合が外れる。このように、一部のクラッチ機構が解除すると、他のクラッチ機構も摩擦力が減少して自動的に解除する。従って、一度に全てのクラッチ機構を解除するよりも小さな解除力で、しかも、確実に解除することができる。
【0008】
また、入力部材に対して出力部材が相対的に径方向に移動した場合に、テーパ角補正部は、摩擦係合面と係合部材との間のくさび角がほぼ一定となるように補正する。この結果、入力・出力部材の相対移動に伴って、テーパ状空間部における係合部材の位置が変わっても、くさび角はほぼ一定であり、くさび作用も変わらない。このため、テーパ状空間部から係合部材を解除するための解除力は増すことがなく、常に適正な解除力を維持できる。
【0009】
さらに、何等かの理由で、入力部材に対し出力部材が相対的に偏心し、この偏心に伴ってテーパ状空間部における係合部材の位置が変わっても、テーパ角補正部は、摩擦係合面と係合部材との間のくさび角がほぼ一定となるように補正する作用をなす。このため、テーパ状空間部から係合部材を解除するための解除力は増すことがなく、常に適正な解除力を維持できる。
【0010】
請求項2記載の発明は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを摩擦係合式クラッチ機構を介してステアリング系に伝達するものであって、摩擦係合式クラッチ機構を、電動機に連結した入力部材と、この入力部材に対して同軸上に配列しステアリング系の出力軸に連結した出力部材と、入力部材と出力部材の一方の内周面と他方の外周面との間に形成したテーパ状空間部と、このテーパ状空間部に介在させた係合部材と、この係合部材を前記テーパ状空間部のテーパ方向に付勢する付勢部材と、係合部材の位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した位置制御部材とで構成し、位置制御部材の回動に伴って、テーパ状空間部の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する前記係合部材で、入力・出力部材を係合・非係合状態に切換えて、電動機からの補助トルクを出力軸に伝達する電動パワーステアリング装置において、入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けるとともに、テーパ状空間部の一部を拡げて、非係合時に係合部材を摩擦係合面から分離できるようにしたことを特徴とする。
【0011】
入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けたので、テーパ状空間部の摩擦係合面に係合している複数の係合部材の一部が外れると、係合部材で入力・出力部材を押圧する力のバランスが崩れる。このため、入力部材又は出力部材は他の係合部材で一方に押圧されて、径方向に移動する。この結果、入力・出力部材と他の係合部材との摩擦力は減少して、係合が外れる。このように、一部のクラッチ機構が解除すると、他のクラッチ機構も摩擦力が減少して自動的に解除する。従って、一度に全てのクラッチ機構を解除するよりも小さな解除力で、しかも、確実に解除することができる。
【0012】
また、テーパ状空間部の一部を拡げたので、この拡げた部分と非係合時の係合部材との間の隙間は大きい。このため、非係合時の係合部材を摩擦係合面から確実に分離することができるので、入力部材と出力部材との相対的な径方向移動量を大きくすることができ、この結果、クラッチ機構を確実に解除することができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記摩擦係合式クラッチ機構を複数組設け、これら複数組の摩擦係合式クラッチ機構の内の少なくとも1組を、他のクラッチ機構よりも早いタイミングで非係合状態になる早期解除クラッチとし、この早期解除クラッチのテーパ状空間部を拡げたことを特徴とする。
【0014】
複数組の摩擦係合式クラッチ機構の内、早いタイミングで非係合状態になる早期解除クラッチを設けたので、常に最初に解除になるクラッチが決まる。そして、早期解除クラッチの係合部材は摩擦係合面から外れた直後に、テーパ状空間部の拡げた部分に速やかに待避する。この結果、早期解除クラッチの係合部材は、常に他に優先して非係合になり、この時に摩擦係合面から速やかに且つ確実に分離する。このように、早期に解除になるクラッチを特定し、しかも、このクラッチの係合部材を摩擦係合面から速やかに分離するようにしたので、複数組の摩擦係合式クラッチ機構が、より一層速やかに且つ確実に解除することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図であり、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングハンドル2で発生したステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段3と、この操舵トルク検出手段3の検出信号に基づいて制御信号を発生する制御手段4と、この制御手段4の制御信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを発生する電動機5と、この電動機5の補助トルクをステアリング系に伝達するトルク伝達手段6及び機械式クラッチ40とからなり、ピニオン7、ラック8aを介して車輪(操舵輪)9,9を転舵するものである。
【0016】
図2は本発明に係る電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図であり、上記ステアリングハンドル2(図1参照)に連結した管状の入力軸11と、この入力軸11内に挿通し且つ入力軸11に上部をピン12で結合したトーションバー(弾性部材)13と、このトーションバー13の下部にピン14で結合し下部に上記ピニオン7を刻設した出力軸15とで、主たるステアリング系を構成したものである。
トーションバー13は、文字通りトルクに対して正確にねじれ角が発生するメンバーであって、入力軸11と出力軸15との間での相対ねじり変位を発生する。なお、ラック8aは、この図の表裏方向に延びたラック軸8に刻設したものである。また、入力軸11とトーションバー13と出力軸15とは同軸上にある。
【0017】
操舵トルク検出手段3は、入・出力軸11,15間の相対ねじれ角を検出することによりステアリング系の操舵トルクを検出するものであり、本実施の形態では、ポテンショメータを用いた。操舵トルク検出手段(ポテンショメータ)3は、図示せぬ抵抗素子及び抵抗素子に沿って移動する摺動接点を内蔵した検出本体部21と、この検出本体部21内の摺動接点を作動するべく回動する棒状の作動子22とからなる。
そして、操舵トルク検出手段3は、入力軸11の下部の外周面に検出本体部21をボルトで取付け、出力軸15の上部の外周面に設けた係合溝15aに作動子22の先端部を係合することで、入・出力軸11,15間の相対ねじれ角を検出するものである。
【0018】
なお、操舵トルク検出手段3は、作動子22を係合溝15aの一方の側壁側に付勢するための、ねじりばね23を備える。このため、作動子22は回動方向への遊びがない。
入力軸11はケーブルリール24に複数巻回した(例えば、3巻き程度)電気ケーブル25を備え、この電気ケーブル25の一端を操舵トルク検出手段3の検出本体部21に接続し、他端をハウジング26側のコネクタ27に接続したものである。
【0019】
後述するトルク伝達手段6のホイール32は、ブッシュ33を介して出力軸15の上部に回転自在に支承した厚肉の円筒部材であり、この円筒部材に、ギヤ部32aと入力部材32bとを軸方向に下から順に形成したものである。
機械式クラッチ40は、入力部材32bの内部に配置したものであり、その断面構成は図5にて詳述する。
図中、36,37,38は軸受、39はダストカバーである。
【0020】
図3は図2の3−3線断面図であり、トルク伝達手段6の断面構造を示す。
トルク伝達手段6は、電動機5の出力軸5aに結合したウォーム31と、出力軸15に回転自在に支承したホイール32とからなるウォームギヤ機構である。これにより、図2に示す入力部材32bは電動機5に連結した状態にある。なお、電動機5はハウジング26にボルト止めした。
従って、図2においてステアリング系(入力軸11→トーションバー13→出力軸15)の操舵トルクに、電動機5からの補助トルクを付加した複合トルクで、ピニオン7を介してラック8aを駆動する。
【0021】
図4は本発明に係る電動パワーステアリング装置の要部分解斜視図である。
入力軸11の下端に、機械式クラッチ40の一構成部品である三脚付き環状の位置制御手段63をセレーション嵌合し、この位置制御手段63の下部に3つの位置制御部材64…(…は複数を示す。以下同じ。)を備える。このため、位置制御部材64…は図1に示すステアリングハンドル2に連結したことになる。
一方、出力軸15は基部上端に出力部材34を連結したものであり、この出力部材34は入力部材32bに対して同軸上に配列した部材である。
【0022】
図5は図2の5−5線断面図であり、本発明に係る機械式クラッチ40の断面構成を示す。なお、ハウジング26は省略した。
機械式クラッチ40は、上記電動機5の補助トルクの作用方向がステアリング系の操舵方向と一致した場合のみ、電動機5の補助トルクをステアリング系に伝達するものであり(ワンウエイクラッチの集合体)、すなわち、複数組の摩擦係合式クラッチ機構の集合体である。
これらの摩擦係合式クラッチ機構は、入力部材32bの矢印X方向(図反時計回り方向)に係合する3組の第1クラッチ機構41…と、矢印Xと逆廻り方向に係合する3組の第2クラッチ機構51…である。第1クラッチ機構41…と第2クラッチ機構51…とは、同一円上に交互に並ぶ。
【0023】
詳しくは、第1・第2クラッチ機構41…,51…は、上記入力・出力部材32b,34間に形成したテーパ状空間部61…と、これらのテーパ状空間部61…に介在して入力部材32bと出力部材34とを係合する円柱状の係合部材62…と、これらの係合部材62…の位置決めをなすための位置制御部材64…と、これらの位置制御部材64…に向って係合部材62…を付勢する(テーパ状空間部61…のテーパ方向に係合部材62…を付勢する)付勢部材としての圧縮ばね65…とからなる。
【0024】
出力部材34は、概ねおむすび形断面形状(角部を切り落とした正三角形断面の3つの辺を円弧状とした形状)を呈する。
テーパ状空間部61…は、入力部材32bの円形内周面と出力部材34の多角形外周面との間に形成した、周方向端部がテーパ形状を呈する空間部である。
位置制御部材64…は、互いに離間しつつ、入力部材32bと出力部材34との間の同一円上に等ピッチで、回動可能に配置された部材である。
このような構成の機械式クラッチ40は、位置制御部材64…の移動(回動)に伴って、テーパ状空間部61…の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する係合部材62…で、入力部材32bと出力部材34とを係合・非係合に選択的に切換えて、電動機5からの補助トルクを出力軸15に伝達するものである。
【0025】
ところで、第1・第2クラッチ機構41…,51…のうち、特定の各1組(以下、「特定第1・第2クラッチ機構41A,51A」と称する。)は、他の組よりも早いタイミングで非係合状態になる早期解除クラッチである。
具体的には、位置制御部材64…は、同一円上に等ピッチで配置するが、特定第1・第2クラッチ機構41A,51A側の爪が他のクラッチ機構41…,51…側の爪よりも長い(L1>L2)。
詳しくは、位置制御部材64…は、それらの各中心O1〜O3を断面略正三角形である出力部材34の各角部に合致させたものである。そして、2つの位置制御部材64…(特定位置制御部材64A,64A)は、中心O1,O2から互いに向い合った方の部分(「長爪」と称する。)の円弧長L1が他方の部分(「短爪」と称する。)の円弧長L2よりも大きい。長爪は特定第1・第2クラッチ機構41A,51Aの係合部材62…の位置決めをなす。他の1つの位置制御部材64は、中心O3から左右両方の円弧長が等しいL2,L2であり、上記短爪の円弧長と同一である。
【0026】
また、上記出力部材34は、入力部材32bに対し相対的に径方向に移動可能に取付けたものである。具体的には、出力部材34を出力軸15に径方向移動可能に取付けたものであり、さらに具体的には、出力部材34を、特定第1クラッチ機構41Aと特定第2クラッチ機構51Aとの中間位置(特定位置制御部材64A,64A間の中間位置)に向って移動可能とした。
【0027】
詳しくは、出力部材34に長円若しくは楕円の貫通孔34aを開け、この貫通孔34aに円形の出力軸15を嵌合し、且つ、貫通孔34aの長手軸上にピン14を通し、このピン14に弾性部材(圧縮ばね等)35を介設して、この弾性部材35で出力部材34の貫通孔34aを出力軸15に相対的に押圧する構成にした。
すなわち、出力軸15の外周面と貫通孔34aの長手軸方向の面との間に弾性部材35を介在し、この弾性部材35の弾性方向を出力部材34の移動方向(貫通孔34aの長手軸方向)に合致させ、出力部材34を出力軸15へ押圧する構成にした。
【0028】
さらに、1組のクラッチ機構(特定第1クラッチ機構41A及び特定第2クラッチ機構51A)のテーパ状空間部61…の一部を拡げて、非係合時に係合部材62…を摩擦係合面から分離できるようにした。
詳しくは、出力部材34の多角形外周面のうちの、係合面34bの一部に逃げ凹部34cを形成し、特定第1・特定第2クラッチ機構41A,51Aの係合部材62,62を摩擦係合面から分離できるようにした。
【0029】
さらにまた、1組のクラッチ機構(特定第1クラッチ機構41A又は特定第2クラッチ機構51A)のみ解除した際に、出力部材34を径方向移動自在となすべく、他のクラッチ機構41…,51…の係合部材62…と係合する出力部材34の多角形外周面を抜け勾配とした。このため、1組を解除した場合に、出力部材34は何等規制されることなく径方向に移動できる。このため、1組のクラッチ機構を解除するだけで、他のクラッチ機構をも確実に解除できる。
【0030】
図6は図5の6部詳細図であり、特定第1クラッチ機構41Aのテーパ状空間部61の摩擦係合面を拡大した図である。
なお、第1・第2クラッチ機構41…、51…におけるテーパ状空間部61…の摩擦係合面とは、「入力部材32bの内周面32c(以下、「入力側の摩擦係合面32c」と称する。)と、出力部材34の多角形外周面のうちの係合面34b(以下、「出力側の摩擦係合面34b」と称する。)」を指す。
【0031】
入力部材32bに対して出力部材34が同軸上にあるとき、係合部材62はテーパ状空間部61の摩擦係合面に、図の想像線で示す位置で係合する。このときの入力側の摩擦係合面32cと係合部材62との接点はP1であり、出力側の摩擦係合面34bと係合部材62との接点はP2である。
【0032】
上述のように、出力部材34は入力部材32bに対して相対的に径方向に移動可能であり、この相対移動に伴い、テーパ状空間部61における係合部材62の位置が変わる。これに対応するために、特定第1クラッチ機構41Aのテーパ状空間部61における摩擦係合面に、テーパ角補正部34dを形成したものであり、このテーパ角補正部34dは、係合部材62の位置が変わっても、係合部材62の当接部におけるくさび角θがほぼ一定となるように作用するものである。
【0033】
具体的には、出力側の平坦な摩擦係合面34bに、テーパ状空間部61のテーパが広がる方向(この図の右方向)に傾斜する斜面を形成し、好ましくはこの斜面は円弧面である。円弧面の基端は、上記接点P2からテーパ方向と逆方向に若干変位した位置である。また、円弧面は円弧中心位置及び係合部材62の半径が変わっても、係合部材62の当接部におけるくさび角θがほぼ一定となるようにに、適宜設定したものである。すなわち、上記円弧面をテーパ角補正部34dとした。
特定第2クラッチ機構51Aも同様に、摩擦係合面にテーパ角補正部34dを有する。
【0034】
次に、上記構成のテーパ角補正部の作用を、図7に基づき説明する。
図7(a)〜(c)は本発明に係るテーパ角補正部の作用図であり、特定第1クラッチ機構41A及びテーパ角補正部34dを模式的に示したものである。
(a)は比較例であり、入力部材32bに対して出力部材34が同軸上にあるとき、出力部材34の平坦な第1面(出力側の摩擦係合面34b)は太い実線で示す下位レベルにある。このときの入力側の摩擦係合面32cと係合部材62との接点はP1であり、第1面と係合部材62との接点はP2である。また、係合部材62の当接部におけるくさび角はθ1である。
【0035】
一方、入力部材32bに対して出力部材34が相対的に径方向に移動することにより、第1面は細い実線で示す上位レベルまで移動する。この結果、係合部材62がテーパ状空間部61のテーパ方向と逆方向(この図の右方向)に移動するので、接点P1の位置も同方向に移動する。このため、接点P1位置で入力側の摩擦係合面32cに接する接線の傾斜角は小さくなる。傾斜角が小さいので、係合部材62の当接部におけるくさび角θ2は小さい。従って、移動後のくさび角θ2は、出力部材34が径方向へ移動した距離に応じて、元の位置でのくさび角θ1より小さくなる。くさび角θ2が小さくなるとくさび作用が強まり、テーパ状空間部61から係合部材62を解除するための解除力は増す。
【0036】
(b)は本実施の形態の基本理論を示し、上記(a)を改良したものである。
移動後の第1面に対して、テーパ状空間部61のテーパが広がる方向(この図の右方向)の第2面を設け、この第2面を係合部材62に接するようにし、第2面と入力側の摩擦係合面32cとの間に係合した係合部材62のくさび角をθ3とし、このくさび角θ3をくさび角θ1と同一角度になるようにした。従って、第1面が移動したにもかかわらず、くさび角は変わらない。くさび角が変わらないのでくさび作用も変わらず、テーパ状空間部61から係合部材62を解除するための解除力は増すことがない。
【0037】
(c)は本実施の形態を示し、上記(b)を具体化したものである。
出力側の平坦な第1面の途中に、テーパ状空間部61のテーパが広がる方向に傾く円弧面を形成し、この円弧面を第2面とした。
入力部材32bに対して出力部材34が相対的に径方向(この図の上方)に移動した場合に、この相対移動に伴い、テーパ状空間部61における係合部材62の位置が変わる。第2面は、係合部材62の位置が変わっても、係合部材62の当接部におけるくさび角がほぼ一定となるような円弧面である。この円弧面の基端は、上記接点P2からテーパ方向と逆方向に若干変位した位置である。
【0038】
このように、入力部材32bに対して出力部材34が相対的に径方向に移動しても、くさび角が常にほぼ一定なので、くさび作用も変わらず、テーパ状空間部61から係合部材62を解除するための解除力は増すことがなく、常に適正な解除力を維持できる。
本実施の形態では、前記第2面をテーパ角補正部34dとしたものであり、このテーパ角補正部34dは、特定第1クラッチ機構41Aのクラッチ解除力を常に適正な解除力に維持することができる。
なお、特定第2クラッチ機構51Aも同様の作用をなす。
【0039】
次に、上記構成の機械式クラッチ40の作用を、図1、図8〜図11に基づき説明する。
図8〜図11は本発明に係る機械式クラッチの作用図である。
図1において、ステアリングハンドル2を操舵しない場合、操舵トルク検出手段3の信号が無いので、制御装置4はアシスト命令信号を出力しない。このため、電動機5は補助トルクを発生しない状態であり、図8に示すように各第1・第2クラッチ機構41…、51…は、全て解除状態(中立状態)にある。
【0040】
次に、ステアリングハンドル2の操舵トルクが小さく、電動機5が補助トルクを発生しない場合、入力軸11(図2参照)に連結した位置制御部材64…と出力部材34との間の位相は、ほとんど変化しない。この場合には、各位置制御部材64…が、例えば、この図の反時計回り方向に若干移動するものの、第1クラッチ機構41…は係合するには至らない。このため、出力部材34は、電動機5のフリクションやイナーシャの影響を受けず、図2に示すステアリング系(入力軸11→トーションバー13→出力軸15)の操舵トルクで回転し、出力軸15を駆動する。
【0041】
一方、ステアリングハンドル2の操舵トルクが大きく、電動機5が補助トルクを発生している場合、入力軸11に連結した位置制御部材64…(特定位置制御部材64Aを含む)と出力部材34との間の位相が大きく変化する。例えば図9に示すように、位置制御部材64…が矢印X方向に大きく移動すると、全ての第1クラッチ機構41…の係合部材62…は、付勢部材65…の付勢力で、テーパ状空間部61…の周方向端部に移動し、摩擦力にて入力・出力部材32b,34間を係合状態に切換える。その結果、全ての第1クラッチ機構41…は係合状態になる。
電動機5が回転することで、入力部材32bは矢印X方向に回転し、第1クラッチ機構41…を介して出力部材32bに補助トルクを伝達する。このため、出力部材34は、ステアリング系(入力軸11→トーションバー13→出力軸15)の操舵トルクに、電動機5が発生した補助トルクを付加した複合トルクで矢印X方向に回転し、出力軸15を駆動する。
【0042】
その後、何等かの理由で電動機5による補助トルクの伝達が継続している場合に、第1クラッチ機構41…は次のようにして解除される。
ステアリングハンドル2を逆方向に操舵すると、図10に示すように全ての位置制御部材64…は入力部材32bの回転方向と反対方向(矢印Y方向)に回る。そして、特定位置制御部材64Aは、他の位置制御部材64…よりも先に、右隣の係合部材62(便宜的に「係合部材62A」と称する。)に当接し、摩擦力及び付勢力に抗して押出す。
【0043】
このため、係合部材62Aは特定第1クラッチ機構41Aの係合を解除する。
この時点で、他の位置制御部材64…は係合部材62…と当接していない。従って、他の係合部材62…から出力部材34に継続して、図中の矢印Z1,Z2で示すベクトルが作用しており、これらのベクトルの合力に基づき、出力部材34に図中の矢印Z3で示す偏荷重が作用する。その結果、出力部材34は弾性部材35の弾発力に抗し、ピン14を案内として特定位置制御部材64A側に僅かに移動する。従って、他の係合部材62…の係合力が弱まる。
【0044】
その直後に、他の位置制御部材64…も係合部材62…と当接して、図11に示すように元の中立位置に戻す。その結果、他の第1クラッチ機構41…も解除される。出力部材34は弾性部材35の弾発力により、中立位置に自動復帰する。
この場合、係合部材62…には摩擦力が発生しないので、他の位置制御部材64…で押圧する解除力は、付勢部材65…の付勢力に抗するだけの小さいものですむ。
このように、入力部材32bの回転が持続しているにもかかわらず、3組の第1クラッチ機構41…の係合を解除するのに、最大1組分の小さい解除力ですみ、しかも、確実に解除できる。
【0045】
なお、第2クラッチ機構51…は、上記第1クラッチ機構41…と逆作動をするものであり、ステアリングハンドル2を逆方向に操舵した場合に、上記図8〜図11にて説明した作用と同様の操作で、係合・非係合に切換えることができる。
【0046】
ところで、図10に示すように、出力部材34の外周面と係合部材62Aとの間の隙間は、凹部34cの深さ分だけ大きくなる。このため、係合部材62Aを摩擦係合面から確実に分離することができるので、その分だけ出力部材34の径方向移動量を大きくすることができる。従って、第1・第2クラッチ機構41…,51…を、より一層速やかに且つ確実に解除することができる。
【0047】
次に、本発明の他の実施の形態を、図12〜図17に基づき説明する。なお、上記実施の形態と同じ構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
図12は本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の断面図であり、上記図5に示す機械式クラッチ40の変形例を示す。
出力部材34は、概ねおむすび形断面形状(角部を切り落とした正三角形断面の3つの辺を円弧状とした形状)を呈する。
【0048】
特定第1・第2クラッチ機構41A,51Aの係合部材62…の位置決めをなす位置制御部材64(以下、「特定位置制御部材64A」と称する。)の円弧長L3が、他の位置制御部材64…の円弧長L4よりも大きい。そして、断面略正三角形である出力部材34において、1つの角部に特定位置制御部材64Aを配置し、互いに等角度の2つの角部に他の位置制御部材64…を配置したものである。
なお、出力部材34を特定位置制御部材64Aの幅中心へ相対的に押圧する。
【0049】
さらに、1組のクラッチ機構(特定第1クラッチ機構41A及び特定第2クラッチ機構51A)のテーパ状空間部61…の一部を拡げて、非係合時に係合部材62…を摩擦係合面から分離できるようにした。
詳しくは、出力部材34の多角形外周面のうちの、係合面34bの一部に逃げ凹部34c,34cを形成し、特定第1・特定第2クラッチ機構41A,51Aの係合部材62,62を摩擦係合面から分離できるようにした。
【0050】
図13は図12の13部詳細図であり、特定第1クラッチ機構41Aのテーパ状空間部61の摩擦係合面を拡大した図である。
他の実施の形態における、特定第1クラッチ機構41Aのテーパ状空間部61の摩擦係合面は、上記図6に示す実施の形態と同様の構成であり、出力側の平坦な摩擦係合面34bに、テーパ状空間部61のテーパが広がる方向に傾斜する斜面を形成し、好ましくはこの斜面は円弧面である。円弧面は円弧中心位置及び係合部材62の半径が変わっても、係合部材62の当接部におけるくさび角θがほぼ一定となるようにに、適宜設定したものである。すなわち、上記円弧面をテーパ角補正部34dとした。テーパ角補正部34dの作用は、上記図7に示す実施の形態の作用と同様であり、説明を省略する。
特定第2クラッチ機構51Aも同様に、摩擦係合面にテーパ角補正部34dを有する。
【0051】
次に、上記他の実施の形態の機械式クラッチ40の作用を、図1、図14〜図17に基づき説明する。
図14〜図17は本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の作用図である。
ステアリングハンドル2を操舵しない場合、図14に示すように各第1・第2クラッチ機構41…、51…は、全て解除状態(中立状態)にある。
【0052】
次に、ステアリングハンドル2の操舵トルクが小さく、電動機5が補助トルクを発生しない場合、位置制御部材64…と出力部材34との間の位相がほとんど変化しないので、第1クラッチ機構41…が係合するには至らない。このため、出力部材34は、電動機5のフリクションやイナーシャの影響を受けず、図2に示すステアリング系の操舵トルクで回転し、出力軸15を駆動する。
【0053】
一方、ステアリングハンドル2の操舵トルクが大きく、電動機5が補助トルクを発生している場合、位置制御部材64…と出力部材34との間の位相が大きく変化する。例えば図15に示すように、位置制御部材64…が矢印X方向に大きく移動するので、全ての第1クラッチ機構41…は係合状態になる。このため、出力部材34は、ステアリング系の操舵トルクに、電動機5が発生した補助トルクを付加した複合トルクで矢印X方向に回転し、出力軸15を駆動する。
【0054】
その後、何等かの理由で電動機5による補助トルクの伝達が継続している場合に、ステアリングハンドル2を逆方向に操舵すると、図16に示すように全ての位置制御部材64…は入力部材32bの回転方向と反対方向(矢印Y方向)に回る。そして、特定位置制御部材64Aは、他の位置制御部材64…よりも先に、係合部材62Aに当接して押出す。このため、係合部材62Aは、特定第1クラッチ機構41Aの係合を解除する。
【0055】
この時点で、他の位置制御部材64…は係合部材62…と当接していない。従って、他の係合部材62…から出力部材34に継続して、図中の矢印Z1,Z2で示すベクトルが作用しており、これらのベクトルの合力に基づき、出力部材34に図中の矢印Z3で示す偏荷重が作用する。その結果、出力部材34は弾性部材35の弾発力に抗し、ピン14を案内として僅かに移動する。従って、他の係合部材62…の係合力が弱まる。
その直後に、他の位置制御部材64…が係合部材62…を押圧するので、図17に示すように他の第1クラッチ機構41…も解除する。出力部材34は弾性部材35の弾発力により、中立位置に自動復帰する。
【0056】
このように、入力部材32bの回転が持続しているにもかかわらず、3組の第1クラッチ機構41…の係合を解除するのに、最大1組分の小さい解除力ですみ、しかも、確実に解除できる。
なお、第2クラッチ機構51…は、上記第1クラッチ機構41…と逆作動をするものであり、ステアリングハンドル2を逆方向に操舵した場合に、上記図14〜図17にて説明した作用と同様の操作で、係合・非係合に切換えることができる。
【0057】
ところで、図16に示すように、出力部材34の外周面と係合部材62Aとの間の隙間は、凹部34cの深さ分だけ大きくなる。このため、係合部材62Aを摩擦係合面から確実に分離することができるので、その分だけ出力部材34の径方向移動量を大きくすることができる。従って、第1・第2クラッチ機構41…,51…を、より一層速やかに且つ確実に解除することができる。
【0058】
なお、上記実施の形態及び他の実施の形態において、弾性部材13は、操舵トルクに比例して入力軸11と出力軸15との間での相対ねじり変位を発生させるものであればよく、トーションバーに限定するものではない。
第1・第2クラッチ機構41…,51…の数量は、3組ずつに限定するものではなく、任意に設定可能である。
【0059】
出力部材34は、入力部材32bに対し相対的に径方向に移動可能に取付けるものであればよく、出力部材34を径方向に移動可能にする他に、入力部材32bを径方向に移動可能にする構成であってもよい。
テーパ状空間部61は、非係合時に係合部材62Aを摩擦係合面から分離できるように、一部を拡げるようにしたものであればよく、例えば、入力部材32bの内周面に凹部を設けた構成であってもよい。
【0060】
出力部材34は、一部の係合部材62が外れた際に、他の係合部材62…で押圧されて、径方向移動するものであればよく、移動方向を問わない。出力部材34を他の係合部材62…で押圧して移動させれば、これら他の係合部材62…と出力部材34との摩擦係合力を減少させることができるからである。
出力部材34の径方向移動を案内する部材は、ピン14に限定するものではない。
出力軸15に出力部材34を押圧する弾性部材は、圧縮ばね35、軸片部15b、弾性押圧部71aに限定するものではなく、例えば、皿ばねでもよい。
【0061】
テーパ状空間部61は、入力部材32bの内周面と出力部材34の外周面との間に形成するものであればよく、出力部材34の外周面(摩擦係合面)の形状も図5や図11に示すものに限定しない。そして、入力部材32bの内周面を所定の多角形とし、出力部材34の外周面を円形としてもよい。
係合部材62は、テーパ状空間部61の周方向端部と係合・非係合の切換えができるものであればよく、円柱状の他に、例えば球状でもよい。
機械式クラッチ40の付勢部材は圧縮ばね65に限定せず、例えば、硬質ゴム材や板ばね等で構成してもよい。
【0062】
更に、第1・第2クラッチ機構41…,51…は、摩擦係合式クラッチの構成であればよく、例えば、周知のスプラグ式クラッチでもよい。
スプラグ式クラッチとは、円筒状の内周係合面を有する外方部材(入力部材32bに相当)と、円筒状の外周係合面を有する内方部材(出力部材34に相当)とを同心に配置し、これらの両係合面を対向させ、その間の隙間に、複数のスプラグ(くさび作用をするこま)と、これらのスプラグの位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した部材(位置制御部材64に相当)と、スプラグを前記両係合面に向ってくさび係合させるように付勢するばねとを介在したものである(特開平1−188727号に示すクラッチ装置など)。
【0063】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1記載の発明は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを摩擦係合式クラッチ機構を介してステアリング系に伝達するものであって、摩擦係合式クラッチ機構を、電動機に連結した入力部材と、この入力部材に対して同軸上に配列しステアリング系の出力軸に連結した出力部材と、入力部材と出力部材の一方の内周面と他方の外周面との間に形成したテーパ状空間部と、このテーパ状空間部に介在させた係合部材と、この係合部材をテーパ状空間部のテーパ方向に付勢する付勢部材と、係合部材の位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した位置制御部材とで構成し、位置制御部材の回動に伴って、テーパ状空間部の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する係合部材で、入力・出力部材を係合・非係合状態に切換えて、電動機からの補助トルクを出力軸に伝達する電動パワーステアリング装置において、入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けるとともに、この相対移動に伴って、テーパ状空間部における係合部材の位置が変わっても、係合部材の当接部におけるくさび角がほぼ一定となるように、摩擦係合面にテーパ角補正部を形成したことを特徴とする。
【0064】
入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けたので、テーパ状空間部の摩擦係合面に係合している複数の係合部材の一部が外れると、係合部材で入力・出力部材を押圧する力のバランスが崩れる。このため、入力部材又は出力部材は他の係合部材で一方に押圧されて、径方向に移動する。この結果、入力・出力部材と他の係合部材との摩擦力は減少して、係合が外れる。このように、一部のクラッチ機構が解除すると、他のクラッチ機構も摩擦力が減少して自動的に解除する。従って、一度に全てのクラッチ機構を解除するよりも小さな解除力で、しかも、確実に解除することができる。
【0065】
また、入力部材に対して出力部材が相対的に径方向に移動した場合に、テーパ角補正部は、摩擦係合面と係合部材との間のくさび角がほぼ一定となるように補正する。この結果、入力・出力部材の相対移動に伴って、テーパ状空間部における係合部材の位置が変わっても、くさび角はほぼ一定であり、くさび作用も変わらない。このため、テーパ状空間部から係合部材を解除するための解除力は増すことがなく、常に適正な解除力を維持できる。
【0066】
さらに、何等かの理由で、入力部材に対し出力部材が相対的に偏心し、この偏心に伴ってテーパ状空間部における係合部材の位置が変わっても、テーパ角補正部は、摩擦係合面と係合部材との間のくさび角がほぼ一定となるように補正する作用をなす。このため、テーパ状空間部から係合部材を解除するための解除力は増すことがなく、常に適正な解除力を維持できる。
【0067】
請求項2記載の発明は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを摩擦係合式クラッチ機構を介してステアリング系に伝達するものであって、摩擦係合式クラッチ機構を、電動機に連結した入力部材と、この入力部材に対して同軸上に配列しステアリング系の出力軸に連結した出力部材と、入力部材と出力部材の一方の内周面と他方の外周面との間に形成したテーパ状空間部と、このテーパ状空間部に介在させた係合部材と、この係合部材を前記テーパ状空間部のテーパ方向に付勢する付勢部材と、係合部材の位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した位置制御部材とで構成し、位置制御部材の回動に伴って、テーパ状空間部の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する前記係合部材で、入力・出力部材を係合・非係合状態に切換えて、電動機からの補助トルクを出力軸に伝達する電動パワーステアリング装置において、入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けるとともに、テーパ状空間部の一部を拡げて、非係合時に係合部材を摩擦係合面から分離できるようにしたことを特徴とする。
【0068】
入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けたので、テーパ状空間部の摩擦係合面に係合している複数の係合部材の一部が外れると、係合部材で入力・出力部材を押圧する力のバランスが崩れる。このため、入力部材又は出力部材は他の係合部材で一方に押圧されて、径方向に移動する。この結果、入力・出力部材と他の係合部材との摩擦力は減少して、係合が外れる。このように、一部のクラッチ機構が解除すると、他のクラッチ機構も摩擦力が減少して自動的に解除する。従って、一度に全てのクラッチ機構を解除するよりも小さな解除力で、しかも、確実に解除することができる。
【0069】
また、テーパ状空間部の一部を拡げたので、この拡げた部分と非係合時の係合部材との間の隙間は大きい。このため、非係合時の係合部材を摩擦係合面から確実に分離することができるので、入力部材と出力部材との相対的な径方向移動量を大きくすることができ、この結果、クラッチ機構を確実に解除することができる。
【0070】
請求項3記載の発明は、前記摩擦係合式クラッチ機構を複数組設け、これら複数組の摩擦係合式クラッチ機構の内の少なくとも1組を、他のクラッチ機構よりも早いタイミングで非係合状態になる早期解除クラッチとし、この早期解除クラッチのテーパ状空間部を拡げたことを特徴とする。
【0071】
複数組の摩擦係合式クラッチ機構の内、早いタイミングで非係合状態になる早期解除クラッチを設けたので、常に最初に解除になるクラッチが決まる。そして、早期解除クラッチの係合部材は摩擦係合面から外れた直後に、テーパ状空間部の拡げた部分に速やかに待避する。この結果、早期解除クラッチの係合部材は、常に他に優先して非係合になり、この時に摩擦係合面から速やかに且つ確実に分離する。このように、早期に解除になるクラッチを特定し、しかも、このクラッチの係合部材を摩擦係合面から速やかに分離するようにしたので、複数組の摩擦係合式クラッチ機構が、より一層速やかに且つ確実に解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図
【図2】本発明に係る電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】本発明に係る電動パワーステアリング装置の要部分解斜視図
【図5】図2の5−5線断面図
【図6】図5の6部詳細図
【図7】本発明に係るテーパ角補正部の作用図
【図8】本発明に係る機械式クラッチの作用図
【図9】本発明に係る機械式クラッチの作用図
【図10】本発明に係る機械式クラッチの作用図
【図11】本発明に係る機械式クラッチの作用図
【図12】本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の断面図
【図13】図12の13部詳細図
【図14】本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の作用図
【図15】本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の作用図
【図16】本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の作用図
【図17】本発明に係る機械式クラッチ(他の実施の形態)の作用図
【符号の説明】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングハンドル、5…電動機、6…トルク伝達手段、9…操舵輪(車輪)、11…入力軸、13…弾性部材(トーションバー)、15…出力軸、32b…入力部材、32c…入力部材の内周面(入力側の摩擦係合面)、34…出力部材、34a…貫通孔、34b…出力部材の係合面(出力側の摩擦係合面)、34c…逃げ凹部、34d…テーパ角補正部、35…弾性部材(圧縮ばね)、40…機械式クラッチ、41,41A…摩擦係合式クラッチ(第1クラッチ機構)、51,51A…摩擦係合式クラッチ(第2クラッチ機構)、61…テーパ状空間部、62,62A…係合部材、64,64A…位置制御部材、65…付勢部材(圧縮ばね)。

Claims (3)

  1. 電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを摩擦係合式クラッチ機構を介してステアリング系に伝達するものであって、前記摩擦係合式クラッチ機構を、電動機に連結した入力部材と、この入力部材に対して同軸上に配列しステアリング系の出力軸に連結した出力部材と、入力部材と出力部材の一方の内周面と他方の外周面との間に形成したテーパ状空間部と、このテーパ状空間部に介在させた係合部材と、この係合部材を前記テーパ状空間部のテーパ方向に付勢する付勢部材と、前記係合部材の位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した位置制御部材とで構成し、前記位置制御部材の回動に伴って、前記テーパ状空間部の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する前記係合部材で、入力・出力部材を係合・非係合状態に切換えて、電動機からの補助トルクを出力軸に伝達する電動パワーステアリング装置において、前記入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けるとともに、この相対移動に伴って、前記テーパ状空間部における前記係合部材の位置が変わっても、係合部材の当接部におけるくさび角がほぼ一定となるように、前記摩擦係合面にテーパ角補正部を形成したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを摩擦係合式クラッチ機構を介してステアリング系に伝達するものであって、前記摩擦係合式クラッチ機構を、電動機に連結した入力部材と、この入力部材に対して同軸上に配列しステアリング系の出力軸に連結した出力部材と、入力部材と出力部材の一方の内周面と他方の外周面との間に形成したテーパ状空間部と、このテーパ状空間部に介在させた係合部材と、この係合部材を前記テーパ状空間部のテーパ方向に付勢する付勢部材と、前記係合部材の位置決めをなすためにステアリングハンドルに連結した位置制御部材とで構成し、前記位置制御部材の回動に伴って、前記テーパ状空間部の摩擦係合面にくさび作用により係合又は非係合する前記係合部材で、入力・出力部材を係合・非係合状態に切換えて、電動機からの補助トルクを出力軸に伝達する電動パワーステアリング装置において、前記入力部材に対し出力部材を相対的に径方向に移動可能に取付けるとともに、前記テーパ状空間部の一部を拡げて、非係合時に前記係合部材を前記摩擦係合面から分離できるようにしたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  3. 前記摩擦係合式クラッチ機構は複数組あり、これら複数組の摩擦係合式クラッチ機構の内の少なくとも1組が、他のクラッチ機構よりも早いタイミングで非係合状態になる早期解除クラッチであり、この早期解除クラッチのテーパ状空間部を拡げたことを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
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