JP3692914B2 - ガス濃度センサのヒータ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガス濃度センサのヒータ制御装置に係り、詳しくは、ガス濃度センサを活性化するためのヒータの通電を好適に制御するための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のガス濃度センサとして、例えば、エンジンの排出ガス中の酸素濃度を検出する限界電流式空燃比センサが知られており、当該センサのヒータ制御装置として、特開平8−278279号公報、特開平10−300716号公報などの技術が開示されている。
【0003】
また、空燃比センサは一般に、断面コップ状を成すコップ型構造のものと、板状の検出素子やヒータ部材等を積層して構成される積層型構造のものとが知られており、近年では、小型化、低コスト化に適し、且つ検出素子の昇温特性に優れる積層型構造のものが多用されつつある。この積層型構造の空燃比センサは、例えば特開平11−344466号公報に開示されており、検出素子とヒータとが間近に配置され、素子温度とヒータ温度との差が比較的小さいことから、ヒータ抵抗の検出値によるヒータ電力制御に代えて、検出素子の内部抵抗(インピーダンス)によるヒータ通電制御が実施される。つまり、検出素子のインピーダンスが所定の目標値になるよう、ヒータ通電量がフィードバック制御される。ここで、このヒータ通電制御では、検出素子のインピーダンスと素子温度とが相関を持つことを前提に、活性温度相当のインピーダンスを目標値として、掃引法等により検出したインピーダンスがその目標値になるようヒータ通電量を制御していた。一般には、素子温度が上昇すればインピーダンスが小さくなることが知られており、一例として、検出素子の活性温度が750℃の場合、インピーダンスの目標値は30Ω程度となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、空燃比センサの構造として通常は、固体電解質等から成る検出素子がセンサ先端部に配され、リード部を介して検出素子の出力が取り出されるようになっている。従って、検出素子の出力(電流信号)を取り出し、その出力からインピーダンスを検出する場合には、その検出値は検出素子の抵抗成分と、リード部の抵抗成分とを含むことになる。かかる場合、検出素子の温度に対してリード部の温度が大きく相違すると、検出素子としてのインピーダンス検出に影響が出てしまい、それによりヒータ通電の制御性が悪化する。
【0005】
具体的には、例えば、エンジンの低温始動時等において検出素子が比較的早く昇温するのに対してリード部の昇温が遅い場合、インピーダンスの検出値が本来の値(検出素子単体の値)よりも小さくなり、素子温度が昇温途中であるにも拘わらずあたかも目標値(活性温度)に達したかのように間違えてしまう。実際には、検出素子はヒータによる加熱に加えて排出ガスからの受熱により早く昇温するのに対し、リード部はハウジングや排気管壁への放熱等により昇温が遅れる。そして、検出素子が活性化したと間違えて判断することにより、素子温度の上昇が制約されてしまい実際の素子活性化が遅れる。
【0006】
特に、積層型構造の空燃比センサでは、検出素子と出力取り出し用のリード部とが一体にして作り込まれ、リード部の影響が大きいことから、上記した不都合が生じ易く、制御性悪化を招く可能性が高いと考えられる。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、ヒータ通電の制御性を改善し、検出素子を適正に活性化させることができるガス濃度センサのヒータ制御装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
ガス濃度センサは、素子抵抗(検出素子のインピーダンス)の検出値が目標値に一致するようヒータ通電量がフィードバック制御される(ヒータ制御手段)。
そして、このヒータ通電制御にて検出素子が活性化されることにより、検出素子は、被検出ガス中の特定成分濃度にほぼ比例した限界電流を出力する。特に請求項1に記載の発明では、素子抵抗の検出値と素子温度との相関を崩す要因に基づき、素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方を補正する(補正手段)。ここで、素子抵抗の検出値と素子温度との相関を崩す要因とは、センサ出力を取り出すためのリード部の温度であり、前記補正手段は、前記リード部の温度が低いほど、素子抵抗の検出値を増加側に補正する或いは素子抵抗の目標値を減少側に補正すると良い。
【0009】
要するに、リード部温度等を要因として素子抵抗の検出値又は目標値の何れかを補正することにより、素子抵抗の検出値と素子温度との相関ズレによる問題を解消することが可能となる。その結果、ヒータ通電の制御性を改善し、検出素子を適正に活性化させることができる。因みに、リード部の温度が低いほど、素子抵抗の検出値を増加側に補正する或いは素子抵抗の目標値を減少側に補正することは、何れの補正の場合にも、ヒータのフィードバック制御における素子抵抗の偏差を故意に大きくし、ヒータ通電量を増加させることを意味する。
【0010】
特に、固体電解質を有する検出素子にヒータを積層して配置した、いわゆる積層型構造のガス濃度センサ(請求項8)では、検出素子と出力取り出し用のリード部とが一体にして作り込まれ、リード部の影響が大きいことから相関ズレが生じ易いが、本発明では、上記の通り適正な補正を行うことにより相関ズレの影響が排除できる。故に、検出素子が適正に活性化できるといった効果がより一層有効的に得られることとなる。
【0011】
また、以下の請求項1〜3の如く前記補正手段を具体化することにより、リード部温度を間接的にモニタすることができ、抵抗値の補正が簡易に実施できる。
すなわち、
・請求項1に記載の発明では、内燃機関の始動開始からの吸入空気量の積算値に応じて素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方の補正を行う。
・請求項2に記載の発明では、内燃機関からの排出ガスの温度に応じて素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方の補正を行う。
・請求項3に記載の発明では、内燃機関の始動当初に素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方の補正値を初期設定し、その初期設定した補正値を時間の経過に従い減衰させる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明では、内燃機関の低温始動時にのみ、前記補正手段による補正を実施する。すなわち、内燃機関の低温始動時には、素子温度とリード部温度との温度差が生じ、素子抵抗の検出値と素子温度との相関が崩れがちになる。この場合、上記の如く補正を行うことにより、目標温度に対して検出素子がいち早く昇温されるようになり、内燃機関の冷間始動に際し、検出素子の早期活性化が可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を車載エンジンの空燃比制御システムに具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。本制御システムは、空燃比センサ(A/Fセンサ)による検出結果を基にエンジンへの燃料噴射量を所望の空燃比にて制御するものであり、本実施の形態では特に、A/Fセンサを良好に活性化するためのヒータ通電制御の内容を中心に以下に詳しく説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態における空燃比制御システムの概要を示す全体構成図である。図1において、限界電流式空燃比センサ(以下、A/Fセンサという)30は、エンジン10のエンジン本体11から延びる排気管12に取り付けられており、電子制御ユニット(以下、ECUという)20から指令される電圧の印加に伴い、排ガス中の酸素濃度に比例したリニアな空燃比検出信号(センサ電流信号)を出力する。
【0015】
ECU20は、各種制御の中枢をなすマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)21を備えており、マイコン21は、各種の演算プログラムを実行するCPU22と、各種プログラムや制御データを予め記憶するROM23と、演算データを一時的に記憶するNRAM(ノーマルRAM)24と、電源遮断時にも記憶内容を保持するデータバックアップ用のSRAM(スタンバイRAM)25等により構成されている。マイコン21は、エンジン10の燃料噴射制御や点火制御を実施する他に、A/Fセンサ30への印加電圧制御や同センサ30のヒータ通電制御を実施する。
【0016】
A/Fセンサ30に関する制御を略述すれば、マイコン21は、A/Fセンサ30に電圧を印加するためのバイアス指令信号Vrを、D/A変換器26及びLPF(ローパスフィルタ)27を介してバイアス制御回路40に出力する。このとき、D/A変換器26にてバイアス指令信号Vrがアナログ信号Vbに変換され、更にLPF27にてアナログ信号Vbの高周波成分が除去された後、出力電圧Vcがバイアス制御回路40に入力される。
【0017】
バイアス制御回路40内の電流検出回路50は、A/Fセンサ30への電圧の印加に伴い流れる電流値を検出する。当該電流検出回路50にて検出された電流値のアナログ信号は、A/D変換器28を介してマイコン21に入力される。マイコン21は、所定の時間周期(例えば数ミリ秒毎)でセンサ電流を取り込み、その電流値をA/Fに変換する。また、A/Fセンサ30のインピーダンス検出に際しては、マイコン21から出力される矩形状のバイアス指令信号Vrにより、単発的で且つ所定の時定数を持った電圧がA/Fセンサ30に印加される。
【0018】
更に、マイコン21は、ヒータ制御回路29に対してヒータ制御信号を出力する。これにより、A/Fセンサ30に設けられたヒータ64の通電がデューティ制御される。
【0019】
A/Fセンサ30は、積層型のセンサ素子部(セル)60を有するものであって、その構成を図2及び図3を用いて説明する。ここで、図2は、A/Fセンサ30の全体構成を示す断面図、図3は、A/Fセンサ30を構成するセンサ素子部60の断面図である。
【0020】
図2に示されるように、A/Fセンサ30は、排気管壁に螺着される筒状の金属製ハウジング31を有し、そのハウジング31の下側開口部には素子カバー32が取り付けられている。素子カバー32内には、長板状のセンサ素子部60の先端(下端)が配設されている。素子カバー32は有底二重構造をなし、排ガスをカバー内部に取り込むための複数の排気口32aを有する。センサ素子部60は、ハウジング31内に配設された絶縁部材33を貫通するように図の上方に延び、その上端部には一対のリード部34が接続されている。
【0021】
ハウジング31の上端には本体カバー35がカシメ着されている。また、本体カバー35の上方にはダストカバー36が取り付けられ、これら本体カバー35及びダストカバー36の二重構造によりセンサ上部が保護される。各カバー35,36には、カバー内部に大気を取り込むための複数の大気口35a,36aが設けられている。
【0022】
次に、センサ素子部60の構成を図3を用いて説明する。センサ素子部60は大別して、固体電解質からなる検出素子61、ガス拡散抵抗層62、大気導入ダクト63及びヒータ64からなり、これら各部材を積層して構成されている。また、各部材の周囲には保護層65が設けられている。
【0023】
長方形板状の検出素子(固体電解質)61は部分安定化ジルコニア製のシートであり、その上面(ガス拡散抵抗層62側)には白金等からなる多孔質の計測電極66が形成されると共に、下面(大気導入ダクト63側)には同じく白金等からなる多孔質の大気側電極67が形成されている。計測電極66及び大気側電極67には、リード部66a,67aが接続されており、その先はECU20に接続されている。
【0024】
ガス拡散抵抗層62は、計測電極66へ排ガスを導入するための多孔質シートからなるガス透過層62aと、排ガスの透過を抑制するための緻密層からなるガス遮蔽層62bとを有する。ガス透過層62a及びガス遮蔽層62bは何れも、アルミナ、スピネル、ジルコニア等のセラミックスをシート成形法等により成形したものであるが、ポロシティの平均孔径及び気孔率の違いによりガス透過率が相違するものとなっている。この場合、ガス透過層62aの表面はガス遮蔽層62bに被われているため、センサ素子部周囲の排ガスはガス透過層62aの側方(図の左右方向)から侵入し、計測電極66に達する。
【0025】
大気導入ダクト63はアルミナ等の高熱伝導性セラミックスからなり、同ダクト63により大気室68が形成されている。この大気導入ダクト63は大気室68内の大気側電極67に大気を導入する役割をなす。因みに、大気室68は、前記図2に示すカバー35,36の大気口35a,36aに連通している。
【0026】
大気導入ダクト63の下面にはヒータ64が取り付けられている。ヒータ64は、車載バッテリからの通電により発熱する発熱体64aと、それを覆う絶縁シート64bとからなり、発熱体64aの両端にはリード部64cが接続されている。但し、図3の構成以外に、発熱体64aを検出素子61に埋設したり、発熱体64aをガス拡散抵抗層62に埋設したりする構成も可能である。
【0027】
上記構成のA/Fセンサ30は、図4に示す電圧−電流特性を持つ。すなわち、センサ素子部60(検出素子61)は、酸素濃度を直線的特性にて検出し得るものであり、酸素濃度に応じた限界電流を発生する。限界電流(センサ電流)の増減はA/F値の増減(すなわち、リーン・リッチの程度)に対応しており、A/F値がリーン側になるほど限界電流は増大し、A/F値がリッチ側になるほど限界電流は減少する。ここで、検出素子61のインピーダンス(素子抵抗)と同素子61の温度(素子温度)とは相関があり、素子温度が上昇するほど、インピーダンスが低下する傾向にある。この場合、検出素子61のインピーダンスが目標値(例えば30Ω)になるようヒータ通電をF/B制御することにより、素子温度が目標温度(例えば750℃)に保持される。
【0028】
次に、ヒータ通電制御の概要について説明する。本実施の形態のヒータ通電制御では、エンジン10の低温始動時等、検出素子61のインピーダンス(検出値)と素子温度との相関が崩れる場合において目標インピーダンスZtgの補正を行うことを特徴としており、先ず始めにその概要を説明する。
【0029】
要するに、検出素子61のインピーダンスと素子温度とは図6に実線で示す相関を持っており、掃引法等により検出される検出インピーダンスZreが検出素子61単体のインピーダンスに一致していれば、上記相関により適正なヒータF/B制御が可能となる。ところが、検出インピーダンスZreとして検出される値は、検出素子61の抵抗成分のみならずリード部(図2ではセンサ素子部60に接続されたリード部34、図3ではリード部66a,67a)の抵抗成分を含む。それ故に、エンジン10の低温始動時においては、上記した相関が図6の二点差線のように崩れてしまう。これは、A/Fセンサ30おいて、リード部の温度上昇速度と検出素子61の温度速度とが一致せず、実際の素子温度が上昇していても、リード部の影響により検出インピーダンスZreが実際の素子温度相当の値よりも低い値になってしまうからである。更に言えば、これは、検出素子61はヒータ64による過熱と排気熱により比較的早く昇温されるのに対し、リード部はハウジングや排気管壁等への放熱により昇温が比較的遅いことに起因する。
【0030】
本願発明者によれば、A/Fセンサ30のリード部温度と検出インピーダンスZreとは図7に示す関係を持つことが判明している。図7では、リード部温度が高く素子温度とほぼ一致する場合(図のAの場合)、検出インピーダンスが所定の目標値(30Ω)になることで、素子温度が所定の活性温度(750℃)に達する。これに対して、リード部温度が低い場合(図のBの場合)には、検出インピーダンスが22Ωになることで、素子温度が所定の活性温度(750℃)に達することが分かる。そこで、エンジン10の低温始動時には、検出素子61の検出インピーダンスと素子温度との相関が崩れることを考慮し、図7の関係に基づいて目標インピーダンスZtgの補正を行う。
【0031】
具体的には本実施の形態では、リード部温度を簡易的に推定する手法として、エンジン始動開始からの吸入吸気量の積算値(積算空気量sumq)を求め、その積算空気量sumqに基づいてZtg補正を行う。図8は、エンジン始動開始からの積算空気量sumqと検出インピーダンスZreとの関係を示す図である。図8では、積算空気量sumqが例えば比較的小さいQ1であれば検出インピーダンスZreが22Ωになることで、素子温度が活性温度(750℃)に達し、積算空気量sumqがQ2付近になると、検出インピーダンスが30Ωになることで、素子温度が活性温度(750℃)に達する。またより詳しくは、積算空気量sumqが小さい領域では、インピーダンス変化の勾配は比較的大きく、同sumqが大きくなると、次第にインピーダンス変化の勾配が緩やかになる。
【0032】
ここで、検出素子61を早期に活性温度まで昇温するには、積算空気量sumqに応じて目標インピーダンスZtgをマイナス側に補正し、その補正後のZtgによりヒータ通電をF/B制御する。この場合、目標インピーダンスZtgの補正量Zhは図9の関係に基づいて設定される。図9の関係は、前記図8に基づいて与えられるものであり、図9によれば、エンジン始動開始からの積算空気量sumqが大きくなるほど、すなわち暖機が進むほど、インピーダンス補正量Zhが小さくなる。
【0033】
図10は、マイコン21内のCPU22により実施されるヒータ制御量算出ルーチンを示すフローチャートであり、例えば131ミリ秒毎に実行される。
図10では、大きくは全通電制御、第1のヒータF/B制御、第2のヒータF/B制御が順次実施されるようになっており、概略として、エンジンの始動当初には全通電制御が実施され、その全通電制御ではヒータ制御量(Duty)が100%で制御される。また、全通電制御に引き続き第1のヒータF/B制御が実施され、この第1のヒータF/B制御では、インピーダンスの偏差に応じてヒータ制御量(Duty)が0〜80%の範囲内で制御される。更に、第1のヒータF/B制御に引き続き第2のヒータF/B制御が実施され、この第2のヒータF/B制御では、インピーダンスの偏差に応じてヒータ制御量(Duty)が0〜60%の範囲内で制御される。
【0034】
具体的には、センサ新品時のインピーダンス特性を示す図12において、検出インピーダンスZreと素子温度とが図の実線の関係にあり、目標インピーダンスZtgが素子温度750℃相当の「30Ω」である場合、インピーダンスの偏差ΔZ(=Zre−Ztg)が所定値K1(例えば、20Ω)よりも大きければ、全通電制御が実施される。また、インピーダンスの偏差ΔZが所定値K2〜K3の範囲内(例えば、10〜20Ω)にあれば、第1のヒータF/B制御が実施され、ΔZが所定値K2(例えば、10Ω)よりも小さければ、第2のヒータF/B制御が実施される。
【0035】
なおここで、検出インピーダンスZreは、周知の掃引法により検出されるようになっており、詳しくは図5に示すように、A/Fセンサ30の印加電圧を一時的に正方向及び負方向に変化させる。そして、この電圧変化時における正負何れか一方の電圧変化量ΔVと電流変化量ΔIとから検出インピーダンスZreを算出する(Zre=ΔV/ΔI)。このインピーダンス検出の処理は、CPU22により実施され、これが「素子抵抗検出手段」に相当する(但し、詳細な処理について図示を略す)。
【0036】
以下には、ヒータ通電の詳しい内容を図10に従い説明する。
先ず図10のステップ101では、目標インピーダンスZtgの設定を行う。このとき、例えばZtg=30Ωが設定される。その後、ステップ102〜104では、必要に応じて目標インピーダンスZtgの補正を実施する。つまり、ステップ102では、今回がエンジン10の低温始動時であるか否かを判別する。例えば、
(1)その時点のエンジン水温が60℃未満であること、
(2)その時点のエンジン水温が、前回のエンジン停止時における水温よりも30℃以上低い温度であること、
といった条件を判別し、上記(1),(2)が共に満たされる場合、低温始動時であると判別する。但し、それ以外に、吸気温度、外気温度、ソーク時間(車両放置時間)等を考慮してエンジン10の低温始動判定を行うようにしても良い。
【0037】
低温始動時である場合ステップ103に進み、前述の図9の関係を用い、エンジン始動開始からの積算空気量sumqに基づいてインピーダンス補正量Zhを算出する。そしてその後、ステップ104では、インピーダンス補正量Zhにより目標インピーダンスZtgを補正する(Ztg=Ztg−Zh)。これにより、積算空気量sumqが小さいほど(すなわちリード部温度が低いほど)、目標インピーダンスZtgが小さな値に補正されることとなる。
【0038】
上記ステップ103,104のインピーダンス補正は、エンジン10の低温始動時に繰り返し実施されるようになっており、例えば、ステップ102がYESの時に「補正実行フラグ」がセットされ、補正実行フラグがセットされている期間でインピーダンス補正(ステップ103,104)が行われる。そして、インピーダンス補正量Zhが0まで減衰した時に補正実行フラグがクリアされ、インピーダンス補正が終了されるようになっている。なお、エンジン始動後の所定時間(例えば360秒)で区切ってインピーダンス補正を終了するようにしても良い。
【0039】
因みに、積算空気量sumqは、例えば図11の処理により4ms毎に算出される。つまり、図11において、ステップ201では、エアフロメータ等の検出値によりその時の吸入空気量を算出し、続くステップ202では、始動開始からの積算空気量sumqを算出する。
【0040】
その後、ステップ105では、検出インピーダンスZreと目標インピーダンスZtgとから偏差ΔZを算出する(ΔZ=Zre−Ztg)。次に、ステップ106では、ヒータ制御の許可条件が成立するか否かを判別する。この許可条件としては、
・エンジン始動後にエンジン回転数が所定値(例えば200rpm)以上に上昇したこと、
・バッテリ電圧が低下していないこと、
・ヒータ制御に関与するその他のセンサの異常がないこと、
等を含み、これらが成立する場合にヒータ制御が許可される。ヒータ制御の許可条件が不成立の場合、ステップ107に進み、ヒータ制御量(Duty)を0%とする。
【0041】
また、ヒータ制御の許可条件が成立した場合はステップ108に進み、ヒータ全通電を実施するか否かを判別する。ヒータ全通電の実施条件としては、全通電の開始後の経過時間が所定時間(例えば10秒)以内であり、且つインピーダンス偏差ΔZ(=Zre−Ztg)が所定値K1以上であることを含み、エンジンの低温始動時等においては検出インピーダンスZreが非常に大きな値であることから、ステップ108がYESとなり、ヒータ全通電を実施する。つまり、ステップ109に進み、ヒータ制御量(Duty)を100%とする。
【0042】
また、ステップ108がNOであればステップ110に進み、インピーダンスの偏差ΔZが所定値K2よりも大きいか否かを判別する。そして、ステップ110がYESであればステップ111に進み、第1のヒータF/B制御を実施する。このとき、前述した通り0〜80%の範囲でDutyが設定される。但し実際には、エンジンの始動直後はインピーダンスの偏差ΔZが未だ大きいため、80%付近のDutyが設定されることとなる。
【0043】
また、ステップ110がNOの場合、ステップ112に進み、第2のヒータF/B制御を実施する。このとき、前述した通り0〜60%の範囲でDutyが設定される。本実施の形態の場合、インピーダンスの偏差ΔZに応じて、ヒータ制御量(Duty)が0%,20%,40%,60%の何れかに設定されるようになっている(但し、第1のヒータF/B制御では、これに80%が加わる)。図12を用いて具体的に説明すれば、
・素子温度が目標値よりも高温の場合において、ΔZ<−K4であれば、Duty=0%とし、ΔZ=−K3〜−K4であれば、Duty=20%とする。
・素子温度が目標値付近にあれば、すなわち、|ΔZ|≦K3であれば、この温度が保持できるようDuty=40%とする。
・素子温度が目標値よりも低温の場合において、ΔZ=K3〜K2であれば、Duty=60%とする。
【0044】
最後に、ステップ113では、ヒータ制御量の急変を防止すべく、今回設定したヒータ制御量(Duty)になまし処理を実施する。例えば、
Duty=(3×Duty(i−1)+今回Duty)/4
といった演算によりDutyを設定する。なお本実施の形態では、ステップ110〜112が本発明の「ヒータ制御手段」に相当し、ステップ103,104が「補正手段」に相当する。
【0045】
次に、ヒータ通電制御についてより具体的な動作を図13のタイムチャートを用いて説明する。なお、図13は、エンジン10の低温始動時におけるヒータ通電の様子を示しており、目標インピーダンス補正有りの場合を実線、補正無しの場合を1点鎖線で図示する。
【0046】
エンジン始動後、A/Fセンサ30のヒータ通電が開始されると、素子温度が次第に上昇し、それに伴い検出インピーダンスZreが低下する。また、エンジン始動後、時間の経過に伴い積算空気量sumqが増加していく。このA/Fセンサ30の暖機(活性化)過程において、前述の通り検出インピーダンスZreと素子温度との相関が崩れる。従って、目標インピーダンスZtgの補正を行わず、設定当初の目標値(30Ω)をそのまま使う従来制御(1点鎖線)では、素子温度が活性温度(750℃)に達していなくても検出インピーダンスZreが目標値(30Ω)に収束する。そしてそれ以降、インピーダンス一定で制御される。この場合、素子温度が目標温度(750℃)に達していなくても制御Dutyが小さくなることから、検出素子61の実際の活性化が遅れてしまう。
【0047】
これに対して本実施の形態では、上記した通り積算空気量sumqに応じてインピーダンス補正量Zhが設定され、そのZhにより目標インピーダンスZtgが補正される。これにより、目標インピーダンスZtgは当初設定した目標値(30Ω)に対してマイナス側に補正され、その補正後の目標値に対してヒータ通電がフィードバック制御される。検出インピーダンスZreは、当初設定した目標値(30Ω)に対してマイナス側に一旦オーバーシュートし、その後、補正後のZtgの動きに沿って徐々に上昇していく。この場合、Ztg補正を行わない従来技術に比べて検出素子61の活性化が早くなり、早期に目標温度でのヒータ制御が開始できるようになる。
【0048】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られる。
エンジン始動開始からの積算空気量sumqに応じて目標インピーダンスZtgを補正するので、検出インピーダンスZreと素子温度との相関ズレによる問題を解消することが可能となる。その結果、ヒータ通電の制御性を改善し、検出素子61を適正に活性化させることができる。
【0049】
特に、積層型構造のA/Fセンサ30では、検出素子61と出力取り出し用のリード部とが一体にして作り込まれ、リード部の影響が大きいことから相関ズレが生じ易いが、上記の通り適正な補正を行うことにより相関ズレの影響が排除できる。故に、検出素子61が適正に活性化できるといった効果がより一層有効的に得られることとなる。
【0050】
また、エンジン10の低温始動時に目標インピーダンスZtgを補正するので、目標とする活性温度に対して検出素子61が昇温されるようになり、エンジン10の冷間始動に際し、検出素子61の早期活性化が可能となる。
【0051】
また、本実施の形態では、空燃比制御システムの設計にあたりばらつき項目の削減が可能となる。つまり、システム設計では、様々なセンサ系や制御系のばらつきを考慮してA/Fセンサの温度補償範囲を満足させなくてはならないが、この際、既述の通りヒータ通電の制御性が改善されればその分設計の適正化が容易となる。
【0052】
加えて、空燃比制御システムとしては、上記の通り検出素子61の早期活性化が可能となることから、エンジン始動後早期にA/F検出が可能となり、いち早く適正な空燃比F/B制御が開始できる。故に、排気エミッションが改善できるようになる。
【0053】
なお本発明は、上記以外に次の形態にて具体化できる。
上記実施の形態では、エンジン始動開始からの積算空気量sumqを算出すると共に、図9の関係に基づきsumqに応じて目標インピーダンスZtgを補正したが、これを以下のように変更する。
(1)前記図9の関係に代えて、図14の関係を用いる。図14では、積算空気量sumqに加えて始動時水温の高低に応じてインピーダンス補正量Zhを設定しており、始動時水温が低いほど、インピーダンス補正量Zhが大きな値に設定される。言い換えれば、始動時水温が低いほど、目標インピーダンスZtgが小さい値に補正される。この場合、始動時水温に応じて、インピーダンス補正量の設定マップを複数設けても良い。また、図9の関係により設定したインピーダンス補正量(基本値)に対して水温補正係数を乗算し、インピーダンス補正量Zhを算出するようにしても良い。
(2)排気温センサ等により排気温度を検出し、その排気温度に応じて目標インピーダンスZtgを補正する。この場合、排気温度は、検出素子61やヒータ64の昇温速さに関係し、排気温度が低いほど昇温が遅い。そこで、図15に示すように、エンジン始動当初に設定した初期値に対し、排気温度に応じてインピーダンス補正量Zhを変更する。
(3)エンジン始動当初に、所定のインピーダンス補正量Zhの初期値を設定し、時間経過に従い補正量Zhを次第に減衰させるようにする。上記(2),(3)の場合、補正量Zhの初期値は、エンジン始動当初におけるエンジン水温に応じて設定されると良い。
【0054】
上記実施の形態では、検出インピーダンスZreと素子温度との相関を崩す要因(リード部温度)に基づき目標インピーダンスZtgを補正したが、この構成を変更する。例えば、目標インピーダンスZtgの補正に代えて、検出インピーダンスZreを補正したり、或いは検出インピーダンスZreと目標インピーダンスZtgの両方を補正したりしても良い。検出インピーダンスZreを補正する場合には、リード部温度が低いほど(例えば、sumqが小さいほど)、Zreを増加側に補正する。何れにしろ、エンジンの低温始動時においてインピーダンス偏差を故意に大きくし、ヒータ制御量(Duty)を増加させるよう補正するのであれば良い。
【0055】
素子抵抗として、インピーダンスを検出する他、インピーダンスの逆数であるアドミタンスを検出するようにしても良い。この場合、検出素子61の目標温度はアドミタンスの目標値で制御される。
【0056】
上記実施の形態では、積層型A/Fセンサを用いて空燃比制御システムを具体化したが、断面コップ状の検出素子を持つ、いわゆるコップ型A/Fセンサを用いても良い。また、本発明は、A/Fセンサを用いた空燃比検出装置以外にも適用できる。つまり、NOx,HC,CO等のガス濃度成分が検出可能なガス濃度センサを用いたガス濃度検出装置にも適用できる。当該他のガス濃度検出装置においても上記実施の形態と同様の手法を用いることで、ヒータ通電の制御性を改善し、検出素子を適正に活性化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態における空燃比制御システムの概要を示す構成図。
【図2】A/Fセンサの構造を示す断面図。
【図3】センサ素子部の断面図。
【図4】A/Fセンサの出力特性を示す図。
【図5】インピーダンス検出時における電圧及び電流の波形図。
【図6】検出素子のインピーダンス特性を示す図。
【図7】リード部温度と検出インピーダンスとの関係を示す図。
【図8】積算空気量と検出インピーダンスとの関係を示す図。
【図9】インピーダンス補正量を設定するための図。
【図10】ヒータ制御量算出ルーチンを示すフローチャート。
【図11】積算空気量の算出ルーチンを示すフローチャート。
【図12】検出素子のインピーダンス特性を示す図。
【図13】エンジン始動時におけるヒータ通電の様子を示すタイムチャート。
【図14】他の形態においてインピーダンス補正量を設定するための図。
【図15】他の形態においてインピーダンス補正量を設定するための図。
【符号の説明】
10…エンジン(内燃機関)、12…排気管、20…ECU、21…マイコン、22…CPU、30…A/Fセンサ(ガス濃度センサ)、34…リード部、61…検出素子、64…ヒータ、66a,67a…リード部。
Claims (5)
- 被検出ガス中の特定成分濃度にほぼ比例した限界電流を出力する検出素子と該検出素子を加熱するヒータとを有し、リード部を介して前記検出素子の出力が取り出されるガス濃度センサと、
前記ガス濃度センサの素子抵抗を検出する素子抵抗検出手段と、
素子抵抗の検出値が目標値に一致するようヒータへの通電をフィードバック制御するヒータ制御手段と、
素子抵抗の検出値と素子温度との相関を崩す要因に基づき、素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方を補正する補正手段とを備え、内燃機関の排気管に前記ガス濃度センサが配設され、同センサは内燃機関からの排出ガス中の特定成分濃度を検出する装置であって、
前記補正手段は、内燃機関の始動開始からの吸入空気量の積算値に応じて素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方の補正を行う
ことを特徴とするガス濃度センサのヒータ制御装置。 - 被検出ガス中の特定成分濃度にほぼ比例した限界電流を出力する検出素子と該検出素子を加熱するヒータとを有し、リード部を介して前記検出素子の出力が取り出されるガス濃度センサと、
前記ガス濃度センサの素子抵抗を検出する素子抵抗検出手段と、
素子抵抗の検出値が目標値に一致するようヒータへの通電をフィードバック制御するヒータ制御手段と、
素子抵抗の検出値と素子温度との相関を崩す要因に基づき、素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方を補正する補正手段とを備え、内燃機関の排気管に前記ガス濃度センサが配設され、同センサは内燃機関からの排出ガス中の特定成分濃度を検出する装置であって、
前記補正手段は、内燃機関からの排出ガスの温度に応じて素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方の補正を行う
ことを特徴とするガス濃度センサのヒータ制御装置。 - 被検出ガス中の特定成分濃度にほぼ比例した限界電流を出力する検出素子と該検出素子を加熱するヒータとを有し、リード部を介して前記検出素子の出力が取り出されるガス濃度センサと、
前記ガス濃度センサの素子抵抗を検出する素子抵抗検出手段と、
素子抵抗の検出値が目標値に一致するようヒータへの通電をフィードバック制御するヒータ制御手段と、
素子抵抗の検出値と素子温度との相関を崩す要因に基づき、素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方を補正する補正手段とを備え、
前記補正手段は、内燃機関の始動当初に素子抵抗の検出値又は目標値の少なくとも何れか一方の補正値を初期設定し、その初期設定した補正値を時間の経過に従い減衰させるガス濃度センサのヒータ制御装置。 - 内燃機関の低温始動時にのみ、前記補正手段による補正を実施する請求項1〜3の何れかに記載のガス濃度センサのヒータ制御装置。
- 前記ガス濃度センサは、固体電解質を有する検出素子にヒータを積層して配置した積層型構造を持つ請求項1〜4の何れかに記載のガス濃度センサのヒータ制御装置。
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