以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、本発明が適用される内燃機関のシステム図である。図中、10は、自動車用の圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであり、11は吸気ポートに連通されている吸気マニフォルド、12は排気ポートに連通されている排気マニフォルド、13は燃焼室である。本実施形態では、不図示の燃料タンクから高圧ポンプ17に供給された燃料が、高圧ポンプ17によりコモンレール18に圧送されて高圧状態で蓄圧され、このコモンレール18内の高圧燃料がインジェクタ14から燃焼室13内に直接噴射供給される。エンジン10からの排気ガスは、排気マニフォルド12からターボチャージャ19を経た後にその下流の排気通路15に流され、後述のように浄化処理された後、大気に排出される。なお、ディーゼルエンジンの形態としてはこのようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたものに限らない。またEGR装置などの他の排気浄化デバイスを含むことも任意である。
エアクリーナ20から吸気通路21内に導入された吸入空気は、エアフローメータ22、ターボチャージャ19、インタークーラ23、スロットルバルブ24を順に通過して吸気マニフォルド11に至る。エアフローメータ22は吸入空気量を検出するためのセンサであり、具体的には吸入空気の流量に応じた信号を出力する。スロットルバルブ24には電子制御式のものが採用されている。
排気通路15には、排気ガス中のNOxを還元して浄化するNOx触媒、特に選択還元型NOx触媒34が設けられている。なお排気ガス中の未燃成分(特にHC)を酸化して浄化する酸化触媒や、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集して燃焼除去するDPR(Diesel Particulate Reduction)触媒が追加して設けられてもよい。また、NOx触媒34に還元剤としての尿素水を添加するための尿素添加装置48が設けられている。具体的には、NOx触媒34の上流側の排気通路15に、尿素水を噴射するための尿素添加弁40が設けられている。尿素添加弁40には供給ライン41を通じて尿素供給ポンプ42から尿素水が供給され、尿素供給ポンプ42は尿素タンク44に貯留された尿素水を吸引して吐出する。
また、エンジン全体の制御を司る制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)100が設けられる。ECU100は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。ECU100は、各種センサ類の検出値等に基づいて、所望のエンジン制御が実行されるように、インジェクタ14、高圧ポンプ17、スロットルバルブ24等を制御する。またECU100は、尿素添加量を制御すべく、尿素添加弁40及び尿素供給ポンプ42を制御する。ECU100に接続されるセンサ類としては、前述のエアフローメータ22の他、NOx触媒34の下流側に設けられたNOxセンサ50、NOx触媒34の上流側と下流側にそれぞれ設けられた触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54が含まれる。NOxセンサ50は排気ガスのNOx濃度に応じた出力信号を発する所謂限界電流式NOxセンサである。その構造については後に詳しく述べる。
他のセンサ類として、クランク角センサ26、アクセル開度センサ27及びエンジンスイッチ28がECU100に接続されている。クランク角センサ26はクランク角の回転時にクランクパルス信号をECU100に出力し、ECU100はそのクランクパルス信号に基づきエンジン10のクランク角を検出すると共に、エンジン10の回転速度を計算する。アクセル開度センサ27は、ユーザによって操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じた信号をECU100に出力する。エンジンスイッチ28はユーザによってエンジン始動時にオン、エンジン停止時にオフされる。
選択還元型NOx触媒(SCR: Selective Catalytic Reduction)34は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V2O5/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。選択還元型NOx触媒34は、その触媒温度が活性温度域にあり、且つ、還元剤としての尿素が添加されているときにNOxを還元浄化する。尿素が触媒に添加されると、触媒上でアンモニアが生成され、このアンモニアがNOxと反応してNOxが還元される。
NOx触媒34の温度は、触媒に埋設した温度センサにより直接検出することもできるが、本実施形態ではそれを推定することとしている。具体的には、ECU100が、触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54によりそれぞれ検出された触媒前排気温及び触媒後排気温に基づき、触媒温度を推定する。なお推定方法はこのような例に限られない。
NOx触媒34に対する尿素添加量は、NOxセンサ50により検出されるNOx濃度に基づき制御される。具体的には、検出NOx濃度の値が常にゼロになるように尿素添加弁40からの尿素噴射量が制御される。この場合、検出NOx濃度の値のみに基づいて尿素噴射量を設定してもよいし、或いは、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とアクセル開度)に基づいてNOx濃度をゼロとするような基本尿素噴射量を設定し、且つ、この基本尿素噴射量を検出NOx濃度の値がゼロになるようにフィードバック補正してもよい。NOx触媒34が尿素添加時のみNOxを還元可能なので、基本的に尿素は、エンジン運転中且つ燃料噴射実行時に常時添加される。また、NOx還元に必要な最小限の量しか尿素が添加されないよう、制御が行われる。過剰に尿素を添加するとアンモニアが触媒下流に排出されてしまい(所謂NH3スリップ)、異臭等の原因となるからである。
次に、NOxセンサ50の詳細について説明する。図2〜図4にはNOxセンサ50の検出素子部の構造を示す。なお図3には図2のIII−III断面を示し、図4には図2のIV−IV断面を概略的に示す。
NOxセンサ50は、ポンプセルP、モニタセルM及びセンサセルSという3つのセルを有する多セル構造であると共に、複数のシート状材料を積層してなる多層型センサである。本実施形態のNOxセンサ50は排気ガス中のNOx濃度を検出すると同時に、排気ガス中の酸素濃度をも検出可能ないわゆる複合型センサとして構成されている。
NOxセンサ50においては、酸化ジルコニア等の酸素イオン伝導性材料からなる一対のシート状の固体電解質51,52が、アルミナ等の絶縁材料からなるスペーサ53を介して上下方向に積層されている。このうち上側の固体電解質51にはピンホール54が形成されており、このピンホール54を通じてセンサ周囲の排気ガス(被検出ガス)が第1チャンバ55内に導入される。第1チャンバ55は、ガス速度を律速するための律速通路、具体的には絞り56を介して、第2チャンバ57に連通されている。またピンホール54の入口は多孔質拡散層58で覆われ、センサ外部から第1チャンバ55に排気ガスが導入されるときのガス速度が律速されるようになっている。
下側の固体電解質52には、第1チャンバ55内に臨むようにしてポンプセルPが設けられており、ポンプセルPは、第1チャンバ55内に導入した排気ガス中の酸素を排出する或いは汲み出す働きをすると共に、酸素排出の際に排気ガス中の酸素濃度を検出する。ポンプセルPは、下側の固体電解質52と、これを挟んで対向配置された一対の電極59,60から構成され、特に第1チャンバ55内に位置する上側の電極(ポンプセル電極)59はNOxに対して概ね不活性の電極となっている。ポンプセルPは、第1チャンバ55内に存在する酸素を分解して下側の電極60より大気通路61に排出する。
また、上側の固体電解質51には、第2チャンバ57内に臨むようにしてモニタセルM及びセンサセルSが設けられている。モニタセルMは、第2チャンバ57内の酸素濃度に応じて起電力、又は電圧印加に伴う電流を発生する。他方センサセルSは、第2チャンバ57内のガス中のNOx濃度に応じた電流を発生する。
本実施形態では、図3及び図4に示すように、第1チャンバ55から第2チャンバ57へと向かう排気ガスの流れ方向に対して同等位置になるよう、モニタセルM及びセンサセルSが並列に配置されると共に、これらセルM,Sの、上側の大気通路62内に位置する電極が共通電極63となっている。即ちモニタセルMは、上側の固体電解質51とこれを挟んで対向配置された一対の電極即ち電極(モニタセル電極)64及び共通電極63とにより構成され、センサセルSは、同じく上側の固体電解質51とこれを挟んで対向配置された一対の電極即ち電極(センサセル電極)65及び共通電極63とにより構成されている。
下側の固体電解質52の下面にはアルミナ等よりなる絶縁層66が設けられ、この絶縁層66により前記大気通路61が区画形成されている。この絶縁層66には、検出素子部全体を加熱するためのヒータ67が埋設されている。このヒータ79はECU100により後述の如く通電制御される。
第1チャンバ55内に位置するポンプセル電極59と、第2チャンバ57内に位置するモニタセル電極64とは、NOxを還元若しくは分解し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い材料から構成されている。本実施形態の場合、これら電極59,64は、金Auと白金Ptとセラミックスのサーメットからなる。一方、第2チャンバ57内のセンサセル電極65は、NOxを還元若しくは分解し得る触媒能を有し又はその触媒能が高い材料を含む。本実施形態の場合、センサセル電極65は、ロジウムRhと白金PtとセラミックスとしてのジルコニアZrO2からなる多孔質サーメットから構成され、このうちロジウムRhがNOx、特にNOをも還元し得る高いNOx触媒能を発揮する材料をなす。
排気ガスは多孔質拡散層58及びピンホール54を通って第1チャンバ55に導入される。そしてこの排気ガスがポンプセルPを通過する際、その電極59,60間にポンプセル電圧Vpを印加することで、第1チャンバ55内の酸素O2がポンプセル電極59と接触して酸素イオンO2−となる。この酸素イオンO2−は、下側の固体電解質52を通じて他方の電極60に向かって流れる。したがって、第1チャンバ55内の排気ガスに含まれる酸素が大気通路61に排出されることになる。なおポンプセルPに流れた電流(ポンプセル電流Ip)により排気ガスの酸素濃度ひいては空燃比が検出される。ポンプセル電極59により、排気ガス中のNO2がNOに還元されることはあるものの、NOはそれ以上還元されない。したがって第1チャンバ55内ではNOxがNOにほぼ単ガス化され、このNOxを含む排気ガスが絞り56を通じて第2チャンバ57内に導入される。
第2チャンバ57内において、モニタセルMでは、排気ガスの酸素濃度に応じた出力が発生する。モニタセルMの出力は、その電極64,63間に所定の電圧(モニタセル電圧Vm)を印加することで、モニタセル電流Imとして検出される。従ってこのモニタセル電流Imが第2チャンバ57内の酸素濃度を示すこととなる。他方、センサセルSでは、その電極65,63間に所定の電圧(センサセル電圧Vs)を印加することで、ガス中のNOx(殆どがNOである)が還元分解され、分解後の酸素O2がセンサセル電極65と接触して酸素イオンO2−となり、この酸素イオンO2−が上側の固体電解質51を通じて共通電極63に向かって流れ、酸素O2となって大気通路62に排出される。これに加え、センサセルSでは、ポンプセルPと同様の原理で、第2チャンバ57内の酸素O2を分解し酸素イオンO2−として共通電極63に導いて大気通路62に排出する。したがってセンサセルSには、第2チャンバ57内のNOx濃度と酸素濃度との合計濃度に応じた分解電流(センサセル電流Is)が流れることとなる。
ポンプセル電圧Vpは、第2チャンバ57内の酸素濃度が低濃度の所定値(例えば0.01ppm)となるように、言い換えればモニタセル電流Imがその所定濃度に対応した所定値となるように、モニタセル電流Imに基づいてECU100によりフィードバック制御される。このときポンプセル電圧Vpが高いほど、第1チャンバ55から排出される酸素量は多くなり、逆にポンプセル電圧Vpが低いほど、第1チャンバ55から排出される酸素量は少なくなる。こうして第2チャンバ57内の酸素濃度は低濃度の一定値に制御されることとなる。
また、モニタセルMにおいて、第2チャンバ57内の酸素濃度に応じたモニタセル電流Imが流れ、センサセルSにおいて、第2チャンバ57内のNOx濃度と酸素濃度との合計濃度に応じたセンサセル電流Isが流れる。ECU100は、これら電流値Im,Isを取得すると共にセンサセル電流Isからモニタセル電流Imを減算し、その差Ix(=Is−Im)をNOxセンサ50の出力(出力電流)として求めると共に、当該出力Ixに基づいて所定のマップ(関数でもよい。以下同様。)からNOx濃度を求める。
なお、第2チャンバ57内の酸素濃度が低濃度の一定値であること、センサセル電流Isに含まれる酸素分が少ないと考えられること等から、センサセル電流Is自身をNOxセンサ出力Ixとしてもよいし、センサセル電流Isから予め定められた一定値を減じてNOxセンサ出力Ixとしてもよい。
モニタセルMとセンサセルSは、電極64,65におけるNOx触媒能の有無の違い(即ち材質の違い)を除けばほぼ同様に構成されている。具体的には、両電極64,65とも第2チャンバ57内に設置されており、また図3及び図4からも分かるように、両電極64,65は面積、形状も等しい。加えて、両電極64,65は第2チャンバ57内に並列配置されており、第2チャンバ57の入口である絞り56から等距離に位置されている。結果的に、モニタセルMとセンサセルSは感度が同等になり、同等の特性を有することとなる。なお、両電極64,65は第2チャンバ57内に直列配置することも可能である。例えばモニタセル電極64を絞り56に近い上流側に、センサセル電極65を絞り56から遠い下流側に配置してもよい。また両セルに対して共通電極63を用いずに個別の電極を用いることも可能である。
これとは対照的に、ポンプセルPとセンサセルSでは互いに特性等が異なるのが明らかである。例えば両セルの電極59,65は材質のみならず、設置チャンバが異なり、面積も異なる。ポンプセル電極59はセンサセル電極65よりかなり大きく形成されている。
次に、NOxセンサの暖機制御について説明する。
従来の暖機制御では、三つのセルのうちの所定のセル、例えば代表セルとしてのモニタセルMのインピーダンスが検出されると共に、この検出インピーダンスが、当該モニタセルMの高温活性時相当の目標値になるように、ヒータ67がECU100によって通電制御されていた。即ち、エンジンの冷間始動後においてヒータ67を通電すると、モニタセルMの温度が次第に上昇し、図5に示すようにモニタセルMの検出インピーダンスaが低下していく。そしてモニタセルMの検出インピーダンスが活性時相当の十分小さい目標値Ztに達するまでは、ヒータ67に最大電力の100%デューティが供給される。さらにモニタセルMの検出インピーダンスが目標値Ztに達したと同時に(時刻t1)、検出インピーダンスをその目標値Ztに維持するよう、検出インピーダンスに基づきヒータ67への供給電力、具体的にはデューティの値がフィードバック制御される。検出インピーダンスが目標値Ztに達したと同時にセンサが活性化したと判定され、センサの出力電流Ixが利用される。
しかし、前述したように、エンジンの冷間始動後におけるセンサ暖機過程では、センサ全体が冷えており、排ガス温度や周囲の排気管等の温度も低い。そのためセンサ全体における温度分布差が大きく、各セルの温度がばらついている。よって従来の暖機制御のように、モニタセルMのみの検出インピーダンスに基づいて活性判定するやり方では、活性判定時に他のポンプセルP及びセンサセルSが目標温度に達しているとは限らず、他のセルが目標温度に達するまでの間で検出精度が低下するという問題がある。この検出精度の低下は特に低いガス濃度を検出するNOxセンサ50では問題となる。
また、かかる従来の暖機制御によると、センサの活性判定時t1から暫くの間、実際のモニタセルMの温度が変化してしまうという問題がある。
前述したように、モニタセルMの検出インピーダンスとしては、モニタセル自体の真のインピーダンスに、モニタセルとECU100を結ぶリード部70(図4参照)のインピーダンス(抵抗)を加えた値が検出されてしまう。モニタセルMの真のインピーダンスはモニタセルMの温度が高いほど低いが、リード部70のインピーダンスはリード部70の温度が高いほど高いという逆の関係にある。よってセンサ暖機過程において、図5に示すように、真のモニタセルインピーダンスbが徐々に低下していく一方で、リード部インピーダンスcは徐々に上昇していく。見掛け上の検出セルインピーダンスaが目標値Ztに達し、その後目標値Ztに維持されたとしても、その目標値到達時点t1から、リード部70が十分暖まってそのインピーダンスcが安定するまでの間、モニタセル温度は上昇し続け(真のモニタセルインピーダンスbは低下し続け)、その間でセンサの検出精度が低下するという問題がある。
なお、ここでは代表セルをモニタセルMとして説明したが、他のポンプセルP又はセンサセルSとしても同じことが言える。
図6には、モニタセルMの検出インピーダンスa、真のインピーダンスb及びリード部インピーダンスcの温度特性を示す。図示するように、モニタセルMの真のインピーダンスbはモニタセルMの温度が高くなるにつれ徐々に低下し、リード部70のインピーダンスcはリード部70の温度が高くなるにつれ比例的に増加する。これらモニタセルMの真のインピーダンスbとリード部70のインピーダンスcとの和がモニタセルMの検出インピーダンスaとなる。
ここで、モニタセルMのインピーダンス検出方法を説明する。この検出はECU100により、いわゆる掃引法なる方法で実行される。図7に示すように、モニタセルMに印加される電圧Vmを、所定時間(例えば100μs)毎に、単発的且つ瞬時的にΔVmだけ変化させ(つまり交流電圧を瞬間的に印加し)、この電圧変化に応答して表れるモニタセルMの電流Im(交流電流)の変化量ΔImを検出する。そしてここでは前者を後者で割った値Z=ΔVm/ΔImを簡略的にインピーダンスの値として扱う。交流電圧と交流電流との間には、交流電圧の周波数に応じて変化する位相差があり、通常交流電流は交流電圧より僅かに遅れる。本実施形態では、この位相差ができるだけ少なくなるような周波数を選択して用いる。この周波数の値は例えば1〜10kHzの範囲内にある値である。なお、ECU100は、かかるインピーダンス検出とは別のタイミングで、所定のサンプリング周期τ毎に、モニタセルM及びセンサセルSの電圧値及び電流値を検出し、これら電圧値及び電流値に基づいて酸素濃度やNOx濃度を検出するようにしている。
かかる交流電圧の印加や交流電流の取得は、ECU100により、リード部70を介して行われる。リード部70はセンサ側におけるリードパターン、コード、コネクタのほか、センサ外部でセンサ50とECU100を接続するワイヤハーネス等を含み、比較的長距離に亘るものである。よってその温度は環境温度に依存しやすく、冷間始動後は特に、ヒータ67で加熱される各セルの温度と比べて温度上昇しづらい傾向にある。
図8には、(A)従来の活性判定時t1と、(B)その後のセンサの完全暖機時(つまりセンサ全体が暖まった時)とで、モニタセル温度と検出インピーダンスの内訳とがどのように変化していくかを示す。活性判定時t1以降、検出インピーダンスが一定値に制御されるが、リード部70が活性判定時t1にまだ十分暖まっておらずその後温度上昇するので、リード部インピーダンスが増加する。よってその増加分、モニタセルの真のインピーダンスが低下し、モニタセルの温度が上昇する。検出インピーダンスに占めるモニタセルの真のインピーダンスの割合は、活性判定時t1より完全暖機時の方が少なく、よって検出インピーダンス一定でもモニタセル温度は活性判定時t1より完全暖機時の方が高くなる。これらのことから、モニタセルの温度が活性判定時t1とその後で異なることが理解されよう。
こうした従来の暖機制御における課題を解決するため、本実施形態ではECU100により次のような暖機制御を実行する。
従来の暖機制御の欠点は、特定の代表セルの検出インピーダンスのみに基づいてヒータ制御や活性判定を行う点にある。即ち、特定の代表セルの検出インピーダンスに基づくからこそ、その代表セルと他のセルとで活性判定時の暖機状態が異なることがあり、また、代表セル自身においても真のインピーダンス即ちセル温度を把握できないことから、活性判定時以降にセル温度が変化してしまうのである。
そこで、本実施形態の暖機制御では、特定の代表セルの検出インピーダンスではなく、ヒータ67の温度、具体的にはその抵抗値に基づいて、ヒータ制御や活性判定を行う。ヒータ温度は検出素子部全体の温度と相関性がよく、ヒータ67が十分暖まっていれば、検出素子部全体が十分暖まっており、全てのセルが暖機状態になっているとみなすことができ、またリード部70の少なくともセンサ側の部分の温度やインピーダンス(抵抗)も安定している。さらに各セルとリード部70の温度差も小さくなっている。よって、ヒータ67の温度と相関性を有するヒータ67の抵抗を検出し、この検出されたヒータ抵抗に基づいてヒータ制御を行う。なお、ヒータ67の温度が高くなるほどヒータ67の抵抗も高くなる。
ヒータ67に対する通電制御は、定電圧(典型的にはバッテリ電圧、例えば12(V))を用いたデューティ制御によってなされる。またヒータ抵抗の検出は、100%デューティの電力をヒータ67に供給したときにヒータ67に流れる電流を検出することによりなされる。ヒータ抵抗をRh、供給電圧をVh、検出電流をIhとすると、ヒータ抵抗はRh=Vh/Ihから算出される。
図5に示すように、暖機制御開始時以降、ヒータ67には電力が供給され、これに伴ってヒータ温度及びヒータ抵抗dが上昇し、ヒータ電流eは低下していく。このとき、検出されたヒータ抵抗dが、目標温度(約700〜750℃)相当の所定の目標値RhLに近づくよう、ヒータへの供給電力が制御され、より具体的には検出されたヒータ抵抗dに基づいてヒータ67への供給電力(デューティ)がフィードバック制御される。この際、検出されたヒータ抵抗dと目標値RhLとの差が大きいとき(所定値以上であるとき)には最大電力(100%デューティ)を供給するのが好ましい。そして、検出されたヒータ抵抗dが目標値RhLに達したならば(時刻t2)、これと同時に、或いはこの後の所定時点において、活性判定を行い、且つ、暖機制御を、モニタセルの検出インピーダンスに基づくフィードバック制御に切り替える。即ち従来同様、モニタセルの検出インピーダンスaが所定の目標値Ztに維持されるように、ヒータ67への供給電力、具体的にはデューティが制御される。活性判定と同時に暖機が実質的に終了となり、各セルの出力は利用可能となり、NOxセンサ50によるNOx濃度及び酸素濃度の検出が開始される。
ヒータ抵抗Rhの目標値RhLは、モニタセルの温度とヒータ温度との差が比較的小さい所定値以内となったとき(即ち、検出素子部全体が十分暖機されたと推定されるとき)のヒータ抵抗と等しくなるように設定されている。また、ヒータ抵抗の目標値RhLは、モニタセルの検出インピーダンスが目標値Ztに最初に達した時t1よりも遅い時点t2で、ヒータ抵抗Rhが目標値RhLに達するように設定されている。従って、ヒータ抵抗Rhが目標値RhLに達した時に活性判定し、フィードバック制御に移行することにより、活性判定時以降、全てのセルの温度変化を抑制し、セル温度変化による検出精度低下を防止して検出精度を高めることができる。
一方、活性判定時以降は検出インピーダンスに基づくフィードバック制御を行うので、セルから離れたヒータの抵抗値に基づく制御の欠点、即ち排気温度変動等の外乱によるセル温度変動を抑制できる。要するに本実施形態は、検出インピーダンスに基づく活性判定の欠点をヒータ抵抗に基づく活性判定で補い、活性判定時以降のヒータ抵抗に基づく制御の欠点を検出インピーダンスに基づく制御で補うものである。
なお、本実施形態では、前記目標値RhLを下限値とするヒータ抵抗の目標範囲RhL〜RhHが予め設定され、検出されたヒータ抵抗Rhがこの目標範囲に入ったときに活性判定し、ヒータ制御をフィードバック制御に切り替えるようにしている。また、ヒータ電流がヒータ抵抗と相関関係にあるので、ヒータ抵抗の代わりにヒータ電流を用いてもよい。この場合、ヒータ電流が目標値以下に達したとき又は目標範囲に入ったときに、活性判定を行い、且つヒータ制御をフィードバック制御に切り替える。
また本実施形態では、検出されたヒータ抵抗dが目標値RhLに達した時(時刻t2)から、比較的短い所定時間(例えば5秒)を経過した時点で、活性判定を行い、且つ、暖機制御を、モニタセルの検出インピーダンスに基づくフィードバック制御に切り替えるようにしている。このようなディレイを行う理由は、ヒータ抵抗dが目標値RhLに達した時点では検出インピーダンスaと目標値Ztとの差が比較的大きく、セル温度を下げる方向に制御が行われてしまう可能性が高いからである。逆に、かかるディレイを行うようにすれば、切替時点での検出インピーダンスaと目標値Ztとの差を少なくし、切替時点からセル温度をほぼ一定に保つよう制御を行うことができる。
図9は、従来と本実施形態の暖機制御の効果を比較するための概略図である。破線が従来の場合、実線が本実施形態の場合である。図示するように、従来は、活性判定時t1以降もモニタセル温度が暫くの間上昇し、この間で温度変化に基づく検出精度悪化を引き起こしていた。しかし、本実施形態の場合、活性判定時t2以降、モニタセル温度を一定に維持できるので、セル温度変化に基づく検出精度悪化を防止することが可能である。本実施形態では従来より検出インピーダンスに基づくフィードバック制御を開始するタイミングが遅いので、セル温度を目標温度に到達させるタイミングが早くなり、結果的に従来より早いタイミングから正確なセル出力、センサ出力を得ることができるようになる。
以下、ECU100によって実行される暖機制御ルーチンを図10を用いて説明する。当該ルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
最初のステップS101では、エンジン始動後であるか否かが判断される。エンジン始動後でない、即ちエンジンが未だ始動されてないと判断された場合、本ルーチンが終了される。他方、エンジン始動後であると判断された場合、ステップS102において、ヒータ抵抗Rhが検出される。
次のステップS103においては、後述するディレイ完了フラグがオンか否かが判断される。フラグがオンでない(オフである)場合、ステップS104に進んで、検出されたヒータ抵抗RhがRhL≦Rh≦RhHを満たすような所定範囲内にあるか否かが判断される。かかる範囲内にないと判断された場合、ステップS105において、検出されたヒータ抵抗Rhが目標値RhLに近づくようにヒータ供給電力(具体的にはデューティ)がフィードバック制御される。これによりヒータ67は速やかに加熱される。
なお、ヒータ抵抗Rhの所定範囲は例えば0.04(Ω)である。またヒータ抵抗Rhの代用値としてヒータ電流を用いることもできるが、この場合ヒータ電流Ihの範囲は例えば0.4(A)である。
他方、ステップS104において、ヒータ抵抗Rhが所定範囲内にあると判断された場合、ステップS106においてディレイ時間Tが計測される。この計測はECU100に装備されたタイマによって行われ、ステップS104の判定結果が最初にイエスとなった時点から開始される。この後ステップS107では、計測されたディレイ時間Tが所定時間Ts(例えば5秒)を超えたか否かが判断される。ディレイ時間Tが所定時間Ts以内の場合、ステップS105に進んで、ヒータ抵抗Rhに基づくヒータのフィードバック制御が行われる。
他方、ディレイ時間Tが所定時間Tsを超えた場合、ステップS108に進んでディレイ完了フラグがオンされる。そして、ステップS109において、モニタセルMの検出インピーダンスZmが取得されると共に、この検出インピーダンスZmが目標値Ztになるようにヒータ供給電力(具体的にはデューティ)がフィードバック制御される。図示しないが、ステップS108でディレイ完了フラグがオンされると同時に、活性判定がなされ、各セルの出力及びNOxセンサ50の出力Ixが利用可能となる。
また、ステップS103においてディレイ完了フラグがオンである場合には、直接ステップS109に進んで検出インピーダンスZmに基づくヒータのフィードバック制御が実行される。
このルーチンによれば、エンジン始動後の暖機初期過程においてヒータ抵抗Rhがまだ所定範囲内となってないときには、ディレイ完了フラグがオフなので、ステップS105に進んでヒータ抵抗Rhに基づくフィードバック制御が行われる。そしてその後ヒータ抵抗Rhが所定範囲内となっても、ディレイ時間Tが所定時間Tsを超える前は、ステップS105においてヒータ抵抗Rhに基づくフィードバック制御が行われる。ディレイ時間Tが所定時間Tsを最初に超えた時、ステップS108でディレイ完了フラグがオンされ、ステップS109で検出インピーダンスZmに基づくフィードバック制御が行われる。それ以降は、ディレイ完了フラグがオンなので、ステップS103からステップS109に直接進んで検出インピーダンスZmに基づくフィードバック制御が行われる。ディレイ完了フラグが一旦オンとなった後は、たとえヒータ抵抗Rhが所定範囲外となっても、ステップS103からステップS109に至るルートが確立されているので、検出インピーダンスZmに基づくフィードバック制御が継続して実行される。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、エンジン始動時のエンジン冷却水の温度を検出し、この水温が高温の所定値以上であるときには全セルが暖機状態にあるとみなして、始動直後から検出インピーダンスに基づくフィードバック制御を行ってもよい。或いは、エンジンの前回停止時から今回始動時までの時間を検出し、この時間が比較的短い所定時間以内であるときには、全セルが暖機状態に維持されているとみなして、始動直後から検出インピーダンスに基づくフィードバック制御を行ってもよい。前記実施形態では、活性判定前にヒータ抵抗に基づくフィードバック制御を実行するようにしたが、ヒータ抵抗を目標値に近づけるようなオープン制御を実行してもよい。この場合、ヒータに最大電力を連続的に供給してもよいし、最大電力未満の電力を供給してもよい。センサの早期活性化とヒータの耐久性とのバランスを考慮して電力値を適宜設定することができる。前記実施形態ではインピーダンス検出対象のセルをモニタセルとしたが、他のポンプセル又はセンサセルとすることも可能である。また、ヒータ抵抗の目標値を、二以上のセル或いは全てのセルの検出インピーダンスがそれぞれ目標値に最初に達した時よりも遅い時点で、ヒータ抵抗が目標値に達するように設定してもよい。こうするとヒータ抵抗が目標値に達した時点でのセル暖機状態をより多くのセルについて担保でき、活性判定時以降の全てのセルの温度変化をより一層確実に抑制することが可能となる。
本発明は内燃機関以外の任意の技術分野においても適用可能である。また内燃機関に適用する場合、内燃機関は圧縮着火式内燃機関のほか、例えば火花点火式内燃機関、特に直噴リーンバーンガソリンエンジン等であってもよい。また排気浄化システムについても前記尿素SCRシステムの他、任意の排気浄化システムが可能である。NOxセンサは上記の構造に限定されず、またNOxセンサ以外の他のガス濃度センサにも本発明は適用可能である。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。