JP3689932B2 - ガス遮断性透明フィルム - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野に用いられるガス遮断性透明フィルムに係り、特に、透明性とガス遮断性の両方を兼ね備えたガス遮断性透明フィルムの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野に用いられる包装材料は、内容物の変質を防ぐために酸素や水蒸気等に対する高い遮断性(バリア性)を有することが要求される。
【0003】
そのため、従来より塩化ビニリデン樹脂がコートされたポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートまたはエチレンビニルアルコール共重合体等の高分子フィルムのみから成る包装材料や、Al箔若しくはAl蒸着を用いた包装材が一般に用いられている。
【0004】
しかし、高分子フィルムのみから成る包装材はAlを用いた包装材と比較してバリア性が劣る上に温度や湿度の影響を受け易く、他方、Al箔やAl蒸着を用いた包装材はバリア性には優れるものの内容物を透視、確認できないという欠点を有していた。
【0005】
そこで、これ等の欠点を解消する包装材として、最近では酸化珪素薄膜を透明高分子フィルムから成る基材上に蒸着等の気相成長法により形成したガス遮断性透明フィルムが盛んに研究、開発され、その一部は市販されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、酸化珪素薄膜が適用された上記ガス遮断性透明フィルムにおいては、酸化珪素薄膜の酸素と珪素の構成比率によってそのバリア性や着色具合が変化し以下のような不都合が生じていた。
【0007】
すなわち、酸素と珪素の構成比率(O/Si)が約1.7より大きいと殆ど無色透明な膜が得られるがガス遮断性が悪くなり、反対に約1.7より小さくなるとガス遮断性は良くなるが薄黄色の着色が顕著になり、内容物の種類によっては内容物の変色を思わせてしまい実用化できないという問題点を有していた。
【0008】
本発明はこの様な問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、透明性とガス遮断性の両方を兼ね備えたガス遮断性透明フィルムを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は酸化珪素における酸素と珪素の構成比率(O/Si)が約1.7を境にして着色したりガス遮断性が低下する等の原因について鋭意研究したところ以下のような技術的知見を得るに至った。
【0010】
すなわち、酸化珪素における酸素と珪素の構成比率(O/Si)が化学量論組成物である二酸化珪素(SiO2 )の組成に近付くにつれて、酸化珪素薄膜の構造は図2に示すように酸素と珪素が交互に(すなわち−Si−O−Si−O−)リング状に結合されたものとなり、かつ、ダングリングボンドも少ないものになることが推測される。このため、ダングリングボンドに起因した光吸収が少ない分着色され難い反面、上記リング状構造部における空間の存在によりガス遮断性が低下するものと考えられる。
【0011】
他方、酸化珪素における酸素と珪素の構成比率(O/Si)が化学量論組成物である二酸化珪素(SiO2 )の組成からずれる(すなわち構成比率が1.7より小さくなる)につれて、上記酸化珪素薄膜の構造は図3に示すように酸素と珪素が交互にリング状に結合されたものになるがその一部に酸素原子が欠落した部位が存在し、その分、リング形状が小さくなると共にダングリングボンドが多くなることが推測される。このため、ダングリングボンドに起因した光吸収が多くなる分着色され易くなり、かつ、リング形状が小さくなる分上記空間が狭まってガス遮断性が向上するものと考えられる。
【0012】
そこで、この様な技術的知見に基づき本発明者等は以下のような改善方法を検討した。すなわち、酸化珪素薄膜の着色原因となるダングリングボンドの存在を低下させると共に、珪素原子に水酸基(OH)や水素原子(H)が結合できるような構成比率を採った場合、図4に示すように酸素と珪素が交互に結合される部位のリング内に上記水酸基や水素原子が配位されてその空間を狭め、これによりガス遮断性の改善が図れると共に着色の弊害も回避できるのではないかと推測しその実験を試みた。
【0013】
この結果、本発明者等の推測した通りガス遮断性と透明性の両方を兼ね備えた酸化珪素系薄膜(すなわち珪素化合物薄膜)が形成できることが確認された。
【0014】
本発明はこの様な技術的知見に基づき完成されたものである。
【0015】
すなわち、請求項1に係る発明は、
透明高分子フィルムから成る基材と、この基材の少なくとも片面に気相成長法により成膜された無機化合物層とを備えるガス遮断性透明フィルムを前提とし、
上記無機化合物層が、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物により構成されていると共に、上記珪素化合物の珪素と酸素と水素の構成比率が、2≦(y+z)/x≦4、かつ、50/25≦y/z≦50/1を満たすことを特徴とするものである。
【0016】
そして、この発明に係るガス遮断性透明フィルムによれば、無機化合物層を構成する珪素化合物に水素原子が含まれているため、無機化合物層の酸素と珪素の構成比率(O/Si)が1.7より小さい場合には水酸基若しくは水素原子の結合によりダングリングボンドの比率が低減して光吸収に伴う着色を防止でき、また、上記構成比率(O/Si)が1.7より大きい場合には酸素と珪素が交互に結合される部位のリング内に水酸基若しくは水素原子が配位されてそのガス遮断性を改善させることが可能となる。
【0017】
この様な技術的手段において透明高分子フィルムから成る基材とは、通常の包装材料として適用されるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、二軸延伸ナイロン(ONy)フィルム等の機械的強度、寸法安定性のあるフィルムであり、特に、平滑性が優れかつ添加剤の量が少ないフィルムが好ましい。また、必要に応じて基材表面にコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、更には薬品処理、溶剤処理等が施されたものであってもよい。また、この基材の厚さは特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性及び無機化合物層を成膜する際の加工性を考慮した場合、5〜100μmの範囲が好ましい。
【0018】
次に、この発明において透明高分子フィルムから成る基材の少なくとも片面に成膜され、かつ、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物により構成される無機化合物層中のx,y,zの値は、X線光電子分光法(XPS)で測定される珪素(Si)、酸素(O)および水酸基(OH)のピーク強度及び赤外分光(IR)分析のSi−O、Si−H、Si−OH等のピーク強度から求められるものである。
【0019】
また、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物の珪素と酸素と水素の構成比率については、上述したように2≦(y+z)/x≦4で、かつ、50/25≦y/z≦50/1を満たすことを要し、より好ましくは2≦(y+z)/x≦4で、かつ、20/6≦y/z≦20/1の範囲である。
【0020】
y/zが50/1を越えた場合、水素原子の構成比率が小さ過ぎるため従来技術において述べたように膜中の酸素と珪素の原子比、すなわち上記構成比率(O/Si)が約1.7より大きいとガス遮断性が低下することがあり、また、1.7より小さいと薄黄色の着色が顕著になることがあるからである。他方、y/zが50/25未満の場合、水素原子の構成比率が高過ぎるためSixOyHzで表示される珪素化合物膜は無色透明になるがそのガス遮断性が低下することがあるからである。尚、ここでの膜の透明性や着色は、近紫外光(波長:350nm)の透過率と目視検査によっている。
【0021】
また、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物中に、透明性やガス遮断性を損なわない程度の不純物、例えばアルミニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、ナトリウム、カリウム、チタン、ジルコニウム、炭素等を含ませることも可能である。
【0022】
次に、本発明に係る化学式SixOyHzで表示される珪素化合物の膜厚については、50Å〜3000Åの範囲内であることが望ましい。50Å未満であると被膜にならないことがあるためガス遮断性能を充分に果たせなくなり、また、3000Åを越えた場合には被膜の可撓性(フレキシビリティ)が低下し折曲げや引張りによって亀裂が入ることがあるからである。
【0023】
また、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物から成る無機化合物層を透明高分子フィルムから成る基材上に成膜する手段としては特に限定されないが、一酸化珪素(SiO)単体あるいは珪素(Si)と二酸化珪素(SiO2 )の混合物等を原材料とし、水蒸気あるいは水蒸気と酸素ガス等の混合ガスを供給しながら膜形成を行う、いわゆる反応性蒸着や反応性スパッタリング、反応性イオンプレーティングといわれる方法が、膜中に均一に水酸基(OH)や水素(H)を導入できる手段として好ましい。
【0024】
【作用】
請求項1に係る発明によれば、
無機化合物層を構成する珪素化合物に水素原子が含まれているため、無機化合物層の酸素と珪素の構成比率(O/Si)が1.7より小さい場合には水酸基若しくは水素原子の結合によりダングリングボンドの比率が低減して光吸収に伴う着色を防止でき、また、上記構成比率(O/Si)が1.7より大きい場合には酸素と珪素が交互に結合される部位のリング内に水酸基若しくは水素原子が配位されてそのガス遮断性を改善させることが可能となる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0026】
まず、図1は実施例に係る真空蒸着法若しくは反応性蒸着法に適用される装置の構成説明図である。
【0027】
すなわち、この装置においてハウジング7はその内部全体が排気口に接続された排気装置(図示せず)により10-3〜10-6Torrに排気されかつ維持されるように構成されている。
【0028】
透明高分子フィルムから成る基材1は帯状のもので、巻出しロール31から巻出され、ガイドロール32等を通過した後、冷却ロール33に抱かれながら走行し、ガイドロール32等を通過して巻取りロール34に巻取られる。
【0029】
上記基材1の搬送系の下方側には、蒸着材料2が収容された坩堝4と、ハウジング7の外側に配置された電源(図示せず)に接続され加熱源となる電子銃5と、水蒸気等の反応ガスをハウジング7内に導入するためのガス導入管6が配設されている。また、上記坩堝4の近傍には上記電子銃5から発射された電子線を曲げて上記蒸着材料2へ照射させる電磁コイル8が配置されている。また、上記ガス導入管6は、流量計61,62等を介してガスボンベ等(図示せず)に接続されており、ハウジング7内に導入されるガス組成は上記流量計61,62等で制御されるようになっている。尚、ハウジング7内の圧力は、電離真空計9によって蒸着前および蒸着中に亘り測定できるようになっている。
【0030】
この装置を用いてガス遮断性透明フィルムを製造するには、まず、ハウジング7内を排気して真空状態とした後、ガス導入管6から水蒸気単独若しくは水蒸気を含むガスを所定の圧力になるように導入し、かつ、透明高分子フィルムから成る基材1を所定の速度で走行させながら上記蒸着材料2を加熱気化させて基材1面上に析出させる。
【0031】
この様な反応性蒸着の場合、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物の珪素と酸素と水素の構成比率については、ハウジング7内に導入する反応ガスの組成や流量と、上記電子銃5の出力を変えることによって変化される蒸発速度とを制御することにより任意に変えることが可能である。
【0032】
尚、各実施例および比較例で得られたガス遮断性透明フィルムの特性の評価については、以下の酸素透過率、水蒸気透過率、透明性および目視による着色性を測定して行った。
【0033】
(1)酸素透過率(単位:cc/m2 /day)
酸素透過率測定装置(モダンコントロール社製 商品名『MOCON OXTRAN 10/50A』)を用い、25℃−100%RHの雰囲気下で測定した。
【0034】
(2)水蒸気透過率(単位:g/m2 /day)
水蒸気透過率測定装置(モダンコントロール社製 商品名『MOCON PERMATRAN W6』)を用い、40℃−90%RHの雰囲気下で測定した。
【0035】
(3)透明性(単位:%)
分光光度計(島津製作所製 商品名『UV−3100』)を用い、波長350nmの光線透過率を測定して透明性とした。
【0036】
(4)目視による着色性
ガス遮断性透明フィルムの着色具合を目視検査にて評価(比較)した。
【0037】
[実施例1]
装置ハウジング7内を一旦1×10-5Torrまで排気した後、このハウジング7内に水蒸気を3SCCMの速度で供給しながら一酸化珪素(SiO:純度99%)を蒸着材料として約200Å/sの蒸着速度で、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に約500Åの厚さになるように蒸着しガス遮断性透明フィルムを得た。
【0038】
このガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成をXPS(日本電子製 JPS−90SXV)とFT−IR(日本分光製 FT/IR−7000)を用いて分析した結果、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物のx:y:zの比は、7:20:1であった。
【0039】
[実施例2]
水蒸気の供給速度が5SCCMである点を除き実施例1と略同一の条件でガス遮断性透明フィルムを得た。
【0040】
そして、得られたガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成を同様の方法により測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0041】
[実施例3]
装置ハウジング7内を一旦1×10-5Torrまで排気した後、このハウジング7内に酸素を100SCCMの速度でまた水蒸気を3SCCMの速度で供給しながら一酸化珪素(SiO:純度99%)を蒸着材料とし、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に約500Åの厚さになるように蒸着してガス遮断性透明フィルムを得た。
【0042】
そして、得られたガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成を同様の方法により測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0043】
[比較例1]
水蒸気の供給速度が50SCCMである点を除き実施例1と略同一の条件でガス遮断性透明フィルムを得た。
【0044】
そして、得られたガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成を同様の方法により測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0045】
[比較例2]
水蒸気を全く供給していない点を除き実施例1と略同一の条件でガス遮断性透明フィルムを得た。
【0046】
そして、得られたガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成を同様の方法により測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0047】
[比較例3]
酸素の供給速度が100SCCMで水蒸気を全く供給していない点を除き実施例3と略同一の条件でガス遮断性透明フィルムを得た。
【0048】
そして、得られたガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成を同様の方法により測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0049】
[比較例4]
酸素の供給速度が200SCCMで水蒸気を全く供給していない点を除き実施例3と略同一の条件でガス遮断性透明フィルムを得た。
【0050】
そして、得られたガス遮断性透明フィルムの蒸着層の組成を同様の方法により測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
『確認』
蒸着中に微量の水蒸気を供給して蒸着膜を構成する珪素化合物に水素若しくは水酸基が導入された各実施例においては、ガス遮断性(酸素透過率並びに水蒸気透過率)と透明性が共に改善されていることが確認された。
【0053】
但し、水蒸気を供給し過ぎてy/zが50/25未満になると(比較例1)ガス遮断性が悪くなることも確認された。
【0054】
他方、一酸化珪素(SiO)の蒸着中に酸素だけを供給した場合(比較例3および4)には透明性が改善されず、かつ、酸素を過剰に供給した場合(比較例4)にはガス遮断性も低下することが確認された。
【0055】
また、一酸化珪素(SiO)の蒸着中に酸素も水蒸気も供給しないで得られたガス遮断性フィルム(比較例2)は、酸素と珪素の構成比率(O/Si)が約1.7より小さくなるため、ガス遮断性は良好であるが蒸着膜が黄色に着色しその透明性が悪くなることも確認された。
【0056】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、
化学式SixOyHzで表示される無機化合物層の酸素と珪素の構成比率(O/Si)が1.7より小さい場合には光吸収に伴う着色が防止され、また、上記構成比率(O/Si)が1.7より大きい場合にはそのガス遮断性を改善させることが可能となる。
【0057】
従って、透明性とガス遮断性の両方を兼ね備えたガス遮断性透明フィルムを提供できる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において適用された蒸着装置の構成説明図。
【図2】気相成長法により成膜された酸化珪素薄膜の構造の概念図。
【図3】気相成長法により成膜された酸化珪素薄膜の構造の概念図。
【図4】気相成長法により成膜された酸化珪素薄膜の構造の概念図。
【符号の説明】
1 基材
2 蒸着材料
4 坩堝
5 電子銃
6 ガス導入管
7 ハウジング
Claims (1)
- 透明高分子フィルムから成る基材と、この基材の少なくとも片面に気相成長法により成膜された無機化合物層とを備えるガス遮断性透明フィルムにおいて、
上記無機化合物層が、化学式SixOyHzで表示される珪素化合物により構成されていると共に、上記珪素化合物の珪素と酸素と水素の構成比率が、2≦(y+z)/x≦4、かつ、50/25≦y/z≦50/1を満たすことを特徴とするガス遮断性透明フィルム。
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