JP3683984B2 - 透明プラスチックシート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は透明プラスチックシート、特に航空機風防板用透明プラスチックシートに関する。
【0002】
【従来の技術】
メタクリル樹脂はその特徴とする優れた光学的性質や耐候性、高級な質感等を生かして幅広い産業分野で使用されている。その用途は現在更に拡大する傾向にある。特に航空機用風防板としての利用分野は戦前からの重要な利用分野の一つとなっている。
【0003】
航空機風防板及び航空機風防用延伸板の規格としてMIL規格が規定されているが、航空機の発達のためその要求性能が次第に厳しいものになっている。
【0004】
そのため、耐クレイジング性の変更や長期吸水率が新設されたMIL−P−8184Eが設立された。
【0005】
耐クレイジング性は航空機風防板において非常に重要な物性の一つであるが、この物性を向上させる方法として、架橋を行う事が一般的に用いられている。しかし架橋度を強くすると風防への成形を行うことが困難になるという状況となる。また、低い架橋度で耐クレイジング性を向上させる方法として、メタクリル酸メチルにネオペンチレングリコールジメタクリレートを共重合させる方法(特公昭62−192414号公報)が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この方法では耐クレイジング性の改善には効果的ではあるものの、シートの表面に波形のヒケの発生が見られ、このシートを風防板として用いる場合には研削等により表面の平滑化を行う必要がある。
また、航空機用風防板用として用いられているメタクリルアミドとの共重合によっても耐クレイジング性の改善はみられるが、得られるシートに黄帯色の問題を有している。
【0007】
このように、航空機風防板に関する従来の技術では耐クレイジング性の改善を行うことはできるが、得られるシートに着色、表面のヒケ及び長期吸水率の増加等の問題が発生し、満足するシートは得られない状況にある。
【0008】
本発明の目的は、得られるシートに着色及び表面のヒケが無く、耐クレイジング性に優れ、且つ長期吸水率が低い、航空機風防用に適した透明プラスチックシートを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、メタクリル酸メチル100重量部に対し、メタクリル酸0.5〜2.0重量部及びメタクリル酸グリシジル0.5〜1.5重量部を共重合して得られる101.6mm以下の厚みを有する透明シートであって、シートの厚みによって角度偏差が下記の条件1〜条件7のいずれかを満たし、且つ、膨潤度が2.20以下である透明プラスチックシートにある。
【0010】
また本発明の要旨は、メタクリル酸メチル100重量部に対し、メタクリル酸0.1〜0.5重量部及びメタクリル酸グリシジル0.1〜0.5重量部を共重合して得られる101.6mm以下の厚みを有する透明シートであって、シートの厚みによって角度偏差が下記の条件1〜条件7のいずれかを満たし、且つ、膨潤度が2.20〜2.50である透明プラスチックシートにある。
【0011】
(1)条件1:シート厚が1.52mm以上5.59mm未満のシートである場合に、シート端部から25.4mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足する。
【0012】
(2)条件2:シート厚が5.59mm以上6.35mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が9分以内を満足する。
【0013】
(3)条件3:シート厚が6.35mm以上9.53mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が12分以内を満足する。
【0014】
(4)条件4:シート厚が9.53mm以上12.7mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が14分以内を満足する。
【0015】
(5)条件5:シート厚が12.7mm以上25.4mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が12分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が20分以内を満足する。
【0016】
(6)条件6:シート厚が25.4mm以上63.5mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が20分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が25分以内を満足する。
【0017】
(7)条件7:シート厚が63.5mm以上101.6mm以下のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が30分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が35分以内を満足する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明において角度偏差とは、ASTM−D637法においての、スクリーン上の十字線と、投影された十字線との偏差をいう。
【0019】
また膨潤度とは、70℃×96±2時間で真空乾燥した20mm×20mm×6mmの試料片をアセトン中に35℃±1℃で96時間±2時間浸漬した後、下記の式により算出した値をいう。
膨潤度=浸漬後重量/浸漬前重量
【0020】
本発明においては、プラスチックシートを得るためのモノマー組成が、メタクリル酸メチル100重量部に対し、メタクリル酸が0.1重量部又はメタクリル酸グリシジルが0.1重量部未満の場合には、得られるプラスチックシートは耐クレイジング性を満たすことができず、逆に、メタクリル酸が2.0重量部又はメタクリル酸グリシジル1.5重量部を越える場合には、航空機風防板の重要な規格である長期吸水率を満たすことが困難となり、また、得られるプラスチックシートとキャスト重合法における鋳型であるガラス板との剥離が困難となる。
メタクリル酸が0.5〜2.0重量部又はメタクリル酸グリシジルが0.5〜1.5重量部の場合には、プラスチックシートの耐クレイジング性が特に良好である。またメタクリル酸が0.1〜0.5重量部及びメタクリル酸グリシジルが0.1〜0.5重量部のものは成形性が特に優れている。
【0021】
本発明のプラスチックシートは、キャスト重合法により得られ、その際の重合開始剤としては、公知のラジカル開始剤を用いることができる。
【0022】
ラジカル開始剤の具体例としては、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−(2,4−ジメチルイソバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤や、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0023】
また、本発明においては、必要に応じてモノマー組成物中に紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤等の種々の公知の添加剤を適宜均一混合して用いることができる。
【0024】
キャスト重合を行うに際しては、使用する鋳型は特に限定されるものではなく、ガラスや金属製の鋳型等の公知のものを使用することが出来る。
【0025】
上記モノマー組成物の重合条件としては、例えば以下に示す条件が挙げられる。
【0026】
重合反応は初期に水浴槽を用い、20℃〜80℃、好ましくは30℃〜65℃の温度範囲にて重合を行う。水浴槽にて重合を行う際、水温と重合物内部の温度差(ΔT)を、板厚6.35mm未満については3℃以下、好ましくは2℃以下、板厚6.35mm以上25.4mm未満では10℃以下、好ましくは7℃以下、板厚25.4mm以上76.2mm未満では15℃以下、好ましくは10℃以下とすることが望ましい。ΔTが上記の温度を超える場合には、水浴槽での重合における歪みが大きくなり、角度偏差の規格値を越えてしまう傾向がある。角度偏差が大きくなると、シートを通して物を見た場合に、その物体が歪んで見え、航空機用の風防板として適さない。
【0027】
上記重合の後、次いで空気浴槽にて110℃〜140℃、好ましくは120℃〜135℃の範囲で後重合することが望ましい。この範囲より温度が低い場合、残存するモノマーを低下させるために要する時間が長くなる。また、これより温度が高い場合には、逆に残存するモノマーが増加する。
【0028】
次いで、得られたシートを空気炉により150℃〜200℃、好ましくは170℃〜190℃の範囲にて熱処理を行う。この範囲より熱処理温度が低い場合、得られるシートの膨潤度を2.20倍以下にするために要する熱処理時間が長くなる。また、熱処理温度がこの範囲より高い場合には、残存するモノマーが多くなる。
その後、シートに反りがないように十分な冷却速度で室温まで冷やす。このようにして得られるシートは着色及びヒケがなく耐クレイジング性に優れ、長期吸水率が低く、航空機風防用に適している。
【0029】
また、耐クレイジング性は、シートの表面状態の影響を強く受ける。表面に異物がある場合、耐クレイジング性が低下する事がしばしば見受けられる。このため5μm以上の表面異物は1mm2あたり15個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましい。尚、表面異物の大きさは、円形の場合は直径で、異形の場合は最長部の長さで表示する。
【0030】
このように表面異物の少ないプラスチックシートは耐クレイジング性に優れており、航空機風防用に適している。
【0031】
本発明のシートは2軸延伸板としても使用できる。延伸後のシートの重要な物性として、シートの加熱収縮率及びクラック伝播抵抗性がMIL−P−25690Bに定められている。クラック伝播抵抗性の規格を満たすためには、シートの膨潤度が1.90倍以上であることが好ましい。
【0032】
延伸を行うに当たっては、延伸可能な温度まで加熱し、1軸方向にあたり60%〜80%、好ましくは、65%〜75%の範囲で2軸延伸を行う。60%未満では延伸が不十分なため、また、80%を越える場合においては過延伸となりクラック伝播抵抗性の規格である1470kg/cm 3/2 以上を満たすことが難しい。
【0033】
また加熱収縮率の規格を満たすためには、延伸板に残存するメタクリル酸メチルの量を1.2重量%以下にし、且つ、一軸方向あたり60%以上の延伸を行うことが好ましい。残存するメタクリル酸メチルの量が1.2重量%を越える場合、環境温度110℃における加熱収縮率が規格値である10%を越える場合があり、また、環境温度145℃での加熱収縮率の規格値である37.5%以上とするためには60%以上の延伸が好ましい。
【0034】
このようにして得られる延伸シートは、クラック伝播抵抗性及び加熱収縮率が改良さている。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0036】
尚、本発明における耐クレイジング性、クラック伝播抵抗性、長期吸水率及び加熱収縮率の評価はMIL−P−8184E及びMIL−P−25690Bに従って実施した。
【0037】
<実施例1>
メタクリル酸メチル(MMA)100重量部に対し、メタクリル酸(MAA)0.6重量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)1.0重量部を添加した重合原液に、ラウロイルパーオキサイト0.1重量部、エアロゾールOT(アメリカンシアナミド社製離型剤)0.02重量部及びジラウリルチオジプロピオネート0.05重量部を添加し、均一に攪拌した後、2枚の強化ガラスの間に塩化ビニルのチューブを挟んだ強化ガラスセル中に流し込み、重合初期に40℃の水浴槽において、30時間重合し(△T=1.5℃)、その後、130℃の空気浴槽において3時間重合し、1050mm×1050mm、板厚6mmのシートを得た。
【0038】
このシートを180℃で3時間の熱処理を行い、2時間で室温まで徐冷した後、膨潤度、耐クレイジング性、長期吸水率及び角度偏差の測定を行った。また、この熱処理を行ったシートのクラック伝播抵抗性及び加熱収縮率の測定を行った。得られた結果を表1に示した。
【0039】
表1における表記方法、測定条件は以下の通りである。
[注1]共重合モノマー組成:
メタクリル酸メチル100重量部に対するMAAとGMAの添加量(重量部) で表示する。
[注2]角度偏差測定条件:
イ:シート端部から76.2mmより内部で測定する。
ロ:シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で測定する。
[注3]耐クレイジング性測定溶媒:
A:トルエン/イソブチルアセテート=1/2(重量比)
B:イソプロパノール
[注4]成形性評価条件:
直径500mmのシートを切り出し、周囲の50mm分をクランプで留め温 度140℃及び150℃で0.6kg/cm2の内圧をかけてフリーブロー成 形する。両温度における成形高さの差を求めその値で示す。
[注5]表面異物の測定条件:
400倍の光学顕微鏡にて0.07mm2の部分5ヶ所について5μ 以上の大きさの異物を測定し、1mm2当たりに換算する。
【0040】
<実施例2〜3>
表1に記した共重合モノマー組成のものを使用し、それ以外の条件は実施例1と同様にしてシートを得、各種評価を実施し表1の結果を得た。
【0041】
<実施例4〜6>
それぞれ実施例1〜3により得られたシートを2軸延伸し、クラック伝播抵抗性、加熱収縮の測定を行い、表1の結果を得た。
【0042】
<実施例7>
メタクリル酸の添加量を0.1重量部、メタクリル酸グリシジルの添加量を0.15重量部とする以外は実施例1と同様にして重合し、板厚6mmのシートを得、180℃で3時間熱処理し、2時間で室温まで徐冷した。
次いで、このシートを400mm×400mmのサイズに切断し、アルミナ研吊液(0.3μm)を浸したネルを用いてシート表面を2時間手研磨した。
得られたシートについて各種評価を実施し、その結果を表1に示した。
尚、手研磨を行わないシートの5μm以上の表面異物は50個/mm2であった。
【0043】
<実施例8>
表1に記載した共重合モノマー組成のものを使用しそれ以外の条件は実施例7と同様にしてシートを得、各種評価を実施し、表1の結果を得た。
尚、手研磨を行わないシートの5μm以上の表面異物は55個/mm2であった。
【0044】
<比較例1>
表1に記したモノマー組成のものを使用する以外は実施例1と同様にしてシートを得た。実施例1または実施例4と同様にして各種評価を実施し、表1の結果を得た。
【0045】
【表1】
【0046】
【発明の効果】
本発明のプラスチックシートは透明であり、着色及び表面のヒケが無く、耐クレイジング性に優れ、且つ長期吸水率が低く、航空機風防用に適している。また熱収縮率が所定値以下のシートは2軸延伸板の規格を満たすものである。
Claims (5)
- メタクリル酸メチル100重量部に対し、メタクリル酸0.5〜2.0重量部及びメタクリル酸グリシジル0.5〜1.5重量部を共重合して得られる101.6mm以下の厚みを有する透明シートであって、シートの厚みによって角度偏差が下記の条件のいずれかを満たし、且つ、膨潤度が2.20以下である透明プラスチックシート。
(1)条件1:シート厚が1.52mm以上5.59mm未満のシートである場合に、シート端部から25.4mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足する。
(2)条件2:シート厚が5.59mm以上6.35mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が9分以内を満足する。
(3)条件3:シート厚が6.35mm以上9.53mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が12分以内を満足する。
(4)条件4:シート厚が9.53mm以上12.7mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が7分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が14分以内を満足する。
(5)条件5:シート厚が12.7mm以上25.4mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が12分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が20分以内を満足する。
(6)条件6:シート厚が25.4mm以上63.5mm未満のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が20分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が25分以内を満足する。
(7)条件7:シート厚が63.5mm以上101.6mm以下のシートである場合に、シート端部から76.2mm以上内部で角度偏差を測定したときの値が30分以内を満足し、シート端部から25.4mm以上76.2mm未満の場所で角度偏差を測定したときの値が35分以内を満足する。 - 膨潤度が1.90〜2.20であって、110℃、24時間保持後の熱収縮率が10.0%以下であり、且つ、145℃、24時間保持後の熱収縮率が37.5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明プラスチックシート。
- メタクリル酸メチル100重量部に対し、メタクリル酸0.1〜0.5重量部及びメタクリル酸グリシジル0.1〜0.5重量部を共重合して得られる101.6mm以下の厚みを有する透明シートであって、シートの厚みによって角度偏差が請求項1の条件1〜条件7のいずれかを満たし、且つ、膨潤度が2.20〜2.50である透明プラスチックシート。
- 110℃、24時間保持後の熱収縮率が10.0%以下であり、且つ、145℃、24時間保持後の熱収縮率が37.5%以上であることを特徴とする請求項3に記載の透明プラスチックシート。
- 5μm以上の表面異物が1mm2あたり5個以下であることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の透明プラスチックシート。
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