JP3681844B2 - 誘電体薄膜及びセラミックコンデンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体薄膜およびセラミックコンデンサに関するものであり、例えば、1層当りの膜厚が5μm以下の高周波用積層セラミックコンデンサ等に用いられるペロブスカイト型複合酸化物からなる誘電体薄膜およびセラミックコンデンサに関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子機器の小型、薄形化に伴い、電子部品の小型化,薄膜化が要求されている。特に受動部品であるコンデンサの小型、薄形化は必須となっている。また、コンピュータ等の高速デジタル回路を用いた電子機器は高周波化の流れにあり、数10MHzから数100MHzの動作周波数帯域が重要になっている。これにともない、コンデンサ等の受動部品も高周波もしくは高速パルスに対して優れた特性を示すことが必須になってきている。
【0003】
コンデンサを小型高容量にするためには一対の電極に挟持された誘電体を薄くし、薄膜化することが最も有効である。また、近年電子機器の集積化すなわち電子部品の内蔵化が進んでおり薄膜化が最も有力である。
【0004】
一方で、薄膜化によりDCバイアス電圧印加下での特性が問題になってくる。
【0005】
即ち、コンデンサは数ボルト以下のDC電圧が印加された状態で使用される為、DCバイアス電圧印加下での誘電特性が重要であるが、特に薄膜では、バルクと同様にDC電圧の印加に対して電界強度は誘電体の厚さに逆比例して大きくなる為、DCバイアス電界に対して比誘電率の減少の小さい材料が必要である。
【0006】
また、典型的なコンデンサ材料であるBTや、PMNのようなリラクサ材料は1KHz程度の低周波領域においては大きな比誘電率を示し、コンデンサ材料として優れた材料であるが、周波数分散が大きいため、高周波領域における比誘電率の減少が大きいと考えられ、高周波領域では高誘電率材料として使えないと考えられてきた(特開平6−77083号公報参照)。
【0007】
この為、従来薄膜コンデンサ材料として、比誘電率は小さいが、比誘電率の温度変化率が小さく、自発分極がないために自発分極に起因するDCバイアス依存性や、高周波領域での比誘電率の減少が小さい常誘電体であるTa2 O5 やSrTiO3 が主に研究されてきた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらのTa2 O5 やSrTiO3 薄膜材料は1KHz程度の低周波数においても比誘電率が最大でも数百程度であり、薄膜コンデンサをさらに小型、高容量化するのは困難であった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の問題点に対して検討を重ねた結果、Bサイト元素であるTi原子をSn原子で2mol%から20mol%置換し、ペロブスカイト結晶の平均結晶粒径を0.045〜0.185μmに制御した、即ち、BaTi1-x Snx O3 と表した時のxおよびペロブスカイト結晶の平均結晶粒径d(μm)を、図1における線分A−B−C−D−E−F−G−H−Aで囲まれる範囲内とすることにより、粒径の細かい誘電体薄膜においても、1kHzのみならず100MHzの様な高周波においても比誘電率が大きくなり、かつDCバイアスに対する特性も良好となることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明の誘電体薄膜は、金属元素としてBa、TiおよびSn、並びに不可避不純物からなるペロブスカイト型複合酸化物であって、これらの成分をBaTi1−xSnxO3と表した時のxおよびペロブスカイト結晶の平均結晶粒径d(μm)が、図1における線分A−B−C−D−E−F−G−H−Aで囲まれる範囲内のものである。本発明の誘電体薄膜は、測定周波数100MHz(室温)における比誘電率が1000以上である。
【0011】
また、本発明のセラミックコンデンサは、上記した誘電体薄膜の両面に電極を形成してなるものである。
【0012】
【作用】
BaTiO3 系の誘電体材料においては、120℃、10℃、−70℃に相転移点が存在し、その近傍で比誘電率が高くなっている。つまり室温付近はこの相転移点の中間に存在し、温度特性は良好であるが比誘電率はあまり大きくない。
【0013】
本発明の誘電体薄膜では、BaTiO3 のTi原子をSn原子にて置換することにより、3点の相転移点を室温付近にシフトし、室温で3種類の強誘電体相を存在させることにより、高い比誘電率を実現している。
【0014】
また薄膜中の平均結晶粒径を細かくしていった場合、強誘電体的性質に常誘電体的性質が現れるために、比誘電率は多少低下するが直流電圧がかかった状態の比誘電率の低下が抑制され、DCバイアス特性は良好となる。
【0015】
さらに、100MHzの様な高周波領域においても強誘電性の起源である自発分極が消失するため、自発分極に起因する誘電率の周波数分散が小さくなり、高周波領域においても大きな比誘電率を示す。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明においては、BaTi1-x Snx O3 と表した時のxが0.02〜0.20であり、平均結晶粒径dが0.045〜0.185を満足するものである。
【0017】
xの値を0.02〜0.20としたのは、xが0.02よりも小さい場合にはBaTiO3 のサイズ効果により比誘電率が小さくなり、xが0.20よりも大きい場合には比誘電率が最大となる温度が室温以下となり、室温近傍の比誘電率が小さくなるからである。BaTi1-x Snx O3 と表した時のxは0.04〜0.13であることが、室温で比誘電率が大きくなる点から望ましい。
【0018】
また、平均結晶粒径dを0.045〜0.185としたのは、平均結晶粒径dが0.045よりも小さい場合には比誘電率が小さくなるからであり、dが0.185よりも大きい場合には、DCバイアスに対する比誘電率の変化率が大きくなるからである。
【0019】
そして、BaTi1-x Snx O3 と表した時のxの範囲および平均結晶粒径dは、図1における点A,B,C,D,E,F,G,Hで囲む線分の範囲内にある必要がある。
【0020】
即ち、(xの値,平均結晶粒径d)で表される点A(0.02,0.09),B(0.02,0.185),C(0.04,0.185),D(0.10,0.16),E(0.16,0.10)、F(0.20,0.08)、G(0.10,0.045)、H(0.07,0.045)で囲む線分の範囲内である必要がある。この範囲内としたのは、上記した理由、および図1において線分AHGFよりも下方にある部分では、比誘電率が小さくなるからである。また線分CDEFよりも上方にある部分では、DCバイアスに対する比誘電率の変化率が大きくなるからである。
【0021】
BaTi1-x Snx O3 と表した時のxの範囲および平均結晶粒径dは、図1における点I,J,D,Lで囲む線分の範囲内にあることが、比誘電率向上およびDCバイアス特性の向上という観点から望ましい。ここで、I(0.02,0.115)、J(0.02,0.160)、D(0.10,0.160),L(0.10,0.115)である。
【0022】
本発明の誘電体薄膜は、先ず、金属元素としてBa,Ti,Snを含有するペロブスカイト型複合酸化物であって、これらの成分をBaTi1-x Snx O3 と表した時のxが0.02〜0.20である原料溶液を作製し、この溶液を基板上に塗布した後、乾燥し、熱処理を繰り返して所望厚さの膜を形成し、焼成することにより得られる。
【0023】
即ち、本発明で用いられるペロブスカイト型酸化物はBaTi1-x Snx O3 で表され、図1に示すようにxの範囲が0.02〜0.20であり、結晶粒径の範囲が0.045〜0.185μmの値を満足する誘電体薄膜は、各成分の組成の制御、膜厚、微粒領域(0.045〜1μm)での結晶粒径の制御が比較的容易な、以下のような方法で形成することが望ましい。
【0024】
先ず、Ba,Ti,Snの各金属イオンを含有する有機酸塩,無機塩,あるいは金属アルコキシドのような有機金属化合物を出発原料とし、BaTi1-x Snx O3 におけるxの範囲が0.02〜0.20を満足する組成となるように混合し、原料溶液を調製する。
【0025】
次に、この原料溶液を基板上に塗布する。溶液の塗布はスピンコーティング,ディップコーティングなどの種々の方法により行うことができる。次に、こうして基板上に塗布された塗膜を脱脂するために大気中で200〜600℃で1〜2分間脱脂用熱処理を行い、この後、結晶化するために大気中で700〜900℃で30秒〜10分間結晶化用熱処理を行う。これらの塗布〜結晶化用熱処理の一連のプロセスを繰り返すことにより所望の膜厚の誘電体薄膜を得、最後に0.045〜0.185μmの平均結晶粒径を得るために酸素含有雰囲気中で900〜1140℃で10分間〜3時間焼成を行い、厚みが5μm以下の本発明の誘電体薄膜を得る。粒径は焼成温度で制御した。本発明では、誘電体薄膜の厚みは耐絶縁性および膜の均質性という観点から、0.3〜2μmが望ましい。
【0026】
また、本発明の誘電体薄膜では、不可避不純物として、Sr,Ca,Na等が1重量%以下混入する場合があるが、特性には影響はない。
【0027】
本発明の誘電体薄膜は、該誘電体薄膜の上下面に電極を形成して薄膜コンデンサを形成したり、また、誘電体薄膜と電極層を交互に積層して積層コンデンサを形成したりして用いられる。
【0028】
誘電体薄膜を挟持する電極としては、厚さ0.05μm以上の配向した白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)薄膜等があり、これらのうちでも配向した白金(Pt)と金(Au)薄膜が最適である。Pt、Auは膜との反応性が小さく、また酸化されにくい為、膜との界面に低誘電率相が形成されにくい為である。膜厚を0.05μm以上としたのは0.05μm未満であると高周波領域における等価直列抵抗が大きくなるためである。配向した白金(Pt)薄膜とは、配向性または単結晶的白金(Pt)薄膜であり、配向性を有するPt薄膜とは、3つの結晶軸のうち一つの軸が膜表面に近似的に垂直な方向に揃った膜であり、単結晶的Pt薄膜とは3つの結晶軸が全て揃った膜である。このような電極は、スパッタ蒸着やレーザ蒸着法等物理的蒸着において、電極が形成される基板温度を450℃以上とすることにより得られるもので、これらのうちでも、基板温度を450℃以上としたスパッタ蒸着が望ましい。
【0029】
また、金属薄膜を蒸着する基板としては、アルミナ、サファイア、MgO単結晶、SrTiO3 単結晶、チタン被覆シリコン、または銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、ステンレススティール(Fe)薄膜もしくは薄板が望ましい。特に、薄膜との反応性が小さく、安価で、硬度が大きく、かつ金属薄膜の結晶性という点からアルミナ、サファイアが望ましく、高周波における低抵抗化の点で銅(Cu)薄板もしくは銅(Cu)薄膜が望ましい。
【0030】
【実施例】
出発原料としてテトラ−イソ−プロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシスズを、溶媒である2−メトキシエタノールに溶かし、それぞれチタン溶液とスズ溶液を作製した。また金属バリウムを、溶媒である2−メトキシエタノールに溶解させ、バリウム溶液を作製した。これらの3種の溶液を、BaTi1-x Snx O3 と表した時のxが表1の値となるように混合して原料溶液を調製した。
【0031】
ついで、これら各原料溶液を白金(Pt)基板上にそれぞれスピンコートし、得られた塗膜に対して大気中300℃で1分間脱脂用熱処理を行い、この後、大気中750℃で5分間結晶化用熱処理を行った。このようなスピンコートによる溶液の塗布から結晶化用熱処理までの一連のプロセスを30回繰り返し行い、膜厚が0.8μmの薄膜を形成し、酸素雰囲気中900〜1140℃で1時間焼成を行い、表1の平均結晶粒径dの誘電体薄膜を得た。
【0032】
得られた誘電体薄膜をX線回折測定(XRD)により分析を行ったところ、いずれもペロブスカイト型酸化物のピークが確認された。また誘電体薄膜を走査電子顕微鏡(SEM)により観察し、平均結晶粒径を測定した。さらに、誘電特性の評価は、誘電体薄膜上にAuを蒸着して上部電極とし、下部電極であるPt層と平板コンデンサを形成することにより行った。測定はLCRメ−タ−(ヒュウレットパッカ−ド製4284A)を用いて行い、測定周波数f=1kHz、印加電圧Vrms =100mVとした。室温での比誘電率(K)、誘電損失(DF)を測定した。DCバイアス特性を、電圧を印加しない場合の比誘電率K0 、5MV/mの電圧を印加したときの比誘電率K1 とした時に、(K0 −K1 )/K0 ×100で表される比誘電率の変化率で求めた。
【0033】
また、インピーダンスアナライザ(ヒュウレットパッカード社製HP4291A,フィクスチャーHP16092A)を用いて1MHz〜1.8GHzにおける特性評価をおこなった。インピーダンスー周波数特性の測定により、100MHz(室温)における等価直列容量を評価し、比誘電率を求めた。
【0034】
【表1】
【0035】
表1から判るように、図1の点A,B,C,D,E,F,G,Hの線分で囲まれる本発明の誘電体薄膜は、測定周波数1kHz(室温)および100MHzにおいて1000以上の高誘電率を有し、また1kHzでの誘電損失も1.38〜2.70%と小さいことが判る。また、本発明では、DCバイアスに対する比誘電率の変化率は、5MV/m印加時においても40%未満の低下である。特に、点I,J,D,Kを結ぶ線分で囲まれる範囲内では、測定周波数1kHzおよび100MHzで比誘電率が1350以上となっていることが判る。
【0036】
これに対して、比較例ではいずれも1kHz及び100MHzにおける比誘電率がそれぞれ1000よりも低いか、または、DCバイアスに対する比誘電率の変化率が40%よりも大きい場合があることが判る。
【0037】
さらに、粉体を原料として作製した粒径が10μm以上の従来のBaTiO3 系材料では、高誘電率を有するもののDCバイアスに対する比誘電率の変化率は5MV/m印加時に70%の低下であり、本願発明では優れた誘電特性を有することが判る。
【0038】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の誘電体薄膜は、DCバイアス特性、温度特性が優れているうえに、100MHzの様な高周波においても比誘電率が大きい為、素子の小型化を図ることができるとともに、ICまわりのデカップリングコンデンサ等の高周波で用いられるコンデンサとして広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】縦軸に本発明の誘電体薄膜の平均結晶粒径d、横軸に本発明の誘電体薄膜の組成式におけるxを記載した図である。
Claims (3)
- 金属元素としてBa、TiおよびSn、並びに不可避不純物からなるペロブスカイト型複合酸化物であって、これらの成分をBaTi1−xSnxO3と表した時のxおよびペロブスカイト結晶の平均結晶粒径d(μm)が、図1における線分A−B−C−D−E−F−G−H−Aで囲まれる範囲内にあることを特徴とする誘電体薄膜。
( x 、 d )
A(0.02、0.090)
B(0.02、0.185)
C(0.04、0.185)
D(0.10、0.160)
E(0.16、0.100)
F(0.20、0.080)
G(0.10、0.045)
H(0.07、0.045) - 測定周波数100MHz(室温)における比誘電率が1000以上であることを特徴とする請求項1記載の誘電体薄膜。
- 請求項1記載の誘電体薄膜の両面に電極を形成してなることを特徴とするセラミックコンデンサ。
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