JP3676840B2 - トリフェニレン誘導体 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は液晶材料として有用な新規な化合物であるトリフェニレン誘導体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、液晶表示素子はワードプロセッサー、パーソナルコンピューター、テレビなどに広く用いられるようになり、それに関連する素材、装置などの産業活動が活発に行われている。液晶表示材料の基本的な素材である液晶化合物についても活発な開発研究が行われ、数多くの化合物が開発されてきた。これらの化合物は、表示素子に限らず種々の用途への利用に向け開発が行なわれている。従来からよく知られ、利用されている棒状の液晶化合物に加え、最近では円盤状の液晶化合物、いわゆるディスコティック液晶化合物が注目を浴びるようになった。
【0003】
ディスコティック液晶化合物の代表的なものとしては、C. Destrade らの研究報告[Mol. Cryst. Liq. Cryst. 71巻、111頁(1981年)]に記載されているように、例えばベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体等を挙げることができる。ディスコティック液晶化合物は、一般に、これらを分子の中心の母核とし、直鎖のアルキル基、アルコキシ基あるいは置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された構造を有する。
【0004】
ところで、液晶の代表的な構造である棒状の化合物において知られているように、その構造の微妙な違いにより、形成される液晶相及び各相間の転移温度はしばしば著しく変化する。このことは、棒状液晶化合物に限られることではなく、ディスコティック液晶化合物においても当てはまる。最適な液晶相、各相関の転移温度は、目的とする素子によって異なり、従って種々の目的に対応できるように選択の幅を広げるためには、多種多様な化合物を用意することが必要である。しかしながら、ディスコティック液晶化合物においては、未知な化合物が多く、その特性も充分に知られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者の検討によると、ディスコティック液晶化合物のなかでもトリフェニレン誘導体は、光学素子、導電性膜等の電子材料として利用する上で、その特性の異方性が発現するために好ましい分子配向としてのモノドメイン性の液晶相であるディスコティックネマティック相を形成し易く、有用な化合物が多いことが明らかとなった。そして、特に下記の一般式(I)を有するトリフェニレン誘導体は、流動性の高い液晶相への転移温度が低く液晶材料として有用な化合物であることが明らかとなった。
従って、本発明の目的は、液晶材料として有用な新規なトリフェニレン誘導体を提供することにある。
特に、本発明の目的は、流動性の高い液晶相への転移温度が低い液晶化合物で、液晶薄膜形成時に、低温で配向可能な液晶化合物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、下記の一般式(I)で表されるトリフェニレン誘導体の化合物により本発明の目的が達成できることを見出した。
【0007】
【化3】
Figure 0003676840
[但し、Rは
【0008】
【化4】
Figure 0003676840
{但し、YはH、Cl、F、Br、低級アルキル基またはアルコキシ基を表わし、Zは−((CH2)q −O)p−A(但し、pは1〜10の整数を表わし、qは2〜8の整数を表わし、p≧2の時は各々のqは互いに異なってよく、そしてAは水素原子または炭素原子数1〜21の炭化水素基を表わす)、mは0又は1を表わし、そしてnは1〜5の整数を表わす}を表わす。]
上記トリフェニレン誘導体は、例えば、光学補償シートの作成に使用することができる。即ち、光学補償シートが透明支持体と液晶層からなるシートの場合、上記トリフェニレン誘導体をこの液晶層を構成する液晶として使用することができる。この際、液晶層の下に配向膜を形成する等により液晶を配向させことが好ましい。
【0009】
以下に、本発明の化合物について詳細に説明する。
本発明のトリフェニレン誘導体は、トリフェニレン環の2,3,6,7,10,11位に置換しているベンゾイルオキシ基(一般式(I)においてmが0の場合)またはシンナモイルオキシ基(一般式(I)においてmが1の場合)の芳香環がエーテル結合を有する少なくとも1つのアルコキシ基により置換されることを特徴とする。
Zで表わされる置換基に含まれるAで表わされる基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基等の炭素原子数〜21の炭化水素基を挙げることができる。好ましくは炭素原子数1〜21のアルキル基、炭素原子数1〜21のアルケニル基および炭素原子数7〜21のアラルキル基であり、さらに炭素原子数1〜21(好ましくは炭素原子数1〜6)のアルキル基および炭素原子数〜21(好ましくは炭素原子数2〜4)のアルケニル基が好ましく、特に炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
pは1〜4の整数(特に1または2)が好ましく、qは2〜6の整数(特に2〜4)が好ましい。
【0010】
Y(芳香環に置換しても良いその他の置換基)としては、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基)、及びアルコキシ基(例、メトキシ基及びエトキシ基)を挙げることができる。好ましくは水素原子及び低級アルキル基であり、特に水素原子及びメチル基が好ましい。
nは1〜3の整数(特に1又は2)が好ましい。
【0011】
以下に、本発明の化合物の具体例(一般式(I)におけるRの例)を挙げる。
【0012】
【化5】
Figure 0003676840
【0013】
【化6】
Figure 0003676840
【0014】
【化7】
Figure 0003676840
【0015】
【化8】
Figure 0003676840
【0016】
【化9】
Figure 0003676840
【0017】
【実施例】
本発明の液晶化合物を合成するための一般的な反応経路を、TP−2の化合物を例にとり下記に示す。
【0018】
【化10】
Figure 0003676840
【0019】
すなわち、ヘキサヒドロキシトリフェニレンの合成とエーテル鎖を有する置換安息香酸の酸塩化物の合成及びそれらの縮合である。
【0020】
本発明の液晶の母核の原料である、2,3,6,7,10,11−ヘキサメトキシトリフェニレンの合成法は、Advanced Material. 2 (1990) No.2の40頁に記載されており、本発明においては、その処方に準じて合成した。また2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニリンについては、同様に上記文献に記載されている21011−ヘキサアトキシトリフェニレンの合成法の途中で添加される無水酢酸を添加せずに後処理を行ない、同様の収率で目的物を得た。
【0021】
以下に、本発明の液晶化合物の合成方法を、具体的に示す。
【0022】
[合成例1](TP−2)
2,3,6,7,10,11−ヘキサメトキシトリフェニレン(TP−2A)の合成
氷冷した2リットルの三口フラスコに、150gの塩化第二鉄と氷水135mlを入れ、完全に溶解した後、30gのベラトロールを添加した。メカニカルスタラーで激しく攪拌しながら、濃硫酸450mlを徐々に添加した。12時間後、この反応混合物を3リットルの氷水中に注ぎ、3時間後析出物を濾過し、TP−2Aの粗結晶13g(収率:43%)を得た。
【0023】
2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン(TP−2B)の合成
10.3gのTP−2Aを50mlのジクロロメタンに懸濁させ、三臭化ホウ素15.5mlを徐々に添加した。2時間後、氷水500ml中に注ぎ、これを2.5リットルの酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、セライト濾過を行なった。溶媒を減圧濃縮後、残渣をアセトニトリルとジクロロメタンの混合溶媒から再結晶し、7.50g(収率:92%)のTP−2Bを得た。
【0024】
4−(3,6−ジオキサヘプチルオキシ)安息香酸(TP−2C)の合成
1リットルの三口フラスコに、4−ヒドロキシ安息香酸32.0g、3,6−ジオキサヘプチルクロリド100ml、炭酸カリウム150g及びアセトニトリル100mlを入れ、湯浴上で加熱還流下、メカニカルスタラーで6時間激しく攪拌した。冷却後、反応混合物をセライト濾過し、300mlの酢酸エチルで洗浄した。濾液を減圧濃縮後、200mlのエタノールに再溶解し、15gの水酸化カリウムを溶解した水溶液40mlを徐々に滴下し、80℃で1時間加熱攪拌した。冷却後、希塩酸1リットル中に注ぎ、析出した結晶を減圧濾過し、氷水300mlで洗浄した。風乾後、38g(収率:68%)のTP−2Cを得た。
【0025】
2,3,6,7,10,11−ヘキサ[4−(3,6−ジオキサヘプチルオキシ)ベンゾイルオキシ]トリフェニレン(TP−2)の合成
200ml三口フラスコに8.34gのTP−2Cと10mlの塩化チオニルを入れ、2時間加熱還流した。加熱した状態で、減圧下、過剰の塩化チオニルを留去した。冷却後、0.7gのTP−2Bと20mlのピリジンを添加し、20時間攪拌した。減圧下、過剰のピリジンを留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いてTP−2を単離精製した。収量は、23.05g(収率:75%)であった。
【0026】
TP−2の同定データ
IR(cm-1
3080,2980,2930,2880,2830,1745,1610,
1585,1515,1455,1420,1360,1315,1250,
1200,1175,1125,1075,1060,1010,990,
940,925,905,850,815,760,695,660,
635,605
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−87℃−液晶相−125℃−流動性液晶相−229℃−等方性液体相
【0027】
P−3、TP−5、TP−16、TP−18、TP−22、TP−23、TP−24、TP−25、TP−26及びTP−27の化合物を、TP−2と同様の処方で合成した。
以下に、その同定データを示す。
【0028】
TP−3の同定データ
IR(cm-1
3070,3040,2930,2880,2825,1738,1635,
1605,1578,1513,1455,1422,1358,1330,
1313,1290,1240,1205,1181,1133,1060,
1015,983,930,895,860,833,740,696,
655,640,615
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−79℃−液晶相−91℃−流動性液晶相−140℃−等方性液体相
【0029】
TP−5の同定データ
IR(cm-1
3080,2955,2930,2870,1745,1608,1582,
1515,1455,1420,1362,1315,1245,1175,
1125,1070,1010,980,925,903,845,815,
760,695,657,635,605
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−145℃−液晶相−158℃−流動性液晶相−221℃−等方性液体相
【0030】
TP−16の同定データ
IR(cm-1
3000,2876,2850,1760,1610,1600,1560,
1521,1501,1459,1436,1390,1335,1290,
1260,1225,1140,1100,1075,1010,970,
910,885,840,820,760,695
【0031】
TP−18の同定データ
IR(cm-1
3080,2925,2880,1743,1610,1582,1515,
1460,1422,1355,1317,1250,1180,1125,
1070,1060,1010,988,943,905,855,818,
763,695,670,660,640,635,615
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−109℃−流動性液晶相−249℃−等方性液体相
【0032】
TP−22の同定データ
IR(cm-1
2930,2890,1750,1600,1590,1515,1495,
1446,1425,1360,1280,1255,1220,1130,
1063,1000,960,905,810,750
【0033】
TP−23の同定データ
IR(cm-1
3100,3060,2860,2830,1740,1615,1595,
1500,1480,1440,1420,1315,1270,1245,
1200,1120,1050,990,980,940,890,865,
820,800,740,675
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶−128℃−液晶相−133℃−等方性液体相
【0034】
TP−24の同定データ
IR(cm-1
2925,2850,1735,1600,1500,1465,1410,
1315,1290,1245,1195,1170,1130,1070,
990,810,750,705
【0035】
TP−25の同定データ
IR(cm-1
2930,2855,1735,1602,1504,1470,1418,
1318,1245,1190,1165,1120,1065,1000,
895,840,810,755,685,655,630
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−132℃−流動性液晶相−217℃−等方性液体相
【0036】
TP−26の同定データ
IR(cm-1
2930,2850,1745,1610,1585,1515,1420,
1315,1250,1200,1175,1125,1075,1010,
995,940,930,855,810,760,695,660
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−98℃−液晶相−145℃−流動性液晶相−226℃−等方性液体相
【0037】
TP−27の同定データ
IR(cm-1
2920,2870,1735,1600,1505,1450,1414,
1360,1315,1240,1190,1165,1120,1060,
1000,1075,975,920,895,840,755,685,
660
結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察による相転移温度
結晶相−26℃−液晶相−115℃−流動性液晶相−202℃−等方性液体相
【0038】
流動性の高い液晶相への転移温度へのエーテル基の有無の観点からの比較
本発明の液晶化合物と類似の構造を持つが芳香族環の置換基にエーテル基を持たない化合物について、相転移温度の比較を行なった。
比較化合物として下記の構造を有する化合物(COMP−1〜COMP−3)について、上記と同様結晶のDSC及び偏光顕微鏡観察によって相転移温度を決定した。
【0039】
【化11】
Figure 0003676840
【0040】
得られた相転移温度を下記に示す。
(流動性の高い液晶相への転移温度へのエーテル基の有無の観点からの比較)
Figure 0003676840
【0041】
以上のように、本発明のエーテル基を有することを特徴とするトリフェニレン化合物は、液晶性を示し、そのエーテル基の酸素原子が炭素原子と置き替わった脂肪族基を有する比較化合物と比較して流動性の高い液晶相への転移温度が低くなる点で、大きな特徴があることがわかる。
【0042】
【発明の効果】
本発明の誘導体は、流動性の高い液晶相への転移温度が低い新規な液晶化合物であり、これにより液晶薄膜形成時の液晶分子の配向をより低温で実施にすることができる。従って、例えば、透明支持体と液晶層からなる光学補償シートを作成する際、液晶層形成後の配向のための加熱温度が低いことから、支持体として種々のプラスチスチックを使用することができる。特に、光学的透明性に優れたトリアセチルセルロース(TAC)等も使用することができるとの利点がある。また、低温配向が可能なことから、本発明の誘導体を用いることにより、液晶表示素子等の製造を極めて容易に行なうことができる。

Claims (3)

  1. 下記一般式(I)で表されるトリフェニレン誘導体。
    Figure 0003676840
    [但し、Rは
    Figure 0003676840
    {但し、YはH、Cl、F、Br、低級アルキル基またはアルコキシ基を表わし、Zは−((CH2)q −O)p−A(但し、pは1〜10の整数を表わし、qは2〜8の整数を表わし、p≧2の時は各々のqは互いに異なってよく、そしてAは水素原子または炭素原子数1〜21の炭化水素基を表わす)、mは、0又は1を表わし、そしてnは1〜5の整数を表わす}を表わす。]
  2. Aが、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数2〜4のアルケニル基を表わし、pが1〜4の整数を表わし、そしてqが2〜6の整数を表わす請求項1に記載のトリフェニレン誘導体。
  3. Yが、水素原子又はメチル基を表わし、そしてnが1〜3の整数を表わす請求項1に記載のトリフェニレン誘導体。
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