JP3674897B2 - 制震用Zn−Al合金及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、風や地震等による揺れ或は歪みに追随できる、所謂、免震・制震デバイス用金属として使用できる制震用Zn−Al合金及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
風荷重、地震荷重の歪みを吸収する、あるいは歪みや揺れに追随できる、所謂免震・制震デバイスとしては、Pb製ダンパー、防振ゴム、オイルダンパーや、LYP(極低降伏点鋼)等の制振鋼板を用いたものなどがある。
【0003】
しかし、防振ゴムは経時劣化の問題があるため、長期間の耐用が求められる建築物用の免震・制震デバイスには適していない。オイルダンパーは、定期的メインテナンスを要するため、防振ゴムと同様に、建築物の免震・制震デバイス用としては面倒である。また、LYP等の制振鋼板は、永久変形によって加工硬化がおきたり、繰り返し荷重に対して材質劣化すると、エネルギー吸収性が低下するばかりか、硬くなりすぎると、構造物にまで振動を伝播することになるため、制震・免震デバイス用金属としては、その用途が限定される。
【0004】
一方、Pbは軟らかく、地震や風のような振動数0.1〜10Hzの揺れに追随することができ、また伸縮による材質劣化という問題は少ない。このため、現在、建築物に取付けられる免震・制震デバイスとしては、図7に示すようなPb製ダンパーが、一般に用いられている。図7中、1が鉛鋳造体であり、2はホモゲン溶接部、3は鋼板である。
【0005】
しかし、このような大型のダンパーは重量が重いために、施工が大変である。また、Pbの降伏点は5MPa程度と軟らかいため、構造物又は構造物に接合された部材とPbダンパーを接合するためには、特殊な技術が必要であり、適用範囲に限界があった。さらに、Pbは毒性があるため、近年、建築物としての使用が制限される傾向にある。
【0006】
このような事情から、近年、毒性がなく、小型軽量のデバイスを提供できる制震用の金属が求められており、Pbに代替できる制震用金属として、超塑性を示すZn−Al合金が注目されてきている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、R.S.Mishraら,The observation of tensile superplasticity in nanocrystalline materials: Nanostruct Mater.Vol. 9,No. 1/8 p473-476(1997)に、ナノ結晶のZn−22%Al合金は373Kで歪み速度1×10-4S-1の変形にも追随できる超塑性が認められたことが報告されている。しかし、室温ではこのような超塑性は実現されていないため、室温での伸びが要求される建築用免震デバイスとして実際上使用することができない。
【0008】
また、G. Toress-Villasenorらの「A reinvestigation of the mechanical history on superplasticity of Zn-22Al-2Cu at room temperature 」(Material. Science. Forum Vol. 243/245 P553(1997))に、Zn−22%Al−2%Cu合金を、均熱化、水冷後に冷間加工して、α相内部にβ相が析出した組織を得、室温超塑性を発現させたことが開示されている。ここで示されている伸びは、135%であり、最大で160%の伸びが得られることが示されている。しかし、この文献には、温間加工した場合、室温でこのような伸びを有することは示されていない。また、冷間加工の場合であってもPbダンパーの代替として小型軽量で同程度以上の免震、制震性能を有するためには、もっと大きな伸び(例えば、180%以上の伸び)を有することが望ましい。
【0009】
一方、M. Furukawa らの「Fabrication of submicrometer-grained Zn-22%Al by torsion straining. 」J. Mater. Res. Vol. 11 No.9 P2128(1996) には、初期粒径が1μm〜15μmの円柱形のZn−22%Al合金を5GPaという高圧下で強捻り変形(冷間変形)すると、最終組織が最微細部である中心部では、0.1μm〜0.5μmとなったことが開示されている。しかし、捻り変形に起因して、中心部は超塑性を示す可能性のある微細組織であっても、中心から離れた外周部の粒状組織は粗大で超塑性現象を示すものではないという様な、外周部と中心部で著しく異なる組織となっている。また、このような強捻り変形が適用できるサイズは、直径15mm程度、厚さ0.3mmと非常に小さいものに限定されるため、免震デバイスのような大荷重を受ける部材で同様の方法を適用して、部材全体に微細組織を得ることは困難である。従って、建築部材として用いる程度の大きさのZn−22%Al合金で、部材全体に超塑性を発揮できるような微細組織を形成することは、このような捻り変形を利用する方法では無理である。
【0010】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、部材全体として超塑性を示すことができる均一性を有し、しかも、現在一般に使用されているPb製ダンパーの代替として、しかも小型軽量化を図ることができるように、室温で超塑性、好ましくは160%超の伸びを示すことができる制震用のZn−Al合金及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、Zn−Al合金において、冷却条件の制御により従来技術では到達できなかった均一で安定な超微細組織を得ることができることを見い出し、室温でも超塑性と言える伸びを発現できる制震用Zn−Al合金及びその製造方法を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の制震用Zn−Al合金は、Zn:30〜80wt%、残部Al及び不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相又はα′相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有していることを特徴とする。あるいは、Zn:75〜99wt%、残部Al及び不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相又はα′相、及びβ相を主要組織とし、前記α相又はα′相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有していることを特徴とする。本発明の制震用Zn−Al合金は、室温にて160%超の伸びを有すること、特に180%以上の伸びを有することが好ましい。
【0013】
本発明の制震用Zn−Al合金の第1の製造方法は、Zn−Al合金を250℃以上に均熱した後、急冷し、次いで、275℃以下の温度で温間加工した後、急冷することを特徴とする。第2の製造方法は、Zn−Al合金を250℃以上に均熱した後、急冷し、次いで、冷間加工することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の制震用Zn−Al合金について説明する。
本発明の制震用Zn−Al合金の成分組成は、Zn含有率が30〜99.9wt%、好ましくは30〜80wt%、さらに好ましくは50〜80wt%、より好ましくは70〜80wt%で、残部がAl及び不可避不純物である。これらのうち、Zn−22%Al共析合金が特に好ましい。図1のZn−Al合金の状態図に示すように、Alの含有率が22wt%のときに共析点があるので、最も組織制御しやすく、超塑性を発現させやすいからである。一方、上記範囲では、Znの含有率が小さくなるにつれて、β析出量が減少し、結晶粒の移動による塑性変形が起こっても伸びが低下する傾向にある。そして、Znの含有率が30重量%未満では、本発明の条件で処理しても100%を超える伸びは発現できないからである。
【0015】
尚、図1において、α相とは主成分がAlの面心立方格子の結晶領域をいい、α′相とは結晶構造は面心立方格子であるが成分的にはZnが主成分となっている結晶領域をいい、β相とはZnが主成分となった六方稠密格子の結晶領域をいい、Lは液体相である。
次に本発明の制震用Zn−Al合金の組織について説明する。
【0016】
Zn−Al合金が超塑性を示すためには、α相又はα′相中に微細なβ相が分散析出した組織(以下、まとめて「β分散α相」という)を有している必要がある。つまり、Zn:30〜80wt%、残部Al及び不可避不純物からなる制震用Zn−Al合金の場合、マクロ的にはα単相組織であるが、各α相又はα′相中に、β相が微細分散した組織を有している。一方、図1からわかるように、80%以上のZn濃度域では、必然的にα+βの2相の混合組織となる。従って、上記範囲の組成のうち、Znの含有率が75〜99wt%では、粒径数10μmというマクロ的なβ相と、βが微細分散したα相又はα′相とが混合した2相組織となる。
【0017】
ここで、マクロなα相、β相とは、1000倍程度で認識することが出来る組織をいい、β分散α相の微細析出しているβ相は、約5000倍以上で確認できる組織である。
【0018】
内部にβの析出がないα相とβ相の2相組織(α+β)では、α相、β相それぞれの延性が発現されて、超塑性を発現できない。つまり、βが析出していないα相は、α単相と類似の性質を示し、α単相に該当する99.999wt%Alの室温での伸びは70%程度で、結晶粒の移動による塑性変形を示すことができない。また、マクロなβ相は、常温回復現象(転位の回復)が起き、変形抵抗は安定するが、伸びは65%程度である。よって、βの析出がないα相とβ相の2相組織(α+β)では、全体としても68%程度の伸びとなる。
【0019】
一方、β分散α相は、βが析出してないα相とは全く異なり、結晶粒の移動による塑性変形によって200%以上の伸びを示すことができる。従って、Zn:75〜99wt%、残部Al及び不可避不純物からなる本発明に係るZn−Al合金の様に、マクロなβ相が存在して(α+β)の2相組織となっている場合、マクロなβ相は常温回復現象にて65%程度の延性を発揮するだけであるが、β分散α相が200%以上の伸びを発揮してβ相の粒界面に応力集中が起こるのを回避できるため、全体として160%超の伸びを示すことが出来る。
【0020】
従って、本発明の制震用Zn−Al合金は、βが析出していないα相やマクロなβ相は存在しない方が好ましいが、超塑性を発揮し得るβ分散α相を有する組織であれば、マクロなβ相が混在している2相組織であってもよい。
【0021】
本発明の制震用Zn−Al合金が、室温で伸び160%超というような室温超塑性を示すためには、さらに、上記組織において、βが微細分散しているα相又はα′相、及びα相又はα′相内に分散析出しているβ相の粒径が、以下のようでなければならない。
【0022】
図2に、Znの含有率が30wt%以上のZn−Al合金のα′相又はα相の粒径と伸びの関係を、図3に、β相の粒径と伸びとの関係を示す。図2及び図3において、「◆」はβ分散α相を有する組織であり、「○」は製造条件が異なるためにラメラ状をはじめとするα+βの2相組織の合金を示している。
【0023】
図2から、α又はα′の粒径が小さくなる程、伸びが大きくなることがわかる。そして、粒径10μm以下でβ分散α組織となって、100%以上の伸びを示し、5μm以下にすると160%超、具体的には180%以上の伸びを示すことができる。また、図3より、βの粒径が小さい程、伸びが大きくなることがわかる。そして、粒径0.1μm以下ではβ分散α組織となって100%以上の伸びを示し、0.05μm以下では160%超、具体的には180%以上の伸びを示し、さらに0.02μm以下とすることにより、300%以上の伸びを確保できることがわかる。
【0024】
従って、本発明の制震用Zn−Al合金は、α相又はα′相が5μm以下で、α相又はα′相中に分散析出されているβ相が0.05μm以下である。これにより、室温で160%超、好ましくは180%以上の伸びを示すことができる。尚、βが析出していないα単独の相や、α相とは独立に存在しているβ相が存在する場合、これらのαやβ相は、5.0μm以下、特に3.5μm以下であることが好ましい。
【0025】
尚、本発明のZn−Al合金は、上記要件を満たせば、定常応力が加工量、歪み速度によってあまり変化しないように、ヒステリシスの安定性を損なわない範囲で、強化元素Cu、Si、Mn、Mgを含有していてもよい。また、伸びの向上のために、結晶微細化に有効なZr、TiBを添加してもよい。
【0026】
但し、Zn−22%Al−2%Cuのように高強度化させた場合には、ゴムのように剛性が小さいものと組み合わせて用いる免震・制震ダンパーとしないことが好ましい。ゴムの変形が過度になって、本発明の制震用Zn−Al合金の超塑性変形による制震性が有効に発揮されずに、ゴムの防振性を損なうことになるからである。
次に、本発明の制震用Zn−Al合金の製造方法について説明する。
【0027】
まず、上記組成を有するZn−Al合金を250℃以上で均熱する。構造欠陥を含んだ状態で鍛造等の加工を行なうと、鍛造割れを引き起こすおそれがあるので、構造欠陥や偏析を消失させて、均質化するためである。
【0028】
均熱は、250℃以上、好ましくは275℃以上、より好ましくは300℃以上で10分間以上保持することにより行なう。インゴット等の鋳造後の合金の状態では、通常、Zn−Alのラメラ状組識とβ析出がないα相との混合組識(Al含有率が22%以上の場合)、あるいはα相とは独立したβ相を有する(α+β)の混合組織(Al含有率が22%以下の場合)となっている。よって、一旦昇温して、βをα内に閉じ込める必要があるからである。一方、均熱は、液相が表れる温度以下、例えばZn含有率が80%以上の場合には350℃以下で行なうことが好ましい。液相ではβの拡散が大きくなりすぎて、β分散α組織が得られないからである。
【0029】
尚、Znは蒸気圧が高く、過度に昇温すると、凝固時に巣ができ破断の原因になる。特に、Zn含有率が40%以下では、Zn−Al合金の液相温度が高く、Znの蒸気圧が問題となる。よって、均熱前に行なう鋳造に際しては、一旦、液相が表れる温度に保持し、その後、凝固を開始する方が“巣”の発生率が少なくなるので好ましい。
【0030】
Zn−Al合金の均熱後、急冷する。α′又は(α′+β)の組織状態から急冷することにより、α′から安定なαに移行しようとしても、マクロレベルで2相分離する程までβが拡散できず、βをα内で析出させることができるからである。つまり、α+βの2相の混合組織ではなく、超塑性を発揮し得るβ分散α組織を生成できるからである。ここで、冷却速度は、10℃/sec以上で、具体的には水冷することが好ましい。炉冷(0.1℃/sec以下)や空冷(10℃/sec未満)では、βが拡散してラメラ状組織となるからである。この段階でラメラ組織となっている場合、次に行なう加工処理が加工率30%以下では、微細化が不十分となり、内部摩擦で評価できる制振性(音の吸収)は多少発揮(Q-1=1.0〜5.0×10-2)するが、室温での伸びは100〜140%程度となり、160%超の伸びを確保できないからである。
【0031】
均熱後、急冷によりβ分散α組織は得られるが、αは10〜20μm程度、βは0.05〜0.1μm程度で、100〜150℃程度の高温で超塑性といえるような180%以上の伸びを示しても、室温でそのような伸びは示さない。
【0032】
室温で超塑性と言えるような伸びを示すためには、続いて、物理的外力を与えてα又はα′結晶粒、更にはα又はα′中のβを微細化する必要がある。すなわち、急冷後、冷間加工又は温間加工する必要がある。
【0033】
本発明で行われる加工は、結晶粒微細化のために外力を加える工程であればよく、具体的には、鍛造、押し出し、伸線加工などが挙げられる。
【0034】
組織の超微細化のための加工は、融点の半分以下の温度で行なうことが好ましい。Zn−Al合金の融点(Tm)は、合金の組成にもよるが400℃(673K)前後であるから、融点(Tm)に対する加工熱処理温度(Ttmcp)の比率であるTtmcp/Tmが0.45〜0.6程度となる加工熱処理温度は、20〜120℃程度である。従って、室温〜100℃で行なう冷間加工によれば、αが5μm以下で、この内部に0.05μm以下のβが微細分散した本発明に係る制震用Zn−Al合金が得られる。
【0035】
本発明の制震用Zn−Al合金は、冷間加工だけでなく、100〜275℃で行なう温間加工によっても、その後に行なう冷却速度を制御することにより得られる。温間加工の加工温度を275℃以下とするのは、275℃を超えると、図1に示すように、組織が変態するため、せっかくβ分散α相を形成していても、再度、α又はα′相からβが分離して(α+β)の2相組織になるおそれがあるからである。
【0036】
温間加工した場合、冷却速度10℃/secで急冷する必要がある。具体的には水冷を行なう必要がある。インゴットの加熱後に行なう冷却の場合と同様に、得られたβ分散α組織を固定するためである。100℃以上に加熱した後、冷却速度が遅いとβ分散α組織が粗大化し、更に275℃以上に加熱する場合にはラメラ状組織が出現し、室温での超塑性は発現しなくなるからである。
【0037】
尚、温間加工の場合、加工と熱処理とは同時に行なうことが好ましいが、小型部材の押し出しの場合、加熱後に押し出した後、急冷してもよい。
【0038】
以上のようにして得られる制震用Zn−Al合金を用いることにより、従来のPbダンパーと同様の強度、制震機能を確保し、且つ小型軽量化したダンパーを製造することができる。
【0039】
制震用Zn−Al合金の降伏点は、組成及び組織状態にもよるが、一般に60〜200MPaである。一方、現在ダンパー材料として用いられているPbの降伏点は5MPaで、室温での伸びは約54%程度である。免震デバイスの変形モードは剪断変形であり、図7に示すPbダンパ(高さ92.1cm、直径18.0cm、重量約200kg)と同程度の剪断強度を有するダンパーを、降伏応力(σy)がPbの約28倍のZn−Al合金で作製する場合、Zn−Al合金の高さ、径、及び要求される伸びの関係は、表1に示すようになる。
【0040】
【表1】
【0041】
表1からわかるように、Zn−Al合金が室温で180%以上の伸びを発揮する場合には、高さを約1/3、径を約1/10にでき、その結果、重量を1/100(約2kg)程度にまで小型化することができる。このように、本発明のZn−Al合金を用いて免震デバイスを製造すれば、従来のPb製ダンパーと同程度の制震性(地震の揺れに追随できる変位)を確保しつつ、小型軽量化が達成され、免震デバイスの運搬、施工が簡便となり、作業性、取扱い性が向上する。
【0042】
尚、弾性変形内では断面積が細くなることによる問題は起きないが、塑性変形段階になると、免震デバイスの各部位での変形挙動が同じになるとは考えられないので、非円形断面にする等、適宜形状変更することが好ましい。
【0043】
また、Zn−Al合金はほぼ軟鋼と同等又は軟鋼よりもやや柔らかいので、ボルト締め、リベット締め等の一般的な接合技術も使用でき、建築構造物等との接合は容易である。但し、はんだ付けのように熱を加える接合処理の場合には、250℃以上、好ましくは100℃以上に加熱しないように注意しなければならない。上述のように250℃以上では組織が変態するおそれがあり、また100℃以上加熱された後、急冷しなければ、せっかく得られた微細組織が粗大化し、室温で160%を超える伸びを確保することが困難となるからである。
【0044】
【実施例】
〔制震用Zn−Al合金〕
50kgのZn−Al合金を真空溶解炉にてAr雰囲気大気圧中で、一旦溶解させた後、凝固させてZn−Al合金のインゴットを得た。尚、凝固開始温度はAl−20%Znで650℃、Al−40%Znで620℃、Al−60%Znで560℃、Al−20%Znで500℃、Al−96%Znで410℃であった。
【0045】
得られたZn−Al合金のインゴットを、表2に示す処理(350℃で1時間保持→第1冷却→加工→第2冷却)を行った(表2中、No6〜No.29)。冷却速度は、炉冷の場合は約10℃/h(0.003℃/s)程度であり、空冷の場合は5℃/s程度であり、水冷の場合は200℃/s程度である。
【0046】
尚、表2のNo.1〜4は、いずれも3N(99.9%)以上の市販の鍛造品を切り出したものである。4Nは99.99%、5Nは99.999%を示している。また、No.9〜14の加工については、ダイスを6回通過させて真歪みを1.8とする場合(表中、「b」で示す)と、ダイスを8回通過させて真歪みを2.4とする場合(表中、「a」で示す)との2種類を行なった。
【0047】
加工処理後の金属組織を電子顕微鏡で観察し、α又はα′、及びβの粒径を測定した。また、各金属の伸びを測定した。尚、伸びは、ゲージ部の径10mmφ、ゲージ長さ42mmの円筒形引張試験片を、クロスヘッド速度0.5mm/分で室温にて引張試験を行い、破断するときの伸びを測定することにより行なった。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
〔評価〕
No.5はZn−20%Alのインゴットの特性である。鋳造欠陥を含むためと思われるが、伸びは24.3%と少なく、Pbよりも劣っていた。
【0050】
No.6は加熱後の冷却が炉冷で遅いためにα′、β共に粗大であり、伸びがインゴットの場合よりも向上したものの、Pbと同程度の伸びしか得られなかった。
【0051】
No.7は、加熱後空冷(5℃/s)したものであるが、やはり冷却速度が遅いために、No.6と同様、α′、βの微細化が不十分で、伸びは多少向上したものの、Pbと同程度であった。
【0052】
No.8は、インゴットの加熱後水冷(200℃/s)したものである。急冷によりα′、βの微細化は進み、伸びは空冷や炉冷の場合よりも向上したが、やはりPbと同程度の伸びしか得られなかった。
【0053】
No.9a、9bいずれも、No.8の材料を水中にて伸線(冷間加工)したものである。伸線により微細化が更に進んでα′は5μm以下、βは0.05μm以下となって組織微細化が達成され、伸びは180%を越えていた。この合金の組織を電子顕微鏡(5000倍)で観察したところ、図4に示すように、α結晶粒が認められ、更に10万倍の電子顕微鏡で、α′を拡大観察したところ(図5)、α′相内に微細析出しているβが確認できた。図5中、黒色部分がα′で、黒色部分の中に存在する白色粒がβである。
【0054】
No.10、11は、均熱後に行なう冷却を、炉冷又は空冷として、次いで、冷間加工をしたものである。この場合、No.9と同様に冷間加工にしたにも拘わらず、元の組織がラメラ状であったために、α、βの微細化はNo.9に比べて劣り、伸びも180%以下であった。
【0055】
No.12a、12bは、No.8の材料を大気中で伸線加工(空冷伸線)したものである。伸線により組織微細化が進み、α′は5μm以下、βは0.05μm以下となり、伸びが180%を越えていた。
【0056】
No.13、14は、No.6、7の材料を大気中にて伸線加工したものである。No.12と同様の条件で伸線を行なったにも拘わらず、伸線前の組織が粗大であったため、加工後の組織は、α′は5〜10μm、βは0.05〜0.1μmとなり、伸びは100%を超えたが、180%を超えることはなかった。
【0057】
また、No.9〜14において、いずれもaの加工(真歪み2.4)の方がbの加工(真歪み1.8)よりもα′、βの粒径が小さく、加工率が大きい程、結晶粒の微細化レベルを上げることができることがわかる。
【0058】
No.15〜19は、No.8の材料を冷間鍛造又は275℃以下で温間鍛造したものである。鍛造により組織が微細化されて、α′は5μm以下、βは0.05μm以下となり、いずれの伸びも180%を越えた。つまり、温間鍛造した場合(No.16〜21)であっても、その後に急冷することにより、冷間鍛造した場合(No.15)と同様に、α′、βの微細化を達成できることがわかる。
【0059】
一方、鍛造温度が275℃を超えた場合(No.20)、つまり鍛造温度がα′析出温度(275℃)よりも高い場合には、再度ラメラ組織が出現したために、180%以上の伸びを達成できなかった。特に、温間鍛造後の冷却が急冷でない場合(No.21)、図6の電子顕微鏡写真(5000倍)に見られるように、組織が粗大化して白色部分と黒色部分とがラメラ状となり、伸びは加工しない場合(No.6、7)と同程度にまで低下した。
【0060】
No.22〜29は、Znの含有率を変えたZn−Al合金について、均熱後急冷し、さらに温間鍛造したもの(奇数No.)と温間鍛造しないもの(偶数No.)を示している。いずれも温間鍛造した方が、α′(又はα)、及びβが微細化され、伸びも増大していることがわかる。しかし、No.19、25、27、29を比較すると、α′(又はα)、及びβの粒径が同程度であっても、Zn含有率が少なくなるのに従って、伸びが低下していくことがわかる。また、No.23から、Znの含有率が高すぎると、180%以上の伸びは確保されるが、α′相(又はα相)とは独立したβ相の存在割合が増えるために、伸びが低下すると考えられる。逆に、Znの含有率が30重量%未満(No.29)になると、均熱後、急冷し、更に加工後、急冷しても100%を超える伸びを得ることはできなかった。
【0061】
【発明の効果】
本発明の制震用Zn−Al合金は、160%を超える伸びを示し、しかも降伏点が高いので、鉛よりも小型軽量でPbと同程度に地震や風の揺れに追随できるダンパーの材料として適している。
また、本発明の製造方法によれば、伸びが160%超、好ましい場合には180%以上の超塑性と言える制震用Zn−Al合金を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Zn−Al合金の状態図である。
【図2】伸びとα又はα′相の粒径との関係を示すグラフである。
【図3】伸びとβ相の粒径との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係るZn−Al合金(No.9a)の組織状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図5】本発明に係るZn−Al合金(No.9a)の組織状態を示す電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【図6】比較例のZn−Al合金(No.21)の組織状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図7】従来より用いられているPb製ダンパーの構成を示す図である。
Claims (4)
- Zn:30〜80wt%、残部Al及び不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が3.1μm以下のα相又はα'相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有していることを特徴とする制震用Zn−Al合金。
- Zn:75〜99wt%、残部Al及び不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が3.1μm以下のα相又はα'相、及びβ相を主要組織とし、前記α相又はα'相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有していることを特徴とする制震用Zn−Al合金。
- Zn−Al合金を250℃以上350℃以下に均熱した後、10℃/sec以上の冷却速度で急冷し、次いで、275℃以下の温度で温間鍛造または伸線した後、急冷することを特徴とする、請求項1又は2に記載の制震用Zn−Al合金の製造方法。
- Zn−Al合金を250℃以上350℃以下に均熱した後、10℃/sec以上の冷却速度で急冷し、次いで、冷間鍛造または伸線することを特徴とする、請求項1又は2に記載の制震用Zn−Al合金の製造方法。
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