JP3773893B2 - 高速変形特性に優れたZn−Al合金およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、風や地震等による揺れ或は歪みに追随できる、所謂、免震・制震デバイス用金属として使用できるZn−Al合金およびその製造方法に関し、殊に歪速度が高速であるときの変形特性に優れたZn−Al合金、およびその様なZn−Al合金を製造するための有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
風荷重、地震荷重の歪みを吸収する、あるいは歪みや揺れに追随できる、所謂免震・制震デバイスとしては、Pb製ダンパー、防振ゴム、オイルダンパーや、LYP(極低降伏点鋼)等の制振鋼板を用いたものなどがある。
【0003】
しかし、防振ゴムは経時劣化の問題があるため、長期間の耐用が求められる建築物用の免震・制震デバイスには適していない。オイルダンパーは、定期的メインテナンスを要するため、防振ゴムと同様に、建築物の免震・制震デバイス用としては面倒である。また、LYP等の制振鋼板は、永久変形によって加工硬化がおきたり、繰り返し荷重に対して材質劣化すると、エネルギー吸収性が低下するばかりか、硬くなりすぎると、構造物にまで振動を伝播することになるため、制震・免震デバイス用金属としては、その用途が限定される。
【0004】
一方、Pbは軟らかく、地震や風のような振動数0.1〜10Hzの揺れに追随することができ、また伸縮による材質劣化という問題は少ない。このため、現在、建築物に取付けられる免震・制震デバイスとしては、図1に示すようなPb製ダンパーが、一般に用いられている。尚、図1中、1が鉛鋳造体であり、2はホモゲン溶接部、3は鋼板である。
【0005】
しかしながら、このような大型のダンパーは重量が重いために、施工が大変であるという問題がある。また、Pbの降伏点は5MPa程度と軟らかいため、構造物または構造物に接合された部材とPbダンパーを接合するためには、特殊な技術が必要であり、適用範囲に限界があった。さらに、Pbは毒性があるため、近年、建築物としての使用が制限される傾向にある。
【0006】
このような事情から、近年、毒性がなく、小型軽量のデバイスを提供できる制震用の金属が求められており、Pbに代替できる制震用金属として、超塑性を示すZn−Al合金が注目されている。
【0007】
上記の様なZn−Al合金に関連して、ナノ結晶のZn−22%Al合金は373Kで歪み速度1×10-4S-1の変形にも追随できる超塑性が認められたことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、室温ではこのような超塑性は実現されていないため、室温での伸びが要求される建築用免震デバイスとして実際上使用することができない。
【0008】
また、Zn−22%Al−2%Cu合金を、均熱化、水冷後に冷間加工して、α相内部にβ相が析出した組織を得、室温超塑性を発現させたことが開示されている(非特許文献2参照)。ここで示されている伸びは、135%であり、最大で160%の伸びが得られることが示されている。しかし、この文献には、温間加工した場合、室温でこのような伸びを有することは示されていない。また、冷間加工の場合であってもPbダンパーの代替として小型軽量で同程度以上の免震、制震性能を有するためには、もっと大きな伸び(例えば、180%以上の伸び)を有することが望ましい。
【0009】
一方、初期粒径が1〜15μmの円柱形のZn−22%Al合金を5GPaという高圧下で強捻り変形(冷間変形)すると、最終組織が最微細部である中心部では、0.1μm〜0.5μmとなったことも開示されている(非特許文献3参照)。しかし、捻り変形に起因して、中心部は超塑性を示す可能性のある微細組織であっても、中心から離れた外周部の粒状組織は粗大で超塑性現象を示すものではないという様な、外周部と中心部で著しく異なる組織となっている。また、このような強捻り変形が適用できるサイズは、直径15mm程度、厚さ0.3mmと非常に小さいものに限定されるため、免震デバイスのような大荷重を受ける部材で同様の方法を適用して、部材全体に微細組織を得ることは困難である。従って、建築部材として用いる程度の大きさのZn−22%Al合金で、部材全体に超塑性を発揮できるような微細組織を形成することは、このような捻り変形を利用する方法では無理である。
【0010】
本発明者らは、上記のようなZn−Al合金について、その特性改善という観点からかねてより研究を進めており、その研究の一環として、均一で安定した超微細組織を得ることによって室温でも超塑性と言える伸びを発現できる制震用Zn−Al合金を提案している(特許文献1参照)。
【0011】
この技術の開発によって、室温で優れた超塑性を示すZn−Al合金が実現できたのであるが、こうしたZn−合金においても解決すべき問題が残されていた。即ち、上記開発した合金では、歪速度が10-3S-1程度における低速での変形能(以下、「静的変形能」と呼ぶことがある)の点では優れており、室温での良好な超塑性を示しているのであるが、歪速度が10-1S-1程度における比較的高速での変形能(以下、「動的変形能」と呼ぶことがある)は安定して得られない場合があった。また、こうした現象は、鋳塊が大型になるにつれて顕著になる。
【0012】
【非特許文献1】
R.S.Mishraら,The observation of tensile superplasticity in nanocrystalline materials: Nanostruct Mater.Vol. 9,No. 1/8 p473-476(1997)
【非特許文献2】
G. Toress-Villasenorら,「A reinvestigation of the mechanical history on superplasticity of Zn-22Al-2Cu at room temperature」(Material. Science. Forum Vol. 243/245 P553(1997))
【非特許文献3】
M. Furukawa ら,「Fabrication of submicrometer-grained Zn-22%Al by torsion straining」J. Mater. Res. Vol. 11 No.9 P2128(1996)
【特許文献1】
特開平11−222643号公報 特許請求の範囲
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的とするところは、静的変形能は勿論のこと動的変形能にも優れ、大型構造物にも適用できるZn−Al合金、およびその為の有用な製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明のZn−Al合金とは、Zn:30〜99%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のαまたはα’相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有し、且つAl系介在物の最大径が50μm以下であると共に、マクロ偏析が3.0%未満およびミクロ偏析が2.0%未満である点に要旨を有するものである。
【0015】
上記のようなZn−Al合金を製造するに当たっては、注入溶湯と外部雰囲気を遮断しつつ鋳込み、鋳込み後の鋳型冷却過程で425〜375℃の温度範囲を0.25℃/秒以上の平均冷却速度で冷却すると共に、275〜250℃の温度範囲を0.02℃/秒以上の平均冷却速度で冷却し、且つ鋳塊の再加熱時に350℃以上に保持するようにすれば良い。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、歪速度が10-1S-1という高速での変形特性を改善するという観点に立脚し、様々な角度から検討した。その結果、先に提案した技術における「超微細組織」の制御に加えて、Al系介在物の形態制御や、マクロ偏析およびミクロ偏析の低減を図れば、上記目的が見事に達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
本発明のZn−Al合金では、動的変形能を良好にするためには、上述の如く、Al系介在物の最大径を50μm以下に制御すると共に、マクロ偏析が3.0%未満およびミクロ偏析2.0%未満となるようにする必要があるが、これらの要件について説明する。
【0018】
粗大なAl系介在物は、破壊の起点となって動的変形能ばかりか静的変形能を低下させるので、こうしたAl系介在物を極力存在させないようにすることが必要である。しかしながら、その最大径が50μm以下のものでは、こうした不都合が生じることがない。こうしたことから本発明では、Al系介在物の最大径を50μm以下と規定した。
【0019】
上記Al系介在物は、主にAl2O3を指すが、このAl系介在物の最大径を50μm以下に制御するためには、酸素との結合をできるだけなくしてAl2O3の粗大化を抑制する手段を講じる必要がある。こうした手段としては、例えば鋳込み時の周囲雰囲気を真空雰囲気やArガス雰囲気とすること(Arシール)、注入ノズルを溶湯に浸漬(ノズル浸漬)等して、注入溶湯と外部とを遮断することが有効である。
【0020】
本発明のZn−Al合金では、上記の如く、マクロ偏析やミクロ偏析もできるだけ低減する必要がある。即ち、マクロ偏析が3.0%未満、およびミクロ偏析が2.0%未満のいずれの要件をも満足することによって、良好な高速変形(動的変形能)が得られるのである。従って、本発明のZn−Al合金では、上記で規定するマクロ偏析およびミクロ偏析のいずれをも満足する必要があり、これらのいずれの要件を欠いても本発明の目的が達成できない。
【0021】
偏析を上記のように制御するには、その製造条件も厳密に制御する必要がある。このうちマクロ偏析は、鋳塊のトップボトムの偏析(鋳塊全体に広範囲で起こる偏析)である、本発明ではこの部分の平均組成との濃度差が3.0%未満(即ち、マクロ偏析が3.0%未満)である必要がある。また、こうしたマクロ偏析は、粗大凝固組織が生成することに起因しているので、粗大凝固組織が生成しないように制御する必要がある。こうした手段として、鋳込み後の鋳型冷却過程で固液2相領域に相当する425〜375℃の温度範囲を0.25℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することが有効である。即ち、上記の温度範囲を比較的速い冷却速度で冷却することによって、Alの晶出物が粗大化し、これによって粗大凝固組織の生成が抑制されるのである。
【0022】
一方、ミクロ偏析は、結晶粒数個分で数μm範囲で起こる偏析であるが、本発明ではこの部分の平均組成との濃度差を2.0%未満とする必要がある。また、こうしたミクロ偏析は、本発明のZn−Al合金の場合には主にα相内の粗大β相の析出に起因しているので、こうしたβ相の析出を抑制する必要がある。こうした手段として、鋳込み後の鋳型冷却過程でα+β2相領域に相当する275〜250℃の温度範囲を0.02℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することが有効である。即ち、上記の温度範囲を比較的速い冷却速度で冷却することによって、ZnやAlの析出物の粗大化を抑制し、これによって粗大β相の生成が抑制されるのである。そして、粗大β相が微細分散し、それ以後の温間・室温変形時における結晶粒微細化、超塑性特性向上に寄与できるのである。
【0023】
ところで、鋳型内冷却過程において冷却速度を高くすれば、粗大凝固組織は或る程度抑制されるが、こうした粗大凝固組織を更に抑制するには、その後の再加熱による均質化処理が有効である。こうした再加熱を行うには、その温度および時間を厳密に管理する必要があるが、上記の効果を発揮させるためには、加熱温度を350℃以上とするのが良い。但し、この温度が390℃以上になると、鋳塊が溶解する恐れがあるので、390℃未満とすることが好ましい。
【0024】
また、再加熱の際の時間については、例えば50kg以下の小型インゴットでは1時間程度の加熱時間でも十分な均質化処理効果が達成されるのであるが、例えば150kg級或はそれ以上の大型インゴットになると、350℃以上の長時間の加熱を行わなければ、板全体が所定の温度にはならない。図2は、150kg級インゴットを加熱(雰囲気加熱)したときの加熱炉内温度と板温度の関係を示したものであるが、板温度を350℃以上に制御するためには、8時間の加熱時間が必要であることが分かる。これは、β粒子がαマトリックスに再固溶するときに吸熱量が大き過ぎて、外部からの熱をインゴットが吸収してしまい、板厚上昇に長時間を必要とするためであり、雰囲気加熱では物理的に大型インゴットの場合には長時間加熱をせざるを得なくなる。こうしたことからして、高周波加熱を行うことも考えられ、この高周波加熱では強制的に加熱するので、長時間の加熱を必要としないのであるが、大型インゴットを高周波加熱するのは工業的にコストアップの要因となる。
【0025】
次に、本発明のZn−Al合金の化学成分組成について説明する。本発明のZn−Al合金の成分組成は、Zn含有率が30〜99%(好ましくは50〜99%、より好ましくは70〜99%)で、残部がAlおよび不可避不純物である。これらのうち、Zn−22%Al共析合金が特に好ましい。
【0026】
図3のZn−Al合金の状態図に示すように、Alの含有率が22%のときに共析点があるので、最も組織制御しやすく、超塑性を発現させやすいからである。一方、上記範囲では、Znの含有率が小さくなるにつれて、β析出量が減少し、結晶粒の移動による塑性変形が起こっても伸びが低下する傾向にある。そして、Znの含有率が30%未満では、本発明の条件で処理しても100%を超える伸びは発現できない。
【0027】
尚、図3において、α相とは主成分がAlの面心立方格子の結晶領域をいい、α′相とは結晶構造は面心立方格子であるが成分的にはZnが主成分となっている結晶領域をいい、β相とはZnが主成分となった六方稠密格子の結晶領域をいい、Lは液体相である。
【0028】
次に本発明のZn−Al合金の組織について説明する。Zn−Al合金が超塑性を示すためには、α相またはα′相中に微細なβ相が分散析出した組織(以下、まとめて「β分散α相」という)を有している必要がある。つまり、Zn:30〜80%、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金の場合、マクロ的にはα単相組織であるが、各α相またはα′相中に、β相が微細分散した組織を有している。一方、前記図3からわかるように、80%以上のZn濃度域では、必然的にα+βの2相の混合組織となる。従って、上記範囲の組成のうち、Znの含有率が80〜99%では、粒径10μm というマクロ的なβ相と、βが微細分散したα相またはα′相とが混合した2相組織となる。
【0029】
ここで、マクロなα相、β相とは、1000倍程度で認識することが出来る組織をいい、β分散α相の微細析出しているβ相は、約5000倍以上で確認できる組織である。
【0030】
内部にβの析出がないα相とβ相の2相組織(α+β)では、α相、β相それぞれの延性が発現されて、超塑性を発現できない。また、マクロなβ相は、常温回復現象(転位の回復)が起き、変形抵抗は安定するが、伸びは65%程度である。よって、βの析出がないα相とβ相の2相組織(α+β)では、全体としても68%程度の伸びとなる。
【0031】
一方、β分散α相は、βが析出していないα相とは全く異なり、結晶粒の移動による塑性変形によって200%以上の伸びを示すことができる。従って、Zn:75〜99%、残部Alおよび不可避不純物からなる本発明に係るZn−Al合金の様に、マクロなβ相が存在して(α+β)の2相組織となっている場合、マクロなβ相は常温回復現象にて65%程度の延性を発揮するだけであるが、β分散α相が200%以上の伸びを発揮してβ相の粒界面に応力集中が起こるのを回避できるため、全体として160%超の伸びを示すことが出来る。
【0032】
従って、本発明のZn−Al合金は、βが析出していないα相やマクロなβ相は存在しない方が好ましいが、超塑性を発揮し得るβ分散α相を有する組織であれば、マクロなβ相が混在している2相組織であってもよい。
【0033】
本発明のZn−Al合金が、室温で伸び160%超というような室温超塑性(静的変形能)を示すためには、さらに上記組織において、α相またはα′相が5μm以下で、α相またはα′相中に分散析出されているβ相が0.05μm以下である。これにより、室温で160%超、好ましくは180%以上の伸びを示すことができる。尚、βが析出していないα単独の相や、α相とは独立に存在しているβ相が存在する場合、これらのα相やβ相は、5.0μm以下、特に3.5μm以下であることが好ましい。
【0034】
尚、本発明のZn−Al合金は、上記要件を満たせば、定常応力が加工量、歪み速度によってあまり変化しないように、ヒステリシスの安定性を損なわない範囲で、強化元素Cu、Si、Mn、Mgを含有していてもよい。また、伸びの向上のために、結晶微細化に有効なZr、TiBを添加してもよい。
【0035】
本発明において、Al系介在物や偏析を上記のように制御するには、鋳込み時の雰囲気を制御しつつ、鋳込み後の鋳型冷却過程で適切な制御を行えばよいが、その後の鋳塊に対する熱処理および加工によって上記のような組織に制御できる。
【0036】
本発明では、上記冷却の後に再加熱時に350℃以上に保持するものであり、これによってβ相をα相内に閉じ込めてミクロ偏析が防止できるのであるが、上記のような組織に制御するにはこの再加熱後(均熱後)に急冷し、275℃以下の温度で温間加工した後、更に急冷することが好ましい。
【0037】
αまたは(α′+β)の組織状態から急冷することにより、α′から安定なαに移行しようとしても、マクロレベルで2相分離する程までβが拡散できず、β相をα相内で析出させることができる。つまり、α+βの2相の混合組織ではなく、超塑性を発揮し得るβ分散α組織を生成できるのである。ここで、冷却速度は、10℃/秒以上で、具体的には水冷することが好ましい。炉冷(0.1℃/秒以下)や空冷(10℃/秒未満)では、βが拡散してラメラ状組織となるからである。この段階でラメラ組織となっている場合、次に行なう加工処理が加工率30%以下では、微細化が不十分となり、室温での伸びは100〜140%程度となり、160%超の伸びを確保できない。
【0038】
均熱後、急冷によりβ分散α組織は得られるが、α相は10〜2μm程度、β相は0.05〜0.1μm程度で、100〜150℃程度の高温で超塑性といえるような180%以上の伸びを示しても、室温でそのような伸びは示さない。
【0039】
室温で超塑性と言えるような伸びを示すためには、続いて、物理的外力を与えてαまたはα′結晶粒、更にはαまたはα′中のβを微細化する必要がある。すなわち、急冷後、温間加工または冷間加工することが好ましい。尚このときの加工は、結晶粒微細化のために外力を加える工程であればよく、具体的には、鍛造、押し出し、伸線加工などが挙げられる。
【0040】
組織の超微細化のための加工は、融点の半分以下の温度で行なうことが好ましい。Zn−Al合金の融点(Tm)は、合金の組成にもよるが400℃(673K)前後であるから、融点(Tm)に対する加工熱処理温度(Ttmcp)の比率であるTtmcp/Tmが0.45〜0.6程度となる加工熱処理温度は、20〜120℃程度である。従って、室温〜100℃で行なう冷間加工によれば、αが5μm以下で、この内部に0.05μm以下のβが微細分散したZn−Al合金が得られる。
【0041】
本発明のZn−Al合金は、冷間加工だけでなく、100〜275℃で行なう温間加工によっても、その後に行なう冷却速度を制御することにより得られる。温間加工の加工温度を275℃以下とするのは、275℃を超えると、前記図3に示したように、組織が変態するため、せっかくβ分散α相を形成していても、再度、αまたはα′相からβが分離して(α+β)の2相組織になる恐れがあるからである。
【0042】
温間加工した場合、冷却速度10℃/秒程度以上で急冷する必要がある。具体的には水冷を行なうことが好ましい。これは、インゴットの加熱後に行なう冷却の場合と同様に、得られたβ分散α組織を固定するためである。100℃以上に加熱した後、冷却速度が遅いとβ分散α組織が粗大化し、更に275℃を超えて加熱する場合にはラメラ状組織が出現し、室温での超塑性は発現しなくなる。尚、温間加工の場合、加工と熱処理とは同時に行なうことが好ましいが、小型部材の押し出しの場合、加熱後に押し出した後、急冷してもよい。
【0043】
尚本発明のZn−Al合金はほぼ軟鋼と同等または軟鋼よりもやや柔らかいので、ボルト締め、リベット締め等の一般的な接合技術も使用でき、建築構造物等との接合は容易である。但し、はんだ付けのように熱を加える接合処理の場合には、250℃以上、好ましくは100℃以上に加熱しないように注意しなければならない。上述のように250℃以上では組織が変態するおそれがあり、また100℃以上で加熱された後、急冷しなければ、せっかく得られた微細組織が粗大化し、室温で160%を超える伸びを確保することが困難となる場合がある。
【0044】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0045】
【実施例】
[Zn−Al合金の製造]
Zn−22%Al合金溶湯を、断面形状が長さ:200mm×幅:350mmの鉄製鋳型または銅製鋳型を用い、空冷または水冷の両方の条件で鋳造した。尚一部のものについては(後記表1のNo.5)、断面形状が200mm角の鋳型を用いて連続鋳造した。このとき、インゴットサイズは50kgまたは180kgとし、合金成分としてはマクロ偏析が生じ易いZn−22%Al(トータル不純物量:0.5%以下)とした。
【0046】
インゴットの冷却挙動は、各インゴットの底面から300mmの位置(断面中心位置)に熱電対を設置して測定した。鋳塊内部温度の経時変化(冷却カーブ)の一例を図4に示す。固液2相域(425〜375℃)の冷却速度(冷却速度1)と、β析出開始点温度(275〜250℃)の冷却速度(冷却速度2)を、上記冷却カーブから算出した。また、インゴットシール(外部雰囲気との遮断)は、インゴットチャージのときには鋳型内部とトユを事前にArシールした。また、連続鋳造の際には、ノズルを溶湯内に浸漬させることによってシールした。
【0047】
得られたZn−Al合金のインゴットを、再加熱し1時間または8時間保持した。この再加熱では、大気炉でインゴット表面に熱電対を接触させて板温が所定の温度に達してからの保持温度で評価した。引き続き、冷却速度0.02℃/秒で急冷し、再度200℃の温度まで加熱した後、No.6については厚さ:15mmまで温間圧延(等温圧延)し、他のものについては厚さ:20mmまで温間圧延した。インゴットの製造条件を下記表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[特性評価]
上記で得られた板材に対して、金属組織を電子顕微鏡で観察し、αまたはα′、およびβの粒径を測定した。また、厚さ:10mmのJIS5号試験片を採取し、ゲージ長さ50mmとし、クロスヘッド速度を5mm/分(歪速度で1.67×10-3/s:準静的変形能)と250mm/分(歪速度で8.33×10-2/s:動的変形能)で引張試験を行い、引張強度TSと破断するときの伸び(破断伸び)を測定し、各合金の静的特性(低速変形のときの引張強度TSと破断伸び)および動的特性(高速変形のときの引張強度TSと破断伸び)を評価した。
【0050】
また、圧延素材(厚さ:18mm)を圧延横方向100mm位置のマクロ写真から、Al系介在物の最大径を算出すると共に、下記の方法によってマクロ偏析とミクロ偏析を評価した。
【0051】
(マクロ偏析)
圧延材の任意の2箇所を切断し、表層部、1/2W部(W:断面幅)、インゴット中間高さの表層部、1/2W部、インゴット下部の表層部、1/2W部の6箇所から試験片を採取し、夫々の部位におけるZn濃度を測定し、狙いのZn濃度(78%)からのズレの最大値をマクロ偏析として評価した。
【0052】
(ミクロ偏析)
マクロ偏析評価で採取した2箇所の試料のいずれか一方を、EPMA(電子プルーブ・マイクロ・アナリシス)にて任意の1mm長さをライン分析し(ビーム径:約10μm)、Al濃度の変動がその測定範囲内で2%以内になっているか否かを評価した。
【0053】
これらの評価結果を下記表2に示すが、この結果から次の様に考察できる。まずNo.1、5、8、10のものは、本発明で規定する要件を満足するものであり、動的特性および静的特性のいずれも優れていることが分かる。このうち、特にNo.5、8、10のものでは、水冷銅鋳型を用いて所定の冷却速度を達成することによって、マクロ偏析およびミクロ偏析を低減するようにしたので、溶解量が150kgの大型インゴットであっても、良好な変形特性が得られている。
【0054】
これに対して、No.2〜4、6、7、9、11、12のものでは、本発明で規定するいずれかの要件を欠くものであり、静的特性および動的特性の少なくともいずれかの要件が劣化している。
【0055】
No.2、6のものでは、50kgのインゴットであるが、冷却速度1、2が遅いので、マクロ偏析およびミクロ偏析が大きくなっており、特に動的特性が劣化している。尚、No.2とNo.1における冷却速度の違いは、強制空冷却(No.1)と放冷(No.2)によるものであり、No.5とNo.6における冷却速度の違いは、水冷銅鋳型(No.5)と空冷銅鋳型(No.6)によるものである。また、No.6のものは、ミクロ偏析やマクロ偏析があるにもかかわらず、強圧延によって組織(α相とβ相)の微細化を図ったものであるが、α、β粒子の微細化を図っても偏析が解消しなければ、動的特性が改善されないことが分かる。
【0056】
No.3、4のものでは、冷却速度が遅くマクロ偏析およびミクロ偏析が大きくなっていることに起因して組織の微細化が図れていないので、静的特性および動的特性のいずれもが劣化している。
【0057】
No.7、12のものでは、溶湯と外部雰囲気との遮断を行っていないのでAl系介在物が大きくなって動的特性が劣化している。また、No.9は、再加熱温度が低いものであり、ミクロ偏析が大きくなると共に組織の微細化が図れておらず、静的特性および動的特性のいずれも劣化している。No.11のものでは、再加熱の時間が不十分であり、ミクロ偏析が大きくなって特に動的特性が劣化している。
【0058】
【表2】
【0059】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、静的変形能は勿論のこと動的変形能にも優れたZn−Al合金が実現でき、この合金は大型構造物用の制震用素材として最適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来より用いられているPb製ダンパーの構成を示す概略説明図である。
【図2】150kg級インゴットを雰囲気加熱したときの加熱炉内温度と板温度の関係を示したグラフである
【図3】Zn−Al合金の状態図である。
【図4】鋳塊内部温度の経時変化(冷却カーブ)の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
1 鉛鋳造体
2 ホモゲン溶接部
3 鋼板
Claims (2)
- Zn:30〜99%(質量%の意味、化学成分については以下同じ)を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相またはα’相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有し、且つAl系介在物の最大径が50μm以下であると共に、マクロ偏析が3.0%未満およびミクロ偏析が2.0%未満であることを特徴とする高速変形特性に優れたZn−Al合金。
- Zn−Al合金溶湯を鋳型に注入して製造するに際して、注入溶湯と外部雰囲気とを遮断しつつ鋳込み、鋳込み後の鋳型冷却過程で425〜375℃の温度範囲を0.25℃/秒以上の平均冷却速度で冷却すると共に、275〜250℃の温度範囲を0.02℃/秒以上の平均冷却速度で冷却し、且つ鋳塊の再加熱時に350℃以上に保持することを特徴とする高速変形特性に優れたZn−Al合金の製造方法。
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