JP3898844B2 - 安定した変形抵抗を有するZn−Al合金部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、風や地震等による揺れ或は歪みに追随できる、所謂、免震・制震デバイス用金属として使用できるZn−Al合金部材、およびその様なZn−Al合金部材を製造する為の有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
風荷重、地震荷重の歪みを吸収する、或いは歪みや揺れに追随できる、所謂免震・制震デバイスとしては、Pb製ダンパー、防振ゴム、オイルダンパーや、LYP(極低降伏点鋼)等の制振鋼板を用いたものなどがある。
【0003】
しかしながら、防振ゴムは経時劣化の問題があるため、長期間の耐用が求められる建築物用の免震・制震デバイスには適していない。オイルダンパーは、定期的メインテナンスを要するため、防振ゴムと同様に、建築物の免震・制震デバイス用としては面倒である。また、LYP等の制振鋼板は、永久変形によって加工硬化がおきたり、繰り返し荷重に対して材質劣化すると、エネルギー吸収性が低下するばかりか、硬くなりすぎると、構造物にまで振動を伝播することになるため、制震・免震デバイス用金属としては、その用途が限定される。
【0004】
一方、Pbは軟らかく、地震や風のような振動数0.1〜10Hzの揺れに追随することができ、また変形による材質劣化という問題は少ない。このため、現在、建築物に取付けられる免震・制震デバイスとしては、図4に示すようなPb製ダンパーが、一般に用いられている。尚図4中、1は鉛鋳造体であり、2はホモゲン溶接部、3は鋼板である。
【0005】
しかしながら、上記の様に大型のダンパーは重量が重いために、施工が大変であるという問題がある。またPbの降伏点は5MPa程度と軟らかいので、構造物または構造物に接合された部材とPbダンパーを接合する為には特殊な技術が必要であり、適用範囲に限界があった。更に、Pbは毒性があるので、近年、建築物その他各種産業分野で使用が制限される傾向にある。
【0006】
このような事情から、近年、毒性がなく、小型軽量のデバイスを提供できる制震用の金属が求められており、PbやLYP鋼に代替できる制震用金属として、超塑性を示すZn−Al合金が注目されてきている。
【0007】
本発明者らも、かねてよりこうした超塑性を示すZn−Al合金について研究を進めており、その一環として、下記(a)または(b)の様な組織を有するZn−Al合金では、優れた特性を発揮する制震用Zn−Al合金となり得ることを見出し、その技術的意義が認められたので、先に出願している(特願平10−26136号)。
【0008】
(a)Zn:30〜80質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相またはα′相中に、平均粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織、
(b)Zn:75〜99質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相またはα′相、およびβ相を主要組織とし、前記α相またはα′相中に平均粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織。
【0009】
この技術では、ナノ結晶化による室温超塑性を発現させる為に、加工熱処理を利用するものであるが、この場合に冷却条件は水冷による急冷を必要とし(例えば、冷却速度で約200℃/秒)、その実施例での試験片径10mm(丸棒引張試験片)よりも小さい構造体であればこうした急冷を達成することは可能であったが、それ以上の大きさの大型構造体(丸棒でなくとも、複雑な形状でも最大厚さが10mmを超えると大型とみなす)では、上記の様に冷却速度を達成することは困難である。また複雑な構造物に不用意に水をかけると、熱間強度が低いZn−Al合金では形状が変化したり、熱変形による寸法精度の劣化が生じてしまう。
【0010】
またこの技術では、α組織の内部にナノスケールでβが分散した組織を得ようとするものであるが、こうした組織とするには上記した様な急冷(水冷)を必要とし、十分な冷却速度を達成するには小型構造物でしか適用できない。即ち、上記の様な技術では、大きな塑性エネルギーを吸収しようとすれば、小型の部材を多数用いる必要があり、構造的に複雑な塑性エネルギー吸収部材となる場合がある。
【0011】
つまり、大型金属部材の組織をナノ結晶化することは、工業的には制約が多く、特に大型化による冷却速度の遅延、加工時の変形抵抗上昇にによりるナノ結晶が製造しにくくなるという問題がある。そこで、大型金属部材で、塑性エネルギー吸収用金属として必要・十分な特性を得ることができる組織制御と製造方法を確立する必要がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、R.S.Mishraら[The observation of tensile superplasticity in nanocrystalline materials: Nanostruct Mater.Vol. 9,No. 1/8 p473-476(1997) ]、G. Toress-Villasenorら[A reinvestigation of the mechanical history on superplasticity of Zn-22Al-2Cu at room temperature :Material. Science. Forum Vol. 243/245 P553(1997)]およびM. Furukawa ら[Fabrication of submicrometer-grained Zn-22%Al by torsion straining. :J. Mater. Res. Vol. 11 No.9 P2128(1996) ]は、室温にて超塑性を得る為に実験的な微小な試料で、ナノ結晶を作製して室温超塑性を発現した。そしてこの場合の組織は、α相中にナノスケールでのβ相が微細分散した組織であり、本発明で得ようとする大型部材でラメラ組織とは組織形態が異なるものである。
【0013】
本発明者らが先に提案している上記技術(特願平10−26136号)では、上記の様な超塑性に関する技術に加工熱処理を利用することによって、微細でしかも高い伸び率(更に優れた超塑性)を得ようとするものである。しかしながらこの技術では、水冷の様な急冷が必要であり、大型構造物には適用しにくいという問題がある。またこのときの組織は上記した3 つの技術と同様に、α相中にナノスケールでのβ相が微細分散した組織である。
【0014】
本発明は、建築構造物用の免振・制振デバイス用振動吸収用合金として利用できる部材の実現を目指したものであり、こうした観点から繰り返しの大荷重を受け止める必要があり、ある程度の強度レベルを確保し(Pbの様に柔らかすぎると、構造体が大型になる)、しかも安定した変形抵抗特性(繰り返し載荷による高い累積塑性歪みにも耐え得る延性)を有しつつも、強度部材として大荷重を受け止めるだけの部材としての大きさが必要となる。
【0015】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大型構造体であっても可能な冷却速度範囲において、安定した変形抵抗、高延性を発現できる組織形態である微細ラメラ構造有するZn−Al合金部材、およびその様なZn−Al合金部材を製造する為の有用な方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明のZn−Al合金部材とは、Zn:30〜80質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、α相および/またはα′相を母相とし、その平均結晶粒径が60μm以下であると共に、該母相の組織が微細ラメラ構造であって、且つ該ラメラ構造の周期単位であるラメラ間隔が1000nm以下である点に要旨を有するものである。
【0017】
上記目的は、Zn:75〜99質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、α相および/またはα′相、並びにβ相を主要組織とし、α相および/またはα′相の平均結晶粒径が60μm以下であると共に、当該相の組織が微細ラメラ構造であって、且つ該ラメラ構造の周期単位であるラメラ間隔が1000nm以下である様なZn−Al合金部材であっても達成できる。尚後に詳述するが、上記α相とはAl相、α′相とはZnを固溶したAl相、β相とはZnを主成分とする第2相、を夫々意味する。
【0018】
また本発明の効果は、上記した趣旨から明らかなように、部材の最大厚さが10mmを超える様に大型構造体であるときに最大限に発揮される。
【0019】
一方、本発明のZn−Al合金部材を製造するに当たっては、Zn−Al合金を275〜350℃の温度範囲にて均熱した後、該均熱温度から70℃の間の温度で10%以上の熱間加工を行ない、その後70〜240℃の温度範囲で恒温変態させる様にすれば良い。
【0020】
【発明の実施の形態】
まず、本発明のZn−Al合金部材の化学成分組成について説明する。本発明のZn−Al合金部材の化学成分組成は、Zn含有量が30〜99質量%、好ましくは30〜80質量%、更に好ましくは50〜80質量%、最も好ましくは70〜80質量%で、残部がAlおよび不可避不純物である。これらのうち、Zn−22質量%Al共析合金が特に好ましい。これは図1のZn−Al合金の状態図に示すように、Alの含有量が22質量%に共析点があるので、組織制御が最もし易いからである。
【0021】
一方、上記範囲では、Znの含有量が小さくなるにつれて、β析出量が減少し、結晶粒の移動による塑性変形が起こっても伸びが低下する傾向にある。そして、Znの含有量が30質量%未満となると、本発明の条件で処理しても100%を超える伸びは発現できない。またZn含有量が99質量%を超えると、β相単相となって、α相中にナノスケールで分散したβ析出物を持つ組織の分率が下がり、十分な延性が得難くなる。
【0022】
尚、図1において、α相とは主成分がAlの面心立方格子の結晶領域をいい、α′相とは結晶構造は面心立方格子であるが成分的にはZnが主成分となっている結晶領域をいい、β相とはZnが主成分となった六方稠密格子の結晶領域をいい、Lは液体相である。
【0023】
次に、本発明の制震用Zn−Al合金の組織について説明する。大型構造体において、水冷という急冷をしないでもZn−Al合金が高い延性を示すためには、結晶粒径(一つのラメラ構造体の単位)が微細で、なお且つαとβのラメラ構造が微細で均一である必要がある。Zn含有量が30〜80質量%の範囲で、ほぼ全体積分率で100%のラメラ構造を得ることが可能であるが、前記図1から明らかであるように、Zn含有量が75%以上の成分範囲では、β相とラメラ構造の2相組織となやすい。ここで、α相、β相とは、1000倍程度で認識することが出来る組織である。
【0024】
Zn−Al合金部材において高い延性を確保する為には、主要組織が微細ラメラ構造でそのラメラ構造となっている組織(パーライトではノジュールに相当する組織)が微細であることが必要である。尚上述の如く、Zn含有量が75%以上のZn−Al合金では、第2相(体積分率が主要組識以下の組織相)としてβ相が存在していても良い。
【0025】
α相および/またはα′相の平均結晶粒径が60μm以下で、且つラメラ間隔が1000nm以下であれば、100%以上の伸びが確保できる。このラメラ間隔は、好ましくは500nm、より好ましくは300nm以下とするのが良く、ラメラ間隔が500nm以下であれば120%以上の伸び、300nm以下であれば150%以上の伸び、200nm以下であれば200%以上の伸びが確保できる。
【0026】
尚本発明のZn−Al合金は、上記要件を満たせば、定常応力が加工量、歪み速度によってあまり変化しないように、ヒステリシスの安定性を損なわない範囲で、強化元素Cu、Si、Mn、Mgを含有していてもよい。また、伸びの向上のために、結晶微細化に有効なZr、TiBを添加してもよい。また本発明の効果は、上記した趣旨から明らかなように、部材の最大厚さが10mmを超える様に大型部材であるあるときに最大限に発揮されるが、本発明で適用する部材はこうした大型部材だけに限らず、最大厚さが10mm以下の様な小型の部材をも含むものであり、こうした部材を対象とした場合でも本発明の効果を達成することができる。
【0027】
次に、本発明の製造方法について説明する。本発明では、水冷(空冷)による熱歪みとZn−Al合金部材そのものの持つ熱間強度の不足による熱間塑性変形の問題を克服しつつ、大型部材でも製造可能な工程で、しかも高延性で安定した変形抵抗を得ることを目的としており、こうした観点から上記の様に微細ラメラ構造を得るのに最適な製造方法について検討したものである。
【0028】
本発明方法では、所定の温度で均熱処理を行なうものである。これは80%Zn以下の成分ではα単相域に保持して(前記図1)、一旦ZnとAlを均一分散させ、その後変態させることによって、部材中に均質な組織を得る為のものである。尚Zn含有量が75〜99%、特に80%以上ではα単相域が存在せず、α+β2相域での均熱処理になるが、この成分範囲であっても一旦は前組織の影響をキャンセルするために均熱処理することが推奨される。
【0029】
またいずれの成分範囲であっても、本発明の微細ラメラ構造を得るものであり、こうした観点から275℃以上の変態点以上に一旦加熱する必要がある。即ち、275℃以上に加熱しないと、前組織が完全にキャンセルされず、均熱処理の効果が発揮されないので、均熱処理温度は最低でも275℃にする必要がある。しかしながら、350℃を超えて加熱すると、Zn−Alは熱間強度が不足しているので、それ自身の形状精度の維持が困難になる。尚Zn含有量が50%以下の成分範囲では、短時間(例えば1時間以内)であれば350℃を超えても差し支えないが、350℃を超えるような高温における均熱処理はあまり好ましくない。
【0030】
上記均熱処理の後は、該均熱温度から70℃の間の温度で10%以上の熱間加工を行なう必要がある。この熱間加工を行なわないと、α粒径が粗大化してしまい、引張試験の伸びが不足する。このとき熱間加工温度が該均熱温度から70℃の間の温度範囲を外れると、ラメラ構造とならず、α相中にナノスケールで分散したβ析出物を持つ組織となり、このナノ組織は特性に優れているが(例えば、特開平10−26136号)、大型部材には適用し難いという問題がある。またこのときの熱間加工の加工率を10%以上とすることによって、α粒径が微細化して引張試験の伸びが向上することになるので好ましい。
【0031】
熱間加工後から冷却に至るまでの熱処理パターンは、熱間加工直後に冷却に入るのが好ましい。これは、熱間加工によって得られた微細粒からα/βの相界面析出が起き、微細α粒と微細ラメラ間隔の両立が可能になるからである。
【0032】
本発明では上記冷却によって70〜240℃にして、この温度で恒温変態させるものであるが、この温度が70℃未満になると本発明のラメラ構造が生成されない。また引張試験における延性(伸び)は、Znの成分範囲が30〜99%の範囲内であれば、ある程度確保されるのであるが、やはり熱変形の問題が生じてしまい、熱処理ままので部品・部材として使用できず、その後の形状修正(矯正)が必要になる。特に、複雑な形状の部材の場合には、熱処理後の矯正も制限されるので、やはり熱処理ままで所定の形状精度が得られることが好ましい。一方、恒温変態温度が2 40℃を超えると、ラメラ構造が粗大化してしまい、その間隔が1000nmを超えるものとなって延性(引張試験の伸び)が不足することになる。
【0033】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0034】
【実施例】
下記表1に示す各種のZn−Al合金を用い、引張試験および繰返し引張り・圧縮試験を行なった。試験No.1〜4のものは、市販のインゴットから必要な試験片形状に切り出したものである。試験No.5のものはインゴットからそのまま切り出したもの、試験No.6のものはインゴットを350℃に再加熱して炉冷したもの、試験No.7のものはインゴットを350℃に再加熱して空冷したもの、試験No.8のものはインゴットを350℃に再加熱して水冷したものである。それ以外のもの(試験No.9〜29)については、大気溶解によって成分調整し、200mm(厚さ)×200mm(幅)×500mm(長さ)に熱間鍛造した後、空冷したものを初期材料とし、その後350℃に加熱し(試験No.9〜13)、或いは350℃で圧延し(試験No.14〜29)、引き続き油焼入れによって250℃〜室温の恒温変態を行なったものである。
【0035】
これらの試料の組織因子(α相および/またはα′の平均結晶粒径、ラメラ間隔等)を、上記合金成分および製造プロセスと共に下記表1 に示す。尚このときα相および/またはα′の平均結晶粒の測定については、走査型電子顕微鏡(SEM)の2000倍率の3視野撮影後、円換算粒径として画像処理を行なって求めた。また、ラメラ間隔については、SEMでの10000倍で10視野撮影後、ラメラ間隔の平均値でもって評価した。
【0036】
【表1】
【0037】
引張試験は、図1に示す様なJIS4 号D型試験片を用いて行なった。そして、0.2%耐力(0.2%PS)、歪みが1%のときの変形抵抗(1%FS)、歪みが5%のときの変形抵抗(5%FS)、破断強度(TS)、全伸び(El)、絞り(ψ)、弾性歪みエネルギー(E0 :応力−歪み曲線の積算値により算出)を用いて引張特性を評価した。
【0038】
ところで、直下型地震の様に、繰返し数が少ない1回或いは2,3回の繰返し数で構造材料が破断しかねない変形量(参考値:建築構造物の柱、梁に使用される鋼材SB490Bで20〜30%の伸び)が構造部材(上記柱、梁)に負荷される様な場合でも、振動吸収用金属は構造物の振動を抑制する機能が働かなければならないので、その倍数(上記変形量の倍数:この倍数は安全率の様なもの)の変形でも振動吸収能力を発揮する必要がある。そしてこの倍数は、構造体と振動吸収デバイスの設計の仕方によっても変化するが、本発明では引張試験において最低でも構造部材の3倍の変形能を有していることとした。即ち、構造部材の2倍程度では、強度はZn−Al合金よりも低く、エネルギー吸収能(前記E0 )が低いものの、伸びだけで見れば、5N(99.999%)−Al,4N(99.99%)−Zn,4N−Pbでも達成可能であり、Zn−Alと前述した3種類の金属の延性差を顕著に表現するには、構造部材の3倍の延性(具体的には100以上の伸び)がなければ、従来技術との差異が不明確であるので、引張試験における伸びの要求値を100%とした。
【0039】
一方、繰返し引張り・圧縮試験は、圧縮時に座屈が起きない様に、図2に示す砂時計型試験片を用いて行なった。引張り−圧縮条件は±5%で繰返し回数20回まで載荷した。そして、±5%の繰返し載荷が1回目のヒステリシスの最大応力(5%*1FS)、±5%の繰返し載荷が20回目のヒステリシスの最大応力(5%*20FS)、±5%の繰返し載荷が1回目のヒステリシスの弾性歪みエネルギー(E1 )、±5%の繰返し載荷が20回目のヒステリシスの弾性歪みエネルギー(E20)、および弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20:%)で繰返し引張り・圧縮試験特性を評価した。
【0040】
この繰返し引張り・圧縮試験は、地震時の載荷パターンを模擬する為に行ない、特に海洋型地震、風荷重の様に1回の振幅が小さく、免震・制震デバイス、或いは構造物の破壊にまでは至らない様な載荷形態を模擬し、評価する為のものである。そしてこの試験では、材料の破断よりも建築構造物の振動を安定して吸収する為には繰返し載荷中の変形抵抗(応力)の安定化が問題となるので、前記弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が±15%以下であれば、十分設計可能であると考えられる。
【0041】
例えば、建築構造部材の柱や梁という強度部材に一般に使用されるSN490B(JISG3136)では、降伏点(YS)の範囲が445〜325MPa(中心値が385MPaで、この中心値に対して上下限範囲が±15.6%)となっている。またJISG3136では、降伏比も80%以下とされており、振動吸収用金属の載荷中・後の強度変化も±15%以下に制御できていれば、許容できるものと考えられる。引張試験および繰返し引張り・圧縮試験の結果を、下記表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
これらの結果から、次の様に考察できる。まず試験No.1の5N−Alでは、引張試験における伸びが70%であり、要求される100%には至っていない。また繰返し引張り・圧縮試験においても、弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が150%を超えており、要求される100±15%を満足していない。
【0044】
試験No.2の4N−Znでは、引張試験における伸びが65%であり、要求される100%には至っていない。また繰返し引張り・圧縮試験においても、弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が160%を超えており、要求される100±15%を満足していない。
【0045】
試験No.3の4N−Pbでは、引張試験における伸びが54%であり、要求される100%には至っていない。また繰返し引張り・圧縮試験においても、弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が150%を超えており、要求される100±15%を満足していない。
【0046】
試験No.4の4N−Snでは、引張試験における伸びが133%であり、要求される100%を満足しているが、繰返し引張り・圧縮試験において、弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が144%であり、要求される100±15%を満足していない。
【0047】
試験No.5のAl−80%Znインゴット材は、α相またはα相′の平均結晶粒径が60μmを超えており、またラメラ間隔も1000nmを超えて組織が粗大になっているので、引張試験の伸びが13%になっており、要求される100%に至っていない。また繰返し引張り・圧縮試験においても、弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が127%であり、要求される100±15%を満足していない。
【0048】
試験No.6のAl−80%Znでは(インゴット材を炉冷したもの)、α相またはα相′の平均結晶粒径が60μmを超えており、またラメラ間隔も1000nmを超えて組織が粗大になっているので、引張試験の伸びが55%になっており、要求される100%に至っていない。
【0049】
試験No.7のAl−80%Znでは(インゴット材を空冷したもの)、α相またはα相′の平均結晶粒径が60μmを超えており、またラメラ間隔も1000nmを超えて組織が粗大になっているので、引張試験の伸びが56%になっており、要求される100%に至っていない。また繰返し引張り・圧縮試験においても、弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)が116%であり、要求される100±15%を満足していない。
【0050】
試験No.8のAl−80%Znでは(インゴット材を水冷したもの)は、α相またはα相′の平均結晶粒径が60μmを超えており、また水冷でるのでラメラ構造も形成されていないので、引張試験の伸びが58%になっており、要求される100%に至っていない。
【0051】
試験No.9〜13のものでは、350℃の均熱加熱時に熱間加工したものであるが、α相またはα相′の平均結晶粒径が60μmを超えており、組織が粗大になっているので、引張試験の伸びが55%になっており、要求される100%に至っていない。
【0052】
試験No.14〜21のものでは、350℃で均熱加熱して熱間圧延(30〜50%)を行なった直後に、恒温変態を行なったものである。このうち、試験No.14のものでは、変態温度が250℃と高くなっている為に、ラメラ間隔が1000nmを超えており、伸びが100%に至っていない。また試験No.20,21のものでは、変態温度が50℃、20℃と低くなっているので、ラメラ構造が形成されずに、伸びが100%に満たないものである。
【0053】
これに対して試験No.15〜19のものでは、変態温度が70〜240℃の適正な範囲内であるので、α相またはα’相の平均結晶粒径が60μm以下となっており、またラメラ間隔も1000nm以下と適正な組成範囲となっており、伸びも100%以上が達成されており、また弾性歪みエネルギーの変化率(E1/E20)も100±15%を満足している。
【0054】
試験No.22〜27のものは、Zn濃度が96%(試験No.22,23)、60%(試験No.24,25)、40%(試験No.26,27)と適正な範囲内のものであるが、このうち(350℃均熱加熱+10%以上圧延+150℃恒温変態)と、適切な製造条件のもの(試験No.22,24.26)では、α相またはα相′の平均結晶粒径が60μm以下となっており、またラメラ間隔も1000nm以下と適正な組成範囲となっており、伸びも100%以上が達成されており、また弾性歪みエネルギーの変化率(E1 /E20)も100±15%を満足している。一方、変態温度が50℃と低いものでは(試験No.23,25,27)、ラメラ構造が形成されずにみ、伸びが不足している。
【0055】
試験No.28、29のものでは、Zn濃度が20%と本発明で規定する範囲を外れているので、製造条件の適・不適に関わらず、伸びが不足していた。
【0056】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されていおり、本発明に係るZn−Al合金部材は、建築構造物の地震・台風による振動を吸収するのに十分な大荷重を、繰返し負荷においても安定した振動吸収特性を発揮するので、変形抵抗の安定化や高延性を試験片レベルではなく、大型部材にて可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】Zn−Al合金の状態図である。
【図2】引張試験に用いた試験片の形状を示す概略説明図である。
【図3】繰返し引張り・圧縮試験に用いた試験片(砂時計試験片)の形状を示す概略説明図である。
【図4】従来から用いられているPb製ダンパーの構成を示す図である。
【符号の説明】
1 鉛鋳造体
2 ホモゲン溶接部
3 鋼板
Claims (2)
- Zn:75〜99質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるZn−Al合金であって、α相および/またはα’相、並びにβ相を主要組織とし、α相および/またはα’相の平均結晶粒径が60μm以下であると共に、その組織が微細ラメラ構造であって、且つ該ラメラ構造の周期単位であるラメラ間隔が1000nm以下であることを特徴とする安定した変形抵抗を有するZn−Al合金部材。
- 部材の最大厚さが10mmよりも大きいものである請求項1に記載のZn−Al合金部材。
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JP27137198A JP3898844B2 (ja) | 1998-09-25 | 1998-09-25 | 安定した変形抵抗を有するZn−Al合金部材 |
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