JP5103107B2 - 高弾性合金 - Google Patents
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Description
特に、Co-Ni-Cr-Mo合金は優れた特性を有しており、精密機械のバネ、ゼンマイなどの他、医療用具の部材などとしても注目されている。
特に、Co-Ni-Cr-Mo合金は優れた特性を有しており、注目されている。こうしたCo-Ni-Cr-Mo合金ではあるが、再結晶まま材では弾性率(ヤング率)が230〜240GPa程度であり、また、室温で強加工することのより、高強度化されるが、ヤング率は220GPa程度に低下するため、高強度化と高弾性率化を両立させることが難しいという問題があった。
本発明者は、Co-Ni基合金の性状の更なる改善、特には高弾性合金を目的に鋭意研究を進めた結果、本Co-Ni基合金系に塑性加工を加えると、高強度のものとなるが、弾性率は一度低下する。しかし、こうして得られたものを、400℃〜850℃の温度領域で、数十分〜数時間の熱処理を施すことにより弾性率が上昇し、これにより、強度を損なうことなく、260GPaを超える弾性率を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。。
本発明は、Co-Ni−Cr-Moを主な構成元素とする合金に、室温において塑性加工を加え、その後の熱処理を施すことにより、高強度特性を維持したまま弾性率を上昇させる技術を提供するものである。
[1] (1)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、W、Feからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 25〜40%、Co: 25〜45%、Cr: 18〜26%、Mo: 3〜11%、W: 0.5〜9%、Mo+W: 4〜13%、Fe: 1.1〜5%、
(2)合金が、Ni、Co、Cr、Moからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 20〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、又は
(3)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、Mn、Ti、Al、Fe、Nb、希土類元素からなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 25〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、Mn: 0.1〜5%、Ti: 0.1〜5%、Al: 0.1〜5%、Fe: 0.1〜5%、Nb: 0.1〜3%、希土類元素: 0.01〜1%
であって、該合金の強加工で、圧延方向に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織が形成された合金であって、強加工後の400〜850℃の熱処理により圧延方向のヤング率が210GPa以上、TD方向のヤング率が245GPa以上に上昇せしめてあり、引張り強さが1200MPa以上にされていることを特徴とするCo-Ni基合金。
[2] (1)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、W、Feからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 25〜40%、Co: 25〜45%、Cr: 18〜26%、Mo: 3〜11%、W: 0.5〜9%、Mo+W: 4〜13%、Fe: 1.1〜5%、
(2)合金が、Ni、Co、Cr、Moからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 20〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、又は
(3)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、Mn、Ti、Al、Fe、Nb、希土類元素を含有し、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 25〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、Mn: 0.1〜5%、Ti: 0.1〜5%、Al: 0.1〜5%、Fe: 0.1〜5%、Nb: 0.1〜3%、希土類元素: 0.01〜1%
であって、該合金の強加工後に、圧延方向に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織が形成された合金で、且つ、該合金に対して、400〜850℃の温度範囲で、30分〜2.5時間の熱処理が施してあり、圧延方向のヤング率が210GPa以上、TD方向のヤング率が245GPa以上に上昇せしめてあり、引張り強さが1200MPa以上にされていることを特徴とするCo-Ni基合金。
〔4〕 強加工が、圧延加工であり、該強加工により、板材、角棒材、丸棒材又は線材の圧延方向である長さ方向(RD方向)に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織を発達させてあることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の合金。
〔5〕 該合金(1)が、Nb、Mn、B、Zr、Ti及びCからなる群から選択された元素の少なくとも一種類以上の元素を含み、該合金組成において、重量比で、
0≦Nb≦2%、0≦Mn≦2%、0≦B≦0.02%、0≦Zr≦0.2%、0≦Ti≦1%、0≦C≦0.1%
であることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載の合金。
〔6〕 該合金(2)の組成が、重量比で、
Ni: 31.4〜33.4%、Co: 30.9〜37.2%、Cr: 19.5〜20.5%、Mo: 9.5〜10.5%、Mn: 0.1〜0.5%、Nb: 0.8〜1.2%、Ti: 0.3〜0.7%、Fe: 1.1〜2.1%、ミッシュメタル: 0.01〜0.07%、B: 0.003〜0.01%、不可避不純物
であることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載の合金。
〔7〕 該合金(3)において、希土類元素が一種又は二種以上を同時に複合添加してあることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載の合金。
〔8〕 希土類元素が、Y、La、Ce、ミッシュメタルからなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔7〕に記載のCo-Ni基合金。
〔10〕 600〜750℃の温度範囲で、30分〜2.5時間の熱処理が施してあり、TD方向のヤング率が245GPa以上に上昇せしめてあることを特徴とする上記〔2〕に記載の合金。
〔11〕 TD方向のヤング率が250GPa以上に上昇せしめてあることを特徴とする上記〔2〕に記載の合金。
〔12〕 上記〔1〕〜〔11〕のいずれか一記載の合金であって、<110>集合組織を形成してあるTD方向が長手方向となっていることを特徴とする合金からなるゼンマイ。
〔13〕 上記〔1〕〜〔11〕のいずれか一記載の合金であって、<110>集合組織を形成してあるTD方向が長手方向となっていることを特徴とする合金からなる板バネ。
〔14〕 上記〔1〕〜〔11〕のいずれか一記載の合金、上記〔12〕に記載のゼンマイ又は上記〔13〕に記載の板バネの製造法であって、当該合金組成を持つCo-Ni基合金を、(1)強加工、あるいは、(2)強加工後に該合金に対して、400〜850℃の温度範囲で、数分〜数時間の熱処理を施し、(i)圧延方向に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織を発達せしめ、及び/又は、(ii)TD方向のヤング率を245GPa以上に上昇せしめることを特徴とする前記合金の製造法。
かくして、高強度及び高弾性の合金材を利用して、発電用機械装置の部品、エレクトロニクス、医療分野の部材、精密機械用材料、血管用ステント用材、さらには、航空機用ジェットエンジン、ガスタービン部材、自動車用エンジン、化学プラントなどに利用される。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
該Co-Ni基合金は、少なくともNi、Co、Cr、Moを含有し、該合金組成が、重量比で、Ni: 25〜40%、Co: 25〜45%、Cr: 18〜26%、Mo: 3〜11%、W: 0.5〜9%、Mo+W: 4〜13%、Fe: 1.1〜5%であるものであってよい。例えば、特開2004-307993号公報に開示の合金が包含されてよい。該合金は、少なくともNi、Co、Cr、Moを含有し、該合金組成が、重量比で、Ni: 25〜40%、Co: 25〜45%、Cr: 18〜26%、Mo: 3〜11%、W: 0.5〜9%、Mo+W: 4〜13%、Fe: 1.1〜5%で、Nb、Mn、B、Zr、Ti及びCからなる群から選択された元素の少なくとも一種類以上の元素を含み、該合金組成において、重量比で、0≦Nb≦2%、0≦Mn≦2%、0≦B≦0.02%、0≦Zr≦0.2%、0≦Ti≦1%、0≦C≦0.1%であるものであってよい。また、該Co-Ni基合金は、少なくともNi、Co、Cr、Moを含有し、該合金組成が、重量比で、Ni: 20〜50%、Co: 20〜45%、Cr + Mo: 20〜40%であるものであってよい。例えば、特許第3190566号に開示の合金が包含されてよい。該合金は、その組成が、重量比で、Ni: 31.4〜33.4%、Co: 30.9〜37.2%、Cr: 19.5〜20.5%、Mo: 9.5〜10.5%、Mn: 0.1〜0.5%、Nb: 0.8〜1.2%、Ti: 0.3〜0.7%、Fe: 1.1〜2.1%、ミッシュメタル: 0.01〜0.07%、B: 0.003〜0.01%、不可避不純物ものであってもよい。さらに、該Co-Ni基合金は、少なくともNi、Co、Cr、Moを含有し、該合金組成が、重量比で、Ni: 20〜50%、Co: 25〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、Mn: 0.1〜5%、Ti: 0.1〜5%、Al: 0.1〜5%、Fe: 0.1〜5%、Nb: 0.1〜3%、希土類元素: 0.01〜1%であるものであってよい。例えば、特開昭57-194237号公報に開示の合金が包含されてよい。該合金において、希土類元素が一種又は二種以上を同時に複合添加してあるものであってよいし、希土類元素が、Y、La、Ce、ミッシュメタルからなる群から選択されたものであってもよい。
本合金のビュレットなどは、熱間鍛造を行い、次いで熱間スウェージ加工、冷間スウェージ加工を施すことにより、棒材や線材にすることができる。そして、適宜、熱処理されることができる。
熱間鍛造は、ハンマ、プレスなどの工具を介して材料に圧力を加え、結晶粒を微細化し、組織を均等にして強化するものであることが好ましい。本処理は、鋳塊の外側部に存在する大きな結晶粒や、内部の巣や収縮管あるいは偏析などの欠陥につき、結晶粒を機械的に細粒化したり、再結晶により均一化したり、諸欠陥を除くことができるものであることが好ましい。本熱間鍛造は、当該分野で知られた手法、装置を使用して行うことができ、自由鍛造、型鍛造を包含するものであることができるが、伸展鍛錬を加えることもできる。本熱間乱造では、所定の効果が得られるように、適宜、鍛造比や鍛造温度を選択することができる。本処理では、適宜、適切な潤滑剤を選定して使用できるし、加熱温度及び鍛造終了温度も、適切に選択できる。加熱温度は高過ぎると結晶粒が粗大化するので好ましくなく、また、鍛造終了温度が低いと内部ひずみが残ることになるので好ましくないが、例えば、再結晶温度よりやや高めの温度で終了すれば内部ひずみが残らないので好ましい。
本合金のビュレット、板材(薄板材、厚板材、平板材、広幅帯板材を包含する)、棒材(丸棒材、角棒材を包含する)などは、強い塑性加工(強加工)に付される。当該強加工は、好適には、所謂、冷間加工であり、室温で強加工することを包含している。塑性加工とは、金属材料に大きな力を加えて変形させることにより加工することを指しており、鍛造加工、圧延加工(板圧延及び型圧延を含む)、押出し加工、引抜き加工、プレス加工、転造加工などなどが包含される。典型的な場合、本合金では、ビュレット、板材、棒材などは、冷間圧延される。また、該冷間圧延の結果得られたものは、熱処理、好ましくは、ひずみ時効熱処理に付されることができる。
材料中の結晶粒径は、圧延前で50μmであるものが、本冷間圧延後では、一般的には、より細かになっており、例えば、10μm以下となっている場合などが挙げられる。材料中の結晶粒径は、10μm以上であっても、所定のヤング率が得られれば問題は無い。
本発明の技術で得られる高弾性合金は、引張り強さが少なくとも1.2GPa以上、さらには1.38GPa以上、そして2.2GPa程度あるいはそれ以上のCo-Ni-Cr-Mo合金、ヤング率が、少なくとも210GPa以上、さらには230GPa以上、そして245GPa程度あるいはそれ以上のCo-Ni-Cr-Mo合金、さらには引張り強さが2.5GPa以上、ヤング率が230GPa以上のCo-Ni-Cr-Mo合金、ある場合には引張り強さが2.5GPa以上、ヤング率が240GPa以上(あるいは245GPa以上)のCo-Ni-Cr-Mo合金、より好ましくは引張り強さが2.5GPa以上、ヤング率が250GPa以上のCo-Ni-Cr-Mo合金が挙げられる。本発明の合金材は、弾性が非常に高いものであり、さらに、強度、耐久性、耐蝕性、耐熱性の高いという特性を持っている。
本発明は、上記合金組成を持つCo-Ni基合金を、(1)強加工、あるいは、(2)強加工後に該合金に対して、400〜850℃の温度範囲で、数分〜数時間の熱処理を施し、(i)圧延方向に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織を発達せしめ、及び/又は、(ii)TD方向のヤング率を245GPa以上に上昇せしめることを特徴とする合金の製造法を提供している。
さらに、本発明では、強加工で形成させる集合組織の特性を利用し、<110>集合組織の発達した方向を選択する技術及び<110>集合組織の発達した方向を利用し、熱処理、例えばひずみ時効熱処理を施して優れた特性を引き出す技術を提供する。代表的な態様では、例えば、冷間圧延での圧延方向(RD方向)に対して60°以上の方向を選択して、その方向を長手方向とした部材・製品を提供する技術も提供される。特に好ましい態様では、本発明は、冷間圧延での圧延方向(RD方向)に対して90°の方向(TD方向)を、長手方向として選択してある部材・製品、例えば、ゼンマイ、板バネを提供する。さらに、本発明は、強加工後の集合組織の分析で、<110>集合組織が発達した方向、例えば、TD方向を利用し、該TD方向を部材・製品についてより高い強度及びより高いヤング率の要求される方向として採用することにも関する。かくして、本発明の合金であって、<110>集合組織が発達せしめてあるTD方向が長手方向となっていることを特徴とするゼンマイや、本発明の合金であって、<110>集合組織が発達せしめてあるTD方向が長手方向となっていることを特徴とする板バネが提供される。該集合組織の分析は、当該分野で知られた方法・装置でなされたものであってよく、例えば、パナリティカル社製集合組織解析装置(解析ソフト、Philips社製、X'pert textureを使用)を使用して、<110>集合組織が発達していることなどが判定される。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
Co-Ni基合金の組成(重量比)としては、Ni:20〜50%、Cr:18〜26%且つMo:3〜11%、あるいはCr + Mo:20〜40%で、任意に、微量元素として、5%以下の、W、Mn、Nb、Fe及びTiからなる群から選択されたもの、さらに任意に、希土類元素及びミッシュメタルから選択されたもの、そして不可避不純物、並びに、Co:残部からなるものとした。
代表的なCo-Ni基合金であるSPRON510(登録商標:セイコーインスツル株式会社)の化学組成(wt%)は表1に示すようなものである。
本実施例では、Co-Ni基合金として、W、Mo、Cr、Niの添加量を変えた、表2で示す化学組成(wt%)のものを作製使用した。
各組成の元素から成る混合物を真空溶解して合金を造塊する。合金7 kgのインゴットを1180℃×10時間(hr)の均質化処理を行った後、熱間鍛造を行い、次に熱間スウェージ加工を施した。本熱間鍛造は加熱温度1180℃、打ち止め900℃以上の条件で行った。そして該熱間スウェージ加工では、加工パスを経てφ(mm)= 78 → 26 で行った。ついで得られた丸棒材は、冷間スウェージ加工を施し、途中に中間焼鈍を入れて、加工パスを経てφ(mm)= 26 → 7 で行った。最終的には、φ(mm)= 10 → 7の冷間スウェージ加工により、減面率=51%の線材を得た。これを長手方向45mmに切断して、「予ひずみまま材」とした。
この予ひずみまま材を試料として、熱処理、すなわち、(1)ひずみ時効熱処理、又は(2)焼鈍を行った。ひずみ時効熱処理は、それぞれ400、500、600、700、800℃(30、60、120min)にAr雰囲気中で加熱し、その後炉冷した。これを、「ひずみ時効材」とした。焼鈍は、1050℃(240min)にAr雰囲気中で加熱し、その後炉冷した。これを、「焼鈍材」とした。
以上より、本合金系では、合金組成とヤング率の関係をみると、合金組成を選択することによりヤング率の向上が可能であり、さらに、加工及び再結晶集合組織によるヤング率への影響を考慮することも必要であることが認められた。強加工によるヤング率の低下は、多くの転位が導入され、生成された原子空孔が多くなるため、原子間力が低下すると考えられる。本合金系では、時効熱処理によりヤング率の向上が図れる。すなわち、<111>の配向が減少し、<110>の配向が相対的に増え、ヤング率が向上する。また、強加工後の熱処理でXRDで検知されないほどの析出物等の発生で、ヤング率向上に効果をもたらすと考えられる。かくして、本合金系では、合金元素の添加を適宜選択して集合組織を制御したり、及び/又は、ひずみ時効熱処理により、ヤング率の大幅な向上が期待できる。
実施例1で説明した合金組成のものにつき、検討を加えた。合金試料の作成は、次のような工程で行った。実施例1の表2で示す化学組成の合金、例えば、SPRON510(登録商標:セイコーインスツル株式会社)の鋳造材−熱間鍛造材(板材)を出発材として使用し、1050℃×24時間(hr)の均質化処理を行った後、一方向に冷間圧延した。本冷間圧延では、厚さ10mmから厚さ1.0mm(Red: 90%)に加工した。得られた薄板より試料を切り出し、「冷間圧延まま材」とした。試料の切り出しは、圧延方向(RD)、30°、60°、90°(TD)で、43.0mm×7.0mm×1.0mmのサイズで行った。図12には、出発板材(図12上側)及び冷間圧延された薄板材(図12下側)、そして切り出し方向が示されている。
この冷間圧延まま材を試料として、熱処理、すなわち、(1)ひずみ時効熱処理、又は(2)焼鈍を行った。ひずみ時効熱処理は、それぞれ650、700、750、800、850℃(各温度1時間保持)にAr雰囲気中で加熱し、その後炉冷した。これを、「冷間圧延ひずみ時効材」とした。焼鈍は、1050℃(1時間保持)にAr雰囲気中で加熱し、その後炉冷した。これを、「冷間圧延焼鈍材」とした。
図13に時効条件ごとのヤング率計測結果を示す。図13では、それぞれの熱処理条件で、左からRD、30°、60°、90°(TD)の角度の順に示してある。図14にRDに対する角度ごとのヤング率計測結果を示す。図14では、それぞれRD、30°、60°、90°(TD)の角度条件で、左からa:熱間圧延まま材、それぞれの熱処理条件(b:650、c:700、d:750、e:800、f:850℃)の順に示してある。図15には、冷間圧延まま材(TD方向)、冷間圧延まま材をひずみ時効熱処理したもの〔700℃×1時間材(TD方向)及び700℃×1時間材(TD方向)〕、そして冷間圧延焼鈍材(再結晶材)について、引張り試験の結果を示す。
XRD計測の結果は、図16に示す。図17には、冷間圧延前の集合組織の分析の結果を示してある。均質化処理後の試料は、集合組織が形成されていない。図18は、冷間圧延まま材(reduction: 90%)の集合組織の結晶方位を分析した結果を示す。図18の右下側の図は、金属材試料の切り出し方位を模式的に示すものである。
図19は、本合金系での冷間圧延後のヤング率と方位依存性との関係を考察したものである。冷間圧延焼鈍材についてEBSPによる結晶方位分析の結果を、図20に示す。試料表面の再結晶集合組織は{110}であり、RD方向は<111>と<100>であった。図21には、光学顕微鏡による組織観察の結果を示す。
図13より明らかな如く、冷間圧延のままで、TD方向材が最大のヤング率を示している。また、図14より、TD方向材であって、ひずみ時効熱処理を行うことで、高いヤング率の値を持ち、且つ、高強度を有するものが得られることが判明した。なお、RD方向に対して60°以上であれば、高いヤング率を有し優れている。さらに、TD方向であれば、より高いヤング率を得られ好ましい。
本Co-Ni基合金では、強加工により、加工後のヤング率は減少するが、時効熱処理によりヤング率を上昇させることが可能であり、また、適正な熱処理条件を選択することにより、焼鈍材よりもヤング率を向上させることができる。また、RDよりも、TDでヤング率が高いし、圧延方位に対する角度により、ひずみ時効熱処理後のヤング率上昇の傾向が異なることから、高強度と高ヤング率を兼ね備えた合金材を製造できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
Claims (10)
- (1)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、W、Feからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 25〜40%、Co: 25〜45%、Cr: 18〜26%、Mo: 3〜11%、W: 0.5〜9%、Mo+W: 4〜13%、Fe: 1.1〜5%、
(2)合金が、Ni、Co、Cr、Moからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 20〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、又は
(3)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、Mn、Ti、Al、Fe、Nb、希土類元素からなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 25〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、Mn: 0.1〜5%、Ti: 0.1〜5%、Al: 0.1〜5%、Fe: 0.1〜5%、Nb: 0.1〜3%、希土類元素: 0.01〜1%
であって、該合金の強加工で、圧延方向に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織が形成された合金であって、強加工後の400〜850℃の熱処理により圧延方向のヤング率が210GPa以上、TD方向のヤング率が245GPa以上に上昇せしめてあり、引張り強さが1200MPa以上にされていることを特徴とするCo-Ni基合金。 - (1)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、W、Feからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 25〜40%、Co: 25〜45%、Cr: 18〜26%、Mo: 3〜11%、W: 0.5〜9%、Mo+W: 4〜13%、Fe: 1.1〜5%、
(2)合金が、Ni、Co、Cr、Moからなり、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 20〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、又は
(3)合金が、Ni、Co、Cr、Mo、Mn、Ti、Al、Fe、Nb、希土類元素を含有し、該合金組成が、重量比で、
Ni: 20〜50%、Co: 25〜45%、Cr + Mo: 20〜40%、Mn: 0.1〜5%、Ti: 0.1〜5%、Al: 0.1〜5%、Fe: 0.1〜5%、Nb: 0.1〜3%、希土類元素: 0.01〜1%
であって、該合金の強加工後に、圧延方向に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織が形成された合金で、且つ、該合金に対して、400〜850℃の温度範囲で、30分〜2.5時間の熱処理が施してあり、圧延方向のヤング率が210GPa以上、TD方向のヤング率が245GPa以上に上昇せしめてあり、引張り強さが1200MPa以上にされていることを特徴とするCo-Ni基合金。 - 強加工が、スエージ加工又は線引き加工であり、該強加工により、丸棒材又は線材の長さ方向(L方向)に<111>集合組織、TD方向に<110>集合組織を発達させてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金。
- 強加工が、圧延加工であり、該強加工により、板材、角棒材、丸棒材又は線材の圧延方向である長さ方向(RD方向)に<100>集合組織、TD方向に<110>集合組織を発達させてあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の合金。
- 該合金(1)が、Nb、Mn、B、Zr、Ti及びCからなる群から選択された元素の少なくとも一種類以上の元素を含み、該合金組成において、重量比で、
0≦Nb≦2%、0≦Mn≦2%、0≦B≦0.02%、0≦Zr≦0.2%、0≦Ti≦1%、0≦C≦0.1%
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の合金。 - 該合金(2)の組成が、重量比で、
Ni: 31.4〜33.4%、Co: 30.9〜37.2%、Cr: 19.5〜20.5%、Mo: 9.5〜10.5%、Mn: 0.1〜0.5%、Nb: 0.8〜1.2%、Ti: 0.3〜0.7%、Fe: 1.1〜2.1%、ミッシュメタル: 0.01〜0.07%、B: 0.003〜0.01%、不可避不純物
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の合金。 - 該合金(3)において、希土類元素が一種又は二種以上を同時に複合添加してあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の合金。
- 希土類元素が、Y、La、Ce、ミッシュメタルからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項7に記載のCo-Ni基合金。
- 請求項1〜7のいずれか一記載の合金であって、<110>集合組織を形成してあるTD方向が長手方向となっていることを特徴とする合金からなるゼンマイ。
- 請求項1〜7のいずれか一記載の合金であって、<110>集合組織を形成してあるTD方向が長手方向となっていることを特徴とする合金からなる板バネ。
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