JP7398415B2 - Co-Ni-Cr-Mo系合金からなるばね用線 - Google Patents

Co-Ni-Cr-Mo系合金からなるばね用線 Download PDF

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Description

本発明は、ばねの材料である線に関する。詳細には、本発明は、その材質がCo-Ni-Cr-Mo系合金であるばね用線に関する。
コンタクトプローブ等の小型精密機器のばねには、高強度、高耐力、耐久性、耐へたり性等が要求される。このばねには、炭素鋼、ステンレス鋼、Co基合金、Ni基合金等が賞用されている。
特開2002-235148公報には、その材質がC、Si及びMnを含む炭素鋼であるばね用線が開示されている。
特開2004-307993公報には、その材質がCo-Ni系合金である小型機器用動力ゼンマイが開示されている。
特開2002-235148公報 特開2004-307993公報
高温環境下でばねが繰り返し使用されると、このばねが永久変形を起こすことがある。通電されて使用されるばねでは、発熱によって永久変形が生じうる。永久変形が生じにくいばねが、求められている。
本発明の目的は、高温での耐へたり性に優れたばねのための、線の提供にある。
本発明に係るばね用線の材質は、Co-Ni-Cr-Mo系合金である。この合金は、
Co:25質量%以上45質量%以下
Ni:25質量%以上40質量%以下
Cr:15質量%以上25質量%以下
Mo:5質量%以上15質量%以下
Fe:0.5質量%以上3.0質量%以下
Nb:0質量%以上2.0質量%以下
Ti:0質量%以上2.0質量%以下
Mn:0質量%以上0.5質量%以下
C:0質量%以上0.03質量%以下
Si:0質量%以上0.10質量%以下
及び
不可避的不純物
を含有する。このばね用線の、引張強さは2000MPa以上であり、0.2%耐力は1800MPa以上であり、引張強さに対する耐力の比は0.75以上である。
好ましくは、このばね用線の引張強さは、2200MPa以上である。
好ましくは、このばね用線の直径は、0.1mm以下である。
好ましくは、このばね用線の破断伸びは、2.0%以上である。
好ましくは、このばね用線の、300℃以上の温度での熱処理が施された場合の0.2%耐力は、2300MPa以上である。
本発明に係るばね用線から、高温での耐へたり性に優れたばねが得られうる。
図1は、本発明の一実施形態に係るばね用線の一部が示された断面斜視図である。 図2は、図1のばね用線の製造方法の一例が示されたフローチャートである。 図3は、図1のばね用線のための未仕上げ線の一部が示された断面斜視図である。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1に示されたばね用線2の材質は、Co-Ni-Cr-Mo系合金である。このばね用線2にコイリング等の塑性加工が施され、さらに熱処理が施されて、ばねが得られる。図1において矢印Dwは、ばね用線2の直径である。好ましくは、直径Dwは、0.1mm以下である。このばね用線2から、微小なばねが得られうる。このばねは、精密機器等に適している。
図2は、図1のばね用線2の製造方法の一例が示されたフローチャートである。この製造方法では、まず、原線(Basic Wire)が準備される(STEP1)。
この原線に、中間熱処理が施される(STEP2)。中間熱処理の好ましい温度は、900℃以上1100℃以下である。中間熱処理の好ましい時間は、30秒以上である。中間熱処理は、アルゴンガス雰囲気又は水素ガス雰囲気で行われる。
この原線に、中間伸線が施される(STEP3)。中間伸線は、冷間でなされうる。ダイヤモンドダイスが使用された湿式伸線が、採用されうる。
中間熱処理(STEP2)と中間伸線(STEP3)とが、所定回数繰り返される。この繰り返しにより、原線が徐々に細径化し、かつ徐々に長尺化する。この繰り返しにより、未仕上げ線(Unfinished Wire)が得られる(STEP4)。
図3は、この未仕上げ線4の一部が示された断面斜視図である。図3において矢印Duは、未仕上げ線4の直径である。この直径Duは、ばね用線2の直径Dw(図1参照)よりも大きい。この未仕上げ線4の材質は、前述のCo-Ni-Cr-Mo系合金である。
この未仕上げ線4に、最終熱処理が施される(STEP5)。最終熱処理の時間は、10秒以上30秒以下が好ましい。最終熱処理の温度は、600℃以上800℃以下が好ましい。この温度は、比較的低い。従って、最終熱処理によって未仕上げ線4に与えられる熱エネルギーの量は、小さい。好ましくは、最終熱処理は、アルゴンガス雰囲気又は水素ガス雰囲気で行われる。
この未仕上げ線4に、最終伸線が施される(STEP6)。最終伸線は、冷間でなされうる。ダイヤモンドダイスが使用された湿式伸線が、採用されうる。最終伸線により、ばね用線2が完成する(STEP7)。
このばね用線2に、必要に応じ、メッキが施される。メッキにより、ばね用線2の表面にメッキ層が形成される。メッキ層の材質として、ニッケル、金、白金及び白金合金が例示される。ニッケルのメッキ層を有するばね用線2は、加工性に優れる。金、白金又は白金合金のメッキ層を有するばね用線2は、通電性に優れる。メッキが未仕上げ線4に施され、この未仕上げ線4が最終伸線(STEP6)に供されてもよい。
本発明では、下記の数式に基づいて、最終伸線(STEP6)の減面率Reが算出される。
Re = (1 - (Dw / Du))* 100
本実施形態では、減面率Reは、90%以上である。換言すれば、最終伸線(STEP6)は、高加工度の冷間塑性加工である。
減面率Reが大きい最終伸線は、ばね用線2に、強靱性を付与する。このばね用線2は、下記の(1)-(3)の特性を併せ持つ。
(1)引張強さTSが、2000MPa以上である。
(2)0.2%耐力PSが、1800MPa以上である。
(3)引張強さTSに対する耐力PSの比(PS/TS)が、0.75以上である。
本発明者が得た知見によれば、上記(1)-(3)の特性を併せ持つばね用線2から、高温での耐へたり性に優れたばねが得られうる。その理由は詳細には不明であるが、上記(1)-(3)の特性を併せ持つばね用線2から得られたばねの金属組織が、クリープ又は疲労を抑制するためと推測される。
ばね用線2の引張強さTSは、ばねの強度との相関を有する。引張強さTSが大きいばね用線2から得られたばねは、繰り返しの使用によっても折損しにくい。この観点から、ばね用線2の引張強さTSは2100MPa以上がより好ましく、2200MPa以上が特に好ましい。
ばね用線2の0.2%耐力PSは、ばねの弾性率との相関を有する。この耐力PSが大きいばね用線2から得られたばねは、高荷重での使用に耐えうる。この観点から、ばね用線2の耐力PSは1900MPa以上がより好ましく、1950MPa以上が特に好ましい。0.2%耐力PSは、応力-歪み曲線において0.2%の塑性歪みが生じる点の、応力である。0.2%耐力PSは、オフセット法によって導出される。
ばねの、高温での耐へたり性の観点から、ばね用線2の耐力比(PS/TS)は0.78以上がより好ましく、0.80以上が特に好ましい。
ばね用線2の破断伸びFEは、2.0%以上が好ましい。このばね用線2には、高加工度の塑性加工が施されうる。この観点から、破断伸びFEは2.5%以上がより好ましく、3.0%以上が特に好ましい。本実施形態では、最終熱処理(STEP5)と最終伸線(STEP6)とにより、強さと延性との両方に優れたばね用線2が得られている。一般的な冷間加工では、加工硬化により、強度が増加し、延伸性が損なわれる。本発明に係るばね用線2の製造方法では、加工硬化を伴う最終伸線(STEP6)が、大きな引張強さTSのみならず、大きな破断伸びFEにも寄与している。その理由は詳細には不明であるが、金属組織のレベルでの、脆化を抑制する何らかのメカニズムが、働いていると推測される。
このばね用線2に、さらに300℃以上の温度での熱処理が施された場合の0.2%耐力は、2300MPa以上が好ましい。このばね用線2から、高温での耐へたり性に優れたばねが得られうる。この観点から、300℃以上の温度での熱処理が施された場合の0.2%耐力は2350MPa以上がより好ましく、2400MPa以上が特に好ましい。典型的な熱処理の温度は、300℃である。典型的な熱処理の時間は、30分である。
引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びは、「JIS Z 2241」の規定に準拠して測定される。
本発明に係るばね用線2の材質は、前述の通り、Co-Ni-Cr-Mo系合金である。この合金は、
Co:25質量%以上45質量%以下
Ni:25質量%以上40質量%以下
Cr:15質量%以上25質量%以下
Mo:5質量%以上15質量%以下
Fe:0.5質量%以上3.0質量%以下
Nb:0質量%以上2.0質量%以下
Ti:0質量%以上2.0質量%以下
Mn:0質量%以上0.5質量%以下
C:0質量%以上0.03質量%以下
及び
Si:0質量%以上0.10質量%以下
を含有する。好ましくは、残部は、不可避的不純物である。以下、この合金に含まれる各元素について、詳説される。
[コバルト(Co)]
Coは、合金のベース元素である。Coは、安定なfcc相の生地を形成する。Coの加工硬化能は、大きい。従ってCoは、ばねの疲労強度及び高温強度に寄与する。これらの観点から、Coの含有率は25質量%以上が好ましく、30質量%以上が特に好ましい。過剰のCoは、合金の加工性を阻害する。加工性の観点から、Coの含有率は45質量%以下が好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
[ニッケル(Ni)]
NiとCoとは、互いに固溶する。Niは、安定なfcc相の生地を形成する。Niはさらに、ばね用線2の塑性加工性に寄与する。これらの観点から、Niの含有率は25質量%以上が好ましく、30質量%以上が特に好ましい。過剰のNiは、ばねの機械的強度を阻害する。機械的強度の観点から、Niの含有率は40質量%以下が好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
[クロム(Cr)]
Crは、生地に固溶する。Crは、ばね用線2の加工硬化能に寄与する。Crはさらに、ばねの耐食性に寄与する。これらの観点から、Crの含有率は15質量%以上が好ましく、18質量%以上が特に好ましい。過剰のCrは、ばね用線2の加工性及び靱性を阻害する。加工性及び靱性の観点から、Crの含有率は25質量%以下が好ましく、23質量%以下が特に好ましい。
[モリブデン(Mo)]
Moは、生地に固溶してこの生地を強化する。Moは、ばね用線2の加工硬化能に寄与する。Moはさらに、ばねの耐食性に寄与する。これらの観点から、Moの含有率は5質量%以上が好ましく、8質量%以上が特に好ましい。過剰のMoは、σ相を析出させる。このσ相は、ばね用線2の脆化を招く。脆化の抑制の観点から、Moの含有率は15質量%以下が好ましく、12質量%以下が特に好ましい。
[鉄(Fe)]
Feは、生地に固溶してこの生地を強化する。この観点から、Feの含有率は0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上が特に好ましい。過剰のFeは、ばねの耐酸化性を阻害する。耐酸化性の観点から、Feの含有率は3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下が特に好ましい。
[ニオブ(Nb)]
Nbは、合金のひずみ時効性に寄与する。従ってNbは、ばねの高硬度に寄与しうる。Nbは、Cと結合して結晶粒界に炭化物を析出させる。この炭化物により、結晶粒の粗大化が抑制される。この炭化物はさらに、結晶粒界の強度にも寄与する。これらの観点から、Nbの含有率は0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。Nbは、必須の元素ではない。換言すれば、Nbの含有率は、ゼロでもよい。過剰のNbは、σ相又はδ相を析出させてばね用線2の靱性を損なう。靱性の観点から、Nbの含有率は2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。
[チタン(Ti)]
Tiは、溶製工程での脱酸剤として添加される。Tiは、結晶粒の粗大化を抑制する。これらの観点から、Tiの含有率は0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上が特に好ましい。Tiは、必須の元素ではない。換言すれば、Tiの含有率は、ゼロでもよい。過剰のTiは、γ相を析出させて合金の加工性を損なう。加工性の観点から、Tiの含有率は2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下が特に好ましい。
[マンガン(Mn)]
Mnは、溶製工程での脱酸剤又は脱硫剤として添加される。Mnは、fcc相の安定に寄与する。これらの観点から、Mnの含有率は0.1質量%以上が好ましい。Mnは、必須の元素ではない。換言すれば、Mnの含有率は、ゼロでもよい。過剰のMnは、ばねの耐食性及び耐酸化性を阻害する。耐食性及び耐酸化性の観点から、Mnの含有率は0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下が特に好ましい。
[炭素(C)]
Cは、生地に固溶してこの生地を強化する。Cはさらに、Cr、Mo、Nb、W等の元素と結合して、炭化物を析出させる。この炭化物により、結晶粒の粗大化が抑制される。これらの観点から、Cの含有率は0.01質量%以上が好ましい。Cは、必須の元素ではない。換言すれば、Cの含有率は、ゼロでもよい。過剰のCは、ばね用線2の靱性を阻害する。過剰のCはさらに、ばねの耐食性を阻害する。これらの観点から、Cの含有率は0.03質量%以下が好ましい。
[ケイ素(Si)]
Siは、生地に固溶してこの生地を強化する。この観点から、Siの含有率は0.01質量%以上が好ましい。Siは、必須の元素ではない。換言すれば、Siの含有率は、ゼロでもよい。過剰のSiは、ばね用線2の靱性を阻害する。この観点から、Siの含有率は0.10質量%以下が好ましく、0.05質量%以下が特に好ましい。
[不可避的不純物]
Co-Ni-Cr-Mo系合金は、不可避的不純物を含みうる。典型的な不純物は、Pである。Pは、結晶粒界に偏析する。Pは、ばね用線2の靱性を阻害する。靱性の観点から、Pの含有率は0.02質量%以下が好ましい。他の典型的な不純物は、Sである。Sは、他の元素と結合して介在物を形成する。Sは、ばね用線2の靱性を阻害する。靱性の観点から、Sの含有率は0.02質量%以下が好ましい。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例]
その材質がCo-Ni-Cr-Mo系合金である原線を準備した。この合金の組成が、下記の表1に示されている。この合金は、表1に示された元素以外に、不可避的不純物を含有する。この原線に、冷間伸線と熱処理とを繰り返し施して、直径が0.60mmである線を得た。この線に、温度が1000℃であり時間が30秒であり雰囲気が水素ガスである熱処理を、施した。さらに、この線に冷間伸線を施して、未仕上げ線を得た。この未仕上げ線の直径は、0.20mmであった。この未仕上げ線に、温度が800℃であり時間が10秒であり雰囲気が水素ガスである最終熱処理を、施した。この未仕上げ線に冷間で最終伸線を施して、ばね用線を得た。このばね用線の直径は、0.05mmであった。最終伸線の減面率Reは、93.8%であった。このばね用線の、引張強さTSは2270MPaであり、0.2%耐力PSは1957MPaであり、破断伸びFEは2.7%であった。熱処理(300℃×30分)の後の、このばね用線の、引張強さは2550MPaであり、0.2%耐力は2362MPaであった。
[比較例1]
原線の材質をCo基合金とした他は実施例と同様にして、ばね用線を得た。この合金の組成が、下記の表1に示されている。この合金は、表1に示された元素以外に、不可避的不純物を含有する。このばね用線の、引張強さTSは2451MPaであり、0.2%耐力PSは1576MPaであり、破断伸びFEは2.6%であった。熱処理(300℃×30分、徐冷)の後の、このばね用線の、引張強さは2800MPaであり、0.2%耐力は2185MPaであった。
[比較例2]
原線としてピアノ線(SWRS82)を用いた他は実施例と同様にして、ばね用線を得た。このピアノ線は、0.80質量%以上0.85質量%以下のC、0.12質量%以上0.32質量%以下のSi、及び0.30質量%以上0.90質量%以下のMnを含む。残部は、Fe及び不純物である。このばね用線の、引張強さTSは3350MPaであり、0.2%耐力PSは3015MPaであり、破断伸びFEは2.3%であった。
[評価]
高温環境下での継続的な使用を想定した促進試験として、各ばね用線を、450℃の温度下に60分保持して徐冷した。このばね用線を引張り試験に供し、引張強さ及び0.2%耐力を測定した。この結果が、下記の表2に示されている。
Figure 0007398415000001
Figure 0007398415000002
表2に示されるように、実施例のばね用線は、高温環境に曝された後も、大きな0.2%耐力を有している。換言すれば、このばね用線は、高温での耐へたり性に優れる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
本発明に係るばね用線から、種々の機器に適したばねが得られうる。
2・・・ばね用線
4・・・未仕上げ線

Claims (5)

  1. 材質がCo-Ni-Cr-Mo系合金であり、
    上記合金が
    Co:25質量%以上45質量%以下
    Ni:25質量%以上40質量%以下
    Cr:15質量%以上25質量%以下
    Mo:5質量%以上15質量%以下
    Fe:0.5質量%以上3.0質量%以下
    Nb:0質量%以上2.0質量%以下
    Ti:0質量%以上2.0質量%以下
    Mn:0質量%以上0.5質量%以下
    C:0質量%以上0.03質量%以下
    及び
    Si:0質量%以上0.11質量%以下
    を含有し、かつ残部が不可避的不純物であり、
    引張強さが2000MPa以上であり、
    0.2%耐力が1800MPa以上であり、
    上記引張強さに対する上記耐力の比が0.75以上である、ばね用線。
  2. 上記引張強さが2200MPa以上である請求項1に記載のばね用線。
  3. 直径が0.1mm以下である請求項1又は2に記載のばね用線。
  4. 破断伸びが2.0%以上である請求項1から3のいずれかに記載のばね用線。
  5. 300℃以上の温度での熱処理が施された場合の0.2%耐力が2300MPa以上である、請求項1から4のいずれかに記載のばね用線。
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