JP2004292918A - 高強度Co−Ni基合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】時効熱処理を短時間でおこなうことができ、製造コストを低減することができる高強度Co−Ni基合金の製造方法を提供する。
【解決手段】Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施す。
【選択図】 なし
【解決手段】Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施す。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、高強度Co−Ni基合金の製造方法に係り、特に、時効熱処理の時間を短縮し、製造コストを低減する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
高強度Co−Ni基合金、特に、高強度Co−Ni−Cr−Mo合金は、面心立方構造(FCC)による単相の過飽和固溶体であり、塑性加工性に優れるとともに、冷間で強い塑性加工を施した後に、600〜750℃の温度で数時間の熱処理を施すことにより、強度を高めることができる時効硬化を示す合金である。このように、高強度Co−Ni−Cr−Mo合金は、冷間加工後の時効熱処理を施すことにより、例えば2GPa程度の室温強度を示す高強度とすることができることから、耐熱性及び塑性加工性などの各種特性が要求される700℃程度の高温で使用可能な耐熱ばねとしての使用が検討されている。
【0003】
冷間加工後の時効熱処理を600〜750℃で行うことにより顕著な時効硬化性が得られるのは、拡張転位の積層欠陥面に溶質元素が偏析するという「鈴木効果」による強度の上昇と、その後の析出時効硬化による強度の上昇のためである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、時効熱処理による強化のメカニズムの一つである、析出時効硬化とは、過飽和固溶体から第2相が析出し、その際に特定の格子面に原子の集合体が形成され、その結果、格子ひずみが発生することにより内部応力が上昇し、材料が硬化するメカニズムである。本発明の対象であるCo−Ni基合金は、FCCによる単相の過飽和固溶体であるため析出時効硬化を示し、耐熱ばねとしての実用化を可能にするには、この析出時効硬化を利用することが重要であると考えられる。
【0005】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、時効熱処理によって最大の時効硬化性を得るためには2〜4時間の熱処理が必要であることが判明している。これは、一般に、析出が起こるためには原子の長距離拡散が必要であり、Co−Ni基合金は原子の長距離拡散が起きにくい性質を持っているため、析出時効硬化に長時間を要するためと推測される。このため、Co−Ni基合金の実用化においては、熱処理時間が長く、製造工程における熱処理工程に要する時間とエネルギー消費が製造上の高コスト化を招く要因となっている。
したがって、本発明は、時効熱処理を短時間でおこなうことができ、製造コストを低減することができる高強度Co−Ni基合金の製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
時効熱処理による強化の一因である鈴木効果とは、完全転位が積層欠陥によって部分転位に拡張され(拡張転位)、そこに溶質原子が偏析することによって転位が固着され、その結果、硬さの上昇が起こるメカニズムである。
【0007】
本発明者等は、上記のような鈴木効果の促進に関連すると思われる諸条件について検討した結果、時効熱処理を磁場中にて行うことに思い至り種々の検討を行ったところ、ある程度の磁場中では鈴木効果が促進されて時効熱処理を短時間で完了できることを見出した。
【0008】
本発明の高強度Co−Ni基合金の製造方法は、上記知見に基づいてなされたもので、Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施すことを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、Co−Ni基合金内に存在する積層欠陥が磁場の影響を受け、積層欠陥エネルギーを低下させることにより、合金内に存在できる状態になる。それを受けて、積層欠陥エネルギーと反比例の関係にある拡張転位の幅が広がり、そこに溶質原子が偏析することによって転位を固着させる。したがって、磁場の存在により鈴木効果が促進され、時効熱処理がより短時間で完了する。このような鈴木効果の促進を得るためには、磁場は1T以上の強さが必要である。また、磁場の強さは、5T以上であることが好ましく、10T以上であればさらに好適である。
【0010】
また、本発明者等の検討によれば、時効熱処理の温度が600〜700℃の範囲では、主として上述したような鈴木効果により時効硬化を得ることができる。また、時効熱処理の温度が750℃に近付くにつれて、時効硬化に寄与する析出時効硬化の割合が増加するが、750℃を超えると析出時効硬化が遅延し、時効熱処理に要する時間が長くなる。
【0011】
すなわち、時効熱処理温度が750℃を超えると、時効硬化のメカニズムが主として析出時効硬化となるとともに、磁場の影響を受けて析出に必要な原子の長距離拡散が抑制され、そのため析出に遅れが生じる。つまり、磁場が析出時効硬化を遅らせる役割を果たす結果、時効熱処理に要する時間が長くなる訳である。
【0012】
本発明では、Co−Ni基合金からなる素材に時効熱処理を行う直前に、冷間で加工率(減面率)20%以上の塑性加工を施すことを必須としている。このように、素材にあらかじめ予ひずみを加えることにより、高密度の転位を導入しておき、時効熱処理の作用を得ることができる。時効熱処理を行う前の冷間での塑性加工は、確実に時効硬化の作用を得るために25%以上であることが望ましい。また、冷間での塑性加工により素材が加工硬化するから、減面率が大きければ時効熱処理により到達する硬さも高くなる。その観点から、減面率は45%以上が望ましく、80%以上であればさらに好適である。
【0013】
本発明が対象とするCo−Ni基合金は、たとえば、重量%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:25〜45%、Cr:16〜21%、Mo:6〜12%、Ti:0.1〜3.0%、Nb:0.1〜5.0%およびFe:0.1〜5.0%を含有し、残部がCoおよび不可避的不純物からなる。
【0014】
次に、本発明の高強度Co−Ni基合金の製造方法において成分組成を上記のように選定した理由を説明する。なお、以下の説明において「%」は「重量%」を意味する。
【0015】
C:0.05%以下
Cは、NbやTiと結合して炭化物を形成し、固溶化熱処理時の結晶粒の粗大化を防止するとともに、粒界の強化に寄与するので、そのために含有する元素である。それらの効果を得るためには、好ましくは0.005%以上含有させる必要があるが、0.05%、より厳格には0.03%より多く含有させると靭性および耐食性を低下させるとともに、転位を固着させる元素、例えばMo,FeおよびNbと炭化物を形成するので、結果として転位の固着効果を阻害することになるので、その含有量を0.05%以下とする。好ましい範囲は0.005〜0.03%である。
【0016】
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として有効であるので、そのために含有させる元素であるが、0.5%、好ましくは0.3%を超えて含有させると靭性を低下させるので、その含有量を0.5%以下とする。好ましい含有量は0.3%以下である。
【0017】
Mn:1.0%以下
Mnは、脱酸剤として有効であり、また積層欠陥エネルギーを低下させて加工硬化能を向上させるので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには、0.1%、好ましくは0.25%以上含有させる必要があるが、1.0%、より厳格には0.7%を超えて含有させると、耐食性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜1.0%とする。好ましい範囲は0.25〜0.7%である。
【0018】
Ni:25〜45%
Niは、マトリックスであるオーステナイトを安定化させる元素であり、合金の耐熱性および耐食性を向上させるので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには25%、好ましくは27%以上含有させる必要があるが、45%、より厳格には33%を超えると加工硬化能を低下させるので、その含有範囲を25〜45%とする。好ましい範囲は27〜33%である。
【0019】
Cr:16〜21%
Crは、耐熱性および耐食性を改善させるので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには16%、好ましくは17.5%以上含有させる必要があるが、21%以上の場合、より厳格には20%を超えるとσ相を析出しやすくなるので、その含有範囲を16〜21%とする。好ましい範囲は17.5〜20%である。
【0020】
Mo:6〜12%
Moは、マトリックスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を向上させるので、そのために含有させる元素である。また、拡張転位に溶質原子であるMoが偏析することによって転位を固着させ、鈴木効果による時効硬化を得ることができる。そのような効果を得るためにはMoは6%以上、好ましくは8%以上含有させる必要があるが、Moの含有量が12%、より厳格には10%を超えるとσ相が析出するので、その含有範囲を6〜12%とする。好ましい範囲は8〜10%である。
【0021】
Ti:0.1〜3.0%
Tiは、強度を向上させるので、そのために含有させる元素である。その効果を得るためには0.1%、好ましくは0.5%以上含有させる必要があるが、3.0%、より厳格には1.8%を超えるとη相(Ni3Ti)を析出して加工性および靭性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜3.0%とする。好ましい範囲は0.5〜1.8%である。
【0022】
Nb:0.1〜5.0%
Nbは、Cと結合して炭化物を形成して固溶化熱処理時の結晶粒の粗大化を防止するとともに、粒界の強化に寄与し、またマトリックスに固溶してこれを強化させ、加工硬化能を向上させる。また、拡張転位に溶質原子であるNbが偏析することによって転位を固着させ、鈴木効果による時効硬化を得ることができる。そのような効果を得るためにNbは0.1%以上、好ましくは0.5%以上含有させる必要があるが、5.0%、より厳格には3.5%を超えるとδ相(Ni3Nb)を析出して加工性および靭性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜5.0%とする。好ましい範囲は0.5〜3.5%である。
【0023】
Fe:0.1〜5.0%
Feは、マトリックスに固溶してこれを強化するので、そのために含有させる元素である。また、拡張転位に溶質原子であるFeが偏析することによって転位を固着させ、鈴木効果による時効硬化を得ることができる。そのような効果を得るためにFeは0.1%、好ましくは0.5%以上含有させる必要があるが、5.0%、より厳格には3.3%を超えると耐酸化性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜5.0%とする。好ましい範囲は0.5〜3.3%である。
【0024】
なお、MoとNbとFeを複合して用いれば、MoとNb、または、MoとFeの複合で用いるよりマトリックスの固溶強化と加工硬化を著しく増大させ、室温および高温において得られる引張最大強度を著しく高め、また高温における引張強度の極大が現れる温度を高温に移行させる効果も大きい。
【0025】
なお、上記成分に加えて以下の成分を添加することも好適な態様である。
B:0.001〜0.010%、Mg:0.0007〜0.010%、Zr:0.001〜0.20%
B,MgおよびZrは、熱間加工性を向上させるとともに、粒界を強化するので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには、Bを0.001%、好ましくは0.002%、Mgを0.0007%、好ましくは0.001%、Zrを0.001%、好ましくは0.01%含有させる必要があるが、Bを0.010%、より厳格には0.004%、Mgを0.010%、より厳格には0.003%、Zrを0.20%、より厳格には0.03%を超えて含有させると逆に熱間加工性および耐酸化性を低下させるので、その含有範囲を上記のとおりとする。好ましい範囲はBが0.002〜0.004%、Mgが0.001〜0.003%、Zrが0.01〜0.03%である。
【0026】
Co:残部
Coは、最密六方格子であるが、Niを含有させることにより面心立方格子、すなわちオーステナイトとなり、高い加工硬化能を示す。
【0027】
次に、本発明のCo−Ni基耐熱合金の製造方法をさらに具体的に説明する。
本発明のCo−Ni基耐熱合金の製造方法では、上記成分を有するCo−Ni基合金を冷間または温間加工で導入した拡張転位間の積層欠陥に、Moなどの溶質原子を偏析させて転位運動を妨げることで転位の回復を抑制することによって強化させる。そのため、本発明の高強度Co−Ni基合金材の製造方法においては、先ず、上記成分組成のCo−Ni基合金を真空高周波誘導炉などを用いて通常の方法で溶製し、通常の鋳造方法で鋳造してインゴットを製造する。次いで、上記Co−Ni基合金を1000〜1200℃で固溶化熱処理を施して組織を均質にし、もしくは1000℃以上の温度での熱間加工により結晶粒の微細化を図った後、加工率20%以上の冷間または温間加工を施して大量の転位を導入し加工硬化させる。また温間加工は固溶化熱処理または熱間加工後の冷却過程で行うことも可能である。その後、1T以上の磁場中において600〜750℃で時効熱処理を行うが、本発明では鈴木効果が促進されるため、時効熱処理の時間は0.1〜0.5時間で足りる。そして、このような時効熱処理により、Mo、Feなどの溶質原子を拡張した転位の半転位間に取成された積層欠陥に偏析させて転位運動を妨げることで応力緩和、すなわち転位の回復を抑制する。
【0028】
上記Co−Ni基耐熱合金の製造方法において、固溶化熱処理または熱間加工を1000〜1200℃で行うのは、1000℃より低いと十分均質にならないばかりでなく、硬度も低くならず、加工が難しい。さらに転位の固着効果に寄与するMoなどの化合物の析出、それに起因する時効硬化性を低減させるおそれがある。また1200℃を超えると結晶粒が粗大化して靭性および強度が低下するからである。
【0029】
本発明により製造された高強度Co−Ni基合金は、700℃程度の高温で使用可能な耐熱ばねの他に、エンジンの排気マニホールドなどの排気系部品、ガスタービン周辺機器、炉室材、耐熱ボルトなどのインコネルX750またはインコネルX718を用いていた用途およびこれら以上の高温度で用いる用途に適している。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
表1に示した成分組成の合金を真空高周波誘導炉を用いて溶製し鋳造して50kgのインゴットを得た。本実施例で用いた合金はCo、Ni、Cr、Moが主要成分であり、その他の微量な金属については、粒界強化や組織安定化等を考慮して添加されている。
【0031】
【表1】
【0032】
これらのインゴットをほぼ1050℃での熱間鍛造により直径60mmの丸棒にした。その後、1050℃で固溶化熱処理を24時間行い、途中に1050℃での焼鈍をはさみながら冷間でスエージング加工を行って直径4.0mmの線材を得た。最後のスエージングでの加工率(予ひずみ)は45%と80%に設定した。次いで、それら試料に対して、時効温度を700℃、750℃および800℃とするとともに、時効時間を1800秒、3600秒、7200秒、および14400秒に設定し、10Tの磁場中または無磁場中で時効熱処理を行った。これら試料の硬さをマイクロヴィッカース硬さ試験機で測定し、その結果を図1〜図3に示した。なお、時効熱処理には、磁石を装備した焼鈍用の真空電気炉を用い、内部を真空にして使用した。
【0033】
図1に示すように、無磁場中で700℃の時効熱処理を行った試料では、その最高硬さ667Hvに達するのに3600秒を要しているのに対して、10Tの磁場中で時効熱処理を行った試料では、667Hvよりも高い最高硬さに1800秒で達した。また、図2に示すように、時効温度が750℃の場合も硬さの上昇率および最高硬さは10Tの磁場中で時効熱処理した場合の方が高い。一方、図3に示すように、時効温度が800℃の場合には、無磁場中で時効熱処理を行った試料は3600秒で硬さのピークを向かえたが、10Tの磁場中で時効熱処理を行った試料の硬さは、ピークなしに徐々に増加し最高硬さは無磁場の場合よりも低かった。このことから、800℃では、部分転位に質原子が偏析する鈴木効果が生じず、しかも、磁場によって析出時効硬化が阻害されていることが確認された。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施すから、短時間で高い時効硬化を得ることができ、熱処理時間を短縮して製造コストを低減することができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例においてCo−Ni基合金を700℃で時効熱処理を行った場合の時効時間と硬さの関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例においてCo−Ni基合金を750℃で時効熱処理を行った場合の時効時間と硬さの関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例においてCo−Ni基合金を800℃で時効熱処理を行った場合の時効時間と硬さの関係を示すグラフである。
【産業上の利用分野】
本発明は、高強度Co−Ni基合金の製造方法に係り、特に、時効熱処理の時間を短縮し、製造コストを低減する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
高強度Co−Ni基合金、特に、高強度Co−Ni−Cr−Mo合金は、面心立方構造(FCC)による単相の過飽和固溶体であり、塑性加工性に優れるとともに、冷間で強い塑性加工を施した後に、600〜750℃の温度で数時間の熱処理を施すことにより、強度を高めることができる時効硬化を示す合金である。このように、高強度Co−Ni−Cr−Mo合金は、冷間加工後の時効熱処理を施すことにより、例えば2GPa程度の室温強度を示す高強度とすることができることから、耐熱性及び塑性加工性などの各種特性が要求される700℃程度の高温で使用可能な耐熱ばねとしての使用が検討されている。
【0003】
冷間加工後の時効熱処理を600〜750℃で行うことにより顕著な時効硬化性が得られるのは、拡張転位の積層欠陥面に溶質元素が偏析するという「鈴木効果」による強度の上昇と、その後の析出時効硬化による強度の上昇のためである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、時効熱処理による強化のメカニズムの一つである、析出時効硬化とは、過飽和固溶体から第2相が析出し、その際に特定の格子面に原子の集合体が形成され、その結果、格子ひずみが発生することにより内部応力が上昇し、材料が硬化するメカニズムである。本発明の対象であるCo−Ni基合金は、FCCによる単相の過飽和固溶体であるため析出時効硬化を示し、耐熱ばねとしての実用化を可能にするには、この析出時効硬化を利用することが重要であると考えられる。
【0005】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、時効熱処理によって最大の時効硬化性を得るためには2〜4時間の熱処理が必要であることが判明している。これは、一般に、析出が起こるためには原子の長距離拡散が必要であり、Co−Ni基合金は原子の長距離拡散が起きにくい性質を持っているため、析出時効硬化に長時間を要するためと推測される。このため、Co−Ni基合金の実用化においては、熱処理時間が長く、製造工程における熱処理工程に要する時間とエネルギー消費が製造上の高コスト化を招く要因となっている。
したがって、本発明は、時効熱処理を短時間でおこなうことができ、製造コストを低減することができる高強度Co−Ni基合金の製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
時効熱処理による強化の一因である鈴木効果とは、完全転位が積層欠陥によって部分転位に拡張され(拡張転位)、そこに溶質原子が偏析することによって転位が固着され、その結果、硬さの上昇が起こるメカニズムである。
【0007】
本発明者等は、上記のような鈴木効果の促進に関連すると思われる諸条件について検討した結果、時効熱処理を磁場中にて行うことに思い至り種々の検討を行ったところ、ある程度の磁場中では鈴木効果が促進されて時効熱処理を短時間で完了できることを見出した。
【0008】
本発明の高強度Co−Ni基合金の製造方法は、上記知見に基づいてなされたもので、Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施すことを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、Co−Ni基合金内に存在する積層欠陥が磁場の影響を受け、積層欠陥エネルギーを低下させることにより、合金内に存在できる状態になる。それを受けて、積層欠陥エネルギーと反比例の関係にある拡張転位の幅が広がり、そこに溶質原子が偏析することによって転位を固着させる。したがって、磁場の存在により鈴木効果が促進され、時効熱処理がより短時間で完了する。このような鈴木効果の促進を得るためには、磁場は1T以上の強さが必要である。また、磁場の強さは、5T以上であることが好ましく、10T以上であればさらに好適である。
【0010】
また、本発明者等の検討によれば、時効熱処理の温度が600〜700℃の範囲では、主として上述したような鈴木効果により時効硬化を得ることができる。また、時効熱処理の温度が750℃に近付くにつれて、時効硬化に寄与する析出時効硬化の割合が増加するが、750℃を超えると析出時効硬化が遅延し、時効熱処理に要する時間が長くなる。
【0011】
すなわち、時効熱処理温度が750℃を超えると、時効硬化のメカニズムが主として析出時効硬化となるとともに、磁場の影響を受けて析出に必要な原子の長距離拡散が抑制され、そのため析出に遅れが生じる。つまり、磁場が析出時効硬化を遅らせる役割を果たす結果、時効熱処理に要する時間が長くなる訳である。
【0012】
本発明では、Co−Ni基合金からなる素材に時効熱処理を行う直前に、冷間で加工率(減面率)20%以上の塑性加工を施すことを必須としている。このように、素材にあらかじめ予ひずみを加えることにより、高密度の転位を導入しておき、時効熱処理の作用を得ることができる。時効熱処理を行う前の冷間での塑性加工は、確実に時効硬化の作用を得るために25%以上であることが望ましい。また、冷間での塑性加工により素材が加工硬化するから、減面率が大きければ時効熱処理により到達する硬さも高くなる。その観点から、減面率は45%以上が望ましく、80%以上であればさらに好適である。
【0013】
本発明が対象とするCo−Ni基合金は、たとえば、重量%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:25〜45%、Cr:16〜21%、Mo:6〜12%、Ti:0.1〜3.0%、Nb:0.1〜5.0%およびFe:0.1〜5.0%を含有し、残部がCoおよび不可避的不純物からなる。
【0014】
次に、本発明の高強度Co−Ni基合金の製造方法において成分組成を上記のように選定した理由を説明する。なお、以下の説明において「%」は「重量%」を意味する。
【0015】
C:0.05%以下
Cは、NbやTiと結合して炭化物を形成し、固溶化熱処理時の結晶粒の粗大化を防止するとともに、粒界の強化に寄与するので、そのために含有する元素である。それらの効果を得るためには、好ましくは0.005%以上含有させる必要があるが、0.05%、より厳格には0.03%より多く含有させると靭性および耐食性を低下させるとともに、転位を固着させる元素、例えばMo,FeおよびNbと炭化物を形成するので、結果として転位の固着効果を阻害することになるので、その含有量を0.05%以下とする。好ましい範囲は0.005〜0.03%である。
【0016】
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として有効であるので、そのために含有させる元素であるが、0.5%、好ましくは0.3%を超えて含有させると靭性を低下させるので、その含有量を0.5%以下とする。好ましい含有量は0.3%以下である。
【0017】
Mn:1.0%以下
Mnは、脱酸剤として有効であり、また積層欠陥エネルギーを低下させて加工硬化能を向上させるので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには、0.1%、好ましくは0.25%以上含有させる必要があるが、1.0%、より厳格には0.7%を超えて含有させると、耐食性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜1.0%とする。好ましい範囲は0.25〜0.7%である。
【0018】
Ni:25〜45%
Niは、マトリックスであるオーステナイトを安定化させる元素であり、合金の耐熱性および耐食性を向上させるので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには25%、好ましくは27%以上含有させる必要があるが、45%、より厳格には33%を超えると加工硬化能を低下させるので、その含有範囲を25〜45%とする。好ましい範囲は27〜33%である。
【0019】
Cr:16〜21%
Crは、耐熱性および耐食性を改善させるので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには16%、好ましくは17.5%以上含有させる必要があるが、21%以上の場合、より厳格には20%を超えるとσ相を析出しやすくなるので、その含有範囲を16〜21%とする。好ましい範囲は17.5〜20%である。
【0020】
Mo:6〜12%
Moは、マトリックスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を向上させるので、そのために含有させる元素である。また、拡張転位に溶質原子であるMoが偏析することによって転位を固着させ、鈴木効果による時効硬化を得ることができる。そのような効果を得るためにはMoは6%以上、好ましくは8%以上含有させる必要があるが、Moの含有量が12%、より厳格には10%を超えるとσ相が析出するので、その含有範囲を6〜12%とする。好ましい範囲は8〜10%である。
【0021】
Ti:0.1〜3.0%
Tiは、強度を向上させるので、そのために含有させる元素である。その効果を得るためには0.1%、好ましくは0.5%以上含有させる必要があるが、3.0%、より厳格には1.8%を超えるとη相(Ni3Ti)を析出して加工性および靭性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜3.0%とする。好ましい範囲は0.5〜1.8%である。
【0022】
Nb:0.1〜5.0%
Nbは、Cと結合して炭化物を形成して固溶化熱処理時の結晶粒の粗大化を防止するとともに、粒界の強化に寄与し、またマトリックスに固溶してこれを強化させ、加工硬化能を向上させる。また、拡張転位に溶質原子であるNbが偏析することによって転位を固着させ、鈴木効果による時効硬化を得ることができる。そのような効果を得るためにNbは0.1%以上、好ましくは0.5%以上含有させる必要があるが、5.0%、より厳格には3.5%を超えるとδ相(Ni3Nb)を析出して加工性および靭性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜5.0%とする。好ましい範囲は0.5〜3.5%である。
【0023】
Fe:0.1〜5.0%
Feは、マトリックスに固溶してこれを強化するので、そのために含有させる元素である。また、拡張転位に溶質原子であるFeが偏析することによって転位を固着させ、鈴木効果による時効硬化を得ることができる。そのような効果を得るためにFeは0.1%、好ましくは0.5%以上含有させる必要があるが、5.0%、より厳格には3.3%を超えると耐酸化性を低下させるので、その含有範囲を0.1〜5.0%とする。好ましい範囲は0.5〜3.3%である。
【0024】
なお、MoとNbとFeを複合して用いれば、MoとNb、または、MoとFeの複合で用いるよりマトリックスの固溶強化と加工硬化を著しく増大させ、室温および高温において得られる引張最大強度を著しく高め、また高温における引張強度の極大が現れる温度を高温に移行させる効果も大きい。
【0025】
なお、上記成分に加えて以下の成分を添加することも好適な態様である。
B:0.001〜0.010%、Mg:0.0007〜0.010%、Zr:0.001〜0.20%
B,MgおよびZrは、熱間加工性を向上させるとともに、粒界を強化するので、それらのために含有させる元素である。それらの効果を得るには、Bを0.001%、好ましくは0.002%、Mgを0.0007%、好ましくは0.001%、Zrを0.001%、好ましくは0.01%含有させる必要があるが、Bを0.010%、より厳格には0.004%、Mgを0.010%、より厳格には0.003%、Zrを0.20%、より厳格には0.03%を超えて含有させると逆に熱間加工性および耐酸化性を低下させるので、その含有範囲を上記のとおりとする。好ましい範囲はBが0.002〜0.004%、Mgが0.001〜0.003%、Zrが0.01〜0.03%である。
【0026】
Co:残部
Coは、最密六方格子であるが、Niを含有させることにより面心立方格子、すなわちオーステナイトとなり、高い加工硬化能を示す。
【0027】
次に、本発明のCo−Ni基耐熱合金の製造方法をさらに具体的に説明する。
本発明のCo−Ni基耐熱合金の製造方法では、上記成分を有するCo−Ni基合金を冷間または温間加工で導入した拡張転位間の積層欠陥に、Moなどの溶質原子を偏析させて転位運動を妨げることで転位の回復を抑制することによって強化させる。そのため、本発明の高強度Co−Ni基合金材の製造方法においては、先ず、上記成分組成のCo−Ni基合金を真空高周波誘導炉などを用いて通常の方法で溶製し、通常の鋳造方法で鋳造してインゴットを製造する。次いで、上記Co−Ni基合金を1000〜1200℃で固溶化熱処理を施して組織を均質にし、もしくは1000℃以上の温度での熱間加工により結晶粒の微細化を図った後、加工率20%以上の冷間または温間加工を施して大量の転位を導入し加工硬化させる。また温間加工は固溶化熱処理または熱間加工後の冷却過程で行うことも可能である。その後、1T以上の磁場中において600〜750℃で時効熱処理を行うが、本発明では鈴木効果が促進されるため、時効熱処理の時間は0.1〜0.5時間で足りる。そして、このような時効熱処理により、Mo、Feなどの溶質原子を拡張した転位の半転位間に取成された積層欠陥に偏析させて転位運動を妨げることで応力緩和、すなわち転位の回復を抑制する。
【0028】
上記Co−Ni基耐熱合金の製造方法において、固溶化熱処理または熱間加工を1000〜1200℃で行うのは、1000℃より低いと十分均質にならないばかりでなく、硬度も低くならず、加工が難しい。さらに転位の固着効果に寄与するMoなどの化合物の析出、それに起因する時効硬化性を低減させるおそれがある。また1200℃を超えると結晶粒が粗大化して靭性および強度が低下するからである。
【0029】
本発明により製造された高強度Co−Ni基合金は、700℃程度の高温で使用可能な耐熱ばねの他に、エンジンの排気マニホールドなどの排気系部品、ガスタービン周辺機器、炉室材、耐熱ボルトなどのインコネルX750またはインコネルX718を用いていた用途およびこれら以上の高温度で用いる用途に適している。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
表1に示した成分組成の合金を真空高周波誘導炉を用いて溶製し鋳造して50kgのインゴットを得た。本実施例で用いた合金はCo、Ni、Cr、Moが主要成分であり、その他の微量な金属については、粒界強化や組織安定化等を考慮して添加されている。
【0031】
【表1】
【0032】
これらのインゴットをほぼ1050℃での熱間鍛造により直径60mmの丸棒にした。その後、1050℃で固溶化熱処理を24時間行い、途中に1050℃での焼鈍をはさみながら冷間でスエージング加工を行って直径4.0mmの線材を得た。最後のスエージングでの加工率(予ひずみ)は45%と80%に設定した。次いで、それら試料に対して、時効温度を700℃、750℃および800℃とするとともに、時効時間を1800秒、3600秒、7200秒、および14400秒に設定し、10Tの磁場中または無磁場中で時効熱処理を行った。これら試料の硬さをマイクロヴィッカース硬さ試験機で測定し、その結果を図1〜図3に示した。なお、時効熱処理には、磁石を装備した焼鈍用の真空電気炉を用い、内部を真空にして使用した。
【0033】
図1に示すように、無磁場中で700℃の時効熱処理を行った試料では、その最高硬さ667Hvに達するのに3600秒を要しているのに対して、10Tの磁場中で時効熱処理を行った試料では、667Hvよりも高い最高硬さに1800秒で達した。また、図2に示すように、時効温度が750℃の場合も硬さの上昇率および最高硬さは10Tの磁場中で時効熱処理した場合の方が高い。一方、図3に示すように、時効温度が800℃の場合には、無磁場中で時効熱処理を行った試料は3600秒で硬さのピークを向かえたが、10Tの磁場中で時効熱処理を行った試料の硬さは、ピークなしに徐々に増加し最高硬さは無磁場の場合よりも低かった。このことから、800℃では、部分転位に質原子が偏析する鈴木効果が生じず、しかも、磁場によって析出時効硬化が阻害されていることが確認された。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施すから、短時間で高い時効硬化を得ることができ、熱処理時間を短縮して製造コストを低減することができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例においてCo−Ni基合金を700℃で時効熱処理を行った場合の時効時間と硬さの関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例においてCo−Ni基合金を750℃で時効熱処理を行った場合の時効時間と硬さの関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例においてCo−Ni基合金を800℃で時効熱処理を行った場合の時効時間と硬さの関係を示すグラフである。
Claims (1)
- Co−Ni基合金からなる素材に冷間で20%以上の塑性加工を施し、次いで、この素材を1T以上の磁場中で600〜750℃の時効熱処理を施すことを特徴とする高強度Co−Ni基合金の製造方法。
【請求校2】前記Co−Ni基合金は、重量%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:25〜45%、Cr:16〜21%、Mo:6〜12%、Ti:0.1〜3.0%、Nb:0.1〜5.0%およびFe:0.1〜5.0%を含有し、残部がCoおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の高強度Co−Ni基合金の製造方法。
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JP2003089386A JP2004292918A (ja) | 2003-03-27 | 2003-03-27 | 高強度Co−Ni基合金の製造方法 |
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