JP3667174B2 - 塩化ビニル系樹脂繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、かつら、ヘア・ピース、ブレードなどの頭髪装飾用の人工毛髪、或いはドールヘアー等の人工毛髪などとして使用される塩化ビニル系樹脂繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、人工毛髪・人工毛髪用繊維として、繊度10〜100デニールが要求される。該繊度の繊維を製造するには、塩化ビニル系樹脂に溶媒を使用する湿式および乾式紡糸法、溶媒を用いない溶融紡糸法が知られている。
【0003】
これら紡糸方法のうち、溶融紡糸方法にあっては、目的の引張強度(1.2グラム/デニール以上)及び引張伸度(130%以下)を与えるため、紡糸した糸を2〜4倍に延伸した後、適度な加熱処理が行われている。
【0004】
近年、塩化ビニル系樹脂組成物については、安定剤として、鉛やカドミニウムなどの重金属を用いたものから錫、ハイドロタルサイト、Ca−Znなどの無毒のものへと転換が図られている(例えば特開平11−100714号)。この錫系安定剤は、塩化ビニル樹脂繊維の溶融紡糸時の熱着色抑制効果が優れており熱安定性付与能力も優れている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、該錫系安定剤は、塩化ビニル系樹脂との相溶性が良いため、塩化ビニル系樹脂のゲル化を過剰に促進し、塩化ビニル系樹脂全体の金属離型性を極端に低下させる。この低下を防止するためには錫系安定剤を添加した塩化ビニル系樹脂には多量の滑剤添加が必要となる。多量に滑剤を添加した塩化ビニル系樹脂を、小口径のノズルで溶融紡糸すると、該ノズル部分にメヤニ(添加剤成分などの析出物が炭化したもの)が発生し、これにより糸切れが発生するという新たな課題が生じる。
【0006】
ここで、該錫系安定剤を添加せずにハイドロタルサイト系安定剤と金属石鹸のみで塩化ビニル系樹脂を熱安定化させることができれば、滑剤添加量を大幅に削減できる。しかしながら、この配合では、加工時に熱着色を起こす問題が新たに発生する。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、ハイドロタルサイトと金属石鹸を塩化ビニル系繊維の熱安定化の為に添加した場合に生じる加工時の熱着色の問題を解決して滑剤添加量の削減を可能にし、メヤニの発生を抑えて紡糸時の糸切れの問題を解決した塩化ビニル系樹脂繊維を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するべく組成物の配合系を鋭意研究を重ねた結果、ハイドロタルサイトと金属石鹸で熱安定化した塩化ビニル系樹脂組成物にβジケトンを特定範囲で添加した際、溶融紡糸時の熱着色を抑制できることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物を紡糸した塩化ビニル系樹脂繊維において、該塩化ビニル系樹脂組成物が、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂100重量部、ハイドロタルサイト系熱安定剤0.8〜3重量部、亜鉛石鹸及びカルシウム石鹸0.25〜2重量部、βジケトン0.1〜0.4重量部を有することを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明において、ハイドロタルサイト系熱安定剤を採用したのは、ポリ塩化ビニル系樹脂そのものが高温下に置かれても安定した状態を維持するためである。
【0011】
該ハイドロタルサイト系熱安定剤の配合量は、あまりに少ないと成形時の高温下での安定効果が十分発揮されず、あまりに多いとハイドロタルサイト系熱安定剤自身の分散性の悪さからハイドロタルサイト自身が凝集物となって糸切れ頻度が多くなるため、ポリ塩化ビニル100重量部に対し0.8〜3重量部使用するのが好ましい。また、該ハイドロタルサイト系熱安定剤には公知の熱安定化助剤、例えばホスファイト、多価アルコール等を1種以上併用できる。
【0012】
本発明に使用する亜鉛石鹸は、繊維の着色抑制および滑性付与効果を発揮させるために採用するものである。該亜鉛石鹸の配合量は、あまりに少ないと着色抑制効果が発揮されないためポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し0.2重量部以上の添加が必要である。また、カルシウム石鹸はハイドロタルサイトの不分散領域における亜鉛焼けを抑制する役割を担っており、該効果を発揮させる為にはポリ塩化ビニル100重量部に対して0.05重量部以上の添加が必要である。該亜鉛石鹸及び該カルシウム石鹸の総添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し2重量部を越えると溶融紡糸時に滑性過多となり好ましくない。ゆえに、亜鉛石鹸及びカルシウム石鹸は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し0.25〜2重量部添加するのが好ましい。なお、上記亜鉛石鹸及びカルシウム石鹸は、組成物の滑性を調整しプレートアウトを防ぐため、炭素数12〜34の直鎖型脂肪酸及び/又はその誘導体であることが好ましい。
【0013】
本発明に用いる上記βジケトンは、加工時の着色を抑制するために採用されるものであり、組成物の色を透明に近づけるものである。該βジケトンの配合量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、あまりに少ないと上記効果が発揮されず、あまりに多くても効果が頭打ちになるため、0.1〜0.4重量部が好ましい。
【0014】
本発明で使用する塩化ビニル系樹脂は、従来公知の塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー、または従来公知の各種のコポリマー樹脂であり、特に限定されるものではない。
【0015】
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、あまりに低いと溶融粘度が低くなり曳糸性が悪くなり、あまりに高いと溶融粘度が高くなってノズル圧力が高くなり繊維が着色してしまうため、600〜1300であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、目的に応じて塩化ビニル系組成物に使用される公知の配合剤を本発明の効果を阻害しない範囲で添加できる。該配合剤の例としては、加工助剤、可塑剤、滑剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、初期着色改善剤、導電性付与剤、香料等がある。
【0017】
本発明にかかる塩化ビニル系樹脂繊維は、上記塩化ビニル系樹脂組成物を従来公知の混合機(例えばヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等)を使用して混合したパウダーコンパウンド、またはこれを溶融混合したペレットコンパウンドであってもよい。該パウダーコンパウンドの製造は、従来公知の通常の条件で製造でき、ホットブレンドでもコールドブレンドでも良い。該ペレットコンパウンドは、通常の塩化ビニル系ペレットコンパウンドの製造と同様にして製造できる。例えば、単軸押出機、異方向二軸押出機、コニーダーなどの混練機を使用してペレットコンパウンドとすることができる。
【0018】
前記塩化ビニル系樹脂組成物を繊維状の未延伸糸にする際には、従来公知の押出機を使用できる。例えば単軸押出機、異方向二軸押出機、異方二軸押出機、コニカル二軸押出機などを使用できる。
【0019】
本発明では、前記塩化ビニル系樹脂組成物を溶融紡糸する際には、1個のノズル孔面積が0.2 mm2以下であるノズルをダイ先端部に取りつけて行うことが望ましい。さらに好ましくは、該ノズル孔面積が、特公昭55−76102号において提案されている様に0.04〜0.06mm2であることが望ましい。該断面積が0.2 mm2を越えるものを用いて300デニール以下の未延伸糸を得る為には、ドラフト比率を極端に上げる必要があり、紡糸時の糸切れ頻度が増加するため好ましくない。
【0020】
本発明においては、未延伸糸の繊度を300デニール以下にしておくことが好ましい。この値に限定したのは、該未延伸糸の繊度があまりに大きいと、低い繊度の繊維を得る為に延伸倍率を大きくする必要が生じ、延伸時の糸切れ頻度が激増し生産性が低下するため好ましくないからである。
【0021】
前記溶融紡糸で得られた未延伸糸は、空気雰囲気下での延伸処理をなされた後、熱弛緩処理が施されて、その繊度が100デニール以下になされる。
【0022】
上記延伸処理および熱弛緩処理条件は、特開平11−100714号に順じて行なう。すなわち、延伸処理は100〜150℃の雰囲気下で3〜4.5倍程度の延伸倍率とし、熱弛緩処理は100〜150℃の雰囲気下で行なう。
【0023】
【実施例】
以下、本発明にかかる実施例を、表を参照しながら、比較例と比較しつつ詳細に説明する。表1は、各実施例、各比較例における塩化ビニル系樹脂の主要配合とその配合によって製造された繊維等についての測定結果を示したものである。なお、表1中、記載は省略したが、全ての実施例、比較例において、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂(大洋塩ビ社製TH−1000、平均重合度1050)が100重量部配合され、初期着色改善剤としてリン系ホスファイト(旭電化社製アデカスタブC)が0.5重量部、可塑剤としてDOP(ジオクチルフタレート)が1重量部、滑剤としてエステル系滑剤(理研ビタミン社製EW−100)が0.2重量部配合されている。
【0024】
【表1】
【0025】
表1中、ハイドロタルサイト系熱安定剤として合成ハイドロタルサイト協和化学社製アルカマイザー1、亜鉛石鹸としてステアリン酸亜鉛(堺化学工業社製SZ−2000)、カルシウム石鹸としてステアリン酸カルシウム(栄伸化成社製SC−100)、βジケトンとしてDBM(ジ−ベンゾイル・メタン;ローヌプラン社製ローディアスタブ83)を採用した。
【0026】
各実施例・各比較例におけるポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、次の工程でパウダーコンパウンドになされた。すなわち、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部5Kgと各添加剤(表1記載の各配合量)が、20リットル・ヘンシェルミキサーに投入され、内容物の温度が120℃になるまで攪拌混合を行い、その後、冷却水をヘンシェルミキサーのジャケットに流しながら攪拌混合を行ない、内容物の温度が60℃になるまで冷却し、これによりパウダー状の塩化ビニル系樹脂コンパウンドを得た。
【0027】
この塩化ビニル系樹脂コンパウンドを次の条件に従って溶融紡糸した。
【0028】
★押出機
スクリュー:フルフライトタイプ、圧縮比2.3、D=40mm、L/D=20(D;直径、L;スクリュー長さ)
ノズル:孔断面積=0.06mm2、孔形状;メガネ、孔数;30、孔配列;円、
シリンダー温度:C1=170℃、C2=170℃、C3=180℃、
アダプター温度:180℃
ターンヘッド温度:185℃
ダイス温度:185℃
押出量:5Kg/時間
【0029】
ノズルから流出したストランド(ポリ塩化ビニル樹脂組成物の繊維)は、加熱円筒(加熱円筒温度250℃)に導入されて瞬間的に加熱溶解され、ノズル直下約4.5mの位置に設置した引取機にて巻き取られる。該ストランドは、未延伸糸のままである。この巻き取りの際、該延伸糸の繊度が175〜185デニールになる様に引取速度を調節した。次に、該未延伸糸を延伸機(空気雰囲気下105℃)で3倍に延伸後、熱処理機(空気雰囲気下110℃)を用いて等倍(収縮なし)で熱処理を施し、繊度が58〜62デニールになるようにした。
【0030】
表1に示す評価項目である「押出効率」は、表中の押出量をスクリュー回転数で割ることにより算出した押し出し効率(Kg/h・rpm)を評価したものである。押出効率が0.25以上のものを○、0.25未満のものを×とした。
【0031】
表1に示す測定結果である「溶融紡糸時糸切」、「溶融紡糸時着色」は、この未延伸糸を製造した段階で判断した。判断基準は次の通りである。
【0032】
「溶融紡糸時糸切れ」にあっては、1時間連続紡糸して糸切れ発生件数が0のときを○、1〜3のときを△、4以上のときを×とした。「溶融紡糸時着色」にあっては、溶融紡糸時糸切測定の際の繊維を目視して黄色みがないのを○、わずかに黄色みがあるのを△、黄色みがあるのを×とした。
【0033】
比較例1、2が示すように、ハイドロタルサイト系熱安定剤が少ないと熱安定性不足から押出時に炭化物が生じ糸切れが多発し、多いとハイドロタルサイトの凝集物による糸切れが生じた。
【0034】
比較例3〜5を用いて、金属石鹸の配合量について説明する。比較例3から分かるように亜鉛石鹸が、0.2重量部未満となると繊維の着色が激しくなる為好ましくない。比較例4から分かるようにカルシウム石鹸が、0.05重量部未満となるとハイドロタルサイトの未分散領域の補完が不十分となり亜鉛焼けで生じた炭化物による糸切れが起こる為好ましくない。比較例5から分かるように亜鉛石鹸とカルシウム石鹸の合計量が2重量部を越えると滑性オーバーとなり押出効率が低下する。
【0035】
比較例6、7から分かるように、βジケトンがあまりに少ないと着色性が悪く、あまりに多くても効果が頭打ちであった。
【0036】
【発明の効果】
以上のように、本発明の塩化ビニル系樹脂繊維は、押出効率がよく、溶融紡糸時の着色がなく、メヤニの発生を抑えて紡糸時の糸切れが生じない。
Claims (1)
- 塩化ビニル系樹脂組成物を紡糸した塩化ビニル系樹脂繊維において、該塩化ビニル系樹脂組成物が、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂100重量部、ハイドロタルサイト系熱安定剤0.8〜3重量部、亜鉛石鹸及びカルシウム石鹸0.25〜2重量部、βジケトン0.1〜0.4重量部を有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂繊維。
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