JP3613960B2 - 塩化ビニル繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、かつら、ヘア・ピース、ブレード、エクステンションヘアー、アクセサリーヘアーなどの頭髪装飾用に用いられる人工毛髪、あるいはドールヘアーなどの人形用頭髪繊維として使用される塩化ビニル繊維の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル系樹脂を紡糸して繊維状にしてなる塩化ビニル系繊維は、その優れた強伸度、カール保持性、スタイル性などの故に、頭髪装飾用などの人工毛髪用繊維として、あるいはドールヘアーなどの人形用頭髪繊維として多量に使用されており、よりコスト的に有利な方法として、溶媒を用いない溶融紡糸法により人工毛髪用繊維を製造する方法が工業的に実施されている。
【0003】
溶融紡糸法を大別すると、比較的大きな断面積のノズル孔からストランドを押出し、紡糸ドラフト比を大きくとって細繊度の未延伸糸とし、これに延伸・緩和処理を施して繊維とする方法、または、比較的小さな断面積のノズル孔からストランドを押出し、紡糸ドラフト比をなるべく小さくして未延伸糸とし、これに延伸・緩和処理を施して繊維とする方法とがある。前者は、紡糸ドラフト比を大きくする為、未延伸糸が引き伸ばされた状態になり、光沢のある表面の繊維を得るのに適しているが、頭髪装飾品の用途として必要なカール保持性やバウンシー性が劣る傾向があり不利であった。逆に、後者は、光沢がないか、又は光沢が少ない表面の繊維を得るのに適している反面、ノズル断面積を小さくするが故にノズル圧力が高くなり溶融紡糸が難しい問題がある。更に、溶融紡糸においてはノズル孔からストランドを流出せしめ、引き取りを行う際に単糸切れが発生し易く、この単糸切れの頻度を少なくすることが塩化ビニル系繊維を製造する際の大きな課題であった。
【0004】
このため、従来、塩ビ系組成物にポリメチルメタクリレート系加工助剤を添加して、曳糸性を改良する方法が提案されているが、この方法では、組成物の溶融粘度が上昇して、ノズル圧力が高くなり押出量を低下する必要があり、生産性という観点で問題があった。また、Cd−Pb系の配合を用いる方法や、エチレン酢酸ビニル系樹脂(以下「EVA系樹脂」と略記する)を大量に添加してノズル圧力を下げる方法などが提案されており、また塩素化塩化ビニル系樹脂を併用する方法なども提案されているが、Cd−Pb系の配合を用いることは、環境の面で問題があり、また、EVA系樹脂を大量添加したり、塩素化塩化ビニル系樹脂を併用するなどの方法では、カール保持性やバウンシー性などの特性は低下し不十分な品質となっていた。また、近年かつらやヘアピース、ブレードなどの頭髪装飾用途には、高いカール保持性、バウンシー性が要望されており、従来の技術では充分に対応出来ない状況に至っているのである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来以上にカール保持性、バウンシー性等に優れた繊維を提供すると共に、該繊維を製造する際の単糸切れに伴うトラブルを防止し、安定的に生産可能な塩化ビニル繊維の製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、配合組成について特に注目して鋭意検討の結果、特定の滑剤成分を特定量使用することにより、塩化ビニル組成物の溶融状態が極めて良好になり、カール保持性やバウンシー性を改善でき、しかも溶融紡糸工程における単糸切れが大幅に減少できるということを見出し本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(a)高級脂肪酸のアルカリ金属塩滑剤、アルカリ土類金属塩滑剤、高級アルコール系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、ペンタエリスリトール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、モンタン酸エステル系滑剤、PMMA系高分子滑剤から選択される1種又は2種以上の滑剤成分を合計で0.3〜2.5重量部、および(b)ポリエチレン系滑剤またはパラフィン系滑剤から選択される1種又は2種以上の滑剤成分を合計で0.2〜1.5重量部並びに熱安定剤を配合してなる塩化ビニル組成物を溶融紡糸するに際し、1ケのノズル孔の断面積が0.5mm 2 以下のマルチタイプのノズルの複数のノズル孔からストランドを溶融・流出せしめ、300デニール以下の未延伸糸を製造し、次いで、この未延伸糸に延伸処理、熱処理を施して、100デニール以下の繊維とすることを特徴とする塩化ビニル系繊維の製造方法であり、また前記塩化ビニル組成物として、前記塩化ビニル樹脂の粘度平均重合度が650〜1650であり、更に、前記熱安定剤として塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(c)メルカプト錫系熱安定剤を0.1〜1.5重量部、および(d)マレエート錫系熱安定剤、ラウレート錫系熱安定剤、Ca−Zn系熱安定剤、Ba−Zn系熱安定剤から選択される1種又は2種以上の熱安定剤成分を合計で0.3〜1.5重量部配合してなる塩化ビニル組成物を用いることもできる。
【0008】
また、前記塩化ビニル組成物をノズル圧力500Kg/cm2以下、樹脂温度195℃以下で、ノズル孔から溶融・流出せしめると同時に、紡糸ドラフト比を25以下の条件下で、未延伸糸を引取ることも好ましい方法である。更に、ノズル孔から溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入して未延伸糸を溶融紡糸すること、加工性改良剤として、EVA系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、MBS系樹脂、またはABS系樹脂から選択される1種以上の樹脂成分を塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部配合した塩化ビニル組成物を用いることも好ましい方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に使用する塩化ビニル樹脂とは、塩化ビニルの単独重合体である。該樹脂は、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法など従来公知の方法で重合された重合体であればいずれでも使用できるが、取り扱いの容易さなどを勘案して、懸濁重合による塩化ビニル樹脂を使用するのが好ましい。
【0010】
塩化ビニルの単独重合体の場合、特に、粘度平均重合度が650〜1650の塩化ビニル単独重合体が、カール保持性などの品質面で好ましい。また、重合度の異なる塩化ビニルの単独重合体を2種以上混合してなる混合物も使用できる。この際、混合組成の粘度平均重合度が650〜1650の範囲に入る様に混合するのが好ましい。また、カール保持性と単糸切れとを勘案して、粘度平均重合度が900〜1650の乳化重合塩化ビニル樹脂を塩化ビニル樹脂100重量部に対して、3〜10重量部配合しても良い。
【0011】
本発明に使用できる滑剤は、(a)高級脂肪酸アルカリ金属塩系滑剤、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩系滑剤、高級アルコール系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、ペンタエリスリトール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、モンタン酸エステル系滑剤、PMMA系高分子滑剤から選択される1種又は2種以上の滑剤成分を0.3〜2.5重量部、および(b)ポリエチレン系滑剤またはパラフィン系滑剤から選択される1種以上の滑剤成分を0.2〜1.5重量部組合わせる系である。
【0012】
これら滑剤の機能は十分には解明されてはいないが、前記(a)成分は、主として塩化ビニル樹脂成分の均一な溶融状態を醸し出す効果があり、前記(b)成分は主として、ダイ、ノズルなどの金属部との間に介在して、溶融樹脂成分を滑らす効果があることから、これら(a)成分と(b)成分を組み合わせることにより、最適な溶融樹脂状態を醸し出し、かつ、最適な流出状態を醸し出すことが可能となったと考えられる。また、「単糸切れ」の原因は種々考えられるが、紡糸工程や延伸工程に於ける断糸部の状態を詳細に調べた結果、滑剤種あるいは滑剤添加量が適当でない場合、約5〜1μm程度の「粒子状物」が存在している場合があり、この細かい「粒子状物」がノズル部に於いて不規則な流動(瞬間的に詰まった様な状態)を引き起こし、流速が遅くなって、部分的に細い繊維部位を発生して、断糸に至ると推定される。
【0013】
前記「粒子状物」は、分析によれば、半溶融状態の塩化ビニル樹脂または顔料カーボンの凝集物がほとんどであり、大部分の組成物の溶融は十分に進行しているにもかかわらず、たまたま均一に分散されなかった「粒子状物」が「単糸切れ」の主原因になっていると推定される。従って、本発明の様に、滑剤を特定し、あるいは滑剤の添加量を特定することにより、押出機内部に於ける溶融物の均一性が増化した為、「単糸切れ」が減少したと考えられる。
【0014】
但し、均一な溶融状態が醸し出されたとしても、ノズルからの流出が不規則である(脈動したり、スパイラル状の流出となる)と隣接単糸と融着して、「単糸切れ」を発生する傾向にある。このノズルからの流出性には、溶融物とノズル金属面との滑りが関与していると考えられる。従って、本発明の滑剤(b)成分を使用することにより、適度な金属面との滑り状態を醸し出し、滑らかな流出状態にでき、「単糸切れ」を大幅に減少できると考えられる。
【0015】
また、前記滑剤の(a)成分の中でも、以下に述べる特定の組み合わせが、溶融状態の均一性の面で好ましい。
好ましい組み合わせの第1は、高級脂肪酸アルカリ金属塩系滑剤と高級脂肪酸アルカリ土類金属塩系滑剤の配合であり、高級脂肪酸アルカリ金属塩系滑剤、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩系滑剤の具体例としては、例えば、ステアリン酸Na、ステアリン酸Mg、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Zn、ステアリン酸Ba、ラウリン酸Na、ラウリン酸Mg、ラウリン酸Ca、ラウリン酸Zn、ラウリン酸Ba、パルミチン酸Na、パルミチン酸Mg、パルミチン酸Ca、パルミチン酸Zn、パルミチン酸Ba、オレイン酸Na、オレイン酸Mg、オレイン酸Zn、オレイン酸Baあるいはこれらの混合物などが例示される。
【0016】
好ましい組み合わせの第2は、高級アルコール系滑剤と高級脂肪酸系滑剤との配合であり、高級アルコール系滑剤の具体例としては、例えば、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールあるいはこれらの混合物などが例示され、高級脂肪酸系滑剤の具体例としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、オレイン酸あるいはこれらの混合物などが例示される。
【0017】
好ましい組み合わせの第3は、脂肪酸エステル系滑剤とペンタエリスリトール系滑剤との配合であり、脂肪酸エステル系滑剤の具体例としては、例えば、前記高級脂肪酸とグリセリンなどの多価アルコール類または前記高級アルコール類とのエステル類あるいはこれらの混合物などが例示され、ペンタエリスリトール系滑剤の具体例としては、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールと前記高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステルまたはこれらの混合物が例示される。
【0018】
好ましい組み合わせの第4は、脂肪酸アミド系滑剤とモンタン酸エステル系滑剤との配合であり、脂肪酸アミド系滑剤とは、前記高級脂肪酸とアミン類との反応物であり、例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリルアミドあるいはこれらの混合物などが例示され、モンタン酸エステル系滑剤の具体例としては、モンタン酸と前記高級アルコールとのエステル類あるいはこれらのアルカリ土類金属塩を含んだハーフエステルなどが例示される。
【0019】
好ましい組み合わせの第5はPMMA系高分子滑剤の配合である。本発明でいうPMMA系高分子滑剤とは、メチルメタクリレートを主成分とした高分子化合物であり、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、スチレンなどを共重合またはグラフト共重合してなるポリマーで、メチルメタクリレート成分が70〜95重量%、ブチルアクリレート成分が5〜15重量%、スチレン成分が1〜5重量%からなる共重合体が好ましい。
【0020】
これら(a)成分の滑剤の合計が0.3重量部未満であると塩化ビニル系樹脂成分の溶融が進み過ぎ、不均一な残存粒子状態となり、単糸切れが頻繁に発生すると共にカール保持性、バウンシー性も劣る傾向となる。逆に2.5重量部を越えた場合は、塩化ビニル系樹脂成分の溶融が進まず、不均一な残存粒子状態となり単糸切れが頻繁に発生すると共にカール保持性、バウンシー性も劣る傾向となる。
【0021】
本発明に使用する滑剤の(b)成分であるポリエチレン系滑剤としては、従来公知のものを使用できるが、特に好ましくは、平均分子量が1500〜4000程度であり、密度が0.91〜0.97の非酸化タイプまたはわずかに極性を付加したタイプのものが良い。またパラフィン系滑剤としては、従来公知のものを使用できるが、特に好ましくは、分子量300〜700のn−パラフィン、iso−パラフィンを主成分とする合成ワックスまたは原油から抽出される天然ワックスが好ましい。
【0022】
該ポリエチレン系滑剤またはパラフィン系滑剤から選択される1種又は2種以上の滑剤成分は合計で、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.2〜1.5重量部使用するのが好ましい。該滑剤成分の添加量が、0.2重量部未満であると塩化ビニル系樹脂成分の溶融が進み過ぎ、不均一な残存粒子状態となり、単糸切れが頻繁に発生すると共にカール保持性、バウンシィー性も劣る傾向となる。逆に1.5重量部を越えると塩化ビニル系樹脂成分の溶融が進まず、不均一な残存粒子状態となり単糸切れが頻繁に発生すると共にカール保持性、バウンシィー性も劣る傾向となる。
【0023】
本発明に使用できる熱安定剤は、Pb系安定剤、Sn系安定剤、Ca−Zn系安定剤、Ba−Zn系安定剤、Ca−Sn系安定剤、Ba−Sn系安定剤、Cd−Ba−Pb系安定剤、Cd−Ca−Pb系安定剤、ハイドロタルサイト系安定剤、ゼオライト系安定剤など従来公知の熱安定剤あるいはこれらの組合せ安定剤系を使用できるが、特に粘度平均重合度が650〜1650の塩化ビニル系樹脂を使用し、該樹脂100重量部に対して、(c)メルカプト錫系熱安定剤を0.1〜1.5重量部、および(d)マレエート錫系熱安定剤、ラウレート錫系熱安定剤、Ca−Zn系熱安定剤、Ba−Zn系熱安定剤から選択される1種又は2種以上の熱安定剤成分を合計で0.3〜1.5重量部配合してなる塩ビ系組成物に、前記滑剤成分を組み合わせると極めて優秀な「単糸切れ」防止効果を発揮する。
【0024】
該メルカプト錫系熱安定剤(c)は、主として繊維の初期着色性を維持する効果があり、少なくとも0.1重量部以上の添加により、繊維の「黄味」を抑制することができる。逆に、該添加量が1.5重量部を越えると配合コストが高くなるばかりでなく「メルカプト臭」が著しくなり好ましくない。マレエート錫系熱安定剤またはラウレート錫系熱安定剤、Ca−Zn系安定剤、Ba−Zn系安定剤からなる(d)成分は、主として組成物のロングラン性を維持する効果があり、該(d)成分を少なくとも0.3重量部以上添加することにより、熱安定性を確保し、局部的な樹脂焼けや、ノズル部の目詰まり等、単糸切れを発生する原因を抑制する効果がある。逆に(d)成分の添加量が1.5重量部を越えると配合コストが高くなるばかりでなく、ノズル先端部に「目脂」の発生が多くなり、肥大化した「目脂」によって流れ方向が乱され、隣接単糸と融着して単糸切れを発生する傾向になる。
【0025】
本発明に使用できるメルカプト錫系熱安定剤とは、従来公知のものでありジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプトなどが代表的に例示される。特に好ましくは、カール保持性、熱収縮性などの品質面で粉末状のものが好ましい。
本発明に使用するマレエート錫系熱安定剤とは、従来公知のものでありジメチル錫マレエート、ジブチル錫マレエート、ジオクチル錫マレエート、ジオクチル錫マレエートポリマーなどが例示され、カール保持性などの品質面で粉末状のものが好ましい。またラウレート錫系熱安定剤とは、ジメチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレート、ジオクチル錫ラウレートなどが例示される。更に、Ba−Zn系熱安定剤、Ca−Zn系熱安定剤も同様に従来公知もので、ステアリン酸Ba、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Znを主成分とし、これに各種の酸化防止剤、ハイドロタルサイト類、ゼオライト類などを組合わせてなる複合物が使用できる。
【0026】
この他、本発明に於いては、従来塩化ビニル系樹脂の配合剤として使用されている配合剤、例えば、顔料、帯電防止剤、加工性改良剤などは、本発明の目的あるいは繊維品質を害しない限り自在に使用することができる。例えば、加工性改良剤として、EVA系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、MBS系樹脂、またはABS系樹脂から選択される1種以上の樹脂成分を塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部程度配合することもできるが、該改質剤は、過剰に添加すると繊維品質が変化するばかりでなく、配合コストも高くなるので10重量部以下の添加量が好ましい。本発明でいうEVA系樹脂とは、エチレンと酢酸ビニルの共重合体または該共重合体に塩化ビニルをグラフト重合してなる樹脂を意味する。また、ポリウレタン系樹脂とは、ポリエステルポリオールとイソシアネートからなる熱可塑性ポリウレタンまたは該熱可塑性ポリウレタンに塩化ビニルをグラフト重合してなる樹脂を意味する。また、塩素化ポリエチレン系樹脂とは、非晶性もしくは微結晶性のポリエチレンを塩素化してなる樹脂または該樹脂に塩化ビニルをグラフト重合してなる樹脂を意味する。さらに、MBS系樹脂とは、メチルメタクリレート、ブタジエン、スチレンを主成分とし、これらを共重合またはグラフト重合してなる樹脂成分を意味し、ABS系樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを主成分とし、これらを共重合またはグラフト重合してなる樹脂成分を意味する。
【0027】
本発明に使用する塩ビ系組成物は、従来公知の混合機、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどを使用して混合してなるパウダーコンパウンド、またはこれを溶融混合してなるペレットコンパウンドとして使用できる。該パウダーコンパウンドの製造は、従来公知の通常の条件で製造でき、ホットブレンドでもコールドブレンドでも良い。特に好ましくは、組成物中の揮発分を減少する為に、ブレンド時のカット温度を105〜155℃迄上げてなるホットブレンドを使用するのが好ましい。該ペレットコンパウンドは、通常の塩化ビニル系ペレットコンパウンドの製造と同様にして製造できる。例えば、単軸押出機、異方向2軸押出機、コニカル2軸押出機、同方向2軸押出機、コニーダー、プラネタリーギアー押出機、ロール混練り機などの混練り機を使用して、ペレットコンパウンドとすることができる。該ペレットコンパウンドを製造する際の条件は、特に限定はされないが、樹脂温度を185℃以下になる様に設定することが特に望ましい。
【0028】
本発明に於いては、従来公知のノズルを用いて溶融紡糸することが可能であるが、カール保持性などの品質面を勘案すれば、1ケのノズル孔の断面積が0.5mm2以下のノズルから溶融・流出せしめることが特に好ましい。1ケのノズル孔の断面積が0.5mm2を越えると、細繊度の未延伸糸または延熱糸とする為に、過大な張力をかける必要があり、残留歪みが増加し、カール保持性などの品質が低下してくる。従って、特に好ましくは、1ケのノズル孔の断面積が0.5mm2以下のノズルからストランドを溶融・流出せしめて、300デニール以下の未延伸糸を製造し、次いで、この未延伸糸に延伸処理、熱処理を施して、100デニール以下の繊維(延熱糸)とするのが好ましい。
【0029】
未延伸糸が300デニールを越えると、カール保持性などが劣る傾向が観られ、100デニールを越える繊維(延熱糸)では、人工毛髪あるいは人形用頭髪繊維としては剛毛に過ぎ好ましくない。さらに好ましくは、該未延伸糸を製造する際、紡糸ドラフト比を25以下とすることで「カール保持性」に優れた繊維を得ることが出来る。逆に紡糸ドラフト比が25を越えると、未延伸糸内の残留歪みが多くなり、カール保持性に劣る傾向にある。
【0030】
本発明に於いて、上記塩ビ系組成物を繊維状の未延伸糸にする際には、従来公知の押出機を使用できる。例えば、単軸押出機、異方向2軸押出機、コニカル2軸押出機などを使用できるが、特に好ましくは、口径が30〜85mmφ程度の単軸押出機または口径が30〜50mmφ程度のコニカル押出機を使用するのが良い。口径が過大に過ぎると、押出量が多くなり、ノズル圧力が過大になったり、未延伸糸の流出速度が早過ぎて、巻取りが困難になり好ましくない。
【0031】
本発明に於いて溶融紡糸する際のノズル圧力は、500Kg/cm2以下にすることが好ましい。該ノズル圧力が、500Kg/cm2を越えると、押出機のスラスト部に不具合を発生し易く、またターンヘッド、ダイなどの接続部から「樹脂漏れ」を発生し易くなり好ましくない。ノズル圧力を低下する為には、樹脂温度を高くすることで可能であるが、溶融紡糸の際の温度条件は、樹脂温度を195℃以下で紡糸することが好ましい。195℃を越えた温度で紡糸すると繊維の着色傾向が顕著となり、黄色味の強い繊維となり好ましくない。その為、シリンダー温度を140〜160℃程度とし、ダイ温度、ノズル温度を160〜190℃程度とすることが特に好ましい。延伸処理条件としては、延伸処理温度70〜150℃の雰囲気下で、延伸倍率は、200〜450%程度延伸することが特に好ましい。延伸処理温度が70℃以下であると繊維の強度が低くなると共に、単糸切れを発生し易く、150℃以上であると、触感性に劣った繊維となり好ましくない。また、延伸倍率が200%以下であると繊維の強度発現が不十分となり、450%以上であると延伸処理時に、単糸切れを発生し易く、またカール保持性に劣る傾向があり好ましくない。
【0032】
さらに、本発明に於いては、延伸処理を施した繊維に熱処理を施して、2〜75%程度繊維を熱緩和処理するのが人工毛髪用の品質を確保する上で好ましい。該熱処理の温度条件としては、雰囲気温度80〜150℃の雰囲気下で実施することが特に好ましい。また本発明に於いては、従来公知の溶融紡糸に関わる技術、例えば、各種ノズル断面形状に関わる技術、加熱筒に関わる技術、延伸処理に関わる技術、熱処理に関わる技術などは、自在に組み合わせて使用することが可能である。
【0033】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
尚、表2、3、5、7、8、9においては滑剤、熱安定剤、その他の配合剤の使用量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対する、各重量部を示したものである。
【0034】
(実験1〜5)「ポリエチレン系滑剤/パラフィン系滑剤添加の効果」塩化ビニル樹脂100重量部が4Kgになる様に計量し、次いで、表2に示す配合剤をそれぞれ計量して、20Lのヘンシェルミキサーに投入し、撹拌しながら内容物の温度が115℃になる迄、撹拌・混合した。その後、ヘンシェルミキサーのジャケットに冷却水を流しながら撹拌・混合を続け、内容物の温度が75℃になる迄冷却して、塩ビ系組成物(パウダーコンパウンド)を得た。該パウダーコンパウンドを表1の(紡糸条件1)に示す条件にて、 溶融紡糸・延伸・熱処理実験に供した。
【0035】
【表1】
【0036】
溶融紡糸実験は、定常状態になってから、スクリュー回転数と押出量の関係を求め、押出量が7.2Kg/Hrsになる様にスクリュー回転数を決定した。ノズル圧力は、ダイ圧計をノズル部に設置して測定した。鉛直方向に、ノズルから溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入し、ここで該ストランドを瞬間的に加熱溶融し、ノズル直下約3mの位置に設置した引取機にて、未延伸糸を一定速度で巻き取った。この際、該未延伸糸の繊度が約168デニール程度になる様に引取速度を調節した。表1に示す条件にて、48時間のロングラン紡糸実験を行い、その間に発生する「単糸切れ」の発生状況を目視観察し、次の様に評価した。
【0037】
[紡糸時の単糸切れ評価基準]
◎:単糸切れ=0〜1本/48時間
○:単糸切れ=2〜4本/48時間
△:単糸切れ=5〜15本/48時間
次に前記未延伸糸を延伸・熱処理機に導入し、延伸処理、次いで、熱緩和処理を行い、延熱糸を製造した。この際、熱緩和処理は、25%緩和に固定し、延伸処理は、最終の延熱糸の繊度が、約68デニール程度になる様に延伸倍率を若干調整した。上記条件にて、延伸・熱処理実験を8時間実施し、この間に発生する「単糸切れ」の発生状況を目視観察し、次の様に評価した。
【0038】
[延伸・熱処理時の単糸切れ評価基準]
◎:単糸切れ=0〜1本/8時間
○:単糸切れ=2〜4本/8時間
△:単糸切れ=5〜15本/8時間
次に前記延熱糸を引張試験、熱収縮試験、カール試験に供し、強度、熱収縮率およびカール保持性を求めた。尚、延熱糸の引張試験は、常法に基づいて実施し、熱収縮試験およびカール試験は、 以下の様な手順で実施した。
【0039】
[引張試験]
JIS−L1069に準拠し、120本の繊維(延熱糸)束から30本の単繊維をランダムに選択して、これら各単繊維の引張試験を行い平均値を求めた。尚、試験温度は、20℃、相対湿度は、65%、引張速度は、20mm/分、空間距離(チャック間距離)は、20mmで行なった。
【0040】
[熱収縮試験]
120本の単繊維からなる繊維(延熱糸)束を一定の長さに切断し、100℃の雰囲気温度の空気循環式オーブンに投入して、25分熱収縮させ、該熱処理後の長さを測定して、以下の様な計算にて、熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(熱処理前の延熱糸長−熱処理後の延熱糸長)/熱処理前の延熱糸の長さ×100
[カール保持性試験]
120本の単繊維からなる繊維(延熱糸)束を一定の長さに切断し、20mmφのアルミ製筒に巻き付け乍ら両端を固定し、90℃の空気循環式オーブンに投入して30分間加熱した。次いで、該アルミ筒(繊維を巻き付けたままで)を23℃の冷水中に投入して、繊維をクウェンチし、繊維にカールセットを施した。水分をペーパータオルにて十分に拭き取り、乾燥後、ステンレス筒から繊維束を取り外し、温度23℃、相対湿度50%の恒温室に、 一方の端を固定して吊り下げた。その際、該繊維束の初期吊り下げ長(L0)を測定し、そのまま、1週間放置し、放置後の吊り下げ長(L)を測定し、次の様な基準でカール保持性を評価を行った。
【0041】
[カール保持性評価基準]
◎:(L−L0)/L0が、0%以上15%未満
○:(L−L0)/L0が、15%以上25%未満
△:(L−L0)/L0が、25%以上
これらの評価結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2の結果から判る様に、ポリエチレン系滑剤の添加量が過少であると、ゲル化・溶融は進行しているにもかかわらず、「単糸切れ」が顕著になり、強度、カール性に劣った繊維となる。これは、溶融状態が不均一で、分散不良の微粒子部分で破断し易くなるばかりでなく、その部分で細くなって、単繊維内の繊度ムラを生じ、強度、カール性に劣るものとなり、該滑剤が過剰であると、十分なゲル化・溶融が進行せず、「単糸切れ」、強度低下などを生じることを示している。
【0044】
(実験6〜10)「高級脂肪酸アルカリ金属塩/アルカリ土類金属塩の添加効果」
実験1〜5と同様に、塩化ビニル樹脂100重量部が4Kgになる様に計量し、次いで、表3に示す配合剤をそれぞれ計量して、20Lのヘンシェルミキサーに投入し、撹拌しながら内容物の温度が105℃になる迄、撹拌・混合した。その後、冷却水をヘンシェルミキサーのジャケットに流しながら撹拌・混合を続け、内容物の温度が70℃になる迄、冷却して、塩ビ系パウダーコンパウンドを得た。該パウダーコンパウンドを実験1〜5と同様、表1に示した(紡糸条件1)にて、溶融紡糸・延伸・熱処理実験に供した。
【0045】
溶融紡糸実験は、定常状態になってから、スクリュー回転数と押出量の関係を求め、押出量が7.0Kg/Hrsになる様に、スクリュー回転数を決定した。尚、ノズル圧力は、ダイ圧計をノズル部に設置して測定した。次に鉛直方向に、ノズルから溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入し、ここで該ストランドを瞬間的に加熱溶解し、ノズル直下、約3mの位置に設置した引取機にて、未延伸糸を一定速度で巻き取った。この際、該未延伸糸の繊度が約168デニール程度になる様に引取速度を調節した。また、その他の紡糸条件、延伸条件などは、実験1〜5に示した方法と同様に行い、評価方法なども実験1〜5に示した方法と全く同様に行なった。これらの評価結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から判る様に、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩系滑剤の添加量が過少であると、ゲル化・溶融が進み過ぎ、ノズル圧力が高くなり紡糸継続が困難となる。一方、該滑剤が過剰であると、十分なゲル化・溶融が進行せず、「単糸切れ」、強度低下などを生じることを示している。
(実験11〜15)「高級アルコール系滑剤/高級脂肪酸系滑剤/脂肪酸エステル系滑剤/ペンタエリスリトール系滑剤/脂肪酸アミド系滑剤/モンタン酸エステル系滑剤/高分子滑剤の添加効果」
実験1〜5と同様、塩化ビニル樹脂100重量部が4Kgになる様に計量し、次いで、表5に示す配合剤をそれぞれ計量して、20Lのヘンシェルミキサーに投入し、撹拌しながら内容物の温度が105℃になる迄、撹拌・混合した。その後、冷却水をヘンシェルミキサーのジャケットに流しながら撹拌・混合を続け、内容物の温度が70℃になる迄冷却して、塩ビ系パウダーコンパウンドを得た。該パウダーコンパウンドを表4に示す(ペレット化条件)にてペレットコンパウンドとし、該ペレットコンパウンドを使用して、実験1〜5と同様に表1に示した(紡糸条件1)にて、溶融紡糸・延伸・熱処理実験に供した。
【0048】
【表4】
【0049】
溶融紡糸実験は、定常状態になってから、スクリュー回転数と押出量の関係を求め、押出量が7.1Kg/Hrsになる様に、スクリュー回転数を決定した。尚、ノズル圧力は、ダイ圧計をノズル部に設置して測定した。次に、鉛直方向に、ノズルから溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入し、ここで該ストランドを瞬間的に加熱溶解し、ノズル直下、約3mの位置に設置した引取機にて、未延伸糸を一定速度で巻き取った。この際、該未延伸糸の繊度が約168デニール程度になる様に引取速度を調節した。また、その他の紡糸条件、延伸条件などは、実験1〜5に示した方法と同様に行い、評価方法なども実験1〜5に示した方法と全く同様に行なった。これらの評価結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表5の結果から判る様に、特定滑剤種とポリエチレン系滑剤との組合せに於いて、その添加量の最適領域を選択することによって、「単糸切れ」がほとんどなく、強度、カール性に優れた繊維を得ることができる。
(実験16〜20)「熱安定剤種の効果」
実験1〜5と同様に、塩化ビニル樹脂100重量部が4Kgになる様に計量し、次いで、表7に示す配合剤をそれぞれ計量して、20Lのヘンシェルミキサーに投入し、撹拌しながら内容物の温度が110℃になる迄、撹拌・混合した。その後、冷却水をヘンシェルミキサーのジャケットに流しながら撹拌・混合を続け、内容物の温度が65℃になる迄、冷却して、塩ビ系パウダーコンパウンドを得た。該パウダーコンパウンドを表6に示した(紡糸条件2)にて、溶融紡糸・延伸・熱処理実験に供した。
【0052】
【表6】
【0053】
溶融紡糸実験は、定常状態になってから、スクリュー回転数と押出量の関係を求め、押出量が6.7Kg/Hrsになる様に、スクリュー回転数を決定した。尚、ノズル圧力は、ダイ圧計をノズル部に設置して測定した。次に鉛直方向に、ノズルから溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入し、ここで該ストランドを瞬間的に加熱溶解し、ノズル直下、約3mの位置に設置した引取機にて、未延伸糸を一定速度で巻き取った。この際、該未延伸糸の繊度が約168デニール程度になる様に引取速度を調節した。また、その他の紡糸条件、延伸条件などは、実験1〜5に示した方法と同様に行い、評価方法なども実験1〜5に示した方法と全く同様に行なった。これらの評価結果を表7に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
表7の結果から判る様に、熱安定剤の組合せは、メルカプトスズ系熱安定剤とマレエートスズ系熱安定剤の組合せが、「単糸切れ」がほとんどなく特に好ましい。メルカプトスズ系熱安定剤と他の熱安定剤との組合せは、「単糸切れ」がやや劣るが、強度、カール性などの繊維特性は、スズ系と同等の優れた繊維を得ることができる。
【0056】
(実験21〜25)「脈動改質剤添加の効果」
実験1〜5と同様、塩化ビニル樹脂100重量部が4Kgになる様に計量し、次いで、表8に示す配合剤をそれぞれ計量して、20Lのヘンシェルミキサーに投入し、撹拌しながら内容物の温度が110℃になる迄、撹拌・混合した。その後、冷却水をヘンシェルミキサーのジャケットに流しながら撹拌・混合を続け、内容物の温度が65℃になる迄、冷却して、塩ビ系パウダーコンパウンドを得た。該パウダーコンパウンドを実験1〜5と同様、表1に示した(紡糸条件1)にて、溶融紡糸・延伸・熱処理実験に供した。
【0057】
溶融紡糸実験は、定常状態になってから、スクリュー回転数と押出量の関係を求め、押出量が7.5Kg/Hrsになる様に、スクリュー回転数を決定した。尚、ノズル圧力は、ダイ圧計をノズル部に設置して測定した。次に鉛直方向に、ノズルから溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入し、ここで該ストランドを瞬間的に加熱溶解し、ノズル直下、約3mの位置に設置した引取機にて、未延伸糸を
一定速度で巻き取った。この際、該未延伸糸の繊度が約168デニール程度になる様に引取速度を調節した。また、その他の紡糸条件、延伸条件などは、実験1〜5に示した方法と同様に行い、評価方法なども実験1〜5に示した方法と全く同様に行なった。これらの評価結果を表8に示す。
【0058】
【表8】
【0059】
表8の結果から判る様に、MBS樹脂などを「脈動改質剤」として、少量使用することによって、「単糸切れ」がなく、強度、カール性などの繊維特性に優れた繊維を得ることができる。
(実験26〜30)「ノズル孔断面積、未延伸糸繊度の効果」
実験1〜5と同様、塩化ビニル樹脂100重量部が4Kgになる様に計量し、次いで、表9に示す配合剤をそれぞれ計量して、20Lのヘンシェルミキサーに投入し、撹拌しながら内容物の温度が110℃になる迄、撹拌・混合した。その後、冷却水をヘンシェルミキサーのジャケットに流しながら撹拌・混合を続け、内容物の温度が65℃になる迄、冷却して、塩ビ系パウダーコンパウンドを得た。該パウダーコンパウンドを実験1〜5と同様、表1に示した(紡糸条件1)にて、溶融紡糸・延伸・熱処理実験に供した。
【0060】
溶融紡糸実験は、定常状態になってから、スクリュー回転数と押出量の関係を求め、押出量が6.7Kg/Hrsになる様に、スクリュー回転数を決定した。尚、ノズル圧力は、ダイ圧計をノズル部に設置して測定した。次に鉛直方向に、ノズルから溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入し、ここで該ストランドを瞬間的に加熱溶解し、ノズル直下、約3mの位置に設置した引取機にて、未延伸糸を一定速度で巻き取った。この際、該未延伸糸の繊度が約168デニール程度になる様に引取速度を調節した。また、その他の紡糸条件、延伸条件などは、実験1〜5に示した方法と同様に行い、評価方法なども実験1〜5に示した方法と全く同様に行なった。これらの評価結果を表9に示す。
【0061】
【表9】
【0062】
表9の結果から判る様に、孔断面積の小さいノズルを使用することによって、延伸時の「 単糸切れ」をほとんどなくすことができ、強度、カール性などの繊維特性に優れた繊維を得ることができる。また、未延伸糸の繊度を小さくして、延伸時の延伸倍率を小さくすることによって、延伸時の「単糸切れ」を少なくし、熱収縮率を小さくできる。
【0063】
【発明の効果】
以上のように本発明の塩ビ系組成物を用いた繊維は、カール保持性やバウンシー性に優れ、強度などの点でも従来の塩化ビニル系繊維と同等かそれ以上の性能を保持した繊維とすることができる。さらに本発明の製造方法を用いれば、溶融紡糸、あるいは延伸、熱処理の際の糸切れ性が大幅に改善され、長期間に亘って、高い生産性を維持しながら、安定的に生産することができる。
Claims (5)
- 塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(a)高級脂肪酸のアルカリ金属塩滑剤、アルカリ土類金属塩滑剤、高級アルコール系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、ペンタエリスリトール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、モンタン酸エステル系滑剤、PMMA系高分子滑剤から選択される1種又は2種以上の滑剤成分を合計で0.3〜2.5重量部、および(b)ポリエチレン系滑剤またはパラフィン系滑剤から選択される1種又は2種以上の滑剤成分を合計で0.2〜1.5重量部並びに熱安定剤を配合してなる塩化ビニル組成物を溶融紡糸するに際し、1ケのノズル孔の断面積が0.5mm 2 以下のマルチタイプのノズルの複数のノズル孔からストランドを溶融・流出せしめ、300デニール以下の未延伸糸を製造し、次いで、この未延伸糸に延伸処理、熱処理を施して、100デニール以下の繊維とすることを特徴とする塩化ビニル繊維の製造方法。
- 前記塩化ビニル組成物が、前記塩化ビニル樹脂の粘度平均重合度が650〜1650であり、前記熱安定剤として塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(c)メルカプト錫系熱安定剤を0.1〜1.5重量部、および(d)マレエート錫系熱安定剤、ラウレート錫系熱安定剤、Ca−Zn系熱安定剤、Ba−Zn系熱安定剤から選択される1種又は2種以上の熱安定剤成分を合計で0.3〜1.5重量部配合してなる塩化ビニル組成物である請求項1記載の塩化ビニル繊維の製造方法。
- 前記塩化ビニル組成物をノズル圧力500Kg/cm2以下、樹脂温度195℃以下で、ノズル孔から溶融・流出せしめると同時に、紡糸ドラフト比を25以下の条件下で、未延伸糸を引取ることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル繊維の製造方法。
- ノズル孔から溶融・流出したストランドを加熱紡糸筒に導入して未延伸糸を溶融紡糸し、次いでこの未延伸糸に延伸処理、熱処理を施してなる請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル繊維の製造方法。
- 前記塩化ビニル組成物が、加工性改良剤として、EVA系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、MBS系樹脂、またはABS系樹脂から選択される1種以上の樹脂成分を塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部配合した塩化ビニル組成物である請求項1〜4のいずれかに記載の塩化ビニル繊維の製造方法。
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