JP3664537B2 - 無機系塗膜との密着性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

無機系塗膜との密着性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機系塗膜との密着性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、耐食性・意匠性等の観点から、建材や家電製品等の多くの用途に各種の塗料を塗装したステンレス鋼板が使用されているが、最近ではさらに高度な機能を有する塗装ステンレス鋼板のニーズが高まりつつある。例えば、住宅やビルの内外壁に使用される材料にはメンテナンスフリー化の観点から数十年の使用に耐える耐食性・耐候性・耐汚染性が、また、トンネル内壁材のような道路施設材料には繰り返しの洗浄に耐える耐傷付き性,火災発生時の耐燃焼性・無煙性が要求される。
【0003】
しかし、従来から一般的に用いられている有機高分子を主体とした塗料ではこれらの要求特性を満足するには限界がある。そこで、最近ではアルコキシシラン化合物を出発原料として加水分解・縮合反応により塗膜を形成するセラミックス塗料や、ほうろう等の、無機系塗料をステンレス鋼板に塗布した材料が注目されはじめている。これら無機系塗料は、塗膜を形成する主鎖に有機結合がないことから、有機系の塗料と比較して耐食性,耐候性,耐熱性,耐傷付き性等の特性が格段に優れる。しかし反面、下地ステンレス鋼との十分な密着力が得られないため、広く普及するには至っていない。
【0004】
一般に、ステンレス鋼板と塗膜の密着性を向上させる方法として、ステンレス鋼板表面を粗面化して塗膜との密着力を向上させる方法が知られている。例えば、ダルロール圧延,ショットブラスト,ホーニングといったステンレス鋼板表面を物理的に粗面化する方法、硫酸,塩酸,硝弗酸等の酸類や塩化第二鉄溶液によるスプレーあるいは浸漬による化学エッチングでステンレス鋼板表面を粗面化する方法等が挙げられる。
【0005】
しかし、ダルロール圧延は、圧延ロールに施した凹凸を転写するため、塗膜との密着性を満足するような微細な粗面化が不可能である。また、ショットブラストやホーニングにおいては、削り取られた鋼粉の処理による連続生産性の低下、さらには、薄ゲージ鋼板に適用した場合には鋼板が反りかえる等の問題がある。そればかりか、物理的な粗面化方法では鋼板に歪が残り、鋼板本来の耐食性を低下させるといった問題も残る。一方、化学エッチング処理による方法は、局所的に大きなピットが発生するなどステンレス鋼板表面に均一にピットを形成させるのが難しく、処理時間も長いことから連続生産には向かない。
【0006】
これらの問題点を解決する方法として、特開平6−136600号では、塗膜との密着性向上を目的に、硝酸または硝酸を主成分とする水溶液中でステンレス鋼の陽極電解または陽極電解と陰極電解を行って表面を粗面化する方法を開示している。しかし、塗膜との十分な密着力を得るための粗面化に要する処理時間は、オーステナイト系鋼種で3〜60minと長時間を要していることから判るように、この方法も連続生産に適するとはいい難い。また、この方法では鋼種によって粗面化形態が異なり、特に、オーステナイト系鋼種では開口部が広く凹凸の大きい粒界侵食型の粗面化形態となりやすく、この場合には加工を施したときに開口部の広がりが助長されてアンカー効果不足が生じ、無機系の塗膜に対しては十分な密着力を維持できない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、無機系塗膜で被覆したステンレス鋼板のニーズが高いにもかかわらず、無機系塗膜に対して高い密着性を発揮するステンレス鋼板素材を工業的に安定して製造する技術が確立されていないために、上記ニーズに対応することができないのが現状である。本発明は、かかる現状に鑑み、無機系塗膜との密着力を高めるのにふさわしい鋼板の表面形態を明らかにして、そのようなオーステナイト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。併せて、そのようなオーステナイト系ステンレス鋼板を、連続生産が可能な短い処理時間で、しかも薄ゲージ材にも適用可能な方法で製造する技術を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、鋼板表面に球面状のピットが隙間なく形成しており、これらピットの開口部の平均径D(μm)とピットの平均深さH(μm)が、下記(1)式および(2)式の関係を満足している無機系塗膜との密着性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板によって達成される。
1≦D≦5 -----(1)
D/3≦H≦D/2 -----(2)
このオーステナイト系ステンレス鋼板は、Fe3+を30〜120g/L(リットル)含む塩化第二鉄水溶液中で、アノード電解時の電流密度を1.0〜10.0kA/m2、カソード電解時の電流密度を0.5〜3.0kA/m2とした1〜10Hzの交番電解をステンレス鋼板に10〜120秒間施すことにより製造される
【0009】
ここで、ピットが隙間なく形成しているとは、各ピットの間にピット未発生部分がないこと、換言すれば、各ピットは周囲全体が他のピットと接するようにして連続的につながっている状態を意味する。また、ここで、ピットの開口部の平均径Dは、各ピットの開口部の直径を平均したμm単位の値を意味する。したがって、(1)式によりDの値は1〜5μmの範囲に規定されるが、開口部の直径が5μmを超えるピットや1μm未満であるピットが存在する場合も含まれる。また同様に、ピットの平均深さHは、各ピットの深さを平均したμm単位の値を意味する。したがって、(2)式によりHの値はD/3〜D/2の範囲に規定されるが、深さがD/2を超えるピットやD/3未満であるピットが存在する場合も含まれる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、無機系塗膜との密着力を高めるような鋼板の表面形態について種々研究した結果、球面状のピットが隙間なく連続的に形成しており、しかもピットの形状が半球状に近いとき、際だって高い密着力が得られることを知見した。ピットの形状が半球状であれば、接しているピット同士の境界が鋭く切り立った状態となる。各ピットが隙間なく接しているとき、この鋭く切り立ったピット境界は塗膜を強固に固着させる作用を最も強く発揮する。
【0011】
本発明者らの研究によると、塗膜が無機系のものである場合、ステンレス鋼板表面に隙間なく形成したピットの開口部の平均径Dが1〜5μmであり、しかも、これらのピットの平均深さHがD/3〜D/2の範囲であるとき、このステンレス鋼板は加工にも耐えるだけの非常に高い塗膜密着力を発現することがわかった。ピット開口部の平均径が1μm未満だと、塗膜の中に食い込むピット境界部の深さが浅いためアンカー効果が薄れ、無機系塗膜を強固に固着させることができない。一方、ピット開口部の平均径が5μmを超えると、未加工部では依然として高い密着力を示すが、加工を受けた部分の密着力が急激に低下する。また、ピットの平均深さHがD/3未満だと、アンカー効果が発揮できず、無機系塗膜との密着力が不足する。HがD/2を超えるような場合は理論的に生じ難い。このような理由から、本発明では、前記(1)式および(2)式の規定を設けた。
【0012】
図1に、無機系塗膜との密着性の良い、本発明のステンレス鋼板表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。また、図2に、そのステンレス鋼板の断面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。これらの写真から、前記のとおり、鋼板表面には球面状のピットが隙間なく連続的に形成しており、隣り合ったピット同士の境界は鋭く切り立った状態となっていることが判る。なお、ピット開口部の平均径Dは、例えば図1のような鋼板表面の電子顕微鏡写真から求めることができる。また、ピットの平均深さHは、例えば図2のような鋼板断面の電子顕微鏡写真から求めることができる。
【0013】
このような粗面化形態が塩化第二鉄水溶液中での交番電解で形成できる理由については、次のように考えられる。
図3に、本発明の塩化第二鉄水溶液中での交番電解によるステンレス鋼板表面のピット形成過程を模式的に示す。まず、アノード電解でピットが発生する。そして、次のカソード電解でH2の発生が起きると、フラットな部分に比べピット内部では一時的にFe3++3OH-→Fe(OH)3の反応が起こる領域までpHが上昇し、この時に、ピット内壁はFe(OH)3によって覆われる。そして、再びアノード電解が行われる時に、このFe(OH)3が保護作用をし、すでに形成されているピット内部よりも、H2発生により活性化されているフラットな部分が優先的に溶解され、その結果、フラットな部分に新たなピットが形成されることになる。以上のことが繰り返し行われることにより、本発明では比較的短時間で微細かつ緻密なピットをステンレス鋼板表面に均一に施すことができると考えられる。
以下、本発明における交番電解処理の条件について説明する。
【0014】
(電解液)
本発明では、Fe3+イオンを含む電解液を使用することが必須要件である。これは、本発明の交番電解では、前述のとおり、ピット内でFe3++3OH-→Fe(OH)3の反応を起こしてピット内壁をFe(OH)3で保護し、フラットな部分に新たなピットを形成させるというメカニズムを利用するからである。したがって、Fe3+を含まない塩化第一鉄,硝酸,塩酸,硫酸等の電解液中での交番電解では、上記メカニズムを利用した電解粗面化が行えない。さらに、本発明ではステンレス鋼を対象とするので、電解液中にはステンレスの酸化作用を促進するNO3 -,SO4 2-といったイオンが含まれていないことも、孔食、すなわちピット形成を容易にさせ、短時間での粗面化処理を可能にするための重要な条件となる。このような観点から、本発明ではFe3+を含む塩化第二鉄水溶液を使用する。
【0015】
電解液中の塩化第二鉄濃度が低すぎるとエッチング力が低下するため、ステンレス鋼板表面に理想的な半球状に近い形状のピットを形成することが困難となり、アンカー効果に乏しいおわん型の浅いピットとなる。このため、前記D値とH値の間にH≧D/3の関係を成立させるに足るだけの塩化第二鉄濃度に管理する必要がある。一方、塩化第二鉄濃度が高すぎると、エッチング力が強くなりすぎるため全面溶解型の腐食形態となり、ピットの形成が行えない。エッチング力に及ぼす塩化第二鉄濃度の影響は、オーステナイト系ステンレス鋼に含まれる化学成分によって多少異なるが、電解液中に含まれるFe3+イオンの濃度が30〜120g/Lとなるように塩化第二鉄濃度をコントロールすることが望ましい。
【0016】
しかし、本発明の電解処理では、カソード電解時にH2の発生とともにFe3++e-→Fe2+なる還元反応が起こる。一方、アノード電解時にステンレス鋼から溶出するFeはFe2+であることから、処理時間の経過とともに電解液中では粗面化処理に必要なFe3+の濃度が低下する。したがって、工業的規模での連続生産に対応していくためには、Fe3+濃度を常に30〜120g/Lに保つような操作が必要となる。そのためには例えば、Fe3+の消費に合わせて新液を添加する、あるいは電解液中に生成したFe2+をFe3+に酸化する周知の方法を用いる等によってFe3+濃度を調整すればよい。なお、アノード電解時にステンレス鋼からはFe以外にCr,Niの溶出もあるが、Fe3+濃度調整時に電解液は希釈されることから、粗面化処理に影響をおよぼす濃度までは上昇しない。
【0017】
また、本発明の電解処理ではH2発生反応を伴うことから、電解処理時間の経過とともに電解液のpH上昇が認められる。このとき、pH上昇による粗面化形態への影響はないものの、pHが約1.8近傍まで上昇すると電解液中でFe3+がFe(OH)3となって沈殿し始めるので、このようなpH領域の電解液では液管理が難しくなる。したがって、電解液のpHは1.8より低い領域に保つことが望ましく、そのためには例えばHClを添加すればよい。
【0018】
(アノード電解)
アノード電解の目的はステンレス鋼板表面にピットを形成させることである。アノード電流密度が1.0kA/m2未満では活性溶解が起こるだけでステンレス鋼板表面にピットを形成することができない。一方、10.0kA/m2を超えるとCl-イオンの分解反応をともなうようになり、作業効率と作業環境がともに悪化する。したがって、アノード電流密度は1.0〜10.0kA/m2の範囲とすることが望ましい。
また、交番電解1サイクルあたりのアノード通電時間は、ステンレス鋼板表面に形成される球面状のピットのサイズと直接関係し、1サイクルあたりのアノード通電時間が長くなるほどピット径はアノード電流密度とは無関係に増大する。本発明で規定する前記(1)式および(2)式の条件を満足するサイズのピットを得るためには、1サイクルあたりのアノード通電時間を0.05〜0.5secとする必要がある。
【0019】
(カソード電解)
カソード電解の目的は、前述したように、ステンレス鋼板表面でH2を発生させ、ピット内壁にFe(OH)3の保護皮膜を形成させること、およびピット未発生部分を活性化させることである。そのためカソード電流密度の下限は、電解液中のFe3+の還元反応の限界電流密度より高くしてH2発生領域の値となるように設定しなければならず、塩化第二鉄濃度,液温あるいは流速等によって多少変動するが、ほぼ、0.5kA/m2以上あればよい。一方、カソード電流密度が3.0kA/m2を超えると、過剰なH2発生が起こりピット内壁に形成したFe(OH)3の保護皮膜をも取り去る恐れがある。このような事態が生じると、ステンレス鋼表面に良好な球面状のピットを隙間なく形成させることができなくなる。したがって、カソード電流密度は0.5〜3.0kA/m2の範囲とすることが望ましい。
また、カソード電解の目的を達成するための交番電解1サイクルあたりのカソード通電時間は0.01sec以上必要である。
【0020】
(交番電解サイクル)
交番電解1サイクルあたりの適正通電時間は、アノード電解で0.05〜0.5sec、カソード電解では0.01sec以上であればよいことを述べたが、工業的規模での交番電源を考慮した場合、アノードとカソードの通電時間は1:1とすることがコスト的な面から望ましい。このことから、交番電解のサイクルは1〜10Hzの範囲に規定した。
【0021】
(電解処理時間)
交番電解に要する処理時間が10secに満たないと、ステンレス鋼板表面にピット未発生箇所が残り、無機系塗膜との密着性が不十分となる恐れがある。一方、120secを超えて電解しても粗面化形態および無機系塗膜との密着性に大きな差はなく、それ以上の処理は経済上不利になる。したがって、本発明の交番電解に要する処理時間は10〜120secと規定した。これは、工業的規模での連続生産に十分対応できる処理時間といえる。
【0022】
【実施例】
(実施例1)
板厚0.6mmのSUS304の2B仕上げ材に通常の電解脱脂・酸洗を施した材料について、液温が50℃,Fe3+を75g/L含む塩化第二鉄水溶液を用いて、アノード電流密度を3.0kA/m2,カソード電流密度を2.0kA/m2,処理時間を60secと一定にして、交番電解サイクルを0.25〜20Hzの範囲内で変えた条件で電解処理を行い、ピットの開口部の平均径が0.5〜15μmの種々の段階にあるサンプルを作製した。いずれのサンプルも球面状のピットが鋼板表面に隙間なく形成しており、ピットの形態は、開口部の平均径Dと平均深さHの間にD/3≦H≦D/2の関係が成立している半球状に近いものであった。各サンプルにつき、90°V曲げ加工(曲げコーナー部;1R)を行い、加工部(凸側)および未加工部にセラミックス塗料をスプレー塗布したのち160℃×20minの焼付処理を行い、膜厚約20μmの塗膜を付着させた。そして、加工部(凸側)および未加工部にカッターガイド間隔1mmの碁盤目を刻み、その部分にセロハン粘着テープを貼付後剥離する方法(以下、碁盤目セロハン粘着テープ剥離試験という)により塗膜残存状況を調査して塗膜密着性を評価した。なお、ここで使用したセラミックス塗料は、中国塗料(株)製の商品名;エコルトンA3(白色タイプ)のオルガノポリシロキサンを主成分としたものである。
【0023】
図4に、上記碁盤目セロハン粘着テープ剥離試験によるピット開口部の平均径とセラミックス塗膜との密着性の関係を示す。図4中、未加工部については碁盤目100マス目のうちの塗膜残存率を、加工部については塗膜剥離の有無を示す。ピット開口部の平均径が1μm未満だと加工の有無に関係なくセラミックス塗膜との密着性は乏しい。一方、ピット開口部の平均径が5μmを超えて大きくなると、未加工部の密着性は良好に維持されるものの、加工部の密着性が低下するのがわかる。これは、先に述べたように、ピット開口部の径が大きくなるほど加工時にピットの広がりが助長され、その結果塗膜とのアンカー効果が少なくなるためであると考えられる。
【0024】
(実施例2)
板厚0.8mmのSUS321の2B仕上げ材に通常の電解脱脂・酸洗を施した材料について、液温が50℃,Fe3+を100g/L含む塩化第二鉄水溶液を用いて、アノード電流密度を5.0kA/m2,カソード電流密度を2.0kA/m2,処理時間を30secと一定にして、交番電解サイクルを0.25〜20Hzの範囲内で変えた条件で電解処理を行い、ピットの開口部の平均径が0.5〜15μmの種々の段階にあるサンプルを作製した。いずれのサンプルも球面状のピットが鋼板表面に隙間なく形成しており、ピットの形態は、開口部の平均径Dと平均深さHの間にD/3≦H≦D/2の関係が成立している半球状に近いものであった。各サンプルにつき、焼成後の膜厚が100μmとなるようにほうろうを施した。そして、エリクセン押し込み高さ4mmを与えた後の塗膜残存状況を調査する方法(以下、エリクセン押し込み試験という)により塗膜密着性を評価した。なお、ここで使用したほうろう用フリットは、日本フェロー(株)製の上ぐすり用(チタン白)でSiO2,Al23を主成分としたものであり、焼成は820℃×3minで行った。
【0025】
図5に、上記エリクセン押し込み試験によるピット開口部の平均径とほうろう塗膜との密着性の関係を示す。ほうろうとの密着性においても、ピット開口部の平均径が1〜5μmの範囲で塗膜残存率80%以上と非常に良好な密着性を示すことがわかる。
【0026】
(実施例3)
SUS304,SUS316,SUS309Sの2B仕上げ材の各種ステンレス鋼板に通常の電解脱脂・酸洗を施した材料について、塩化第二鉄水溶液の温度および電解液中に含まれるFe3+の濃度を塩化第二鉄により変えた種々の条件の電解液を使用して、アノード電流密度を5.0kA/m2,カソード電流密度を1.0kA/m2,交番電解サイクルを5Hz,処理時間を60secと一定にした条件で電解処理を行い、それぞれの鋼種について適正な電解液の条件を調査した。
【0027】
図6にその結果を示す。図6中、各鋼種ごとに枠で囲まれた領域が、その鋼種についての適正な電解液条件の範囲を表す。一般的に不動態化作用が強いとされる鋼種ほど適正範囲は高濃度・高液温側にある。この結果は前述したように、ある程度のエッチング力と不動態化力が本発明の粗面化形態を施すためには必要であることと一致している。したがって、本発明によれば電解液の液温と塩化第二鉄濃度を調整することにより各種オーステナイト系ステンレス鋼板表面に同様の粗面化形態が安定して施せるといえる。工業的に管理しやすい液温30〜70℃の範囲においては、電解液中に含まれるFe3+の濃度を30〜120g/Lにコントロールすることが望ましい。
【0028】
(実施例4)
次に、SUS304の2B仕上げ材に通常の電解脱脂・酸洗を施した材料について、種々の条件で電解処理を行って、実施例1と同様の90°V曲げ加工を行った加工部におけるセラミックス塗膜の密着性を調査した。その結果を、表1,表2に示す。使用した電解液は、液温が50℃,Fe3+を75g/L含む塩化第二鉄水溶液である。使用したセラミックス塗料およびその塗装方法は実施例1と同じである。また、塗膜密着性は実施例1と同様の碁盤目セロハン粘着テープ剥離試験による塗膜剥離の有無を調査することで評価した。なお、表中に記載したアノード電流密度およびカソード電流密度は、台形波または正弦波(交流波)を交番電源として用いた場合については、その最大電流密度の値を示した。
さらに、比較のために、塩化第二鉄以外の電解液を用いて表面を粗面化したサンプルも準備し、同様の方法で特性を評価した。その結果を表3に示す。
【0029】
表1に示す本発明の電解条件で処理を行ったNo.1〜10のサンプルは、いずれも請求項1に示した(1)式および(2)式の関係を満たす半球状に近い形状のピットを鋼板表面に隙間なく形成しており、その結果、加工部においてもセラミックス塗膜との密着性が良好であった。交番電源波形は、矩形波,台形波,正弦波(交流波)等の各種交番波形が利用できることがわかる。
【0030】
これに対し、表2および表3に示すように、本発明の規定範囲を外れる条件で電解処理を行ったサンプルでは、加工部においてセラミックス塗膜との密着性が不十分であった。なお、これらのうち、No.16のサンプルはピット開口部の平均径が1μm未満のもの、No.15のサンプルはピット開口部の平均径が5μmを超えるもの、No.11,14のサンプルはピット開口部の平均径D(μm)とピットの平均深さH(μm)の関係がH<D/3となったもの、No.12,13,17のサンプルは鋼板表面に未電解部分が残り、隙間なくピットを形成させることができなかったものである。
【0031】
(実施例5)
次に、板厚0.6mmのSUS321のNo.4仕上げ材に通常の電解脱脂・酸洗を施した材料について、液温が70℃,Fe3+を75g/L含む塩化第二鉄水溶液を用いて、アノード電流密度を5.0kA/m2,カソード電流密度を1.5kA/m2,交番電解サイクルを2.5Hzと一定にし、処理時間を変えた条件で電解処理を行い、得られたサンプルについてほうろう塗膜の密着性を調査した。その結果を表4に示す。使用したほうろう用フリットおよびほうろう塗膜の焼成方法は実施例2と同じである。塗膜密着性は、エリクセン押し込み高さを5mmとしたエリクセン押し込み試験を行って評価した。
さらに、比較のために、No.4仕上げ材,ダルロール圧延仕上げ材(2DR),サンドブラスト仕上げ材,ショットブラスト仕上げ材,液体ホーニング仕上げ材(いずれもSUS321)についても、それぞれ通常の電解脱脂・酸洗を施した後に同様にほうろう塗膜との密着性評価を試みた。その結果も表4中に併せて記載した。
【0032】
表4に示すように、本発明の条件で電解処理を施したNo.31〜35のサンプルの鋼板表面は、請求項1に示した(1)式および(2)式の関係を満たす半球状に近い形状のピットが隙間なく形成しており、いずれもほうろう塗膜残存率が80%以上と良好な密着性を示した。これに対し、No.36のSUS321のNo.4仕上げ材のサンプル、およびNo.37のダルロール圧延仕上げ材のサンプルでは、ほうろう塗膜の残存は認められなかった。また、No.38〜40のサンドブラスト仕上げ材および液体ホーニング仕上げ材では、鋼板の反りかえりが大きく、ほうろう用フリットを吹き付けるまでに至らなかった。
【0033】
(実施例6)
次に、板厚0.5mmのSUS304の2B仕上げ材に通常の電解脱脂・酸洗を施した後に本発明による電解処理を行ったサンプルと、2B仕上げ材に通常の電解脱脂・酸洗を施したままのサンプルを準備し、セラミックス塗装を施した後に耐食性試験を行った。使用したセラミックス塗料およびその塗装方法は実施例1と同じであるが、塗装前に加工は行っていない。耐食性試験片はいずれも7×15cmで、端面は露出したままとした。耐食性試験は、SST35℃×2h→温風乾燥60℃×4h→BBT50℃×2hを1サイクルとして、これを200サイクル実施した。
【0034】
上記耐食性試験の結果、2B仕上げ面に直接セラミックス塗料を塗布したサンプルでは、端面からの腐食が著しく激しい塗膜剥離が生じたが、本発明による粗面化処理を施した表面にセラミックス塗料を塗布したサンプルでは、塗膜の剥離が一切みられず、塗装後の耐食性向上にも十分効果があることが認められた。
【0035】
【発明の効果】
本発明により、無機系塗膜に対して特に加工部においても高い密着性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板を安定して供給することが可能となった。しかも本発明によれば、連続生産が可能な短い処理時間で、薄ゲージ材にも適用可能な方法で無機系塗膜との密着性の高いステンレス鋼板を製造することができる。したがって、本発明は、無機系塗膜特有の機能を要求される用途においても意匠性の高い塗装ステンレス鋼板の適用を可能とし、塗装ステンレス鋼板の普及に寄与するものである。
【0036】
【表1】
Figure 0003664537
【0037】
【表2】
Figure 0003664537
【0038】
【表3】
Figure 0003664537
【0039】
【表4】
Figure 0003664537

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のステンレス鋼板表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図。
【図2】本発明のステンレス鋼板断面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図。
【図3】塩化第二鉄水溶液中での交番電解によるステンレス鋼板表面のピット形成過程を示す模式図。
【図4】表面に球面状ピットを隙間なく形成したステンレス鋼板について、セラミックス塗膜の密着性に及ぼす球面状ピット開口部の平均径の影響を表すグラフ。
【図5】表面に球面状ピットを隙間なく形成したステンレス鋼板について、ほうろう塗膜の密着性に及ぼす球面状ピット開口部の平均径の影響を表すグラフ。
【図6】種々のステンレス鋼についての、交番電解液として使用する塩化第二鉄水溶液の温度と濃度の適正範囲を表すグラフ。

Claims (2)

  1. Fe 3+ を30〜120g/L含む塩化第二鉄水溶液中で、アノード電解時の電流密度を1 . 0〜10 . 0kA/m 2 、カソード電解時の電流密度を0 . 5〜3 . 0kA/m 2 とした1〜10Hzの交番電解をステンレス鋼板に10〜120秒間施すことにより製造される鋼板であって、鋼板表面に球面状のピットが隙間なく形成しており、これらピットの開口部の平均径D(μm)とピットの平均深さH(μm)が、下記(1)式および(2)式の関係を満足している無機系塗膜との密着性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板。
    1≦D≦5 -----(1)
    D/3≦H≦D/2 -----(2)
  2. Fe3+を30〜120g/L含む塩化第二鉄水溶液中で、アノード電解時の電流密度を1.0〜10.0kA/m2、カソード電解時の電流密度を0.5〜3.0kA/m2とした1〜10Hzの交番電解をステンレス鋼板に10〜120秒間施す、請求項1に記載の無機系塗膜との密着性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
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