JP3660310B2 - 加工葉の製造方法及び食品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、食品とともに供される加工された植物の葉の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
柏餅や桜餅、柿の葉寿司など、天然の葉であって、そのままの形態が維持された加工葉で被包された食品がある。これらの食品では、被包された葉が有する独特の香り、風味などが付与されて、豊かな食味を備える食品となっている。また、その外観により、季節感や風情といったデザインが付加される。
しかし、例えば、柏の葉等いわゆる灰汁の多い葉を用いる場合、葉に残留した灰汁が食品に移ってしまうことがある。寿司飯、餅類などの白色又は淡色の食品に灰汁が付着すると、茶色や褐色に変色した部分ができるため、外観を含む食品の品質が劣化することになる。
【0003】
一般的に、灰汁による品質の劣化に対しては、生葉に塩付けや煮沸などの灰汁抜き処理を繰り返し行うことで対応していた。しかしながら、灰汁を除去して、確実に食品の変色を防止することは非常に困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明では、簡易に灰汁の残留量を低減できる食用加工葉の製造方法を提供することを課題とする。
また、灰汁の残留量が低減された葉を含む食品の製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、灰汁の主要成分であるタンニンを分解する酵素で被加工葉を処理する工程を実施することにより、被加工葉の灰汁抜きと灰汁抜き後に処理葉に付着する灰汁の除去とを効率的に実施できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
(1)食用加工葉の製造方法であって、
加工しようとする葉を、タンニン分解酵素で処理する酵素処理工程を備える、方法。(本明細書において、「タンニン分解酵素による処理」を「酵素処理」、「タンニン分解酵素で処理する酵素処理工程」を「酵素処理工程」ともいう。)
(2)前記酵素処理工程後に、被加工葉にリン酸塩溶液を供給する工程を備える、(1)に記載の方法。
(3)被加工葉を煮沸する煮沸工程を有する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記煮沸工程を、前記酵素処理工程に先んじて実施する、(3)に記載の方法。
(5)前記煮沸工程を、前記酵素処理工程後に実施する、(3)に記載の方法。
(6)食用加工葉の製造方法であって、
被加工葉をタンニン分解酵素で処理する酵素処理工程と、
前記酵素処理工程後の被加工葉を煮沸する煮沸工程と、
前記酵素処理工程後、煮沸工程を経た被加工葉をタンニン分解酵素で処理する酵素処理工程、
とを備える、方法。
(7)前記食用加工葉は、カシワの葉、サクラの葉、サンキラの葉、カキの葉およびササの葉のいずれかである、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
これらの方法によれば、葉から出る灰汁の主要成分の1つであるタンニンが酵素によって分解されるため、加工葉のタンニン含有量が有効に低減される。したがって、加工葉に接触した食品部分に茶色、褐色等の変色部分が発生することが低減される。
【0006】
また、
(8)葉を一部に有する食品の製造方法であって、
タンニン分解酵素で処理された葉を食品材料に複合化する工程、
を備える方法、及び
(9)前記複合化工程は、前記処理後の葉で食品材料を被包する工程である、(8)記載の方法を提供する。
これらの製造方法によれば、タンニン分解酵素で処理された葉は、灰汁の主要成分であるタンニンが分解されて、低減されているため、葉が複合化された又は葉に被包された食品材料中に存在するタンニンの量が良好に低減される。このため、食品の褐色等への変色による見栄えの低下、品質の低下を良好に抑制して食品を製造することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の食用加工葉の製造方法は、被加工葉をタンニンを分解する酵素で処理する工程を備えることを特徴とする。
本製造方法を適用可能な葉は、食品に接触して用いられる種々の葉とすることができ、それ自体が食用であるか非食用であるかを問わない。また、食品材料に対する複合化形態も、食品材料を被包する形態、食品材料中に内在あるいは介装される形態など特に限定しない。特に、いわゆる灰汁を多く含有する葉に好適である。具体的には、例えば、柏、笹、桜、サンキラ、柿等の葉に好ましく適用でき、より好ましくは、柏の葉、柿の葉、桜の葉に適する。また、香り、風味などを付与したり、食用とされたりする上述の葉に限定されず、季節感等の風情を出すために食品とともに提供される他の種々の葉、例えば南天、菊などに適用しても良い。好ましくは、茶葉以外の葉に適用する。なお、本明細書中「加工葉」と言う言葉は、適宜、茎、ガクなど他の部分を含むことができる。
【0008】
(前処理)
本製造方法では、収穫された生の葉を、そのまま酵素処理工程に適用しても良いが、好ましくは、前処理を行う。前処理としては、例えば、流水又は貯留水による洗浄や、煮沸、蒸し煮などの水分存在下での加熱、塩漬け等を行うことができる。好ましくは、煮沸し、より好ましくは、煮沸と塩漬けとを組合わせる。
【0009】
煮沸工程では、葉を沸騰水中に浸漬させることにより、葉の灰汁成分が水分に溶出等して葉外に浸出される。温水中に浸出した灰汁成分は、固形物になると水面に浮くため、簡単に取り除くことができ、葉の表面に付着することを抑制できる。また、煮沸によって、葉の組織が柔軟になり、タンニンや水分の流通が容易となったり、酵素、あるいは塩、リン酸塩等が容易に浸透しやすくなる。
【0010】
なお、蒸し煮においても同様の作用、効果が得られる。蒸し煮においては、葉の表面に蒸気が付着して水となって流れ落ちるような条件にすると、灰汁成分を溶出等させ、且つ葉の表面への付着を抑制して灰汁を除去することができる。蒸し煮では、葉の形状を破壊するおそれが少ない。
【0011】
水分存在下での加熱工程は、洗浄工程等と組合わせて、2回以上行われても良い。2回以上加熱する場合、同様の形態で加熱しても良いし、異なる形態で加熱しても良い。例えば、蒸し、及び煮沸の順で行うことが好ましい。水分存在下での加熱と洗浄とを繰り返し行うことにより、より多くの灰汁成分を除去できる。
【0012】
塩漬け工程は、収穫後の生の葉について行っても良いが、好ましくは、水分存在下での加熱後に行う。塩漬けの形態は、特に限定されず、例えば、食塩を葉の表面に分散させて行っても良いし、食塩水、すなわち塩化ナトリウム水溶液に葉を浸漬させて行っても良い。好ましくは、塩化ナトリウム水溶液に葉を浸漬させると、均一な塩漬けが可能となる。塩漬け工程では、葉中の水分とともに灰汁成分などを浸出させたり、葉の組織を柔軟にしたりすることができる。また、葉中のクロロフィルに由来する緑色を安定化したり、灰汁成分の褐変を抑制したりすることができる。特に、水分存在下での加熱工程の後では、灰汁成分を浸出させやすい。水分存在下での加熱工程とその後の塩漬け工程との組み合わせによって灰汁成分を効率よく除去できる。
【0013】
また、塩漬け工程によって、葉の保存可能期間を延長することができる。例えば、所定の期間(季節)に摘み取られる葉を常時使用できるように保存したり、所定の期間(季節)のみに用いられる葉を使用時期まで保存したりすることができる。塩漬け状態で葉を保存する場合は、2回以上の塩漬け工程を行うことが好ましい。最初の塩漬け工程で葉から灰汁成分や他の成分を浸出させてから、葉を洗浄し、再度塩漬けして保存することが好ましい。
【0014】
本発明に係る食用加工葉の製造方法において、好ましい前処理工程の例としては、水分存在下で加熱して塩漬けする工程を2回繰り返し、適宜洗浄工程を組み入れる工程である。例えば、(1)生の葉を蒸し、(2)蒸した葉を塩漬けし、(3)洗浄後、煮沸し、(4)洗浄後、塩漬けして保存する工程を備えることが、灰汁抜きの点からも好ましい。
【0015】
(タンニン分解酵素で処理する工程)
本工程で用いられる酵素は、タンニンを分解可能な種々の酵素である。ここで、本明細書において「タンニン」とは、タンニン酸やクロロゲン酸など、デプシド結合を含有する種々の物質をいうものとする。したがって、タンニンを分解する酵素としては、例えば、タンナーゼやクロロゲン酸エステラーゼなどを用いることができる。
【0016】
葉を酵素で処理する方法は、公知の種々の形態を用いることができるが、酵素含有溶液に葉を浸漬する方法が好ましい。また、適宜攪拌等しても良い。酵素含有溶液に葉を浸漬することで、葉の表層側や浸漬時に内部から溶出されてくるタンニンが酵素によって分解される。酵素含有溶液は、葉の組織等を破壊しない範囲で、酵素の反応活性の高い条件に保持する。例えば、タンナーゼを用いる場合、pH4〜6.5、好ましくはpH5〜6に調整した溶液中に酵素を添加し、30〜40℃の温度で葉を処理することが好ましい。
【0017】
なお、酵素処理では、金属イオン(特に鉄イオン)が付着していると、酵素の反応が阻害されたり抑制されたりして、タンニンの分解が十分行われないことがある。このため、酵素処理工程の前に、塩漬け工程を行った場合は、葉を十分水洗いしておくことが好ましい。
酵素処理が完了した後は、葉を水で洗浄することにより、タンニン、タンニン分解成分や酵素を除去する。特に、タンニン分解成分は水溶性であるため、水による洗浄によって良好に除去することができる。
【0018】
なお、酵素処理工程は、2回以上行われても良い。この場合、1回の酵素処理ごとに、少なくとも水で葉を洗浄することが好ましい。
また、酵素処理工程と、水分存在下で加熱する工程とを組合わせて行うことにより、効果的にタンニンを除去することができる。例えば、酵素処理工程後、葉を煮沸することによって、葉中に残留するタンニンやタンニン分解成分が葉外に浸出する。一方、煮沸工程後に酵素処理工程を行うことによって、煮沸によって葉から浸出して葉の表面に固形化して付着したタンニンを分解して水溶化し、除去することができる。したがって、酵素処理工程と煮沸工程とを交互に行うことが好ましく、酵素処理工程と煮沸工程とを繰り返し行うことが好ましい。例えば、被加工葉をタンニン分解酵素で処理した後、被加工葉を煮沸し、さらにタンニン分解酵素で処理すると、より少ない工程で効率よくタンニンを除去することができ、好ましい。
【0019】
(リン酸塩処理工程)
本加工葉の製造方法では、好ましくは、酵素処理工程の後に、リン酸塩で処理する。リン酸塩、好ましくはリン酸塩水溶液で処理すると、葉の灰汁及び酵素によって分解されたタンニン分解成分が水分とともに葉の外部へ浸出する。特に、葉の葉脈に存在する灰汁及び灰汁の分解成分を良好に除去することができる。また、葉の表面に付着した灰汁成分を葉から分離することができる。
リン酸塩としては、種々のリン酸塩を用いることができ、人体に有害でないものが好ましい。そして、環状又は鎖状に複数のリン酸イオン(P2O5)が結合された高分子縮合リン酸より成るメタリン酸塩を用いることが好ましい。また、ナトリウム塩であることが好ましく、Na2OとP2O5を主成分とするメタリン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0020】
リン酸塩処理は、酵素処理の後、任意の時期に行うことができる。例えば、塩漬け工程の前後や、水分存在下での加熱工程の前後で行うことができる。また、塩漬け工程用の塩化ナトリウム水溶液中にリン酸塩を添加して塩漬け工程と同時にリン酸塩処理工程を行うこともでき、工程数を低減してリン酸塩処理することもできる。
【0021】
(最終の塩漬け工程)
上記種々の工程によって処理された葉は、その後、塩漬けすることが好ましい。塩漬けによって、腐敗し難く、長期の保存が可能な加工葉を得ることができる。塩漬け工程は、固体の食塩を葉に均一に分散させることによって行っても良いし、食塩水中に葉を浸漬させることによって行っても良い。最終の塩漬け工程では、適度に脱水する。脱水の程度は、適宜選択すれば良く、漬物のように濡れた状態としても良いし、略乾燥した状態としても良い。
【0022】
塩漬けされた加工葉は、そのまま保存又は使用することができる。長期間にわたって保存したい場合は、さらに熱殺菌や、真空パックなどの保存用の処理を行うことができる。また、食用の葉の場合は、適宜、塩漬けのときの塩分を除去、すなわち塩抜きして、食酢や他の調味料、又は着色料、保存料等の食品添加物を添加したりすることができる。また、加熱、乾燥等の調理をしても良い。
なお、着色料や保存料など食品添加物の添加は、本製造方法の適当な段階で行うことができる。例えば、着色料の添加は、酵素処理工程の後又は複数の酵素処理工程の途中で行っても良い。
【0023】
この製造方法により製造された加工葉では、酵素処理によってタンニンが分解されるため、葉に含まれる灰汁成分が良好に低減されている。このため、食品、特に淡色の食品に接触されて使用されても、葉から浸出する灰汁成分の量が少なく、食品の茶色や褐色の変色部分の発生が良好に抑制されている。また、例えば餅類など粘性の高い食品を被包した後でも、従来と同様に葉を剥離することができる。食品側へ移行する灰汁成分が低減されていることによって、長期間食品と加工葉とが接触されても、食品と加工葉との間のなじみが小さくなることが予想され、より小さい力で剥離させられることが期待できる。
また、リン酸で処理することによって、葉の金属イオンが封鎖されて、灰汁成分と金属イオンとが結合して変色することが抑制されている。このため、加工葉自体、及び加工葉に接する食品の変色がより良好に抑制される。
また、酵素を用いているため、灰汁の除去処理によって葉部組織が破壊されることが抑制されている。したがって、酵素処理をしない場合と比較しても、葉の強度の低下が回避されている。このため、葉の形態が維持されており、他の食品を被包することができる。
【0024】
また、本製造方法では、酵素によってタンニンを除去するため、冷水や温水を用いて灰汁成分を浸出させて除去していた場合と比較して製造で必要とされる水の量を低減することができる。
【0025】
(食品の製造)
タンニン分解酵素で処理された加工葉は、塩漬け等されている場合は、必要に応じて塩抜きや、調味などの処理、加工を施した後、食品材料に複合化することができる。食品材料への複合化は、典型的には、調理後又は調理前の食品材料の表面に接触させる形態である。具体的には、食品材料で被包したり、所定の大きさに細分して他の食品材料に混合したりすることができる。好ましくは、葉の形状を維持させて、食品材料の一部又は全部を被包する形態とされる。また、本発明に係る食品の製造方法では、柏餅、桜餅、柿の葉寿司、松前寿司などのように、食品と複合化した後、特に調理しないことが好ましいが、例えば、ちまき、おこわなどのように、ささなどの加工葉で被包した後で蒸すなど、加熱処理、調味処理、発酵処理など種々の調理を行っても良い。あるいは、食品の保存のために、冷蔵、冷凍したり、真空密閉処理などをしても良い。
このようにして製造された食品では、タンニン分解酵素で処理した加工葉において得られる効果と併せて、加工葉によって葉独特の香りや風味、あるいは外観の付与が成されている。
【0026】
なお、本発明者らが、本発明のタンニン分解酵素処理した柏葉と、タンニン分解酵素処理を施していない従来の柏もち用の柏葉とを、同じ条件で製造した柏もちに対して巻いて、柏もちのもち表面に対する灰汁の付着状態を比較したところ、明らかに本発明のタンニン分解処理をした柏葉を巻いた柏もち表面に付着した灰汁の量が、従来の柏葉を巻いた柏もちのそれよりも少ないことを確認することができた。
【0027】
【発明の効果】
本発明では、簡易に灰汁の残留量を低減できる食用加工葉の製造方法を提供することができる。
また、灰汁の残留量が低減された葉を含む食品の製造方法を提供することができる。
Claims (9)
- 食用加工葉の製造方法であって、
加工しようとする葉を、タンニン分解酵素で処理する酵素処理工程を備える、方法。 - 前記酵素処理工程後に、被加工葉にリン酸塩溶液を供給する工程を備える、請求項1に記載の方法。
- 被加工葉を煮沸する煮沸工程を有する、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記煮沸工程を、前記酵素処理工程に先んじて実施する、請求項3に記載の方法。
- 前記煮沸工程を、前記酵素処理工程後に実施する、請求項3に記載の方法。
- 食用加工葉の製造方法であって、
被加工葉をタンニン分解酵素で処理する酵素処理工程と、
前記酵素処理工程後の被加工葉を煮沸する煮沸工程と、
前記酵素処理工程後、煮沸工程を経た被加工葉をタンニン分解酵素で処理する酵素処理工程、
とを備える、方法。 - 前記食用加工葉は、カシワ、サクラ、サンキラ、カキおよびササのいずれかである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 葉を一部に有する食品の製造方法であって、
タンニン分解酵素で処理された葉を食品材料に複合化する工程、
を備える、食品製造方法。 - 前記複合化工程は、前記処理後の葉で食品材料を被包する工程である、請求項8に記載の食品製造方法。
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