JP3657572B2 - 高吸湿・吸水性ポリビニルアルコール系重合体繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融紡糸法によって得られる、高い水膨潤性を有し、耐酸性に優れた高吸湿・高吸水性ポリビニルアルコール系重合体繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルやポリアミド等の合成繊維は、その優れた物理的および化学的特性によって、衣料用のみならず産業用にも広く使用されており、工業的に重要な価値を有している。しかしながら、これらの合成繊維は吸湿性や吸水性が低いため、肌着、中衣、シーツ、タオル等の吸湿性や吸水性が要求される用途への使用が制限されてきた。
【0003】
合成繊維に吸湿性や吸水性を付与する方法としては、例えばポリエステル繊維を親水性の処理剤で後処理する方法、ポリエステル繊維の表面や内部を多孔化して吸湿性や吸水性を付与する方法等が提案されている。しかしながら、これらの方法によっては合成繊維の吸湿性や吸水性が充分に改善されず、しかも後処理で親水性を付与した繊維にあっては繰り返し洗濯によってその付与された吸湿性および吸水能が低下するという欠点があった。そのような欠点を改善する方法として、近年、ポリエステル繊維にアクリル酸やメタクリル酸等のモノマーをグラフト重合させることが提案されているが、未だ充分実用化レベルには達していない。これは主にポリエステルが剛直な構造を有し、反応性の官能基を有しておらず疎水性であるために上記モノマーのグラフト重合が行われにくく、強制的にグラフト重合させると風合が硬くなり、しかも繊維の強度が低下することによる。
【0004】
一方、親水性に優れる繊維として、湿式、乾式、あるいは乾湿式紡糸法等により製造されるポリビニルアルコール系繊維が公知であるが、従来のポリビニルアルコール系繊維は、延伸により配向結晶化が進行していたり、耐熱性を改善するためにホルマール化処理をしているためるため、吸水性が充分に発現されないという課題を有しており、さらに、かかる課題を解決するために、低延伸糸に温和な条件で架橋処理する方法も提案されている(特開平7-189023号公報)。しかしながら、それでも得られる吸液率は高々130%程度であり、しかも、湿式紡糸法により製造する場合は、紡糸工程で使用される各種溶剤の回収のための設備が必要であること、溶融紡糸法に比べて高速紡糸が困難であること、繊維断面を異形度の大きい複雑な異形断面にすることが困難であるなどの制約が多いことは否めなかった。さらに、ホルマール化処理された吸水性繊維は、耐酸性がなく実用上制約があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記のような従来の問題点を解決し、水で湿潤した場合に高い膨潤性を示す高吸湿性で且つ耐酸性に優れた高吸水性のポリビニルアルコール系重合体繊維を溶融紡糸法で提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール系重合体(以下、単にPVAと略称することもある)であって、かつアルカリ金属イオンが当量のナトリウムに換算した値で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)と、ポリアミド系樹脂(B)とを溶融混練して得られる混合物からなる繊維であって、該混合物は60℃のDMSOに対し不溶解性の成分を5〜75質量%含有していることを特徴とする繊維である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において使用される水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)(以下、単にPVAと略称することもある。)は、ホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含するものである。
【0008】
本発明において、PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記することもある)は200〜500であり、230〜470が好ましく、250〜450が特に好ましい。重合度が200未満の場合には溶融紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化できない。重合度が500を越えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルからポリマーを吐出することができない。
【0009】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)
重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
【0010】
本発明のPVAの鹸化度は90〜99.99モル%でなければならない。93〜99.98モル%が好ましく、94〜99.97モル%がより好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。鹸化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を行うことができない。一方、鹸化度が99.99モル%より大きいPVAは安定に製造することができず、安定した繊維化もできない。
【0011】
本発明において、PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基とは、PVAのd6−DMSO溶液での500MHzプロトンNMR(JEOLGX−500)装置、65℃測定による水酸基プロトンのトライアッドのタクティシティを反映するピーク(I)を意味する。ピーク(I)はPVAの水酸基のトライアッド表示のアイソタクティシティ連鎖(4.54ppm)、ヘテロタクティシティ連鎖(4.36ppm)およびシンジオタクティシティ連鎖(4.13ppm)の和で表わされ、全てのビニルアルコールユニットにおける水酸基のピーク(II)はケミカルシフト4.05ppm〜4.70ppmの領域に現れることから、本発明のビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表わされるものである。
【0012】
本発明においては、水酸基3連鎖の中心水酸基の量を制御することで、PVAの吸水性、吸湿性など水に関わる諸物性、強度、伸度、弾性率など繊維に関わる諸物性、融点、溶融粘度など溶融紡糸性に関わる諸物性をコントロールできる。これはトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基は結晶性に富み、PVAの特長を発現させるためと思われる。
【0013】
本発明の繊維におけるPVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量は70〜99.9モル%であり、72〜99モル%が好ましく、74〜97モル%がより好ましく、75〜96モル%がさらに好ましく、76〜95モル%が特に好ましい。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が70モル%未満である場合には、ポリマーの結晶性が低下し、繊維強度が低くなると同時に、溶融紡糸時に繊維が膠着して巻取り後に巻き出しできない場合がある。また本発明で目的とする繊維が得られない場合がある。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が99.9モル%より大の場合には、ポリマーの融点が高いため溶融紡糸温度を高くする必要があり、その結果、溶融紡糸時のポリマーの熱安定性が悪く、分解、ゲル化、ポリマーの着色が起こる。
【0014】
また、本発明で使用されるPVAがエチレン変性PVAである場合、下記式を満足することで本発明の効果はさらに高くなるものである。
−1.5×Et+100≧モル分率≧−Et+85
ここで、モル分率(単位:モル%)はビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率を表し、Etはビニルアルコール系共重合体が含有するエチレン含量(単位:モル%)を表す。
【0015】
本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は160〜230℃であり、170〜227℃が好ましく、175〜224℃がより好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し繊維強度が低くなると同時に、PVAの熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を越えると溶融紡糸温度が高くなり紡糸温度とPVAの分解温度が近づくために目的とする繊維を安定に製造することができない。
【0016】
なお、PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0017】
本発明に用いられるPVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0018】
本発明の繊維を構成するPVAは、ポリビニルアルコールのホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PVAであつてもよいが、溶融紡糸性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキサン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iプロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アクリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、通常20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0019】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0020】
特に、共重合性、溶融紡糸性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変性PVAを使用することが好ましい。
【0021】
本発明で使用されるPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0022】
本発明の繊維におけるPVA中のアルカリ金属イオンの含有割合は、PVA100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部であり、0.0003〜0.8質量部が好ましく、0.0005〜0.6質量部がより好ましく、0.0005〜0.5質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.0003質量部未満の場合には、得られた繊維が十分な水溶性を示さない場合がある。またアルカリ金属イオンの含有量が1質量部より多い場合には溶融紡糸時の分解及びゲル化が著しく繊維化することができない。アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等があげられる。
【0023】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオンをPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中において鹸化するに際し、鹸化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、鹸化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが後者のほうが好ましい。なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0024】
鹸化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。鹸化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。鹸化触媒は、鹸化反応の初期に一括添加しても良いし、鹸化反応の途中で追加添加しても良い。鹸化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどがあげられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エステル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。洗浄液の量としてはアルカリ金属イオンの含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。
【0025】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0026】
本発明に用いるPVA中には、ゲル化等の問題なく溶融紡糸するための可塑剤が含まれていることが好ましい。可塑剤としては、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル付加した化合物であり、PVA中に1〜30質量%含まれることが好ましい。
【0027】
また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用してもよい。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子が好ましく、紡糸性、延伸性が向上する。
【0028】
次に、本発明においては、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)にポリアミド系樹脂(B)を3〜45質量%の割合、好ましくは5〜40質量%の割合で溶融混練することによって該共重合体(A)とポリアミド系樹脂(B)との少なくとも一部を架橋結合させることが重要である。この架橋反応は、溶融混練時のみに止まらず繊維化した後の熱処理などによっても進行するものであるが、架橋反応は、主にポリアミドの末端カルボキシル基とPVAの−OHとの反応や、ポリアミドの末端アミノ基とPVAのカルボキシル基との反応等によるものと推定される。架橋の程度は、95℃の沸騰水中で膠着のない程度の耐熱性を有する必要があり、溶融混練時のポリアミド系樹脂(B)の分散状態によって、島表面と海成分の架橋反応の反応効率が影響され、ある範囲に分散していることが重要である。そして、本発明においては、溶融混練して得られる混合物には、60℃のDMSO中で2時間加熱攪拌した場合に、不溶解性の成分が5〜75質量%含まれていることが重要である。
60℃のDMSO処理によって、混合物中の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)は溶解し、ポリアミド系樹脂(B)とPVA(A)とが架橋反応して形成される樹脂成分および未反応のポリアミド系樹脂(B)の両者が不溶解性の成分として確認される。
本発明において、混合物中の不溶解性の成分の含有量が5質量%未満であると、高度な膨潤性が充分発現せず、洗濯、乾燥時に繊維間の膠着や過大収縮等を生じやすい。一方、75質量%を越えると繊維化工程性が低下し好ましくない。したがって、7〜50質量%の不溶解性の成分の含有量であることが好ましい。
【0029】
本発明で使用されるポリアミド系樹脂(B)の種類は特に限定されるものでないが、例えば、ポリカプロラミド(ナイロン6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン2,6)ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン2,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6,12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン8,6)、ポリデカノメチレンアジパミド(ナイロン10,6)、ポリドデカメチレンセバカミド(ナイロン10,8)、あるいは、カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジペート共重合体(ナイロン6/6,6)、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアミンアジペート共重合体(ナイロン12/6,6)、ヘキサメチレンジアミンアジペート/ヘキサメチレンジアミンセバケート共重合体(ナイロン6,6/6,10)、エチレンジアミンアジペート/ヘキサメチレンジアミンアジペート共重合体(ナイロン2,6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミンアジペート/ヘキサメチレンジアミンセバケート共重合体(ナイロン6,6/6,10)などが挙げられる。
なお、上記のナイロン表示中で「,」の前後の数値はポリアミドを構成するジカルボン酸成分とジアミン成分のそれぞれの炭素数を表すものであり、「/」は前後の数値で示されるポリアミド同士の共重合体を表すものである。
【0030】
これらのポリアミド系樹脂は、例えば、ナイロン6/12の縮重合時にポリエーテルジアミン類とジカルボン酸(ダイマー酸など)を添加して、高分子鎖中にポリエーテル結合を有するポリアミドとしてもよい。また、縮合時にヘキサメチレンジアミンやラウリルアミンのような脂肪族アミンやメタキシレンジアミンやメチルベンジルアミンのような芳香族アミンを添加して、ポリアミド中のカルボキシル末端基を減少させたものも好ましい。また、例えば、メタキシリレンジアミンと全量の80%以下のパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと、炭素数が6〜10個のα,ω−脂肪族ジカルボン酸とから生成された構成単位を分子鎖中に少なくとも70モル%含有するメタキシリレン基含有ポリアミドも有効である。
これらの重合体の例としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスペラミドなどのような単独重合体、およびメタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体、などのような共重合体、ならびにこれらの単独重合体または共重合体の成分とヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジンのような脂環式ジアミン、パラ−ビス−(2−アミノエチル)ベンゼンのような脂肪族ジアミン、テレフタル酸のような脂肪族ジカルボン酸、ε−カプロラクタムのようなラクタム、γ−アミノヘプタン酸のようなω−アミノカルボン酸、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等とを共重合した共重合体等が挙げられる。上記の共重合体において、パラキシリレンジアミンは全キシリレンジアミンに対して80%以下であり、好適には75%以下である。またキシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから生成された構成単位を分子鎖中において少なくとも70モル%以上、さらには75モル%以上有していることが好ましい。また、これらのポリマーには、たとえばナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,12等の重合体、帯電防止剤、滑剤、耐ブロッキング剤、安定剤、染料、顔料等を含有してもよい。
【0031】
さらに、非晶質ポリアミド、すなわち、DSC測定において、実質上吸熱結晶融解ピークを有さないもので、主として、脂肪族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸の重縮合体も用いられる。脂肪族ジアミンとしては、たとえばヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)−メタン、2,2−ビス−(4−アミノヘキシル)−イソプロピリジン、1,4−(1,3)−ジアミノシクロヘキサン、1,5−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノプロパン、および2−エチルジアミノブタンなどが挙げられる。これらのジアミンは、一種またはそれ以上を同時に用いることができる。なかでも、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタンメチレンジアミン、1,5−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノブタン、および1,3−ジアミノプロパンが好適に用いられる。
芳香族ジカルボン酸としては、たとえばイソフタール酸、テレフタール酸、アルキル置換イソフタール酸、アルキル置換テレフタール酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸は、一種またはそれ以上を同時に用いることができる。なかでも、イソフタール酸、テレフタール酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが熱成形性の面で好適である。そして、非晶質ポリアミドとしての例としては、ヘキサメチレンジアミン−イソフタール酸の重縮合体、ヘキサメチレンジアミン−イソフタール酸/テレフタール酸の重縮合体、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸の重縮合体などが挙げられる。なかでもイソフタール酸/テレフタール酸のモル比が60/40〜95/5、さらには、65/35〜90/10の範囲にあるヘキサメチレンジアミン−イソフタール酸/テレフタール酸の重縮合体が好適である。
【0032】
上記のポリアミド系樹脂は1種または2種以上用いられるが、上記樹脂のうち好適なポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン6/6,6、ナイロン6/12、メタキシリレンジアミン含有ポリアミド、非晶質ポリアミドなどである。ナイロン6/12における6成分と12成分の組成割合は特に制限はないが12成分が60モル%以下、より好ましくは50モル%以下が好ましい。
【0033】
さらに本発明の繊維においては、(A)成分中においては、不溶解性の成分が島形状となって分散し、その島の大きさが5nm〜1000nm、好ましくは10nm〜700nmであり、島数は10ケ/μm2以上であることが重要である。島の大きさが1000nmを超えると繊維化工程性が不安定となるため好ましくなく、5nm未満になると目的とする吸水性が得られにくい。島数が10ケ/μm2未満になった場合も吸水性が得られず不適当である。島数の上限値は特に限定されないが、多すぎる場合はゲル化に至り紡糸不可能となるので、好ましくは1000ケ/μm2以下、より好ましくは500ケ/μm2以下、特に好ましくは200ケ/μm2以下であることが望まれる。
【0034】
本発明の繊維を製造するには、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)とポリアミド系樹脂(B)をチップブレンド、あるいはチップフィーダーを用いて混合し、溶融混練効果の高いスクリュー構成にした二軸押出機で溶融押出し紡糸ヘッドに導入する。この時の押し出し条件としては、温度はPVA(A)とポリアミド系樹脂(B)の融点の高い側を基準にして融点からプラス10℃の範囲、滞留時間は2分から30分の範囲で設定する。
この場合、溶融紡出速度などは、溶融紡出速度(溶融紡出量)を約20〜50g/紡糸孔1mm2・分程度とすると、品質の良好な繊維を良好な紡糸工程性で得ることができるので好ましい。
【0035】
また、紡糸口金における紡糸孔の大きさや数、紡糸孔の形状などは、目的とする繊維の単繊維繊度、トータルデニール、断面形状などに応じて調節することができるが、紡糸孔(単孔)の大きさを約0.018〜0.07mm2程度にしておくのが望ましい。紡糸ヘッド温度条件によっては、紡糸口金の孔周囲にノズル汚れが堆積して糸切れが発生するので、ノズル孔出口がテーパー状に広がった形状にしたり、口金下の雰囲気をスチームシールして酸素を遮断する手法が好ましい。
【0036】
そして、上記によって溶融紡出した繊維を、一旦ガラス転移温度以下の温度、好ましくはガラス転移温度よりも10℃以上低い温度に冷却する。この場合の冷却方法や冷却装置としては、紡出した繊維をそのガラス転移温度以下に冷却できる方法や装置であればいずれでもよく特に制限されないが、紡糸口金の下に冷却風吹き付け筒などの冷却風吹き付け装置を設けておいて、紡出されてきた繊維に冷却風を吹き付けてガラス転移温度以下に冷却するようにすることが好ましい。
【0037】
その際に冷却風の温度や湿度、冷却風の吹き付け速度、紡出繊維に対する冷却風の吹き付け角度などの冷却条件は、口金から紡出されてきた繊維を、揺れなどを生じないようにしながら速やかに且つ均一にガラス転移温度以下にまでに冷却できる条件であればよい。そのうちでも、冷却風の温度を約20〜30℃、冷却風の湿度を20〜60%、冷却風の吹き付け速度を0.4〜1.0m/秒程度として、紡出繊維に対する冷却風の吹き付け方向を紡出方向に対して垂直にして紡出した繊維の冷却を行うのが、高品質の繊維を円滑に得ることができるので好ましい。また、冷却風吹き付け筒を用いて前記の条件下で冷却を行う場合は、紡糸口金の直下にやや間隔をあけてまたは間隔をあけないで、長さが約80〜160cm程度の冷却風吹き付け筒を配置するのが好ましい。また、引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、おおよそ500m/minから6000m/minの範囲で引き取れる。500m/min未満で紡糸できないことはないが、生産性の点からは意味が少ない。一方、6000m/minを越えるような高速では、繊維の断糸が起こりやすい。生産性及び生産コストの面、さらには、本発明のような溶融紡糸工程で架橋反応を生じるような繊維においては高速紡糸方式(延伸省略)、紡糸直結延伸方式で繊維化することが好ましい。
【0038】
このようにして得られる本発明の繊維は、優れた高吸水・高吸湿性を示し、JIS L 1096の吸水性試験法にしたがって測定した場合、150%以上の膨潤度を有するものである。かかる高吸水性は、従来の湿式紡糸法により製造されるポリビニルアルコール系繊維においても達成が困難であるか、仮に達成できるとしても耐酸性を有してなかった。(ポリビニルアルコールに特別な親水性基の導入が必要となり、)さらに湿式紡糸法が本来もっている繊維化工程の煩雑さは何ら解消されるものではない。
【0039】
また、本発明の繊維の単繊維繊度は特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、0.1〜50dtexのものを製造することができる。また、繊維の断面形状も丸断面以外の各種断面形状(例えば中空状、偏平状、楕円状、多角形状(3〜6角形など)3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン状(I字状)など)とすることができる。そして、かかる本発明の繊維は、例えば、衣料用途や非衣料用途など各種の用途に好適に使用することができるものである。
【0040】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法により測定されたものである。
【0041】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。変性量は変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から求めた。アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0042】
[PVAのトライアッド表示による3連鎖の水酸基の割合]
PVAを鹸化度99.5モル%以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAを用いて、d6−DMSOに溶解した後、500MHz プロトンNMR(JEOL GX−500)装置により65℃測定を行った。PVA中のビニルアルコールユニットの水酸基由来のピークはケミカルシフト4.05ppmから4.70ppmの領域に現れ、この積分値をビニルアルコールユニット量(II)とする。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基はそれぞれアイソタクティシティ連鎖の場合4.54ppm、ヘテロタクティシティ連鎖の場合4.36ppmおよびシンジオタクティシティ連鎖の場合は4.13ppmに現れる。この3者の積分値の和をトライアッド表示による水酸基3連鎖の中
心水酸基量(I)とする。本発明のPVAのビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表される。
【0043】
[融点]
PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度で表した。
【0044】
[繊維化工程性評価]
100kgの繊維を紡糸する際に何回断糸するかによって、次のように評価した。
○:3回以内/100kg
△:4回〜7回/100kg
×:8回以上/100kg
【0045】
[繊維強度]
JIS−L1013に準じて測定した。
【0046】
[島の分散状態、島の個数]
透過電子顕微鏡を用い観察した。
【0047】
[不溶解性成分の含有量]
繊維試料0.3gをDMSO溶媒50mlに入れ、60℃×2時間加熱溶解し、処理前後の試料質量より求めた値である。
【0048】
[吸湿率]
布帛を60℃で約7時間、0.1mmHgの減圧吸引下に乾燥した後、取り出してその質量(M1)(g)を測定した。その後、直ちにこの布帛を亜硝酸ナトリウムの飽和水溶液を下方に置いた温度20℃、湿度65%の雰囲気中に1週間放置して、その質量(M2)(g)を測定して、下記の式より吸湿率を求めた。
吸湿率(%)={(M2−M1)/M1}×100
【0049】
[吸水率]
JIS−L−1096法に準じて測定した。
【0050】
[耐酸性評価]
下記条件で酸処理後、熱水への溶解性を調査し評価した。
【0051】
実施例1
[エチレン変性PVAの製造]
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2(5.8×105Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4―ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cm2(5.8×105Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液200g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニルの酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加して鹸化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置して鹸化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾瀘別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVAを得た。
【0052】
得られたエチレン変性PVAの鹸化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOLGX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は10モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量および水酸基3連鎖の水酸基の含有量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、それぞれ1.50モル%および83%であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ206℃であった(表1)。
【0053】
次に得られたエチレン変性PVAにナイロン6を10質量%溶融混練し、口金温度230℃の条件で丸ノズルより吐出し、1000m/分の速度で紡糸を行い、該紡糸原糸をローラープレート方式(80℃で延伸倍率3.4)で延伸し、83デシテックス/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。繊維化工程性は紡糸、延伸性共に良好であった。
次いで得られたマルチフィラメントを用いて編物を作成し、吸湿性及び吸水性の評価を行った結果、吸湿率27% 吸水率300%の良好なものが得られた(表2)。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
実施例2〜5
表1に示すPVAを用いること以外は実施例1と同様の方法でマルチフィラメントを得、編物を作成し、繊維化工程性、吸湿性及び吸水性の評価を行った。その結果、紡糸性、延伸性は良好で問題なく吸湿性、吸水性も表2に見られるように良好であった。
【0057】
実施例6〜8
表1に示すようにPVAに溶融混練するポリアミド系樹脂(B)の種類及び添加量を変更すること以外は実施例1と同様の方法でマルチフィラメントを得、編物を作成し、繊維化工程性、吸湿性及び吸水性の評価を行った。その結果、紡糸性、延伸性は良好で問題なく吸湿性、吸水性も表2に見られるように良好であった。
【0058】
比較例1〜4
表1に示すPVAを用いること以外は実施例1と同様の方法でマルチフィラメントの製造を試みた。しかしながら、比較例1はPVAの溶融粘度が高すぎて巻取り不可であった。比較例2はPVAの溶融粘度が低すぎて曳糸性不良となり、単糸切れが頻発した。比較例3はPVAが熱分解、ゲル化を起こして紡糸性が悪く巻き取れなかった。比較例4は、PVAの結晶性が低下しているためと推定される糸の膠着が起こり、解舒することが安定してできず、延伸性不良であった。そして、いずれの比較例においても繊維化が安定しないなどの理由で編物を作成するまでにいたらなかった。
【0059】
比較例5、6
PVAに溶融混練するポリアミド系樹脂(B)の種類と添加量を変更すること以外は実施例1と同様の方法でマルチフィラメントを得、編物を作成し、繊維化工程性、吸湿性及び吸水性の評価を行った。比較例5はポリアミド系樹脂の添加量が少ないため、本発明の目的の性能が得られなかった。比較例6はポリアミド系樹脂の添加量が多いために、長時間紡糸においてゲル化の問題が生じた。
Claims (5)
- 粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール系重合体であって、かつアルカリ金属イオンが当量のナトリウムに換算した値で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)と、ポリアミド系樹脂(B)とを溶融混練して得られる混合物からなる繊維であって、該混合物は60℃のDMSOに対し不溶解性の成分を5〜75質量%含有していることを特徴とする繊維。
- ポリビニルアルコール系重合体(A)がエチレン単位を4〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1記載の繊維。
- ポリアミド系樹脂(B)が、ナイロン6/6,6、ナイロン6/12及びナイロン6からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリアミド系樹脂である請求項1または2に記載の繊維。
- 不溶解性の成分がポリビニルアルコール系重合体(A)成分中に島状に分散し、該島の大きさが5nm〜1000nmであり、島の数は繊維断面でみて10ケ/μm2以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維。
- 吸水率が繊維自重の150%以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維。
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