JP4156157B2 - 水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール繊維とその溶融紡糸法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略称することもある)系水溶性繊維としては、1)原液溶媒と固化浴のいずれもが水系である湿式・乾湿式紡糸法による繊維、2)原液溶媒が水系である乾式紡糸法による繊維、3)原液溶媒と固化浴のいずれもが非水溶媒系の湿式・乾湿式紡糸(ゲル紡糸)法による繊維が知られている。
【0003】
これらのPVA系水溶性繊維は、ステープルまたはショートカット繊維として乾式不織布や紡績糸、製紙分野などで用いられたり、マルチフィラメントとして織物や編物に用いられている。特に80℃〜90℃の熱水に可溶のショートカット繊維は繊維状バインダーとして製紙工業において重要な位置を占め、マルチフィラメントもケミカルレースの基布として多く用いられている。また近年の環境問題において、環境にやさしい生分解性繊維としても注目されている。
【0004】
しかしながら、一般的にこれらの紡糸方法では、例えば、500m/分を超える高速紡糸が困難であること、繊維断面を異形度の大きい複雑な異形断面にすることが困難であること、紡糸工程で使用される各種溶剤の回収のための設備が必要であることなどの点において、溶融紡糸法に比較すると種々の制限を受け、特別な配慮が必要であることは否めなかった。
さらにまた、一般的に紡糸ノズルから吐出された紡出物に含まれる溶媒を除去して繊維とする紡糸技術においては、得られる繊維表面を2000倍以上に拡大観察すると、繊維表面に繊維軸方向にたて筋等の微細凹凸が確認されるが、かかる微細凹凸が繊維化以降の工程におけるガイド等での擦れによりフィブリル化を誘発し、製品の外観不良や断糸の要因の一つとなっていた。
【0005】
PVAを溶融紡糸法で繊維化した例としては、例えば、少量のオレフィンを共重合したPVAと疎水性高分子物質とを、前者が鞘成分、後者が芯成分となるようにして複合溶融紡糸し、得られた芯鞘型複合繊維から織物を作成し、次いで複合繊維中の共重合PVA成分を水溶液で溶解除去することにより、クレープ調織物を製造することが特開昭50−152062号公報に提案されており、また、特開昭50−152063号公報においては、PVAと可塑剤との混合物を鞘成分とし、疎水性高分子物質を芯成分とする芯鞘型複合繊維を用いて織物を作成し、次いで鞘成分を水溶液で溶解除去することによりクレープ調織物を製造する技術が提案されている。
【0006】
上記の従来技術のように、水溶性のPVAを一成分とする複合紡糸繊維を用いて織編物などの布帛を製造する場合は、PVA除去後に複合繊維の芯成分が布帛の形態を保持することとなるが、水溶性繊維の用途には、ケミカルレースや中空紡績糸の製造技術のように、繊維が完全に除去されることが要求される場合も多く、そのような場合は、複合繊維ではなく水溶性PVA単独で構成される繊維が要求される。
複合紡糸の場合は、水溶性PVAとして繊維形成性がないようなものであっても、該PVAと組合せられるもう一方の重合体が繊維形成性を有していれば繊維化が可能であるが、単独繊維を製造する場合は、PVA自体が充分な繊維形成性を有していなければならず、単独紡糸するためには、一からの重合体設計及び紡糸条件の設定が必要となり、複合紡糸技術の延長として単独紡糸を考えることは困難である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述した従来の水溶性PVA繊維が有する課題を解決するものであり、湿式法、乾湿式法、乾式法、溶剤紡糸法における生産性の限界、繊維断面形状の制限、回収設備の設置を伴わず、水溶性のポリビニルアルコール繊維を溶融紡糸法で安定して提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されていることを特徴とする水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維であり、また、本発明は、粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点Tmが160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)であって、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されているポリビニルアルコールを、口金温度がTm〜Tm+80℃、せん断速度(γ)が1,000〜25,000sec-1、ドラフトが10〜500の条件で溶融紡糸することを特徴とする水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のポリビニルアルコール繊維におけるポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコールのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含するものである。
本発明に用いられるPVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500であり、230〜470が好ましく、250〜450が特に好ましい。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化できない。重合度が500を越えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルからポリマーを吐出することができない。また重合度500以下のいわゆる低重合度のPVAを用いることにより、水溶液で繊維を溶解するときに溶解速度が速くなるばかりでなく繊維が溶解する時の収縮率を小さくすることができる。
【0010】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)
重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
【0011】
本発明のPVAの鹸化度は90〜99.99モル%でなければならない。93〜99.98モル%が好ましく、94〜99.97モル%がより好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。鹸化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を行うことができないのみならず、後述する共重合モノマーの種類によってはPVAの水溶性が低下し、本発明の水溶性繊維を得ることができない場合がある。
一方、鹸化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することができず、安定した繊維化もできない。
【0012】
本発明において、トライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基とは、PVAのd6−DMSO溶液での500 MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置、65℃測定による水酸基プロトンのトライアッドのタクティシティを反映するピーク(I)を意味する。
ピーク(I)はPVAの水酸基のトライアッド表示のアイソタクティシティ連鎖(4.54ppm)、ヘテロタクティシティ連鎖(4.36ppm)およびシンジオタクティシティ連鎖(4.13ppm)の和で表わされ、全てのビニルアルコールユニットにおける水酸基のピーク(II)はケミカルシフト4.05ppm〜4.70ppmの領域に現れることから、本発明のビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表されるものである。
【0013】
本発明においては、水酸基3連鎖の中心水酸基の量を制御することで、PVAの水溶性、吸湿性など水に関わる諸物性、強度、伸度、弾性率など繊維に関わる諸物性、融点、溶融粘度など溶融紡糸性に関わる諸物性をコントロールできる。これはトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基は結晶性に富み、PVAの特長を発現させるためと思われる。
【0014】
本発明の繊維におけるPVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量は70〜99.9モル%であり、72〜99モル%が好ましく、74〜97モル%がより好ましく、75〜96モル%がさらに好ましく、76〜95モル%が特に好ましい。
PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が70モル%未満である場合には、ポリマーの結晶性が低下し、繊維強度が低くなると同時に、溶融紡糸時に繊維が膠着して巻取り後に巻き出しできない場合がある。また本発明で目的とする水溶性の熱可塑性繊維が得られない場合がある。
PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が99.9モル%より大の場合には、ポリマーの融点が高いため溶融紡糸温度を高くする必要があり、その結果、溶融紡糸時のポリマーの熱安定性が悪く、分解、ゲル化、ポリマーの着色が起こる。
【0015】
また、本発明のPVAがエチレン変性のPVAである場合、下記式を満足することで本発明の効果は更に高くなるものである。
-1.5×Et+100≧モル分率≧-Et+85
ここで、モル分率(単位:モル%)はビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率を表し、Etはビニルアルコール系重合体が含有するエチレン含量(単位:モル%)を表す。
【0016】
本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は160〜230℃であり、170〜227℃が好ましく、175〜224℃がより好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し繊維強度が低くなると同時に、PVAの熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を越えると溶融紡糸温度が高くなり紡糸温度とPVAの分解温度が近づくためにPVA繊維を安定に製造することができない。
【0017】
PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0018】
PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
本発明のポリビニルアルコール繊維を構成する重合体は、ポリビニルアルコールのホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、通常20モル%以下である。
【0020】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0021】
特に、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、より好ましくは1〜20モル%、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。
さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変成PVAを使用することが好ましい。
【0022】
本発明で使用されるPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0023】
本発明の繊維におけるアルカリ金属イオン(B)の含有割合は、PVA(A)100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部であり、0.0003〜0.8質量部が好ましく、0.0005〜0.6質量部がより好ましく、0.0005〜0.5質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.0003質量部未満の場合には、得られた繊維が十分な水溶性を示さず未溶解物が残る場合がある。またアルカリ金属イオンの含有量が1質量部より多い場合には溶融紡糸時の分解及びゲル化が著しく繊維化することができない。
アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等があげられる。
【0024】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオン(B)をPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中において鹸化するに際し、鹸化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、鹸化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが後者のほうが好ましい。
なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0025】
鹸化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。鹸化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。鹸化触媒は、鹸化反応の初期に一括添加しても良いし、鹸化反応の途中で追加添加しても良い。
鹸化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどがあげられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオン(B)の含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。
【0026】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0027】
また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子が好ましく、紡糸性、延伸性が向上する。
【0028】
本発明のポリビニルアルコールからなる繊維の製造においては、公知の溶融紡糸装置を用いることができる。すなわち、溶融押出機でPVAのペレットを溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、紡糸ノズルから吐出させた糸条を巻き取ることで得られる。
【0029】
但し、本発明においては繊維化条件として、紡糸口金温度がTm〜Tm+80℃で、せん断速度(γ)1,000〜25,000sec-1、ドラフトV10〜500で紡糸することが重要である。
【0030】
本発明におけるPVAの融点Tmとは、示差走査熱量計(DSC:例えばMettler社TA3000)で観察される主吸熱ピークのピーク温度である。せん断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔あたりのポリマー吐出量をQ(cm3/sec)とするときγ=4Q/πr3で計算される。またドラフトVは、引取速度をA(m/分)とするときV=A・πr2/Qで計算される。
【0031】
本発明の繊維を製造するに際して、紡糸口金温度がPVAの融点Tmより低い温度では該PVAが溶融しないために紡糸できない。またTm+80℃を越えるとPVAが熱分解しやすくなるために紡糸性が低下する。また、せん断速度は1,000sec-1よりも低いと断糸しやすく、25,000sec-1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは10より低いと繊度むらが大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが500より高くなると断糸しやすくなる。
【0032】
紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸される。延伸は破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率でガラス転移点(Tg)以上の温度で延伸される。
延伸倍率がHDmax×0.55未満では十分な強度を有する繊維が安定して得られず、HDmax×0.9を越えると断糸しやすくなる。延伸は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、延伸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸は通常熱延伸され、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。
【0033】
延伸する場合の延伸温度は、未延伸糸の結晶化部分が少ない場合には、Tgを延伸温度の目安とするが、本発明に用いるポリビニルアルコールは結晶化速度が速いため未延伸糸の結晶化がかなり進み、Tg前後では結晶部分の可塑変形が生じにくい。このため熱ローラー延伸などの接触加熱延伸をする場合でも比較的高い温度(70〜120℃程度)を目安に延伸する。また、加熱チューブなどの非接触タイプのヒーターを使用して加熱延伸する場合は、さらに高温で150〜200℃程度の温度条件とすることが好ましい。
ガラス転移点以上の延伸温度で破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率の範囲を外れた条件で延伸処理を行うと、得られる繊維表面に繊維軸方向に沿ってたて筋状の溝が形成され、繊維化以降の工程のガイド等での擦れや製編織工程で糸条に働く擦過力により、繊維に形成された溝からフィブリル化が発生し、スカムになって織編物中に入り込んで欠点になったり、工程中で断糸が生じるので好ましくない。本発明では、上記のような条件を採用することにより、繊維表面に繊維軸方向に伸びる長さ0.5μm以上の溝が実質的に存在しないポリビニルアルコール繊維が得られ、繊維化工程以降においてもフィブリル化や断糸が発生しないという特徴を有している。一方、従来の湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、ゲル紡糸法などで製造されたPVA繊維は、繊維表面の全面に繊維軸方向に伸びる溝が多数形成され、これらの手法で長さ0.5μm以上の溝をなくすことは極めて困難である。
【0034】
なお、本発明での溝は、繊維軸方向にほぼ沿った方向に、長さが0.5μm以上の細長い溝状の凹部を指し、繊維表面を走査電子顕微鏡で2000倍〜20000倍に拡大することで観察される凹凸構造を指すものであり、上記のように従来公知の湿式紡糸、乾湿式紡糸、乾式紡糸、ゲル紡糸などの紡糸技術にとっては、殆ど回避不能のものであり、溶融紡糸法であっても、延伸倍率を高くするなど繊維の配向を大きくするような条件下で形成されやすいものである。
【0035】
また、本発明の繊維断面形状は特に限定されず、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸と異なり、通常の溶融紡糸の手法を用いてノズルの形状により真円状にも中空にも異型断面にもできる。繊維化や製織化での工程通過性の点からは真円が好ましい。
【0036】
紡糸された繊維には、通常油剤が付与されるが、本発明の繊維は水溶性であり、吸湿性も高い繊維であるので、水を含まないストレート油剤を付与することが好ましい。
油剤成分は水を含まない静電剤成分と平滑剤成分とからなるが、たとえば、ポリオキシエチレンラウリルホスフェートジエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンセチルホスフェートジエタノールアミン塩、アルキルイミダゾリウムエトサルフェート、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルカチオン化物、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸グリセライド、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリエチレングリコールステアレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル、ポリオキシエチレンカスターワックス、プロピレンオキサイド/エチレンオキサイド(PO/EO)ランダムエーテル、PO/EOブロックエーテル、PO/EO変性シリコーン、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、高分子アマイド、ブチルセロソルブ、鉱物油、中性油から選んで配合したものを用いることが出来る。
油剤を付与する方法は、通常行われているローラータッチ、烏口による方法でよい。
【0037】
また、引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、大凡500m/分〜7000m/分の範囲で引き取られ、従来の湿式、乾湿式、乾式紡糸法などで採用されている紡糸速度に比べて極めて高速での繊維化が可能である。500m/分未満で紡糸できないことはないが、生産性の点からは意味が少ない。一方、7000m/分を超えるような超高速では、繊維の断糸が起こりやすい。
【0038】
本発明の水溶性PVA繊維は、製造条件によって水溶解時の収縮挙動を制御することが可能であり、繊維が水溶解時に収縮しないか収縮量を小さく抑えようとする場合には、繊維に熱処理を施しておくことが望ましい。この熱処理は、延伸を伴う繊維化工程においては、延伸と同時に行なってもよいし、延伸と別個に行う熱処理であってもよい。
熱処理温度を高くすると水溶解時の最大収縮率を低くすることができるが、逆に繊維の水中溶断温度が高くなる傾向にあるので、用途に応じて水中溶断温度と溶解時の最大収縮率とのバランスを見ながら、熱処理条件を設定することが望ましく、大凡はPVAのガラス転移点〜(Tm−10)℃の範囲内で条件設定することが好ましい。
処理温度がTgより低い場合には十分に結晶化した繊維が得られず、布帛にして熱セットして用いる場合の収縮が大きくなったり、該繊維を熱水で溶解したときの最大収縮率が70%を越えたり、吸湿しやすくなるので保存中に繊維間が膠着することがある。また処理温度が(Tm-10)℃を越える場合には繊維が熱により膠着して好ましくない。
【0039】
熱処理は延伸後の繊維に収縮を加えて行ってもよい。繊維に収縮を加えると水中での溶断までの繊維の収縮率が小さくなる。加える収縮は0.01〜5%が好ましく、0.1〜4.5%がより好ましく、1〜4%が特に好ましい。加える収縮が0.01%以下の場合には水溶断時の最大収縮率を小さくする効果が実質的に得られず、加える収縮が5%を越える場合には収縮処理中に繊維がたるんで安定に収縮を加えることができない。
なお、本発明で用いられるPVAは水に溶解しやすいので、水分の影響の少ない熱風等による乾熱延伸することが好ましいが、やむを得ず、水浴延伸する場合は、40℃以下の水浴で延伸することが好ましい。
【0040】
水中での溶断温度および最大収縮率は、用途によって異なるが、低温で溶解し、しかも溶解するまでの収縮率は低いものが経済性および寸法安定性の面からは好ましい。溶断温度は、繊維に2.2mg/デシテックスの荷重をかけて、水中に吊るし、水温を上げていったときに繊維が溶断する温度であり、溶断するまでの最も高い収縮率を最大収縮率とする。
本発明において、「水溶性」であるということは、溶解までの時間の長短に拘わらず、上記の方法で測定した時に所定の温度で溶断することを意味する。そして、PVAの種類や繊維の製造条件を変更することにより、本発明では約10℃〜100℃の溶断温度を持つ水溶性繊維を得ることが可能であるが、低温で溶解するような繊維は吸湿しやすかったり、繊維強度が低かったりする場合があるので、取り扱い性、実用性及び水溶性のすべての特性のバランスをとるためには、40℃以上の溶断温度を有する繊維とすることが好ましい。
【0041】
溶解処理温度は水溶性繊維の溶断温度や用途に応じて適宜調整すればよいが、処理温度は高いほど処理時間が短くなる。熱水を用いて溶解する場合には、50℃以上で処理するのが好ましく、60℃以上がさらに好ましく、70℃以上が特に好ましく、80℃以上が最も好ましい。またPVAからなる溶融紡糸繊維の溶解処理は該繊維の分解を伴うものであってもよい。
なお、水溶液には、通常は軟水が用いられるがアルカリ水溶液、酸性水溶液等であってもよいし、界面活性剤や浸透剤を含んだものであってもよい。
【0042】
また、水中で溶断するまでの繊維の最大収縮率は70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、40%以下が特に好ましく、30%以下が最も好ましい。最大収縮率が大きすぎると、例えば、低収縮性の他の合成繊維と混用して布帛を作成した場合、水中で溶解する際にPVA繊維が激しく収縮し、布帛が引きつったり、皺になるなど製品形態が不良になりやすい。
【0043】
本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。該PVAは水溶液の状態で活性汚泥で連続処理すると2日〜1ヶ月でほぼ完全に分解される。生分解性の点から該繊維の鹸化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、93〜99.97モル%が特に好ましい。また該繊維の1,2−グリコール結合含有量は1.2〜2.0モル%が好ましく、1.25〜1.95モル%がより好ましく、1.3〜1.9モル%が特に好ましい。
PVAの1,2−グリコール結合量が1.2モル%未満の場合には、PVAの生分解性が悪くなるばかりでなく、溶融粘度が高すぎて紡糸性が悪くなる場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量が2.0モル%以上の場合にはPVAの熱安定性が悪くなり紡糸性が低下する場合がある。
PVAの1,2−グリコール結合含有量はNMRのピークから求めることができる。鹸化度99.9モル以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAをDMSO−D6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。
ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。ここでΔは変性量(モル%)を表す。
1,2-グリコール結合含有量(モル%)=100B/{100A/(100-Δ)}
【0044】
このような本発明のPVA繊維からは、製紙用バインダー繊維、不織布用バインダー繊維、乾式不織布用ステープル、紡績用ステープル、織物用マルチフィラメント、編み物用マルチフィラメント、セメント用配合材、ゴム用配合材、ケミカルレース基布、空羽織物、水溶性ロープ、釣り糸、縫い糸、水溶性包装材、衛生材料、メディカル用ディスポ製品、農業用被履材、フィルター類、ワイパー類等の用途に用いることができる。
【0045】
【実施例】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0046】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。
変性量は変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置による測定から求めた。
アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0047】
本発明のPVAのトライアッド表示による3連鎖の水酸基量の割合は以下の測定により求めた。
PVAを鹸化度99.5モル%以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAを用いて、d6−DMSOに溶解した後、500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置により65℃測定を行った。PVA中のビニルアルコールユニットの水酸基由来のピークはケミカルシフト4.05ppmから4.70ppmの領域に現れ、この積分値をビニルアルコールユニット量(II)とする。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基はそれぞれアイソタクティシティ連鎖の場合4.54ppm、ヘテロタクティシティ連鎖の場合4.36ppmおよびシンジオタクティシティ連鎖の場合は4.13ppmに現れる。この3者の積分値の和をトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基量(I)とする。
本発明のPVAのビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表される。
【0048】
[融点]
PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度で表した。
【0049】
[水溶性]
本発明のPVA繊維の水中での溶断温度は、繊維に2.2mg/デシテックスの荷重をかけて、目盛りつきの板と共に繊維の浸水長が約10cmとなるように水中に浸漬し、水温20℃から昇温速度1℃/分の条件で昇温したときに繊維が溶断する温度とし、繊維が溶断するまで、繊維長を目盛りで読み取って繊維長の変化から最大の収縮率を求めた。また、これとは別に、90℃の水中で1時間撹拌したときの未溶解物の有無を目視観察した。
【0050】
[繊維の強度、伸度]
JIS L1013に準拠して測定した。
【0051】
[紡糸性]
PVAを溶融押し出し機を用いて溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、孔径0.25mm、ホール数24のノズルから吐出させた糸条を800m/分の速度で巻き取る試験を6時間行い、その時の紡糸調子で評価した。
◎:全く単糸切れなく、6時間巻き取ることが出来る。
○:6時間で1回の単糸切れは有るが、マルチフィラメントとして6時間巻き取ることが出来る。
○〜△:6時間で2回以上の単糸切れが生じるが、マルチフィラメントとして6時間巻き取ることが出来る。
△:単糸切れが著しく、マルチフィラメントとして約5分程度しか巻き取れない。
×:単糸切れが著しく、全く巻き取れない。
【0052】
実施例1
[エチレン変性PVAの製造]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2(5.8×105Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cm2(5.8×105Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液200g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加して鹸化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置して鹸化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVAを得た。
【0053】
得られたエチレン変性PVAの鹸化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。
また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は10モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量および水酸基3連鎖の水酸基の含有量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、それぞれ1.50モル%および83%であった。
さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ206℃であった(表1)。
【0054】
【表1】
【0055】
上記で得られた変性PVAを溶融押し出し機を用いて240℃で溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、孔径0.25mm、ホール数24のノズルから吐出させ800m/分の速度で6時間巻き取った(せん断速度8,200sec-1、ドラフト52)。得られた紡糸原糸をホットローラー温度75℃、ホットプレート温度170℃で2.0倍(HDmax×0.7に相当)にローラープレート延伸し、75d/24f(83dtex/24f)の延伸糸を得た。得られた延伸糸の断面形状は均一な真円状であり、繊維表面を2000倍に拡大して走査電子顕微鏡で観察したところ、長さ0.5μm以上の溝は全く認められなかった。延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度および溶断までの最大収縮率を表2に示す。
次いで筒編機を用いて該延伸糸から編み地を作成したが、工程で繊維のフィブリル化は全く発生しなかった。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例2〜14
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理条件で繊維化したこと以外は実施例1と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。紡糸性および得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0058】
実施例15
実施例1で得られた紡糸原糸を第1ローラー85℃、第2ローラー160℃、第3ローラー30℃で、第1ローラーと第2ローラーの間で2.06倍(HDmax×0.72に相当)延伸し、第2ローラーと第3ローラーの間で3%収縮となるように延伸・熱処理を行ない、75d/24f(83dtex/24f)の延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0059】
実施例16
実施例4で得られた紡糸原糸を用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例13と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0060】
実施例17
実施例5で得られた紡糸原糸を用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例13と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0061】
実施例18
実施例6で得られた紡糸原糸を用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例13と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0062】
実施例19
実施例8で得られた紡糸原糸を用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例13と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0063】
実施例20
実施例10で得られた紡糸原糸を用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例13と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0064】
実施例21
実施例11で得られた紡糸原糸を用い、表2に示した紡糸温度、延伸・熱処理温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例13と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
【0065】
実施例22
実施例1で用いたPVAを溶融押出機を用いて240℃で溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、孔径0.4mm、ホール数48のノズルから吐出させ800m/分の速度で巻き取った(せん断速度2,000、ドラフト136)。得られた紡糸原糸を1炉温度150℃、2炉温度170℃で2.5倍(HDmax×0.8に相当)に熱風延伸し、150d/48f(167dtex/48f)の延伸糸を得た。得られた延伸糸の断面形状は均一な真円状であり、繊維表面を2000倍に拡大して走査電子顕微鏡で観察したところ、0.5μm以上の溝は全く認められなかった。延伸糸の紡糸性、水溶性、溶断温度および溶断するまでの最大収縮率を表3に示す。また、筒編み機を用いて該延伸糸から編み地を作成したが編成工程で繊維のフィブリル化は発生していなかった。
【0066】
【表3】
【0067】
実施例23
実施例20で得られた紡糸原糸を1炉150℃で2.5倍(HDmax×0.8に相当)延伸し、2炉180℃で定長熱処理し、150d/48f(167dtex/48f)の延伸糸を得た。得られた延伸糸の断面形状は均一な真円状であり、繊維表面を2000倍に拡大して走査電子顕微鏡で観察したが、繊維表面には長さ0.5μm以上の溝は全く認められなかった。延伸糸の紡糸性、水溶性、溶断温度、溶断するまでの最大収縮率を表3に示す。また、筒編み機を用いて該延伸糸から編み地を作成したが編成工程で繊維のフィブリル化は発生しなかった。
【0068】
実施例24
実施例1で用いたPVAを溶融押し出し機を用いて240℃で溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、孔径0.25mm、ホール数24のノズルから吐出させた糸条を180℃のヒートチューブを用いて延伸すると同時に熱処理し、4,000m/分の速度で巻き取った(せん断速度8,200、ドラフト260)。得られた延伸糸の繊維表面を2000倍に拡大して走査電子顕微鏡で観察したところ、長さ0.5μm以上の溝は全く認められなかった。延伸糸の紡糸性、水溶性、溶断温度、溶断するまでの最大収縮率、筒編性を表3に示す。
【0069】
実施例25
実施例1で用いたPVAを溶融押出機で240℃で溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、孔径0.25mm、ホール数24のノズルから吐出させ5,500m/分の速度で巻き取り、75d/24f(83dtex/24f)の延伸糸を得た(せん断速度20,800sec-1、ドラフト140)。得られた繊維の断面形状は均一な真円状であり、繊維表面を2000倍に拡大して走査電子顕微鏡で観察したところ、長さ0.5μm以上の溝は全く認められなかった。
次いで筒編機を用いて該延伸糸から編み地を作成したが、工程で繊維のフィブリル化は全く発生しなかった。繊維の紡糸性、水溶性、溶断温度および溶断までの最大収縮率、筒編性を表3に示す。
【0070】
比較例1〜5
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。紡糸性および得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
比較例1に示したPVAを用いると溶融粘度が高すぎるために紡糸パックから十分にポリマーが吐出せず巻き取ることができなかった。比較例2のPVAを用いたものは、溶融粘度が低すぎて曳糸性がなく捲き取れなかった。比較例3ではPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く捲き取れなかった。比較例4では紡糸温度250℃ではポリマーが十分に溶融せず粘度が高すぎて紡糸パックから十分にポリマーが吐出しないため、紡糸温度を270℃にしたがこの温度ではPVAが熱分解するためと思われるが、紡糸性が悪く巻き取ることが出来なかった。比較例5ではPVAの結晶性が低下しているためと思われるが、紡糸原糸が一部熱や吸湿で膠着して糸を解じょすることができなかった。また膠着した原糸の水溶性を調べると原糸は膨潤して少しは溶解するが、継粉状になって完全には溶解しない。
【0071】
比較例6
実施例1で用いたPVAを製造する際に、実施例1と同様のメタノール洗浄を4回実施した後、さらにメタノール/水=90/10の混合溶液で洗浄を3回実施しナトリウムイオンの含有量を0.0001質量部としたPVAを用いて、実施例1と同様に紡糸した。ゲル化するためか極短時間(約5分)しか、巻き取ることができなかった。得られた原糸を実施例1と同様にして延伸し、90℃の水中で1時間溶解処理を施したが、一部未溶解物が残り完全には溶解しなかった(表2)。
【0072】
比較例7
実施例1で用いたPVAを製造する際に、メタノール洗浄を実施せずにナトリウムイオンの含有量を1.4質量部としたPVAを用いて実施例1と同様にして紡糸を試みたが、PVAが熱分解して捲き取りできなかった(表2)。
【0073】
比較例8〜10
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1と全く同様にしてPVAの延伸糸を得た。紡糸性および得られた延伸糸の強度、伸度、水溶性、溶断温度、溶断までの最大収縮率を表2に示す。
比較例8に示したPVAを用いるとPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができなかった。得られた原糸を実施例1と同様にして延伸し、90℃の水中で1時間溶解処理を施したが、一部未溶解物が残り完全には溶解しなかった。
比較例9では紡糸温度200℃では溶融粘度が高すぎて紡糸パックから十分にポリマーが吐出しないため、240℃で紡糸すると熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができなかった。得られた原糸を実施例1と同様にして延伸し、90℃の水中で1時間溶解処理を施したが、一部未溶解物が残り完全には溶解しなかった。
比較例10では紡糸性は非常によくまた延伸糸も問題無く得られたが、90℃の水中で1時間溶解処理を施したが、膨潤はするものの溶解は殆どしなかった。
【0074】
比較例11
実施例1で得られた紡糸原糸を用い、ホットローラー温度40℃、ホットプレート温度150℃でHDmax×0.95倍の延伸倍率でローラープレート延伸を行ったが、断糸が多く極短時間しか巻き取りができなかった。得られた繊維は肉眼で見てもフィブリル化が発生しており、繊維表面を2000倍に拡大して走査電子顕微鏡で観察したところ、長さ0.5μm以上の溝が多数認められ、実用性のある繊維を得ることはできなかった。
Claims (7)
- 粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されていることを特徴とする水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維。
- ポリビニルアルコールが、炭素数4以下のα-オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1に記載の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維。
- ポリビニルアルコールがエチレン単位を4〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項2に記載の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維。
- 繊維表面に繊維軸方向に伸びる長さ0.5μm以上の溝を有していない請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維。
- 水溶解時の最大収縮率が70%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維。
- 1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維。
- 粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点Tmが160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)であって、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されているポリビニルアルコールを、口金温度がTm〜Tm+80℃、せん断速度(γ)が1,000〜25,000sec-1、ドラフトが10〜500の条件で溶融紡糸することを特徴とする水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール繊維の製造方法。
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