JP3646434B2 - 電子写真感光体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真感光体用導電性基体にアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用した電子写真感光体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的に電子写真感光体は円筒状の導電性基体上に光導電層を形成したものである。この円筒状基体としてはアルミニウム、鉄、ステンレス、銅、亜鉛、ニッケル、導電化処理したプラスチック、ガラス等が材料として挙げられるが、これらの中では比較的安価、軽量で加工性が良く、電気特性を損なわないアルミニウムまたはアルミニウム合金が広く用いられている。
【0003】
通常、アルミニウムを円筒状の基体として用いる場合は、アルミニウムビレットをポートホール法、マンドレル法等により押し出し管に加工し、続いて所定の肉厚、外径寸法の円筒とするため、引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工、あるいは切削による鏡面加工を行うことで作ることができる。また、「ちりかぶり」(白色面にちりがかかったような画像)等の画像欠陥を防止するために陽極酸化処理を行う場合がある。基体表面には引き抜き油、切削油、防錆油、空気中の各種塵埃等が付着しているため、このままでは均一な感光層を形成することができない。そのため、通常、基体表面を十分に洗浄してこれらを除去した後に光導電層が設けられる。
【0004】
従来、基体の洗浄には、1,1,1−トリクロルエタンやトリクロルエチレン等の塩素系溶剤、フロン113等のフッ素系溶剤、石油系炭化水素系溶剤等及びこれらの混合物を用いて、浸漬洗浄または超音波の作用下での浸漬洗浄、ブラシ、スポンジ等による擦り洗浄、ジェット洗浄、溶剤蒸気洗浄の単独または組み合わせにより洗浄が行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらの有機溶剤は洗浄力が高く、特に塩素系溶剤およびフッ素系溶剤は不燃性という特性から長所があり、それらの溶剤が用いられることが多かった。しかしながら、近年塩素系溶剤による環境汚染やフッ素系溶剤によるオゾン層破壊等の問題が顕在化されるとともに、これらの有機溶剤の代替洗浄液および代替洗浄法の要求が強まっており、環境問題の少ない水系の洗浄法に転換することが望まれている。
【0006】
水系の洗浄法では界面活性剤を含有した洗浄液を使用した洗浄方法が注目されており、それらの主な洗浄剤としてアルカリ系洗剤、中性洗剤が挙げられる。洗浄対象物がアルミニウム等の金属である場合、アルカリ洗剤では洗浄力は高いものの不均一なエッチングによるムラが発生したり、その後の水洗、乾燥等の処理によっては、洗剤成分の残存による腐食の問題が生ずることがある。中性洗剤を用いた場合でも、エッチングや腐食の問題が発生することが少なくなく、このような洗浄剤で洗浄を行った導電性基体を用いて製造した電子写真感光体には、コピー画像にポチ、白ポチ、ムラ等の欠陥が生じることがある。
【0007】
これらの課題に対して、特開平7−219244号公報には、N−メチル−2−ピロリドンと水を含有する洗浄液で効果的にアルミニウム製導電性基体表面の汚れを除去し、基体表面を不均一に腐食することなく洗浄できることが提案されている。また、特願平7−258605号明細書では、1,2−ブタンジオールと水を含有する洗浄することで、特開平7−219244号公報と同様の効果が得られることを提案した。
【0008】
通常、これらの洗浄処理後、基体表面に残留している洗浄液を除去するために、水を用いた濯ぎ処理がおこなわれ、続いて、50−95℃程度に加温された純水中に所定時間浸漬後、所定速度で引き上げられて乾燥される。
しかしながら、洗浄前の自然酸化皮膜の性状、水洗や乾燥の条件によっては、アルミニウム製導電性基体と純水との水和反応により、その表面に不均一な溶解や水和物等の生成(腐食)がおこることがある。そのようなアルミニウム製導電性基体に光導電層を形成すると、塗布ムラが発生したり、製造された電子写真感光体は、暗部電位の低下及びバラツキ、明部電位の低下等を招き、その画像特性に黒点、白点、ムラなどの欠陥が生じることがある。
【0009】
アルミニウム製導電性基体表面のアルミナ水和物の酸化被膜形成を防止する技術として、特開平5−281758号公報には、導電性基体を、水系下洗浄した後、硝酸、塩酸、炭酸、酢酸等の酸溶液又はフタル酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、塩化カリウム等の緩衝溶液を用いてpH5以下に調整し、かつ溶存酸素量を1.0ppm以下とした水溶液中に浸漬させ、次いでこの水系溶液中から引き上げて水切り乾燥させる技術が開示されている。しかし、特定成分での効果の記載がなく、一般的に、炭酸を除くpH5以下の硝酸、塩酸、酢酸ではアルミニウムは腐食されるとされており、揮発性でないために乾燥後のアルミニウム製導電性基体表面に腐食成分が残存し、乾燥後においても腐食が進行する懸念がある。また、pH緩衝溶液は比較的高濃度での使用であるため乾燥残渣が多く残存すること、pHの調整に一般的にアルミニウムの腐食成分である塩酸やナトリウム塩を使用するため上記と同様に乾燥後の腐食が懸念される。
【0010】
一方、電子写真感光体以外の技術として、特公平5−61349号公報には、人工的にスパッタリング等で形成された酸化アルミニウム面を、純水によって腐食されることを防止するため、純水中にpHが概ね4になるようにCO2 をバブリングした水で洗浄する技術が開示されている。しかし、電子写真感光体のアルミニウム製導電性基体をCO2 でバブリングした水で洗浄した場合、この基体を用いた電子写真感光体の電気特性は十分とはいえない。
本発明は上記した問題を解決し、塗布ムラ、電気特性、画像特性の均一性や安定性を向上させた電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性基体上に少なくとも光導電層を設けてなる電子写真感光体の製造法において、前記光導電層を設ける前に、前記導電性基体を、少なくとも酒石酸を濃度0.3ppm乃至10ppmで含有する水溶液(以下、「酒石酸水溶液」と略す)に接触させることによって、水洗による導電性基体表面の不均一な変質を防止し、さらに製造された導電性基体表面性が均一で安定であるとともに電気特性が改良されることを見いだし、本発明に到達した。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明において用いる電子写真感光体の導電性基体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が使用される。アルミニウム製導電性基体の材質としては、例えば、JIS1050、JIS1070、JIS1080等の純アルミニウムまたは、Al−Mg系合金、Al−Cu系合金、Al−Si系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Cu−Si系合金等の種々のアルミニウム合金が挙げられ、より好ましくはAl−Mn系合金であるJIS3003、Al−Si系合金であるJIS6063等が挙げられる。なお、本発明において「アルミニウム」という時はアルミニウム合金と分けて表現しない限り、通常、アルミニウム合金も含めた総称を表す。
【0013】
これらのアルミニウム製導電性基体の製造法は特に限定されないが、アルミニウムビレットをポートホール法、マンドレル法等により押し出し管に加工し、続いて所定の肉厚、外径寸法の円筒とするため、引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工、あるいは切削による鏡面加工を行うことで作ることができる。導電性基体表面には引き抜き油、切削油、防錆油、空気中の各種塵埃等が付着しているため、通常、光導電層を形成する前に洗浄処理が行われる。本発明においては、洗浄処理後に該導電性基体表面を酒石酸水溶液と接触させて水洗及び乾燥処理を行なうことを特徴とする。
【0014】
加工後のアルミニウム製導電性基体は、洗浄処理が行われる。洗浄処理としては塩素系溶剤、フッ素系溶剤、石油炭化水素系の有機溶剤系のものや界面活性剤系の洗剤を用いた公知の処理方法を使用することが出来るが、有機溶剤系洗剤を使用した処理では、環境汚染、オゾン層破壊、可燃性である等の問題があり、また、界面活性剤系の洗剤を使用した処理ではエッチングや腐食の問題が少なくないため、洗浄処理としては、特開平7−219244号公報のN−メチル−2−ピロリドンと水を含有する洗浄剤や特願平7−258605号明細書の1,2−ブタンジオールと水を含有する水系の液体を用いた洗浄剤を使用することが好ましい。
【0015】
上記洗浄処理は、通常、洗浄槽を用いて行なわれる。洗浄槽には、洗浄液が満たされており、一般的に、所定の温度に一定に保たれている。また、槽下部等には超音波発振器が備え付けられており、基体浸漬時に超音波を発振させて洗浄することが多い。超音波の種類としては、基体表面にできるかぎり均一に超音波を照射し、エロージョン等のダメージを与えないために、多重周波のものや周波数を一定周期で変更できるものが好ましい。なお、必要に応じて浸漬中に基体を振動や回転をさせてもよい。また、該洗浄液が槽上部からオーバーフローされるように液循環を行うことが好ましい。このことによって、導電性基体を洗浄液から引き上げる際によごれの再付着が防止される。
【0016】
脱脂液の温度は、通常30〜95℃、望ましくは40〜80℃の範囲に設定されることが好ましい。処理温度が30℃より低い場合は脱脂性が劣り、処理温度が95℃を越える場合は洗浄液成分の蒸発量が急激に増加し、洗浄液成分の管理上好ましくない。洗浄の処理時間は通常30秒から30分、好ましくは1分から10分がよい。処理時間が30秒より短い場合は、よごれの除去が不十分のため、洗浄ムラが発生しやすく、30分を越える場合は、スループットが下がるため、実生産上、好ましくない。
【0017】
洗浄されたアルミニウム製導電性基体は、付着した洗浄液を除去するために、1ないし数段階の水洗処理が行われる。水洗処理には、純水または脱イオン水を用いることができるが、本発明においては、アルミニウム製導電性基体と純水の水和反応によりその表面に不均一な溶解や水和物等が生成(腐食)されることを防止するため、酒石酸水溶液を使用する。酒石酸水溶液は水洗処理すべての段階あるいは一部の段階で使用することができるが、少なくとも最終段階の水洗処理で使用することが好ましい。
【0018】
アルミニウムの純水による水和反応機構は現在のところ明確にはなっていないが、その推定機構がOH- イオンが関与するものであることから、酒石酸によるアルミニウム製導電性基体の腐食抑制効果は、水洗溶液を酸性にすることによるOH- イオンの減少及び酒石酸のアルミニウム表面への吸着によってOH- イオンの攻撃が弱められることによると考えられる。
【0019】
洗浄後のアルミニウム製導電性基体の水洗は、一般には、以下の方法で行う。
まず、水洗層に水を満たし、所定の温度とした後、洗浄後のアルミニウム製導電性基体を浸漬して第1段階の水洗を行う。腐食防止の効果を高めるために、この段階での水洗にも、酒石酸水溶液を用いることが好ましい。この段階で酒石酸水溶液を用いる場合、後述する第2段階の水洗で用いる酒石酸水溶液を回収して使用することが、純水及び排水量を削減できることから好ましい。なお、より効果的に水洗を行うため、浸漬水洗時に超音波を併用することが好ましい。超音波の種類としては、基体表面にできるかぎり均一に超音波を照射し、エロージョン等のダメージを与えないために、多重周波のものや周波数を一定周期で変更できるものが好ましい。なお、必要に応じて浸漬中に基体を揺動や回転させてもよい。また、基体を洗浄液から引き上げる際にシャワーリング水洗をすることが、汚れの再付着防止が図られるためより好ましい。
【0020】
第一段階の水洗後、水洗浴に水を満たし、所定の温度とした後に、上記第1段階水洗後のアルミニウム導電性基体を所定時間浸漬し第2段階の水洗を行う。その際、アルミニウム製導電性基体と純水との水和反応によりその表面に不均一な溶解や水和物等が生成(腐食)されることを防止するため、酒石酸水溶液を使用することが好ましい。
【0021】
上述した、第2段階の水洗工程は、通常、ヒーターにより一定温度に加熱された純水または脱イオン水が満たされた槽内に、アルミニウム製導電性基体を所定時間浸漬後、一定速度で引き上げて乾燥を行なう。一般的に、槽内の温度分布の均一性や清浄度を保つために、純水または脱イオン水は槽下部より導入され、槽上部よりオーバーフローされる。さらに、基体の引き上げ時には、引き上げ直後の基体表面の水膜の均一性を図るために、槽上部よりのオーバーフローを止め、水面の乱れを少なくすることが望ましい。また、必要によっては水面上部の水蒸気を除去するために、水面近傍に冷却管等を設置して水蒸気の凝縮をさせたり、排気装置を設けてもよい。
【0022】
酒石酸水溶液の温度は、通常50℃〜95℃、望ましくは70℃から85℃が好ましい。処理温度が50℃より低い場合は、引き上げ時に水分の均一な蒸発が行なわれずに、水分の凝集物による乾燥むらが発生しやすく、処理温度が95℃より高い場合は、水和反応の速度が速くなるとともに、水面上部の水蒸気が増加し、好ましくない。
【0023】
酒石酸水溶液に浸漬する時間は、アルミニウム製導電性基体の上端部で、通常5秒から3分、望ましくは20秒から1分が好ましい。浸漬時間が短いと、アルミニウム製導電性基体の肉厚が厚い場合、アルミニウム製導電性基体の温度上昇速度が遅いために、引き上げ時に水分の均一な蒸発が行なわれず、水分の凝集物による乾燥むらが発生しやすい。また、生産速度が低下するため必要以上に浸漬時間を長くすることは好ましくない。
【0024】
酒石酸水溶液の濃度は、通常0.3ppm乃至10ppm、より好ましくは0.5ppm乃至1ppmであることが好ましい。濃度が低すぎると温純水との水和反応の抑制効果が乏しく、その結果、温純水との水和反応によって不均一な水和酸化物が生成し、所望の電子写真感光体特性が得られない傾向にある。濃度が高い場合は、不必要に酒石酸がアルミニウム製導電性基体表面に残存し、塗布むら等が発生しやすくなるとともに、廃水中のBOD、CODが増加するので好ましくない。
【0025】
アルミニウム製導電性基体を、水溶液から引き上げた後の乾燥手段としては、熱風乾燥、赤外線乾燥、誘導加熱による乾燥、または、それらの組み合わせが挙げられる。該基体表面の水分を均一に除去する方法であれば手段は問わない。一般的には、乾燥処理面の均一性や装置の簡便性から熱風乾燥処理がなされる。
熱風乾燥は、熱風乾燥装置により行なわれる。外部より取り込まれた空気はヒーター室に導入され、電気または蒸気ヒーターによって加熱されつつ、送風ファンにより槽内へ送られる。この際、耐熱ヘパフィルターを通すことにより、熱風中の塵埃を除去し、基体表面への付着を防止する。槽内の温度は、熱風の経路に設置された温度検出器および調節計により制御される。また、アルミニウム製導電性基体表面が熱風の偏流により不均一に加熱されると、基体表面のアルミニウム酸化被膜が不均一に変質する懸念があるため、熱風が出来るかぎり均一に基体表面に当たるようにすることが望ましい。
【0026】
以上のようにして洗浄処理された導電性基体上に光導電層が設けられる。光導電層としては、無機系、有機系の各種光導電層を使用することができるが、電荷発生層、電荷移動層よりなる積層型光導電層が特に有用である。電荷発生層、電荷移動層等の光導電層は、層を構成する物質をそれぞれの含有する塗布液を浸漬法やスプレー法などによって、該基体の表面に形成される。
【0027】
積層型光導電体について説明すると、電荷発生層に用いる電荷発生物質としては、セレン及びその合金、ヒ素−セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛、その他の無機光導電体、フタロシアニン、アゾ、キナクリドン、多環キノン、ペリレン、インジゴ、ベンズイミダゾールなどの有機顔料を使用することができる。特に銅、塩化インジウム、塩化カリウム、スズ、オキシチタニウム、亜鉛、バナジウムなどの金属、またはその酸化物や塩化物の配位したフタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、または、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、ポリアゾ類などのアゾ顔料が好ましい。
【0028】
電荷発生層は、これらの物質の均一層としてまたはバインダー中に微粒子分散した状態で形成される。バインダー樹脂としてはポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、メチルセルロース、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0029】
バインダー樹脂100重量部に対して、上記電荷発生物質は20〜300重量部範囲で含有させることが好ましく、特に30〜150部の範囲が好ましい。また、電荷発生層の膜厚は通常5μm以下、好ましくは0.01〜1μmの範囲である。
電荷移動層中に用いる電荷移動物質としては、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリアセナフチレン等の高分子化合物、または、各種ピラゾリン誘導体、オキサゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体などの低分子化合物が使用できる。これらの電荷移動物質と共に必要に応じて、バインダー樹脂が配合される。好ましいバインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体およびその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリサルフォン、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。また、これらの部分的架橋硬化物も使用される。
【0030】
上記電荷移動物質は、バインダー樹脂100重量部に対し、30〜200重量部、特に50〜150重量部の範囲含有させることが好ましい。また、電荷移動層には、必要に応じて酸化防止剤、増感剤などの各種添加剤を含んでもよい。電荷移動層の膜厚は通常10〜40μm、好ましくは10〜35μmの範囲とされる。
【0031】
なお、光導電層の他の例として、バインダー樹脂と上記電荷移動物質からなる結合剤中に、前記の如き電荷発生物質粒子を分散させた分散型光導電層がある。この場合、電荷発生物質と電荷移動物質の合計量は、バインダー樹脂100重量部に対して20〜200重量部の範囲が好ましく、特に40〜150重量部の範囲が好ましい。
【0032】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えないかぎり、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」とは「重量部」を表す。
実施例1
表面を鏡面仕上げしたアルミニウム製導電性基体(JIS6063材ポートホール管、肉厚1mm)をトリクロルエチレンを用いて、超音波洗浄、冷浴洗浄、蒸気洗浄を行ない、評価用アルミニウム製導電性基体を得た。純水に酒石酸を加え、0.2ppmの酒石酸水溶液を5リットル調整し、80℃に加温した。該酒石酸水溶液に該アルミニウム製導電性基体を浸漬し、アルミニウム製導電性基体表面から水素の気泡が発生するまでの時間を、水和酸化反応開始までの誘導時間(以下、「水和反応誘導時間」と称する)として測定した。上記と同様の方法で、酒石酸濃度、0.3ppm、0.5ppm、1.0ppmについて水和反応誘導時間を測定した。なお、水和誘導時間測定のための観察は、0.5ppmについては90分まで、1.0ppmについては150分までとした。
【0033】
比較例1
該アルミニウム製導電性基体を、実施例1と同様に酒石酸を添加していない80℃に加温した純水に浸漬して、水和反応誘導時間を測定した。
比較例2
該アルミニウム製導電性基体を、実施例1と同様に、純水に酢酸を加え、0.5ppmの酢酸含有水溶液を調整し、80℃に加温した。該酢酸水溶液に該アルミニウム製導電性基体を浸漬して、水和反応誘導時間を測定した。上記と同様の方法で、酢酸濃度1.0ppm、2.0ppm、5.0ppmについて水和反応誘導時間を測定した。
実施例1及び比較例1、2で行なった水和反応誘導時間測定結果を表−1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
これらの結果から酒石酸水溶液に水和酸化(腐食)抑制効果があることがわかった。
実施例2
1,2−ブタンジオール85重量%と純水15重量%からなる洗浄液を65℃に加温した洗浄液中に、表面を鏡面切削加工した円筒状アルミニウム製導電性基体(JIS1050材ポートホール管、長さ348mm、肉厚1mm)を浸漬し、周波数変調式超音波発振機(基幹周波数39kHz)を発振させて5分間脱脂洗浄を行った。
【0036】
続いて、該アルミニウム製導電性基体を洗浄槽上部に約30秒間静置して液切りした後、第1段階の水洗として、後述の第2段階の水洗行程で使用された該酒石酸水溶液を30℃に冷却、回収した該水溶液中に浸漬し、周波数変調式超音波発振機(基幹周波数39kHz)を発振させて30秒間水洗を行なった。
その後、脱イオン水を振り掛けながらブラシ洗浄を行ない、更に上述の該酒石酸水溶液中に浸漬し、周波数変調式超音波発振機(基幹周波数39kHz)を発振させて30秒間水洗を行なった。
【0037】
次いで、第2段階の水洗として、脱イオン水に酒石酸を添加して所定濃度に調整された酒石酸水溶液が、90リットル/時で連続的に供給され、一定温度の該酒石酸水溶液が槽下部より供給され、槽上部よりオーバーフローするように循環された容量約100リットルの湯上げ乾燥槽に、上記水洗後の該アルミニウム製導電性基体を上端部で深さ30mmまで浸漬し、所定時間保持した後、10mm/秒の速度で引き上げて液切り乾燥を行なった。
【0038】
なお、処理条件としては次の4種類を行なった。
(A)酒石酸濃度;0.5ppm、温度;80℃、浸漬保持時間;5秒
(B)酒石酸濃度;0.5ppm、温度;80℃、浸漬保持時間;60秒
(C)酒石酸濃度;0.5ppm、温度;80℃、浸漬保持時間;180秒
(D)酒石酸濃度;0.5ppm、温度;80℃、浸漬保持時間;300秒
その後、125℃のクリーンオーブンで5分間加熱して、電子写真感光体用導電性基体を得た。
【0039】
比較例3
第1段階及び第2段階の水洗に使用する水溶液が、脱イオン水に炭酸ガスをバブリングした炭酸水であること以外は、実施例2と同様な処理を行なって、電子写真感光体用導電性基体を得た。なお、処理条件としては次の2種類を行なった。
(A)温度;80℃、浸漬保持時間;5秒
(B)温度;80℃、浸漬保持時間;180秒
【0040】
比較例4
実施例2と同じ鏡面切削加工した円筒状アルミニウム製導電性基体を、トリクレン洗浄機を用いて洗浄処理を行なった。なお、条件は第1槽;液温40℃のトリクレン中で超音波を併用した浸漬、揺動洗浄、4分間、第2槽;第1槽と同一条件、第3槽;液温30℃のトリクレン中で浸漬洗浄、3分間、第4槽;87℃のトリクレン蒸気中で静置洗浄、3分間とした。
【0041】
電荷発生物質として下記構造を有するビスアゾ化合物10重量部を150重量部の4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノンに加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行なった。ここで得られた顔料分散液をポリビニルブチラール(電気化学工業社製、商品名#6000−C)の5%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部に加え、最終的に固形分濃度4.0%の分散液を作成した。
上記電荷発生層用分散液に、実施例2及び比較例3、4で製造した該電子写真感光体用導電性基体を浸漬し、乾燥後の膜厚が0.63μmとなるように電荷発生層を設けた。
【0042】
【化1】
【0043】
次に、この電荷発生層上に次に示す化合物110重量部と
【0044】
【化2】
【0045】
下記構造のポリカーボネート樹脂100重量部を
【0046】
【化3】
【0047】
1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(50:50)の混合溶媒600重量部に溶解させて電荷移動層用液を得た。
この溶液を用いて先に電荷発生層を設けた電子写真感光体用導電性基体を浸漬し、125℃で30分間乾燥した後の膜厚が27μmとなるように電荷移動層を設け、電子写真感光体を得た。
【0048】
〔評価1〕
実施例2および比較例3 (A)、4で得た電子写真感光体各2本について、3種類の測定環境の暗所にて、スコロトロン帯電器により−700Vに帯電させた後、白色光で露光させ、表面電位が半減するまでの露光量(半減露光量;lux・sec.)を測定した。それらの結果を表−2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表−2から、本発明の酒石酸を含有する水溶液と接触処理を行なった電子写真感光体を使用した場合、半減露光量が低く、感光体の感度が改良されることがわかった。
〔評価2〕
実施例2及び比較例3の感光層を形成する前のアルミニウム製導電性基体表面を走査電子顕微鏡で、10000倍、50000倍の倍率で表面観察を行なった。
【0051】
〔評価3〕
実施例2及び比較例3の感光層を形成する前のアルミニウム製導電性基体表面を、装置名KRATOS XSAM800pciを使用して、エックス線光電子分光法によって、基体表面の酸化物の状態にあるアルミニウムと金属状態にあるアルミニウムの元素組成比(表中、「Al酸化物/Al金属」と記す。)を測定した。なお、測定は、エックス線源;14kV、20mA、pass enerqv;20eV、走査幅;step 0.1eVの条件で行なった。
評価2及び評価3の結果を表−3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
この結果から明らかなように、本発明の酒石酸を含有する水溶液と接触処理を行なうことにより、顕著に酸化物の増加や腐食の発生を抑制していることがわかった。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、水系洗浄における水洗処理や温純水乾燥処理時におこる、不均一なアルミニウム製導電性基体表面の溶解や水和物等の生成等に起因した電子写真感光体特性の劣化を防止し、電子写真感光体用導電性基体表面の均一、安定が図られるとともに、電子写真感光体の電気特性を改良することが出来た。
Claims (2)
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性基体上に少なくとも光導電層を設けてなる電子写真感光体の製造法において、前記光導電層を設ける前に、前記導電性基体を、少なくとも酒石酸を濃度0.3ppm乃至10ppmで含有する水溶液と接触させる工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
- 前記酒石酸を含有する水溶液と接触させる工程が、少なくとも水系液体を用いた洗浄を行なった後の工程であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体の製造方法。
Priority Applications (1)
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