JP4698088B2 - 反転現像プロセス用電子写真感光体およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は反転現像プロセス用電子写真感光体に関し、詳しくは、アルミニウム系金属からなる導電性基体上に少なくとも下引層と感光層とを積層してなる電子写真感光体における前記基体と下引層の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子写真技術は高速性、高解像度の画像が得られることから複写機、プリンター、ファクシミリの分野で広く使用されている。電子写真に用いられる感光体は、従来、セレン、セレン合金、酸化亜鉛、硫化カドミウムなどの無機系の光導電材料を使用したものが多かった。
【0003】
最近では、無公害性、成膜性、軽量性などの利点を活かし、有機系の光導電材料を使用した感光体の開発が盛んに進められている。中でも電荷発生機能および電荷輸送機能をそれぞれ異なる層に分離した、いわゆる機能分離型積層有機感光体は各層をそれぞれの機能に最適な材料で形成し、積層することにより、感度を大幅に向上させることができる。また、この感光体は、層材料を選ぶことにより適宜露光光の波長に応じた種々の分光感度をもつ感光体を設計できるなど幅広い設計自由度を有する利点があり、複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真装置に多く搭載されている。
【0004】
現在実用化されている機能分離積層型有機感光体の多くはアルミニウム基体の上に電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層したものである。このような感光体は電荷発生剤をバインダ樹脂と共に有機溶媒に分散または溶解した塗液を塗布、乾燥して、電荷発生層を形成し、次にその上に電荷輸送剤をバインダ樹脂と共に有機溶媒に溶解した塗液を塗布、乾燥して電荷輸送層を形成することにより作製される。
【0005】
基本的には、このような層構成の感光体とすれば、画像形成に必要な基本性能を持たせることができる。しかし、市場における感光体に求められる性能のレベルとしては、初期的に画像欠陥が実質的に無くて良好な画像を得られる程度のことは最低限必要な性能の一つにすぎず、実際には長期間繰り返し使用した後にも実質的に良好な画像品質を維持することが求められる。
【0006】
そのためには、長期間の繰り返し使用後も、形成された有機感光層の膜質が物理的、化学的にできるかぎり劣化しないように、材料の面から最適な有機材料の組み合わせを選択すると共に、製造の面から、それらの有機材料を用いて、均質で欠陥のない膜質を有する感光層を確実に効率よく形成できる生産技術を確立させることが肝要である。
【0007】
ところで、電荷発生層は光を吸収して電荷キャリアを発生する機能を有するが、その発生した電荷キャリアは同層中で再結合して消滅したり、トラップされたりすることなく速やかに移動して、隣接するアルミニウム基体や電荷輸送層に注入されることが前記良好な画像品質を得るために必要である。このような理由から、通常良好な電荷輸送機能を有しない電荷発生層はできるだけ薄い膜にされる。例えば、実用化されている感光体においては、電荷発生層の膜厚はサブミクロンオーダーにされることが普通である。
【0008】
このように電荷発生層がその電荷発生機能を充分に奏するには前述のように極めて薄い膜として形成されなければならないので、下地面であるアルミニウム基体表面の影響を受け易く、表面に汚れ、形状や性状の不均一、粗さが存在すると、それが電荷発生層の成膜ムラとなって反映され、この成膜ムラがそのまま白抜け、黒点、濃度ムラなどの画像欠陥の原因になるという問題がある。また、この問題は特に反転現像プロセスによる画像形成の場合に顕著に現れ易い。
【0009】
このような問題のあることを充分に考慮に入れて、実用化されている感光体では、アルミニウム基体として、一般にアルミニウム合金の引抜き加工により形成される素管を、さらにその表面に切削研磨などを施して充分に平滑化し、洗浄した円筒基体を用いるとともに、この基体表面を被覆してさらに平滑化する有機樹脂中間層が用いられ、感光層が積層されて形成される。
【0010】
しかしながら、特に高品質を求められる場合には、平滑処理したはずの基体表面になおも存在する避け得ない程度の表面粗さのばらつき、わずかな表面の汚れ、合金成分として含まれている金属や金属間化合物の晶出物の量と大きさのわずかなばらつきなどや、表面における自然酸化膜の酸化の度合いの偏りによる表面性状のばらつきなどによって、やはりその表面に形成される電荷発生層に、画像に影響する程度の膜ムラの発生することがある。
【0011】
このような膜ムラの発生を抑えて高品質の画像形成を得るためには、まず基体表面の平滑処理後、表面を充分に洗浄して汚れなどを除去した上、暗時にアルミニウム基体から正孔の注入による感光体の電荷保持特性の低下を防ぐ、いわゆる電荷注入に対するブロッキング機能を奏し、露光時には発生電荷を基体に移動する機能を奏する手段を基体表面に設けることが必要である。実際にはその目的のため、アルミニウム基体の表面に特定の電気抵抗値を有する樹脂やアルマイトからなる中間層を設けることが行われている。しかし、やはり基体の表面性状における前述のようなバラツキを少なくすることは基本的に重要な事項である。
【0012】
前記のような基体表面性状のバラツキをできるだけ少なくした表面を得るには基体のさらに充分な洗浄が欠かせない。基体の充分な洗浄としては、トリクロルエチレンやトリクロルエタン等の塩素系溶剤、フロン等のフッ素系溶剤、石油系炭化水素系溶剤、純水、ノニオン系またはアニオン系界面活性剤を含む洗浄溶液等およびこれらの混合物を用いて、浸漬洗浄または超音波を併用した浸漬洗浄、ブラシ、スポンジ等による擦り洗浄、ジェット洗浄、溶剤蒸気による洗浄などの単独またはそれらの組み合わせによる洗浄など種々の洗浄法が従来から知られている。
【0013】
上記洗浄用溶剤のうち塩素系溶剤やフッ素系溶剤は地球温暖化・オゾン層破壊など地球環境問題から全世界的に使用量の削減が求められており、代替材料への切り替えが強く要請されている。また、炭化水素系溶剤は可燃性で危険物でもあり使用上制約が多いので、使用量が多い産業上の利用は必ずしも好ましいものではないという状況がある。このため、近年は前記塩素系溶剤やフッ素系溶剤を使わない純水やノニオン系またはアニオン系界面活性剤を含む洗浄溶液による洗浄が主流になりつつある。
【0014】
前記界面活性剤溶液による洗浄後、水を用いたすすぎ処理のあとの乾燥工程は、通常、温純水に基体を浸漬した後引き上げる、温純水引き上げ乾燥法が用いられる。しかし、洗浄対象物がアルミニウムやその合金等の腐食し易い金属である場合、洗剤方法によっては、かえって不均一なエッチングによるムラが発生したり、その後の水洗、乾燥等の処理方法によっては、洗剤成分の残存による腐食の問題が生ずることがある。また、洗浄前の金属表面の自然酸化皮膜の性状や洗浄処理条件によっては、アルミニウム基体と温純水との水和反応により、その表面に不均一な溶解反応や水和物等の生成反応が起きることも多い。このような方法で洗浄を行ったアルミニウム基体を用いて製造した電子写真感光体は、上記の腐食や表面での溶解反応、水和物の生成反応の影響により、前記基体の表面性状にバラツキが生じ、このバラツキに対応して出力画像に黒点、白抜け、ムラ等の欠陥が生じることがわかってきた。
【0015】
このような基体の洗浄に関する問題に対して、特開平10−26839号公報では、アルミニウム基体を、燐酸イオンを含有する水溶液に接触させる処理により、基体表面の溶解や、水和物等の生成を防止することが提案されている。
【0016】
このような燐酸処理により、基体表面の溶解や、水和物等の生成が防止された基体に電荷発生層、電荷輸送層を順次積層して作製した電子写真感光体では、電子写真特性のうち気温25℃湿度50%RHにおける感度が改善されることおよび市販の複写機に装着して行った評価では、画像品質でも問題のないことが前記文献に説明されている。
【0017】
しかし、本発明者による前記問題点に対する調査によれば、前記特開平10−26839号公報に記載の発明によっても、前述の評価条件よりさらに厳しい条件、たとえば、特に地カブリを発生しやすい現像特性を示す反転現像プロセスをもつプリンターに装着して高温高湿環境下で長時間連続画像出し試験を行うと、徐々に、画像に微小黒点が発生したり、さらにその数が増加していく画像品質不良がみられ、高画質プリンター用電子写真感光体など、より高品質が要求される分野へそのまま適用するにはまだ不充分であり、いっそう改善することが望まれている。
【0018】
一方、前述した電荷注入に対するブロッキング機能を確保する目的で設けられる中間層としては、以前から溶剤可溶性ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、カゼインなどの特定樹脂を用いると好ましいことが知られている。その理由は、これらの樹脂が、露光時には発生電荷の基板への移動を妨げずに通過させ、暗時には、基板からの電荷の注入を阻止するという中間層として必要な機能を奏するに適した、一般の樹脂よりも低い電気抵抗を有しているからである。これらの樹脂を前記中間層に採用した場合に、中間層として適した低い電気抵抗を有する理由は、他の樹脂よりも大きい吸湿性を有することに起因して高いイオン導電性を備えていることに基づくと言われている。
【0019】
これらの樹脂は、ブロッキング層としての機能を充分に果たすという目的のためには後述するように、極薄い膜、例えば、0.1μm以下の薄膜としなければならない。
【0020】
他の目的、即ち、導電性基体の表面形状、表面性状のばらつきおよび表面の汚れを被覆し、電荷発生層用塗液のぬれの均一性を改善して成膜ムラを無くそうとするには、少なくとも0.5μmの膜厚が必要である。好ましくは基体の加工条件、表面の汚染の状態にもよるが、1μm以上の厚膜が望まれる。前述のように0.1μm以下の厚みの中間層で、成膜ムラを無くすように被覆することは通常は困難である。
【0021】
ところが、前記のポリビニルアルコール、溶剤可溶性ポリアミド、カゼインなどの樹脂層で0.5μm以上の厚膜にすると、感光体の電気特性において残留電位の上昇や低温低湿下および高温高湿下の環境で電気特性の変動劣化が生じ、画像特性においては、低温低湿下では残像(メモリーと称する)が、高温高湿下で微小黒点・微小白点がそれぞれ生じるという問題が生じる。
【0022】
この問題は、厚みの増加に伴う電気抵抗の増大だけでなく、前述のように樹脂のもつ吸湿性にも原因がある。すなわち、その電気伝導が、吸湿した水分の解離による水素イオン、あるいは水酸イオンによるイオン伝導を主とするものであるので、直接的には前記樹脂層に含まれる水分率により、また間接的には環境中の湿度により中間層の伝導度は変動する。膜厚が増加すると前記伝導度の変動の影響を特に大きく受け易い。このことに起因して、前述のような残留電位の上昇、低温低湿下、高温高湿下の環境で、電気特性の変動劣化が生じ、画像においては、微小黒点・微小白点が生じるのである。
【0023】
0.5μm以上の厚膜の樹脂層を中間層として形成し、ブロッキング層として適切に制御された電気抵抗値をもち、さらに前述のように周囲の環境の変化に追従してその電気抵抗が変化することの少ない中間層とする方法については、既に多数提案されている。
【0024】
例えば、ポリアミド樹脂を、溶剤可溶性にするために化学構造を特定したものとして、特開平2−193152号公報、特開平3−288157号公報、特開平4−31870号公報などが知られている。
【0025】
また、ポリアミド樹脂に添加剤を加えることにより、環境の変化に追従し難くして電気抵抗の変化を抑制する効果を示すものとして、特公平2−59458号公報、特開平3−150572号公報、特開平2−53070号公報が知られている。
【0026】
また、ポリアミド樹脂と他の樹脂とを混合して用いて、電気抵抗値を調整し、環境の変化による電気抵抗の追従変化を弱める効果を示すものとして、特開平3−145652号公報、特開平3−81778号公報、特開平2−281262号公報などが知られている。
【0027】
また、ポリアミド系樹脂以外の材料として、セルロース誘導体を用いる例(特開平2−238459号公報)、ポリエ−テルウレタンを用いる例(特開平2−115858号公報、特開平2−280170号公報)、ポリビニルピロリドンを用いる例(特開平2−105349号ミ報)、ポリグリコールエーテルを用いる例(特開平2−79859号公報)などが知られている。
【0028】
さらにまた、樹脂層中の水分の量が環境の変化に依存しないようにとの考えから架橋性の樹脂を用いることも提案され、例えば、メラミン樹脂を用いる例(特開平4−22966号公報、特公平4−31576号公報、特公平4−31577号公報)、フエノール樹脂を用いる例(特開平3−48256号公報)などが知られている。しかし、これらの多くの文献によっても、中間層に使用される主材料がポリアミド系樹脂である限り、何らかの温湿度の影響を避けることはできない。
【0029】
さらに、前記文献等には、ポリアミド系樹脂以外の材料を用いる方法においては、樹脂層が極薄い場合には有効であるが、数μm以上の厚い膜となると下引層の抵抗が高くなりすぎて残留電位上昇の原因となって使用できないことが示唆されている。
【0030】
そこで、樹脂中に半導電性の酸化チタンなどの金属酸化物微粒子に特殊な表面処理を施した粉体を分散させて、イオン導電性物質によらずに抵抗を調整することを可能にし、環境の変化による影響を受けないようにして特性の改善を図ることも知られている(特開平9−258469号公報など)。
【0031】
ところが、それでも特に地カブリを発生しやすい現像特性をもつ反転現像プロセスと組み合わせて長時間連続画像出しを行うと、前述のように徐々に画像に微小黒点が発生するだけでなく、その数が増加していく現象の起きる問題があり、更に一段の改善が必要なレベルであることがわかってきた。
【0032】
以上、反転現像プロセス用電子写真感光体に関して、導電性基体の洗浄について、特に燐酸塩洗浄液による洗浄方法の問題点と、中間層として、0.5μm以上の厚膜の樹脂を形成する場合の問題点およびそれらの問題点に至る経過について説明してきた。
【0033】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上説明した問題点に鑑みて、反転現像プロセス方式による画像形成の際に用いられる感光体として、基体の表面性状による画像品質への悪影響を減らすために中間層として厚膜の下引層を用いても、湿度環境の変化による影響を受け難く、電気特性においては、初期特性だけでなく繰返し連続使用に対しても帯電特性や残留電位が変化せず、画像品質においても、同様に湿度環境の変化や繰り返し連続使用によって微小黒点などの欠陥問題を生じない、電子写真感光体を提供することを目的とする。
【0034】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明によれば、燐酸塩を含む溶液への浸漬処理をした、X線光電子分光法により測定される表面の結合エネルギースペクトルで、Al原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク強度比(P2p/Al2p)が0.2〜0.4であるアルミニウム系金属からなる導電性基体上に、バインダ樹脂中に酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化アルミニウム微粒子および酸化セリウム微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物微粒子が、200〜600nmの粒径範囲の粒子の比率を30重量%以上にして分散された下引層と感光層をこの順に備える反転現像プロセス用電子写真感光体において、前記下引層中に分散された前記金属酸化物微粒子の表面にあらかじめ結合処理された有機ケイ素化合物の結合量が、Si原子と前記金属酸化物微粒子中の金属原子との存在比率をX線光電子分光法(XPS法)による結合エネルギースペクトルのピーク強度比で表した場合、前記金属原子の2p電子(Me2p)(但し、MeはTi、Zr又はAlを表す)又は3d電子(Ce3d)(金属原子がCeの場合である)とSi原子の2p電子(Si2p)とのピーク強度比(Si2p/Me2p又はSi2p/Ce3d)が0.15〜0.6である反転現像プロセス用電子写真感光体とすることにより、前記目的が達成される。
【0035】
請求項2記載の発明によれば、前記有機ケイ素化合物の表面結合処理剤がアミノシラン化合物である請求項1記載の反転現像プロセス用電子写真感光体とすることが望ましい。
【0036】
請求項3記載の発明によれば、前記アミノシラン化合物がγ−アミノプロピルトリエトキシシランである請求項2記載の反転現像プロセス用電子写真感光体とすることが好適である。
【0037】
請求項4記載の発明によれば、前記バインダ樹脂がポリアミド樹脂である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の反転現像プロセス用電子写真感光体とすることが好ましい。
【0038】
請求項5記載の発明によれば、前記下引層に含まれる金属酸化物微粒子が平均粒径の異なる複数の混合粉体である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の反転現像プロセス用電子写真感光体とすることが好ましい。
【0039】
請求項6記載の発明によれば、前記感光層に含まれる電荷発生剤がフタロシアニン化合物であり、電荷輸送剤はスチリル化合物である請求項1ないし5のいずれか一項に記載の反転現像プロセス用電子写真感光体とすることが適切である。
【0040】
請求項7記載の発明によれば、X線光電子分光法により測定される表面の結合エネルギースペクトルで、Al原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク強度比(P2p/Al2p)が0.2〜0.4となるようにアルミニウム系金属からなる導電性基体を燐酸塩を含む溶液へ浸漬した後、この基体上に、バインダ樹脂と、酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化アルミニウム微粒子および酸化セリウム微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物微粒子とを有機溶媒とともに分散させて形成した下引層用塗布液であって、当該金属酸化物微粒子が200〜600nmの粒径範囲の粒子の比率を30重量%以上にしたものであり、かつ、当該金属酸化物微粒子の表面にあらかじめ結合処理された有機ケイ素化合物の結合量が、Si原子と前記金属酸化物微粒子中の金属原子との存在比率をX線光電子分光法(XPS法)による結合エネルギースペクトルのピーク強度比で表した場合、前記金属原子の2p電子(Me2p)(但し、MeはTi、Zr又はAlを表す)又は3d電子(Ce3d)(金属原子がCeの場合である)とSi原子の2p電子(Si2p)とのピーク強度比(Si2p/Me2p又はSi2p/Ce3d)が0.15〜0.6であるものから浸漬塗布法により下引層を形成し、この層上に感光層用塗布液から感光層を塗布形成する反転現像プロセス用電子写真感光体の製造方法とすることにより前記目的が達成される。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、この発明にかかる反転現像プロセス用電子写真感光体およびその製造方法の具体的な実施例について、図面を用いて詳細に説明する。この発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0043】
図1は本発明にかかる反転現像プロセス用電子写真感光体10の要部断面図であり、導電性基体1の上に下引層2、電荷発生層3と電荷輸送層4からなる感光層5が積層されたものである。
【0044】
本発明にかかる反転現像プロセス用電子写真感光体10に用いられる導電性基体1としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が使用される。アルミニウム基体1の材質としては、たとえば、JIS1050、JIS1070、JIS1080等の純アルミニウムまたは、Al/Mn系、Al/Mg系、Al/Cu系、Al/Si系、Al/Mg/Si系、Al/Cu/Zn系等の種々のアルミニウム合金が挙げられる。
【0045】
より好ましくはAI/Mn系合金であるJIS3003、Al/Si/Mg系合金であるJIS6063等が挙げられる。なお、本発明で使用される「アルミニウム」という場合、アルミニウム合金も含める。
【0046】
これらのアルミニウム基体1は、その製造法を特に限定しないが、通常はアルミニウムビレットを、ポ−トホール、マンドレル法等により押し出し管に加工し、所定の肉厚、外径寸法の管とするため、引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工などが加えられ、さらに管の表面に切削による鏡面加工を施すことにより作製される。
【0047】
前記作製直後のアルミニウム基体1表面には引き抜き油、切削油、防錆油、空気中の塵埃等が付着しているため、通常、光導電層を形成する前に洗浄処理が充分に行われる。本発明では、洗浄処理においてアルミニウム基体1表面を燐酸塩溶液に浸漬させる工程が含まれる。その後、水洗処理、乾燥処理がされる。
【0048】
また本発明においては、前記洗浄処理における燐酸塩溶液への浸漬処理により、アルミニウム基体1の表面をX線光電子分光法で分析したとき、結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク度比(P2p/Al2p)を0.2〜0.4とすることができる。
【0049】
前記アルミニウム基体1の表面における燐原子の存在比率が低すぎると、温純水による水和反応抑制効果がやや乏しく、その結果、温純水との接触により表面に不均一な水和酸化物が生成し、画像不良がみられるようになる。また、アルミニウム基体1の表面における燐原子の存在比率が高すぎると、前記処理液により表面の自然酸化物やアルミニウム基体1に対するエッチングが目立つようになり、画像不良がみられるようになる。
【0050】
本発明に用いられるアルミニウム基体1の燐酸塩溶液への処理方法としては、浸漬法、スプレー法、ブラシやスポンジなどに含ませて擦りを行う方法などが挙げられる。さらにこれら方法を単独あるいは組み合わせた処理としてもよい。
【0051】
一般的には、処理液と均一に接触させるために、処理槽を用いて浸漬処理により行われる。処理槽には、燐酸塩溶液が満たされており、所定の温度に保たれている。また、この処理を行うことにより、アルミニウム基体1の表面に残存している油分や塵埃等が表面より除去される。この場合、該処理液が槽上部よりオーバーフローされるように液循環を行い、油分離や濾過を行うことが好ましい。なお、必要に応じて効果や効率を上げるために浸漬中に揺動や回転を加えることもよい。
【0052】
燐酸塩溶液の温度は、30〜70℃が好ましい。処理温度が低すきる場合は、温純水との水和反応抑制効果が乏しく、また燐酸塩との反応が遅いために処理時間を多く要する。処理温度が高すぎる場合は、反応は速いものの処理液の蒸発量が急激に増加するため、処理液成分の維持管理上好ましくなく、さらに、処理後のアルミニウム基体1の表面の乾燥が速く、その後の水洗性が悪くなる可能性がある。
【0053】
また、この基体1の表面の乾燥防止方法としては、基体1を処理液から引き上げる際に、冷却した該処理液を基体表面にスプレーする方法も考えられるが、処理装置が複雑になるという観点からは好ましくない。
【0054】
燐酸塩溶液と前記基体1との接触時間は、16秒〜30分好ましくは30秒〜10分がよい。処理時間が短すぎる場合は基体1の表面の燐吸着量が少なく、また不均一になる可能性が高い。接触時間が長すぎる場合は生産効率の観点から、実生産上好ましくない。
【0055】
燐酸塩溶液と接触されたアルミニウム基体1は、好ましくは、付着している前記処理液を充分に除去するために水洗槽で水洗処理が行われる。水洗には純水または脱イオン水を使用することが好ましい。通常、水洗槽にはこれらの水が満たされ所定の温度に保たれており、前記基体1を浸漬することにより水洗処理が行われる。
【0056】
また、より効果的に水洗を行うため、浸漬時に超音波を併用することが好ましい。超音波の種類としては、基体1表面にできるかぎり均一に超音波を照射し、エロージョン等のダメージを与えないために、多重周波方式のものや周波数を一定周期で変動できるものが好ましい。なお、必要に応じてさらに浸漬中に揺動や回転を加えてもよい。
【0057】
さらに、汚れた水洗液の再付着を防止する目的から、基体1を水洗液から引き上げる際にシャワー水洗を行うことや、水洗水の排水方式を槽上部からのオーバーフロー方式とすることがより好ましい。
【0058】
水洗処理がなされたアルミニウム基体1は、次いで乾燥処理される。乾燥手段としては、温純水引き上げ乾燥、熱風乾燥、赤外線乾燥、誘導加熱手段による乾燥、または、それらの手段の組み合わせによる乾燥が挙げられる。
【0059】
これらの乾燥方法は基体1の表面の水分をできるだけ均一に除去する方法であればよく、特に手段を問うものではない。一般的には、乾燥処理面の均一性や装置の簡便性から温純水引き上げ乾燥処理後に熱風乾燥処理が好ましい。
【0060】
温純水引き上げ乾燥の場合は、ヒーターにより一定温度に加熱された純水または脱イオン水が満たされた槽内に、アルミニウム基体1を所定時間浸漬後、一定速度で引き上げて乾燥する。一般的に、槽内の温度分布の均一性や清浄度を保つために、純水または脱イオン水は槽下部より導入され、槽上部よりオーバーフローされる。また、必要によっては水面上部の水蒸気を除去するために排気を行ってもよい。
【0061】
熱風乾燥は、熱風乾燥装置により行われる。外部より取り込まれた空気はヒーター室に導入され、電気または蒸気ヒーターによって加熱されつつ、送風ファンにより槽内へ送られる。この際、耐熱へパフィルターを通すことにより、熱風中の塵埃を除去し、基体1の表面への付着を防止する。槽内の温度は、熱風の経路に設置された温度検出器および調節計により制御される。
【0062】
また、アルミニウム基体1の表面が熱風の偏流により不均一に加熱されると、基体1の表面のアルミニウム酸化被膜が不均一に形成される懸念があるため、熱風をできるかぎり均一に基体1の表面に当たるようにすることが望ましい。
【0063】
次に、本発明にかかる反転現像プロセス用電子写真感光体10の下引層2に関して以下説明する。
【0064】
上層に積層型感光層5を備える感光体の下引層2では、特にバインダ樹脂としてポリアミド樹脂を用い、さらに前記気相法によるアミノシラン表面処理を施された金属酸化物微粒子を添加した下引層2が好ましく、単層型感光層の場合は、特にバインダ樹脂として前記ポリアミド樹脂を塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂に替えた下引層2が好ましい。また前記ポリアミド樹脂を使用する場合は、架橋させ硬化させたものが吸湿性が小さいので特に好ましい。
【0065】
前記気相法によるアミノシラン表面処理とは、アミノシラン処理剤と微粒子とをジェット気流下に衝撃力を加え処理する方法であり、バインダ樹脂中に微粒子を均一分散させる目的で行われる。
【0066】
従来、通常の金属酸化物微粒子の表面処理法は、表面処理剤の溶液に金属酸化物微粒子を浸漬したり、表面処理剤と金属酸化物粉体とをボールミル中にて粉砕処理する方法であった。
【0067】
前記気相法による表面処理方法は、詳しくは特公平6−59397号公報に述べられている方法である。この方法に従えば、金属酸化物微粒子の表面は均一に処理され、粒子の造粒、凝集を生ずることなく均一にバインダ樹脂中に分散させることができる。
【0068】
ポリアミド樹脂の前記架橋剤としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシ樹脂、イソシアナートおよびこれらの混合物、共重合物を使用することができる。
【0069】
これらの下引層2用バインダ樹脂100重量部に対する前記金属酸化物微粒子の量は10〜500重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0070】
本発明にかかる下引層2に使用される前記金属酸化物微粒子は、酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化アルミニウム微粒子および酸化セリウム微粒子などから選ばれる。これらの金属酸化物微粒子を前記気相法にて表面処理するために用いられる有機ケイ素化合物表面処理剤としては、アミノシラン化合物が好ましい。好ましいアミノシラン化合物として具体的にはN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0071】
本発明においては、前記金属酸化物微粒子と前記表面処理剤とを、前記文献に記載のように、ボールミル、ペンシェルミキサーのようなブレンダーで混合し、引き続き、ジェットミルのような噴流式空気粉砕機にて粉砕処理しながら、表面処理を行う。
【0072】
なお、本発明において、有機ケイ素化合物含有の表面処理液により、表面処理される酸化チタン微粒子としては、アナターゼ型酸化チタンがルチル型に比べて誘電率が低く、比較的電気抵抗(103〜104Ω・cm)も低くて分散安定性が良好であるため、好ましい。
【0073】
本発明においては、有機ケイ素化合物含有の表面処理剤の処理量として、前記金属酸化物微粒子に対し0.1〜10重量%、好ましくは1〜6重量%用いられる。
【0074】
処理された金属酸化物微粒子の表面結合状態はXPS法により分析でき、結合エネルギースペクトルにおいて金属原子の2p電子(Me2p)(但し、MeはTi、Zr又はAlを表す)又は3d電子(Ce3d)(金属原子がCeの場合である)とSi原子の2p電子(Si2p)とピーク強度比(Si2p/Me2p又はSi2p/Ce3d)にて規定される。
【0075】
本発明においては、かかるピーク強度比を0.15〜0.6の範囲内とする必要がある。この範囲内では、上述のポリアミド樹脂に対し特に分散性が良好であり、かかる金属酸化物微粒子を含む下引層2は温度湿度などの環境の変化に対しても安定した画質を与えることができる。これに対して、前記ピーク強度比が0.15より小さいと金属酸化物微粒子の分散性が悪化して凝集し易くなる。また、0.6より大きいと金属酸化物微粒子の有機ケイ素化合物被覆率が過剰となり、金属酸化物微粒子の電気伝導に対する寄与が低下して下引層2の電気抵抗が大きくなるため、残留電位が上昇したり画像にメモリーが発生し易くなる。
【0076】
さらに、本発明で使用する金属酸化物微粒子は、その表面積を大にする目的からは微細な平均粒径のものが好ましいものの、コスト面、技術面からの制約が有るので、本発明では露光光の波長の1/2より小さい平均粒径25nmの金属酸化物微粒子を用いたが、これに限定されるものではない。また、干渉縞防止の観点から平均粒径が電子写真機器の露光光の波長の1/2と同程度のサイズのものが含まれていることが好ましい。この粒径が露光光の波長の1/2に比べて小さいと下引層が露光光に対して透明となり、入射光と基板からの反射光が下引層内で光学的干渉を発生するからである。特に、露光光にレーザー光を用いている電子写真機器ではこれが画像上に干渉縞となって現れる。通常の電子写真機器では露光光に可視光や半導体レーザー光を用いているのでこのような干渉を防止するには200〜600nmの粒径の微粒子で光を散乱させることが好ましい。この場合、光を散乱させる微粒子の比率が小さいと効果が観られないので、全微粒子のうち30重量%以上を前記200〜600nmの範囲の粒径とすることが必要となる。以上のことから、本発明では実用面を考慮に入れて、金属酸化物微粒子として、上記のように露光光の波長の1/2より小さい粒径と同程度の粒径の2種類の平均粒径の混合粉体を採用した。勿論、他の粒径範囲のものを含んでもよい。
【0077】
前記下引層2の上に形成される感光層について説明する。感光層自体は単層型でも積層型でもよい。積層型感光体の場合、その電荷発生層3に使用される電荷発生剤としては、例えばセレニウムおよびその合金、硫化カドミウム、その他などの無機系光導電材料またはフタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などの有機顔料等の各種光導電材料が使用できる。これらの光導電材料の微粒子からなる電荷発生剤を分散させて電荷発生層を形成するバインダ樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリビニルプロピオナール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フエノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂などが使用される。
【0078】
この場合、バインダ樹脂と電荷発生剤の混合比率は、バインダ樹脂100重量部に対して電荷発生剤30〜500重量部の範囲が好ましい。電荷発生層の膜厚(乾燥時)は通常0.15μm〜0.6μmが好適である。
【0079】
次に、電荷輸送層4としては、エナミン系化合物、スチリル系化合物、ヒドラゾン系化合物、アミン系化合物、ブタジエン系化合物などの電荷輸送剤を、これらと相溶性のある樹脂、例えばポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂などと共に溶媒に溶解させて溶液とし、乾燥膜厚10〜40μmの厚さで塗布することが好ましい。
【0080】
電荷輸送層4には、その他必要に応じ、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤などの各種添加剤を含ませることもできる。
【0081】
【実施例】
以下、本発明にかかる実施例について、図面を参照するとともに、本発明に含まれない比較例と対比させながら詳細に説明する。本発明はこれらの実施例の記載に限定されないことはいうまでもない。
【0082】
参考例1
表面を切削加工したアルミニウム素管(外径φ30mm、長さ254mm、JIS6063材)を燐酸塩含有水溶性洗浄剤UクリーナーAD−68F(上村工業(株)製)を用いて液温30℃で6分間超音波作用下で、揺動を加えながら浸漬洗浄した後、純水オーバーフロー槽で3分間すすぎを行った。次に前記UクリーナーAD−68Fをしみこませたスポンジで前記素管に回転と揺動を加えながら40秒間擦り洗浄を行い、純水のシャワーリングをした後、3段の純水オーバーフロー槽ですすぎを行った。ついで液温55℃の循環純水槽に30秒浸漬ののち10mm/秒で引き上げ温純水乾燥を行った。
【0083】
次に、酸化チタン微粒子P25(日本エアロジル(株)製 平均粒径 25nm)50重量部および酸化チタン微粒子TAF−300J(富士チタン工業(株)製 平均粒径300nm)50重量部の混合粉体の表面にγ−アミノプロピルトリエトキシシランを5重量部、気相法によりメカノケミカル的に表面処理して結合させたものを、純水で洗浄処理し充分乾燥させたのち、ポリアミド樹脂(アミランCM8000、東レ(株)製)のメタノール溶液に分散させた。
【0084】
下引層2のブロッキング機能を確保することと酸化チタン微粒子をバインダ樹脂に均一に分散させるためには、酸化チタンの前記アミノシラン表面処理の他に、前述のように異なる平均粒径の酸化チタンを用いることも重要である。
【0085】
前述の分散法により作成された塗液を前記アルミニウム素管1上に浸漬塗工法により塗工し、乾燥することにより、下引層2を形成した。乾燥後の下引層2の膜厚は3μmであった。
この時用いた、温純水乾燥終了後のアルミニウム素管1表面におけるXPS分析による結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子とP原子の2p電子とのピーク強度比(P2p/Al2p)は0.01であった。
【0086】
また、同じくアミノシラン処理済酸化チタン微粒子のTi原子の2p電子とSi原子の2p電子とのピーク強度比(Si2p/Ti2p)は0.25であった。
【0087】
ここで、XPS分析は、(株)島津製作所製のESCA−1000を用い、X線源の加速電圧10kV、電源20mA、ターゲットMg、分析用のX線Mg−Kα線の条件にて分析を行った。また、別途下引層2中のイオン性不純物をイオンクロマトグラフイー法により分析すると、イオン性不純物としてナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素、硫酸イオン、および燐酸イオンなどのイオンのいずれかの存在することが分かった。しかし、それらのいずれの不純物も10ppm以下であった。
【0088】
次に、下記化学式(1)に示されるX型無金属フタロシアニンを1重量部、塩化ビニル共重合樹脂(MR110、日本ゼオン(株)製)を1重量部およびジクロロメタン100重量部に分散、溶解させた塗液を作製し、上記下引層2上に塗工し乾燥することにより、電荷発生層3を形成した。乾燥後の膜厚は0.2μmであった。
【0089】
【化1】
Figure 0004698088
【0090】
次に、下記化学式(2)で示されるスチリル化合物1重量部および下記化学式(3)に示されるポリカーボネート樹脂(パンライトL1225、帝人化成(株)製)1重量部をジクロロメタン10重量部に溶解し、この溶液を上記電荷発生層3上に塗布し、乾燥することにより、電荷輸送層4を形成した。乾燥後の膜厚は20μmであった。以上のようにして、参考例1の電子写真感光体を作製した。
【0091】
【化2】
Figure 0004698088
【0092】
【化3】
Figure 0004698088
【0093】
実施例1
燐酸塩含有水溶性洗浄剤UクリーナーAD−68F(上村工業(株)製)による浸漬洗浄時の液温度を50℃に設定した以外は、参考例1と同様にして本発明の実施例1にかかる電子写真感光体10を作製した。この時用いた温純水乾燥終了後のアルミニウム素管表面におけるXPS分析による結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子とP原子の2p電子とのピーク強度比(P2p/Al2p)は0.2であった。
【0094】
実施例2
燐酸塩含有水溶性洗浄剤UクリーナーAD−68F(上村工業(株)製)による浸漬洗浄液の設定温度を70℃とした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体10を作製した。この時用いた温純水乾燥終了後のアルミニウム素管表面におけるXPS分析による結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子とP原子の2p電子とのピーク強度比(P2p/Al2p)は0.4であった。
【0095】
実施例3
アミノシラン処理済酸化チタン微粒子のTi原子の2p電子とSi原子の2p電子とのピーク強度比(Si2p/Ti2p)を0.15にした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体10を作製した。
【0096】
実施例4
アミノシラン処理済酸化チタン微粒子のTi原子の2p電子とSi原子の2p電子とのピーク強度比(Si2p/Ti2p)を0.6にした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体10を作製した。
【0097】
参考例2
酸化チタン微粒子をほぼ同じ平均粒径の酸化ジルコニウム(試作品)の組み合わせに変更した以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0098】
参考例3
酸化チタン微粒子をほぼ同じ平均粒径の酸化アルミニウム(試作品)の組み合わせに変更した以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0099】
参考例4
酸化チタン微粒子をほぼ同じ平均粒径の酸化セリウム(試作品)の組み合わせに変更した以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0100】
(比較例1)
燐酸塩含有水溶性洗浄剤UクリーナーAD−68F(上村工業(株)製)による素管1の浸漬洗浄時の液温度を20℃に設定した以外は、参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。この時用いた温純水乾燥終了後のアルミニウム素管表面におけるXPS分析による結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子とP原子の2p電子とのピーク強度比(P2p/Al2p)は0.005であった。
【0101】
(比較例2)
燐酸塩含有水溶性洗浄剤UクリーナーAD−68F(上村工業(株)製)による素管1の浸漬洗浄時の液温度を80℃に設定した以外は、参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。この時用いた温純水乾燥終了後のアルミニウム素管表面におけるXPS分析による結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子とP原子の2p電子とのピーク強度比(P2p/Al2p)は0.5であった。
【0102】
(比較例3)
浸漬洗浄工程に用いる洗剤を燐成分を含有しないカストロール(株)製No.450とした以外は、参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。この時用いた温純水乾燥終了後のアルミニウム素管表面におけるXPS分析による結合エネルギースペクトルにおいてAl原子の2p電子とP原子の2p電子とのピーク強度比(P2p/Al2p)は燐成分を含有しないので0であった。
【0103】
(比較例4)
下引層を塗工しないこと以外は参考例1と同様に電子写真感光体を作製した。
【0104】
(比較例5)
下引層を塗工しないこと以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
【0105】
(比較例6)
下引層を塗工しないこと以外は実施例2と同様に電子写真感光体を作製した。
【0106】
(比較例7)
アミノシラン処理済酸化チタン微粒子のTi原子の2p電子とSi原子の2p電子とのピーク強度比(Si2p/Ti2p)を0.10にした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0107】
(比較例8)
アミノシラン処理済酸化チタン微粒子のTi原子の2p電子とSi原子の2p電子とのピーク強度比(Si2p/Ti2p)を0.7にした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0108】
(比較例9)
酸化チタン微粒子P25(日本エアロジル(株)製 平均粒径25nm)75重量部および酸化チタン微粒子TAF−300J(富士チタン工業(株)製平均粒径300nm)25重量部の混合粉体とした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0109】
(比較例10)
酸化チタン微粒子P25(日本エアロジル(株)製 平均粒径25nm)50重量部および酸化チタン微粒子(試作品平均粒径150nm)50重量部の混合粉体とした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0110】
(比較例11)
酸化チタン微粒子P25(日本エアロジル(株)製 平均粒径25nm)50重量部および酸化チタン微粒子(試作品平均粒径650nm)50重量部の混合粉体とした以外は参考例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0111】
このようにして得られた反転現像プロセス用電子写真感光体を市販のレーザービームプリンター(Ecosys FS600 京セラ(株)製)に装填して、気温5℃湿度30%の低温低湿環境中での画像におけるメモリーおよび気温23℃湿度50%の常温常湿環境中での画像における干渉縞の評価、次いで気温35℃湿度85%の高温高湿環境中で連続3万枚の画像出しを行い、3万枚後の画像における微小黒点の評価を行った。その結果を次の表に示す。評価基準は下記のとおりである。
○:良好、×:問題がある、××:非常に問題がある
【0112】
【表1】
Figure 0004698088
【0113】
上記表から、参考例1並びに本発明にかかる実施例1および実施例2に対して、それぞれ下引層を設けないことだけ異なり、これ以外は参考例1、実施例1および実施例2と同一仕様とした比較例4〜6の各評価結果を比べると、比較例4〜6は高温高湿環境において、連続3万枚の画像出しをした後の画像評価が参考例1、実施例1および実施例2に比べていずれも「××非常に問題あり」になっており、本発明にかかる下引層を設けることの効果が大きいことを示している。このことは、基体の洗浄において、必ずしも充分ではない評価を示す比較例4〜6の基体に対しても、本発明にかかる下引層を設けることにより、意外にも参考例1、実施例1および実施例2に示すように電気特性が大きく改善される効果を示すものである。このことは予め予想していた効果を大きく超えるものであった。
【0114】
また、参考例1および実施例1〜4と比較例7、8の比較から、下引層中に分散された前記金属酸化物微粒子の表面にあらかじめ結合処理された有機ケイ素化合物の結合量が、Si原子と前記金属酸化物微粒子中の金属原子との存在比率をX線光電子分光法(XPS法)による結合エネルギースペクトルのピーク強度比で表した場合、前記金属原子の2p電子(Ti2p)とSi原子の2p電子(Si2p)とのピーク強度比(Si2p/Ti2p)が0.15〜0.6の参考例1および実施例1〜4では、低温低湿環境画像メモリー評価と高温高湿環境での干渉縞評価と高温高湿環境での連続3万枚印刷後の微少黒点評価が三つ共に優れ、前記ピーク強度比が0.1の比較例7は、低温低湿環境画像メモリー評価は良いが、後2つの評価が悪く、前記ピーク強度比が0.7の比較例8は、低温低湿環境画像メモリー特性が良くないというそれぞれの結果から、前記ピーク強度比を0.15〜0.6の範囲にすることが重要であることが判る。
【0115】
また、基体に対する燐酸塩含有洗浄剤の効果の違いについて、参考例1並びに本発明にかかる実施例1および実施例2と比較例1〜3とを比較すると、基体の表面を、X線光電子分光法により測定される表面の結合エネルギースペクトルで、Al原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク強度比(P2p/Al2p)が0.01〜0.4を満たす参考例1、実施例1および実施例2は問題がないが、満たさない比較例1〜3は前述と同様に、高温高湿環境において、連続3万枚の画像出しをした後の微少黒点の評価が「××非常に問題あり」と悪いことが判る。
【0116】
さらに参考例1参考例2〜4の作製仕様から、下引層のバインダ樹脂中に分散される金属酸化物微粒子としては、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウムがそれぞれ表において、評価が優れていることが判る。
【0117】
比較例9から、300nmの粒径のものが25重量%と少ない場合、金属酸化物微粒子の表面の結合エネルギースペクトルにおけるピーク強度比の観点からは本発明の範囲に含まれていても、悪い評価結果となっている。また、比較例10、11でも、2種類の平均粒径の混合粉体からなる金属酸化物微粒子のうち、一方の平均粒径が200〜600nm範囲外のそれぞれ150nmと650nmであるので、比較例9と同様に悪い評価結果となっている。これら比較例9〜11の場合は、下引層用の塗布液における微粒子の平均粒径と重量比が不適切であるために、下引層用塗布液中の酸化チタンの混合粉体の分散が不適切になり、均一な膜質の形成に悪影響を与えた結果、この表に示すような評価になったものと思われる。以上の比較例9〜11の評価結果を参考例1および実施例1〜4の評価結果と比較すると、2種類の平均粒径の混合粉体からなる金属酸化物微粒子のうち、一方の平均粒径が200〜600nm範囲であって、その混合比が30重量%以上の場合に、各特性評価が優れていることが判る。
【0118】
【発明の効果】
本発明によれば、X線光電子分光法により測定される表面の結合エネルギースペクトルで、Al原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク強度比(P2p/Al2p)が0.2〜0.4であるアルミニウム系金属からなる導電性基体上に、バインダ樹脂中に酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化アルミニウム微粒子および酸化セリウム微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物微粒子が、200〜600nmの粒径範囲の粒子の比率を30重量%以上にして分散された下引層と感光層をこの順に備える反転現像プロセス用電子写真感光体において、前記下引層中に分散された金属酸化物微粒子の表面にあらかじめ結合処理された有機ケイ素化合物の結合量が、Si原子と前記微粒子中の金属原子との存在比率をX線光電子分光法(XPS法)による結合エネルギースペクトルのピーク強度比で表した場合、前記金属原子の2p電子(Me2p)(但し、MeはTi、Zr又はAlを表す)又は3d電子(Ce3d)(金属原子がCeの場合である)とSi原子の2p電子(Si2p)とのピーク強度比(Si2p/Me2p又はSi2p/Ce3d)が0.15〜0.6である反転現像プロセス用電子写真感光体としたので、反転現像プロセス方式による画像形成の際に用いられる感光体として、基体の表面性状による画像品質への悪影響を減らすために、その中間層として厚膜の下引層を用いても、環境の変化による影響を受け難く、電気特性においては、初期特性だけでなく繰返し連続使用に対しても帯電特性や残留電位が変化せず、画像品質においても、同様に環境の変化や繰り返し連続使用によって微小黒点などの欠陥問題を生じない、反転現像プロセス用電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる反転現像プロセス用電子写真感光体の要部断面図
【符号の説明】
1 導電性基体
2 下引層
3 電荷発生層
4 電荷輸送層
5 感光層
10 電子写真感光体

Claims (8)

  1. 燐酸塩を含む溶液への浸漬処理をした、X線光電子分光法により測定される表面の結合エネルギースペクトルで、Al原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク強度比(P2p/Al2p)が0.2〜0.4であるアルミニウム系金属からなる導電性基体上に、バインダ樹脂中に酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化アルミニウム微粒子および酸化セリウム微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物微粒子が、200〜600nmの粒径範囲の粒子の比率を30重量%以上にして分散された下引層と感光層をこの順に備える反転現像プロセス用電子写真感光体において、前記下引層中に分散された前記金属酸化物微粒子の表面にあらかじめ結合処理された有機ケイ素化合物の結合量が、Si原子と前記金属酸化物微粒子中の金属原子との存在比率をX線光電子分光法(XPS法)による結合エネルギースペクトルのピーク強度比で表した場合、前記金属原子の2p電子(Me2p)(但し、MeはTi、Zr又はAlを表す)又は3d電子(Ce3d)(金属原子がCeの場合である)とSi原子の2p電子(Si2p)とのピーク強度比(Si2p/Me2p又はSi2p/Ce3d)が0.15〜0.6であることを特徴とする反転現像プロセス用電子写真感光体。
  2. 前記有機ケイ素化合物の表面結合処理剤がアミノシラン化合物であることを特徴とする請求項1記載の反転現像プロセス用電子写真感光体。
  3. 前記アミノシラン化合物がγ−アミノプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項2記載の反転現像プロセス用電子写真感光体。
  4. 前記バインダ樹脂がポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の反転現像プロセス用電子写真感光体。
  5. 前記下引層に含まれる金属酸化物微粒子が平均粒径の異なる複数の混合粉体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項記載の反転現像プロセス用電子写真感光体。
  6. 前記感光層に含まれる電荷発生剤がフタロシアニン化合物であり、電荷輸送剤はスチリル化合物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の反転現像プロセス用電子写真感光体。
  7. X線光電子分光法により測定される表面の結合エネルギースペクトルで、Al原子の2p電子(Al2p)とP原子の2p電子(P2p)とのピーク強度比(P2p/Al2p)が0.2〜0.4となるようにアルミニウム系金属からなる導電性基体を燐酸塩を含む溶液へ浸漬した後、
    この基体上に、バインダ樹脂と、酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化アルミニウム微粒子および酸化セリウム微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物微粒子とを有機溶媒とともに分散させて形成した下引層用塗布液であって、当該金属酸化物微粒子が200〜600nmの粒径範囲の粒子の比率を30重量%以上にしたものであり、かつ、当該金属酸化物微粒子の表面にあらかじめ結合処理された有機ケイ素化合物の結合量が、Si原子と前記金属酸化物微粒子中の金属原子との存在比率をX線光電子分光法(XPS法)による結合エネルギースペクトルのピーク強度比で表した場合、前記金属原子の2p電子(Me2p)(但し、MeはTi、Zr又はAlを表す)又は3d電子(Ce3d)(金属原子がCeの場合である)とSi原子の2p電子(Si2p)とのピーク強度比(Si2p/Me2p又はSi2p/Ce3d)が0.15〜0.6であるものから浸漬塗布法により下引層を形成し、
    この層上に感光層用塗布液から感光層を塗布形成することを特徴とする反転現像プロセス用電子写真感光体の製造方法。
  8. 前記導電性基体を燐酸塩を含む溶液へ浸漬した後、さらに燐酸塩をしみこませたスポンジで擦り洗い洗浄することを特徴とする請求項7記載の反転現像プロセス用電子写真感光体の製造方法。
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