JP3646417B2 - 継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、その連続鋳造(以後、単に鋳造と記す。)ままの鋳片の内部品質が、継目無鋼管用素材としては問題のある炭素量の多い炭素鋼や、合金鋼等の丸ビレット(以後、単にビレットと記す。)、および、従来は、鋳造ままの状態では熱間加工性(以後、単に加工性と記す。)が悪く、継目無鋼管用素材としては使用できなかった、Cr含有鋼のビレットの内部品質の改善方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
継目無鋼管は一般的には、ビレットを用いてマンネスマン穿孔法等により中空の素管とし、その後にエロンゲータ、プラグミルまたはマンドレルミル等の圧延機により延伸し、最終的にはサイザーやストレッチレデューサにより定径化する工程を経て製品とされる。
【0003】
この継目無鋼管製造用のビレットには、低炭素鋼の様に比較的簡単に鋳造可能な鋼種の場合は、鋳造ままのものを用いる。しかし、ステンレス鋼等の加工性の劣るCr含有鋼種の場合は、鋳造ままのビレットを用いると、マンネスマン穿孔時に素管の内面に疵が発生することが多い。
【0004】
Cr含有鋼の加工性が劣る主な原因は、Cr量の増加により、鋳造時に偏析やポロシティが発生しやすくなり、内質が劣った鋳片になるためである。加工性に特に大きな影響を与えるポロシティは、鋳片の最終凝固時に発生する空隙に、粘度が高い等の理由により溶鋼が供給され難いことにより、発生する。
【0005】
図14は、溶鋼中のCr量と溶鋼の粘度との関係を示したものであるが、溶鋼中のCr量が増すにしたがって、溶鋼の粘度が増すこと、および、Cr量が13%前後で粘度がピークを示すことがわかる。
【0006】
図15は、Cr量の少ない範囲での、溶鋼中のCr量と粘度との関係を示したものであるが、Cr量が0.5%を越えると粘度の上昇が顕著になることがわかる。
【0007】
上記の様な欠陥を含むビレットを用いて、過酷な加工方法であるマンネスマン穿孔を行なうと、素管の内面には、ポロシティや偏析に起因した疵が発生する。このため、Crを含有する鋼種においては、内部品質を向上させるための圧延を行なったビレットを用いることが必須とされてきた。
【0008】
つまり、鋳造ままのビレットを用いて製管を行うと、内面疵の発生が懸念される場合には、鋳片を分塊圧延してポロシティを機械的に圧着させ、内部品質の優れたビレットを得ることで、この問題を回避していた。
【0009】
例えば、特開平61−140301号公報には、Cr含有鋼の大断面のブルームを鋳造し、加熱後に分塊圧延等により矩形断面の鋼片とし、さらに小断面のビレットを製造する技術が示されている。
【0010】
しかしながら、鋳造後に切断して加工を行う場合は、圧延後の鋼片の端面が凹凸のある形状となるため、ビレットにするためには、端面の形状を整えるための切断工程が必要となる。また、発生するクロップを廃棄することになり、歩留が低下する。加工を行うための再加熱も当然、製品コストを増大させる。したがって、経済性から見ると優れた解決策ではない。
【0011】
ビレットにする段階で圧延を行なわずに内質を向上させる手段としては、先ず、鋳造中の電磁攪拌処理がある。ただし、広く実施されているこの処理の効果は、ポロシティの発生を防止するほどは大きくない。
【0012】
内質を向上させる他の手段として、鋳造中のインライン軽圧下法あるいは、大圧下法も比較的広く採用されている。特公昭59−16862号公報や、特開平63−183765号公報に開示されている技術がこれにあたる。これらの技術は、スラブやブルームの内質改善方法として良く知られており、ポロシティの消滅や、偏析の低減化が可能である。鋳造中あるいは直後に加工を加えるため再加熱が不要であり、結果的に製造コストも低減できる技術である。
【0013】
しかし、丸鋳片に対して、例えば、板状鋳片の圧下に用いる様な、鋳片の移送方向に対しての垂直断面が矩形である、平型のロールにより圧下を加えると、ロールに接触した部分は平面化し、他方、ロールに接触していない部分は膨らみ、ビレットの断面形状は偏平化し、さらには角形に近づく。
【0014】
断面形状が角形に近づくと、ビレットの回転を利用するマンネスマン穿孔時の、噛み込みが不安定となるなどの操業上の問題が発生する。また、マンネスマン穿孔後の素管、および最終製品である継目無鋼管の、管軸方向に対しての垂直断面内(以後、C断面とする。)の肉厚変動(偏肉)が大きくなる。
【0015】
この問題に対し、特開平7−108358号公報には、楕円形鋳型により断面形状が楕円形の鋳片を得て、それを、ラウンド孔型ロールにより長径方向に圧下し、真円断面のビレットを得る技術が示されている。この方法は圧下後の形状の問題は解決しているが、鋳造時の湯流れが真円断面鋳型を用いた場合に比較して不均一になり、それに起因する湯面変動やパウダーの巻き込みが、新たな欠陥の原因になる。また、必要な圧下量に対応して鋳型を数多く準備する必要があること、内部品質に問題の無い鋼種の場合も圧下をかけることになりコストが上昇すること等の問題もあり、やはり有効な解決策ではない。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上に述べた様に、加工性の劣る鋼、特にCr含有鋼においては、鋳造ままのビレットのポロシティ等の問題を、ビレットの形状を大きく劣化させることなく、有効、かつ、経済的に解決する方法は皆無の状態である。電磁撹拌処理は、それ単独では、ビレットの中心部におけるポロシティの発生の防止効果は小さい。また、鋳造中の鋳片に圧下を加え内質改善を行う方法では、圧下により断面形状が偏平化し、マンネスマン穿孔時の噛み込みが不安定になり、また、得られる素管には偏肉が発生する等の問題がある。
【0017】
楕円形の鋳片は欠陥が多く、また、能率も下がり、経済性も低い。鋳片を切断後に再加熱し、穿孔前圧延を行なう方法の場合は、得られる素管は問題のないものであるが、製造能率が低く、また経済的でもない。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、丸鋳片の鋳造時に鋳片の内部品質を向上させる圧下を、比較的簡単で安価な設備を用い、ビレットの形状を大きく劣化させることなく、能率的に、また、経済的に行うものである。本発明によって得られるビレットでは、ポロシティ等が大きく減少しており、それを用いてマンネスマン穿孔して得られた素管は、Cr含有鋼の場合も内面疵は少ない。また、ビレットの形状は従来の軽圧下法、あるいは大圧下法に比較して格段に優れており、そのため、本発明により製造したビレットを用いて、マンネスマン穿孔を行なう場合は、穿孔時の安定性が優れており、また、素管の形状も良好であり、偏肉率も小さい。
【0019】
第1発明は、円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、鋳片の凝固完了点近傍に設置した一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールにカリバー底の開き角δが、70°≦δ≦110°である鞍型ロールを用い、偏平率εが5%以下の丸ビレットを製造することを特徴とする継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法である。ただし、偏平率ε(%)={1−(鋳片のある断面中での最短径部長さ)/(同一断面中の最長径部長さ)}×100である。
【0020】
また、第2発明は、
円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、鋳片の凝固完了点近傍に設置した一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールの一方に平ロールを、他の一方のロールにカリバー底の開き角δが、
100°≦δ≦140°
である鞍型ロールを用いる継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法である。
【0021】
第3発明は、円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールにカリバー底の開き角δが、70°≦δ≦115°である鞍型ロールを用い、連続鋳造中の鋳片の軸心部の固相率fsが0.3≦fs≦1の状態で、鋳片に体積減少率が、0.1〜5%の範囲内の圧下を加え、偏平率εが5%以下の丸ビレットを製造することを特徴とする継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法である。ただし、体積減少率=(ビレットC断面の面積減少率)×(鋳造速度)で、偏平率ε(%)={1−(鋳片のある断面中での最短径部長さ)/(同一断面中の最長径部長さ)}×100である。
【0022】
第4発明は、円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールの一方に平ロールを、他の一方のロールにカリバー底の開き角δが、100°≦δ≦140°である鞍型ロールを用い、連続鋳造中の鋳片の軸心部の固相率fsが0.3≦fs≦1の状態で、鋳片に体積減少率が、0.1〜5%の範囲内の圧下を加える継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法である。ただし、体積減少率=(ビレットC断面の面積減少率)×(鋳造速度)である。
【0023】
また、第5発明は、
第1〜第4の発明のいずれかにおいて、鋳片が、Cr含有量が0.5重量%を超える難加工性の継目無鋼管製造用の高Cr含有鋼である継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法である。
【0024】
本発明においては、丸鋳片の鋳造時に内部品質を向上させる圧下を加える。圧下を加える手段には、1対の鞍型ロール(以後、鞍型ロールをVロールと記す。また、1対の鞍型ロールをVVロールと、平ロールをFロールと、1対の平ロールとVロールをFVロールと、1対の平ロールをFFロールと記す。)または、FVロールを用いる。
【0025】
一方、または、両方のロールにVロールを用いることにより、従来のFFロールを用いた圧下に比較して、鋳片の偏平率ε(以後、εと記す。)を大きすることなく、効果的な圧下を加えることができる。
【0026】
これは、VVロールや、FVロールを使用することより、ロールと鋳片との接触点が少なくとも3点以上になり、ロールが鋳片を拘束しやすくなるため、圧下量を大きくしてもεは大きくならない。
【0027】
また、その結果として、偏平化に起因するマンネスマン穿孔時の噛み込み不良等の問題や、穿孔後の素管の偏肉の問題も、従来のFFロール圧下方式に比較して大幅に小さくなる。
【0028】
逆に、従来程度のεを許容する場合は、大きな圧下をかけることが可能であり、ビレットの品質をより大きく改善でき、マンネスマン穿孔時の内面疵の発生が抑えられる。さらに、圧下が鋳片の中心部に向かってかかるため、鋳片の中心部に圧縮応力場が形成されやすくなり、圧下量あたりの鋳片の内部品質向上効果が大きい点も重要である。
【0029】
VVロールで圧下をかける場合の、カリバー底の開き角度δ(以後、δと記す。)は、圧下を均一にかける上からは、90°が最適である。ただし、90°の上下の一定の範囲内の場合は、εを大きく上げずに有効な圧下をかけることができる。その好ましい範囲は、
70°≦δ≦115°
である。δが70°未満か、または、115°を越える場合は、εが大きくなる。
【0030】
FVロールを用いる場合は、δは120°が最適であるが、同様に上下の一定の範囲内の場合は、εを大きく上げずに有効な圧下をかけることができる。好ましい範囲は
100°≦δ≦140°
である。
【0031】
圧下は、鋳片の凝固が完了する以前に行なう必要がある。一方、凝固が余り進んでいない状態で行なうと、その後の凝固過程で、ポロシティや偏析が発生するため好ましくない。効果が大きく現れる鋳片の軸芯部の固相率fs(以後、fsと記す.)の下限は、0.3である。即ち、鋳片の軸芯部の30%以上が固相の状態で、圧下を行なうことが好ましい。この値以下の場合は、圧下後に若干のポロシティが発生し、また偏析も大きくなる。
【0032】
fsの上限値は1である。すなわち、完全に凝固した後も、凝固直後であれば圧下は有効である。したがって、
0.3≦fs≦1
の状態で圧下を行なうことが好ましい。圧下量は、鋳片の体積減少率で判断する。
【0033】
体積減少率の定義は
体積減少率=(ビレットC断面の面積減少率)×(鋳造速度)
である。
【0034】
VVロールで圧下する場合は、体積減少率が最大7%までは、εを大きく上げずに圧下を行うことが可能である。一方、圧下による内面品質の向上効果、すなわち、マンネスマン穿孔後の素管の内面疵の発生率は、体積減少率が0.1%以上で顕著となり、体積減少率の増加と共に小さくなる。したがって、VVロールによる圧下時の好ましい体積減少率の範囲は、0.1〜7%である。
【0035】
FVロールで圧下する場合は、体積減少率が最大5%までは、εを大きく上げずに圧下を行うことが可能である。一方、圧下の内面品質の向上効果は、この場合も、体積減少率が、0.1%以上で顕著となる。したがって、FVロールによる圧下時の好ましい体積減少率の範囲は、0.1〜5%である。
【0036】
上記の範囲内の体積減少率の圧下を、鋳片が上記のfsの状態において、VVロール、またはFVロールにより加えることにより、本発明の効果はより優れたものとなる。なお、本発明は鋼種を問わず、鋳片の内質の向上に有効であるが、溶鋼の粘度が高く、鋳造中にポロシティや偏析が発生しやすい鋼種、すなわち、0.5%を越える量のCrを含有する鋼に適用する場合に、特にその効果が著しい。
【0037】
【発明の実施の形態】
図3は本発明の目的である、加工性の良い継目無鋼管製造用鋳片の製造の実施の形態を示す概略図である。鋳型1に注入された溶鋼は鋳片2になる。なお、本発明の実施においては、凝固中に電磁攪拌処理を行った。鋳片2は図示した様に、凝固しつつある状態で垂直方向から水平方向に曲げられる。鋳片2の引抜き速度はピンチロール3により一定速度に制御される。
【0038】
本発明においては、ピンチロール3の下流側に、圧下ロール4を設置して鋳片に圧下を加え、その内質を向上させる。図1は、圧下ロールの1形態であるVVロール41により、鋳片2を圧下している状態を示す概略図である。鋳片2はVVロール41と、4点で接触している。
【0039】
また、図2は、圧下ロールの他の形態であるFVロール42により、鋳片2を圧下している状態を示す概略図である。鋳片2はFVロール42と、3点で接触している。なお、43はVロール、44はFロール、45はVロールのδである。
【0040】
本発明は直径が340mm以下の鋳片に適用した場合に、その効果が特に顕著に認められる。鋳片の直径が340mmを越える場合は、鋳造時の軸芯部の冷却速度が遅く、ポロシティが生成しにくく、また、熱応力による軸芯割れも起こりにくいためである。
【0041】
FVロールにより、鋳片を圧下する場合は、Fロールのロール軸は固定型とし、Vロールのロール軸を可変型とすると、鋳片の寸法が変化する場合に、鋳造設備周辺のパスラインに関係する設備を調整する頻度が減少し、生産能率の低下を防ぐことができる。
【0042】
なお、VVロール41、およびFVロール42による圧下は、上記の例では、鋳片2を水平方向に移送しつつ行なっているが、もちろん、鋳片2を垂直または、斜め方向に移送中に圧下をかけることも可能である。
【0043】
【実施例】
図4は、VVロールにより圧下を行なった実施例(1対のVロールのδは同一であり、90°および120℃の2水準)、および、FFロールを用いた比較例を、横軸は体積減少率、縦軸は鋳片のεをとり示したものである。13%Cr鋼であり、鋳片の外径は170mmである。(以後の図5〜図13も同じ)なお、εは、以下の式で定義した。
【0044】
ε(%)={1−(鋳片のある断面中での最短径部長さ)/(同一断面中の最長径部長さ)}×100
【0045】
FFロールを用いた比較例は、体積減少率の増加に伴いεの増大が著しいが、実施例のεの増加はいずれの場合も小さい。特に、δが90°の場合のεは、比較例の1/3程度である。
【0046】
図5は、FVロール(Vロールのδは、120°または140℃)により圧下を行なった場合の実施例、および、FFロールを用いた比較例を、横軸は体積減少率、縦軸は鋳片のεをとり示したものである。実施例のεの増加はいずれの場合も小さい。特に、δが120°のVロールを用いることにより、FFロールの場合に比較して、同一の体積減少率におけるεは1/2になっている。
【0047】
図6は、VVロールを用いた場合(1対のVロールのδは同一)の、δとεとの関係を示した図である。体積減少率は4〜5%である。δが小さ過ぎたり、大き過ぎたりする場合は当然εは大きくなる。なお、80°≦δ≦105°の場合の、εは3%以下であり、δがこの範囲の場合は、圧下後の形状が特に良好なことがわかる。
【0048】
図7は、FVロールを用いた場合の、Vロールのδとεとの関係を示した図である。体積減少率は4〜5%である。δが小さ過ぎたり、大き過ぎたりする場合は当然εは大きくなる。110°≦δ≦130°の場合のεは4%以下であり、δがこの範囲の場合は、圧下後の形状が特に良好なことがわかる。
【0049】
なお、上記の図4〜図7の実施例および比較例は、いずれもfs:0.5の状態で圧下を加えたものであるが、εに対するfsの影響はほとんどない。すなわち、εは体積減少率とδで決定される。
【0050】
上記の図4〜図7に示した条件で圧下して得られたビレット、および、fsが異なった状態で、圧下を行なった鋳片からのビレットを用いて、マンネスマン穿孔試験を行なった。試験本数は同一条件下で10本である。まず、マンネスマン穿孔後の素管の内面を調査して、疵の発生状態を調査した。
【0051】
図8に、VVロールにより、種々の体積減少率の圧下を行なった鋳片からのビレットの、マンネスマン穿孔後の内面疵発生率を示す。圧下を行なっていない比較例の疵の発生率は、100%であった。0.1%以上、3%未満の体積減少率の圧下により、内面疵の発生率は10〜40%程度に低下した。
【0052】
また、体積減少率:3%以上、5%未満の圧下により、内面疵の発生率は0〜10%程度に低下した。5%以上の圧下を加えた場合は、疵の発生は認められなかった。したがって、内面疵の発生防止の観点からは、効果が目立ち始める体積減少率の範囲は、0.1%以上、好ましい範囲は3%以上、最適範囲は5%以上である。なお、fsが、0.2と小さい場合は、やや、内面疵発生率は高くなる。fsが、0.4と1の場合の差はない。
【0053】
図9は、FVロールにより、同様の圧下を行なった場合の試験結果である。VVロールの場合と似た傾向を示しているが、fs、体積減少率が共に小さい場合の疵の発生率が、VVロールの場合と比較してやや高く、体積減少率が4〜5%の範囲においても多少の差が認められる。
【0054】
図10は、種々のfsの状態で、VVロールおよびFVロールにより、圧下を行い、ビレットとし、マンネスマン穿孔した場合の内面疵発生率を示したものである。体積減少率は3%である。fsが0.2の場合の内面疵発生率は20%、fsが0.4の場合は10%に低下する。0.5〜0.8の範囲にある場合は、疵の発生は認められなかった。なお、fsが0.9以上では、内面疵発生率は再び大きくなる。
【0055】
図11は、FVロールを用いた場合のVロールのδと、得られたビレットをマンネスマン穿孔した場合の穿孔性および、素管の偏肉率との関係を示したものである。縦軸に示した穿孔性を示す評点は、穿孔が通常の真円断面のビレットと同じ状態で行なえた場合を評点1とし、穿孔中に異音が発生した場合を評点2、さらに穿孔中に噛み込み不良が発生した場合を評点3とした。
【0056】
なお、噛み込み不良の状態とは、マンネスマン穿孔が不可能なことではなく、素管の先端部近傍の形状が不良になる部分が著しく長くなる(3m以上)ことに対応している。また、異音が発生する状態とは、形状が不良になる部分が長くなる(1m以上、3m未満)ことに、ほぼ対応する。なお、真円断面のビレットの場合は、形状が不良になる部分の長さは1m未満である。
【0057】
偏肉率は穿孔後の形状不良部分を除いた断面の測定値で評価した。具体的には、真円ビレットを用いた場合に発生する偏肉率の3〜4%を基準値とし、これに対して偏肉率の増加が5%未満の場合を評点1、5%以上、10%未満を評点2、さらに10%以上、15%未満を評点3、15%以上を評点4とした。
【0058】
図11より、Vロールのδが、110°≦δ≦130°の範囲内にある場合には、穿孔性評点、偏肉率評点ともに極めて良好なことがわかる。また、δが、100°≦δ≦140°の範囲内の場合も良好である。しかし、δが155°の場合の偏肉率評点は劣っており、この結果からも、FFロールで圧下した場合には、穿孔時の噛込み性が悪化し、偏肉率も大きくなることが理解できる。
【0059】
図12は、VVロールを用いて圧下を行なった場合の、ビレットのεと穿孔性評点および、素管の偏肉率評点との関係を示したものである。εが大きくなるにしたがって、穿孔性評点、偏肉率評点共に大きくなるが、εが5%以下、したがって、δが70°≦δ≦110°(図6)の範囲にある場合は、穿孔性評点、偏肉率評点ともに良好なことがわかる。また、εが3.5%未満になると、穿孔性評点、偏肉率評点ともにさらに良くなることがわかる。
【0060】
図13は、FVロールを用いて圧下を行なった場合の同様の結果である。εが大きくなるにしたがって、穿孔性評点、偏肉率評点共に大きくなるが、εが4.5%以下、したがって、δが70°≦δ≦110°(図7)の範囲内にある場合は、穿孔性評点、偏肉率評点ともに良好なことがわかる。また、εが2.5%以下になると、穿孔性評点、偏肉率評点ともにさらに良くなることがわかる。
【0061】
以上に示した様に、本発明の方法を適用すると、ビレットの内質が向上し、したがって、マンネスマン穿孔時の内面疵発生率は大幅に低下し、しかも、圧下量を大きくしてもεは大きくならないため、マンネスマン穿孔性の劣化も小さく、また得られた素管の偏肉も低く抑制できることが明らかとなった。
【0062】
なお、本発明の方法により、ビレットを製造する場合は、製品の継目無鋼管の内面疵の発生状態と、マンネスマン穿孔性、素管の偏肉率等を考慮して、最適の体積減少率を採用する。たとえば、偏肉率に対する要求が強い場合は、若干の内面疵の発生を許容し、体積減少率が低めの、例えば、2%程度の体積減少率の圧下を行なってビレットとする。逆に、偏肉率に対する要求が大きくない場合は、体積減少率を例えば、5%程度に上げたビレットを製造して、内面疵の発生を少なくする。
【0063】
【発明の効果】
本発明の完成により、従来は不可能であった、Cr含有鋼の連続鋳造によるビレットが、連続鋳造設備に変更を加えることなく可能となった。ビレットの断面形状を損ねることなく、また、寸法精度も従来と変わらない状態で、内質が大幅に改善されたビレットが製造可能になったことにより、付加価値の高いCr含有鋼の継目無鋼管の製造コストの低減が可能になったことの意義は極めて大きい。
【0064】
また、通常の炭素鋼等の連続鋳造ままのビレットの製造においても、内質の大幅な改善が、低コストで可能になったことにより、製品歩留りの向上、生産能率の向上等の大きな効果が得られれることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】VVロールによる本発明の実施の状態を示す図である。
【図2】FVロールによる本発明の実施の状態を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態を示す概略図である。
【図4】VVロールによる体積減少率とεとの関係を示す図である。
【図5】FVロールによる体積減少率とεとの関係を示す図である。
【図6】VVロールのδとεの関係を示す図である。
【図7】FVロールのVロールのδとεの関係を示す図である。
【図8】VVロールの圧下による、体積減少率、fsと、マンネスマン穿孔後の素管の内面疵の発生率との関係を示す図である。
【図9】FVロールの圧下による、体積減少率、fsと、マンネスマン穿孔後の素管の内面疵の発生率との関係を示す図である。
【図10】VVロール、およびFVロールの圧下による、fsと、マンネスマン穿孔後の素管の内面疵の発生率との関係を示す図である。
【図11】FVロールのVロールのδと穿孔性評点および、偏肉率評点との関係を示す図である。
【図12】VVロールによる圧下後のεと穿孔性評点および、偏肉率評点との関係を示す図である。
【図13】FVロールによる圧下後のεと穿孔性評点および、偏肉率評点との関係を示す図である。
【図14】溶鋼中のCr量と溶鋼の粘度との関係を示す図である。
【図15】溶鋼中のCr量と溶鋼の粘度との関係を示す図である。
【符号の説明】
1・・・・鋳型
2・・・・鋳片
3・・・・ピンチロール
4・・・・圧下ロール
41・・・VVロール
42・・・FVロール
43・・・Vロール(鞍型ロール)
44・・・Fロール(平ロール)
45・・・カリバー底の開き角度δ
Claims (5)
- 円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、鋳片の凝固完了点近傍に設置した一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールにカリバー底の開き角δが、70°≦δ≦110°である鞍型ロールを用い、偏平率εが5%以下の丸ビレットを製造することを特徴とする継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法。
ただし、偏平率ε(%)={1−(鋳片のある断面中での最短径部長さ)/(同一断面中の最長径部長さ)}×100である。 - 円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、鋳片の凝固完了点近傍に設置した一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールの一方に平ロールを、他の一方のロールにカリバー底の開き角δが、100°≦δ≦140°である鞍型ロールを用いることを特徴とする継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法。
- 円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールにカリバー底の開き角δが、70°≦δ≦115°である鞍型ロールを用い、連続鋳造中の鋳片の軸心部の固相率fsが0.3≦fs≦1の状態で、鋳片に体積減少率が、0.1〜5%の範囲内の圧下を加え、偏平率εが5%以下の丸ビレットを製造することを特徴とする継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法。
ただし、体積減少率=(ビレットC断面の面積減少率)×(鋳造速度)で、偏平率ε(%)={1−(鋳片のある断面中での最短径部長さ)/(同一断面中の最長径部長さ)}×100である。 - 円形鋳型により連続鋳造中の鋳片に、一対のロールにより圧下を加え、続いて切断して丸ビレットとし、マンネスマン穿孔法により継目無鋼管製造用の素管を製造する方法において、前記一対のロールの一方に平ロールを、他の一方のロールにカリバー底の開き角δが、100°≦δ≦140°である鞍型ロールを用い、連続鋳造中の鋳片の軸心部の固相率fsが0.3≦fs≦1の状態で、鋳片に体積減少率が、0.1〜5%の範囲内の圧下を加えることを特徴とする継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法。
ただし、体積減少率=(ビレットC断面の面積減少率)×(鋳造速度)である。 - 鋳片が、Cr含有量が0.5重量%を超える難加工性の継目無鋼管製造用の高Cr含有鋼であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の継目無鋼管製造用連続鋳造鋳片の製造方法。
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