JP3639937B2 - 防振ゴム組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防振ゴム組成物に関する。特には、自動車のエンジンマウント等、自動車用防振ゴムのための天然ゴムを主体とした組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や車両の振動を吸収し騒音を防止するため、エンジンマウント等のマウント材、ブッシュ材、ダンパー材などには防振ゴムが用いられる。
【0003】
自動車用防振ゴムを組成する高分子材料としては、天然ゴム系高分子材料が一般に用いられている。防振性能と繰り返し変形に対する抵抗性とにおいて適したものであるためである。天然ゴム系高分子材料としては、天然ゴム(NR)単独、または、天然ゴムを50重量%以上含むゴムブレンドに対して適当な充填材、油剤等が配合され成形される。ゴムブレンドとしては、例えば天然ゴムとブタジエンゴムとを80/20の重量比で配合したもの等が用いられている。
【0004】
天然ゴム系の防振ゴムにおいて、防振性能を改良する目的で、T. Ohyama, A. Ueda, H. Watanabe, Rubber Division, ACS, Detroit, Michigan, October 17-20, 1989においては、溶液重合形スチレン・ブタジエンゴム(以降S−SBRと呼ぶ)についてその末端を4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(以降EABと呼ぶ)により変成したもの40重量部と天然ゴム(NR)60重量部とのゴムブレンドを用いることが開示されている。このようにして、耐疲労性に優れ防振性能が改良された防振ゴム組成物を得ている。
【0005】
しかし、防振性能、特に振動吸収能(制振性能)において、近年厳しさを増す自動車メーカーの性能要求を十分に満足させることは出来なかった。性能要求は、自動車ユーザーの要求が高度化し一層振動と騒音の少ない自動車が求められるようになって来たことに対応したものである。
【0006】
一方、特公平3−59930、特公平5−15189及び特公平5−35179においては、スチレン・ブタジエンゴムの重合条件、共重合組成、分子量分布等を調整することにより防振特性の改良を図っている。しかし、これらによっても、厳しくなった性能要求を十分に満足させることはできない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
満足すべき防振性能を得るためには、ゴムの動倍率([動的バネ定数]/[静的バネ定数])の値が十分小さいものであって、かつ、減衰係数が十分に大きいものでなければならない。動倍率が小さいほど高周波領域における防振特性が良好であり、減衰係数が大きいほど低周波領域における防振特性が良好であるからである。また、同時に、ある程度の靱性(変形破壊に対する抵抗性)を備えなければならない。
【0008】
これら互いに相反する特性を十分に兼ね備えた防振ゴムは、上記従来の防振ゴム組成物によっては得られていない。
【0009】
本発明は、十分に低い動倍率と十分に高い減衰係数とを兼ね備え、かつ必要な靱性を備えることにより、自動車用としてのより厳しい性能要求を満足させることの出来る防振ゴム組成物を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1の防振ゴム組成物においては、天然ゴム70〜95重量%、溶液重合形スチレン・ブタジエンゴム5〜30重量%からなる固形ゴム100重量部に対して、水添率が80%以上の液状ポリイソプレンを1〜10重量部添加することを特徴とする。
【0011】
上記構成により低動倍率かつ高減衰係数であって、必要な靱性を備えた防振ゴム用組成物が得られる。
【0012】
請求項2の防振ゴム組成物においては、請求項1記載の防振ゴム組成物において、前記スチレン・ブタジエンゴムは、末端が4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンにより変成されたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項3の防振ゴム組成物においては、請求項1記載の防振ゴム組成物において、前記スチレン・ブタジエンゴムは、末端がスズ化合物により変成されたものであることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる固形ゴム成分は、天然ゴム70〜95重量%と、S−SBR5〜30重量%とを含む。S−SBRは、好ましくは、EABまたはスズ化合物により末端が変成されたものである。末端変成に用いるスズ化合物としては、四塩化スズ、三塩化ブチルスズを挙げることができる。このような変成により、S−SBRのゴム高分子鎖間に、加工時に解離可能で再形成可能なカップリング部が形成される。そのため、このような変成S−SBRは、加工時における混練り及び成形が容易であるとともに靱性、すなわち変形破壊に要するエネルギーが大きい。靱性は、引っ張り試験の際の歪み−応力曲線における、破断までの応力の歪みによる積分値(抗張積)で表される。
【0015】
天然ゴムとS−SBRとのブレンドにおいて、このような変成S−SBRを用いると防振性能の改善が見られるが、これは変成S−SBRの分子量分布がバイノーダル(2山形)であるためと考えられる。
【0016】
固形ゴム成分におけるS−SBRの含有量が5重量%未満であると、高減衰係数が得られないため好ましくなく、逆に30重量%を越えるとゴムの靱性が低下するとともに動倍率が上昇してしまう。
【0017】
上記のような固形ゴム成分100重量部に対して、水添率が80%以上の液状ポリイソプレンを1〜10重量部添加する。液状ポリイソプレンは、比較的分子量が低いか、シス−トランスの配列がランダムなものである。
【0018】
液状ポリイソプレンの水添率が80%未満であると、ゴムの加硫成形の際、又は老化の進行により固形ゴム成分との架橋が進行するため、液状ポリイソプレンの添加による効果が損なわれる。
【0019】
このような液状ポリイソプレンを添加することで、添加量により、減衰係数を約10〜20%増加させることができ、かつ、動倍率定数を最大10%程度低減させることができる。
【0020】
液状ポリイソプレンの添加量が1重量部程度であると、抗張積の低下は僅かであるが、添加量の増大に伴い低下量が大きくなり、10重量部程度の添加量では、10%弱の抗張積の低下が見られる。
【0021】
防振性能の向上と抗張力とのバランスから1〜10重量部の添加量が一般には好ましいが、用途によって適宜添加量を選択することができる。
【0022】
このような基本組成に加えて、カーボンブラック、油剤、加硫剤等の、防振ゴム用各種配合剤が用途、要求性能により適宜配合される。
【0023】
【実施例】
(実施例1〜6)
ケース温度を50℃に設定した内容積1.7リットルのB型バンバリーミキサーに、下記に示す配合で、天然ゴム、変成S−SBR及び液状ポリイソプレン、亜鉛華、ステアリン酸を投入し混練した。30秒後、さらにアロマオイル及びカーボンブラックを投入して混練を継続し、開始より3分経過した時点で、硫黄および加硫促進剤を投入し、開始後3分30秒の時点で、ダンプアウトした。ダンプアウト時の配合物の温度は約120〜140℃であった。
【0024】
評価に使用した配合物組成
固形ゴム成分 100重量部
(天然ゴム 70〜95 〃)
(変成S−SBR 30〜 5 〃)
液状ポリイソプレン 1〜10 〃
HAF級カーボンブラック 50 〃
アロマオイル 10 〃
ZnO 5 〃
ステアリン酸 1 〃
硫黄 1 〃
促進剤 CZ 1.5 〃
促進剤 TT 0.5 〃
得られた配合物から160℃×20分間の加硫により、直径8mm×高さ4mmの円柱形試験片を作成し粘弾性測定装置((株)東洋精機製作所製レオログラフソリッド)にて、25℃、100Hzにおける圧縮時の動的バネ定数、及び10Hzにおける減衰係数を求めた。同試験片について(株)東洋精機製作所製ストログラフRを用いて圧縮方向の静的バネ定数を測定し、これから動倍率(動的バネ定数/静的バネ定数)を算出した。これらの測定は、JIS K 6385に準拠して行った。
【0025】
さらに、上記配合物から160℃×20分間の加硫により厚さ2mmのシートを得て引っ張り物性用試験片(1号ダンベル)を打ち抜き、JIS K 6301に準拠して引っ張り試験を行った。この結果から抗張積を求めた。
【0026】
表1に、各実施例について、固形及び液状ゴム成分の具体的な配合とともに得られた物性値を示す。物性値は、従来例の物性値を100とした相対比で表した。例えば減衰係数指数113とは、従来例の減衰係数を1.13倍した値、すなわち13%増加した値であることを示す。ここで従来例は、液状ゴム成分が無添加であって固形ゴム成分が天然ゴムのみからなる他は実施例1〜6と同様の組成としたものであり、物性測定値は下記のとおりである。
【0027】
従来例の物性値
静的バネ定数 15.0N/mm
動的バネ定数 15.2N/mm
動倍率 1.01
減衰係数 0.76N・S/mm
抗張積 15.5KPa・%
【表1】
Figure 0003639937
実施例1〜3は、固形ゴム成分におけるEAB変成S−SBRの含有量を20重量%とし、固形ゴム成分100重量部に対する液状ポリイソプレンの添加量をそれぞれ1重量部、5重量部及び10重量部としたものである。添加量が1重量部と少量であっても、減衰係数が9%増加し動倍率が3%低減するという改善が見られ、このとき、抗張積の低下はほとんど見られない(実施例1)。液状ポリイソプレンの添加量が5、10重量部と増加するに従い、減衰係数はさらに増加するとともに動倍率がさらに低下した(実施例2、3)。しかし、同時に抗張積の低下も見られたため、液状ポリイソプレンの添加量は10重量部程度以下が好ましいことが知られた。
【0028】
実施例4〜5は、液状ポリイソプレンの添加量を実施例2の場合と同様の5重量部に固定し、固形ゴム成分におけるEAB変成S−SBRの含有量を実施例1〜3の場合の20重量部からそれぞれ5重量部及び30重量部と変化させたものである。変成S−SBRの含有量が5重量%であっても実施例2とほぼ同様の物性値が得られたが、減衰係数の低減はやや少ない(実施例4)。一方、EBA変成S−SBRの固形ゴム中の含有量を30重量%とした場合には、減衰係数の増加はさらに顕著であったものの、動倍率はむしろ劣った値となった。この結果からEBA変成S−SBRの固形ゴム中の含有量は30重量%以下程度が好ましいことが知られる。
【0029】
実施例6は、EAB変成S−SBRに代えてスズ変成S−SBRを用いた他は実施例2と同様としたものである。実施例2の結果との対比から、いずれの変成S−SBRを用いても物性値に差が見られないことが知られる。
【0030】
(比較例1〜3)
各比較例における固形及び液状ゴム成分の配合と得られた物性値について表2に示す。
【0031】
【表2】
Figure 0003639937
比較例1は、実施例1〜3と同様の固形ゴム成分100重量部に対する液状ポリイソプレンの添加量を20重量部としたものである。減衰係数の増加と動倍率の低減において優れているが、抗張積の低下が顕著であった。
【0032】
比較例2は、液状ポリイソプレンの添加量を実施例2及び実施例4〜6と同様とし、EBA変成S−SBRの固形ゴム中の含有率を50重量%としたものである。減衰係数は、実施例1〜6のいずれのものより大きかったが、動倍率がかなり増大した他、抗張積の低下もやや顕著であった。
【0033】
比較例3は、実施例2における天然ゴムをイソプレンゴムに置き換えたものである。この場合、動倍率は十分に低減されたものの、減衰係数が低下した。
【0034】
【発明の効果】
自動車用防振ゴム組成物において、末端がカップリング部を形成するように変成された溶液重合形S−SBRと液状ポリイソプレンとを天然ゴムに加えることにより、自動車用としての、より厳しくなった性能要求を満足させる上で、十分に低い動倍率、十分に高い減衰係数及び必要な靱性を備えたものを提供する。

Claims (3)

  1. 天然ゴム70〜95重量%、溶液重合形スチレン・ブタジエンゴム5〜30重量%からなる固形ゴム100重量部に対して、
    水添率が80%以上の液状ポリイソプレンを1〜10重量部添加する
    ことを特徴とする防振ゴム組成物。
  2. 請求項1記載の防振ゴム組成物において、
    前記スチレン・ブタジエンゴムは、末端が4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンにより変成されたものである
    ことを特徴とする防振ゴム組成物。
  3. 請求項1記載の防振ゴム組成物において、
    前記スチレン・ブタジエンゴムは、末端がスズ化合物により変成されたものである
    ことを特徴とする防振ゴム組成物。
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