JP3629049B2 - 海苔の病害防除剤及び海苔の病害防除方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、海苔の病害防除剤及び海苔の病害防除方法に関し、詳しくは特定濃度の酢酸と特定の有機酸を含む海苔の病害防除剤及び該防除剤に海苔葉体及び/又は海苔芽を2.5〜20分間浸漬することにより、赤腐れ病などの病害から海苔を防除する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海苔の養殖において、雑藻の駆除,病害の防除等を目的として「干出」と呼ばれる作業が行われるが、外洋における浮き流し養殖の場合、この作業は多大の労力と時間を要し、効率的な方法と言えない。そのため、薬剤で処理することによって海苔の病害を防除する方法が提案されている。
例えば、海苔の養殖過程において海苔養殖網を、クエン酸0.3〜5.0重量%を含有する溶液に浸漬処理する方法(特公昭60−13647号公報)やクエン酸以外の有機酸を0.3〜15重量%含む溶液に浸漬処理する方法(特公昭60−31451号公報)が提案されている。
前者の方法は、海苔の付着した海苔養殖具をクエン酸0.3〜5重量%を含み、pHが1.0〜6.0の処理液に5〜60分浸漬するものである。また、後者の方法は、海苔の付着した海苔養殖具をクエン酸以外の有機酸、特に酒石酸, コハク酸, シュウ酸等の有機酸を0.3〜15重量%含有し、pHが1.0〜4.0に調整された処理液に5〜60分浸漬するものである。
【0003】
その他、炭素数1〜4の飽和脂肪族カルボン酸(例えば酢酸,蟻酸等),炭素数2〜4の飽和又は不飽和ジカルボン酸(例えばシュウ酸,コハク酸等),グリコール酸,乳酸,酒石酸, リンゴ酸,クエン酸からなる群から選ばれた有機カルボン酸の1種または2種以上を有効成分として含有する殺藻剤を0.03〜1.0%の濃度となるように海水もしくは淡水に溶解した液を用い、海苔養殖網に付着した藻類を直接散布によって非選択的に殺藻する方法が提案されている(特公昭56−12601号公報)。
この方法は、アオノリ等の雑藻を駆除するもので、酢酸等を0.03〜1.0%の濃度となるように用い、直接散布によって非選択的に処理するので、殺藻効果はあるものの、処理効果がまちまちであるという欠点がある。
この方法を実施した場合の養殖海苔自体の傷害について言及されていないが、上記のような条件ではアオノリ等の雑藻を死滅させるだけでなく、養殖海苔にも傷害が現れ、品質の良い海苔を生産することはできないことが当業者に知られている。実際、「海苔網に着生したアオノリの酸処理による駆除」〔山口県内海水産試験場報告、12巻、58〜68頁(1983年)〕によると、海苔よりアオノリの方が耐酸性が強いため、酢酸溶液への浸漬処理はアオノリの駆除に適さないと報告されている。
【0004】
また、前述の特公昭60−13647号公報や特公昭60−31451号公報に記載されている海苔養殖法は、養殖海苔に傷害を与えることなく、アオノリ,珪藻等の雑藻や赤腐れ病などの病気を駆除することが可能であるが、クエン酸等の有機酸が0.3%以上必要であるため、大量に処理液が必要な海苔養殖業者にとっては大きなコスト負担となる。しかも、処理時間も比較的長時間を要する。
このように、海苔養殖時に十分な防除効果を奏する病害防除剤がないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
酢酸は有機酸の中で抗菌性が最も強いとされており、酢酸を含む醸造酢、いわゆる食酢は酸味調味料としては言うに及ばず、食品の日持ち向上剤,防腐剤などとして幅広く利用されている。しかも、食酢には健康的なイメージがあるため、これまで海苔養殖には利用できないと考えられていた雑藻や病害の駆除に用いることができれば、海苔の健康的なイメージを損なわない安全な海苔処理剤と海苔養殖方法を提供できることになる。
さらに、従来の海苔処理液は、海苔網等を何回も繰り返し浸漬すると、海水によって希釈されて有効成分の濃度が低下し、pHが上昇するので、新たな処理液を追加しなければならない。
これに対して、食酢には緩衝効果があるので、有効成分の濃度低下やpH上昇を抑制することが可能で、処理液の消費量を節減することができる。
【0006】
本発明は、このような点に鑑み、酢酸を含む低濃度の有機酸、特に醸造酢などの酢酸含有液を利用し、しかも短時間の処理で雑藻や病害の駆除を可能とした海苔の病害防除剤及び海苔の病害防除方法の提供を目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、酢酸濃度を低濃度にすることにより海苔の傷害を防ぐことに成功し、しかも他の特定の有機酸を組み合わせることによって、防除剤のpHを低下させることにより、雑藻や病害を駆除することに成功した。さらに、適量の酢酸を含むことにより、海苔の病害防除のための処理時間を短縮することができ、防除剤の全濃度を低くすることができた。
【0008】
すなわち、本発明は酢酸濃度0.05重量%以上0.15重量%未満の酢酸とリンゴ酸,フマル酸,グルコン酸及びクエン酸の中から選ばれた1種または2種以上の有機酸を含み、かつ両者の合計酸濃度が0.3重量%未満であるpH1.5〜3.0の海苔の病害防除剤並びに該海苔の病害防除剤に、海苔芽及び/又は海苔葉体を2.5〜20分間浸漬することを特徴とする海苔の病害防除方法を提供するものである。
【0009】
本発明に使用する酢酸は、醸造酢、いわゆる食酢、工業的に合成された酢酸に調味添加物を加えた合成酢の他、氷酢酸であってもよい。特に、食用として利用される食酢を用いれば、海苔の健康的なイメージを損なうことなく安全で取扱いに危険性がなく、かつ健全な防除剤を提供できる。
酢酸は、酢酸濃度が0.05重量%以上0.15重量%未満、好ましくは0.05〜0.10重量%となるような範囲で用いられる。酢酸濃度が0.05重量%未満ではリンゴ酸等の有機酸と組み合わせて用いても十分な病害防除効果が奏されず、酢酸濃度が0.15重量%を越えると、海苔に対して傷害を与えるため、好ましくない。
【0010】
次に、リンゴ酸,フマル酸,グルコン酸及びクエン酸の中から選ばれた1種または2種以上の有機酸は、酢酸との併用で海苔の病害防除に作用するものであり、防除剤のpHを低下させる効果(pH1.5〜3.0)を有している。なお、pH低下という目的には無機酸の使用も可能であるが、行政通達により海苔の養殖には無機酸の使用が禁止されている。
本発明に用いる上記の有機酸は、抗菌性が比較的強いものであり、酢酸との合計量が0.3重量%を越えないように用いる。この範囲で使用すれば、海苔に傷害を与えることなく、雑藻類を駆除することができる。
【0011】
本発明の海苔の病害防除剤は、通常海苔の養殖現場で海水を利用して希釈し、各成分の濃度を前記した濃度に調整する。なお、海水の代わりに水道水や淡水を利用しても差し支えないことは勿論である。
この病害防除剤を用いて海苔の病害防除を実施するための処理方法は、任意であり、例えば海苔網等の養殖具を病害防除用処理液に順次浸漬していく方法、一度に海苔網等を処理液に浸漬する方法等が採用される。浸漬時間は、海苔網等に付着した海苔芽及び/又は海苔葉体が該処理液に2.5〜20分間浸漬するようにすれば十分である。
【0012】
海苔の病害防除は、養殖過程で病害の発生を見つけた時点で速やかに実施すればよいが、予め適当な時期に上記の浸漬処理を行うことにより、病害の発生を予防することが可能である。
本発明の方法により、赤腐れ病の防除だけでなく、白腐れ病等の海苔病害の防除や、アオノリ,アオサ,珪藻などの雑藻類も防除することができる。
【0013】
【実施例】
次に、本発明を試験例及び実施例により詳しく説明する。
試験例1
酢酸を第1表に示す濃度で海水に溶解して調製した処理液に、健全な海苔葉体と赤腐れ菌(Pythium 属)に感染した海苔葉体を、2.5〜20分浸漬させた後、引き上げて海水で洗浄し、2リットル容フラスコで2日間通気培養を行い、海苔葉体の傷害による細胞死滅率及び赤腐れ菌の死滅率を判定した。酢酸による海苔葉体の傷害度、すなわち細胞死滅率の判定は、海苔葉体をエリスロシン染色した後、海苔葉体に占めるエリスロシン染色部分の割合を肉眼で判定(前記「山口県内海水産試験場報告」参照)することにより行った。エリスロシンによる染色では、正常細胞は染色されるが、傷害致死に至った細胞は染色されない。したがって、染色度90%以上であれば、正常細胞が90%以上存在すると言える。また、赤腐れ菌の死滅率は、顕微鏡観察により赤腐れ菌に侵された海苔の病斑細胞の死滅率を測定することにより判定した。結果を第1表に示す。なお、表中の上段の記号は細胞死滅率を示し、+++は染色度10%未満、++は染色度10%以上50%未満、+は染色度50%以上90%未満、−は染色度90%以上を表し、下段の記号は赤腐れ菌の死滅率を示し、─は海苔傷害により判定不能、×は死滅率20%未満、△は死滅率20%以上50%未満、○は死滅率50%以上90%未満、◎は死滅率90%以上を表す。
【0014】
【表1】
Figure 0003629049
【0015】
第1表から明らかなように、酢酸による海苔の傷害は0.15重量%濃度の処理液に長時間浸漬した段階より発生し、濃度が0.15重量%を越えると傷害はさらに顕著になる。しかし、0.15重量%未満の濃度では傷害は発生しない。また、第1表に示す酢酸濃度における赤腐れ病に侵された病斑細胞の死滅率を見た場合、海苔の傷害がなく、かつ病斑細胞が90%以上死滅する効果は認められなかった。ただし、酢酸濃度0.075〜0.1重量%で20分浸漬した場合は、赤腐れ菌の死滅率が50%以上90%未満で、海苔への傷害は認められなかった。
【0016】
試験例2
処理液中の酢酸の有効濃度を調べるために、第2表に示す酢酸濃度及びリンゴ酸濃度となるように海水に溶解した処理液を作成し、この処理液に健全な海苔葉体と赤腐れ菌に感染した海苔葉体を2.5〜10分浸漬させた後、引き上げて海水で洗浄し、試験例1と同様の方法により海苔葉体の傷害による細胞死滅率及び赤腐れ菌に侵された病斑細胞の死滅率を判定した。結果を第2表に示す。なお、表中の記号は第1表と同じ意味である。
【0017】
【表2】
Figure 0003629049
【0018】
第2表から明らかなように、酢酸濃度が0.05重量%未満では、海苔に傷害は認められないが、赤腐れ病に侵された病斑細胞を処理液に短時間浸漬させることによって死滅させることは困難で、赤腐れ病の防除ができないことが判った。
なお、90%以上の病斑細胞が死滅していれば、処理後海苔葉体の培養を継続しても赤腐れ菌の発生を防ぐことができるが、死滅率が90%未満の場合は、赤腐れ菌の発生が見られるので、赤腐れ病を防除できるとは言えない。
【0019】
試験例3
第3表に示すように、各種有機酸の単独液又は混合液を調製し、この処理液に健全な海苔葉体と赤腐れ菌に感染した海苔葉体を2.5〜10分浸漬させた後、引き上げて海水で洗浄し、試験例1と同様の方法により海苔葉体の傷害による細胞死滅率及び赤腐れ菌(Pythium 属)の死滅率を判定した。結果を第3表に示す。なお、表中の記号は第1表と同じ意味である。
【0020】
【表3】
Figure 0003629049
【0021】
第3表から明らかなように、処理液による海苔の傷害はどの試験区でも発生しなかった。また、赤腐れ菌の死滅率を見ると、酢酸単独処理液では十分な効果が見られず、リンゴ酸単独液,グルコン酸単独液,クエン酸単独液及びリンゴ酸とフマル酸の混合液でも病斑細胞の死滅率は低かった。
これに対して、リンゴ酸とフマル酸の混合液(0.2重量%)に酢酸(0.075重量%)を配合した処理液では、2.5分の浸漬でも赤腐れ菌に侵された病斑細胞は90%以上死滅しており、しかも5分間以上の浸漬でも同等以上の効果が認められた。なお、リンゴ酸とフマル酸の混合液の濃度を0.275重量%にした処理液でも、酢酸が含まれていないものは、病斑細胞の死滅率は低い。酢酸にグルコン酸又はクエン酸を混合して調製した処理液も同様に優れた効果を発揮することが判った。
【0022】
実施例1
海水を用いて酢酸試薬とリンゴ酸試薬を希釈し、酢酸濃度を0.05重量%、リンゴ酸濃度を0.225重量%に調整した処理液を調製し、この処理液に赤腐れ菌に感染した海苔が付着した養殖網を2.5分間又は5分間浸漬させた後、海水に戻して2日間養殖した。その後、海苔葉体に感染した赤腐れ菌の病斑細胞の死滅率を顕微鏡観察により判定した。結果を第4表に示す。なお、表中の記号は第1表と同じ意味である。
また、アオノリと海苔の付着した養殖網を上記処理液に2.5分間又は5分間浸漬させたのち、海水に戻して2日間養殖した後、エリスロシン染色を行ってアオノリと海苔葉体の細胞死滅率を測定した。結果を第5表に示す。表中の記号は第1表と同じ意味である。
【0023】
【表4】
Figure 0003629049
【0024】
【表5】
Figure 0003629049
【0025】
表から明らかなように、本発明の方法により海苔の赤腐れ病の防除並びに雑藻の駆除が短時間で十分に行われる。
【0026】
実施例2
市販の醸造酢を酢酸濃度として0.05重量%に、リンゴ酸とフマル酸の混合液(50:1)の濃度が0.225重量%になるように海水に溶解した処理液に、赤腐れ菌に感染した海苔が付着した海苔養殖網を2.5分間又は5分間浸漬させた後、海水に戻して2日間養殖した。その後、海苔葉体に感染した赤腐れ菌の病斑細胞の死滅率を顕微鏡観察により判定した。結果を第6表に示す。表中の記号は第1表と同じ意味である。
【0027】
【表6】
Figure 0003629049
【0028】
表から明らかなように、本発明により海苔の病害防除を短時間で十分に行うことができる。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、食酢等の酢酸含有液を主体とする防除剤を用いて海苔葉体及び/又は海苔芽を損傷することなく、短時間で病害の防除と雑藻の駆除を効率よく実施することができる。したがって、本発明は海苔養殖の分野における貢献が期待される。

Claims (4)

  1. 酢酸濃度0.05重量%以上0.15重量%未満の酢酸とリンゴ酸,フマル酸,グルコン酸及びクエン酸の中から選ばれた1種または2種以上の有機酸を含み、かつ両者の合計酸濃度が0.3重量%未満であるpH1.5〜3.0の海苔の病害防除剤
  2. 赤腐れ病防除剤である請求項1記載の海苔の病害防除剤。
  3. 酢酸が醸造酢,合成酢及び氷酢酸のいずれかである請求項1記載の海苔の病害防除剤。
  4. 請求項1記載の海苔の病害防除剤に、海苔芽及び/又は海苔葉体を2.5〜20分間浸漬することを特徴とする海苔の病害防除方法。
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