JP3625408B2 - マルチワイヤソーを用いた加工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の平行なワイヤを有するマルチワイヤソーを用いた加工方法に関し、特に、ウェハなどにおいて表裏面の内一方の面の加工精度のみが要求される場合に、その一方の面の加工精度を維持しながら効率良く連続加工を行うことができるマルチワイヤソーを用いた加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、マルチワイヤソーは、IDソーに比較して少ない切り代で切断加工できる利点や、同時に複数の切断加工ができるため加工処理能力において優れている利点がある。
【0003】
一方、マルチワイヤソーはIDソーに比べて加工精度が劣るという欠点があり、特に、マルチワイヤソーは少ない切り代で切断加工するために切断物とワイヤとの間隔が狭くて、ワイヤを切断物から抜き取る際に、ワイヤが切断物の切断面に接触して切断面に傷が付くという欠点がある。
【0004】
特に、ワイヤ間隔が狭い場合は、図4(a)と(b)に示すように、取り付け台13上のワークを切断して得られた切断物11,11同士が、変形によって切断開始端11a,11aで接触することがある。この場合は、切断開始端11a,11a,…の上方から洗浄液15を噴霧しても、切断物11,11,…の間の砥粒14,14,…は洗い落されずに残留する。このため、複数の切断物11,11,…からマルチワイヤソーの複数のワイヤ12,12,…を抜く取る際に、ワイヤ12,12,…自体によって、あるいは切断物11,11,…の間に残留する砥粒14,14,…によって、切断物11,11,…の切断面に傷が付くという問題がある。
【0005】
したがって、従来の技術では、マルチワイヤを切断物から分離する際に、切断面に傷が付くのを防止するために、ワークの切断が完了した状態でワイヤを切断し、ワイヤが切断物に触れないようにして、ワイヤを引き抜く方法がとられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このマルチワイヤソーのワイヤを切断してワイヤを切断物から引き抜く方法では、ワークを切断した毎にワイヤを交換する必要があるので、装置の稼動サイクルタイムが長くなるという問題があった。
【0007】
また、切断物を切断した毎に新たなワイヤに交換しなければならず、ワイヤの費用が増大するという問題があった。
【0008】
さらに、ワイヤの切断によってワイヤが急にテンションを失うため、慎重に作業してもワイヤを抜き去る際にワイヤの端が跳ねて切断物の切断面に接触して、切断面に傷が付くという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、マルチワイヤソーのワイヤを切断せずに複数回使用できて、かつ、切断物の切断面に損傷を与えることのないマルチワイヤソーを用いた加工方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のマルチワイヤソーを用いた加工方法は、固定されたワークを、複数の平行なワイヤを有するマルチワイヤソーを用いて切断して複数の切断物を得るマルチワイヤソーを用いた加工方法において、上記マルチワイヤソーの平行な複数のワイヤで砥粒を含んだ砥液を流しながらワークを切断して、複数の切断物を得た後、上記複数のワイヤを上記複数の切断物の片側の切断面に向けて変位させるか又はワークを変位させた後、上記マルチワイヤソーを上記複数の切断物から分離することを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、複数の平行なワイヤを有するマルチワイヤソーで固定されたワークを切断して複数の切断物を得た後、上記複数のワイヤを上記切断物の片側の切断面に向けて変位させるか又はワークを変位させ、次に、上記マルチワイヤソーを上記複数の切断物から分離する。上記複数のワイヤを上記切断物の片側の切断面に向けて変位させるか又はワークを変位させて抜き取るから、上記片側の切断面と対向する切断面に上記ワイヤが接触することなく、上記マルチワイヤソーが上記複数の切断物から分離される。したがって、上記切断物の片側の面に傷が付いても、他の側の面には傷が付くことがない。また、マルチワイヤソーのワイヤをワークの切断毎に、従来のようにワイヤを切断することがないので、稼動サイクルタイムを短くでき、かつ、コストを安くできる。
【0012】
一実施例では、上記マルチワイヤソーの複数のワイヤの切断物の切断面に向けて変位させる量Lが、wを切り代、dをワイヤ直径として
L≧(w−d)/2
であることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、複数のワイヤを複数の切断物における片側の切断面に向けて変位させる量Lが、L≧(w−d)/2であるから、マルチワイヤソーの複数のワイヤは、切断物の片側の切断面に接触して片側の切断面と対向する切断面に傷を付けるといったことがなく、また切断物に塑性変形を与えることもなく、上記複数の切断物から分離される。
【0014】
一実施例では、上記砥粒はJIS−R6001の#2000以上の粒度であって、ワークへの切断加工ダメージを軽減することを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、#2000以上の粒度の小さな砥粒が用いられているから、切断されたワークに残留するダメージを小さくすることができ、切り代も小さくすることができる。
【0016】
一実施例では、上記砥粒はJIS−R6001の#3000から#6000の粒度であることを特徴としている。
【0017】
上記構成によれば、上記砥粒は#3000から#6000の粒度であるから、切断されたワークに残留するダメージを小さくすることができ、切り代も小さくすることができると共に、加工能率も低下させることなくワークを切断できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0019】
図1は、切断前のワークとしてのインゴット1とマルチワイヤソー2の斜視図である。上記インゴット1は、例えば、LEC(液体封止チョクラルスキー)法によって<111>方向に成長した閃亜鉛鉱構造を持つ円柱状の化合物半導体単結晶インゴットである。上記マルチワイヤソー2は、同一平面上に平行に配置された複数のワイヤ2a,2a,…を有している。上記インゴット1は、例えばセラミックベース等のような取り付け台3の上に貼り付けられいて、インゴット1がJIS−R6001の#2000以上の粒度の砥粒、好ましくは#3000〜#6000の粒度の砥粒を含んだ砥液をかけながらマルチワイヤソー2によって完全に切断されて切断物であるウェハ1a,1a,…になった後も、ウェハ1a,1a,…は取り付け台3に固定されている。この取り付け台3はステージ6上に取り付けられ、ステージ6はy軸方向とz軸方向にスライドできる機構(図示せず)を備えている。上記インゴット1は、図1に示すように、ステージ6のz軸正方向のスライドによって、マルチワイヤソー2の下に設置されている。また、上記インゴット1は、ステージ6のy軸正方向のスライドによって上方に移動し、走行するマルチワイヤソー2で切断される。さらに、このステージ6は、インゴット1の下記の両角度θとφを微調整できる機構(図示せず)を備えていて、インゴット1から所望の結晶面、例えば{111}面を切り出すことができる。ここで、互いに直交するx軸,y軸,z軸の内、y軸がワイヤ2a,2a,…を含む平面と直交する場合、上記角θはセットした結晶の<111>方向をzx面上に投影した直線とz軸のなす角であり、上記角φは<111>方向をyz面上に投影した直線とz軸のなす角である。
【0020】
上記インゴット1のマルチワイヤソー2による切断と切断後のワイヤ2a,2a,…の抜き取りは、以下のようにして行なわれる。
【0021】
まず、上記インゴット1を取り付け台3に貼り付け固定した後、ステージ6をz軸正方向に移動させ、図1に示すように、インゴット1をワイヤ2a,2a,…の下へ配置する。次に、上記マルチワイヤソー2を作動させて、ワイヤ2a,2a,…をx軸正方向または負方向に走行させる。そして、上記ステージ6をy軸正方向に移動させて、ワイヤ2a,2a,…でインゴット1を切断し、図2に示すように、ウェハ1a,1a,…を形成する。これらのウェハ1a,1a,…は、取り付け台3へ固定された状態まま、並立している。ウェハ1a,1a,…の間は間隔が狭いために、ウェハ1a,1a,…間に砥粒4,4,…が残留する。この砥粒4,4,…は、ウェハ1a,1a,…の上方または側方から洗浄液を噴射して除去される。
【0022】
上記ワイヤ2a,2a,…は、インゴット1を切断してウェハ1a,1a,…にしたときには、取り付け台3まで入り込んでいる。次に、図3に示すように、ワイヤ2a,2a,…が取り付け台3まで入り込んだ状態で、ステージ6をスライドすることによって取り付け台3をz軸正方向にずらし、ウェハ1a,1a,…の片側の切断面7,7,…に向けてワイヤ2a,2a,…を相対的に変位させる。上記取り付け台3をz軸正方向にずらす量Lは、下式に示す値にする。
L≧(w−d)/2
w:切り代、d:ワイヤ直径
【0023】
次に、上記取り付け台3をz軸方向にずらしたままで、ステージ6をy軸負方向に移動させ、ワイヤ2a,2a,…をウェハ1a,1a,…から抜き取る。
【0024】
このようにしてワイヤ2a,2a,…をウェハ1a,1a,…から抜き取ると、ワイヤ2a,2a,…は、図3に示すように、ウェハ1a,1a,…の一方の切断面7,7,…を傷つけても、他方の切断面8,8,…を傷つけることがない。ウェハ1a,1a,…の{111}B面の切断面8,8,…を傷付けることがないのである。
【0025】
上記ワイヤ2a,2a,…をウェハ1a,1a,…から抜き取る際には、ワイヤ2a,2a,…はウェハ1a,1a,… の{111}A面の切断面7,7,…に接触するが、上記取り付け台3をずらす量Lを上述のように設定しているので、ウェハ1a,1a,…に塑性変形を与える程大きな力は切断面7,7,…に作用しない。また、上記切断面7,7,…は、以下に説明するように、切断面8,8,…と同じ表面加工精度を要求されなることが少なく、したがって、このワイヤ2a,2a,…の切断面7,7,…への接触が問題になることはない。
【0026】
また、マルチワイヤソー2のワイヤ2a,2a,…をインゴット1の切断毎に切断することがないので、ワイヤ2a,2a,…の跳ね飛びによる切断面の損傷の恐れがなく、かつ、稼動サイクルタイムを短くでき、かつ、ワイヤ2a,2a,…の交換が不要でコストを安くできる。
【0027】
閃亜鉛鉱構造をもつ化合物半導体の{111}面は、{111}A面と{111}B面からなり、<111>方向と垂直な面で切り出した場合、必ず一方が{111}A面、他方が{111}B面となる。これらの面はその性質が異なるため、通常素子製造の際区別して取り扱われる。例えば、LEC法で<111>方向に成長させたGaP単結晶インゴットをマルチワイヤソーでウェハ状に切断した場合、{111}B面にエピタキシャル成長させることが一般的である。また、{100}面のように2つの切断面が等価な場合でも、通常素子化する場合は両面に等しい加工精度を要求しない。例えば、HB(水平ブリッジマン)法で成長させたGaAs単結晶インゴットを{100}面が出るようにウェハ状に切断加工した場合、任意に定めた一面をエピタキシャル成長用にポリッシュ加工し、他方はアズスライスのまま出荷されることがある。これは、エピタキシャル成長に用いない面は、エピタキシャル成長に使用する面ほど平坦でかつ切削ダメージ層が除去されている必要がないからである。
【0028】
以上のように、マルチワイヤソーによって切断加工されるウェハはその両側に同じ加工精度が要求されない場合が多く、本発明はこのような場合に特に有効である。
【0029】
なお、Lを(w−d)/2に比してどれだけ大きく設定するかは、ワイヤテンション、ウェハの脆性、砥粒径、ワイヤ固定端部距離に大きく依存する。
【0030】
また、本実施述形態では、取り付け台に対するワイヤの移動は、ワイヤの抜き取りを開始する前にLだけ実施した。しかし、ウェハの変形量が大きい場合またはウェハの弾性率が大きい場合は、取り付け台のy軸負方向への動きに連動して、ワイヤをウェハの一方の切断面に接触させないように取り付け台を連続的にz軸正方向または負方向に変位させて、ワイヤをウェハから抜き取っても良い。
【0031】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明のマルチワイヤソーを用いた加工方法によれば、マルチワイヤソーの複数のワイヤで砥粒を含んだ砥液を流しながらワークを切断して複数の切断物を得た後、上記複数のワイヤを上記切断物の片側の切断面に向けて変位させるか又はワークを変位させて、上記複数のワイヤを上記複数の切断物から抜き取るので、上記複数のワイヤを上記複数の切断物の片側の切断面と対向する側の切断面に接触させることなく、上記マルチワイヤソーを上記複数の切断物から分離することができる。したがって、上記切断物の片側の面に傷が付いても、上記片側の切断面と対向する側の切断面には傷が付くことがない。また、マルチワイヤソーのワイヤをロープの切断毎に切断することがないので、ワイヤの跳ね飛びによる切断面の損傷の恐れがなく、かつ、稼動サイクルタイムを短くでき、かつ、ワイヤの交換が不要でコストを安くできる。
【0032】
一実施例によれば、マルチワイヤソーの複数のワイヤの切断物の切断面に向けて変位させる量Lが、wを切り代、dをワイヤ直径として、L≧(w−d)/2であるので、上記マルチワイヤソーのワイヤを上記複数の切断物の片側と対向する側の切断面に接触させることなく、また切断物に塑性変形を与えることなく、上記複数の切断物から抜き取ることができる。
【0033】
一実施例によれば、上記砥粒はJIS−R6001の#2000以上の粒度であるので、使用する砥粒の粒度を小さくすることで切断されたワークに残留するダメージを小さくすることができ、切り代も小さくすることができる。
【0034】
また、一実施例によれば、上記砥粒はJIS−R6001の#3000から#6000の粒度であるので、切断されたワークに残留するダメージを小さくすることができ、切り代も小さくすることができると共に、加工能率も低下させることなくワークを切断できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態によるマルチワイヤソーと切断前のインゴットの斜視図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施形態による切断後のウェハとマルチワイヤソーの正面図であり、図2(b)は図2(a)の側面図である。
【図3】本発明の実施形態による切断後のウェハと切断後に変位されたマルチワイヤソーの平面図である。
【図4】図4(a)は従来法による切断後のウェハとマルチワイヤソーの正面図であり、図4(b)は図4(a)の側面図である。
【符号の説明】
1…インゴット、
1a…ウェハ、
2…マルチワイヤソー、
2a…ワイヤ。

Claims (4)

  1. 固定されたワークを、複数の平行なワイヤを有するマルチワイヤソーを用いて切断して複数の切断物を得るマルチワイヤソーを用いた加工方法において、
    上記マルチワイヤソーの平行な複数のワイヤで砥粒を含んだ砥液を流しながらワークを切断して、複数の切断物を得た後、
    上記複数のワイヤを上記複数の切断物の片側の切断面に向けて変位させるか又はワークを変位させた後、上記マルチワイヤソーを上記複数の切断物から分離することを特徴とするマルチワイヤソーを用いた加工方法。
  2. 請求項1に記載のマルチワイヤソーを用いた加工方法において、
    上記マルチワイヤソーの複数のワイヤの切断物の切断面に向けて変位させる量Lは、wを切り代、dをワイヤ直径として
    L≧(w−d)/2
    であることを特徴とするマルチワイヤソーを用いた加工方法。
  3. 請求項1または2に記載のマルチワイヤソーを用いた加工方法において、
    上記砥粒はJIS−R6001の#2000以上の粒度であって、ワークへの切断加工ダメージを軽減することを特徴とするマルチワイヤソーを用いた加工方法。
  4. 請求項3に記載のマルチワイヤソーを用いた加工方法において、
    上記砥粒はJIS−R6001の#3000から#6000の粒度であることを特徴とするマルチワイヤソーを用いた加工方法。
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