JP3623113B2 - 電解コンデンサ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電解コンデンサに関する。さらに詳しく述べると、本発明は、低インピーダンスで、低温特性及び耐熱性に優れ、そして特に寿命特性が良好な電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
コンデンサは、一般的な電気部品の一つであり、種々の電気・電子製品において、主として電源回路用や、ディジタル回路のノイズフィルター用に広く使用されている。
【0003】
現在使用されている電解コンデンサにはいろいろな種類のものがあり、その一例を示すと、アルミニウム電解コンデンサ、湿式タンタル電解コンデンサなどである。なお、本発明で特に優れた効果を期待できるものはアルミニウム電解コンデンサであり、したがって、以下、この種の電解コンデンサを参照して本発明を説明し、また、「電解コンデンサ」と言う場合、特に断りのある場合を除いてアルミニウム電解コンデンサを指すものとする。
【0004】
従来のアルミニウム電解コンデンサは、典型的には、高純度アルミニウム箔をエッチングしてその表面積を増加させた後、そのアルミニウム箔の表面を陽極酸化し酸化皮膜を施した陽極箔と表面をエッチングされた陰極箔を使用することによって製造することができる。次いで、得られた陽極箔と陰極箔とを対向して配置し、さらにそれらの箔の中間にセパレータ(隔離紙)を介在させて積層体となし、この積層体を巻き取つた構造の素子(コンデンサ素子)に電解液を含浸する。電解液含浸後の素子をケース(一般にはアルミニウム製)に収容し、そして弾性封口体で密封して電解コンデンサが完成する。なお、電解コンデンサには、このような巻回構造以外のものもある。
【0005】
上述のような電解コンデンサにおいては、電解液の特性が電解コンデンサの性能を決定する大きな要因をなす。特に近年の電解コンデンサの小型化に伴い、陽極箔あるいは陰極箔はエッチシグ倍率の高いものが使用されるようになり、コンデンサ本体の抵抗率が大きくなっていることから、これに用いる電解液としては、抵抗率(比抵抗)の小さな高導電性のものが常に要求される。
【0006】
これまでの電解コンデンサの電解液は、エチレングリコール(EG)を主溶媒としてこれに水を約10重量%程度まで加えて構成した溶媒に、電解質としてアジピン酸、安息香酸等のカルボン酸又はそのアンモニウム塩を溶解したものが一般的である。このような電解液では、比抵抗は1.5Ω・m(150Ω・cm)程度である。
【0007】
コンデンサにおいては、その性能を十分に発揮するため、インピーダンス(Z)を低下させることが絶えず求められている。インピーダンスは種々の要因により決定し、例えばコンデンサの電極面積が増加すれば低下し、そのため大型コンデンサになれば自ずと低インピーダンス化が図られる。また、セパレータを改良することで低インピーダンス化を図るアプローチもある。とは言え、特に小型のコンデンサにおいては、電解液の比抵抗がインピーダンスの大きな支配因子となっている。
【0008】
最近では、非プロトン系の有機溶媒、例えばGBL(γ−ブチロラクトン)等を使用した低比抵抗の電解液も開発されている(例えば、特開昭62−145713号公報、特開昭62−145714号公報及び特開昭62−145715号公報を参照されたい)。しかし、この非プロトン系電解液を用いたコンデンサは、低比抵抗をもたらすことが知られている電子伝導体を用いた固体コンデンサに比べると、インピーダンスがはるかに劣っている。
【0009】
また、アルミニウム電解コンデンサは、電解液を使用するために低温特性が悪く、100kHzにおける−40℃でのインピーダンスと20℃でのインピーダンスとの比:Z(−40℃)/Z(20℃)は約40と、かなり大きいのが実情である。加えて、電解液に水が含まれるような場合、低温環境下における使用中に凍結するというような問題も発生する。このような現状に鑑みて、現在、低インピーダンスであり、しかも低温特性に優れたアルミニウム電解コンデンサを提供することが望まれている。
【0010】
さらに、アルミニウム電解コンデンサの電解液においてその溶媒の一部として用いられる水は、陽極箔や陰極箔を構成するアルミニウムにとって化学的に活性な物質であり、したがって、陽極箔や陰極箔と反応して水素ガスを発生させたり特性を著しく低下させるという問題をかかえている。
一方、従来のアルミニウム電解コンデンサにおいては、温度加速評価試験において、陽極箔及び陰極箔の表面に水和物皮膜が形成されることに起因し、コンデンサ容量が次第に減少したり、その他コンデンサ特性の変化も大きくなる現象が発生することがある。このような現象も、電解コンデンサの短寿命化を招くものである。
【0011】
上記した水和物皮膜は、陽極酸化が施されていない陰極箔の表面に、陽極酸化が施されている陽極箔の表面に比較して形成され易いことから、陽極箔及び陰極箔を形成するアルミニウムが活性な金属であることに因るものと考えられる。このため、今まで、かかる水和物皮膜の形成を抑制する抑制剤を、陽極箔及び陰極箔に直接接触する電解液中に添加することが行われているが、その抑制効果にはバラツキがあり満足し得るものではない。したがって、陽極箔及び陰極箔の表面に形成される水和物皮膜を充分に抑制し得る電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサを提供することも望まれている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような従来の技術の多くの問題点を一挙に解決して、低インピーダンスであり、低温特性及び耐熱性に優れ、そして特に寿命特性が良好な電解コンデンサを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記した目的は、本発明に従うと、対向して配置された陽極箔及び陰極箔と、それらの中間に介在せしめられた隔離紙とから形成されたコンデンサ素子と、電解液とを含んでなる電解コンデンサにおいて、
前記電解液が、20〜55重量%の有機溶媒と80〜45重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種電解質とを含み、
前記隔離紙が、天然に産出するセルロース材料から製造された紙であり、かつ
前記隔離紙中のカチオンの含有量が500ppm 以下であり、陽極箔及び陰極箔の表面にゲル状の水和物皮膜が形成されないことを特徴とする電解コンデンサによって達成することができる。
【0014】
一般に電解コンデンサに使用される隔離紙においては、金属塩(カルボン酸、硫酸、硝酸等の有機酸、無機酸の塩)を数%程度の低い濃度で含有している。なぜなら、これらの金属塩や、イオン性の化合物が隔離紙に高濃度で含有されていた場合、それを電解コンデンサに使用すると、隔離紙が含有していた金属塩が電解液中にイオンとして溶出し、電解液の導電特性を不安定にしたり、腐食反応を促進させる等、コンデンサ特性に悪影響を及ぼす不具合が生じるからである。
【0015】
本発明者は、現用の隔離紙について検討を行い、その中で、電解液の導電特性に影響を与えない濃度、即ちCa,Mg,Na等の金属イオン(カチオン)を総量で数千ppm 〜数%含有した現用の隔離紙を使用した場合に、電解液と電極箔の高温条件下における反応が著しいという知見を得た。
そして、本発明者は、この知見に基づいて更に検討を重ねた結果、隔離紙に含有されているカチオンを所定値以下に減少させることによって、経時変化試験において、コンデンサ容量が次第に減少したり、その他のコンデンサ特性の変化も大きくなる現象の発生を防止できるという結論を得た。ここで、カチオンの所定値が、上記した500ppm という含有量である。
【0016】
また、本発明者は、隔離紙中のカルシウムイオン等のカチオンの含有量を、洗浄処理を行うことによって、実に500ppm もしくはそれ以下のレベルまで低減し得るということを見い出した。
さらに、このようなカチオンの含有量の低減によって導かれる効果は、電解コンデンサにおいて使用する電解液が、有機溶媒と水で構成され、しかも有機溶媒中で水の占める量が多い場合により増強されるということを見い出した。
【0017】
したがって、本発明の電解コンデンサで使用される電解液は、20〜80重量%の有機溶媒と80〜20重量%の水とからなる水分濃度が高い溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種の電解質とを含むことが好ましい。また、その際に使用する有機溶媒は、好ましくは、プロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物である。
【0018】
さらに、電解質として使用されるカルボン酸又はその塩は、好ましくは、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される。同じく電解質として使用される無機酸又はその塩は、好ましくは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される。これらの電解質は、単独で使用してもよく、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0019】
さらに、本発明の電解液は、好ましくは、下記の群:
(1)キレート化合物、
(2)糖類、
(3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L−グルタミン酸二酢酸又はその塩、
(4)ニトロ化合物、及び
(5)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含有する。
【0020】
本発明の電解コンデンサは、好ましくは、アルミニウム電解コンデンサであり、その際、エッチングが施されたアルミニウム箔の表面が陽極酸化された陽極箔と、エッチングが施されたアルミニウム箔から成る陰極箔とを、両者の表面が隔離紙を介して対向するように卷回して形成したコンデンサ素子と電解液とがケース内に収容され、且つ前記コンデンサ素子が挿入されたケースの開口部が弾性封口体で密封されているように構成される。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明による電解コンデンサにおいて、隔離紙は、天然に産出するセルロース材料、例えばマニラ麻や草木のパルプなどを原料として製造された紙を有利に使用することができる。このような隔離紙は、例えば、草木のパルプを原料として用い、この原料パルプを除塵工程、洗浄工程、叩解工程、抄紙工程等を経て製造された紙を有利に使用することができる。なお、合成繊維に由来する紙の使用も考えられるが、そのような紙は、耐熱性に劣っていたり、あるいは、含まれるハロゲンイオンなどがコンデンサの腐蝕を引き起こしたりするので、好ましくない。
【0022】
製造される隔離紙中において、紙の成分であるα−セルロースを除く不純物の総含有量は通常10000ppm にも達し、そのなかでもカルシウムイオンの含有量は3000ppm あるいはそれ以上である。マグネシウムイオンは、中性紙などに主として含まれるもので、その含有量は数10ppm 程度である。
隔離紙中の不純物は、コンデンサの使用中に電解液中に徐々に抽出される。そして、カルシウムイオンは、通常、電解液中にカチオンで存在し、アルミニウムとゲル状の水和物を形成し易い。このため、アルミニウムからなる陽極箔及び陰極箔、特に陽極酸化が施されていない陰極箔の表面にゲル状の水和物皮膜を形成し易い。
【0023】
この点、本発明では、カルシウムイオンを含めたカチオンが所定値以下に減少された隔離紙を用いることによって、陽極箔及び陰極箔の表面に形成されるゲル状の水和物皮膜の形成を充分に抑制できる結果、アルミニウム電解コンデンサの経時変化試験において、コンデンサ容量の低下等が惹起される事態を防止でき、電解コンデンサの長寿命化を図ることができる。
【0024】
本発明で用いる隔離紙、すなわち、カチオンの含有量が500ppm 以下の隔離紙は、製紙工程(除塵工程、洗浄工程、叩解工程、抄紙工程等)の任意の段階において強化された洗浄作業を実施することによって得ることができる。この強化された洗浄作業は、常用の洗浄技術を単独もしくは組み合わせて利用して実施することができ、一例を示すと、酸処理がある。
【0025】
本発明による電解コンデンサにおいて、陽極箔及び陰極箔として用いられるアルミニウム箔は、好ましくは、純度99%以上の高純度のアルミニウム箔である。陽極箔は、好ましくは、アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理した後、陽極酸化して表面に酸化皮膜を形成し、次いで、電極引き出し用リードタブを取り付けて形成することができる。また、陰極箔は、アルミニウム箔にエッチング処理を施した後、電極引き出し用リードタブを取り付けて形成することができる。
【0026】
上記のようにして形成した陽極箔と陰極箔とを、両者の表面を上記したような隔離紙を介して対向させつつ卷回することによって、コンデンサ素子を得ることができる。
得られたコンデンサ素子を、電解液とともにアルミニウム製やその他の有底ケースの開口部から挿入し収容した後、陽極箔と陰極箔とから引き出されたリードをケースから突出しつつ、ケースの開口部を弾性封口体で密封してアルミニウム電解コンデンサを得ることができる。なお、本発明で用いる弾性封口体は、従来からアルミニウム電解コンデンサに用いられているものを使用できる。
【0027】
本発明の電解コンデンサでは、前記したように、その駆動用電解液中の電解質を溶解するための溶媒として、有機溶媒と水との混合物からなる水分濃度が高い溶媒を有利に使用することができる。
有機溶媒としては、上記したように、プロトン系溶媒又は非プロトン系溶媒を単独で、あるいは任意に組み合わせて使用することができる。適当なプロトン系溶媒の例としては、アルコール化合物を挙げることができる。また、ここで有利に使用することのできるアルコール化合物の具体的な例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール(グリコール)、グリセリン等の三価アルコールを挙げることができる。また、適当な非プロトン系溶媒の例としては、ラクトン化合物を挙げることができる。また、ここで有利に使用することのできるラクトン化合物の具体的な例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、γ−ブチロラクトンやその他の分子内分極化合物を挙げることができる。本発明の実施に当たって、プロトン系溶媒と非プロトン系溶媒の中から選択される1種以上を使用する場合には、より具体的に説明すると、1種のプロトン系溶媒を使用してもよく、1種の非プロトン系溶媒を使用してもよく、複数種のプロトン系溶媒を使用してもよく、複数種の非プロトン系溶媒を使用してもよく、あるいは1種以上のプロトン系溶媒と1種以上の非プロトン系溶媒の混合系を使用してもよい。
【0028】
本発明の電解液では、溶媒成分として、上記した有機溶媒のほかに水を使用し、特に本発明の場合、比較的に多量の水を含有するという点で従来の電解液とは区別される。本発明においては、このような溶媒を使用することで、溶媒の凝固点を低下させ、それにより低温での電解液の比抵抗特性を改善して、低温と常温での比抵抗の差が小さいことで示される良好な低温特性を実現することができる。電解液中の水の含有量は、20〜80重量%の範囲にあるのが好適であり、残部が有機溶媒である。水の含有量が20重量%より少ない場合にも、80重量%を超える場合にも、電解液の凝固点降下の度合いは不十分となり、電解コンデンサの良好な低温特性を得るのが困難になる。溶媒中におけるより好適な水の含有量は、30〜80重量%の範囲であり、最も好適な水の含有量は、45〜80重量%の範囲である。
【0029】
本発明の電解液における電解質としては、カルボン酸、カルボン酸の塩、無機酸又は無機酸の塩が用いられ、これらの電解質成分は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電解質成分として使用可能なカルボン酸の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸及び安息香酸に代表されるモノカルボン酸や、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸及びアゼライン酸に代表されるジカルボン酸が含まれ、例えばクエン酸、オキシ酪酸などのようにヒドロキシル基等の官能基を持ったカルボン酸も使用可能である。
【0030】
また、同じく電解質成分として使用可能な無機酸の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸、スルファミン酸等が含まれる。
さらに、上記したようなカルボン酸又は無機酸の塩としては、いろいろな塩を使用することができるけれども、適当な塩としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩等が含まれる。このような塩のなかでも、アンモニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0031】
さらに加えて、本発明の実施において電解質として無機酸又はその塩を使用すると、電解液の凝固点降下が期待でき、そのため電解液の低温特性の更なる向上に寄与することができる。また、無機酸又はその塩の使用は、もしもニトロ化合物を添加剤として使用する場合に、そのニトロ化合物に由来する水素ガス吸収能力を長期間にわたって維持することができるという点でも注目に値する。
【0032】
また、本発明者らの研究によると、このような無機酸又はその塩のような電解質を前記したカルボン酸又はその塩のような電解質に組み合わせて使用すると、それらを単独で使用した場合に比較して、電解コンデンサの寿命を顕著に延長することができるという効果も得ることができる。さらに、従来の電解コンデンサでは、電導度などの問題から、無機酸系の電解質は主に中〜高電圧(160〜500ボルト)のタイプの電解コンデンサに使用されてきたが、本発明のように電解質の組み合わせ使用を行った場合、低電圧(160ボルト未満)のタイプの電解コンデンサにおいても有利に使用することができる。
【0033】
本発明の電解液において使用する電解質の量は、電解液や最終的に得られるコンデンサに要求される特性、使用する溶媒の種類や組成及び量、使用する電解質の種類等の各種のファクタに応じて、最適な量を適宜決定することができる。
本発明の電解液は、特に、上記したような特定の組成の電解液、すなわち、20〜80重量%の有機溶媒と80〜20重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種の電解質とを含む電解液に対して、下記のような特定の添加剤(1)〜(5)を単独もしくは組み合わせて添加することによって、より顕著な効果を得ることができる。
【0034】
(1)キレート化合物、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸一水和物(CyDTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)、ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA−OH)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン−N,N’−ビス(メチレンホスホン酸)1/2水和物(EDDPO)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA−OH)等。キレート化合物は、一般的に、0.01〜3重量%の範囲で添加することが好ましい。このようなキレート化合物は、低インピーダンスコンデンサのアルミニウム(Al)電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)、耐蝕性の向上などの効果をもたらすことができる。
【0035】
(2)糖類、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトース等。糖類は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このような糖類は、低インピーダンスコンデンサのAl電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、糖類の添加による電解質、例えばカルボン酸の分解や活性化の抑制、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)などの効果をもたらすことができる。
【0036】
(3)ヒドロキシベンジルアルコール、例えば2−ヒドロキシベンジルアルコール、L−グルタミン酸二酢酸又はその塩等。この添加剤は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このような添加剤は、低インピーダンスコンデンサのAl電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)などの効果をもたらすことができる。
【0037】
(4)ニトロ化合物、例えば、ニトロフェノール、例えばp−ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、例えばp−ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、例えばp−ニトロアセトフェノン、ニトロアニソール等のニトロ化合物群。ニトロ化合物は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このようなニトロ化合物は、顕著な水素ガス吸収効果、そしてプリント基板の洗浄に際して使用されるハロゲン化炭化水素、例えばトリクロロエタンなどの作用により素子が腐食せしめられるのを抑制する作用(換言すると、ハロゲン捕捉作用)を合わせて有することができる。
【0038】
ニトロ化合物の奏する、優れた水素ガス吸収効果は、一緒に使用する電解質との関係においても確認することができた。従来の電解液では、1種類のニトロ化合物のみをカルボン酸系の電解質だけに、あるいは1種類のニトロ化合物のみを無機酸系の電解質だけに、それぞれ添加する手法が採用されてきた。しかし、水性混合溶媒中の水の含有量が多い場合、上記のような手法では満足し得る水素ガス吸収効果を得ることができず、また、カルボン酸系の電解質と無機酸系の電解質が混在するような電解液でも同様であったが、本発明の電解液の場合には、1種類のニトロ化合物のみを添加した場合であっても、このようなカルボン酸系/無機酸系混在電解液においても、従来の場合よりもはるかに長期間にわたって、水素ガス吸収能力を維持することができた。
【0039】
(5)グルコン酸、グルコノラクトン等。この添加剤は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。この添加剤は、それを本発明の電解液に追加して含ませた場合、電解コンデンサの長寿命化や低温特性の向上、そして優れた水素ガス吸収効果などという本発明に特有な効果な追加して、耐蝕性の向上といった顕著な効果をさらにもたらすことができる。
【0040】
さらにまた、上記した添加剤のほかにも、アルミニウム電解コンデンサあるいはその他の電解コンデンサの分野で常用の添加剤をさらに添加してもよい。適当な常用の添加剤としては、例えば、マンニット、シランカップリング剤、水溶性シリコーン、高分子電解質などを挙げることができる。
【0041】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に説明する。言うまでもなく、ここに掲げた実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明を限定しようとするものではない。なお、下記の実施例において、隔離紙中のカチオン含有量の測定は、隔離紙を絶乾して得た試料を、るつぼ中で灰化した後、硝酸水溶液で溶解して原子吸光分析によって実施した。
実施例1
巻回構造のアルミニウム電解コンデンサを下記の手順に従って製造した。
【0042】
まず、アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理し、陽極酸化して表面に酸化皮膜を形成し、その後電極引出し用リードタブを取りつけてアルミニウム陽極箔を作った。次に、別のアルミニウム箔にやはり電気化学的にエッチング処理を施した後、電極引出し用リードタブを収り付けてアルミニウム陰極箔を作った。続いて、陽極箔と陰極箔間に隔離紙を挟んで巻回することにより、コンデンサ素子を作った。ここで使用した隔離紙は、マニラ麻を原料として製造された紙であり、そのカチオン含有量は、製紙工程で行われた洗浄工程に由来して、489ppm の少量であった。そして、このコンデンサ素子に、下記の組成:
エチレングリコール 45重量%、
水 40重量%、
アジピン酸アンモニウム 14.4重量%、
エチレンジアミン四酢酸 0.5重量%、及び
D−グルコン酸−δ−ラクトン 0.1重量%、
を有する電解液を含浸してから、有底アルミニウムケースに電極引出し用リードタブがケースの外に出るようにして収容し、このケースの開口を弾性封口体で密封して、巻回構造の電解コンデンサ(6.3WV−1000μF)を作製した。
【0043】
得られたアルミニウム電解コンデンサについて、その寿命特性を評価するため、容量、tanδ及び漏れ電流のそれぞれについて、初期値(コンデンサの作製直後の特性値)と、高温負荷試験(105℃で3000時間経過)後の特性値の測定を行った。下記の第1表に記載のような測定値が得られた。
実施例2及び3
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、使用する隔離紙のカチオン含有量を280ppm (実施例2)及び120ppm (実施例3)に変更した。下記の第1表に記載のような結果が得られた。
比較例1〜3
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、比較のため、使用する隔離紙のカチオン含有量を1121ppm (比較例1)、1932ppm (比較例2)及び3013ppm (比較例3)に変更した。下記の第1表に記載のような結果が得られた。
【0044】
【表1】
Figure 0003623113
【0045】
上記した第1表に記載の結果から理解されるように、カチオンイオンの含有量が1000ppm を越える比較例の電解コンデンサでは、カチオンイオンの含有量が500ppm を下回る本発明例の電解コンデンサに比較して、初期値は両者間に大差はないが、高温負荷試験後では、コンデンサの特性変化が大きく変化している。すなわち、本発明に従うと、寿命特性の大幅な改善を図ることができる。
【0046】
また、高温負荷試験を施した電解コンデンサを分解し、陽極箔及び陰極箔の表面を顕微鏡観察等を行ったところ、比較例の電解コンデンサでは、陽極箔及び陰極箔の表面にゲル状皮膜が認められ、特に陰極箔の表面には、陽極箔の表面よりもゲル状皮膜が顕著に認められた。一方、本発明の電解コンデンサでは、陽極箔及び陰極箔の表面に少しのゲル状皮膜も認められなかった。
【0047】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、電解コンデンサの陽極箔及び陰極箔の表面において、剥離紙中に含有されているカルシウムイオン等のカチオン成分に起因するゲル状の水和物皮膜の形成を抑制できる。このため、本発明によれば、低インピーダンスであり、低温特性と耐熱性に優れ、しかも寿命特性が良好である高信頼性の電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサが提供される。

Claims (6)

  1. 対向して配置された陽極箔及び陰極箔と、それらの中間に介在せしめられた隔離紙とから形成されたコンデンサ素子と、電解液とを含んでなる電解コンデンサにおいて、
    前記電解液が、20〜55重量%の有機溶媒と80〜45重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種電解質とを含み、
    前記隔離紙が、天然に産出するセルロース材料から製造された紙であり、かつ
    前記隔離紙中のカチオンの含有量が500ppm 以下であり、陽極箔及び陰極箔の表面にゲル状の水和物皮膜が形成されないことを特徴とする電解コンデンサ。
  2. 前記有機溶媒が、プロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
  3. 前記カルボン酸又はその塩が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
  4. 前記無機酸又はその塩が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
  5. 前記電解液が、下記の群:
    (1)キレート化合物、
    (2)糖類、
    (3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L−グルタミン酸二酢酸又はその塩、
    (4)ニトロ化合物、及び
    (5)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
    から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
  6. 上記電解コンデンサがアルミニウム電解コンデンサであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
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