JP3609068B2 - 電解コンデンサ駆動用電解液及びこれを使用した電解コンデンサ - Google Patents

電解コンデンサ駆動用電解液及びこれを使用した電解コンデンサ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電解コンデンサに関する。さらに詳しく述べると、本発明は、低インピーダンスでかつ低温特性に優れ、寿命特性が良好な電解コンデンサ駆動用電解液とそれを使用した電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
コンデンサは、一般的な電気部品の一つであり、種々の電気・電子製品において、主として電源回路用や、ディジタル回路のノイズフィルター用に広く使用されている。コンデンサは、電解コンデンサとその他のコンデンサ(セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ等)に大別される。
【0003】
現在使用されている電解コンデンサにはいろいろな種類のものがあり、その一例を示すと、アルミニウム電解コンデンサ、湿式タンタル電解コンデンサなどである。なお、本発明で特に優れた効果を期待できるものはアルミニウム電解コンデンサであり、したがって、以下、この種の電解コンデンサを参照して本発明を説明し、また、「電解コンデンサ」と言う場合、特に断りのある場合を除いてアルミニウム電解コンデンサを指すものとする。
【0004】
従来のアルミニウム電解コンデンサは、典型的には、高純度アルミニウム箔をエッチングしてその表面積を増加させた後、そのアルミニウム箔の表面を陽極酸化し皮膜を施した陽極箔と表面をエッチングされた陰極箔を使用することによって製造することができる。次いで、得られた陽極箔と陰極箔とを対向して配置し、さらにそれらの箔の中間にセパレータ(隔離紙)を介在させて巻回した構造の素子となし、この素子を巻き取つた構造の素子に電解液を含浸する。電解液含浸後の素子をケース(一般にはアルミニウム製)に収容し、そして弾性封口体で密封して電解コンデンサが完成する。なお、電解コンデンサには、このような巻回構造以外のものもある。
【0005】
上述のような電解コンデンサにおいては、電解液の特性が電解コンデンサの性能を決定する大きな要因をなす。特に近年の電解コンデンサの小型化に伴い、陽極箔あるいは陰極箔はエッチシグ倍率の高いものが使用されるようになり、コンデンサ本体の抵抗率が大きくなっていることから、これに用いる電解液としては、抵抗率(比抵抗)の小さな高導電性のものが常に要求される。
【0006】
これまでの電解コンデンサの電解液は、エチレングリコール(EG)を主溶媒としてこれに水を約10重量%程度まで加えて構成した溶媒に、電解質としてアジピン酸、安息香酸等のカルボン酸又はそのアンモニウム塩を溶解したものが一般的である。このような電解液では、比抵抗は1.5Ω・m(150Ω・cm)程度である。
【0007】
一方、コンデンサにおいては、その性能を十分に発揮するため、インピーダンス(Z)を低下させることが絶えず求められている。インピーダンスは種々の要因により決定し、例えばコンデンサの電極面積が増加すれば低下し、そのため大型コンデンサになれば自ずと低インピーダンス化が図られる。また、セパレータを改良することで低インピーダンス化を図るアプローチもある。とは言え、特に小型のコンデンサにおいては、電解液の比抵抗がインピーダンスの大きな支配因子となっている。
【0008】
最近では、非プロトン系の有機溶媒、例えばGBL(γ−ブチロラクトン)等を使用した低比抵抗の電解液も開発されている(例えば、特開昭62−145713号公報、特開昭62−145714号公報及び特開昭62−145715号公報を参照されたい)。しかし、この非プロトン系電解液を用いたコンデンサは、比抵抗が1.0Ω・cm以下の電子伝導体を用いた固体コンデンサに比べると、インピーダンスがはるかに劣っている。
【0009】
また、アルミニウム電解コンデンサは、電解液を使用するために低温特性が悪く、100kHzにおける−40℃でのインピーダンスと20℃でのインピーダンスとの比:Z(−40℃)/Z(20℃)は約40と、かなり大きいのが実情である。このような現状に鑑みて、現在、低インピーダンスで低比抵抗であり、しかも低温特性に優れたアルミニウム電解コンデンサを提供することが望まれている。
【0010】
さらに、アルミニウム電解コンデンサの電解液においてその溶媒の一部として用いられる水は、陽極箔や陰極箔を構成するアルミニウムにとって化学的に活性な物質であり、したがって、陽極箔や陰極箔と反応して水素ガスを発生させたり特性を著しく低下させるという問題をかかえている。
従来、電解コンデンサの負荷試験などで発生する水素ガスの問題を解消するため、発生した水素ガスを吸収する試みもなされている。例えば、特公昭59−15374号公報は、エチレングリコールに5〜20重量%の水を加えた溶媒に、カルボン酸及びカルボン酸のアンモニウム塩を加えて緩衝溶液を調製し、さらに0.05〜3重量%のp−ニトロフェノールを加えて調製したことを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液を開示している。この電解液を使用すると、ベーマイト反応の生成や水素ガスの発生を抑制し、低温特性、寿命特性などを向上せしめた電解コンデンサを提供することができる。
【0011】
また、特公昭63−14862号公報には、エチレングリコールを主体とする溶媒中に各種の有機酸、無機酸もしくはその塩を溶質として溶解してなる電解液に、o−ニトロアニソールを添加したことを特徴とする、ハロゲン化炭化水素による洗浄に対して優れた腐食防止効果を奏することのできる電解コンデンサ駆動用電解液が開示されている。この公報には、ここで腐食防止剤として使用されるo−ニトロアニソールは、水素ガス吸収効果があり、電解コンデンサの使用中に内部から発生する水素ガスを吸収し、開弁事故や静電容量変化を抑制できるという効果があると記載されている。
【0012】
しかしながら、本発明者らの研究によると、p−ニトロフェノールやo−ニトロアニソールは、従来一般的に使用されているような水の濃度の低い電解コンデンサ駆動用電解液では初期の水素ガス吸収効果を奏することができるというものの、電解液中の溶媒に占める水の量が20重量%もしくはそれ以上になった場合や、電解コンデンサが高温環境下で長期間にわたって使用されるような場合には、満足し得る水素ガス吸収効果を示し、かつ維持することができないことが判明した。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような従来の技術の問題点を解決することを目的としたもので、その第1の目的は、低インピーダンスでかつ、低温と常温でのインピーダンス比で表される低温特性に優れ、寿命特性が良好であり、しかも水の含有割合が大きい混合溶媒を使用した電解液を使用した時や高温環境下で電解コンデンサを使用した時でも優れた水素ガス吸収効果を奏することのできる電解コンデンサ用駆動用電解液を提供することにある。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、本発明の電解液を使用した電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その1つの面において、20〜80重量%の有機溶媒と80〜20重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種の電解質とを含む電解液に対して、
ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物が添加されていることを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液にある。
【0016】
本発明の電解液において、前記ニトロ化合物は、その他の電解液の成分との組み合わせにより、単独で使用しても優れた水素ガス吸収効果を奏することができ、また、より顕著な効果を得るためには、2種もしくはそれ以上のニトロ化合物を組み合わせて使用したほうがさらに好ましい。
ニトロ化合物は、それを本発明の電解液に添加して使用する場合、電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加して使用するのが好ましい。
【0017】
混合溶媒の形成のために水と一緒に用いられる有機溶媒は、好ましくは、プロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物である。すなわち、プロトン系溶媒及び非プロトン系溶媒は、それぞれ、単独で使用してもよく、さもなければ、必要に応じて、2種もしくはそれ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。ここで、プロトン系溶媒は好ましくはアルコール化合物であり、また、非プロトン系溶媒は好ましくはラクトン化合物である。
【0018】
さらに、本発明の電解液において電解質として使用されるカルボン酸又はその塩は、好ましくは、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される1種もしくはそれ以上である。
【0019】
また、同じく電解質として使用される無機酸又はその塩は、好ましくは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩から選択される1種もしくはそれ以上である。
また、本発明の電解質には、前記ニトロ化合物に追加して、下記の群:
(1)キレート化合物、
(2)糖類、
(3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L−グルタミン酸二酢酸又はその塩、及び
(4)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
から選択される添加剤を必要に応じて含ませてもよい。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、あるいは2種もしくはそれ以上の添加剤を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0020】
さらにまた、本発明は、そのもう1つの面において、本発明の電解コンデンサ用駆動用電解液を含んでなる電解コンデンサにある。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の電解コンデンサ駆動用電解液では、電解質を溶解するための溶媒として、有機溶媒と水との混合物からなる水分濃度が高い溶媒を使用する。
有機溶媒としては、上記したように、プロトン系溶媒又は非プロトン系溶媒を単独で、あるいは任意に組み合わせて使用することができる。適当なプロトン系溶媒の例としては、アルコール化合物を挙げることができる。また、ここで有利に使用することのできるアルコール化合物の具体的な例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール(グリコール)、グリセリン等の三価アルコールを挙げることができる。また、適当な非プロトン系溶媒の例としては、ラクトン化合物を挙げることができる。また、ここで有利に使用することのできるラクトン化合物の具体的な例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、γ−ブチロラクトンやその他の分子内分極化合物を挙げることができる。本発明の実施に当たって、プロトン系溶媒と非プロトン系溶媒の中から選択される1種以上を使用する場合には、より具体的に説明すると、1種のプロトン系溶媒を使用してもよく、1種の非プロトン系溶媒を使用してもよく、複数種のプロトン系溶媒を使用してもよく、複数種の非プロトン系溶媒を使用してもよく、あるいは1種以上のプロトン系溶媒と1種以上の非プロトン系溶媒の混合系を使用してもよい。
【0022】
本発明の電解液では、溶媒成分として、上記した有機溶媒のほかに水を使用し、特に本発明の場合、比較的に多量の水を併用するという点で従来の電解液とは区別される。本発明においては、このような溶媒を使用することで、溶媒の凝固点を低下させ、それにより低温での電解液の比抵抗特性を改善して、低温と常温での比抵抗の差が小さいことで示される良好な低温特性を実現することができる。電解液中の水の含有量は、20〜80重量%の範囲にあるのが好適であり、残部が有機溶媒である。水の含有量が20重量%より少ない場合にも、80重量%を超える場合にも、電解液の凝固点降下の度合いは不十分となり、電解コンデンサの良好な低温特性を得るのが困難になる。水性混合溶媒中におけるより好適な水の含有量は、30〜80重量%の範囲であり、最も好適な水の含有量は、45〜80重量%の範囲である。
【0023】
本発明の電解液における電解質としては、有機酸、特に好ましくはカルボン酸又はその塩、そして無機酸又はその塩が用いられ、これらの電解質成分は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電解質成分として使用可能なカルボン酸の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸及び安息香酸に代表されるモノカルボン酸や、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸及びアゼライン酸に代表されるジカルボン酸が含まれ、例えばクエン酸、オキシ酪酸などのようにヒドロキシル基等の官能基を持ったカルボン酸も使用可能である。
【0024】
また、同じく電解質成分として使用可能な無機酸の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸、スルファミン酸等が含まれる。
さらに、上記したようなカルボン酸又は無機酸の塩としては、いろいろな塩を使用することができるけれども、適当な塩としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩等が含まれる。このような塩のなかでも、アンモニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0025】
さらに加えて、本発明の実施において電解質として無機酸又はその塩を使用すると、電解液の凝固点降下が期待でき、そのため電解液の低温特性の更なる向上に寄与することができる。また、無機酸又はその塩の使用は、本発明において特に使用するニトロ化合物に由来する水素ガス吸収能力(以下に詳述する)を長期間にわたって維持することができるという点でも注目に値する。
【0026】
また、本発明者らの研究によると、このような無機酸又はその塩のような電解質を前記したカルボン酸又はその塩のような電解質に組み合わせて使用すると、それらを単独で使用した場合に比較して、電解コンデンサの寿命を顕著に延長することができるという効果も得ることができる。さらに、従来の電解コンデンサでは、電導度などの問題から、無機酸系の電解質は主に中〜高電圧(160〜500ボルト)のタイプの電解コンデンサに使用されてきたが、本発明のように電解質の組み合わせ使用を行った場合、低電圧(160ボルト未満)のタイプの電解コンデンサにおいても有利に使用することができる。
【0027】
本発明の電解液において使用する電解質の量は、電解液や最終的に得られるコンデンサに要求される特性、使用する溶媒の種類や組成及び量、使用する電解質の種類等の各種のファクタに応じて、最適な量を適宜決定することができる。例えば、上記したように、無機酸系の電解質をカルボン酸系の組み合わせて使用するような場合に、混合電解質中における無機酸系の電解質の含有量は広い範囲で変更することができるというものの、通常、電解質の全量を基準にして約0.1〜15重量%の範囲で無機酸系の電解質が含まれることが好ましい。
【0028】
本発明の電解液は、特に、上記したような特定の組成の電解液、すなわち、20〜80重量%の有機溶媒と80〜20重量%の水とからなる水性混合溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種の電解質とを含む電解液に対して、ニトロフェノール、例えばp−ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、例えばp−ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、例えばp−ニトロアセトフェノン、ニトロアニソールなどの化合物群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物を追加の添加剤として添加することを特徴としている。
【0029】
本発明では、上記したニトロ化合物群を使用した時に特に顕著な水素ガス吸収効果が確認されたが、その正確な経緯はいまだ判明するに至っていない。しかし、本発明者らの経験から、これは、それぞれのニトロ化合物に含まれる置換基が異なるタイミングで水素ガス吸収効果を奏することに大きな要因があるものと理解される。なお、ここで使用するニトロ化合物は、プリント基板の洗浄に際して使用されるハロゲン化炭化水素、例えばトリクロロエタンなどの作用により素子が腐食せしめられるのを抑制する作用(換言すると、ハロゲン捕捉作用)を合わせて有することができる。
【0030】
上記したニトロ化合物は、それを本発明の電解液に対して添加する場合、その電解液自体に本発明の効果に有効な特定の組成が採用されているので、単独で使用しても満足し得る水素ガス吸収効果、ハロゲン捕捉作用などを奏することができるけれども、本発明者らのこのたびの知見によると、2種もしくはそれ以上のニトロ化合物を組み合わせて使用したほうがさらに好ましい効果を期待することができる。一般的には、2種のニトロ化合物を混合して使用することが推奨される。また、ニトロ化合物は、通常、電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加して使用するのが好ましい。ニトロ化合物の添加量が0.01重量%を下回ると、所期の効果をほとんど得ることができず、反対に5重量%を上回っても、所期の効果のさらなる向上を期待することができず、場合によっては他の特性に対して悪影響ができことも考えられる。
【0031】
ニトロ化合物の使用についてさらに説明すると、アルミニウムと水の反応時に発生する水素ガスの吸収は、従来の技術のところで参照したようにニトロ化合物を単独で使用したのでは、使用する溶媒中の水の含有量が増加するにつれて吸収効果が低下する傾向にあり、また、この低下傾向は、電解液が高温環境下におかれた場合において顕著になる。ところが、このようなニトロ化合物の単独使用に由来して発生する問題は、本発明におけるように2種もしくはそれ以上のニトロ化合物を組み合わせて使用することにより、解消することができる。実際、本発明の電解液の場合、複数種のニトロ化合物の使用によって、高温放置下において、従来の単独使用よりもはるかに長期間にわたって、水素ガス吸収能力を維持することができた。
【0032】
また、水素ガスの吸収における本発明の優れた効果は、一緒に使用する電解質との関係においても確認することができた。従来の電解液では、1種類のニトロ化合物のみをカルボン酸系の電解質だけに、あるいは1種類のニトロ化合物のみを無機酸系の電解質だけに、それぞれ添加する手法が採用されてきた。しかし、溶媒中の水の含有量が多い場合、上記のような手法では満足し得る水素ガス吸収効果を得ることができず、また、カルボン酸系の電解質と無機酸系の電解質が混在するような電解液でも同様であったが、本発明の電解液の場合(1種類のニトロ化合物のみを使用)、驚くべきことに、このようなカルボン酸系/無機酸系混在電解液においても、従来の単独使用よりもはるかに長期間にわたって、水素ガス吸収能力を維持することができた。
【0033】
本発明の電解液は、必要に応じて、上記した以外の成分を追加の添加剤として含有することができる。適当な添加剤としては、例えば、本発明者らが本発明と同時的に発明し、別に特許出願した発明に記載されるように、下記のような化合物を包含する。
(1)キレート化合物、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸一水和物(CyDTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)、ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA−OH)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン−N,N’−ビス(メチレンホスホン酸)1/2水和物(EDDPO)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA−OH)等。キレート化合物は、一般的に、0.01〜3重量%の範囲で添加することが好ましい。このようなキレート化合物は、低インピーダンスコンデンサのアルミニウム(Al)電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)、耐蝕性の向上などの効果をもたらすことができる。
【0034】
(2)糖類、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトース等。糖類は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このような糖類は、低インピーダンスコンデンサのAl電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、糖類の添加による電解質、例えばカルボン酸の分解や活性化の抑制、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)などの効果をもたらすことができる。
【0035】
(3)ヒドロキシベンジルアルコール、例えば2−ヒドロキシベンジルアルコール、L−グルタミン酸二酢酸又はその塩等。この添加剤は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このような添加剤は、低インピーダンスコンデンサのAl電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)などの効果をもたらすことができる。
【0036】
上記した化合物(1)〜(3)は、それぞれ、それらを本発明の電解液に添加する場合に多くの顕著な効果を奏することができ、また、その効果の多くはニトロ化合物が電解液に含まれていない場合でも期待することができる。また、本発明者らの研究によると、そのような顕著な効果は、特に、上記した化合物(1)〜(3)のいずれかの少なくとも1種を下記のようなグルコン酸やグルコノラクトンと組み合わせた場合に得ることができる。
【0037】
さらに、本発明の電解液は、上記したような添加剤(ニトロ化合物の単独添加の場合も含む)に追加して、必要に応じて、
(4)グルコン酸やグルコノラクトン等
を単独もしくは組み合わせて含有することができる。この種の添加剤は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。グルコン酸やグルコノラクトンは、それを本発明の電解液に追加して含ませた場合、電解コンデンサの長寿命化や低温特性の向上、そして優れた水素ガス吸収効果などという本発明に特有に効果に追加して、耐蝕性の向上といった顕著な効果をさらにもたらすことができる。
【0038】
さらにまた、上記した添加剤のほかにも、アルミニウム電解コンデンサあるいはその他の電解コンデンサの分野で常用の添加剤をさらに添加してもよい。適当な常用の添加剤としては、例えば、マンニット、シランカップリング剤、水溶性シリコーン、高分子電解質などを挙げることができる。
本発明の電解液は、上記したような各種の成分を任意の順序で混合し、溶解することによって調製することができ、また、基本的には従来の技法をそのままあるいは変更して使用することができる。例えば、有機溶媒と水との混合物である水分濃度が高い溶媒を調製した後、得られた溶媒に電解質、ニトロ化合物及び必要に応じて任意の添加剤を溶解することで簡単に調製することができる。
【0039】
本発明の電解コンデンサも、上記した電解液と同様に、常用の技法に従って製造することができる。例えば、表面を酸化して誘電体化したアルミニウムから製作した陽極箔と、この陽極箔の誘電体化した面に対向するアルミニウム製のエッチング表面を有する陰極箔と、陽極箔と陰極箔との問に介在するセパレータ(隔離紙)とから構成した巻回した構造の素子に本発明の電解液を含浸した後、その素子を適当なケ−ス内に密封することによって、アルミニウム電解コンデンサを製造することができる。得られるアルミニウム電解コンデンサにおいては、本発明の電解液を使用していることから、有機溶媒と水との混合溶媒による低温特性向上の効果、ニトロ化合物の添加による水素ガス吸収効果、そして特定の電解質の使用による水和反応抑制による長寿命化や低インピーダンス化の効果を達成することができる。
【0040】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に説明する。言うまでもなく、ここに掲げた実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明を限定しようとするものではない。
実施例1
巻回構造のアルミニウム電解コンデンサを下記の手順に従って製造した。
【0041】
まず、アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理し、表面に酸化皮膜を形成し、その後電極引出し用リードタブを取りつけてアルミニウム陽極箔を作った。次に、別のアルミニウム箔にやはり電気化学的にエッチング処理を施した後、電極引出し用リードタブを収り付けてアルミニウム陰極箔を作った。続いて、陽極箔と陰極箔間にセパレータ(隔離紙)を挟んで巻回することにより、コンデンサ素子を作った。そしてこのコンデンサ素子に、下記の第1表に組成を示した電解液を含浸してから、有底アルミニウムケースに電極引出し用リードタブがケースの外に出るようにして収容し、このケースの開口を弾性封口体で密封して、巻回構造の電解コンデンサ(10WV−1000μF)を作製した。
【0042】
本例で使用した電解液の30℃における比抵抗を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定値が得られた。また、作製した電解コンデンサについて、低温(−40℃)でのインピーダンス及び常温(20℃)でのインピーダンスを測定した後、それぞれの測定値のとの比として表されるインピーダンス比(Z比)を、異なる周波数:120Hz及び100kHzで測定した。下記の第1表に記載のような測定値が得られた。さらに、各電解コンデンサの寿命特性を評価するため、容量、tanδ及び漏れ電流のそれぞれについて、初期値(コンデンサの作製直後の特性値)と、高温放置(105℃で1000時間経過)後の特性値の測定を行った。下記の第1表に記載のような測定値が得られた。
実施例2〜10
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、使用する電解液の組成を下記の第1表に記載のように変更した。特性試験によって得られた結果を下記の第1表にまとめて記載する。
比較例1〜3
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、比較のため、使用する電解液からニトロ化合物を取り除くとともに、電解液の組成を下記の第1表に記載のように変更した。特性試験によって得られた結果を下記の第1表にまとめて記載する。
【0043】
【表1】
Figure 0003609068
【0044】
【表2】
Figure 0003609068
【0045】
上記した第1表に記載の結果から理解されるように、実施例5を除いて本発明の電解液の比抵抗は、比較例のものとほぼ同等であることが分かり、これらの比抵抗値は従来の一般の電解液のそれと比べて小さくなっていることがわかる。実施例5の電解液の比抵抗は161Ω・cmの大きな値であるが、その他の特性を考慮して総合的に判断した場合、通常の電解コンデンサと実質的に遜色なく、十分実用的なレベルにあると言える。従って、本発明の電解液を使用して作製した電解コンデンサは、従来の電解コンデンサに比べて一層の低インピーダンスを実現することができ、そうでなくとも少なくともこれまでのものと同等程度の低インピーダンスを実現することができる。
【0046】
また、本発明の電解液を使用した電解コンデンサにあっては、Z比が小さいことが分かり、特に100kHzの高周波数でのZ比が比較例のものに比べて小さく抑えられていることが分かる。このことは、本発明の電解液を用いた電解コンデンサが広い周波数にわたり良好な低温特性を発揮することを示している。
特に、本発明の電解液を使用した電解コンデンサでは、ニトロ化合物を0.01〜3重量%の範囲の量で電解液に添加したことにより、105℃で3000時間経過後においても安定した特性を示しており、ガス発生によるコンデンサ自体の破壊に至ることもなかった。それに対し、ニトロ化合物を含まない電解液を使用した比較例の電解コンデンサでは、いずれのコンデンサでも、3000時間を経過するはるか以前の高温放置の初期の段階で、水素ガス発生によるケースの膨らみにより防爆弁が作動して、使用不能になった。このことから、本発明によれば電解コンデンサの長寿命化が容易に達成できることが分かる。
実施例11〜19
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、キレート化合物とニトロ化合物の同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第2表に記載のように変更した。下記の第2表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第2表には、前記比較例1〜3の試験結果もあわせて記載する。
【0047】
【表3】
Figure 0003609068
【0048】
【表4】
Figure 0003609068
【0049】
実施例20〜29
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、糖類とニトロ化合物の同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第3表に記載のように変更した。下記の第3表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第3表には、前記比較例1〜3の試験結果もあわせて記載する。
【0050】
【表5】
Figure 0003609068
【0051】
【表6】
Figure 0003609068
【0052】
実施例30〜39
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、ヒドロキシベンジルアルコール、グルタミン酸二酢酸等とニトロ化合物の同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第4表に記載のように変更した。下記の第4表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第4表には、前記比較例1〜3の試験結果もあわせて記載する。
【0053】
【表7】
Figure 0003609068
【0054】
【表8】
Figure 0003609068
【0055】
実施例40〜49
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、ニトロ化合物とグルコノラクトンの同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第5表に記載のように変更した。また、これらの実施例に示すようにニトロ化合物とグルコノラクトンを同時に添加したほうが、本発明に従ってニトロ化合物を単独で添加した場合に比較して優れた効果が得られることを明らかにするため、ニトロ化合物の単独添加を示す対照(本発明例)も実施した。
下記の第5表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第5表には、前記比較例1〜の試験結果もあわせて記載する。
【0056】
【表9】
Figure 0003609068
【0057】
【表10】
Figure 0003609068
【0058】
実施例50〜59
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、各種の添加剤の任意の組み合わせによりもたらされる効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第6表に記載のように変更した。下記の第6表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第6表には、前記比較例1〜3及び対照(本発明例)の試験結果もあわせて記載する。
【0059】
【表11】
Figure 0003609068
【0060】
【表12】
Figure 0003609068
【0061】
【表13】
Figure 0003609068
【0062】
実施例60〜62
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、寿命特性のさらなる向上を確認するため、実施例1で採用の高温放置条件(105℃で1000時間経過)での特定値の測定を、105℃で6000時間経過後に変更して実施した。なお、実施例60〜62は、それぞれ、前記実施例1,3及び9に対応する。下記の第7表に記載のような結果が得られた。また、下記の第7表には、前記比較例1〜3及び対照(本発明例)の試験結果もあわせて記載する。
【0063】
【表14】
Figure 0003609068
【0064】
上記第7表に記載の結果から理解されるように、ニトロ化合物を添加しない電解液を使用した比較例1〜3においては250〜500時間経過するまでにいずれも使用不能となったのに対し、実施例60〜62のコンデンサの場合には、容量の低下が認められるとは言え、6000時間経過後にも使用可能であった。また、注目すべきことに、有機系電解質のカルボン酸又はその塩と無機系電解質の無機酸とを併用したことにより、電解コンデンサの寿命特性が更に改善されることが分かる。
【0065】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、低インピーダンスでかつ、低温と常温でのインピーダンス比で表される低温特性に優れ、寿命特性が良好であり、しかも水の含有割合が大きい溶媒を使用した電解液を使用した時や高温環境下で電解コンデンサを使用した時でも優れた水素ガス吸収効果を奏することのできる電解コンデンサ用駆動用電解液が提供される。また、本発明によれば、このような電解液を使用することにより、低インピーダンスで、低温特性に優れ、寿命特性が良好であり、溶媒中で使用する水の作用に原因して発生する不具合を有しない高信頼性の電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサが提供される。

Claims (14)

  1. 20〜55.9重量%の有機溶媒と80〜44.1重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩からなる電解質とを含む電解液に対して少なくとも1種のニトロ化合物が添加されており、但し、前記電解液は、トリメチルアジピン酸、1,6−デカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸、ブチルオクタンジカルボン酸、tert−ブチルアジピン酸、オクチルヘキサンジカルボン酸、ドデシルヘキサンジカルボン酸、次式(1)で示される有機カルボン酸:
    Figure 0003609068
    (上式において、R1は、水素原子を表すかもしくは次式の基:
    Figure 0003609068
    を表し、そして
    2は、低級アルキル基を表す)もしくは次式(2)で示される有機カルボン酸:
    Figure 0003609068
    (上式において、R3及びR4は、それぞれ、低級アルキル基を表す)又はこれらの有機カルボン酸の塩を含まないことを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液。
  2. 前記電解液の30℃における比抵抗が、68Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  3. 前記電解液の30℃における比抵抗が、40Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  4. 前記電解液の30℃における比抵抗が、30Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  5. 前記ニトロ化合物が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  6. 前記ニトロ化合物が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸及びジニトロ安息香酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  7. 前記ニトロ化合物が2種もしくはそれ以上のニトロ化合物の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  8. 前記ニトロ化合物が当該電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  9. 前記有機溶媒がプロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  10. 前記カルボン酸又はその塩が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  11. 前記電解質が、少なくとも1種の無機酸又はその塩をさらに含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  12. 前記無機酸又はその塩が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  13. 下記の群:
    (1)キレート化合物、
    (2)糖類、
    (3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L−グルタミン酸二酢酸又はその塩、及び
    (4)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
    から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  14. 請求項1〜13のいずれか1項に記載の駆動用電解液を含んでなることを特徴とする電解コンデンサ。
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