JP3618384B2 - 偏光フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は高偏光度且つ高透過度の染料系偏光膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、液晶表示装置は時計、電卓、ワープロおよび機械の計器類等の比較的小画面の表示装置として用いられ、表示品質に対する要求は特に厳しくはなかった。しかし、近年液晶表示装置がラップトップワープロ、ラップトップパソコン、ノートブックパソコン用のディスプレイとしてや自動車、航空機のインパネ用ディスプレイまた液晶プロジェクター等として幅広く利用されるようになり、大型化、表示品質の高級化および耐久性の向上が要求されている。したがって、液晶表示装置の構成要素である偏光膜に関しても、上記課題を達成するために、大画面化、高偏光度且つ高透過度といった光学特性の向上や耐水性、耐熱性、耐湿熱性および耐久性の向上に加えて、さらに生産性向上や品質確保等の観点から偏光膜の原反フィルムの加工特性の向上が求められている。
【0003】
従来、偏光膜としてはヨウ素化合物や二色性染料を吸着させたポリビニルアルコールの一軸延伸フィルムがよく用いられており、偏光性能および耐久性の向上が求められている。これに対して、高重合度のPVAや高シンジオタクティックなPVAを原反として使用する提案(例えば、特開平1−105204号、特開平3−206402号)がなされているが、高重合度や高シンジオタクティシティーの効果は偏光特性や耐久性の点では認められるが、二色性物質としてヨウ素化合物を使用した場合には偏光性能は高いものの耐久性が低く、染料系の場合には耐久性は高いものの偏光性能が不充分であるとか染色性が悪く生産効率や品質が低下するなどの問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の偏光板に比べて、高偏光度の偏光フィルムが得られ、かつ染色性の良好な偏光フィルムが得られる二色性染料を用いた偏光フィルムの製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題解決に向けて鋭意検討した結果、重合度2400以上のポリビニルアルコール系重合体フィルムまたはシンジオタクティシティーが55%以上のポリビニルアルコール系重合体フィルムを原反に用い、二色性染料を染料に用いて染色を行ってから該フィルムを含水率10〜40%に調節した後、該フィルムを気体雰囲気下または水蒸気下で110〜200℃の温度で延伸することを特徴とする偏光フィルムを見出だし、本発明を完成させるに至った。
【0006】
以下本発明を詳しく説明する。本発明の偏光膜は従来の偏光膜に用いられてきたPVAよりも高重合度のPVAまたは高いシンジオタクティシティーのPVAを使用し、膨潤、染色または延伸を特定の温度範囲で行うことを特徴としている。
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明において粘度平均重合度(以下、重合度と略する)2400以上のPVA系重合体フィルムを原反に用いる場合には、該PVA系重合体の重合度は2400以上であることが必要であり、好ましくは3500以上である。重合度の上限について制限はないが、フィルムの製膜性や延伸等の加工性の点から30000以下が好ましい。重合度の好適な範囲は親水性官能基の含有量にもよるが、4000〜20000が最も好ましい。重合度が2400未満の場合には、偏光性能および耐久性が低下する。
【0008】
本発明においてシンジオタクティシティーが55%以上のPVA系重合体フィルムを原反に用いる場合には、該PVA系重合体の重合度については特に制限はないが、フィルムの強度の点から500以上が好ましく、得られる偏光フィルムの偏光性能の点からは1000以上が好ましく、1500以上がより好ましい。PVA系重合体の重合度の上限についても特に制限はないがフィルムの製膜性や偏光フィルムへの加工性の観点から20000以下が好ましい。重合度の好適な範囲は1500〜10000である。
【0009】
該PVA系重合体のシンジオタクティシティーは55%以上であることが必要であり、好ましくは58%以上である。シンジオタクティシティーの上限については制限はないが、フィルムの製膜性や延伸等の加工性の観点から75%以下が好ましい。シンジオタクティシティーの好適な範囲は60〜68%が最も好ましい。シンジオタクティシティーが55%より低いと、偏光特性および耐久性が低下する。尚、本発明でいうPVA系重合体の「シンジオタクティシティー」は、NMR法により測定したダイアッド表示による値であり、具体的には特開平3−121102号公報に記載された方法により測定される。
【0010】
本発明のPVA系重合体の製造方法には制限はなく、一般には以下のような方法で製造される。すなわち、酢酸ビニルなどのビニルエステルを重合して得られたポリビニルエステル系重合体を鹸化することにより得られる。
【0011】
本発明のポリビニルエステル系重合体の重合方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などがある。高重合度のPVAを得るためにはこれらの重合方法に低温重合法を併用することもできる。高シンジオタクティシティーのPVA系重合体は、一般には、ピバリン酸ビニル,トリフルオロ酢酸ビニル,トリクロロ酢酸ビニル等などのビニルエステルを重合して得られたポリビニルエステル系重合体を鹸化することにより得られる。
【0012】
このようにして得られたポリビニルエステル系重合体を鹸化することによってPVA系重合体が得られるが、一般にはポリビニルエステルのアルコール溶液で苛性ソーダなどのアルカリ触媒を用いてアルコリシスと呼ばれるエステル交換によって行われる。ビニルエステルユニットがビニルアルコールユニットに変換される変換率である鹸化度には特に制限はないが、鹸化度が低いと偏光フィルムとしての耐久性が低下する等の悪影響を及ぼすことから90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。
【0013】
本発明のPVA系重合体の1,2−グリコール結合量には特に制限はなく、一般的には1.6〜1.8モル%のPVAが使用されるが、高偏光度や高耐久性の観点からは1.6モル%以下が好ましい。本発明のPVA系重合体は、本発明の目的に支障のない範囲で他のビニルモノマーを共重合しても良い。
【0014】
本発明において偏光膜の原反フィルムの製法には制限はなく、一般的にはPVA水溶液から液膜を形成しこれを乾燥しフィルムを得る方法が採られる。PVA系共重合体溶液からの成膜はキャスト成膜や乾式成膜(空気中や窒素等不活性気体中への押し出し)、湿式成膜(PVA系重合体の貧溶媒中への押し出し)、乾湿式成膜、ゲル成膜(PVA系重合体溶液を一旦ゲル化させた後フィルムを得る方法)によって行われるが、このときに使用される溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、グリセリンおよび水等が単独または混合して使用される。また塩化リチウム、塩化カルシウム等の無機塩の水溶液も単独または前記有機溶媒と混合して使用できる。この中で水、ジメチルスルホキシドやジメチルスルホキシドと水の混合溶媒が好んで使用される。またこの溶液にフィルムに柔軟性等を付与するためにグリセリンやジグリセリン、エチレングリコール等の多価アルコールおよびその誘導体を含有させてもよい。
【0015】
本発明の偏光フィルムに使用される二色性物質は、いわゆる二色性染料と称される有機染料やその塩が単独または混合して用いられる。代表的なものとしてたとえばDirectblack17,19,154、Directbrown44,106,195,210,223、Directred2,23,28,31,37,39,79,81,240,242,247、Directblue1,15,22,78,90,98,151,168,202,236,249,270、Directviolet9,12,51,98、Directgreen1,85、Directyellow8,12,44,86,87、Directorange26、39,106,107等が挙げられる。また、これらの二色性染料水溶液には、ホウ酸およびホウ砂等のホウ素系化合物を添加しても良い。
【0016】
二色性染料の吸着(染色)は、一般には以下のような方法で行われる。先ず、染色に先だって水中に浸漬し、フィルムを膨潤させる。次いで二色性染料水溶液中に浸漬し、染料の吸着処理すなわち染色を行う。この膨潤工程と染色工程の温度は本発明の特徴であり、非常に重要である。すなわち、フィルムの染色前に、下記の式1の条件を満たす膨潤液中においてフィルムの膨潤を行うことが好ましい。また、下記の式2の条件を満たす染色液中においてフィルムの染色を行うことが好ましい。また、上記の染色前の膨潤条件と上記の染色条件を同時に満足することがさらに好ましい。式1より低い温度で膨潤処理したり、式2より低い温度で染色処理したりした場合には、染色性が低下したり、染料の吸着に長い時間を要したり、色斑を生じたり、生産性や品質に悪影響を及ぼす傾向がある。また、熱水切断温度より高い温度で膨潤処理したり、熱水切断温度より高い温度で染色処理したりした場合には、色斑やフィルムの溶断等が生じたり、品質や工程通過性の低下を生じる。
(熱水切断温度)−(染色前膨潤温度)≦20℃ (式1)
(熱水切断温度)−(染色温度)≦20℃ (式2)
式1および式2の、より好ましい範囲は以下の式3および式4である。
5≦(熱水切断温度)−(染色前膨潤温度)≦15℃ (式3)
5≦(熱水切断温度)−(染色温度)≦15℃ (式4)
上記の式において、「熱水切断温度」とは、幅0.5cm×長さ15cmのPVA系重合体フィルムの断面積に対して10kg/cmの荷重をかけ、フィルム重量の100重量倍以上の量の40℃の水中に投入し、次いで水温を3℃/分の速度で上昇させて、フィルムが溶断する時の温水の温度(℃)をいう。
【0017】
延伸による配向処理は、一軸方向に3倍以上に行うことが好ましく、4倍以上の延伸を行うことがより好ましい。延伸は気体(空気、不活性気体)雰囲気下または水蒸気下、延伸温度110℃〜200℃で行う。この際フィルムは前もって水中や一定の湿度雰囲気下で含水率を含水率10〜40%に調節しておくことが必要である。延伸温度が高くなると二色性染料やPVA系重合体の熱分解が生じるため200℃以下で行うことが必要である。延伸温度が110℃未満では高い延伸倍率を得られず、結果として高偏光度の偏光フィルムを得られない。なお、本発明でいう含水率(%)とは下記の式で表される値である。
含水率=(1−(乾燥フィルム重量)/(含水フィルム重量))×100
但し、乾燥フィルム重量は含水したフィルムを105℃で24時間乾燥した後のフィルム重量である。
【0018】
染色処理と延伸処理が行われたフィルムは定長下空気中または不活性気体中で乾燥される。乾燥されたフィルムは耐水性および耐湿熱性などを付与するため、さらに80℃から230℃の温度で熱処理を行っても良い。また、基材フィルムへの二色性物質の吸着を強固にすることや耐水性や耐湿熱性を付与する目的でホウ酸やホウ砂のようなホウ素化合物を添加することがあるが、これは染色や延伸と同時に実施してもこれらの処理の前後や間のどの時点で実施しても任意である。
【0019】
このようにして得られた偏光膜は、その両面あるいは片面に光学的に透明で、かつ機械的強度を有した保護膜(支持体)を貼り合わせて偏光板として使用される。保護膜としては通常セルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等が使用され、中でも光学特性等の点から三酢酸セルロースのようなセルロースアセテート系フィルムが一般に使用される。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によりなんら制限されるものではない。透過度(T)、偏光度(V)、色相の測定は日本電子機械工業会規格(EIAJ)LD−201−1983に準拠し、分光光度計を用いて、C光源,二度視野にて計算した。二色性比(Rd)は下記の式で得られる偏光性能を示す値である。
Rd=log(T(1−V))/log(T(1+V))
【0021】
実施例1、2および比較例1〜6(高重合度PVA)
表1に示すPVA系重合体の5%水溶液からポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延した液膜を60℃で乾燥し、120℃で3分間熱処理することにより、PVA系重合体フィルムを得た。次に、得られたPVA系重合体フィルムを原反に使用し、染色液としてDirectBlue1水溶液(濃度2重量%)を用いて、表1に示す条件で膨潤、染色、延伸および乾燥の処理行うことにより偏光フィルムを得た。
【0022】
但し、実施例1、2および比較例4〜6では空気中で延伸し、比較例1〜3では延伸浴としてホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%)の浴中で延伸した。なお、実施例1、2および比較例4〜6において、含水率40%未満で延伸する場合には、延伸工程の前に含水率を調製するための予備乾燥を行った。上記の結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
Figure 0003618384
【0024】
実施例3および比較例7〜12(高シンジオタクティシティーPVA)
表2に示すPVA系重合体を用いて、表2に示す条件で偏光フィルムを製造したこと以外は、実施例1および2と同様にして偏光フィルムを製造した。
【0025】
但し、実施例3および比較例7〜9では延伸浴としてホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%)の浴中で延伸し、実施例3および比較例10〜12では空気中で延伸した。なお、実施例3および比較例10〜12において、含水率40%未満で延伸する場合には、延伸工程の前に含水率を調製するための予備乾燥を行った。上記の結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
Figure 0003618384
【0027】
【発明の効果】
本発明は従来の染料系偏光板に比べて、高偏光度な偏光フィルムが得られ、また二色性物質による染色性が良好な偏光フィルムが得られる偏光フィルムの製造方法を提供するものである。本発明で得られた偏光膜は上記特徴を生かして高性能、高耐久性の液晶ディスプレイ、たとえば液晶テレビ、液晶プロジェクター、ワープロ用ディスプレイ、パソコン用ディスプレイ、OA機器端末ディスプレイ、航空機や自動車のインパネ用ディスプレイとか、その他フィルター、サングラス、窓ガラス、各種ライトの防眩用、各種センサー等に用いられる。

Claims (1)

  1. 重合度2400以上のポリビニルアルコール系重合体フィルムまたはシンジオタクティシティーが55%以上のポリビニルアルコール系重合体フィルムを原反に用い、二色性染料を染料に用いて染色を行ってから該フィルムを含水率10〜40%に調節した後、該フィルムを気体雰囲気下または水蒸気下で110〜200℃の温度で延伸することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
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