JP3617048B2 - ポリアリーレンスルフィド及びその製造法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PASに分岐構造を導入して高分子量化する方法としては、例えば従来法による低分子量PAS(特公昭45‐3368号公報)を熱酸化処理して架橋する方法、あるいは反応系にポリハロ芳香族化合物等の分岐剤を添加して重合反応を行う方法(米国特許第4038261号明細書)が知られている。しかし、前者の方法では、PASの分岐、架橋の制御が困難であり、得られたPASの成形性が悪く、後者の方法では、高分岐度の高分子量PASを得ようとすると、成形時におけるPASのゲル化や流動性の低下が避けられなかった。
【0003】
特公平6‐45693号公報には、アルカリ金属硫化物、ジハロゲン芳香族化合物及び官能基を3個以上有する芳香族化合物を反応させるに際して、これら物質のモル比を所定範囲にすることにより、十分高分子量でありながら溶融流動性に優れて成形加工性が容易であり、しかも成形加工時にバリ等の発生がなく、着色のない優れた成形品に加工することができるPASの製造法が開示されている。しかし、該発明は、ジハロゲン芳香族化合物対アルカリ金属硫化物のモル比が大きく、また、成形加工時におけるバリ発生の低減の効果は未だ十分であるとはいえなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、射出成形時のバリ発生量が著しく少なく、かつ溶融粘度の剪断速度依存性が高く成形性に優れたPAS及びその製造法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、アルカリ金属硫化物、ジハロゲン芳香族化合物及び官能基を3個以上有する芳香族化合物を所定のモル比で仕込み、かつジハロゲン芳香族化合物が所定の反応率の時点で所定量の分子量調節剤を反応系に添加することにより、射出成形時のバリ発生量が著しく少なく、かつ溶融粘度の剪断速度依存性が高く成形性に優れたPASが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、極性溶媒中で(A)アルカリ金属硫化物と(B)ジハロ芳香族化合物と(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物を反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、(A)/(B)のモル比が0.970〜1.020であり、(C)/(A)のモル比が0.002〜0.015であるように上記(A)、(B)及び(C)を反応系に仕込み、かつ反応系内の(B)の反応率が50〜95%の時点で、仕込み(A)アルカリ金属硫化物に対してモル比で0.001〜0.02の(D)分子量調節剤を反応系に添加することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造法である。
【0007】
上記本発明の方法により、下記のポリアリーレンスルフィドを製造することができる。
【0008】
即ち、溶融粘度 V 6 が 300 〜 4000 ポイズであり、かつ溶融粘度 V 6 と剪断感度 N が下記式 (I)
【0009】
【数1】
N − 0.323log V 6 ≧ 0.470 (I)
で示される関係を有するポリアリーレンスルフィドが製造され得る。
【0010】
上記 PAS の溶融粘度 V 6 は、上限が 4000 ポイズ、好ましくは 3000 ポイズであり、下限が 300 ポイズ、好ましくは 500 ポイズ、特に好ましくは 800 ポイズである。溶融粘度 V 6 が、上記下限未満では射出成形時のバリ発生が著しく、上記上限を超えては成形性が悪化し好ましくない。ここで、溶融粘度 V 6 は、フローテスターを用いて 300 ℃、荷重 20kgf/cm 2 、 L/D=10 で 6 分間保持した後に測定した粘度 ( ポイズ ) である。
【0011】
上記 PAS は、溶融粘度 V 6 と剪断感度 N が上記の式 (I) で示される関係を満たすことが必要である。該関係を満たすことにより、 PAS は射出成形時のバリ発生量が著しく少なく、かつ成形性に優れる。剪断感度 N は、その下限が 1.27 、好ましくは 1.45 、特に好ましくは 1.50 である。上記下限未満では、射出成形時のバリ発生が著しい。ここで、剪断感度 N は、フローテスターを用いて 300 ℃、 L/D=10 で 6 分間保持した後における剪断速度及び剪断応力を荷重を変数として測定し、下記式 (II) に基き、剪断速度及び剪断応力の対数を夫々縦軸、横軸にプロットして、その直線の傾きから求めた値である
【0012】
【数2】
SR=K ・ SS N (II)
[ ここで、 SR は剪断速度(秒 -1 )、 SS は剪断応力 ( ダイン /cm 2 ) 、そして K は定数を示す ]。
【0013】
特公平6‐45688号公報には、(A)アルカリ金属硫化物、(B)ジハロゲノ芳香族類及び任意的な(C)トリ又はテトラハロゲノ芳香族を適宜反応促進剤類の存在下に反応させてPASを製造する方法において、(D)モノメルカプト化合物を反応混合物に加えることを特徴とする方法が記載されている。(C)は任意成分であり[(B)に対して0〜5モル%]、実施例においても使用されていない[(D)を加えていない比較例(実施例1)においてのみ(C)を用いている]。また、{(B)+(C)}:(A)のモル比は、0.75:1〜1.25:1の範囲内である。該記載に基いて算出すれば、(A)/(B)のモル比は0.8〜1.4であり、実施例においては、(A)/(B)のモル比は1.042である。このように、上記先行技術は上位概念に相当するが、上記公報中に本発明の方法の構成は具体的に開示されていない。また、上記先行技術の方法の効果は、製造されたPASの融解粘度の再現性が良いこと、及び融解安定性が高くかつ腐食性の低いPASが得られることである。これに対して、本発明の方法の効果は、射出成形時のバリ発生量が著しく少なく、かつ溶融粘度の剪断速度依存性が高く成形性に優れたPASが得られることにある。このように、本発明のPAS製造法は、上記先行技術とは別異の優れた効果を奏するものである。
【0014】
本発明のPAS製造法において、(A)アルカリ金属硫化物/(B)ジハロ芳香族化合物のモル比は、下限が0.970、好ましくは0.980であり、上限が1.020、好ましくは1.000である。上記下限未満では、PASの溶融粘度V6 が著しく低く、成形品のバリ長も低減できない。また、PASの分岐度も低い。上記上限を超えては、PASが解重合を起こすので好ましくない。(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物/(A)アルカリ金属硫化物のモル比は、下限が0.002、好ましくは0.003であり、上限が0.015、好ましくは0.01である。上記下限未満では、PASの溶融粘度V6 が著しく低く、成形品のバリ長も低減できない。また、PASの分岐度も低い。上記上限を超えては、PASの分岐、架橋が進行し過ぎて成形時においてPASのゲル化が生じ成形性が悪化する。
【0015】
本発明の方法において、(D)分子量調節剤は、反応系内の(B)ジハロ芳香族化合物の反応率の上限が95%、好ましくは90%、下限が50%、好ましくは70%、特に好ましくは80%の時点で添加される。添加時の(B)ジハロ芳香族化合物の反応率が上記下限未満では、分岐構造の導入が不十分であり、成形品のバリ長も低減できない。上記上限を超えると、極度に溶融粘度V6 が高くなりゲル化して成形不能となる。重合反応系に添加する(D)分子量調節剤は、 (A)アルカリ金属硫化物に対してモル比で、下限が0.001、好ましくは0.002、特に好ましくは0.004であり、上限が0.02、好ましくは0.01、特に好ましくは0.008である。上記範囲外では、一定の溶融粘度V6 に対する剪断感度Nは相対的に低いものしか得られないため、得られたPASのV6 とNは式(I)の関係を満足せず、成形品のバリ長を低減することができない。(D)の添加は、上記の反応率の範囲内であれば、1回で全量をまとめて添加してもよいし、あるいは数回に分けて添加してもよい。該添加は、(D)をそのまま、あるいは使用する極性溶媒(例えば、N‐メチル‐2‐ピロリドン)に溶解して、加圧注入機を用いて反応缶内に圧入することにより行うことができる。
【0016】
本発明の(D)分子量調節剤としては、以下に掲げるものを使用することができる。例えば、モノ又はジハロ芳香族化合物例えばモノクロロベンゼン、モノブロモベンゼン、m‐ジクロロベンゼン等;メルカプト基を1又は2個有する芳香族化合物例えばチオフェノール、1,4‐ジチオフェノール、モノクロロチオフェノール等;ジスルフィド化合物例えばジフェニルジスルフィド、p,p´‐ジトリルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジベンゾイルジスルフィド、ジチオベンゾイルジスルフィド等;電子吸引基(例えばカルボキシル基、ニトロ基、スルホニル基、カルボニル基等)を有するハロ置換芳香族化合物例えばニトロクロロベンゼン、ジクロロジフェニルスルホン、4,4´‐ジクロロベンゾフェノン等が挙げられる。好ましくは、(D)分子量調節剤として、チオフェノール、ジフェニルジスルフィド又はm‐ジクロロベンゼンから成る群から選ばれた少なくとも一つのものを使用し得る。
【0017】
(A)アルカリ金属硫化物は公知であり、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が挙げられる。これらの水和物及び水溶液であっても良い。また、これらにそれぞれ対応する水硫化物及び水和物を、それぞれに対応する水酸化物で中和して用いることができる。安価な硫化ナトリウムが好ましい。
【0018】
(B)ジハロ芳香族化合物は、例えば特公昭45‐3368号公報記載のものから選ぶことができるが、好ましくはp‐ジクロロベンゼンである。又、少量 (20モル%以下)のジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン又はビフェニルのパラ、メタ又はオルトジハロ物を1種類以上用いて共重合体を得ることができる。例えば、o‐ジクロロベンゼン、p,p´‐ジクロロジフェニルエーテル、m,p´‐ジクロロジフェニルエーテル、m,m´‐ジクロロジフェニルエーテル、p,p´‐ジクロロジフェニルスルホン、m,p´‐ジクロロジフェニルスルホン、m,m´‐ジクロロジフェニルスルホン、p,p´‐ジクロロビフェニル、m,p´‐ジクロロビフェニル、m,m´‐ジクロロビフェニルである。
【0019】
(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物は、例えば特公平6‐45693号公報記載に記載されているものを使用することができる。(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物とは、芳香族環に結合した反応性官能基を3個以上、好ましくは3〜4個、特に好ましくは3個有する芳香族化合物である。該反応性官能基としては、例えばアミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホニル基、スルフィノ基、スルファモイル基、ヒドラジノ基及びカルバモイル基等の活性水素含有基、ハロゲン原子、並びにニトロ基等を挙げることができる。上記反応性官能基中、アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等の各原子が挙げられ、塩素原子が好ましい。芳香族環に結合する上記反応性官能基は夫々同一であっても異なっていてもよい。また、上記(C)の芳香族化合物としては、ベンゼン類、ビフェニル類、ジフェニルエーテル類、ジフェニルスルフィド類、ナフタレン類等を挙げることができ、ベンゼン類が好ましい。
【0020】
(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物としては、好ましくは活性水素含有ハロゲン芳香族化合物、ポリハロゲン芳香族化合物及びハロゲン芳香族ニトロ化合物等を使用することができる。
【0021】
活性水素含有ハロゲン芳香族化合物としては、例えば、2,6‐ジクロロアニリン、2,5‐ジクロロアニリン、2,4‐ジクロロアニリン、2,3‐ジクロロアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4‐トリクロロアニリン、2,4,6‐トリクロロアニリン、3,4,5‐トリクロロアニリン等のトリハロアニリン類;2,2´‐ジアミノ‐4,4´‐ジクロロジフェニルエーテル、2,4´‐ジアミノ‐2´,4‐ジクロロジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類等のアミノ基含有ハロゲン芳香族化合物、及びこれら化合物中のアミノ基がメルカプト基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物等が挙げられる。また、これらの活性水素含有ハロゲン芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が、他の不活性基例えばアルキル基等の炭化水素基に置換しているアミノ基含有ハロゲン芳香族化合物も使用することができる。上記の活性水素含有ハロゲン芳香族化合物中、活性水素含有ジハロ芳香族化合物を好適に使用することができ、なかでもアミノ基含有ジハロ芳香族化合物が好ましく、特に好ましいのはジクロロアニリンである。
【0022】
ポリハロゲン芳香族化合物としては、例えば1,2,4‐トリクロロベンゼン、1,3,5‐トリクロロベンゼン及び1,4,6‐トリクロロナフタレン等が好ましく、1,2,4‐トリクロロベンゼン、1,3,5‐トリクロロベンゼンが特に好ましい。
【0023】
ハロゲン芳香族ニトロ化合物としては、例えば2,4‐ジニトロクロロベンゼン、2,5‐ジクロロニトロベンゼン等のモノ又はジハロニトロベンゼン類;2‐ニトロ‐4,4´‐ジクロロジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3´‐ジニトロ‐4,4´‐ジクロロジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5‐ジクロロ‐3‐ニトロピリジン、2‐クロロ‐3,5‐ジニトロピリジン等のモノ又はジハロニトロピリジン類、あるいは各種ジハロニトロナフタレン類等が挙げられる。
【0024】
本発明の方法において、上記(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物は、一種単独で使用してもよく、また二種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の方法で使用する極性溶媒は、PAS重合のために知られており、例えば特公平6‐45693号公報に記載されているもの、例えば有機アミド化合物、ラクタム化合物、尿素化合物、環式有機リン化合物等を使用することができる。該極性溶媒の具体例として、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N,N‐ジエチルアセトアミド、N,N‐ジプロピルアセトアミド、N,N‐ジメチル安息香酸アミド、カプロラクタム、N‐メチルカプロラクタム、N‐エチルカプロラクタム、N‐イソプロピルカプロラクタム、N‐イソブチルカプロラクタム、N‐ノルマルプロピルカプロラクタム、N‐ノルマルブチルカプロラクタム、N‐シクロヘキシルカプロラクタム、N‐メチル‐2‐ピロリドン、N‐エチル‐2‐ピロリドン、N‐イソプロピル‐2‐ピロリドン、N‐イソブチル‐2‐ピロリドン、N‐ノルマルプロピル‐2‐ピロリドン、N‐ノルマルブチル‐2‐ピロリドン、N‐シクロヘキシル‐2‐ピロリドン、N‐メチル‐3‐メチル‐2‐ピロリドン、N‐エチル‐3‐メチル‐2‐ピロリドン、N‐メチル‐3,4,5‐トリメチル‐2‐ピロリドン、N‐メチル‐2‐ピペリドン、N‐イソプロピル‐2‐ピペリドン、N‐エチル‐2‐ピペリドン、N‐メチル‐6‐メチル‐2‐ピペリドン、N‐メチル‐3‐エチル‐2‐ピペリドン、テトラメチル尿素、N,N´‐ジメチルエチレン尿素、N,N´‐ジメチルプロピレン尿素、1‐メチル‐1‐オキソスルホラン、1‐エチル‐1‐オキソスルホラン、1‐フェニル‐1‐オキソスルホラン、1‐メチル‐1‐オキソホスホラン、1‐ノルマルプロピル‐1‐オキソホスホラン及び1‐フェニル‐1‐オキソホスホラン等が挙げられる。これらの溶媒は、夫々単独でもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。上記極性溶媒中、非プロトン性の有機アミド若しくはラクタム類が好ましく、そのなかでもN‐アルキルラクタム及びN‐アルキルピロリドンが好ましく、N‐メチルピロリドンが特に好ましい。極性溶媒中で(A)アルカリ金属硫化物と(B)ジハロ芳香族化合物と(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物を反応させてPASを製造する方法自体は公知である。好ましくは反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめる方法(特開平5‐222196号公報)が用いられる。
【0026】
上記方法において、還流される液体は、水とアミド系溶媒の蒸気圧差の故に、液相バルクに比較して水含有率が高い。この水含有率の高い還流液は、反応溶液上部に水含有率の高い層を形成する。その結果、残存のアルカリ金属硫化物(例えばNa2 S)、ハロゲン化アルカリ金属(例えばNaCl)、オリゴマー等が、その層に多く含有されるようになる。従来法においては230℃以上の高温下で、生成したPASとNa2 S等の原料及び副生成物とが均一に混じりあった状態では、高分子量のPASが得られないばかりでなく、せっかく生成したPASの解重合も生じ、チオフェノールの副生成が認められる。しかし、本発明では、反応缶の気相部分を積極的に冷却して、水分に富む還流液を多量に液相上部に戻してやることによって上記の不都合な現象が回避でき、反応を阻害するような因子を真に効率良く除外でき、高分子量PASを得ることができるものと思われる。但し、本発明は上記現象による効果のみにより限定されるものではなく、気相部分を冷却することによって生じる種々の影響によって、高分子量のPASが得られるのである。
【0027】
該方法においては、従来法のように反応の途中で水を添加することを要しない。しかし、水を添加することを全く排除するものではない。但し、水を添加する操作を行えば、本発明の利点のいくつかは失われる。従って、好ましくは、重合反応系内の全水分量は反応の間中一定である。
【0028】
反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイルまたはジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が考えられるが、結果的に缶内の還流量を増大させる効果があるものならば、いずれの方法を用いても良い。外気温度が比較的低いなら(たとえば常温)、反応缶上部に従来備えられている保温材を取外すことによって、適切な冷却を行うことも可能である。外部冷却の場合、反応缶壁面で凝縮した水/アミド系溶媒混合物は反応缶壁を伝わって液相中に入る。従って、該水分に富む混合物は、液相上部に溜り、そこの水分量を比較的高く保つ。内部冷却の場合には、冷却面で凝縮した混合物が同様に冷却装置表面又は反応缶壁を伝わって液相中に入る。
【0029】
一方、液相バルクの温度は、所定の一定温度に保たれ、あるいは所定の温度プロフィールに従ってコントロールされる。一定温度とする場合、 230〜275 ℃の温度で 0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。より好ましくは、 240〜265 ℃の温度で1〜6時間である。より高い分子量のPASを得るには、2段階以上の反応温度プロフィールを用いることが好ましい。この2段階操作を行う場合、第1段階は 195〜240 ℃の温度で行うことが好ましい。温度が低いと反応速度が小さすぎ、実用的ではない。 240℃より高いと反応速度が速すぎて、十分に高分子量なPASが得られないのみならず、副反応速度が著しく増大する。第1段階の終了は、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が1モル%〜40モル%、且つ分子量が 3,000〜20,000の範囲内の時点で行うことが好ましい。より好ましくは、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が2モル%〜15モル%、且つ分子量が 5,000〜15,000の範囲である。残存率が40モル%を超えると、第2段階の反応で解重合など副反応が生じやすく、一方、1モル%未満では、最終的に高分子量PASを得難い。その後昇温して、最終段階の反応は、反応温度 240〜270 ℃の範囲で、1時間〜10時間行うことが好ましい。温度が低いと十分に高分子量化したPASを得ることができず、また 270℃より高い温度では解重合等の副反応が生じやすくなり、安定的に高分子量物を得難くなる。
【0030】
実際の操作としては、先ず不活性ガス雰囲気下で、アミド系溶媒中のアルカリ金属硫化物中の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水または水添加する。水分量は、好ましくは、アルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜2.5モル、特に0.8〜1.2モルとする。2.5モルを超えては、反応速度が小さくなり、しかも反応終了後の濾液中にフェノール等の副生成物量が増大し、重合度も上がらない。0.5モル未満では、反応速度が速すぎ、十分な高分子量の物を得ることができないと共に、副反応等の好ましくない反応が生ずる。
【0031】
反応時の気相部分の冷却は、一定温度での1段反応の場合では、反応開始時から行うことが望ましいが、少なくとも 250℃以下の昇温途中から行わなければならない。多段階反応では、第1段階の反応から冷却を行うことが望ましいが、遅くとも第1段階反応の終了後の昇温途中から行うことが好ましい。冷却効果の度合いは、通常反応缶内圧力が最も適した指標である。圧力の絶対値については、反応缶の特性、攪拌状態、系内水分量、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とのモル比等によって異なる。しかし、同一反応条件下で冷却しない場合に比べて、反応缶圧力が低下すれば、還流液量が増加して、反応溶液気液界面における温度が低下していることを意味しており、その相対的な低下の度合いが水分含有量の多い層と、そうでない層との分離の度合いを示していると考えられる。そこで、冷却は反応缶内圧が、冷却をしない場合と比較して低くなる程度に行うのが好ましい。冷却の程度は、都度の使用する装置、運転条件などに応じて、当業者が適宜設定できる。
【0032】
こうして得られたPASは、当業者にとって公知の後処理法によって副生物から分離される。
【0033】
本発明の方法において、上記のようにして得られたPASに、更に酸処理を施すこともできる。該酸処理は、100℃以下の温度、好ましくは40〜80℃の温度で実施される。該温度が上記上限を超えると、酸処理後のPAS分子量が低下するため好ましくない。また、40℃未満では、残存している無機塩が析出してスラリーの流動性を低下させ、連続処理のプロセスを阻害するため好ましくない。該酸処理に使用する酸溶液の濃度は、好ましくは0.01〜5.0重量%である。また、該酸溶液のpHは、酸処理後において、好ましくは4.0〜5.0である。上記の濃度及びpHを採用することにより、被処理物であるPAS中の‐SX(Xはアルカリ金属を示す)及び‐COOX末端の大部分を‐SH及び‐COOH末端に転化することができると共に、プラント設備等の腐食を防止し得るため好ましい。該酸処理に要する時間は、上記酸処理温度及び酸溶液の濃度に依存するが、好ましくは5分間以上、特に好ましくは10分間以上である。上記未満では、PAS中の‐SX及び‐COOX末端を‐SH及び‐COOH末端に十分に転化できず好ましくない。上記酸処理には、例えば酢酸、ギ酸、シュウ酸、フタル酸、塩酸、リン酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸等が使用され、酢酸が特に好ましい。該処理を施すことにより、PAS中の不純物であるアルカリ金属、例えばナトリウムを低減できる。従って、製品使用中のアルカリ金属、例えばナトリウムの溶出及び電気絶縁性の劣化を抑制することができる。
【0034】
上記のようにして製造された本発明のPASは、例えば電気・電子部品、自動車部品、塗料や接着剤、フィルム、繊維等に有用である。
【0035】
本発明のPASを成形加工する際には、慣用の添加剤、例えばカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン等の粉末状充填剤、又は炭素繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、ポリアラミド繊維等の繊維状充填剤を混入することができる。
【0036】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0037】
【実施例】
実施例において、ポリフェニレンスルフィド(以下ではPPSと略すことがある)の溶融粘度V6 は、島津製作所製フローテスターCFT‐500Cを用いて測定した値である。
【0038】
剪断感度Nは、上記と同一のフローテスターを用いて剪断速度及び剪断応力を測定して求めた値である。
【0039】
パラジクロルベンゼン(以下ではp‐DCBと略すことがある)の反応率は、ガスクロマトグラフィーによる測定結果から算出した。ここで、p‐DCBの反応率は下記式により求めた。
【0040】
【数3】
p-DCBの反応率(%)=(1−残存p‐DCB重量/仕込p‐DCB重量)×100
バリ長は以下のようにして測定した。PPS60重量部とガラスファイバー(CS 3J‐961S、商標、日東紡績株式会社製)40重量部を加えて、ヘンシェルミキサーで5分間予備混合した後、35mmφ一軸押出機を使用して、シリンダー温度320℃、回転数250rpmで溶融押出し、ペレットを作成した。更に出来上がったペレットから、シリンダー温度320℃、金型温度130℃に設定した射出成形機により、射出速度50cm/秒、保圧20kgf/cm2で成形して、幅20mm、長さ40mm、厚さ3mm、ピン穴16個、ピン穴寸法2×2mmのコネクターを作成した。該コネクターのピン穴部(隙間20μm)に発生したバリ長さを測定して評価した。
【0041】
【実施例1】
150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.81重量%Na2 S)15.400kgと、N‐メチル‐2‐ピロリドン(以下ではNMPと略すことがある)45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水3.75kgを留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p‐DCB17.730kg[Na2 S/p‐DCB (モル比)=0.980]、1,2,4‐トリクロロベンゼン(以下では1,2,4‐TCBと略すことがある)128.7g[1,2,4‐TCB/Na2 S(モル比)=0.006]及びNMP18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cm2 Gに加圧して昇温を開始した。液温240℃に達した時点でオートクレーブ上部を散水することにより冷却を開始すると共に、加圧注入機を用いてチオフェノール65.1g[チオフェノール/Na2 S(モル比)=0.005]をオートクレーブ中に添加した。該添加時のp‐DCBの反応率は、89.1%であった。チオフェノールの添加終了後、液温260℃まで昇温し、この温度で3時間攪拌しつつ反応を進めた。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、8.91kg/cm2 Gであった。反応終了後のp‐DCBの反応率は98.7%であった。
【0042】
得られたスラリーを濾過して溶媒を除去し、次に常法に従って温水洗浄を3回繰返した。次に、濾過ケーキを約50℃の水によりスラリー化し、該スラリーに酢酸を加えてpH5に調節して酸処理を実施した。酸処理後、再び温水洗浄を2回繰り返した。次いで、120℃で約5時間熱風循環乾燥機中で乾燥して白色粉末状の製品を得た。
【0043】
得られたPPSの溶融粘度V6 は680ポイズ、剪断感度Nは1.49であった。バリ長は、0.011mmであった。
【0044】
【実施例2】
1,2,4‐TCBの仕込量を171.6g[1,2,4‐TCB/Na2 S(モル比)=0.008]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、88.5%であった。
【0045】
得られたPPSの溶融粘度V6 は1500ポイズ、剪断感度Nは1.57であった。バリ長は、0.007mmであった。
【0046】
【実施例3】
1,2,4‐TCBの仕込量を214.5g[1,2,4‐TCB/Na2 S(モル比)=0.010]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、88.3%であった。
【0047】
得られたPPSの溶融粘度V6 は2570ポイズ、剪断感度Nは1.62であった。バリ長は、0.002mmであった。
【0048】
【実施例4】
p‐DCBの仕込量を17.551kg[Na2 S/p‐DCB(モル比)=0.990]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、89.3%であった。
【0049】
得られたPPSの溶融粘度V6 は920ポイズ、剪断感度Nは1.52であった。バリ長は、0.009mmであった。
【0050】
【実施例5】
p‐DCBの仕込量を17.375kg[Na2 S/p‐DCB(モル比)=1.000]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、90.2%であった。
【0051】
得られたPPSの溶融粘度V6 は2310ポイズ、剪断感度Nは1.59であった。バリ長は、0.004mmであった。
【0052】
【実施例6】
チオフェノールの添加量を32.6g[チオフェノール/Na2 S(モル比)=0.0025]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、89.4%であった。
【0053】
得られたPPSの溶融粘度V6 は1030ポイズ、剪断感度Nは1.53であった。バリ長は、0.009mmであった。
【0054】
【実施例7】
チオフェノールの添加をp‐DCBの反応率が65.4%の時点で行った以外は、実施例2と同一の条件で製品を得た。
【0055】
得られたPPSの溶融粘度V6 は1210ポイズ、剪断感度Nは1.49であった。バリ長は、0.012mmであった。
【0056】
【実施例8】
チオフェノールの添加をp‐DCBの反応率が93.1%の時点で行った以外は、実施例2と同一の条件で製品を得た。
【0057】
得られたPPSの溶融粘度V6 は2750ポイズ、剪断感度Nは1.62であった。バリ長は、0.003mmであった。
【0058】
【実施例9】
チオフェノールに代えてm‐ジクロロベンゼン176.4g[m‐ジクロロベンゼン/Na2 S(モル比)=0.010]を使用した以外は、実施例2と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、90.1%であった。
【0059】
得られたPPSの溶融粘度V6 は750ポイズ、剪断感度Nは1.50であった。バリ長は、0.010mmであった。
【0060】
【実施例10】
液温240℃に昇温してオートクレーブ上部の冷却を開始した後、この液温で1時間保持したこと、及びチオフェノールをオートクレーブ中に添加終了後、液温260℃での反応時間を3時間保持としたこと以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、93.8%であった。
【0061】
得られたPPSの溶融粘度V6 は830ポイズ、剪断感度Nは1.57であった。バリ長は、0.007mmであった。
【0062】
【比較例1〜3】
チオフェノールをp‐DCBと同時にオートクレーブ中に添加した以外は、夫々、実施例1〜3と同一の条件で製品を得た。
【0063】
比較例1で得られたPPSの溶融粘度V6 は310ポイズ、剪断感度Nは1.21であった。バリ長は、0.123mmであった。
【0064】
比較例2で得られたPPSの溶融粘度V6 は620ポイズ、剪断感度Nは1.32であった。バリ長は、0.091mmであった。
【0065】
比較例3で得られたPPSの溶融粘度V6 は1020ポイズ、剪断感度Nは1.40であった。バリ長は、0.074mmであった。
【0066】
【比較例4】
チオフェノールを液温が260℃に到達した時点で添加した以外は、実施例2と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、96.2%であった。
【0067】
得られたPPSの溶融粘度V6 は9800ポイズ、剪断感度Nは1.99であった。該ポリマーはゲル化を起し、射出成形ができなかった。
【0068】
【比較例5】
p‐DCBの仕込量を18.137kg[Na2 S/p‐DCB(モル比)=0.958]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、88.3%であった。
【0069】
得られたPPSの溶融粘度V6 は190ポイズ、剪断感度Nは1.18であった。バリ長は、0.155mmであった。
【0070】
【比較例6】
チオフェノールを添加しなかった以外は、比較例5と同一の条件で製品を得た。 得られたPPSの溶融粘度V6 は720ポイズ、剪断感度Nは1.33であった。バリ長は、0.097mmであった。
【0071】
【比較例7】
p‐DCBの仕込量を16.869kg[Na2 S/p‐DCB(モル比)=1.030]とした以外は、実施例1と同一の条件で反応を実施した。解重合を起こしポリマーが得られなかった。
【0072】
【比較例8】
チオフェノールの添加量を286.4g[チオフェノール/Na2 S(モル比)=0.022]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、87.5%であった。
【0073】
得られたPPSの溶融粘度V6 は80ポイズ、剪断感度Nは1.03であった。該ポリマーは著しく低粘度であり、成形物を得ることができなかった。
【0074】
【比較例9】
チオフェノールの添加量を10.4g[チオフェノール/Na2 S(モル比)=0.0008]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、89.8%であった。
【0075】
得られたPPSの溶融粘度V6 は2300ポイズ、剪断感度Nは1.49であった。バリ長は、0.058mmであった。
【0076】
【比較例10】
1,2,4‐TCBの仕込量を21.5g[1,2,4‐TCB/Na2 S (モル比)=0.001]とした以外は、実施例1と同一の条件で製品を得た。チオフェノール添加時のp‐DCBの反応率は、88.9%であった。
【0077】
得られたPPSの溶融粘度V6 は190ポイズ、剪断感度Nは1.07であった。バリ長は、0.199mmであった。
【0078】
以上の結果を表1及び2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
実施例1〜3は、本発明の範囲内で(C)1,2,4‐TCB/(A)Na2 Sのモル比を変化させて製造したPPSである。これら本発明のPPSは、いずれも良好な溶融粘度V6 と高い剪断感度Nを有しており、かつバリ長は、非常に短かった。また、(C)/(A)の増加に伴い、V6 及びNが増加し、バリ長は著しく低減した。実施例4及び5は、実施例1と同一条件下、本発明の範囲内で(A)Na2 S/(B)p‐DCBのモル比を増加して製造したPPSである。いずれも良好なV6 と高いNを有しており、かつバリ長は非常に短かった。(A)/(B)の増加に伴い、V6 及びNが増加し、バリ長は著しく低減した。実施例6は、実施例1と同一条件下、本発明の範囲内で(D)チオフェノール/(A)Na2 Sのモル比を低下させたものである。V6 及びNが増加し、バリ長は低減した。実施例7及び8は、実施例2と同一条件下、本発明の範囲内でチオフェノールの添加時期を変化させたものである。チオフェノールの添加時のp‐DCBの反応率が高くなると、V6 及びNが増加し、バリ長は著しく低減した。実施例9は、実施例2と同一条件下、チオフェノールに代えてm‐ジクロロベンゼンを使用したものである。実施例1と同じく良好なV6 と高いNを有しており、かつバリ長は、非常に短かった。実施例10は、実施例1と比べて反応温度、反応時間及びチオフェノールの添加時期を変えたものである。実施例1と同程度のV6 でありながら、Nを著しく高くすることができた。また、バリ長も低減した。一方、比較例1〜3は、チオフェノールをp‐DCBと同時にオートクレーブ中に仕込んで反応を進めた以外は、夫々実施例1〜3と同一の条件で実施したものである。いずれもV6 及びNは著しく小さく、(N−0.323logV6 )値は本発明の範囲未満であり、かつバリ長は非常に長かった。比較例4は、実施例2と同一条件下、p‐DCBの反応率が本発明の範囲を超えた時点でチオフェノールを添加したものである。得られたPPSのV6 が著しく高く、射出成形ができなかった。比較例5は、実施例1と同一条件下、(A)/(B)のモル比を本発明の範囲未満にしたものである。V6 及びNは共に著しく小さく、(N−0.323logV6 )値は本発明の範囲未満であり、かつバリ長は非常に長かった。比較例6は、比較例5と同一条件下、(D)チオフェノールを添加しなかったものである。Nは著しく小さく、(N−0.323logV6 )値は本発明の範囲未満であり、バリ長は長かった。比較例7は、実施例1と同一条件下、(A)/(B)のモル比が本発明の範囲を超えたものである。解重合が生じPPSを回収することができなかった。比較例8は、実施例1と同一条件下、(D)/(A)のモル比が本発明の範囲を超えたものである。V6 が著しく小さく、成形不能であった。比較例9は、実施例1と同一条件下、(D)/(A)のモル比を本発明の範囲未満としたものである。(N−0.323logV6 )値は本発明の範囲未満であり、バリ長は実施例1と比べて長かった。比較例10は、実施例1と同一条件下、(C)/(A)のモル比を本発明の範囲未満としたものである。V6 及びNは共に著しく小さく、(N−0.323logV6 )値は本発明の範囲未満であり、バリ長は非常に長かった。
【0081】
図1は、各実施例及び比較例で得られたPPSの溶融粘度V6 と剪断感度Nの関係をグラフに示したものである。本発明で得られたPPS(上方のカーブ)は、従来のPPS(下方のカーブ)と比べて、同一のV6 で著しく高いNを持つことが分かった。実施例7(図1中、×印で示したもの)は、(B)p‐DCBの反応率が65.4%の時点で(D)チオフェノールを添加したものであり、実施例10(図1中、★印で示したもの)は、液温240℃で1時間保持した時点[(B)の反応率が93.8%]で(D)を添加し、更に液温260℃で3時間保持したものである。このように(D)の添加時期を本発明の範囲内で変えることにより、あるいは反応条件を変えることにより同一溶融粘度におけるNを調節し得ることが分かった。
【0082】
【発明の効果】
本発明は、射出成形時のバリ発生量が著しく少なく、かつ溶融粘度の剪断速度依存性が高く成形性に優れたPAS及びその製造法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例で得られたPPSの溶融粘度V6 と剪断感度Nの関係を示したものである。
【符号の説明】
●、×、★:実施例を示す。
○:比較例を示す。
N:剪断感度を示す。
V6 :V6 溶融粘度を示す。
Claims (4)
- 極性溶媒中で(A)アルカリ金属硫化物と(B)ジハロ芳香族化合物と(C)官能基を3個以上有する芳香族化合物を反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、(A)/(B)のモル比が0.970〜1.020であり、(C)/(A)のモル比が0.002〜0.015であるように上記(A)、(B)及び(C)を反応系に仕込み、かつ反応系内の(B)の反応率が50〜95%の時点で、仕込み(A)アルカリ金属硫化物に対してモル比で0.001〜0.02の(D)分子量調節剤を反応系に添加することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造法。
- (D)分子量調節剤を反応系内の(B)の反応率が70〜90%の時点で反応系に添加する請求項1記載の方法。
- (D)分子量調節剤の添加量が、(A)アルカリ金属硫化物に対してモル比で0.002〜0.01である請求項1又は2記載の方法。
- (D)分子量調節剤が、チオフェノール、ジフェニルジスルフィド及びm‐ジクロロベンゼンから成る群から選ばれた少なくとも一つの物質である請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
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